Download 膜分離活性汚泥法におけるろ過特性におよぼす精密ろ過膜の孔径の影響

Transcript
膜分離活性汚泥法におけるろ過特性におよぼす精密ろ過膜の孔径の影響
1.研究の目的
膜分離活性汚泥法の利用において,コスト面から
考え従来の限外ろ過や精密ろ過膜よりもはるかに膜
孔径が大きい不織布の利用が検討されてきているが,
不織布フィルターは繊維がランダムに絡み合う複雑
な構造を持つため,そのろ過機構はあまり分かって
ない 1).そのため,汚泥が処理水中に漏れたり,早期
に膜目詰まりが起きたりと使用者が最適なフィルタ
ーを選択するには、試行錯誤による方法に頼らざる
を得ないのが現状である 2).
そこで本研究では,不織布のろ過特性の確立のた
め,まず膜孔径の大きさに着目し,膜孔径の大きさ
がろ過特性にどのような影響を及ぼすか,比較的孔
径の大きいミリポア製の孔径 8.0・5.0・3.0μm の精
密ろ過膜を用いて検討した.
2.実験装置および実験方法
(1)実験装置
実験装置の概略図及び反応槽の実験条件を図−1
に示す.反応槽の容積を常に保つため水位管理槽を
設けた.反応槽から吸引モーターにより膜モジュー
ルに活性汚泥を送り,吸引ポンプにより処理水(ろ
過水)を吸引し,間に真空ゲージを設けることで吸
引圧を測定した.
水道水供給槽
基質
水位管理槽
P
M
G
反応槽
恒温槽
水温調節装置
P
処理水
散気装置
混合液容積 (L)
30
混合液温度
(℃)
23
TOC容積負荷
(g/L/day)
0.5
空気量 (L/min)
40
混合液 pH
9.00
基質投与条件
連続的
毎日
水理学滞留時間
(hrt)
10
図−1 実験装置の概略図
実験膜モジュールの概略図を図−2 に示す.実験に
用いたモジュールは試験用のプラスチック製小型モ
ジュールである.装置にはスターラーが付いており
回転させることにより,膜表面に隆起する余分な生
物のゲル層を剥離し,一定のゲル層でのろ過を行な
えるようにした 3).膜素材は孔径 8.0,5.0,3.0μm ミ
リポア製セルロース混合エステルの MF 膜,孔径 0.25
μm ポリオレフィン製 MF 膜を用い膜面積は 1 モジ
武蔵工業大学 学生会員 中村
充博
武蔵工業大学 正会員
裕
ュールあたり 0.004m2 である.
ミ リポ ア製
8.0,5.0,3.0μ m MF膜
ポ リオ レフ ィン 製
0.25μ m
〒158-0087 東京都世田谷区玉堤 1−28−1
MF膜
膜 面 積 〔 1モ ジ ュ ー ル 〕
= 0.004m 2
使 用パ イプ
PCBパ イ プ
図−2 膜モジュールの概略図
(2)実験方法
本実験は,吸引ポンプの調整によりフラックス(膜
透過流速)を変化させ実験を行なった.測定項目の経
過日数の変化を測定し,測定項目を表-1 に示す.測
定においては処理水の測定項目は毎日行い,基質・
混合液・分離液の測定項目は 1 日おきに行う.なお
分離液とは混合液を 3000rpm で 15min 遠心分離した
際に得られる上澄み液の事をいう.
表−1 測定項目
基質
液温
MLSS
粘度
pH
吸引圧
濁度
TOC濃度
○
○
混合液
○
○
○
○
分離液
処理水
○
○
○
○
○
○
表−2 に人工基質の組成を示す.酢酸を炭素源.塩化
アンモニウムを窒素源とした 3).
表−2 人工基質(g /L)
酢酸
塩化アンモニウム
リン酸二水素カリウム
塩化鉄6水和物
塩化カルシウム
31.5
8.63
1.25
0.09
0.18
硫酸マグネシウム
塩化カリウム
塩化ナトリウム
炭酸水素ナトリウム
0.18
0.18
0.18
49.8
3.実験結果
図−3 に MLSS・混合液粘度の経日変化を示す.基
質は連続投与で行うので日経過と共に増加した.測
定 33 日目で汚泥を引き抜き新しい活性汚泥を入れた.
図−4 に処理水の濁度および図−5 に処理水・分離
液の TOC 濃度の経日変化を示す.経過 0 日∼5 日目
までは膜の破損が多くあり 6 日間のデータは省いた.
経過 6 日目∼31 日目までは孔径が,8.0・5.0・3.0μm
の MF 膜で実験を行ない,経過 32 日目以降は 0.25μ
m の MF 膜を付け加えて実験を行なった.
キーワード:膜分離活性汚泥法,膜孔径,不織布,精密ろ過膜,ろ過特性
連絡先
長岡
03−3703−3111(3257)
《参考文献》
1),2) 横浜国立大学 工学部 物質工学科 松本研究室
HP 不織布繊維フィルターのろ過特性とそのモデル化
http://www.bsk.ynu.ac.jp/ matsumotolab/research.htm
3) 有限会社 河野製作所 装置取扱説明書
メンブレン・バイオリアクター試験用モジュール
4)井出哲夫 水処理工学 技報堂出版 pp236,237 1976
20.0
18.0
MLSS
8000
16.0
MLSS (mg/L)
7000
14.0
粘度
6000
12.0
5000
10.0
活性汚泥 交換
4000
8.0
3000
6.0
2000
4.0
1000
2.0
0
粘度 (m・Pa/sec)
9000
0.0
0 4 8 12 16 20 24 28 32 36 40 44 48 52 56 60 64 68 72 76 80
経過日数 (日)
図−3 MLSS・混合液粘度の経日変化
3.50
8.0μm 3.00
5.0μm 3.0μm Flux 1.2
0.25μm
Flux 0.3 Flux 0.1
濁度 (NTU)
2.50
2.00
Flux 0.6 Flux 0.3
Flux 0.9 Flux 0.6
膜破損
1.50
1.00
0.50
0.00
6 10 14 18 22 26 30 34 38 42 46 50 54 58 62 66 70 74 78 82
経過日数 (日)
図−4 処理水濁度の経日変化
8.0μm 分離液
40
35
TOC濃度 (mg/L)
4.考察・まとめ
実験結果より,孔径 8.0μm 以下の膜であれば水質
に関しては良好な処理水が取れた.
しかし,孔径・フラックスの違いにおいて目詰ま
りの時期が大きく異なったといえる.
孔径が大きい膜に対しフラックスを高くして引っ
張ってしまうと,吸引が早いために,膜の圧縮,膜
表面のゲルの膜目への潜り込み・膜表面への付着が
促進され,目詰まりが早期になった.
しかし孔径が大きい膜でもフラックスを下げ,差
圧を少なくすれば,ゲルは膜表面にそっと載った状
態になり,ゲルの潜り込み・付着,また吸引による
膜の圧縮を抑制することができるので,目詰まりの
期間を延ばすことができた.
更に 5.0μm の MF 膜の測定開始から目詰まり時ま
での全処理水量は,フラックスの低い方が時間的水
量ではなく TOTAL 的水量で,より水量を得ることが
出来たので、低フラックスでも効率が良いといえる.
よって今回の研究では,膜孔径の大きさはろ過特
性に大きく影響することが考えられた.つまり膜孔
径が大きなものに対しては,低フラックスで行なわ
なければ運転がうまく行なえない事がいえる.逆に
高フラックスで処理を行う場合は,膜孔径を小さく
しなければ運転がうまく行なえない事がいえる.
しかしフラックスを低くすると時間的水量を確保
できないので,膜面積を大きくして対応していかな
ければならない.
10000
30
5.0μm 0.25μm
Flux 0.6 Flux 0.3
3.0μm 膜破損
Flux 0.1
Flux 0.9 Flux 0.6 Flux 0.3
Flux 1.2
25
20
15
10
5
0
冷凍保存
冷凍保存
6 10 14 18 22 26 30 34 38 42 46 50 54 58 62 66 70 74 78 82
経過日数 (日)
図−5 処理水・分離液 TOC 濃度の経日変化
120
8.0μm 5.0μm
3.0μm 0.25μm
110
目詰まり
100
目詰まり
90
Flux 1.2
80
70 Flux 0.6 Flux 0.3
Flux 0.9 Flux 0.6 Flux 0.3 Flux 0.1
60
目詰まり
目詰まり
50
40
膜破損
30
20
10
0
ろ過抵抗(E+12)(m-1)
また経過 60 日目からは 5.0・0.25μm の MF 膜を 2
種類だけ用い実験を行なった.8.0・5.0・3.0μm の
MF 膜とも,測定開始日は値が高くなったが,翌日以
降 4 膜とも類似した傾向が見られており,濁度は
1NTU 以下,TOC 濃度は 15mg/L 以下を保っていた.
図−5 にろ過抵抗の経日変化を示す.8.0・5.0・3.0
μm の MF 膜は,フラックスが高いと直に膜目詰ま
りが起きてしまったが,0.25μm の MF 膜は 8.0・5.0・
3.0μm の MF 膜の目詰まりまでの約倍の日数かかっ
た.フラックス 0.1m/day 時,実験中に両膜とも破損
したが,フラックスを低くすると両膜とも目詰まり
の期間が延びた.
表−3 に 5.0μm の MF 膜の目詰まり時までの全処
理水量を示す.測定は経過 32 日目から行なった.測
定開始から目詰まり時までの全処理水量をフラック
ス毎に測った.フラックス 0.1m/day は破損時までの
処理水量であるが,低フラックスの方が TOTAL で多
く処理水量が得ることができた.
6 10 14 18 22 26 30 34 38 42 46 50 54 58 62 66 70 74 78 82
経過日数 (日)
図−6 ろ過抵抗の経日変化
表−3 5.0μmMF 膜の目詰まり時までの全処理水量
Flux
(m/day)
0.1
0.3
0.6
0.9
1.2
全 処 理 水 量 ( mL)
5242
7084
6912
5140
5290