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MA2013-5
船 舶 事 故 調 査 報 告 書
平成25年5月31日
運輸安全委員会
Japan Transport Safety Board
(東京事案)
1 コンテナ船 EVER UNISON 衝突(岸壁)
2 遊漁船第十八泰幸丸釣り客負傷
3 瀬渡船あらかぜ衝突(防波堤)
(地方事務所事案)
函館事務所
4 漁船第二十一善漁丸乗組員死亡
5 遊漁船26漁成丸小型兼用船一喜丸衝突
6 漁船第十一女神丸プレジャーボートはっぴー衝突
7 漁船第二十八善興丸乗揚
8 漁船第十八隆吉丸火災
9 漁船漁神丸火災
仙台事務所
10 貨物船菱山丸浸水
11 水上オートバイ文三被引浮体搭乗者負傷
12 漁船寶徳丸乗組員負傷
13 漁船大海丸衝突(消波ブロック)
14 ダイビング船海竜火災
15 作業船ふくけん転覆
横浜事務所
16 漁船第十三金一丸乗組員死亡
17 漁船第三寿丸乗組員死亡
18 漁船第八山口丸乗組員死亡
19 カヌー(船名なし)操船者死亡
20 モーターボートA.KONDA乗揚
21 モーターボートAqua WingⅡ乗揚
22 ゴムボート(船名なし)作業員死亡
23 漁船第二彦丸転覆
24 漁船五五良福丸乗組員負傷
25 艦船伝馬船7号ヨット ESPERAUNCEⅢ乗揚
26 漁船公章丸浸水
27 漁船第八庄福丸乗組員死亡
28 遊漁船富士丸乗揚
29 プレジャーモーターボート Jet-Black 乗揚
30 漁船窪三丸プレジャーヨットセントルーカスⅢ衝突
31 水上オートバイゴーイングメリー号同乗者負傷
32 漁船第18喜久丸乗組員死亡
33 漁船第3喜宝丸手漕ぎボート(船名なし)乗組員死亡
神戸事務所
34 漁船第一北斗丸定置網損傷
35 漁獲物運搬船第五十一住宝丸漁船第十八司丸衝突
36 漁船漁宝丸乗揚
37 水上オートバイRM乗揚
38 漁船第三たなか丸遊泳者負傷
39 モーターボートALCUT-1のり養殖施設損傷
40 引船らいちょう乗組員負傷
41 漁船長福丸乗揚
42 貨物船 OUTSAILING 9 貨物船日進丸衝突
43 貨物船 BOHAI CHALLENGE 乗揚
44 漁船第八松丸転覆
45 旅客フェリーフェリーおおさか漁船第十進昭丸漁船第十一進昭丸漁船第十二
進昭丸衝突(漁具)
46 プレジャーボート第一光弥丸同乗者死亡
47 引船海真丸浮沈式活魚運搬バージK-208モーターボートMARYJAN
EⅢ衝突
48 モーターボートAIRIN乗揚
49 砂利運搬船第三日之出丸衝突(灯標)
50 潜水艦そうりゅう乗組員死亡
51 砂利運搬船第三日之出丸漁船長福丸漁船長福丸衝突(漁具)
52 プレジャーボート西尾丸転覆
53 モーターボートSedona乗揚
54 セメント運搬船千早丸ケミカルタンカー昭豊丸衝突(護岸)
55 モーターボート爆酔丸乗揚
56 ロールオン・ロールオフ貨物船ELDUGA引船らいちょう乗揚
57 モーターボートラブリープレジャーボート邦洋丸衝突
58 水上オートバイホワイトウイング乗組員死亡
59 ロールオン・ロールオフ貨物船つるが衝突(岸壁)
広島事務所
60 漁船第五裕丸モーターボート海遊丸衝突
61 プレジャーボートしおかぜ衝突(消波ブロック)
62 旅客船宮島衝突(桟橋)
63 ヨットSamanthaモーターボート第2竹丸衝突
64 モーターボート幸洋丸Ⅱ乗揚
65 押船てんゆう台船第五わこう漁船七福丸衝突
門司事務所
66 漁船金松丸乗揚
67 漁船第十二新幸丸乗揚
68 貨物船 SEA BELL 乗揚
69 旅客船兼自動車航送船フェリーみしま乗揚
70 漁船第十一海星丸火災
71 漁船第二山寿丸火災
72 旅客船兼自動車渡船フェリーニューこしき衝突(可動橋)
73 旅客船かのこ乗揚
長崎事務所
74 貨物船 SEA PLAIN STAR 衝突(水門)
75 水上オートバイミニオン同乗者負傷
76 モーターボート第2隆丸衝突(岩)
77 漁船慶栄丸乗揚
78 漁船第5重光丸モーターボート松生丸衝突
79 漁船第十八喜代丸乗組員負傷
那覇事務所
80 ダイビング船スイミー潜水者負傷
本報告書の調査は、 本件船舶 事故に関し、運輸安全委員会設置法に基づき、
運輸安全委員会により、船舶 事故及び事故に伴い発生した被害の原因を究明し、
事故の防止及び被害の軽減に寄与することを目的として行われたものであり、
事故の責任を問うために行われたものではない。
運 輸 安 全 委 員 会
委 員 長
後
藤
昇
弘
≪参
考≫
本報告書本文中に用いる分析の結果を表す用語の取扱いについて
本報告書の本文中「3
分
析」に用いる分析の結果を表す用語は、次のとおりと
する。
① 断定できる場合
・・・「認められる」
② 断定できないが、ほぼ間違いない場合
・・・「推定される」
③ 可能性が高い場合
・・・「考えられる」
④ 可能性がある場合
・・・「可能性が考えられる」
・・・「可能性があると考えられる」
62 旅客船宮島衝突(桟橋)
船舶事故調査報告書
船種船名
旅客船
宮島
船舶番号
134114
総トン数
189トン
事故種類
衝突(桟橋)
発生日時
平成23年12月24日
発生場所
愛媛県松山市松山港第1区
08時47分ごろ
たかはま
松山港高浜5号防波堤灯台から真方位202°640m付近
(概位
北緯33°53.4′
東経132°42.2′)
平成25年5月9日
運輸安全委員会(海事専門部会)議決
要
委
員
横
山
鐵
男(部会長)
委
員
庄
司
邦
昭
委
員
根
本
美
奈
旨
<概要>
みやじま
旅客船宮島は、船長ほか4人が乗り組み、乗客11人を乗せて愛媛県松山市松山港
第1区の観光港第2桟橋で着桟作業中、平成23年12月24日(土)08時47分
ごろ双胴型船体の左舷側の船首が同桟橋に衝突した。
宮島には、左舷側の船首部に破口が生じたが、乗客及び乗組員に死傷者はいなかっ
た。
<原因>
本事故は、宮島が、松山港第1区において観光港第2桟橋に着桟作業中、船長が針
路約160°で観光港第2桟橋に向けて航行したため、船首部が観光港第2桟橋先端
から約5m離して観光港第2桟橋とほぼ平行で通過し、船尾部が観光港第2桟橋の先
端部を通過中、左舷船尾部に南西方向へ流れる潮流を受け、船首が左回頭を始め、左
舷側の船首が観光港第2桟橋に衝突したことにより発生した可能性があると考えられ
る。
船長が、針路約160°で観光港第2桟橋に向けて航行したのは、これまでに何度
も本事故時と同様の着桟操船を行い、無事に着桟できたことから今回も無事に着桟で
きると思ったことによるものと考えられる。
1
船舶事故調査の経過
1.1 船舶事故の概要
みやじま
旅客船宮島は、船長ほか4人が乗り組み、乗客11人を乗せて愛媛県松山市松山港
第1区の観光港第2桟橋で着桟作業中、平成23年12月24日(土)08時47分
ごろ双胴型船体の左舷側の船首が同桟橋に衝突した。
宮島には、左舷側の船首部に破口が生じたが、乗客及び乗組員に死傷者はいなかっ
た。
1.2 船舶事故調査の概要
1.2.1 調査組織
運輸安全委員会は、平成23年12月26日、本事故の調査を担当する主管調査
官(広島事務所)ほか1人の地方事故調査官を指名した。
1.2.2 調査の実施時期
平成23年12月26日、平成24年1月26日、2月8日、3月7日
口述聴
取
平成24年1月11日、2月13日、15日、3月6日
平成24年1月17日
現場調査
平成24年1月19日
現場調査及び口述聴取
1.2.3
回答書受領
原因関係者からの意見聴取
原因関係者から意見聴取を行った。
2
事実情報
2.1 事故の経過
本事故が発生するまでの経過は、宮島(以下「本船」という。)の船長、機関長及
び瀬戸内海汽船株式会社(以下「A社」という。)の運航管理者の口述によれば、次
のとおりであった。
本船は、広島県広島港~松山港間を運航する定期高速旅客船であり、船長ほか4人
が乗り組み、平成23年12月24日07時30分ごろ乗客7人を乗せ、広島港を出
港し、07時52分ごろ広島県呉市呉港に寄港して乗客4人を乗せ、07時53分ご
ろ出港して松山港に向かった。
- 1 -
本船は、船長が操船、機関長が機関操作、操舵手及び機関員が見張りにそれぞれ当
たって航行を続け、08時42分ごろ松山港高浜5号防波堤灯台(以下「防波堤灯台」
という。)から約260°(真方位、以下同じ。)1,100m付近において、松山港
内の観光港第2桟橋(以下「本件桟橋」という。)に左舷着けで着桟するため、速力
を約30ノット(kn)(対地速力、以下同じ。)から約12knに減速して東進を始め
た。
船長は、機関長に操船制御モードを航海モードから港湾モードに切り替えさせ、
ジョイスティックレバー及びステアリングレバーを操作するため、操舵室内左舷側の
ウイング操作パネルの前に移動して見張り及び操船を行い、操舵手及び機関員をそれ
ぞれ船首及び船尾の配置に就けた。
船長は、本件桟橋に掲揚された本件桟橋付近の潮流の流向と強さを知らせるための
旗を視認して潮流が南流で強いことを知り、船体が南方に圧流されることを考慮し、
東進したのち、本件桟橋の延長線付近で右転して本件桟橋に平行となるように接近す
ることとした。
船長は、防波堤灯台から221°520m付近において、本件桟橋の延長線付近に
達し、本件桟橋先端までの距離が約170mに接近したとき、本件桟橋に着桟するた
めに右転して針路を約160°に定め、約10knの速力で本件桟橋に向けて航行した。
船長は、これまでに何度も同様の着桟操船を行い、無事に着桟できたことから今回
も無事に着桟できると思い、本件桟橋に接近した。
船長は、本船船首部が本件桟橋先端を約5m離して本件桟橋とほぼ平行で通過し、
船体中央付近の操舵室が本件桟橋先端を通過して間もなく、機関を中立として前進惰
力で徐々に着桟予定場所に接近した。
船長は、衝突の約5秒前、本船船尾部が本件桟橋の先端部を通過中、左舷船尾部が
南西方向に流れる潮流に圧流されて本件桟橋から離れるようになって船首が左回頭を
始めたので、態勢を立て直すため、ステアリングレバーで右舵一杯を取り、続いて舵
を中央に戻し、ジョイスティックレバーで後進一杯としたが、08時47分ごろ、防
波堤灯台から202°640m付近において、本船の左舷側の船首が、約2~3knの
速力で本件桟橋に衝突した。
船長は、機関を中立にしたのち、微速力前進、中立として08時50分ごろ本件桟
橋に着桟した。
船長は、乗客11人を下船させたのち、本件桟橋に降りて左舷側の船首部を確認し
たところ破口があったので、操舵手に船体内部への浸水の有無を確認させ、異常がな
い旨の報告を受けたことから、広島港への航行を決定し、新たに乗客47人を乗せ、
09時00分松山港を出港した。
本船は、10時08分ごろ定刻どおりに広島港内の桟橋に着桟した。
- 2 -
本船を運航管理するA社の運航管理者及び運航管理補助者は、広島港で本船の損傷
状況を確認したのち、修理が必要と判断して入渠させることを決定し、また、海上保
安庁に本事故を連絡した。
本事故の発生日時は、平成23年12月24日08時47分ごろで、発生場所は、
防波堤灯台から202°640m付近であった。
(付図1
推定航行経路図、写真1 本船、写真2
本件桟橋
参照)
2.2 人の死亡、行方不明及び負傷に関する情報
乗客及び乗組員に死傷者はいなかった。
2.3 船舶の損傷に関する情報
船長及び運航管理者の口述によれば、左舷側の船首部の水面上に破口が生じた。
2.4 船舶以外の施設等の損傷に関する情報
船長の口述によれば、本件桟橋に損傷はなかった。
2.5 乗組員に関する情報
(1) 性別、年齢、海技免状
船長
男性
42歳
四級海技士(航海)
免
許
年
月
日 平成7年8月7日
免 状 交 付 年 月 日 平成22年7月29日
免状有効期間満了日
平成27年8月6日
(2) 主な乗船履歴等
船長の口述によれば、次のとおりであった。
昭和61年3月ごろA社に入り、司厨員としてフェリーに乗り組んだのち、
本船に平成5~6年ごろから操舵手として3~4年間乗船し、他船の操舵手、
甲板長、一等航海士の職を経て平成21年に船長職をとるようになり、平成
23年6~7月ごろから本船の船長として乗船していた。
(3) 健康状態
船長の口述によれば、船長は、本事故当時、健康状態は良好であり、視力は
両眼共に裸眼で1.2、聴力は正常、アルコール類の摂取はしていなかった。
- 3 -
2.6 船舶等に関する情報
2.6.1
船舶の主要目
船 舶 番 号
134114
船
広島県広島市
籍
港
船舶所有者
A社
総 ト ン 数
189トン
L ×B ×D
31.50m×9.80m×3.50m
船
質
軽合金
機
関
ディーゼル機関2基
出
力
1,838.7kW/基
器
ウォータージェット装置2基
推
進
進水年月日
合計3,677kW
平成6年3月7日
2.6.2 積載状態
船長の口述によれば、本事故当時、乗客11人を乗せ、喫水は、船首約1.65
m、船尾約2.00mであった。
2.6.3 船舶に関するその他の情報
(1)
船長及び機関長の口述によれば、本事故当時、0.75海里レンジに設定
したレーダー、GPSプロッターを使用中であり、船体、機関及び機器類に
不具合又は故障はなかった。
(2)
本船は双胴型の高速船であり、左舷及び右舷にウォータージェット推進装
置を装備しており、それぞれのウォータージェットをディーゼル機関で駆動
し、左右各舷のウォータージェット及びエンジンを制御するコントローラを
有していた。主機関遠隔操縦装置取扱説明書及びウォータージェットコント
ローラ取扱説明書によれば、次のとおりであった。
①
通常の操船時には航海モードを使用し、主に港での離着桟時の横滑り
(横移動)や一点旋回を行うときには港湾モードを使用する。
②
航海モード制御では、ステアリングレバーを左右に動かすことにより、
両舷のウォータージェットは同じ方向に動き、通常の船舶の舵取りと同様
な働きをする。また、ジョイスティックレバーは前後方向の倒れ角にのみ
有効で推力調整と機関回転数の制御を行うことができる。なお、同制御は、
操舵室コンソールに組み込まれた中央操縦パネルで行う。
③
港湾モード制御では、ジョイスティックレバーを前後方向に倒すことに
より航海モード制御使用時と同じ機能が得られ、さらに横方向に倒すこと
- 4 -
で船を横滑りさせることができる。ジョイスティックレバー操作時におい
てもステアリングレバーの機能は生きており、それぞれを組み合わせるこ
とにより、風、潮流の影響で船が回頭した場合にその動きを補正すること
ができるほか、一点旋回などの複雑な操船ができる。なお、同制御は、左
右各舷のウイングに設けられたウイング操縦パネルで行う。
2.7 本船の運航状況に関する情報
船長及び運航管理者の口述によれば、本船の平成23年12月24日における運航
スケジュールは、次表のとおりであり、広島港と松山港間を3往復する予定であった。
広島港発
呉
07:30
港
松山港着
松山港発
広島港着
07:53
08:47
09:00
10:08
12:00
12:23
13:17
14:30
15:38
17:30
17:53
18:47
19:00
20:08
2.8 本件桟橋に関する情報
海上保安庁発行の水路図誌、海図W1124並びに運航管理者の口述及び回答書に
よれば、次のとおりであった。
(1) 本件桟橋は、高浜瀬戸東側の松山港第1区に設置されていた。愛媛県が管理
してA社が使用する岸壁から北西方に延びる約120mの浮桟橋であり、水深
約5~8mの場所に設置されていた。
(2) 本件桟橋は、岸壁から第1基、第2基及び第3基の3つの浮体で構成され、
長さがそれぞれ30mであり、岸壁側2基の幅が約14m、先端部1基がその
半分の約7mとなっており、隣り合う浮体がチェーンでつながれていた。
(3)
本船の着桟予定場所は、第1基の南西側であった。
2.9 気象及び海象に関する情報
2.9.1
気象観測値及び潮汐
(1)
本事故発生場所の南方約7㎞に位置する松山南吉田地域気象観測所におけ
る本事故当日08時50分の観測値は、次のとおりであった。
風向
(2)
北西、風速
6.7m/s、気温
6.3℃
海上保安庁刊行の潮汐表、潮流図及び天測暦によれば、次のとおりであっ
た。
①
本事故当時の松山港における潮汐は、上げ潮の末期に当たり、本事故発
生場所の南西方約1,500m付近の高浜瀬戸南口における潮流は、07
- 5 -
時32分が北流最強の約3.8kn、10時59分が転流時となり、本事故
当時の現場付近の潮流は、北流であり、流速は約3.1knであった。
②
本事故当日の釣島水道では、04時57分南西流から北東流へ転流し、
本事故当時、北東流が約2.7knの最強時となり、12時09分南西流に
転流した。
(3)
12月24日の月齢は28.7であった。
(4)
松山地方気象台から12月24日04時10分に松山市に強風、波浪注意
報が発表された。
2.9.2
乗組員の観測
船長の口述によれば、本事故当時、天候は晴れ、風速約5m/sの北風が吹き、波
高約0.5mであり、視界は良好であった。潮流は、強い南西流であった。
2.10 事故水域に関する情報
(1) 海上保安庁発行の瀬戸内海水路誌によれば、松山港の概要は、次のとおりで
あった。
四国の北西岸、釣島水道の東方にあり、年間を通じて風向は北西が最も多く、
年間を通じて風の強い時期は2月~4月の間である。
各防波堤内は、風波に対して安全であるが、冬季、北西の強風時には、かな
りうねりが入ることがある。
高浜瀬戸は、北方から松山港に入港する際の水路で、最狭可航幅約500m、
中央の水深50m内外であるが、潮流が強い。高浜瀬戸では、上潮流は北方へ、
下潮流は南方へ流れ、釣島水道よりも約1時間10分早く転流する。最強流速
は5knに達することがある。
(2) 海図W1124の潮流記事によれば、次のとおりであった。
高浜瀬戸では、潮時によって主流位置が東又は西に偏るので、沿岸域の流れ
は不規則である。
九十九島から高浜泊地に至る岸寄りでは、北東流の流続時間は短く、一日中
の大半は南西流で、その流速は0.5~1.0knに及ぶ短周期の変動を起こすの
で、操船上十分な注意が必要である。
(3)
船長の口述によれば、次のとおりであった。
①
本件桟橋付近の潮流は、複雑な動きをして秒単位で方向や強さが変わった。
潮汐表で北東に流れる潮の場合でも、九十九島からのわい潮や本件桟橋沿い
に流れる潮の影響で南西に流れることがあった。
②
本件桟橋の先端付近に発泡スチロールが浮かんでおり、本事故時にはその
- 6 -
発泡スチロールが大きく左右に揺れていた。
③
A社の松山代理店の社員は、本件桟橋での離着桟時に係船作業を補助する
一方、本件桟橋付近での潮流も調べ、潮流の向き、強さを高速船の乗組員に
伝えていた。社員は、本件桟橋の基部付近に旗を掲げてその方向、強さを知
らせるが、南流の場合には、緑色の旗、北流の場合には赤色の旗を掲げ、潮
流の強さは掲げる旗の枚数で示していた。ただし、強さについては、旗が2
枚の場合は強く、1枚の場合は弱い流れを表すが、具体的数値を示すもので
はなかった。また、潮の流れがないときは、同時に緑色及び赤色の旗を掲げ
ていた。
本事故当時は、緑色の旗が2枚掲げられていた。
2.11
安全管理体制に関する情報
運航管理者の口述及び回答書によれば、次のとおりであった。
(1) 安全管理体制について
A社は、本船を含めて2隻の高速船及び2隻のフェリーを広島~松山間に、
このほかの航路などに7隻をそれぞれ就航させ、合計11隻の船舶を運航管理
していた。
A社は、安全管理規程及び同規程に基づく運航船舶の具体的な運航基準を定
め、安全統括管理者1人を置き、その下に運航管理者1人、副運航管理者1人
及び運航管理補助者3人を置いて安全管理体制を構築していた。
(2) 安全方針について
A社の安全方針は、次のとおりであった。
①
安全最優先
②
法令遵守
③
安全管理体制の維持及び改善
(3) A社の訪船活動について
A社では、安全統括管理者及び運航管理者が主となり、原則として毎月1回
以上高速船の訪船活動を行い、本船にも平成23年4月19日、11月15日、
12月10日に訪船活動を行った。訪船の目的は、法定書類や法定備品の管理
状況、救命胴衣の保管状況、基準航路等の安全管理規程の遵守状況等の確認で
あった。
(4) A社の教育及び訓練について
A社では、毎月開催される安全対策委員会において、関係会社及び運航管理
船11隻から報告されるヒヤリハット情報の原因、再発防止策等を審議して対
策を周知したり、運航管理船の月ごとの訓練計画及び訓練実施状況を報告した
- 7 -
りしており、同委員会に運航管理船の船員の代表として1~2人を参加させて
いた。運航管理船の訓練の内容は、総員退船、非常操舵、防火及び防水訓練で
あったが、必要に応じて行った教育及び訓練は、次のとおりであった。
①
安全対策委員会で船員災害防止協会作成の「ヒヤリハット実例集」及び
「KYTイラスト集」を活用したヒヤリハット及び危険予知訓練
②
台風関係情報を資料化して活用した教育
③
運輸局で開催された安全統括管理者及び運航管理者研修の資料を教育訓練
の一環として各船に配布
④
広島市消防局による「普通救命講習」を実施(平成23年度は25人の乗
組員が受講した。)
(5) 事故報告について
A社では、事故処理基準に定める事故が発生したときには、安全管理規程に
定められているとおり、必ず運航管理者に連絡を行うように指導していた。
ただし、航行に支障がない場合は、船長からA社に連絡は行っておらず、ま
た、その必要もなかった。
3
分 析
3.1 事故発生の状況
3.1.1 事故発生に至る経過
2.1から、次のとおりであった。
(1)
本船は、24日08時42分ごろ、松山港の本件桟橋へ左舷着けで着桟す
るため、速力を約30knから約12knに減速したものと考えられる。
(2)
本船は、防波堤灯台から221°520m付近において、本件桟橋先端ま
で約170mに接近したとき、船長が、右転して針路を約160°とし、約
10knに減速したものと考えられる。
(3)
本船は、船首部が本件桟橋先端を約5m離して本件桟橋とほぼ平行で通過
したものと考えられる。
(4)
本船は、船尾部が本件桟橋の先端部を通過中、左舷船尾部に南西方向へ流
れる潮流を受けて船尾部が本件桟橋から離れるようになり、船首が左回頭を
始めたので、船長が、右舵一杯とし、次いで機関を後進一杯にしたが、左舷
側の船首が本件桟橋に衝突した可能性があると考えられる。
- 8 -
3.1.2 事故発生日時及び場所
2.1から、本事故の発生日時は、平成23年12月24日08時47分ごろで、
発生場所は、防波堤灯台から202°640m付近であったものと考えられる。
3.1.3 衝突の状況
2.1から、本船の左舷側の船首が本件桟橋に衝突したものと考えられる。
3.2 事故要因の解析
3.2.1 乗組員及び船舶の状況
(1)
乗組員
2.5(1)から、船長は、適法で有効な海技免状を有していた。
(2)
船舶
2.6.3(1)から、本事故当時、船体、機関及び機器類に不具合又は故障はな
かったものと考えられる。
3.2.2
見張り及び操船の状況に関する解析
2.1から、次のとおりであった。
(1)
本船は、本件桟橋へ左舷着けで着桟するため、速力を約30knから約12
knに減速したものと考えられる。
(2)
船長は、操舵室内左舷側のウイング操作パネルの前に移動し、見張り及び
操船を行い、本件桟橋に掲揚された旗を見て潮流が南流であることを知り、
本件桟橋の延長線付近まで東進することにしたものと考えられる。
(3)
船長は、本件桟橋先端まで約170mに接近したとき、右転して針路を約
160°とし、約10knに減速したものと考えられる。
(4)
船長は、これまでに何度も同様の着桟操船を行い、無事に着桟できたこと
から今回も無事に着桟できると思い、針路約160°で本件桟橋に向けて航
行し、船首部が本件桟橋先端から約5m離して本件桟橋とほぼ平行で通過し
たものと考えられる。
(5)
船長は、操舵室が本件桟橋先端を通過して間もなく、機関を中立として
前進惰力で着桟予定場所に接近したものと考えられる。
(6)
船長は、船尾部が本件桟橋の先端部を通過中、左舷船尾部に南西方向へ流
れる潮流を受けて船尾部が本件桟橋から離れるようになり、船首が左回頭を
始めたので、操作パネルのステアリングレバーで右舵一杯とし、次いでジョ
イスティックレバーで機関を後進一杯とした可能性があると考えられる。
- 9 -
3.2.3
気象及び海象に関する解析
2.9及び2.10から、次のとおりであった。
本事故当時、天気は晴れ、風力2~3の北北西風が吹き、視界は良好であり、潮
汐はほぼ高潮時であったものと考えられる。
本事故発生場所付近は、潮流の流れが複雑になっており、本事故当時は南西方向
に流れる潮流が約0.5~1.0knであった可能性があると考えられる。
3.2.4
事故発生に関する解析
2.1、2.11、3.1.1、3.2.2 及び 3.2.3 から、次のとおりであった。
(1)
本船は、松山港第1区において、本件桟橋へ左舷着けの着桟作業中、速力
を約30knから約12knに減速し、船長が、本件桟橋に掲揚された旗を見て
潮流が南流であることを知り、本件桟橋の延長線付近まで東進することにし
たものと考えられる。
(2)
船長は、本件桟橋先端まで約170mに接近したとき、針路を約160°
とし、約10kn に減速したものと考えられる。
(3)
船長は、これまでに何度も同様の着桟操船を行い、無事に着桟できたこと
から、今回も無事に着桟できると思い、針路約160°で本件桟橋に向けて
航行し、船首部が本件桟橋先端から約5m離して本件桟橋とほぼ平行で通過
したものと考えられる。
(4)
船長は、船尾部が本件桟橋の先端部を通過中、左舷船尾部に南西方向へ流
れる潮流を受けて船尾部が本件桟橋から離れるようになり、船首が左回頭を
始めたので、右舵一杯とし、次いで機関を後進一杯にしたものの、針路約
160°で本件桟橋に向けて航行したことから、左舷側の船首が本件桟橋に
衝突した可能性があると考えられる。
4
原 因
本事故は、本船が、松山港第1区において本件桟橋に着桟作業中、船長が針路約
160°で本件桟橋に向けて航行したため、船首部が本件桟橋先端から約5m離して
本件桟橋とほぼ平行で通過し、船尾部が本件桟橋の先端部を通過中、左舷船尾部に南
西方向へ流れる潮流を受け、船首が左回頭を始め、左舷側の船首が本件桟橋に衝突し
たことにより発生した可能性があると考えられる。
船長が、針路約160°で本件桟橋に向けて航行したのは、これまでに何度も本事
故時と同様の着桟操船を行い、無事に着桟できたことから今回も無事に着桟できると
- 10 -
思ったことによるものと考えられる。
5 再発防止策
本事故は、本船が、松山港第1区において本件桟橋に着桟作業中、船長が針路約
160°で本件桟橋に向けて航行したため、船首部が本件桟橋先端から約5m離して
本件桟橋とほぼ平行で通過し、船尾部が本件桟橋の先端部を通過中、左舷船尾部に南
西方向へ流れる潮流を受け、船首が左回頭を始め、左舷側の船首が本件桟橋に衝突し
たことにより発生した可能性があると考えられる。
5.1 本事故後に講じられた事故等防止策
5.1.1 本船船長により講じられた措置
着桟操船については、潮流の影響を考慮し、今まで以上に本件桟橋から離れて余
裕をもって着桟操船を行うこととし、また、早期に減速を行い、いつでも停船でき
る速力で操船を行うこととした。
5.1.2 A社により講じられた措置
(1)
事故はヒューマンエラー等で起こり得ることを船員に教育した。
(2)
安全運航のために「BRMの実践」を作成し、各船に配付した。
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付図1 推定航行経路図
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写真1 本船
写真2 本件桟橋
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