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臨床獣医 20002年11月号
掲載原稿
ミルカー点検と農場のマネジメント
はじめに
筆者は現在酪農場コンサルタントとして全国を活動の範囲としている。特に乳質問題、乳房炎対
策を活動の中心としている。その中のミルカー点検に焦点を当て、現在の問題点を述べる。
乳房炎の発生要因(誘因)は搾乳作業、牛舎環境、栄養、牛個体の問題など多くの原因がある。し
かし我々臨床獣医師は、
得意とする分野は良く検討するが、不得意とする分野は手を出そうとはしな
い。乳房炎はその原因が一つであることは少なく、多くの要因が重なり合って発症している場合が
多く、農場内のあらゆる部分を検討しなくてはいけない。その中でミルカーという部分は業者任せ
になっており、乳房炎の発生からミルカーを検討する姿勢は、業者にはありません。乳房炎の予防か
らミルカーを検討するのは、もしかしたら獣医師の役目かもしれません。臨床獣医師の生活の母体
でもある酪農界を守るためにも、更に発展させるためにも、少し視点を変えてミルカーを眺めてい
ただきたい。
ミルカー点検の種類
ミルカー点検には以下のものがある。
1.目視検査
目で見る検査で、
ミルカーに関する知識を必要とするが、その知識があればかなりのことまで推測
できる。ライナーゴムの劣化、その他のゴム類の劣化、エア漏れ、洗浄不良部分の発見、掃除不良な
ど乳質問題に関する多くのことを発見する事ができる。自動離脱装置の仕組みを理解していれば、
そこに問題点があるかどうかもわかります。
酪農現場に出かける臨床家であれば、知っておきたい知
識のひとつで、乳房炎予防対策に必ずなります。
例 設定圧を見る――基本設定圧の知識が必要 単位は kpa?cmHG?インチHG?
ローライン(パーラー)では
ハイライン(ハイプライン)では
オリオン真空2系統システムでは
レギュレターの掃除不良による設定真空圧の変動 掃除不良では通常は高くなる。
例 バケットミルカーを見る――洗浄の知識
洗浄不良 ゴム類の劣化―――乳房炎牛が治らない。分娩牛の乳房炎が多発するなど
2.簡易検査――検査道具が必要
パルセーター検査やポンプ能力検査をその都度行う。
1馬力≒0.75kw≒10CFM≒300L/分
ハイラインでは最低5馬力 3.5kw必要であるが、配管が細いと大きくした効果なし。
例 脈動チューブのエア漏れ ポンプ能力の低下
ミルクラインへの接続部のタップ角度が曲がってい
る写真。
ミルクラインへは時計の針で2時くらいの位置か
ら入らねば、ミルクラインを流れる牛乳に邪魔され
て、クローからの牛乳が入ることができない。牛乳
がミルクラインに入らねば、
クロー内圧は低下する。
配管を捻ってインレットの位置が時計の2時の位置
になるように変更する。
3.静止時検査(システムチェック)
車の車検に相当する検査で、搾乳時以外に空気の流れを見る検査。検査道具とその手順など知識
と慣れが必要です。また、検査ができることとその結果を読む事とは別物です。検査ができる人は
多いが、その検査結果を読みこなす事のできる人は少ない。投資効果を検討した上での、問題点の改
良案を提示できなくてはいけない。
この検査は空気の流れを見る検査なので、
この検査で合格することは重要であるが、その結果を持
って問題が無いとはいえない。必要条件であるが、充分条件とはならない。搾乳ユニット部分の評価
はこの検査ではできない。
例 逆勾配 配管口径の問題などは出てこない。
4.動態検査(搾乳中の検査)
先の車検とは異なり、搾乳中に行う検査。実際に牛乳が流れているときの検査なので、現実を明
瞭に示してはいるが、検査時の乳牛の乳量によって検査結果が左右される。また、搾乳者の腕の影
響も現れるので、検査結果を読むのは難しい。
(逆に搾乳者の腕の判断もできる)搾乳中見知らぬ検
査の人がいることにより、乳牛の乳量も変わるので万全とはいかない。
測定ポイントをどこにするのかは目視検査の判断にゆだねられることが多く、問題点を導き出す
ような検査手順が必要。
例 乳量が低い牛を測定しても問題が無いとはいえない。
5.シミュレター試験
牛乳の代わりに水を流し、その流量をコントロールすることにより、低泌乳牛からスーパーカウ
までを代行できる検査。水と牛乳の違いがあり、微妙に異なるが、検査時の条件設定を色々変える
事ができ、部品の良し悪し、パーラーの搾乳能力など比較検討ができる。また、改良方法の試験を
実施する事が可能となり、より良い改良方法を検討できる。ものによっては将来の問題点までも予
測が可能である。搾乳ユニット部分の評価がこれで初めてできるようになった。
ミルクメーター存在時の問題点、サンプラー設置時の問題点など、現場で起こりえる状況を設定
し、そのときの状況を検査でき、目で見るようにできるので、明瞭にその差が検討できる。
シミュレター試験 「リフト」による影響を調べる。
「リフト」とは搾乳された牛乳が一度吸い上げられ
た後に、再度低下して吸い上げられることを言う。
写真はリフトの影響を調べる為にパーラーで試験を
した時の写真です。
(黒↓部分の上りがリフトとな
る)
写真白↓部分を20cm毎に上げることにより、
リフトの高さを上げて、その時のクロー内圧を測定
し、その影響を調べてみた。結果は「リフト」が大
きくなればなるほど(高ければ)
、クロー内圧の低下
が見られる。これにより離脱装置の設置場所、ミル
クメーター設置時の高さの影響などを知ることがで
きる。
(どの場所に付けてあるかだけでも大きな問
題となりえる)
リフト別による真空圧の変化ローライン
0cm
20cm
60cm
80cm
40cm
42
真空圧 kpa
40
38
36
34
32
0.0
1.0
2.0
3.0
4.0
流量
5.0
6.0
7.0
8.0
9.0
10.0
kg/分
グラフ リフト別によるクロー内圧の変化
グラフより「リフト」の高さが高くなるに連れて、その真空圧が低下していることがわかる。試
験装置の写真でもわかるように、矢印部分を高くするだけでその他の器具はなく、ホースが長くな
るだけです。それだけであってもグラフのように違いが生じ、クロー内圧が低下します。ローライ
ンのミルキングパーラーや、ハイラインであっても自動離脱を使う場合にはこの「リフト」が生じ
やすくなります。
「リフト」を解消したり、ホースを短くしたりすることであってもクロー内圧の改
善はできます。ただ漫然とミルカーを見るだけでなく、色々なことを考えてみることが乳房炎を予
防することになります。
6.設置直後の検査
ミルキングパーラー、ハイラインなどでも設置直後の検査を行わなくてはいけません。
すべての機
能が正常に機能しているのか、搾乳性はどの様になっているのかを調べる必要がある。設置後数年
を経て乳房炎問題が生じた場合、その原因が設置直後からの問題なのか、その後の問題なのかを検
討する材料となる。メーカー側では機能を保証する上でも必ず必要な検査です。
例 設置直後から問題である場合が過去に多くある。
検査ができないので、
設置後の問題点も見つけ出せない業者が多い。
(検査ができるようにな
れば今後の設置に生きてくる)
7.洗浄検査
パイプラインの洗浄システムがきちんと機能しているかを調べる検査。乳房炎ほど大きな問題に
なってはいないが、今後は重要な検査となる。しっかりとシステム的に検査できる人は少なく、目で
見て問題がないという人が多い。
細菌数の検査体制により、
問題となるかならないかの境目となる。
現実は細菌検査で問題が無いので、洗浄システムは問題が無いと判断されている。生菌数の規制、
耐熱菌数など規制が厳しくなると、大きな問題となる。食品の安全性を考える上でも、酪農界にと
っては大問題となる。
ループになっていないミルク配管(ミルキングパ
ーラー)
ループになっていないミルクラインのために洗浄
不良が起きているが、業者は認めず。
上記ライン改良後の写真
中央分のミルクラインの曲がりが洗浄
液を貯める部分で、左右にわかれて洗浄
液が流れる。
8.搾乳立会いとミルカー点検
搾乳立会い時には搾乳者の動きを見るのが重要な項目であるが、
その他にもミルカーの動き、ミル
カーの音、牛乳の流れにも注目する。レギュレターの音の変動、エア漏れの音、異常なバキュームポ
ンプの音、牛乳の異常な流れを探す。
例 牛乳が塊になってレシーバー-に流れ込む――ミルクラインの勾配不足 一部の逆勾配
――搾乳者が空気を入れている。
ミルクポンプからのエア漏れ
――レシーバーの牛乳に泡が出る。
立ち上がりのあるミルク配管
(右側処理室へ繋がり、左側牛床へ繋がる)
搾乳中牛乳がこの部分にたまり配管を塞ぎ、そ
の先への真空供給を制約するために、搾乳するた
めのクローへの真空の供給が弱い。よってクロー
内圧が低下して、ライナースリップの多発、搾乳
時間の延長、乳頭マッサージの不良、ドロップレ
ッツが多発する。乳頭口が荒れ、乳房炎が多発す
る。この状態を静止時検査では判断できない。動
態検査、シミュレター試験でのみ判断できる。一
番は目視検査で異常であると判断できることである。
(証明する事は難しい)
農場のマネジメント
1.酪農家サイドのマネジメント
マネジメント姿勢は壊れたら修理するではなく、壊れる前に、能力を維持するために「管理」を行
う姿勢が必要。ミルカーの基本的な知識を習得し、取扱説明書をよく読むことであり、定期的交換
部品の交換、正常な機能を観察して覚えることなどである。
いつもと違うという感覚を持つことが必
要。
取扱説明書から定期的メンテナンス事項を拾い出し、農場の作業の中に組み入れること。
例 毎月第1月曜日はポンプのオイル補充の日
毎週月曜日はレギュレターの掃除の日など
偶数月の始めはライナー交換
生菌数 体細胞数の記録を残す。乳房炎の記録を残す。
月に1回は記録を検討する。――検定記録の分析など
2.ミルカー業者サイドのマネジメント
点検項目を、
明瞭に書面をもって酪農家に見せ、その料金体系を明瞭にする事が大事であるどこま
でが無料メンテナンスの範囲で、どこからが有料なのかを明瞭にする。
実施後は必ず記録を残す事は
必ず必要。酪農家とのメンテナンス契約が必要である。