Download Vol.27 中・高学年 『かあちゃん取扱説明書』 いとうみく/作 佐藤真紀子/訳

Transcript
 ポストが筒型から箱型になっ
高学年ともなれば「母親」の
たのはいつの頃からでしょう
ことをみんなの前で少しけなし
か。私の机の上には、何十年も
た り す る 子 も い ま す。
「母親」
前から筒型のポストの貯金箱が
は子ども時代の最大の存在です
あります。ポストといえばあの
から、密着度も高く、子ども側
型が浮かんできます。この本の
からの観察も多いわけです。大
ポストも筒型でした。
きくなってくれば「母親」の言
「あのポストの中
小さい頃、
っていることに疑問を感じた
はどうなってるのかな」と想像
り、よその「母親」と比較した
を巡らせたことを思い出しま
りと、客観的に見ていくことが
す。それと歯医者さんの思い出。
多くなるので当然かもしれませ
痛くて狭くて行きたくない場所
ん。
でした。今では、歯医者さんは
この本の題名を紹介して、
むし歯予防などソフトな雰囲気
「次からこの本を読み語りし
になり、行きやすい病院になっ
ます」
ています。そんなノスタルジア
とクラスの5年生に話すと、男
をもってこの絵本を読み進めま
の子を中心に歓声が上がりまし
した。 た。題名のもつインパクトの強
途中で主人公が、亡くなった
さもありました。
お父さんの後ろ姿を見つけて、
最初に作文が出てきますが、
お父さん!」と大きな声で呼
「
作者が書いたのでしょうか。 現
んだ時、読み手の私が思わず涙
役の小学生の文そのままのよう
声になり、声を平静に立て直す
な気がします。聞いている5年
かあちゃん取扱説明書
母親と子どもの関係、どちら
の
森
動物に手紙を書いてもらう
の味方なのか、おおらかに家族
ファンタジックな場面も挙がり
生活を楽しんでいるユーモアあ
ました。
ふれる父親。そして結局、
「か
5年生の我がクラスで読みま
あちゃん」は、愛すべき「大い
したが、学年が違っても聞き手
なる母親」なのです。
一人ひとりに自分の経験や思い
子どもたちは物語を聞きなが
呼び起こさせる温かい絵本だ
を
ら相づちを打ち、ユーモアを感
と思いました。
じ、幸せを感じると思います。
のに苦労してしまいました。
生はここで大いに納得していま
この場面では、子どもたちも主
した。
人公の気持ちを感じ取ったよう
授業参観の教室の様子、それ
、
で
息をつめているのがわかり
にお母さんたちのお化粧や香水
ました。そして、黒井健さんの
のにおいのことまでよく感じて
描く黄金色の美しい夕焼け空
書かれています。
が、より一層情緒を引き出しま
電話がかかってきた時の「よ
。
す
そ行きの高い声」など、まるで
読み語った後数人に、印象に
自分が観察されているような感
残った場面を聞いてみました。
覚 で す( 一 応 私 も 母 親 で す か
やはりお父さんが登場する秋
ら)
。子どもたちは話を聞きな
の夕焼けの場面が多かったので
がらそれぞれの母親を思い出し
すが、歯医者さんの待合室でお
ているので真剣です。
母さんの帰りを待つ女の子や、
いとうみく/作
佐藤真紀子/絵
(童心社)
元気をくれる物語でした。
写真|セーラー出版
文|木村育子(東京都江戸川区立本一色小学校) 写真|童心社
学習指導要領で読み聞かせがすすめられて、読み聞かせについてのた
くさんの本が出版されています。また、ブックリストもたくさん出てい
中・高学年向き
全学年向き
ますが、さて実際に子どもたちに読もうと思うと、どの本がいいのか、
どうやって読んであげたらいいのか、困ってしまいます。
「これなら楽
しく読み聞かせができるよ」という本と読み方を紹介しましょう。