Download 収益改善支援サイト

Transcript
【収益改善講座1】
-低収益性から脱却できる事業資源の活性化策-
収益改善
2014年12月7日改訂版
収益改善講座1
はじめに
はじめに
収益改善の成功は、トラウマ脱出にかかっています。楽観・悲観の分かれ道
は単純です。事業収益が低迷したとき、あなたならどうするでしょうか。今の
事業は儲からないので、活路をほかに求めるのも一つの方策。そうではなく、
今の事業の問題を解決すれば収益改善の道はあるはずと考えることもできます。
*トラウマとは、過去の強い心理的な傷がその後も精神的障害をもたらすこと
アフリカへの靴売りジョークをご存じでしょうか。よく知られた話です。ア
メリカンジョークのようですが、どこで読んだのか覚えていません。楽観的セ
ールスマンと悲観的セールスマンが、アフリカの奥地に靴を売りに行く話です。
現地で見た光景に、二人とも呆然とさせられました。その後の、悲観的セール
スマンの報告です。「誰も靴を履いていない。これじゃ売れるわけがない」。
彼はまもなく、帰国してしまいました。
次は、楽観的セールスマンの報告です。「誰も靴を履いていない。靴の良さ
を分からせれば売り放題だ」。さっそく、セールスを始めたのです。
成功のつぼは、トラウマ払しょくにあると思います。物事のとらえ方は人そ
れぞれです。いろいろな経験を積んだ人生で、潜在意識に植え付けられた何か
で解釈のしかたも変わります。否定的にとらえると、やる気が出ないうえに効
果的な行動を取ることもなくなるでしょう。しかも、自分の見た状況判断だけ
で、あきらめてしまうことが多くなります。最初から駄目だと決めつければ、
成功はあり得ないはずなのにもかかわらずです。
ある意味で、収益改善はアフリカへの靴売りと同じ状況と見ています。製品
アイテムに赤字が発見されたときも同様です。製品アイテムの25%が赤字のメ
ーカーを対象としましょう。従来から同じと見過ごすか、それとも赤字は異常
と考えて何らかの対策を打つのかです。最近の事例では、放置されたままでし
た。
収益改善には、低位安定トラウマ志向脱出が欠かせません。単品赤字の解消
に取り組み、実現したメーカーも実際にあります。あきらめずに取り組み続け
た結果です。「あきらめない」これがトラウマ脱出のキーと小生は信じていま
profit_improvement_text20141207.doc
- 1 -
収益改善講座1
はじめに
す。
また、営業利益の水準にも同じことが言えるでしょう。日本の製造業の営業
利益率は、4%程度が長らく続いてきました。法人企業統計による製造業の営業
利益率は、1989年のバブル経済期でも5.0%です。景気変動により若干上下しま
すが、米欧企業に比べ低位安定しています。この低位安定を当たり前と考える
か、より高くする余地ありとするかの違いは大きいはずです。小生は、営業利
益率の水準15%以上をめざして欲しいと心から念願しています。
本テキストの内容は、拙著「収益改善の教科書」をベースにしたものです。
ただし、拙著で触れていない部分もかなりあります。主に、投資なしで取り組
み可能な課題に限定した収益改善策の紹介です。
2014年11月20日
前田 久喜
profit_improvement_text20141207.doc
- 2 -
収益改善講座1
目 次
目
次
頁
はじめに ................................................................ 1
第1章 低い収益力の日本企業............................................. 5
1.収益力が低い日本企業 ................................................ 5
1)日本企業の低い収益性.............................................. 5
2)企業収益を測る指標 ROA ............................................ 8
2.日米欧企業の収益性の特徴 ............................................ 8
1)欧米の企業に比べ低収益性が顕著 .................................... 9
2)日本の ROA はアメリカ、ドイツと比較して低水準 ..................... 13
3.低収益性の要因一覧 ................................................. 15
4.低収益性の弊害 ..................................................... 15
5.製造業の収益力を高めるポイント ..................................... 16
第2章 売上計算の演習問題.............................................. 17
1.利益を1増やす売上は? ............................................. 17
2.演習問題 1「営業利益増加の必要売上高」.............................. 18
3.演習問題 2「売上増加時の営業利益」.................................. 20
4.演習問題 3「営業利益増加の必要売上高」.............................. 22
5.演習問題 4「営業利益増加の必要売上高」.............................. 24
6.某 Web サイト「利益率1%の企業」の検証 ............................. 25
1)変動費率 10%のケース ............................................ 25
2)変動費率 50%のケース ............................................ 27
3)変動費率 90%のケース ............................................ 28
4)利益率1%の企業のまとめ......................................... 30
第3章 儲かる製品の判断基準............................................ 31
1.儲かる製品の判断基準 ............................................... 31
1)どちらが儲かるか................................................. 31
2)売上数量による損益比較........................................... 32
3)製造1時間当たりの損益比較 ....................................... 33
4)儲かる基準のまとめ............................................... 34
第4章 収益改善の優先順位.............................................. 36
1.収益改善の優先順位 ................................................. 36
2.投資不要の課題を優先させる ......................................... 36
3.収益力の高い製品拡販 ............................................... 37
4.単品赤字を解消する ................................................. 37
1)赤字の種類....................................................... 37
2)放置される単品赤字............................................... 39
3)限界利益の確保を優先............................................. 39
4)売上の確保を重視................................................. 39
5)拡販政策による価格設定........................................... 40
6)赤字解消策とは................................................... 40
5.競合他社との差別化を推進する ....................................... 41
6.強みを活かす用途開発をおこなう ..................................... 41
profit_improvement_text20141207.doc
- 3 -
収益改善講座1
目 次
第5章 収益改善の分析資料.............................................. 43
1.収益改善に必要な資料 ............................................... 43
2.各資料の詳細 ....................................................... 45
1)製品体系......................................................... 45
2)マーケット収益モデル............................................. 46
(1)マーケット収益モデルとは .................................... 47
(2)マーケット収益モデルの活用 .................................. 47
3)収益源マップ..................................................... 48
(1)収益源マップ作成のポイント .................................. 49
(2)事例企業の概要 .............................................. 50
(3)数値の読み方 ................................................ 50
(4)事例収益源マップの所見 ...................................... 51
(5)収益源マップの活用 .......................................... 52
(6)品種と用途交点の競合分析 .................................... 52
4)採算分析......................................................... 53
(1)採算分析の見方 .............................................. 53
(2)採算分析でわかること ........................................ 54
5)生産プロダクトミックス........................................... 56
(1)プロダクトミックスとは ...................................... 56
(2)生産プロダクトミックスの定義 ................................ 56
(3)生産プロダクトミックスで分かること .......................... 56
(4)生産プロダクトミックス帳表の算出例 .......................... 57
(5)見方 ........................................................ 57
(6)活用策 ...................................................... 58
(7)生産プロダクトミックスの改善視点 ............................ 58
(8)収益改善への着手優先順位別の課題 ............................ 59
(9)生産プロダクトミックスの視点 ................................ 59
6)競合分析......................................................... 64
「収益改善の教科書」正誤表 ············································ 66
(表紙込み
(テキスト内容の“無断複製転載”を禁ずる)
profit_improvement_text20141207.doc
- 4 -
全67頁)
収益改善講座1
第1章 低い収益力の日本企業
第1章 低い収益力の日本企業
日本の製造業は、低収益性に甘んじています。グローバル化が進むことは、
今後も間違いありません。欧米企業並み収益力への引き上げが不可欠です。事
業資源の活用度向上が、収益改善のポイントと確信しています。
1.収益力が低い日本企業
欧米と日本の企業の収益性を検証するため、本稿では2つの資料を取り上げま
した。財務省の法人企業統計と内閣府の年次経済財政報告です。調査企業と比
較指標が双方で異なるため、同一視点から見られるように解説を加えています。
1)日本企業の低い収益性
日本の製造業は、低収益性が顕著です。したがって、日本企業の最大課題の
一つは、低収益性からの脱却に間違いありません。財務省の法人企業統計年報
によれば、次の特徴が見られます。対象としたのは、金融·保険を除く2012年度
から過去50年分です。企業データは、連結ではなく中小企業を含む個別企業を
対象としています。
・全産業との比較では、製造業の営業利益率が上回る
これまで、ほぼ一貫して製造業の利益率が上回るが、近年逆転の傾向が出
てきた
・長期的に営業利益率の低落傾向が見られる
本稿では、これらの要因を問題にするつもりはありません。むしろ、どのよ
うにすれば収益性を高められるのか提起するつもりです。
それでは、日本企業の営業利益率の推移グラフをご覧ください。
profit_improvement_text20141207.doc
- 5 -
収益改善講座1
第1章 低い収益力の日本企業
日本企業の営業利益率推移
◆元データは「法人企業統計年報」、金融・保険除く
◆過去50年間の推移を比較した
◆特徴
・全産業との比較では、製造業の利益率が上回る
・長期的に利益の低落傾向が見られる
9.0
製造業
8.0
営業利益率
7.0
6.0
5.0
4.0
全産業
3.0
2.0
1.0
2012
2010
2008
2006
2004
2002
2000
1998
1996
1994
1992
1990
1988
1986
1984
1982
1980
1978
1976
1974
1972
1970
1968
1967
1965
1963
0.0
年 度
法人企業統計は、営利法人等を調査対象とし,その中から無作為抽出により
標本法人を選定しています。平成24年度調査の全産業の標本数は、35,895社で
した。実際に回収された調査企業数は、次のとおりです。
・全産業(金融業、保険業を含む)
27,879社
・全産業(金融業、保険業除く)
23,271社
内、製造業 7,095社 非製造業 16,176社
・金融業、保険業
4,608社
・資本金(金融業と保険業を除く)
10億円以上
4,704社
1億円以上10億円未満
7,935社
1,000万円以上1億円未満
8,238社
1,000万円未満
2,394社
数の上では、中小企業が多くを占めています。製造業における中小企業とは、
従業員300人以下、または資本金3億円以下のことです。中小企業の定義は、中
小企業庁で使われているもので、中小企業基本法第2条で定められています。
後段に紹介する、年次経済財政報告で分析対象としている上場企業とは異なり、
日本全体の傾向を見るのに適しているでしょう。
profit_improvement_text20141207.doc
- 6 -
収益改善講座1
第1章 低い収益力の日本企業
日本企業の営業利益率推移
出所:法人企業統計年報
年度
全産業
製造業
1963
1964
1965
1966
1967
1967
1968
1969
1970
1971
1972
1973
1974
1975
1976
1977
1978
1979
1980
1981
1982
1983
1984
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
5.0
4.6
4.4
4.6
4.8
4.7
4.8
5.0
4.7
4.1
4.4
5.2
4.4
3.0
3.2
3.0
3.1
3.6
3.5
3.1
2.8
2.8
2.9
2.8
2.6
3.1
3.4
3.5
3.5
3.3
2.8
2.2
2.3
2.4
2.4
2.3
1.8
2.1
2.6
2.2
2.4
2.8
3.1
3.2
3.1
3.1
1.9
2.0
2.8
2.8
2.9
7.6
6.8
6.3
7.0
7.6
7.5
7.4
7.7
7.2
5.9
6.3
8.0
6.3
3.8
4.5
4.1
4.4
5.7
5.1
4.7
4.2
4.1
4.6
3.9
3.2
4.1
4.9
5.0
4.8
4.2
3.3
2.5
2.9
3.3
3.6
3.5
2.5
2.9
3.8
2.7
3.2
3.9
4.5
4.5
4.7
4.5
1.5
1.5
3.2
2.8
2.9
profit_improvement_text20141207.doc
差異
製造業-全産業
2.6
2.3
2.0
2.5
2.7
2.7
2.7
2.8
2.5
1.8
2.0
2.7
2.0
0.8
1.3
1.1
1.3
2.1
1.6
1.6
1.3
1.2
1.6
1.1
0.6
1.1
1.5
1.5
1.3
0.9
0.5
0.2
0.7
1.0
1.2
1.2
0.7
0.8
1.2
0.5
0.8
1.1
1.4
1.3
1.5
1.4
-0.4
-0.5
0.3
-0.1
0.0
- 7 -
それでは、数字による営業利益
率の実態を確認していただきま
しょう。この表は、金融·保険を
除く財務省「法人企業統計年報」
のデータを集計したものです。
本来は、製造業と非製造業の比
較が適切なのですが、作業量の多
さのため割愛しました。本稿の趣
旨は、製造業の利益率推移が分か
ればいいので可としています。
1967年度が2つありますが、間
違いではありません。1967年(昭
和42年)11月、調査要領の全面改
正により、新旧双方による結果が
掲載されています。念のため-。
各機関で実施されている同様
の分析を見ると、2008・2009・
2011年度を除く過去50年間、非製
造業が製造業より利益率が下回
っています。この利益率は、海外
企業と比べて妥当な水準なので
しょうか。そこで、海外企業の利
益水準と比較するため、企業収益
を測る指標ROAを次に紹介しまし
ょう。
収益改善講座1
第1章 低い収益力の日本企業
2)企業収益を測る指標 ROA
ROA(総資産利益率、税引前当期純利益÷総資産)は、企業経営の視点から見
た収益性を測る指標です。株主資本と負債の合計である総資産に対する利益の
比率を指しています。つまり、企業が総資産をもとにどの程度効率的に収益を
上げたのか表わすものです。ROAは、次のように展開できます。算出式は、年次
経済財政報告で使われているものです。
ROAの展開式
R
A
=
R
S
×
S
A
=売上高利益率×総資産回転率 R:税引前当期純利益、A:総資産、S:売上高 ROE(株主資本利益率、税引前当期純利益÷(純資産-新株予約権))は、株
主の視点から見た収益性の指標です。株主が出資した株主資本に対する利益の
比率を指しています。つまり、株主資本をもとにどの程度効率的に収益を上げ
たのか表わすものです。
収益改善の視点から見ると、企業の収益性は企業経営の効率性から評価する
のが適切と考えます。この点、ROAは株主資本だけでなく負債も含めた総資産の
効率性を表わすことから、財務レバレッジ(総資産÷株主資本)の影響を受け
るROEより、収益性を測る指標としてすぐれています。
2.日米欧企業の収益性の特徴
詳細に入る前に、収益性の特徴をまとめて紹介しておきましょう。本章後段
の結論に相当する内容です。内閣府の年次経済財政報告にまとめられています。
それでは、まず平成22年度版からです。
■内閣府の年次経済財政報告平成22年度版による比較
比較対象:
日本と欧州・アメリカの上場企業による比較。
金融·保険は除く。
2000年~2008年までの9年間。
比較対象は、ROA、ROE、売上高利益率、総資本回転率の4指標。
profit_improvement_text20141207.doc
- 8 -
収益改善講座1
第1章 低い収益力の日本企業
日本企業の特徴(結論):
ROA、ROE、売上高利益率がひときわ低い水準である。
総資本回転率が一段高い水準となっている。
次は、平成25年度版です。
■内閣府の年次経済財政報告平成25年度版による比較
比較対象:
日本は法人企業統計。同報告に記載されていないが、アメリカ・ドイツ企業
も比較可能な対象と思われる。
金融·保険は除く(同報告には記載されていない)。
1990年~2011年までの22年間。
比較対象は、ROA、売上高利益率、総資本回転率の3指標。
日本の全規模製造業の特徴(結論):
ROAは下回る。
総資本回転率は同水準。
日本の大企業製造業の特徴(結論):
ROAは下回る。
総資本回転率はほぼ同水準。
日本の中小企業製造業から見た特徴(結論):
ROA、売上高利益率、総資本回転率とも下回る。
大中小企業との比較(結論):
日本の中小企業は、ROAが大企業より低い。アメリカ・ドイツでは、中小企業
のROAが大企業より高い(同報告では差異がないとの所見である)
このあとは、それぞれの内容解説に移ります。
1)欧米の企業に比べ低収益性が顕著
内閣府の年次経済財政報告には、日本経済の競争力や日本企業の競争力が、
ここ数年で2回報告されています。まず、同報告の平成22年度版を取り上げまし
profit_improvement_text20141207.doc
- 9 -
収益改善講座1
第1章 低い収益力の日本企業
ょう。第3章「豊かさを支える成長力」の第3節「日本経済の競争力」の中にあ
るものです。「米欧に比べて低い日本企業の収益率」の項に、次に掲げた図「日
米欧の収益性と総資本回転率」があります。2000年代の平均的な収益率の推移
を見たものです。違いが顕著に現れています。
4つの指標による比較をおこなったものです。ROA(総資産利益率)、ROE(株
主資本利益率)および売上高利益率は、欧米企業に比べ日本企業はひときわ低
い水準となっています。同報告の売上高利益率は、(税引前当期純利益÷売上
高)のことです。一般に、売上高利益率は売上高営業利益率より小さくなりま
す(後段の表「日本の製造業、各利益率の推移」を参照)。反面、総資本回転
率は日本企業が一段高い水準です。したがって、日本企業のROA、ROEが低いの
は、売上高利益率の低さにあると言えます。次は小生の所見です。
グローバル化が進む日本企業の大きな課題は、ROA引き上げに貢献する売上高利
益率の向上がもっとも重要と言わざるをえません。
本章冒頭の営業利益率と、ここでの売上高利益率とどこが違うのか紛らわし
いと思われるかたが多いかもしれません。そこで、双方の関連をまず明らかに
することにしましょう。
各国の集計対象は、いずれも上場企業レベルです。そのため、中小企業を含
む前述の法人企業統計の集計結果より良好な数値となっています。法人企業統
計では営業利益率の推移を見ました。いっぽう、年次経済財政報告で取り上げ
ているのは、営業利益率(=売上高営業利益率)ではなく売上高利益率です。
比較対象の企業群が異なるため、厳密な対比はできません。しかし、売上高利
益率は売上高営業利益率よりも通常小さくなることが多いため、法人企業統計
と同一条件で比較すると上場企業対象の年次経済財政報告企業の業績がより良
好と判断されるはずです。しかし、それでも日本企業の利益水準は、欧米企業
を下回っています。営業利益率と売上高利益率の相関については、次の図に続
く表「日本の製造業、各利益率の推移」をご覧ください。
次の図で、2004年から2008年までのグラフが2重になっているのは、企業数の
集計が2000年から2008年の分と重なっているためです。この内容は、図の下に
ある備考に記載されています。
profit_improvement_text20141207.doc
- 10 -
収益改善講座1
第1章 低い収益力の日本企業
図「日米欧の収益性と総資本回転率」
出所:内閣府「年次経済財政報告」
平成22年度版、387頁、第3-3-20図「日米欧の収益性と総資本回転率」
次の表「日本の製造業、各利益率の推移」は、法人企業統計年報から比較可
能な1973年度以降の各利益率を対比させたものです。表の売上高税引前当期利
益率は、前項「年次経済財政報告」の売上高利益率と同じものを指しています。
表の差異は、営業利益率から売上高利益率(=売上高税引前当期利益率)を引
profit_improvement_text20141207.doc
- 11 -
収益改善講座1
第1章 低い収益力の日本企業
いたものです。見ていただいて分かるとおり、ほとんどの年度において営業利
益率のほうが上回っています。つまり、米欧に比べた日本企業の収益性が低い
と判断された上場企業同士の売上高利益率差異は、営業利益率で見ればもっと
大きな開きが出ることになるわけです。
日本の製造業、各利益率の比較推移
年度
1973
1974
1975
1976
1977
1978
1979
1980
1981
1982
1983
1984
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
営業 経常利益 売上高税引前
利益率
率
当期利益率
a
b
c
8.0
6.3
3.8
4.5
4.1
4.4
5.7
5.1
4.7
4.2
4.1
4.6
3.9
3.2
4.1
4.9
5.0
4.8
4.2
3.3
2.5
2.9
3.3
3.6
3.5
2.5
2.9
3.8
2.7
3.2
3.9
4.5
4.5
4.7
4.5
1.5
1.5
3.2
2.8
2.9
5.6
3.6
1.2
2.5
2.6
3.0
4.0
3.6
3.0
2.8
2.9
3.6
3.2
2.8
3.7
4.5
4.7
4.3
3.4
2.6
1.9
2.4
2.9
3.4
3.3
2.3
2.9
3.9
2.8
3.2
3.9
4.8
5.0
5.3
5.1
2.3
2.4
3.9
3.7
4.1
5.0
3.4
1.6
2.5
2.6
3.1
3.9
3.6
3.1
2.9
3.0
3.6
3.3
2.8
3.7
4.5
4.6
4.2
3.4
2.5
1.8
2.1
2.8
3.0
2.8
1.4
1.4
2.4
0.7
2.1
3.1
3.9
4.4
4.8
4.6
0.6
1.5
3.0
2.7
2.9
差異
a-c
売上高当
期利益率
3.0
2.9
2.2
2.0
1.5
1.4
1.8
1.5
1.7
1.3
1.0
1.0
0.7
0.4
0.4
0.4
0.4
0.6
0.8
0.8
0.7
0.8
0.6
0.6
0.7
1.1
1.6
1.4
2.0
1.1
0.8
0.6
0.1
△ 0.2
△ 0.1
0.9
0.0
0.1
0.1
△ 0.0
2.8
1.6
0.4
1.1
1.2
1.5
2.1
1.8
1.3
1.3
1.3
1.6
1.5
1.1
1.7
2.1
2.3
2.1
1.7
1.0
0.5
0.8
1.3
1.5
1.3
0.3
0.4
1.1
0.1
0.9
1.6
2.2
2.6
2.9
2.7
△ 0.6
0.5
1.8
1.4
1.7
出所:財務省「法人企業統計年報」金融·保険除く
profit_improvement_text20141207.doc
- 12 -
収益改善講座1
第1章 低い収益力の日本企業
2)日本の ROA はアメリカ、ドイツと比較して低水準
次の図「ROAの国際比較」は、年次経済財政報告の平成25年度版、第2章「日
本企業の競争力」、第1節「製造企業の収益性と生産性」の中にあるものです。
比較データは、前項の同報告22年度版と異なり、中小企業を含む法人企業統計
年報を使用しています。1990年から2011年までの22年間を、日本・アメリカ・
ドイツの製造業を対象にROA、売上高利益率、総資本回転率を比較したものです。
全規模製造業で比較すると、日本のROAはアメリカ・ドイツを下回っています。
総資本回転率は3カ国とも同水準とみなされますので、日本のROAが低いのは、
売上高利益率の低さが原因との結論です。
大企業製造業では、日本企業のROAがアメリカ・ドイツを下回っています。総
資本回転率は、ほぼ同水準なことから、日本の大企業製造業の売上高利益率の
低さが原因です。
中小企業製造業では、3指標とも日本が下回っています。アメリカ・ドイツ並
みになるには、けわしい道のりが待っているはずです。
大企業と中小企業製造業の各国における差異を検証しましょう。ROAの比較を
ご覧ください。日本の大企業製造業は各年における変化の大きいところもある
のですが、日本の中小企業は大企業よりROAが下回る傾向にあります。ここでは
掲載していませんが、とくに2000年代に入ってからの製造業、非製造業とも、
大企業に比べて中小企業が下回る傾向が明らかです。逆にアメリカ・ドイツで
は、中小企業のROAが大企業を上回っています。ただ内閣府の当該報告によると、
アメリカ・ドイツでは大企業と中小企業間に大きな差はないとの所見です。小
生が見ると、中小企業のROAが上回っているとしか見えませんが-。
profit_improvement_text20141207.doc
- 13 -
収益改善講座1
第1章 低い収益力の日本企業
図「ROAの国際比較」
出所:内閣府「年次経済財政報告」平成25年度版、164頁、第2-1-4図「ROAの国際比較」
profit_improvement_text20141207.doc
- 14 -
収益改善講座1
第1章 低い収益力の日本企業
3.低収益性の要因一覧
ここまで述べた以外に、年次経済財政報告では示唆に富んだ指摘がされてい
ます。これまでの内容と重なる項目もありますが、視点整理を兼ねて本項に直
接関連する項目を次にまとめました。すべて、日本の製造業を対象にしていま
す。括弧内は、同報告の年次と掲載頁です。
・低収益性を許容する低い資本コスト(H22,p387)
・ROAが欧米企業に比べ低い(H25,p162)
・日本では大企業より中小企業のROAが低い(H25,p163)
・アメリカ・ドイツでは、大企業と中小企業のROAに大きな差がない
(H25,165)
・製品差別化が進まず利幅が薄い(H25,p166)
・日本の開業率・廃業率がアメリカに比べかなり低い(H25,p169)
・日本の大企業・中小企業とも売上原価率が、ドイツ・アメリカに比べ高い
(H25,p170)
・日本の中小企業は、とくに有形固定資産に対する営業利益の比率が低い
(H25,p172)
4.低収益性の弊害
ニワトリと卵の関係のようなところがありますが、低収益な企業経営による
弊害は次のとおりと考えます。
・低収益性を容認する企業風土が醸成される
・経営安全率が低く赤字化の懸念がある
・投資余力の減少を招く
・製品の価格競争におちいりやすい
・グローバル競争で劣勢に立たされやすい
いずれの項目を取っても、悪循環におちいる可能性があります。小生がもっ
とも重視しているのは、最初の項目です。志なくして、計画も管理もありませ
ん。
注.経営安全率
経営安全率=1-損益分岐点比率。経営安全率は、売上高減少により赤字
profit_improvement_text20141207.doc
- 15 -
収益改善講座1
第1章 低い収益力の日本企業
化するまで、どの程度余裕があるのか表す指標である。値が高いほど、収
益の安全性を表す。通常10%を切ると余裕のない経営と言える。目標は30%
以上に置きたい。
損益分岐点は「限界利益=固定費」と同じ状態であり、拙著「収益改善の
教科書」では、損益分岐点に代わり損益分岐指数を使用している。以下、
本稿でも同様である。結果は「売上高=費用」と同じ意味となるが、採算
を知って具体的な改善策を検討するには、損益分岐指数のほうが便利であ
ろう。損益分岐指数の詳細は、既述拙著、第7章3節(2)損益分岐指数、
234頁を参照お願いする。
5.製造業の収益力を高めるポイント
前述した小生の所見は、「グローバル化が進む日本企業の大きな課題は、ROA
引き上げに貢献する売上高利益率の向上がもっとも重要と言わざるをえませ
ん」ということでした。実際に売上高利益率の改善をおこなう場合は、投入努
力と効果を考慮した課題への展開が欠かせません。課題をツリー状に体系化す
ることをお勧めします。小生が重視しているのは、営業利益率の改善です。中
でも有効な方策として、「有形固定資産に対する営業利益率改善」を推奨して
います。
それも、投資をともなわない案件を優先すべきです。収益性の高い製品を活
かす事業資源の配分が、もっとも効果的でしょう。具体的な内容は、拙著「収
益改善の教科書」(日本能率協会マネジメントセンター)で紹介しています。
本テキストでは、第4章および第5章で述べました。
profit_improvement_text20141207.doc
- 16 -
収益改善講座1
第2章 売上計算の演習問題
第2章 売上計算の演習問題
簡単なようで、意外にプロでも間違えています。それも、大手税理士法人が
です。利益率1%の企業で、利益1を生み出すために、売上を100伸ばす必要が
あるのでしょうか。収益改善には、正しい理解が欠かせません。
1.利益を1増やす売上は?
某大手税理士法人のWebサイトに、次の一節があります。移転価格解説に関す
る一文です。移転価格とは、企業が海外に持つ子会社や関連会社との取引価格
を指しています。趣旨はそのままで、文章は差し障りのないよう若干変えまし
た。カギ括弧「 」内は、サイトからの引用文で、二重カギ括弧『
小生の注釈です。
』内は、
「利益率1%の企業では、利益1を生み出すのに、売上を100伸ばすことが必要
『仮に売上が10増えると、売上10×利益率1%=利益0.1。だから、利益を1増
やすには、この10倍、100が必要となる』。つまり、支払う税金が12減少し、利
益が12増加することは、売上を1200増加させることと同じ効果がある」
この解説は、正解に必要な条件が不足しており、間違いです。同じような事
例はかなり多く、半ば常識化している傾向が見られます。この見方を放置して
話を進めてしまうと、収益問題の理解に危惧を生じかねません。実際に、同種
の演習問題を、セミナー、講演会、教育、企業内プロジェクト会合でしばしば
実施してきたところ、結果は模範的な誤答が大半でした。そこで、最初に演習
問題を取り上げることにしたわけです。某Webサイトの正解は、演習の最後で紹
介させていただきます。
本稿の狙いは2つあります。1つは、常識の思考回路を切り替えることに挑
戦していただくこと。もう1つは、儲かる判断基準を知ることです。早速、思
考切り替え用の演習問題に移りましょう。決して、知識を問うつもりではない
ことをお断りしておきます。
profit_improvement_text20141207.doc
- 17 -
収益改善講座1
第2章 売上計算の演習問題
2.演習問題 1「営業利益増加の必要売上高」
売上高100億円/年、営業利益10億円(営業利益率10%)、売上高に対する変
動費率50%の企業がある。売上増による営業利益が、1億円増加したときの売
上高はいくらか?
■答は?
営業利益率は10%。だから、売上高1億円につき10%で、営業利益は0.1億円
となります。そこで、1億円の営業利益を得るためには、この10倍、10億円の
売上が必要です。したがって、必要売上高は110億円となります。
では、もう1つの解き方をしてみましょう。
営業利益率が10%、営業利益が11億円のときの売上高を求めます。
売上高×営業利益率10%=営業利益11億円
売上高×10%=11億円
売上高=11億円÷10%
∴売上高=110億円
答は2つとも同じになりました。しかし、両方とも間違いです。では、演習
問題を図に置き換えることにしましょう。次頁の図を収益構造図と呼びます。
説明は後段でおこないますが、まず図解した内容を見てください。
演習問題1の収益構造図
売上高に対する変動費率が50%だから、
変動費 50億円
変動費率 v 50%
VQ=vPQ
売上高
S=PQ
100
億円
限界
利益
固定費
MQ=
mPQ
50
億円
F
40億円
営業利益 G 10億円
profit_improvement_text20141207.doc
変動費=売上高×50%=100×0.5=50億円
営業利益は10億円ですから、
固定費=売上高-変動費-営業利益
=100-50-10=40億円
売上高-変動費=限界利益なので、
限界利益は50億円
この数値を収益構造図に当てはめると、左
図になります。
- 18 -
収益改善講座1
第2章 売上計算の演習問題
営業利益率は10%。問題は、現状の営業利益をあと1億円増やしたときの売
上高がいくらになるかです。
演習問題1の算出途中の収益構造図
変動費
0.5S億円
売上高
S億円
限界
利益
固定費
40億円
51
億円
営業利益 11億 円
収益構造図の右側が売上高の内訳で、左右
同額です。営業利益11億円時の売上高を求め
るので、売上高をSと置きます。変動費は売上
高の50%だから、
変動費=S×0.5です。
左図が内容です。計算式にして解を求めてみ
ましょう。
S=0.5S+40+11
S=51÷0.5
S=102億円
営業利益が11億円のときの売上高は102億円となりました。正解の収益構造図
は、次のとおりです。
演習問題1の正解の収益構造図
変動費
VQ=vPQ
v 50%
vPQ=0.5S=51億円
売上高
模範的な誤答の例では、売上高が110億円で
した。しかし実際には、営業利益を1億円増
加させる売上高は、100億円の2%で済むわけ
です。
S=PQ
102億円
限界
利益
固定費
F
40億円
MQ=
mPQ
51
億円
営業利益 G 11億円
profit_improvement_text20141207.doc
- 19 -
収益改善講座1
第2章 売上計算の演習問題
3.演習問題 2「売上増加時の営業利益」
売上高100億円/年、営業利益10億円(営業利益率10%)、変動費率50%の企
業がある。売上高が10%増加したときの営業利益はいくらか?
■答は?
売上高10%増加時の売上高は、100×1.1=110億円。営業利益率は10%だから、
営業利益は売上高110億円×10%=営業利益11億円となります。
これを計算式にしましょう。
営業利益率が10%で、売上高が10%増加したときの営業利益を求めます。
営業利益=売上高100×1.1×営業利益率10%
営業利益=110×10%=11億円
∴営業利益=11億円
答は2つとも同じですが、両方とも間違いです。では、演習問題を収益構造図
に置き換えることにします。
演習問題2の収益構造図
変動費 50億円
変動費率 50%
VQ=vPQ
売上高
S=PQ
100億円 限界
利益
売上高に対する変動費率が50%だから、
変動費=売上高×50%=100×0.5=50億円
営業利益は10億円ですから、
固定費=売上高-変動費-営業利益
=100-50-10=40億円
売上高-変動費=限界利益なので、
限界利益は50億円
固定費
F
40億円
MQ=
mPQ
50
億円
営業利益 G 10億円
profit_improvement_text20141207.doc
- 20 -
収益改善講座1
第2章 売上計算の演習問題
営業利益率は10%で、現状の収益構造図は前項、演習問題1と同じになって
います。与えられた問題は、現状の売上高が10%増加したときの営業利益がい
くらになるかです。
収益構造図の右側が売上高の内訳で、左右同額です。売上高が10%増加した
ときの営業利益を求めるわけですから、仮に営業利益をGと置きます。
演習問題2の算出途中の収益構造図
変動費
VQ
売上高
S
100×1.1
億円
(100×1.1)0.5=55億円
売上高が10%増加すると、
100×1.1=110億円
変動費率は50%だから、
変動費=110×0.5=55億円
限界利益=売上高-変動費ですから、
限界利益=110-55=55億円
限界
利益
固定費
40億円
S-VQ
=55
億円
営業利益 G億円
ここまで算出した内容で、図の費目を埋めていくと、営業利益が15億円とわ
かります。計算するまでもないといいたいところですが、計算式による解を確
認のために求めてみましょう。計算式では、左辺に売上高を置き、右辺に図の
右にある数値を当てはめていきます。したがって、計算式は次のとおりです。
売上高110=変動費110×0.5+固定費40+営業利益G
∴G=15億円
売上高が10%増加時の営業利益は15億円となります。念のため、数値を入れ
た収益構造図を次に掲げました。
profit_improvement_text20141207.doc
- 21 -
収益改善講座1
第2章 売上計算の演習問題
演習問題2の正解の収益構造図
変動費
55億円
売上高
110
億円
限界
利益
見てきたように、演習問題2では計算式に
するまでもなく、正解を得られることがわか
りました。図解して考えれば、意外に簡単で
す。収益構造図をいつでも描けることを、小
生は推奨しています。
固定費
40億円
55
億円
営業利益 15億円
つぎに、これまでの演習問題を少し変えて、変動費率の異なる問題を取り上
げてみましょう。
4.演習問題 3「営業利益増加の必要売上高」
売上高100億円/年、営業利益10億円(営業利益率10%)、売上高に対する変
動費率10%の企業がある。売上増による営業利益が、1億円増加時の売上高は
いくらか?
演習問題3の収益構造図
変動費 0.1S億円=10億円
売上高
S=PQ
100
億円
固定費
限界
利益
F
MQ=
mPQ
80億円
90
億円
現状の収益構造図を作成します。売上高に
対する変動費率が10%だから、
変動費=売上高×10%=100×0.1=10億円
営業利益は10億円ですから、
固定費=売上高-変動費-営業利益
=100-10-10=80億円
売上高-変動費=限界利益なので、
限界利益は90億円
営業利益 G 10億円
profit_improvement_text20141207.doc
- 22 -
収益改善講座1
第2章 売上計算の演習問題
現状の収益構造図ができました。問題は、現状の営業利益が1億円増加した
ときの売上高がいくらになるかです。
演習問題3の算出途中の収益構造図
変動費
売上高
S=PQ
0.1S億円
固定費
限界
利益
F
MQ=
mPQ
80億円
S億円
収益構造図の右側が売上高の内訳で、左右
同額です。営業利益11億円時の売上高を求め
るので、売上高をSと置きます。変動費は売上
高の10%だから、
変動費=S×0.1です。
左図はこの内容を現しています。
計算式に置き換えて、解を求めましょう。
91
億円
営業利益 11億円
S=0.1S+80+11
S=91÷0.9
S≒101.11億円
営業利益11億円のとき、必要売上高は101億円強となります。
演習問題3の正解の収益構造図
変動費 10.11億円
売上高
S=PQ
101.11
億円
正解の収益構造図です。
固定費
限界
利益
F
MQ=
mPQ
80億円
91
億円
営業利益 11億円
profit_improvement_text20141207.doc
- 23 -
収益改善講座1
第2章 売上計算の演習問題
5.演習問題 4「営業利益増加の必要売上高」
売上高100億円/年、営業利益10億円(営業利益率10%)、売上高に対する変
動費率80%の企業がある。売上増による営業利益が、1億円増加時の売上高はい
くらか?
演習問題4の収益構造図
売上高
S=PQ
変動費 80億円
変動費率 v 80%
VQ=vPQ
現状を収益構造図にします。売上高に対す
る変動費率が80%だから、
変動費=売上高×80%=100×0.8=80億円
営業利益は10億円ですから、
固定費=売上高-変動費-営業利益
=100-80-10=10億円
売上高-変動費=限界利益なので、
限界利益は20億円
100
億円
限界
固定費 F 10億円
利益
20億円 営業利益 G 10億円
現状の収益構造図を確認して下さい。与えられた問題は、現状の営業利益が1
億円増加時の売上高がいくらになるかです。
演習問題4の算出途中の収益構造図
売上高
S=PQ
変動費 0.8S億 円
変動費率 v 80 %
VQ=vPQ
S億円
限界
固定費 F 10億円
利益
21億円 営業利益 G 11億円
profit_improvement_text20141207.doc
収益構造図の右側が売上高の内訳で、左右同
額です。営業利益11億円時の売上高を求める
ので、売上高をSと置きます。
変動費は売上高の80%だから、
変動費=S×0.8です。
左図がこの内容を現しています。計算式に置
き換えて、解を求めましょう。
S=0.8S+10+11
S=21÷0.2
S=105億円
- 24 -
収益改善講座1
第2章 売上計算の演習問題
営業利益11億円時の必要売上高は、105億円です。
演習問題4の正解の収益構造図
正解の収益構造図です。
売上高
S=PQ
変動費 84億円
変動費率 v 80%
VQ=vPQ
105億円
限界
固定費 F 10億円
利益
21億円 営業利益 G 11億円
6.某 Web サイト「利益率1%の企業」の検証
演習問題の前で紹介した、某大手税理士法人Webサイトの内容を検証しましょ
う。内容は「利益率1%の企業では、利益1生み出すのに、売上100伸ばすこと
が必要」でした。この問題には変動費率の前提が記載されていません。そこで、
変動費率を10%、50%、90%の3つのケースで試算してみます。問題は、利益
1を生み出すのに必要な売上高を求めることです。
1)変動費率 10%のケース
変動費 10
変動費率10%の現状
右が現状の収益構造図です。まず、営業利
益が1から2になったときの売上高Sを算出
します。それから、営業利益を1増やす売上
高S"の算出です。
売上高
限界
利益
100
固定費
89
90
注「”」ダブル引用符,ダブル・クォーテー
ションマーク
営業利益 1
profit_improvement_text20141207.doc
- 25 -
収益改善講座1
第2章 売上計算の演習問題
変動費率10%の算出途中
変動費 0.1S
売上高
限界
利益
S
固定費
89
91
売上高を求める計算式は、次のようになり
ます。
S=0.1S+89+2
S=91÷0.9≒101.11
S"=営業利益1増加後の売上高101.11-現状
の売上高100=1.11
したがって、営業利益を1増やす売上高は
1.11となります。
営業利益 2
変動費率10%の正解
変動費 10.11
売上高
限界
利益
101.11
正解の収益構造図です。
固定費
89
91
営業利益 2
profit_improvement_text20141207.doc
- 26 -
収益改善講座1
第2章 売上計算の演習問題
2)変動費率 50%のケース
次は、変動費率が50%のケースです。
変動費率50%の現状
変動費
50
左図が現状です。営業利益2のときの売上
高Sを算出し、それから営業利益を1増やす売
上高S"を求めます。
売上高
100
限界
利益
固定費
49
50
営業利益 1
変動費率50%の算出途中
変動費
0.5S
S=0.5S+49+2
S=51÷0.5=102
∴S"=102-100=2
売上高
S
固定費
49
限界
利益
51
営業利益 2
したがって、営業利益を1増やす売上高は2となります。
profit_improvement_text20141207.doc
- 27 -
収益改善講座1
第2章 売上計算の演習問題
変動費率50%の正解
正解の収益構造図です。
変動費
51
売上高
102
固定費
49
限界
利益
51
営業利益 2
3)変動費率 90%のケース
次は、変動費率が90%のケースです。
変動費率90%の現状
左図が現状です。営業利益2のときの売上
高Sを算出し、それから営業利益を1増やす売
上高S"を求めます。
変動費
売上高
90
100
限界
利益
10
固定費 9
営業利益 1
profit_improvement_text20141207.doc
- 28 -
収益改善講座1
第2章 売上計算の演習問題
変動費率90%の算出途中
S=0.9S+9+2
S=11÷0.1=110
∴S"=110-100=10
変動費
売上高
0.9S
S
限界
利益
11
固定費 9
営業利益 2
したがって、営業利益を1増やす売上高は10となります。
変動費率90%の正解
正解の収益構造図です。
変動費
売上高
99
110
限界
利益
11
固定費 9
営業利益 2
profit_improvement_text20141207.doc
- 29 -
収益改善講座1
第2章 売上計算の演習問題
4)利益率1%の企業のまとめ
小生の注釈を除いて、某大手税理士法人Webサイトの内容を再録しましょう。
「利益率1%の企業では、利益1を生み出すのに、売上を100伸ばすことが必要。
つまり、支払う税金が12減少し、利益が12増加することは、売上を1200増加さ
せることと同じ効果がある」
サイトの解説では、利益1を生み出す売上高は100必要となっています。しか
しながら、営業利益率1%の企業が、利益1を生み出す変動費率に応じた売上
増は、前項までの算出結果により次のとおり明らかになりました。
変動費率10%のケース:利益1を生み出す売上増は1.11
変動費率50%のケース:利益1を生み出す売上増は2
変動費率90%のケース:利益1を生み出す売上増は10
ちなみに、某大手税理士法人Webサイトにあった売上高100増加時では、営業
利益はいくら増えるのでしょうか。変動費率を50%として計算します。前項の
変動費率50%の収益構造図と同じケースです。増加後の売上高は200、変動費は
100、固定費49、求める営業利益をGとすると、答は次のようになります。
増加後の売上高200=変動費100+固定費49+営業利益G
だから、売上を100伸ばすと、営業利益は1ではなく51の増加となります。
profit_improvement_text20141207.doc
- 30 -
収益改善講座1
第3章 儲かる製品の判断基準
第3章 儲かる製品の判断基準
メーカーの儲かる基準は、固定費的な資産別に時間当たり営業利益で判断し
ます。固定費的な資産とは、稼働に必要な労務費を含む、生産設備、生産ライ
ン、製品プラントなどが該当します。
1.儲かる製品の判断基準
儲かる製品の判断基準はどれでしょうか。メーカーを対象にしています。次
の10項目で、真に儲かる物差しになりうる項目はどれでしょうか。項目と、そ
れを選んだ理由を考えてみて下さい。
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
⑧
⑩
売上高の大きさ
営業利益額の大きさ
限界利益額の大きさ
投資回収率の高さ、あるいは投資回収期間の短さ
製造1時間当たりの営業利益額
製造1時間当たりの限界利益額
投入単位原料当たりの営業利益額
投入単位原料当たりの限界利益額
社員1人当たりの限界利益額
社員1人当たりの営業利益額
これまで小生のセミナーなどでは、「④投資回収率の高さ」との答えが多く
見られました。正解は当1節3)の後段で説明します。
1)どちらが儲かるか
J社では、次のように、高規格品のほうが普及品より、粗利益、粗利益率と
も上回っています。この報告を受け、経営トップは高規格品の販売促進をより
積極化するよう指示しました。この指示は望ましいでしょうか?
profit_improvement_text20141207.doc
- 31 -
収益改善講座1
第3章 儲かる製品の判断基準
高級品の双眼鏡
製品A 高規格品(1台当たり)
売上単価 30,000円
限界利益 22,500円
粗利益
19,000円
粗利益率
63%
営業利益 12,500円
営業利益率 42%
普及品の双眼鏡
製品B
普及品(1台当たり)
売上単価 15,000円
限界利益 10,500円
粗利益
7,500円
粗利益率
50%
営業利益 4,500円
営業利益率 30%
2)売上数量による損益比較
では、J社の高規格品と普及品の損益を検証しましょう。計算の流れは変動
損益計算書を基本とし、損益計算書の粗利益も加えました。次の表上段が製品
A高規格品、下段が製品B普及品を表しています。基準時の製品Aと製品Bの
売上数量はそれぞれ10個、売上単価は製品Aが30,000円、製品Bが15,000円で、
営業利益合計はそれぞれ125,000円、45,000円です。表の下に営業利益の差異を
算出しました。基準時の営業利益合計は、製品B普及品より製品A高規格品が
80,000円儲かっています。
つぎに、製品A・Bとも売上数量が3倍の30個になった場合の損益算出です。
「基準」の右「売上数量3倍増」の欄が該当します。営業利益は製品Aが
575,000円、製品Bが255,000円です。表一番下の「営業利益の差異」は、製品
B普及品より製品A高規格品が320,000円儲かることを示しています。つづいて、
製造1時間当たりの売上数量時の損益を算出しましょう。製品Aは1時間で10
個、製品Bは1時間で30個製造できます。表右の空欄を埋めてください。
profit_improvement_text20141207.doc
- 32 -
収益改善講座1
第3章 儲かる製品の判断基準
売上数量による損益比較
A 高規格品
基準
区分
売
上
売
数
上
金額
量
販 売 変 動 費
限
動
界
単価
%
金額
10
単価
%
30
費
利
70,000
7,000
210,000
5,000
500
15,000
500
7,500
25 225,000
7,500
25
75 675,000 22,500
75
製 造 固 定 費
40,000
販 管 固 定 費
60,000
60,000
定
費 100,000
33 100,000
11
粗
利
益 190,000 19,000
63 650,000
72
益 125,000 12,500
42 575,000 19,167
64
業
利
B 普及品
基準
区分
売
上
売
数
上
金額
量
販 売 変 動 費
変
限
固
動
界
単価
1時間当たり
%
30
15,000
500
30 135,000
4,500
30
70 315,000 10,500
70
益 105,000 10,500
利
%
個/時間
35,000
25,000
計
60,000
益
75,000
7,500
50 295,000
益
45,000
4,500
30 255,000
営業利益の
差異(A-B)
単価
4,000
500
25,000
利
120,000
4,500
販 管 固 定 費
費
4,000
金額
製造数量
5,000
35,000
業
金額
45,000
製 造 固 定 費
粗
営
費
利
定
%
10
40,000
個/時間
売上数量 3倍増
単価
高 150,000 15,000 100 450,000 15,000 100
製 造 変 動 費
%
40,000
固
営
単価
7,000
75,000
益 225,000 22,500
金額
製造数量
高 300,000 30,000 100 900,000 30,000 100
製 造 変 動 費
変
単位:数量 個、金額 円、単価 円
1時間当たり
売上数量 3倍増
40
60,000
13
66
8,500
Aが儲かる
Aが儲かる
80,000
320,000
57
3)製造1時間当たりの損益比較
さて、図右側の空欄を算出して、その結果を検証しましょう。ここでは少し
見方を変えて、製造1時間当たりの損益を比較します。生産できる製品はすべ
て販売可能としての算出です。1時間で製品Aは10個、製品Bは30個製造でき
ます。それぞれ販売可能時の試算結果を確認しましょう。製造1時間当たりの
営業利益は、製品Aが125,000円、製品Bは255,000円です。つまり、製造1時
間当たりの営業利益は、製品Bが130,000円上回ります。メーカーにおいて本当
に儲かる基準は、製造1時間当たりの限界利益が大きい製品です。もちろん、
販売可能という条件は付きますが—。
したがって、本章冒頭にあった「儲かる製品の判断基準」の答は、「⑥ 製造
1時間当たりの限界利益額」です。
profit_improvement_text20141207.doc
- 33 -
収益改善講座1
第3章 儲かる製品の判断基準
製造時間当たり生産・販売時の損益比較
A 高規格品
基準
区分
売
上
売
上
金額
量
単価
%
金額
10
単価
%
30
金額
高 300,000 30,000 100 900,000 30,000 100
10個/時間
単価
%
10
製造数量
300,000 30,000 100
製 造 変 動 費
70,000
7,000
210,000
7,000
70,000
販 売 変 動 費
5,000
500
15,000
500
5,000
500
75,000
7,500
25 225,000
7,500
25
75,000
7,500
25
75 675,000 22,500
75
225,000 22,500
75
変
限
数
単位:数量 個、金額 円、単価 円
1時間当たり
売上数量 3倍増
動
界
費
利
益 225,000 22,500
製 造 固 定 費
40,000
販 管 固 定 費
40,000
7,000
40,000
60,000
60,000
固
定
費 100,000
33 100,000
11
100,000
33
粗
利
益 190,000 19,000
63 650,000
72
190,000
63
益 125,000 12,500
42 575,000 19,167
64
125,000 12,500
42
営
業
利
B 普及品
基準
区分
売
上
売
上
固
%
10
金額
単価
1時間当たり
%
30
金額
製造数量
高 150,000 15,000 100 450,000 15,000 100
30個/時間
単価
%
30
450,000 15,000 100
40,000
4,000
120,000
4,000
120,000
販 売 変 動 費
5,000
500
15,000
500
15,000
500
45,000
4,500
30 135,000
4,500
30
135,000
4,500
30
70 315,000 10,500
70
315,000 10,500
70
動
界
費
利
益 105,000 10,500
製 造 固 定 費
35,000
販 管 固 定 費
25,000
定
粗
営
量
売上数量 3倍増
単価
製 造 変 動 費
変
限
数
金額
60,000
費
利
業
利
35,000
60,000
益
75,000
7,500
50 295,000
益
45,000
4,500
30 255,000
営業利益の
差異(A-B)
35,000
25,000
計
40
4,000
25,000
60,000
8,500
13
60,000
66
295,000
57
255,000
13
66
8,500
Aが儲かる
Aが儲かる
Bが儲かる
80,000
320,000
-130,000
57
4)儲かる基準のまとめ
儲かる基準の選択いかんで、造り方·売り方は変わります。次は、儲かる基準
のまとめです。
儲かる基準は、固定費的な資産別に時間当たり営業利益で判断します。たと
えば、AとBの設備で1時間で生産・販売した製品の営業利益が、Aが10万円、Bが
20万円あったとしましょう。設備Aに比べ、設備Bが1時間当たり2倍の営業利益
を稼いでいます。よって、設備Bが設備Aより儲かると判断するわけです。
固定費的な資産とは、生産設備、生産ライン、製品プラントなどが該当しま
す。設備稼働には作業者を必要としますので、作業者の労務費を含む意味合い
で「固定資産」ではなく、「固定費的な資産」と称しました。したがって、生
profit_improvement_text20141207.doc
- 34 -
収益改善講座1
第3章 儲かる製品の判断基準
産設備など事業資源の活用は、時間当たり営業利益が最大化する方向におこな
うのが収益増につながります。
生産資源消費の考えかたは、第5章2節5)(9)生産プロダクトミックス
の視点の中の当該段落60頁を参照して下さい。
次は結論だけですが、サービス業について紹介しておきましょう。
サービス業の場合は、商品サービス提供に必要な固定費が固定的な資産です。
多くは、作業者の労務費が大半を占めるでしょう。メーカー同様に、商品サー
ビスの時間当たり営業利益を最大化する方向に対策を打つのが収益増につなが
ります。
当基準は、同一メーカー内、あるいは国内メーカー同士に適用可能です。税
制や適用法令が異なる海外と比較するさいには、比較条件を合わせることを忘
れてはなりません。
profit_improvement_text20141207.doc
- 35 -
収益改善講座1
第4章 収益改善の優先順位
第4章 収益改善の優先順位
2つの収益向上策があります。業務運用効率を主体とした「業務改革」。次に、
事業資源の活用度向上の「収益改善」です。業務改革では、投資計画の傾向が
見られます。収益改善では、全体最適の視点から投資なしの取り組みが主体で
す。
1.収益改善の優先順位
小さくても、効果の出現を優先させます。数字上の収益貢献だけでなく、改
善への参画意識を高めるのに有効に働くことが多いためです。改善取り組みの
優先順位は、投入努力と得られる効果から決めるべきでしょう。ただ、やって
みないと分からない課題も実際にはありますので、効果ありとした判断経緯は
あとでも分かるようにしておきたいものです。現実には少ないでしょうが、投
資不要で即効性があれば申し分ありません。次に掲げた収益改善の順位で取り
組むことを、小生は推奨しています。現事業資源の活用度を向上させる課題が
中心です。ここでは取り上げていませんが、新技術による新製品開発やM&Aなど
は、これらのあとに取り組む課題となります。
2.投資不要の課題を優先させる
投資不要の課題は、事業資源活用度の向上をめざした取り組みになります。
一般的には、次の順番で取り上げることが有効です。
① 収益力の高い製品を拡販する
作成資料と要点は、「収益源マップによるプラス方向にかい離が大きい製
品」と、「生産プロダクミックスで算出された収益貢献度の高いアイテム」
が該当します。
② 単品赤字を解消する
判断の元資料は、採算分析です。採算分析の元データは、変動損益計算書
が該当します。
③ 競合他社との差別化を推進する
差別化検討の資料は、「マーケット収益モデル」をもとに作成する「強み
profit_improvement_text20141207.doc
- 36 -
収益改善講座1
第4章 収益改善の優先順位
の顕在化」です。競合分析の調査項目設定には、原則として「マーケット
収益モデル」を利用します。強みをまとめる定型フォーマットはありませ
ん。できるだけ、箇条書きにすることをお勧めしています。つづいて、「採
算分析」「生産プロダクトミックス」「製品体系」をもとに「収益源マッ
プ」を作成し、差別化の優先対象を知り差別化計画の立案と実施です。
④ 強みを活かす用途開発をおこなう
作成資料は、「採算分析」「生産プロダクトミックス」「製品体系」をも
とに「収益源マップ」を作成します。要点は、強みが活かせ、かつ伸びる
市場の発見に役立てることです。その後、用途開発の提言まとめに入りま
す。
これらの課題そのものには、とくに目新しさはありません。しかし、うまく
解決できていないのが実態といえましょう。問題は、収益改善に寄与する具体
的な課題抽出と実行計画の不十分さにあります。
3.収益力の高い製品拡販
収益力の高い製品を拡販することがポイントです。これまでお手伝いしてき
た多くの企業では、粗利、粗利率が重視されていました。その結果、収益改善
に効果の低い方策が優先採用されることが見られます。効果の低い方策が優先
されると、営業利益率が低下する原因となりかねません。結果的に、量の拡販
に重点を置いた薄利多売の収益改善策になることが多いわけです。収益力の高
い製品は、次の2つの視点から顕在化させます。資料は、「第5章 収益改善の
分析資料」の各項目を参照お願いします。
・収益源マップのプラス方向にかい離が大きい製品
(第5章2.3)収益源マップ参照、48ページ)
・生産プロダクトミックスの収益貢献度の高いアイテム
(第5章2.5)生産プロダクトミックス参照、57頁)
4.単品赤字を解消する
1)赤字の種類
単品赤字は、客先別アイテム別の営業利益がマイナスの製品です。単品の損
益は、採算分析によって明らかにします。赤字は、擬似出血と真性出血の2つで
profit_improvement_text20141207.doc
- 37 -
収益改善講座1
第4章 収益改善の優先順位
す。文章ではやや分かりにくいかもしれませんので、図解しました。
損益の変化による収益構造図
黒字
擬似出血
真性出血
変動費
60
売
上
高
売
上
高
100
限
界
利
益
40
固定費
20
営業利益
20
変動費
85
100
売
上
高
変動費
110
100
限界利
益15
固定費
20
営業利益 △5
限界利益 △10
営業
利益
△30
固定費
20
擬似出血は、限界利益が黒字で営業利益が赤字の製品です。真性出血は、限
界利益が赤字で、かつ営業利益も赤字の製品を指しています。限界利益は、売
上高から変動費を差し引いたものです。この限界利益が黒字で擬似出血の場合、
売上高が増えていくと、ある時点で営業利益が黒字に転換します。逆に売上高
が減少すれば、営業利益の赤字幅が拡大してしまいます。
これに対し、真性出血は売上高が増えれば増えるほど営業利益の赤字も拡大
します。限界利益が赤字という意味は、変動費を回収できていないということ
です。それでは、赤字はなぜ発生しているのでしょうか。次に、実際の例から
考えてみましょう。
profit_improvement_text20141207.doc
- 38 -
収益改善講座1
第4章 収益改善の優先順位
2)放置される単品赤字
ここ数年でお手伝いしたメーカー数社では、代表的な品種の単品別損益の赤
字割合が偶然にもほぼ25%を占めていました。特別な理由による真性出血が一
部ありましたが、ほとんどは擬似出血です。特別な理由とは、マイナーチェン
ジ品発売にともなう在庫処分とB級品処分のためでした。
ここでいう単品は、製品アイテムを指しています。メーカーの業種は、自動
車部品、産業基礎資材、食品等です。客先別製品アイテム別にすると、赤字の
割合はもっと多いのかもしれません。これらのメーカーで、赤字販売がなかば
放置されている理由は何でしょうか。企業担当者へのヒアリング結果に小生の
推定を加えた、単品営業利益が赤字(擬似出血)の理由を次に整理しました。
区分上紛らわしいものもありますが、ご了承お願いします。
3)限界利益の確保を優先
・客先別製品アイテムに赤字もあるが限界利益は黒字であり、客先単位にも黒
字である
・アイテム別に赤字もあるが限界利益は確保し、品種別には黒字を維持してい
る
・営業利益は赤字だが、稼働率引き上げによる固定費回収と営業利益増に貢献
している
・原料高で原価が高くなったための赤字だが、客先が値上げに応じてくれない
・売価は他社と同等だが、当社の原価が高いため赤字になっている
・原価低減で来期には黒字転換できる予定だ
4)売上の確保を重視
・値段を下げないと失注し、ほかの注文も減る可能性があった
・値上げすると客先メーカーが購入中止の可能性があり、擬似出血を容認した
・汎用品なので競合先も多く、値段の勝負になっている
・競合見積もりにより、単価を下げるしかなかった
・遊休設備を稼働できるので、赤字だが変動費が回収されればと容認した
・赤字で受注したが、来期は客先使用量が増えて黒字化する予定だ
profit_improvement_text20141207.doc
- 39 -
収益改善講座1
第4章 収益改善の優先順位
5)拡販政策による価格設定
・一定販売量を見込んだ価格設定なので、販売計画の達成で黒字転換を予定し
ている
・大口客先に入り込む政策的な単価提示で赤字になっている
・マーケットシェア引き上げを狙った価格政策による
・現状では赤字だが、取引条件が厳しいトップ企業への納品は、当社の高い品
質水準が認められたためで、今後の拡販に競合上有効である
拡販政策では、マスメディアを用い、大量生産・大量販売をおこなうマスマ
ーケティングが知られています。成長期の市場には有効とされ、日本でも昭和
40年代には多用されてきました。このマスマーケティングは、市場で最大のシ
ェアを持つマーケットリーダーが取ってきた戦略のことです。今回取り上げた
メーカーの製品は、成長期の市場ではありません。どちらかといえば、停滞あ
るいは微増する市場で他社の代替需要を狙う拡販といえるでしょう。結果とし
て、過剰な競合は起こるべくして起こっています。
したがって、単品赤字は当然に発生しているとしか思えません。低収益性に
甘んじている多くのメーカーも、ほぼ同様の根源があるようです。技術的・品
質的に、ほとんど他社と差別化されていない市場での競合となっています。し
かも、需要に対するメーカーの総供給能力は上回っているはずです。それでは、
単品赤字を解消するためにどうするべきでしょうか。
6)赤字解消策とは
前項の単品営業利益の赤字理由の一部を除き、赤字が続く悪循環におちいっ
ているようにも見えてきます。自らの理由は挙げられても、マーケットから見
た実態はお分かりになっているでしょうか。たとえば、競合他社の売価、製造
原価、品質、納入条件などについてです。とくに問題なのは、価格が受注可否
の最大要因となっていることでしょう。
他社品と差別化がほとんどない場合は、とりあえずの赤字解消策として何が
できるのか知恵を出し合うことをお勧めします。赤字解消策は、値上げだけで
はありません。代替品への変更、数量を増やす、代替原材料の採用、歩留まり
改善などの原価低減、納品頻度・最小受注単位などの納入条件変更による物流
費の低減などもあります。成果は、必ず得られるはずです。今までお手伝いし
たメーカーで、成果に結びついた要因を幾つか紹介しましょう。
profit_improvement_text20141207.doc
- 40 -
収益改善講座1
第4章 収益改善の優先順位
・対顧客の損益は黒字だが、単品まで見ていなかった。来期からの値上げが了
解された
・今まで過剰品質を承知で納品していたが、顧客の要求仕様に合う製品に代え
て赤字を解消した
・過去の原料値上げによる上昇分を負担していただくことにした
・納品量を減らさざるを得ないと申し入れたら、値上げを認めていただいた
・単品赤字だからと丁寧にご説明し、値上げの了解をしていただいた
これだけでは、根本的な解決策は見いだせないはずです。そこで、次の視点
からの取り組みを推奨しています。
・価格競争とならない差別化の推進
・強みを活かした用途開発
これらの内容を、次に解説します。
5.競合他社との差別化を推進する
差別化する目的は、他社の追随を許さず、高い収益性を継続的に確保するこ
とです。方策としては、現製品と競合する他社品との差別化、競合が生じない
か少ない用途開発の実行を挙げられるでしょう。用途開発とは、マイナーチェ
ンジを含む既存製品を新たな市場に投入し、事業の拡大を図る戦略のことです。
差別化については、「第5章 収益改善の分析資料」に掲載した、「マーケ
ット収益モデル」「収益源マップ」「競合分析」の項に記載しています。それ
ぞれの資料は、ほかにも活用されるため差別化だけについてまとめて述べてい
ませんが、内容の確認をして下さい。
6.強みを活かす用途開発をおこなう
「企業の持つ強みは何ですか」と伺うと、技術の紹介をされることがほとん
どです。しかし実際は、技術そのものが強みになることはほとんどありません。
強みは顧客が決めるもので、技術を使って提供できる何かになるのが普通です。
ある電子機器に組み込む機能部品メーカーでのことでした。当該メーカーの製
品は、世界に先駆けて開発したもので、技術・品質では世界のデファクトスタ
profit_improvement_text20141207.doc
- 41 -
収益改善講座1
第4章 収益改善の優先順位
ンダードになっています。しかし、数度におよぶ検討会を経て得られた結論は、
強みは技術そのものではなく、顧客対応力と供給力、品揃えだと認識されまし
た。つまり、強みは顧客が決めるもので、技術を使って提供できる何かになる
わけです。この強みを活かし、用途開発につなげることが次に求められていま
す。
再録ですが、用途開発とはマイナーチェンジを含む既存製品を新たな市場に
投入し、事業の拡大を図る戦略を指しています。現実には、即効性は期待でき
ません。小生がお手伝いした建築·土木資材メーカーでみると、収益で事業の中
心になるまでには約20年を要しています。内閣府の年次経済財政報告、平成25
年度版によれば次の2つの利益計上までの調査結果が紹介されています(第2章1
節、177頁)。その部分を引用しました。括弧「 」内が引用文です。
① 文科省調査では5~6.5年程度
「投資による利益発現までの期間を文部科学省科学技術政策研究所の「平成
21年度民間企業の研究活動に関する調査」から試算すると、5年程度とみら
れる。研究開発期間が3.4年程度、終了後に商品化され利益が発現するまで
に1.6年程度かかる。業種別に見ると、化学は、研究開発投資の懐妊期間の
長い医薬品が含まれていることから、6年半程度と比較的長い期間となって
いる。」
② 経産省調査では4.2年
「経済産業省「研究開発促進税制の経済波及効果に係る調査」(2005年)で
は、1990~1999年で研究開発期間の平均が2.9年、市場投入までの期間の平
均が1.3年、収益計上までの期間の平均が合計で4.2年となっている。」
強みと用途開発について述べましたが、どのようにすれば用途開発の対象と
なる市場が発見できるのでしょうか。小生は、製品体系と、収益源マップ作成
により、強みを活かすことができ、かつ伸びる市場発見に役立てることを推奨
しています。
この内容についても前項の差別化同様、「第5章 収益改善の分析資料」に
掲載した「マーケット収益モデル」「収益源マップ」「競合分析」を参照して
下さい。
profit_improvement_text20141207.doc
- 42 -
収益改善講座1
第5章 収益改善の分析資料
第5章 収益改善の分析資料
収益分析資料の狙いは、ムダ発見ではありません。現事業資源の実態を知り、
活用余力の発見が目的です。次に、マーケットから見た強みを認識し、活かす
方策を見出します。低位安定トラウマ志向から脱却する心構えが不可欠です。
1.収益改善に必要な資料
収益改善課題の検討には、それなりの資料が必要です。本稿における話の流
れと、資料作成のデータ加工順番とは異なっています。たとえば、対策実施の
優先度が高く収益力も強い製品を知るには、収益源マップと生産プロダクトミ
ックス算出が欠かせません。しかし、生産プロダクトミックス算出には、単品
赤字を顕在化させる採算分析を先におこなうことで、余分な作業を増やさずに
済みます。そこで、資料作成のしかたは、ここでまとめておこなうことにしま
した。
新規事業への参入や事業の抜本的是正を検討する場合は、ほかにも資料が要
求されます。たとえば、事業定義、製品群定義、製品定義、ビジネスモデルな
どです。ここでは、現事業資源の活用度を向上させて早期の収益改善に反映さ
せることを最大の狙いとしました。そのため、作成資料も限定しています。案
作成に要する資料の作成目的と、概略は次のとおりです。詳細は、本章2節の
各資料の詳細参照お願いします。
① 製品体系
製品体系作成の目的は、製品群別のマーケット用途を知り、QCDSから見た
問題・課題抽出に資することです。
自社の製品を技術と用途別にツリー状の段階別などに区分展開させ、他社
品と製品の開発動向を加味して作成します。通常、競合品と技術動向の調
査が必要です。
製品体系は、収益源マップのマーケット用途を設定するさいの元データと
なります。
注.QCDS
QCDSは、品質(Quality)、価格(Cost)、納期や入手性(Delivery)、対
応やサポート(Service)の水準を指す。製品により、量の供給能力、安定
profit_improvement_text20141207.doc
- 43 -
収益改善講座1
第5章 収益改善の分析資料
供給力、機能保証も必須である。機能保証とは、製品だけでなく、カタロ
グ、取扱説明書があって初めて使い方がわかり、製品本来の能力が発揮さ
れることを意味する。
② マーケット収益モデル
マーケット収益モデル作成の目的は、製品が売れる要件と要件の重要度を
明らかにすることです。
したがって、企業内の関係者が検討を重ねて作成することになります。本
稿では、そのモデルを掲載していますので、参考になるでしょう。
マーケット収益モデルは、競合分析するときの調査項目に漏れが起こらな
いように活用すること、強み顕在化と差別化のポイントを知る討議資料と
なります。まれに、競合分析の結果により当該モデルに修正が起こるかも
しれません。
③ 収益源マップ
収益源マップを作成する目的は、事業収益源を知ることで、競合分析の優
先分野把握、技術開発や原価低減などの投入資源の配分是正に資すること
です。
製品別採算分析、製品体系、製品の用途区分(マーケットセグメンテーシ
ョン)、生産時間をもとに作成します。
また、顕在化された強みを知ることにより、用途開発の市場発見に活用可
能です。
④ 採算分析
採算分析帳表を作成する目的は、固定費の回収実態と採算性を明らかにす
ることです。
財務会計と管理会計のデータをもとに作成します。採算分析の種類は、製
品別採算分析、得意先別·製品別採算分析、製品別・採算感度分析、得意先
別·製品別採算感度分析の4つです。
製品別採算分析は、生産プロダクトミックス、収益源マップ作成の元資料
となります。
⑤ 生産プロダクトミックス
生産プロダクトミックスを算出する目的は、現生産能力の範囲内で限界利
益を最大化する現状同様に出荷できる生産アイテム·数量の組み合わせと、
アイテム別の収益貢献度を明らかにすることです(短期的な生産プロダク
profit_improvement_text20141207.doc
- 44 -
収益改善講座1
第5章 収益改善の分析資料
トミックスのケース)。
製品別採算分析に生産時間を加えて算出します。
生産プロダクトミックスのデータから、収益源マップ作成時の製造時間が
提供可能です。
⑥ 競合分析
競合分析の目的は、マーケットに対峙する自身の位置づけを知り、マーケ
ット収益獲得の対策立案に役立てるためです。
自動車などの業界では、調査会社の資料があります。また、調査対象とな
る業界に工業会などあれば、資料を入手しやすいでしょう。それ以外の業
界では、自ら収集することが基本です。
収益改善計画を作成するために必要な情報には、マーケットシェア、需要
動向、販売予測、販売価格、製造原価などあります。
2.各資料の詳細
つづいて、資料の作成方法あるいは見方を紹介します。
1)製品体系
製品群別のマーケット用途を知り、QCDSから見た問題点・課題抽出をするこ
とが作成の目的です。製品体系は、事業の製品群がどのマーケット用途に提供
しているのか、表やツリー形式で視覚化します。整理の仕方は単純ですが、縦
と横軸の区分が意外にうまくいかない企業も多いものです。
次に例示したツリーでは、レベル1やレベル2の縦軸が、マーケット用途(マ
ーケットセグメンテーション)となります。ここをうまく区分することがポイ
ントです。
ツリーの横軸は、段階別に細分化していきます。製品や製品群とマーケット
用途が、1対1の関係に整理できれば申し分ありません。そうすることによって、
近隣への用途開発の展開検討に使える可能性が出てきます。
漏れが出ないように、競合品と技術動向の調査が必要になることがあります。
マーケット用途としてはあるものの、自社では手がけていない部分の顕在化を
図るためです。製品体系は、収益源マップのマーケット用途を設定する元デー
タとなります。
profit_improvement_text20141207.doc
- 45 -
収益改善講座1
第5章 収益改善の分析資料
製品体系
レベル0
レベル1
レベル2
燃料フィルター部品
車載用フィルター市場
○○製品群
モデル体系
オイルフィルター部品
エアコン部品
エアーフィルター部品
家電用フィルター市場
不純物除去用
液体用フィルター市場
2)マーケット収益モデル
差別化は、製品そのものだけの違いではありません。使用原材料や供給量の
保証なども条件とされることがあります。売るため、あるいは買っていただく
ために備えるべく要件があるわけです。これら製品の売れる要件を抽出し、体
系化したものが「マーケット収益モデル」に相当します。したがって、マーケ
ット収益モデルの作成目的は、製品が売れる要件を明らかにすることです。
次の事例ではツリー状にしていますが、売れる要件を抽出していますので、
同じ製品でも客先によって要件の数と重要度が変わる可能性があります。作成
時には、要件の漏れがないことに留意して下さい。次の図は、電子機器メーカ
ーの製品を対象にしたものです。
マーケット収益モデル
profit_improvement_text20141207.doc
- 46 -
収益改善講座1
第5章 収益改善の分析資料
・競合品とツリー各項目の比較をして、強みの顕在化に活用する
サービスとは、製品の価値をわからせるためのおこないをいう。無償が原則
である
・作成時のポイントは「製品がなぜ売れるのか」が網羅されることである
・LT:納品リードタイムを指す
(1)マーケット収益モデルとは
マーケット収益モデルは、最終需要者の顧客から見た商品、価格、量、機能
保証の4つを包含した概念を指しています。商品は、商材、商圏、製品、サー
ビスで構成されるものです。量は供給量、機能保証は製品以外のカタログ、取
扱説明書等で使い方を理解してもらう意味で使います。代理店や商社の立場か
ら見た場合は「商品」、メーカーの立場からは「製品」です。作成する場合は、
ツリー各項目の規格、品質、具体的内容の明細が別途必要です。たとえば、製
品の内容には規格、性能、品質などできるかぎり定量的にまとめます。
(2)マーケット収益モデルの活用
マーケット収益モデルは、競合分析の調査項目設定、製品が売れる理由の顕
在化、強みの顕在化に有効です。製品によってマーケット収益モデルは変わる
ので、それぞれ実態に合わせた構成が必要になります。マーケット収益モデル
活用の1つとして、強みについて述べましょう。これまでの例から、技術オリ
エンテッド型の企業といっても、技術そのものが強みになることはほとんどあ
りません。技術オリエンテッド型とは、技術の進化を生かして商品開発するこ
とを指しています。例を挙げましょう。
第4章6節で一部紹介済みの部分があるのですが、強みについて述べること
にします。T社の製品は、電子機器に組み込む機能部品です。世界に先駆けた
開発製品で、技術・品質では世界のデファクトスタンダードになっています。
数度に及ぶ「強みの検討会」で得られた結論は、強みは技術そのものではなく、
顧客対応力と供給力、品揃えだと認識されました。つまり、強みは顧客が決め
るもので、技術を使って提供できる何かになるわけです。ここでいう顧客対応
力とは、顧客が新製品開発段階で「こういうものができないか」と持ちかけて
きたとき、試作品と試験データを添えて1週間で結果を提供できることを指し
ています。この「強み」を支えているのが技術だったのでした。
強みと技術は、コアテクノロジーとコアコンピタンスの関係と類似していま
profit_improvement_text20141207.doc
- 47 -
収益改善講座1
第5章 収益改善の分析資料
す。コアテクノロジーが技術をいうのに対し、コアコンピタンスはその開発に
必要な中核的能力と力量を表しているからです。
技術オリエンテッド型の逆が、市場オリエンテッド型です。これはどうした
ら市場開拓できるかを視点に、競合商品の動向、生活の傾向、時代動向等に着
目し商品開発することを指しています。
3)収益源マップ
収益源マップとは、マーケット収益を得るために活用される、投入経営資源
の配分状況を表すものです。マーケットに対峙して事業収益獲得に活用される
経営資源とその構造を表すことを狙っています。主な内容は、販売地域・用途
別、製品規格・品質グレード別のマーケット収益獲得実態と、製造資源の消費
時間の明示です。わかりやすさに重点を置いて作成しましょう。
収益源マップの目的は、製品群別・用途別・限界利益と、販売資源および製
造資源貢献度の実態を知り、事業収益の源泉を明らかにすることです。業種・
業態・企業規模により、つくり方が変わることがありますので、作成する目的
を考えて取り組むことが欠かせません。
収益源マップ
収益源マップ例(販売・製造資源別・限界利益)
製品別・用途別・限界利益 百万円/年
製品群
製品別・用途別・限界利益
品種
電子機
器
高規格品
a
b
c
d
10
100
15
e
f
g
汎用品
h
i
j
k
印刷
10
10
10
10
30
60
40
10
特殊ガラ
産業資 特殊フィ
メディカル
農業用
ス
材
ルター
m
n
用途別・
限界利益
計
構成比 イ
営業貢献利益・
構成比 ロ
かい離率 ロ-イ
製造時間・
構成比 ハ
かい離率 イ-ハ
25
2.5
20
40
80
100
70
40
30
30
40
50
500
50.0
30
20
50
100
10.0
20
2.0
100.0
10
20
20
10
5
10
販売資源
貢献度
製造資源
貢献度
125
12.5
180
18.0
50
5.0
小計
10
100
35
30
50
50
120
175
130
50
30
60
60
100
1,000
100.0
l
特殊用途品
販売資源貢献度
10
10
6.0
14.0
7.0
2.0
57.0
12.0
2.0
-6.5
-4.0
2.0
-0.5
7.0
2.0
0.0
-
20.0
17.0
8.0
2.0
44.0
8.0
1.0
100.0
-7.5
1.0
-3.0
0.5
6.0
2.0
1.0
-
profit_improvement_text20141207.doc
製造資源貢献度
製造時
営業貢献
かい離率 間・構成 かい離率
構成比 利益・構成
ロ-イ
比
イ-ハ
比 ロ
イ
ハ
製品別・限界利益
- 48 -
中計
175
17.5
14.0
-3.5
34.0
-16.5
605
60.5
70.0
9.5
50.0
10.5
220
1,000
22.0
100.0
16.0
100.0
-6.0
-
16.0
100.0
6.0
-
収益改善講座1
第5章 収益改善の分析資料
(1)収益源マップ作成のポイント
前述したように、収益源マップの目的は事業収益の源泉を明確にすることで
す。掲載した収益源マップは、販売・製造資源別・限界利益をもとに作成した
もので、このほかの形式もあります。たとえば、表横軸の販売資源貢献度を省
略したもの、限界利益ではなく売上高や営業利益を使ったものなどです。本来
は、限界利益を使うのが望ましいといえます。ただし、品種別に固定費が異な
るときは営業利益を採用すべきです。また、複数の国や世界の地域別に作成す
るときは、税引き後の利益で比較することが欠かせません。それが難しいとき
は、便宜的に売上高で見ることもあります。販売資源貢献度は、品種別粗利益
が異なるときに必要です。
表の縦軸では、製品群を規格・品質グレード別に区分します。前出の図表で
は、高規格品、汎用品、特殊用途品の3つに区分しました。望ましい区分のし
かたは、製造資源貢献度とのかい離が明確になることです。縦軸の製品群をう
まく区分できないこともあります。製品の用途が1つしかない場合です。化学
プラントで、単一製品を生産するケースが典型的な例でしょう。1つのプラン
トで、少数製品を生産する場合にも同様のことがあります。このようなケース
では、競合類似品の用途も参考にすべきでしょう。
表横軸には、最終需要家から見た用途を入れます。前出製品体系のレベル1や
2の縦軸を活用して下さい。いわゆる、マーケットセグメンテーションによる区
分です。この区分を、あまり少なくすると収益源マップの意味をなさなくなり
ます。マーケットシェア調査や、競合分析をしやすくするためです。収益源マ
ップの数値は、1年分を対象とします。マーケットシェアの経時変化を見ると
きは、年次別に複数年分の作成が必要です。それから、品種別の限界利益、営
業利益、生産時間が欠かせません。限界利益は、同マップの品種と用途の交点
に入れるために必要です。横軸・用途をうまく設定できないことがあります。
たとえば、次の場合です。
・最終需要家の用途が不明
代理店販売のケースで見られます。
・国内外の販売区分が不明
代理店販売で、同じ代理店が国内·海外に販売しているケースで見られます。
競合分析などの関係からも、海外販売分は分けてとらえることが欠かせませ
ん。
profit_improvement_text20141207.doc
- 49 -
収益改善講座1
第5章 収益改善の分析資料
横軸の区分は、販売管理の問題です。これまでの事例では、ベテランの方に
手作業による集計をお願いしたこともありました。必要性と使い勝手を確認し、
今後の管理方法に反映させるのが望ましいでしょう。マップ横軸の用途が把握
されていないケースでは、使用用途に対する規格や品質の過不足が不明なこと
があります。要求品質を明確にしておくべきです。
(2)事例企業の概要
前出のマップでは、メーカーの国内複数工場で生産する製品群を対象にしま
した。製品は、主に自動車、電子機器、印刷向けの工業用の高機能材料で、国
内マーケットシェアの過半を持っています。製品群別の粗利益率は高規格品が
約45%、汎用品が約30%、特殊用途品が約35%です。価格競争は、汎用品で顕
著になっています。高規格品は、性能、品質とも業界トップとの認識が一般的
です。数値は簡略化しました。
(3)数値の読み方
つぎに数値の見方を、高規格品の横軸を例に紹介します。高規格品の製品別・
限界利益構成比は17.5%です。その右側にある販売資源貢献度のかい離率は
-3.5%、製造資源貢献度のかい離率は-16.5%を示しています。販売資源貢献
度のかい離率は、営業貢献利益構成比から限界利益構成比を引いて求めたもの
です。また、製造資源貢献度は、限界利益構成比から製造時間構成比を引いて
算出します。
高規格品の限界利益は、同製品全体の17.5%稼ぎ出すのに、営業利益は同製
品全体の14%しか稼いでいません。製造時間に至っては34.0%であり、他品種
より多くの割合で消費しています。つまり、限界利益の稼ぐ割合に対し営業利
益の割合は小さく、製造資源の消費割合が多いので割のよくない商売とみなす
わけです。少々言いすぎかもしれませんが、手間暇をかけて造った割りには、
固定費を回収する力(≒投資回収能力)が弱く、売り値が安いか、マーケット
の評価が期待値に達していないのかもしれません。
プラス方向にかい離大きい製品群。今度は、汎用品の横軸を見てみましょう。
汎用品の製品別限界利益構成比は60.5%、その右側にある販売資源貢献度のか
い離率が9.5%、製造資源貢献度のかい離率が10.5%です。汎用品の限界利益は、
同製品全体の60.5%稼ぎ出しており、営業利益は70.0%も稼ぎ出しています。
profit_improvement_text20141207.doc
- 50 -
収益改善講座1
第5章 収益改善の分析資料
さらに、製造時間の消費は50.0%です。つまり、限界利益の稼ぐ割合に対し、
販売と生産資源の消費割合が小さいので割のよい商売と見ることができます。
汎用品は、製造資源の50%使っているものの、それを上回る限界利益が得られ
ており、マーケットからも高く評価され、当該製品群の中では稼ぎ頭の存在と
いえましょう。
同じように、電子機器の用途を縦軸に見ていきます。電子機器向けは、高規
格品のみの販売です。製品群の中では、もっとも高規格で品質グレードの高さ
が要求される用途になります。用途別限界利益構成比は12.5%、販売資源貢献
度のかい離率は-6.5%です。限界利益の稼ぎに対する、営業貢献利益構成比は
低くなっています。ほかの品種に比べ、安値受注しているのが明らかです。こ
の製品は、業界トップの性能・品質を持っていますので、より問題が大きいと
いえます。ほかの用途向け生産に比べ製造資源を多く消費し、技術的には難易
度の高い領域ですが、改善余地は大きいといわざるを得ません。
(4)事例収益源マップの所見
収益源マップの所見は、前述内容と一部重複しますが、次のとおりです。損
益計算書や採算分析では、このような把握はなかなかできません。
・事業収益源への貢献度は、汎用品→特殊用途品→高規格品の順番です。これ
は、汎用品のほうがより儲かる結果を示しています。社内の認識では、高規
格品の粗利益率が約45%と高いので、以前から一番儲かる品種と見られてい
ました。そこで、当面、優先的に取り組むのは、儲け頭の汎用品と特殊用途
品であり、とくに販促と製造原価低減に重点を置くべきです。
・つづいて、当社の技術力の高さを示す看板といえる高規格品の収益向上策が
欠かせません。1つめは、安値受注の縮小です。2つめは、相対的に製造資
源を多く消費していることへの是正といえます。
・コスト競争力の強化には、製造リードタイムの短縮を主にした製造・設備技
術の開発が不可欠です。製造原価の労務費率、および売上高に占める販管費
率が、他社より割高と想定され、外注、提携、工場の海外立地も中期的な検
討課題になります。
・短期的には、品質とコスト競争力強化の観点から、委託加工、外注と内製化
profit_improvement_text20141207.doc
- 51 -
収益改善講座1
第5章 収益改善の分析資料
のメリット・デメリットを見極めた対策が必要です。とくに汎用品のコスト
低減に注力し、利益率をさらに高めることが事業全体から見て有効となりま
す。
(5)収益源マップの活用
収益源マップを作成する目的は、事業収益源を知ることで、競合分析の優先
分野把握、技術開発や原価低減などの投入資源の配分是正に資することです。
事業収益源を知ることで、マーケットにおける自らの事業領域と依存度が明確
になります。それを踏まえたうえで、収益改善の青図策定と中期経営計画への
反映が不可欠です。
企業内の情報による収益源マップの作成では、結果的に内部のことしかわか
りません。それなりの課題発見にはなるものの、達成すべき目標設定や競合品
との差別化策の検討には不十分です。収益源マップから課題抽出後には、次に
例示した競合分析の調査をおこないます。
(6)品種と用途交点の競合分析
売上実績のある交点では、コスト分析、マーケットシェア、マーケットニー
ズに対する充足率、品揃えを主体に競合先と自社を比較します。目的は、収益
拡大につながる対策立案の具体化です。詳細な調査項目は、強みの顕在化でも
使えるマーケット収益モデルをもとに決めることをお勧めしています。
売上実績のない空欄交点では、用途開発によりマーケット開拓の余地がある
か知ることです。そのため、売上実績のある交点と同じ競合分析をするのか判
断が必要となります。
再録ですが、用途開発とはマイナーチェンジを含む既存製品を新たな用途市
場に投入し、事業の拡大を図る戦略のことです。製品だけでなく、そのもとと
なっているコアテクノロジー活用により新市場開発に結びつけることもありま
す。マーケット収益モデルの項でも述べましたが、コアテクノロジーとは事業
成功の中核となる技術です。用途開発したとしても、競争力がおぼつかないと
収益源となりえません。そこで、用途開発の検討開始段階では、強みの顕在化
が不可欠です。
profit_improvement_text20141207.doc
- 52 -
収益改善講座1
第5章 収益改善の分析資料
4)採算分析
最初に採算分析帳表の見方を紹介し、つづいて詳細解説をします。やや極端
な例ですが、理解を深めるには好例でしょう。
採算分析
採算分析(得意先別・製品別)
変動
単価
V
円
1
13,000
7,000
6,000
15
195
105
53.8%
90 46.2%
45
23.1%
45
23.1%
0.50
2
9,000
4,000
5,000
75
675
300
44.4%
375 55.6%
110
16.3%
265
39.3%
0.29
3
8,000
6,500
1,500
40
320
260
81.3%
60 18.8%
130
40.6% ▲70
▲21.9%
6,500
7,000
▲500
10
65
8,964
5,250
3,714
得意
先名
4
K社計
品
名
売上
数量
Q
売上
高
PQ
千円
2014年3月
平均売
上単価
P
円
No.
単位限
界利益
M
円
大分営業所
140 1,255
変動
費
VQ
千円
変動
費率
v
70 107.7%
735
58.6%
限界
固定
限界利
利益
費
益率
MQ
F
m
千円
千円
▲5
520 41.4%
固定
費率
f
営業
利益
G
千円
営業
利益率
損益分
岐指数
F÷MQ
2.17 擬似出血
71 109.1% ▲76 ▲116.8%
356
28.4%
164
13.1%
採算性
真性出血
0.68
(1)採算分析の見方
この採算分析例は、某メーカー大分営業所における2014年3月の得意先別・
製品別採算分析の一部です。同社の営業利益は合計164,000円、営業利益率
13.1%、損益分岐指数0.68となっています。法人企業統計による製造業の営業
利益率は、1989年のバブル経済期でも5.0%でした。損益分岐指数では、0.70以
下を優良な利益水準と判断でき、かなり儲かっているメーカーといえます。
同図表のNo.1の項目を左から右に見ていきましょう。平均売上単価13,000円、
1個当たりの変動費である変動単価は7,000円、同1個当たりの限界利益である
単位限界利益は6,000円です。単位限界利益は【平均売上単価-変動単価】で算
出します。限界利益は固定費を回収する原資です。売上数量15個、売上高
195,000円、変動費105,000円、変動費を売上高で割って求める変動費率53.8%、
売上高から変動費を引いた限界利益90,000円、限界利益を売上高で割って求め
る限界利益率46.2%、固定費45,000円、固定費を売上高で割って算出する固定
費率23.1%、限界利益から固定費を引いた営業利益45,000円、営業利益を売上
高で割って求める営業利益率23.1%となっています。
損益分岐指数は同図表にあるとおり、固定費F÷限界利益MQが算出式です。
そこで、固定費45,000円÷限界利益90,000円=0.50となります。0.70以下が優
良な利益水準なので、やや儲かりすぎの傾向です。マーケットでは、競合製品
の登場がありうるので差別化が必要となります。さらに収益力を高めるため、
原価低減への改善努力投入を優先的におこなうべきでしょう。採算性の欄空白
profit_improvement_text20141207.doc
- 53 -
収益改善講座1
第5章 収益改善の分析資料
は黒字を示しています。
No.2の行が、No.1よりも収益力が高いのがわかるでしょう。限界利益額が、
例の中では最大だからです。抜粋したモデルだけで即断はできませんが、限界
利益の大きさが収益力を測る物差しを示しています。
No.3の行は問題です。限界利益が黒字で、営業利益が赤字な状態を擬似出血
と呼びます。損益分岐指数が2.17なので、売上数量以外の条件を変えずに一定
とすれば、おおよそ2.17倍の売上数量になったときが、営業利益ゼロで損益の
均衡点到達です。当面の課題は、擬似出血の解消となります。ただし、営業利
益が赤字だからといって販売中止の判断は望ましくありません。限界利益が黒
字なので、事業全体で見れば収益押し上げに貢献しているからです。限界利益
の黒字は、固定費回収に寄与しています。黒字化策の例としては、顧客に代替
製品を勧める、現製品に代わるマイナーチェンジ品を開発するなどです。
No.4は大問題といわざるをえません。限界利益が赤字で、営業利益も赤字の
真性出血となっています。売れば売るほど赤字が増える、真の赤字製品です。
損益分岐指数は、マイナスのため計算不能となります。政治的な配慮がなけれ
ば、生産・販売とも中止すべきです。政治的とは、マーケットシェアを取りに
いく戦略的な製品、技術力の高さを示すテスト販売、収益を度外視する政治判
断の対象製品などを意味します。喫緊の課題は、真性出血の解消です。
(2)採算分析でわかること
採算分析は、生産プロダクトミックス算出の元資料です。採算とは、費用を
変動費と固定費に分解して限界利益対固定費の関係に直して見ることを指して
います。つまり、損益分岐指数の算出結果を見ることに相当するといっていい
でしょう。採算分析からわかることは、おおむね次とのとおりです。もちろん、
資料のつくり方によって読み取り内容は変化します。
・販売予算と実績の差異分析(詳細は別途資料の必要なことが多い)
・営業利益
・損益分岐指数
・採算性(黒字、擬似出血、真性出血の別)
・量産効果(少し加工必要、次に用語解説あり)
・アイテム増減時の営業利益の変化(シミュレーション実施)
profit_improvement_text20141207.doc
- 54 -
収益改善講座1
第5章 収益改善の分析資料
・アイテム統廃合の候補抽出に活用可能
・真性出血アイテム中止時の営業利益の増加
・営業利益赤字品の販売中止可否
・新製品上市時の想定営業利益
・製造余力の既存製品・新製品による活用策シミュレーション(別途資料必要)
・営業部門・個人の業績貢献度(評価基準により変化)
・品種別・営業利益貢献度(評価制度により変化)
・在庫増減による財務会計の営業利益との差異
注.量産効果
売上数量が増加することによって売上原価が一定割合で下がること。または、
生産数量が増えることによって製造原価が一定割合で下がることを指す。損
益分岐点売上(あるいは生産)数量分析で算出できる。
採算分析は、毎月作成する必要は通常ありません。利益が一定以上計上され
ている場合は、とくに問題とならないからです。ただし、顧客別あるいはアイ
テム別に赤字がある場合はチェックが欠かせません。この採算分析にも、いく
つかの方法があります。ここでは、次の4種類を掲載しました。各帳表作成の
目的はとくに付記していませんが、帳表名そのものが目的を表しています。
①
②
③
④
製品別採算分析
得意先別・製品別採算分析
製品別・採算感度分析(目標営業利益設定用)
得意先別・製品別・採算感度分析(目標営業利益設定用)
採算感度分析とは、採算分析と利益感度分析を一緒におこなう分析方法であ
り、採算検討のシミュレーションに活用できます。採算感度分析の目的は、目
標に対する実態、採算性の把握、営業利益算出の変数の変化が固定費回収と営
業利益増減に与える影響度を知ることです。ここでいう変数は、営業利益の目
標増減率が該当します。目的により、任意に変更可能です。同概念を表す名称
が見当たらないため、この用語は小生が定義しています。
利益感度分析とは、営業利益算出の変数による同利益への影響度を明らかに
するものです。営業利益算出の変数は次のとおり。右辺式を構成する要素は、
すべて変数です。これらの変化による、営業利益の増減を知ることになります。
profit_improvement_text20141207.doc
- 55 -
収益改善講座1
第5章 収益改善の分析資料
営業利益=売上高-変動費-固定費
=限界利益-固定費
=平均売上単価×売上数量-変動単価×売上数量-固定費
採算分析帳表は、目的に応じた使い分けが肝心です。
5)生産プロダクトミックス
(1)プロダクトミックスとは
プロダクトミックスとは、企業の取り扱う製品と量の組み合わせのことです。
メーカーK社の例で説明しましょう。
◆メーカーK社の生産・販売明細
品種A 700個
品種B 500個
品種C 900個
単純な例ですが、メーカーK社のプロダクトミックスです。ここでは、生産
と販売の内容を同じとしました。プロダクトミックスを取り上げる狙いは、収
益が最大化する生産と販売の姿を明確にすることです。
(2)生産プロダクトミックスの定義
小生は、プロダクトミックスを4つに区分しています。本稿の生産プロダク
トミックスは、4つに区分している中の「短期的な生産プロダクトミックス」に
相当するものです。名称が長いので、本稿ではとくにお断りしない限り単に「生
産プロダクトミックス」と呼ぶことにします。定義は次のとおりです。
「生産プロダクトミックスとは、現生産能力の範囲内で限界利益を最大化する
現状同様に出荷できる生産アイテム·数量の組み合せをいう」
(3)生産プロダクトミックスで分かること
・製品別採算分析で分かることはすべて含む
・限界利益を最大化する生産アイテムと数量
profit_improvement_text20141207.doc
- 56 -
収益改善講座1
第5章 収益改善の分析資料
・アイテム別の収益貢献度、時間当たり限界利益
(4)生産プロダクトミックス帳表の算出例
生産プロダクトミックスは、製品別採算分析の全部の項目に、収益貢献度、
生産時間、時間当たり限界利益を加え、営業利益の変化を読み取れるように作
成します。次の例は、現状の生産プロダクトミックスを算出したものです。横
に長くなりすぎるため、表の横軸フィールドは一部省略しています。
現状の生産プロダクトミックス算出
生産プロダクトミックス算出例(部分)
品種
品名
C
収益
貢献度
売上数量
売上高
(千円)
*収益貢献度=限界利益構成比÷生産時間構成比
変動費
(千円)
変動
費率
限界利益
(千円)
限界
利益率
固定費
(千円)
営業利益
(千円)
営業
利益率
損益分
岐指数
時間当た
生産時間
り限界利
(hr)
益(円)
採算性
10
178.2%
9,965
13,106
2,831
21.6%
10,275
78.4%
6,948
3,327
25.4%
0.68
5,656.7
1,816
10
128.4%
20,475
7,002
4,020
57.4%
2,982
42.6%
4,231
-1,249
-17.8%
1.42
2,278.9
1,308 擬似出血
10
122.5%
19,714
16,536
4,721
28.5%
11,816
71.5%
9,853
1,963
11.9%
0.83
9,462.5
1,249
10
95.1%
5,595
3,917
1,313
33.5%
2,603
66.5%
2,464
139
3.5%
0.95
2,685.6
969
10
57.3%
41,976
8,185
2,305
28.2%
5,881
71.8%
7,457
-1,576
-19.3%
1.27
10,074.2
30
117.4%
8,149
22,660
4,802
21.2%
17,858
78.8%
14,168
3,690
16.3%
0.79
14,929.7
1,196
30
105.9%
8,259
12,579
3,152
25.1%
9,427
74.9%
8,113
1,314
10.4%
0.86
8,733.4
1,079
30
102.5%
32,158
37,420 10,776
28.8%
26,644
71.2%
24,436
2,207
5.9%
0.92
25,502.5
1,045
30
92.9%
41,029
43,908 12,815
29.2%
31,093
70.8%
35,156
-4,063
-9.3%
1.13
32,823.0
30
91.7%
50,747
41,017 12,558
503
1.2%
0.98
30,448.4
584 擬似出血
947 擬似出血
30.6%
28,459
69.4%
27,957
30
712
198
362 183.1%
-164
-83.1%
583
-747 -377.6%
1,039.4
-158 真性出血
30
318
55
113 207.4%
-59 -107.4%
331
-390 -712.2%
419.8
-140 真性出血
合計
真性出血分
真性出血廃止時 合計
擬似出血分
239,097 206,584 59,770
28.9%
146,814
238,067 206,331 59,294
28.7%
103,480
32.4%
39,955
1,030
253
476
59,096 19,140
71.1% 141,696
5,118
-223
914
-1,137
147,037
71.3% 140,783
67.6%
46,843
935
2.5%
0.97
144,054
1,459
-153
6,255
3.0%
0.96
142,595
1,031
1.17
45,176
-6,888
-11.7%
擬似出血解消時 合計
12,005
5.8%
真性・擬似出血解消時
13,142
6.4%
1,019
884 擬似出血
この事例は、生産能力に余裕のある産業資材メーカーです。算出結果は、赤
字解消で、営業利益率が3.9%改善の余地ありと判明しました。表合計欄のとお
り、現状の営業利益率は2.5%で、同じく、真性·擬似出血解消時の営業利益率
は6.4%です。双方の差異3.9%が、当面収益改善すべき重点を表しています。
同時に、赤字製品の解消策が必要です。販売側だけの努力で、黒字化は困難な
ケースが大半でしょう。収益改善は販売·生産·物流·開発のライン部門が、それ
ぞれの役割に応じた対策が欠かせません。取り組むべき課題は、後段に紹介し
ました。
(5)見方
採算分析帳表の見方は、前段で紹介済みです。そこで、採算分析帳表になか
った項目のみ解説することにしましょう。表の明細行は、品種コード別・収益
profit_improvement_text20141207.doc
- 57 -
収益改善講座1
第5章 収益改善の分析資料
貢献度の降順に表示しています。
① 収益貢献度
収益貢献度(%)=限界利益構成比÷生産時間構成比
生産資源の消費割合に対する製品の収益性を表す相対指標です。特定生産ラ
インの全稼働時間に占める該当製品の稼働時間の割合を分母とし、該当全製
品の限界利益合計に占める当該製品の限界利益の割合を分子にして算出した
構成比を指します。単位は%であり、収益貢献度が高いとみなすのは100%以
上です。
② 真性出血廃止時の増分営業利益の算出
真性出血廃止時の扱い方はいろいろ考えられますが、ここでは当該製品を廃
止したとして営業利益が増加する分を算出しました。したがって、変動費は
その分ゼロとなり、固定費は変化しません。
③ 擬似出血廃止時の増分営業利益の算出
擬似出血の解消策もいろいろあります。ここでは、同一単価で売上数量の増
加による赤字解消を前提に算出しました。売上数量を損益ゼロになるまで増
加させます。
(6)活用策
算出例は、現状の生産プロダクトミックスです。このあとの作業で、販売可
能量の設定、仮説の生産プロダクトミックス算出へと駒を進めていきます。同
時に、次の生産プロダクトミックスの改善視点をもとに、販売・生産・物流・
開発等の関連部門を交えて、収益改善に役立つ方策の検討が必要です。
(7)生産プロダクトミックスの改善視点
ここで紹介した現状の生産プロダクトミックス算出後におこなう対策を課題
優先順に付記しました。生産能力に余裕がある場合の例です。置かれた環境に
より、取り組むべき課題と優先順位はもちろん変わりますが、参考になれば幸
いと思います。もっと広い観点からとらえる場合は、続いて述べる「生産プロ
ダクトミックスの視点」を参考にしてください。
profit_improvement_text20141207.doc
- 58 -
収益改善講座1
第5章 収益改善の分析資料
(8)収益改善への着手優先順位別の課題
① 真性出血の解消
他製品への移行、原価低減による黒字化、値上げ、販売中止
② 擬似出血の解消
原価低減による黒字化、販売数量増、他製品への移行、値上げ
③ 限界利益の大きい製品の原価低減
限界利益の降順に原価低減
④ 高収益貢献度品の原価低減優先取り組み
⑤ 高収益貢献度品への販売移行
⑥ 高収益貢献度品の品質改善
⑦ 真性・擬似出血品の代替製品発売と、同対象品からの販売移行
⑧ 低収益品の廃止
(9)生産プロダクトミックスの視点
次の表は、生産プロダクトミックス算出後に検討すべき課題をまとめたもの
です。見ていただいてわかるように、生産にとどまらず、部門横断で取り組む
業際間課題であることが、ご理解いただけるでしょう。以下、表の主な視点を
解説します。本稿では紹介していませんが、販売プロダクトミックスについて
も同様に適用可能です(拙著「収益改善の教科書」参照)。
生産プロダクトミックスの視点
生産能力不足
(=販売勝ち)
受注生産
または
見込み生産
共通
・選別受注
・高収益貢献度品への販売移行
高収益品のコスト低減
・大口顧客の優遇
・継続性あるなら能力増強
・マーケットシェアの一段階
引き上げ(40%で首位独走)
・マーケットシェア・アップの
M&A
生産能力に余裕
(=生産勝ち)
・限界利益黒字なら販売(原則)
・マイナーチェンジ型販促
・高収益貢献度品の販売促進
・高収益貢献度品のコスト低減に優
先取り組み
・需要減少続くなら能力削減
・M&A による寡占化
・新製品開発
・より儲かるビジネスモデルへの再構築
*M&A(エムアンドエー、Mergers and Acquisitions)は、企業の合併買収のこと。
profit_improvement_text20141207.doc
- 59 -
収益改善講座1
第5章 収益改善の分析資料
① 高収益貢献度品
前節で述べたように、収益貢献度は生産資源の消費割合に対する、製品の収
益性を表す相対指標です。たとえば、ある製品の限界利益が全体の20%とし
て、同製品に対する生産時間の消費が全体の10%あったとします。この場合
の収益貢献度は200%です。平均値は100%なので、同製品全部の売上によっ
て得られた限界利益は、倍の収益力を持っていることになります。
生産資源消費の考えかた。生産資源の消費量を測る物差しは時間です。生産
設備などの製造固定費は、いったん投資すれば、稼働率の高低にかかわらず
一定額発生します。稼働しなくても固定費は変わらないので、稼働時間を生
産資源の消費時間とみなすわけです。この考え方は、全部原価計算とは相容
れない管理会計の領域になります。参考ですが、財務会計には時間の概念が
ありません。
高収益貢献度品の生産と売上が一定割合まで高まると、相対指標の収益貢献
度は限りなく100%に近づき、いずれは同%を下回っていくはずです。その時
点で、再び高収益貢献度の売上を伸ばす過程を繰り返すことが要請されます。
らせん階段を登るように、スパイラル曲線を描きながら収益力が高まるのを
期待しているわけです。
「高収益貢献度品への販売移行」を促すのと「高収益貢献度品のコスト低減」
に優先的に取り組むのは、双方とも投入努力に対して期待される効果が大き
く出てくることによります。
② 大口顧客の優遇
大口顧客の優遇は、1つの定石かもしれません。当該顧客のさまざまな要求
を聞きながら、さらに製品改良を重ね競争力強化につなげることが重要です。
③ 継続性あるなら能力増強
生産能力不足欄の項目です。販売継続と拡大が想定される場合は、慎重に生
産能力増強に踏み切ることを推奨します。
④ マーケットシェア
ランチェスターの法則「マーケットシェア理論」をご存じの方は多いでしょ
う。英国生まれの法則を日本人の手で発展させ、ビジネスの世界に応用でき
profit_improvement_text20141207.doc
- 60 -
収益改善講座1
第5章 収益改善の分析資料
るようになったことは有名です。
ある製品の、現マーケットシェアが12%とします。売上拡大をめざす企業で
は、何%のマーケットシェアを当面の目標とすべきでしょうか。この目標設
定と、マーケットシェア段階に応じた内容を体系的にまとめたものが、マー
ケットシェア理論です。これによれば、めざすべき目標は19.3%と示されて
います。一般には、切りのいいところで20%とされることが多いようです。
販売勝ちの状況ならば、ぜひ一段高い目標設定をしてもらいたいと思います。
⑤ M&A
M&A(Mergers and Acquisitions)は、小生がお手伝いした案件でも数社あり
ます。その中の建材メーカーA社の例です。限定された需要を、相当数の企
業が過当競争気味に乱立していた時期がありました。収益性悪化のため、身
売り企業が出始めた頃です。A社は、積極的に買収に乗り出したのです。小
生がお手伝いした頃には、国内マーケットシェア70%超でした。原材料高騰
による値上げもしやすくなり、高収益企業として名を馳せるまでになってい
たのです。参考ながら、マーケットシェア理論からすれば、70%のマーケッ
トシェアの次の目標は73.9%が示唆されています。
M&Aでも、時期により2つの状況が見られます。1つめは、リーダー企業が存
在しないマーケットです。需要増も見込みにくく、低いマーケットシェア同
士の企業が乱立して、半ばつぶし合い状況になっており、各企業は、赤字や
低収益に悩んでいる状態といえます。マーケットから撤退が始まろうとする
この時期に、M&Aを仕掛けて寡占的な地位を占める方法です。建材メーカーA
社は、このタイプに該当します。2つめは、大きなマーケットシェアを持つ
リーダー企業がある場合です。さらにマーケットシェアを拡大すべく、M&Aを
進めるタイプが該当します。
実際にM&Aするかどうかは、企業理念や方針などとの関連もあるので、いちが
いにはいえません。ただし、企業収益の拡大視点からは、検討の余地が十分
あると考えます。
⑥ 限界利益黒字なら販売
生産能力に余裕がある場合の視点です。限界利益は、固定費を回収する力と
いわれます。製品販売にあたり、限界利益が黒字であれば営業利益増に貢献
profit_improvement_text20141207.doc
- 61 -
収益改善講座1
第5章 収益改善の分析資料
するので収益改善に寄与できるからです。そのため、限界利益が黒字であれ
ば販売するというのが、この方策となります。
これには、確かに一理あり、間違いとはいえません。とくに、生産に余裕が
あるとき、価格競争になったとき、売上確保が要請されるとき、特定顧客と
の取引に参入するときなどが該当しやすいでしょう。反面、リスクが生じま
す。いったん下げた販売単価は、値戻しが困難になりがちだからです。結果
的に、低収益性の継続となる傾向が見られます。
そこで、目標とする営業利益率を下回る単価で販売する場合、歯止め策の同
時作成が欠かせません。当面の販売単価にした理由、目標販売単価、あるい
は目標営業利益率まで引き上げる計画作成が相当します。いったん、低収益
性におちいった企業では、低収益性そのものが当たり前と思うようになるか
ら不思議です。中には、全アイテム数の4分の1が営業利益赤字の実例も見
かけます。これまでの経験から考えても、短期間に全品黒字化させるのは困
難です。
⑦ マイナーチェンジ型販促
現製品の目先を変えた、新製品発売による販促です。食品や消費材の業界で
は、以前から頻繁におこなわれています。結果として、過剰とも思われるア
イテム数になる事例があとを絶ちません。
マイナーチェンジ型の販促は、消費材に限らず、乗用車などの業界でもよく
あることです。自動車業界のフルモデルチェンジは、通常3~4年ごとにな
っています。この間の1~2年目に、少し手直ししたモデルを発売し、ユー
ザーを引き留めて買い換えを促す販促法です。一般に、「買い換えマーケテ
ィング」と称しています。
留意事項は、投入努力と得られる収益の見合いです。食品業界では、単品の
営業利益が把握されていない企業もしばしば目にします。たとえば、売上だ
けの目標を持った、マイナーチェンジ型の新製品発売があるとしましょう。
需要が伸びているときは、利益があとから付いてくるかもしれません。しか
し、需要増が見込めない場合は、単品の収益管理を先行させるべきです。生
産プロダクトミックスに余裕がある場合でも、同じことがいえます。
⑧ 需要減少が続くなら能力削減
profit_improvement_text20141207.doc
- 62 -
収益改善講座1
第5章 収益改善の分析資料
製品の生産が開始されたときのマーケットと、現在の状況は各企業とも様変
わりしていると思います。マーケットは、一企業の思惑と離れて変わるから
です。それも、速いスピードで変化する分野が増えています。それに反し、
生産設備はすぐには更新できにくいものです。とくに、投資がかさむ企業ほ
ど方向転換が困難となることを意味します。ようするに、メーカー生産資源
の活用方法と、マーケットの需要にかい離が発生するということです。これ
を顕在化させる手段の1つが、生産プロダクトミックスといっても過言では
ありません。ここでは紹介していませんが、編成効率は生産能力と現生産の
かい離度合いを収益から見ようとしています。できるなら、生産品種の異な
る生産設備ごとに、編成効率は算出すべきでしょう。拙著「収益改善の教科
書」、または小生Webサイトのメルマガ第91号を参照して下さい。Webサイト
は、http://jimosen.com/トップ頁メニュー「メルマガ」から検索できます。
マーケットの変化に生産資源、とくに生産設備の対応度が低くなった時点(≒
低稼働率の状態)で、固定費削減に踏み切る決断も必要となるに違いありま
せん。小生も、スクラップ&ビルドの提言を数度経験しています。このスク
ラップ&ビルドは、老朽化や陳腐化により、物理的または機能的に古くなっ
た設備を廃棄し、高性能の新鋭設備に置き換えることです。小生のお手伝い
した企業の1つは、それを機に海外に工場を設置しました。
⑨ 新製品開発
既存の生産設備を活用した、新製品の開発が狙いです。新技術の開発をとも
なうこともあるので、短期的には困難かもしれません。生産プロダクトミッ
クスとは別に、メーカーとしては継続的におこなうべきです。新製品が想定
される場合には、収益貢献度の試算も一緒におこなうことを推奨します。
⑩ より儲かるビジネスモデルへの再構築
ビジネスモデルは、儲かる事業のしくみのことです。本稿での解説は省略し
ます。詳細は、拙著「収益改善の教科書」をご覧下さい。
上記項目は、自社でおこなうのか、関連会社等でおこなうのかによっても、
選択肢はいろいろです。M&Aとは逆に、事業譲渡も視野に入ってくるかもしれま
せん。ここでは、内容が多岐にわたるため検討課題としての紹介にとどめまし
た。
profit_improvement_text20141207.doc
- 63 -
収益改善講座1
第5章 収益改善の分析資料
6)競合分析
マーケット収益を獲得するための事業が置かれている、マーケットの実態を
需要構造と呼んでいます。需要構造を知る目的は、マーケットに対峙する自身
の位置づけを知り、マーケット収益を拡大させる対策立案に役立てるためです。
マーケットの実態とは、マーケットの需要動向、製品に対する要求仕様、競合
先の原価や技術・財務などの総合力を指しています。競合分析は、これらの需
要構造を把握するための一部分です。
注.マーケット収益
マーケット収益とは、顧客の望む効用と満足提供によって得られる対価、ま
たはマーケットから得られる製品ライフサイクル期間中の総売上を指す。
競合分析では、製品群別・用途別のマーケットと同じ領域を収益源とする、
現在の競合先・潜在競合先の情報収集と分析が欠かせません。潜在競合先とは、
新規にマーケット参入する相手先を指しています。技術開発型の企業では、一
般にこの部分の対策が手薄になりがちです。自らが新規参入時の段階で想定で
きなくとも、継続的に情報収集を試み、それを差別化に活かすことが欠かせま
せん。
競合分析の調査は、調査会社の活用、調査会社の報告書入手、競合他社の公
知資料・訪問や電話等によるヒアリング、工業会など業界団体の調査資料入手
などによります。実際は、調査会社の活用はお勧めできないことが大半です。
製品知識、業界用語、技術などを知っていないと満足な調査ができないことに
よります。そこで通常は、自社の営業、技術、購買担当などによる、競合他社
の公知資料収集と訪問による周辺情報収集と分析が現実的でしょう。訪問先は、
競合他社に直接できれば申し分ありません。難しい場合は、競合他社と取引関
係にある代理店・需要家に面談することです。調査の基本は、自らの足で稼ぐ
しかありません。念のため—。
需要構造を知るための資料は、おおむね次のとおりです。実態に応じて増減
があります。すでに述べた資料も含んでいますが、とくに定型的なワークシー
トはありません。実態に合わせてつくるためです。
・用途別マーケットシェア(基準年度と向こう5年度分)
・用途別需要・販売予測(基準年度と向こう5年度分)
profit_improvement_text20141207.doc
- 64 -
収益改善講座1
第5章 収益改善の分析資料
・販売単価比較(対象製品の競合先との比較)
・財務比較(自企業と競合先の比較)
・製造原価比較(対象製品の競合先との比較)
・マーケット収益モデル
・強みの顕在化・体系化
・収益試算(想定シナリオ別・予想損益計算書、基準年度と向こう5年度分)
ここでいうシナリオとは、事業年度別に新製品やアイテム増の想定売上案を想
定した、年度別の経営計画あるいは利益計画を指しています。
profit_improvement_text20141207.doc
- 65 -
収益改善講座1
*用語解説~用語は拙著「収益改善の教科書」あるいは小生個人のWebサイト
http://jimosen.com/ トップ頁メニュー「経営管理用語集」から検索できま
す。
『収益改善教科書』の正誤表
頁
誤
23
前項(2)
31~33
132
132
180
*1
製品B普及品の変動単価
正
前ページの変動費率50%
変動単価3,000円が4,000円、複数箇所
の修正があります *1
損益分岐点数量
損益分岐点売上数量
損益分岐点・数量
損益分岐点・売上数量
図表5-16 事例3「現状の
生産プロダクトミックス 表下にある合計と、真性出血廃止時合
算出」の採算性フィールド 計欄の右端「擬似出血」を削除する(修
内「擬似出血」と標記した 正済み分は57頁参照)
2箇所
個人の Web サイトから、修正箇所の表と本文をダウンロードできます
(2014.12.07 現在)
【講師紹介】
前田 久喜(まえだ
ひさき)
アルファブレーンコンサルティング株式会社
代表取締役 パートナーコンサルタント
1950年青森県生まれ。法政大学卒業。建材メーカーを経て、大手経営コンサルティン
グファームに入職。以来、経営コンサルタントとして活動。コンサルティングファー
ムのボードメンバーを歴任。コンサルティング分野は、VE・ロジスティクス・収益管
理と幅広い。対象業種は、石油化学・金属・機械・建材・電子機器・食品・卸売・量
販小売など多岐にわたる。日本ロジスティクスシステム協会では、物流技術管理士資
格認定講座の講師を1999年から9年間、主に拠点戦略を担当。得意分野は、SCM、収
益管理。
著書
「収益改善の教科書」日本能率協会マネジメントセンター発行
「在庫圧縮の進め方」日本能率協会マネジメントセンター発行
2014年
1998年
2014.12.07改訂
profit_improvement_text20141207.doc
- 66 -