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[別紙1]
論 文 の 内 容 の 要 旨
論文題目
病院業務の構造的記述に基づく要員配置
氏
下 野
名
僚
子
第 1 章 序論
1.1 病院業務における要員配置の方法論の必要性
医療の質への関心の高まり,医療専門職の偏在・不足といった状況[1]下,病院は,限られ
た資源で効果的・効率的な医療提供が必要であり,人的資源を合理的に活用するための要
員配置は重要な課題[2]といえる.
質保証のための要員配置では,確実に業務遂行できる要員を配置するために,業務遂行
能力(以下,力量と呼ぶ)の評価に基づき,業務遂行に必要な力量を,要員が保有する力量が
満たすように要員を対応づける必要がある.さらに,病院業務では,十分な力量を保有し
た要員の確保が難しい現状を踏まえ,無資格者の配置や,十分な力量を保有しない要員に
ついても,人材の有効活用の観点から配置を検討する必要がある.
1.2 本研究のアプローチ
本研究のアプローチとして,まず,複雑な病院業務の構造を明らかにし,その記述方法
を検討する.そのうえで,力量項目の導出および力量評価に基づいた要員配置の方法を検
討する.
1.3 本研究の目的と全体像
本研究では,複雑な病院業務を対象として,業務プロセスの記述,質保証のための要員
配置の方法論を構築することを目的とする.さらに,業務プロセスの記述が質保証を実現
するための構造を表現するものであることから,病院業務プロセスの設計と問題分析への
応用方法の検討も,本研究の目的とする.
1.4 本論文の構成
第 2 章で,病院業務プロセスを記述するための方法構築を行い,第 3 章で,構造的記述
内容に基づく要員配置モデルの構築を行う.さらに,第 4 章で,プロセス設計・問題分析
の方法構築を行う.図 1-1 に示す.
第2章,第3章,第4章
本論
第3章
構造的記述に基づく
要員配置
第1章
緒言
第2章
病院業務プロセス
の構造的記述
第5章
結言
第4章
構造的記述の応用
設計
問題分析
図1図1-1 本論文の構成
第2章 病院業務プロセスの構造的記述
2.1 業務プロセスの構造的記述の概要
記述した業務は,要員の対応付けの対象であると同時に,質保証のために要員が持つべ
き力量を示すことが必要である.記述モデルの構築は,一般的な業務プロセスの構造を理
解,病院業務の特徴の抽出,業務プロセスの構造への病院業務の特徴を反映という 3 段階
で行った.
2.2 業務プロセス記述モデルの構築
一般的な業務プロセスの構造として,業務プロセスが,ある単位のプロセスであるユニ
ットプロセスの連結から構成されるものとした.ユニットプロセスは,インプット,アウ
トプット,タスク,リソース,コントロールという 5 要素で構成される.またユニットプ
ロセスの実現に必要な活動をアクションと定義した.
次に,他産業と比べて業務プロセスを複雑にし,安全・質保証を難しくしている病院業
務の特徴を抽出した.その結果,以下の 7 つの病院業務の特徴が抽出された:患者個別性
がある,患者状態が変化する,侵襲・苦痛を伴う,やり直しが利かない,緊急性がある,
専門性を要する,職能別組織によって行われる.
最後に,前述した一般的な業務プロセスの構造に対して,抽出した病院業務の特徴を反
映させる箇所とその反映内容を特定した.
2.3 病院業務プロセス記述モデル
当モデルは,図 2-1 に示すとおり,記述項目の定義と記述ルールを示す記述ガイダンス
と記述様式で構成される.
業務プロセスの構造
病院業務の特徴
サービス提供の対象
サービス提供の対象
記述項目
プロセスフロー
構成するユニットプロセス
インプット 状態/情報,情報媒体/モノ
タスク
(アクションの中で記述)
アウトプット 状態/情報,情報媒体/モノ
実行者(主に職種)
医療材料・薬剤類
機器・器具
リソース
情報システム
環境・場所
知識・技術
監視・測定のための管理指標
コントロール
異常時の対応・修正方法
アクションタイプ
アクション
アクションの内容
記述項目
ユニット
プロセ
スの構
成要素
サービス提供側
サービス提供側
サー
サービス
ビス
Control
監視・測定
問題発生時の対応
患者
Tasks
Input
Output
多様である
生体への介入がある
Resources
専門分化している
物的資源
人的資源
知的資源
記述ルール
病院業務の特徴を反映する構成要素へ記述における反映のされかた
病院業務の特徴を反映する構成要素へ記述における反映のされかた
Control
管理指標を用いた
管理指標を用いた
事象対応
事象対応
測定
監視
測定
測定
input
Input
判断
判断
Task
実施
Task実施
病院業務の特徴
病院業務の特徴
ユニットプ ロセス内
ユニットプロセス間
プロセスフロー
インプット
アウトプット
タスク
患者個別性に応じて,ユニットプ インプ ットに,患者 ID を認識 する アウトプ ットに,患者 個別 性に タスクに,患 者個 別性 に応じて
ロセスを選択する
情 報を含 める
応じて異なる情報 を含め る
異なる場合 を含 める
患者状態変化に応じて,ユニット
アウトプ ットに,計画 とは 異なる タスクに,計 画と は異なる場 合
プロセスを選択する
場合 を含める
を含め る
タスクの 中で,侵襲 ・苦痛 を伴う
ものを特 定する
インプ ットに,患者 ID・患 者状 態
タスクの 中で,やり 直しが きかな
の 正しさ を認識 する情報 を含め
いもの を特定 する
緊急対応のユニットプロセスを含
⑤ 緊急性がある
める
タスクの 中で,リソースの 専門
⑥ 専門性を要する
性が 要求 される もの を特定 する
職能別組織によって 職種ごとに並行して行われた場
⑦
行われる
合,並行・結合する
output/
Output
outcome
確認
確認
③ 侵襲・苦痛を伴う
Resource
Resource
ce維持・準備
維持・準備
Resour
ひと
機器・用具
用材
コントロール
コントロール に,患 者状態 変化 を
示 す指標 と対 応方法 を含め る
② 状態が変化する
④ やり直しが利かない
Resource
確認
確認
リソース
① 個別性がある
方法
記述フォーム(記述様式
記述フォーム 記述様式)
記述様式
モデル
Input
Output
Actions
医療
情報
情報
材
情報
媒体
媒体 実行
料・
作業の流れ ・
・
・
者
薬剤
状態
モノ
モノ
等
ユニット 情報
プロセス ・
状態
リソースに侵 襲・苦 痛を和 らげ
る方 法を含 める
リソースに, 当該 患者 との適 合
が 必要 なものを含 める
コントロール に,緊 急対応 を必 要
と する状態 を監視 する指標 を含
リソースに, 要求 される専 門性
を含 める
リソースに, 複数 の異 なる職 種
を含 める
記述ガイダンス
Resources
Control
機器 情報 環境
・
シス ・
器具 テム 場所
知識
・
技術
対応
測定 ・
修正
・記述項目の定義
・記述ルール
病院業務プロセス記述モ ルの 要
事 適用とモ ルの
A 病院(急性期・地域中核病院,約 1100 病床)の検体検査を事例とした.事例業務を記述
)について,病院業務の特徴である複雑性を考慮したも
したユニットプロセス記述表(
のとなっているかどうかを評価した結果,適切であることを確認できた.
タスク実施以外のタイプのアクションは,病院業務プロセスでは,質保証上,重要であ
ることが分かった.また,抽出した病院業務の特徴は,従来文献[2]で挙げられている医療の
特徴を網羅的・構造的に示せたといえる.
Input
Actions
ユニット
プロセス
Output
タ
イ
プ
作業の流れ
患者
PC画面
t
検査指示
オーダ内容
PC画面
t
指示シール発行
オーダ内容
指示シール・カルテ
患者状態
患者情報
患者ID
患者
PC画面
t
追加検査指示
オーダ内容
PC画面
オーダ内容
PC画面
t
検査部へ電話連絡
患者状態
患者情報
患者ID
患者
t
口頭検査指示
患者
t
採血
情報・状態
患者状態
患者情報
患者ID
情報媒体・モノ
人的資源
情報・状態
情報媒体・モノ
実行者
オーダ内容
緊急指示
・採血
・搬送
(術中検査の場合)
搬送前@手術室
患者ID
オーダ内容
患者ID
採血管数・種類
患者ID
採血管数・種類
名前(口頭)
患者ID
患者ID
採血管数・種類
伝票記入
オーダ内容
t
緊急搬送
搬送後@測定室
PC画面
I
指示受け
(オーダ内容の確認)
患者ID
採血管数・種類
検査指示票
検査指示票
PC画面
r
採血管準備
検査指示票
R
採血管確認
確認済
患者ID付採血管
I
患者ID確認
確認済
患者
t
患者説明
医師
PC
イントラ接
オーダリングシステムを用いた指
オーダリングシステム 続PCのあ
示方法
る場所
患者
t
採血
採血管の種類
検体
t
採血管種ごとの採血後処置
処置済
患者ID
採血管数・種類
検体
検査指示票
O
採血結果確認
確認済
検査指示票
検体
検体
O
検体の状態確認
状態確認済
検体
搬送前@病棟
検体
t
検体搬送
搬送後@測定室
検体
搬送後
検体
O
検体受付
受付済
検体
患者ID
追加オーダ内容
追加ラベル
検体搬送
PC画面
t
追加ラベル
t
検体検索
検索済
検体
検体
O
検体の確認
確認済
検体
状態確認済
検体
I
検体の状態確認
状態確認済
検体
状態確認済
検体
I
検体種類の仕分け
種類仕分済
検体
種類仕分済
検体
t
遠心分離
分離済
検体
分離済
検体
O
確認済
検体
t
搬送システムへ投入
投入済
検体
投入済
検体
t
検体開栓・分注(自動)
分注済
検体
分注済
検体
t
検体測定(自動)
測定済
検体
検体測定前処理
確認済
O
測定値チェック(自動)
測定結果判定
C
病棟へ問い合わせ
採血器具類
手術室
術中検査の手順
処置室
・患者とオーダ内容の
適合ミス疑い
・採血管間違い
・検体ラベル間違い
・採血手順の詳細:採血
・患者ID間違い
マニュアル
・採血中の患者状態の
・採血後処置方法(採血管
異変(患者の訴え,患
種ごと):転倒混和(血清
者の挙動,指先のしび
分離剤入),冷却,保温
れ)
・結果確認ミス
・採血後処置ミス
・状態確認ミス
・患者とオーダ内容の適合ミス疑
い:担当Drへ連絡
・採血管間違い:ラベルを再発行
し,張り替え
・検体ラベル間違い:ラベルを再
発行し,張り替え
・患者ID間違い:オーダ内容を
確認し,再度採血管準備
・患者状態の異変時:担当Nsを
呼び,ベッドに横になってもら
う.採血中止の場合は,担当医に
連絡し,オーダリングシステムに
中止の入力を行う
・採血後処置ミス:検査部へ問い
合わせ,測定不可能な場合は,再
採血
・結果確認ミス:担当Nsに問い
合わせ,患者の採血中止・延期を
把握する
・状態確認ミス:検査部へ問い合
わせ,測定不
測定結果
PC画面
確定済測定結果
PC画面
体
ラベル発行機
駆血帯
採血管
酒精綿
採血用ホルダー テープ
採血針:通常針 肘枕
および細針
針廃棄ボトル
手袋
トレイ
検査技師
看護師
メッセンジャー
搬送用ラック
バーコードリーダ
検体受付マニュアル
・検体ラベル間違い
・検体ラベル間違い:ラベル再発
行後,張り替え
検査技師
検査サポート員
検体受付マニュアル(受付後の
検体取扱)
・検体の凝固
・検体の溶血
・検体量不足
・検体の凝固:検体の溶血の判定
(分離の確認)を待って,病棟へ連
絡・再採血依頼
・検体の溶血:病棟へ連絡・再採
血依頼
・検体量不足:測定機器別に検討
後,可能なら直接測定.測定不可
能なら,再採血依頼
検体受付システム
臨床検査情報シ 分析室
ステム(LIS)
LIS
検査技師
検査サポート員
分離剤
検査技師
検査サポート員
分注容器
測定用試薬
遠心分離機
分析室
分析室
検体
検体測定
O
シリンジ
検体
完了確認済
PC画面
・入力ミス(患者ID,
日時,適応性)
患者ID付採血管
患者
患者ID付採血管
確定まち測定結果
・入力ミス(患者ID,
日時,適応性)
・未実施
緊急検査伝票
確認済
測定結果
異常時の対応
PC
プリンタ
看護師
分離の確認
対応・修正
管理項目
検体
t
追加ラベル作成
監視・測定
オーダ内容(口頭)
採血
患者ID
追加オーダ内容
検体検索
患者ID
(測定項目追加の場合) 追加オーダ内容
患者ID
追加オーダ内容
知的資源
知識・技術
医師
病棟・患者ID
(口頭)
検体
緊急検査伝票
患者
検査指示票
患者
検査指示票
Control
作業環境/
作業場所
イントラ接
オーダリングシステムを用いた指
オーダリングシステム 続PCのあ
示方法
る場所
医師
看護師
オーダ内容(口頭)
Resource
物的資源
機器/
情報システム
器具
PC画面
指示
追加指示
(測定項目追加
の場合)
器材/
薬剤類
開栓機
分注機
測定機器
PC
検体搬送システム
分析室
LIS
・搬送システム/通信エラー
・開栓機/分注機/測定
機器の取扱説明書(機器ご
機器エラー(試薬切れ,洗
と)
浄液切れ,セーフティストップ)
再検結果の判定方法
・未検査
・未到着
業務におけるユニットプロセス記述
・搬送システム/通信エラー:専用モニタ
にてエラー内容を認識し,対応
・開栓機/分注機/測定機器エラー:
機器ごとモニタにてエラー内容を認
識し,対応
・未到着:各病棟へ電話連絡
・未検査:画面上で測定状況を把
握後,各機器を調査
第3章 要員配置モデルの構築
3.1 要員配置モデルの基本概念と全体像
質保証を実現する要員配置のため,業務実施に必要な力量(以下,必要力量と呼ぶ)と,
要員が保有する力量(以下,保有力量と呼ぶ)を把握し,保有力量が必要力量を満たすよ
うに,当該業務への要員配置を行う.複雑な病院業務の遂行のための必要力量と,要員間
で差がある保有力量を適切に把握できる力量項目を用い,十分な保有力量を持つ要員の確
保が難しい現状を踏まえ,質保証を実現しながら,人材の有効活用の観点からも要員配置
を検討する必要がある.以上をモデル基本概念として図 3-1 に示し,提案モデルの全体像
を,図 3-2 に示す.
患者
C 患者 病院業務プロセス
B 患者 病院業務プロセス
A
病院業務プロセス
業務
業務
病院業務
必要力量
必要力量
質保証を実現する
要員配置
評価項目
院長
保有力量
保有力量
診療部門
看護部
病院組織要員
検査部
要員
要員
・・・
図 3-1 要員配置モデル基本概念
-1 検
業務の
-3
必要
患者
C 患者 病院業務プロセス
B 患者 病院業務プロセス
A
病院業務プロセス
と
の
-2a/ -2b
要員配置
の
業務
-2
の
A
要員配置
プロセス
と必要
ユニット
プロセス
Control
病院業務
・
の
Tasks
Input
Output
Resources
業者
力量
ス
・
・
(
・
・モ
)
業
ル4
ル
(A1)
必要力量
B
ル3
ル
-1 要員の
の
要員配置
(B1)
ル2
ル
-2
ル
評価項目の
リプル
ル
院長
診療部門
保有力量
-1 評価
要員 の
ユニット
プロセス
ル1
ル
保有
C
保有力量
要員配置
看護部
-4
保有
要
検査部
病院組織要員
・・・
評価
要員
-3 要員 と保
有力量の評価
図 3-2 要員配置モデル全体像
ル
の
(C1)
3.2 必要力量の把握
検討対象業務の設定,アクションの導出,状況ごと必要人数の把握の 3 機能により構成
される.3 機能は,図 3-2 で,Ⅰ-1~Ⅰ-3 で示す.
3.3 保有力量の把握
評価対象要員群の設定,レベル別評価項目の導出,要員ごと保有力量の評価,レベル別
保有人数の把握の 4 機能により構成される.4 機能は,図 3-2 で,Ⅱ-1~Ⅱ-4 で示す.
3.4 要員配置パタンの導出
要員の充足度の判定,充足状況における要員配置パタンの導出,未充足状況における要
員配置パタンの導出の 3 機能により構成される.3 機能は,図 3-2 で,Ⅲ-1~Ⅲ-3 で示す.
3.5 要員配置モデルの評価
提案モデルによって,従来よりも質保証と人材の有効活用の観点から有効な要員配置パ
タンを導出できるか評価する.事例に対し,モデル適用した場合と適用しない場合の 2 通
りで要員配置パタン (それぞれ,モデル案,従来案と呼ぶ) を導出し,両者の差異を,質保
証と人材の有効活用の観点から分析することで評価する.
評価の結果,質保証と人材の有効活用上,モデル案が従来案よりも優れていることを示
していることが確認できた.また,配置時の条件の詳細は検討の余地があることが分かっ
た.
3.6 考察
モデル評価の結果について,提案モデルでレベル別評価項目を用いてレベル 2 の要員を
特定し,条件付きで配置したことが,質保証と人材の有効活用上,モデル案を有効にして
いるといえる.
必要力量および保有力量が正確に把握されていれば,再現性高く要員配置パタンを導出
できるといえ,必要力量および保有力量の正確な把握に提案モデルが貢献している.
第4章 病院業務プロセスの構造的記述の応用
4.1 病院業務プロセス記述モデルの応用可能性
病院業務プロセス記述モデルは,病院業務プロセスを,患者要求を満たすためのシステ
ム捉え,システムを構成する機能,機能間の関係,機能を構成する要素,機能における活
動を,ユニットプロセス,プロセスフロー,ユニットプロセス構成要素,アクションによ
って明らかにしている.
4.2 プロセス設計への応用
設計では,要求達成手段案の導出と手段案の評価を行う.
ユニットプロセス記述表を用いたプロセス設計の方法は,STEP1 として,ユニットプロ
セスの特定,STEP2 として,ユニットプロセスの構成要素およびアクションの指定,STEP3
としてユニットプロセス記述案の評価を行う.
4.3 問題分析への応用
問題分析では,問題発生状況の把握,原因構造の理解,対応策の検討を行う.
ユニットプロセス記述表を用いた問題分析方法は,STEP1 として,ユニットプロセス記
述表による業務標準の記述,STEP2 として,問題発生状況の把握,STEP3 として,発生・
見逃し要因の特定による原因構造の理解,STEP4 として,対応の検討を行う.
4.4 事例適用による検証
検証は,事例とした業務プロセスにおいて取り上げた問題に対し,問題分析とプロセス
再設計が,ユニットプロセス記述表を用いることで合理的に実現できるかを評価した.
4.5 考察
ユニットプロセス記述表が,問題分析とプロセス再設計において,2 点で有用であること
が分かった.
1 点目として,業務の質に影響する業務の範囲と対象を指定しやすくなることである.問
題が発見された範囲だけでなく原因を含む範囲を指定できたことと,各記述項目を検討す
ることで要因をより網羅的に検討できたことを意味する.
2 点目として,設計の質と実行の質の双方を考慮したことにある.
既存の主な記述ツール[3] [4] [5]と比較した結果,設計における設計案の導出,問題分析にお
ける発生状況の把握において,特に有効であることが分かった.
第5章 まとめと今後の展開
5.1 まとめ
本研究では,病院業務の特徴を考慮した業務プロセス記述の方法論である「病院業務プ
ロセス記述モデル」,当モデルを適用した記述内容に基づいて要員配置を行う方法論であ
る「要員配置モデル」,さらに,記述モデルを応用してプロセス設計と問題分析を行う方
法を構築し,それぞれ検証を行った.
5.2 本研究の社会的意義
医療に関する社会的問題は,医療に対する要求が高まる一方で,要求を満たすための医
療資源の確保が難しいことにあるといえる.その中で,医療の質保証のために,業務プロ
セスにおいて医療資源を合理的に活用する方法を検討した本研究は,意義があるといえる.
5.3 今後の展開
業務プロセス記述への事例適用で導出されるユニットプロセス・アクションについて,
業務毎に知識ベースとして整備する必要がある.知識ベースとすることで,当該業務にお
ける内容が再利用可能な知識として蓄積され,精度の高い結果の導出と効率的なモデル適
用が実現できると考える.
参考文献
[1] “平成 22 年版厚生労働白書”,厚生労働省.
http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/10/dl/02-02-05.pdf,2010 年 11 月.
[2] 飯田修平,飯塚悦功,棟近雅彦(2005):「医療の質用語辞典」,日本規格協会.
[3] 飯田修平,成松亮 (2005) : 『電子カルテと業務革新 医療情報システム構築における業務フロ
ーモデルの活用』,篠原出版新社.
[4] 石川雅彦 (2007) : 『RCA実践マニュアル 再発防止と医療安全教育への活用』,医学書院.
[5] 飯田修平,柳川達生共著 (2006) : 『RCAの基礎知識と活用事例』,日本規格協会.