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新世代3次元 CAD の導入と製品開発プロセスへの影響
2001年度版
Impacts of New Generation 3-D CAD
on Product Development Processes
2001
2002 年 5 月
竹田陽子1
青島矢一2
延岡健太郎3
Yoko Takeda
Yaichi Aoshima
Kentaro Nobeoka
1
2
3
横浜国立大学大学院環境情報研究院 助教授
一橋大学イノベーション研究センター 助教授
神戸大学経済経営研究所 教授
1
要約
新世代の3次元 CAD とその関連技術は、開発プロセス、開発分業構造、開発者のスキルな
どに広範囲に渡って根本的な変化を要請する潜在力を持ち、製品開発マネジメントの新し
い方向性を示す中核技術として位置付けられる。本稿では、1998 年 11∼12 月と 2001 年 3
∼4 月の 2 回に渡っておこなった「製品開発における CAD 利用の現状に関する調査」の結
果を記述的に報告し、日本の製造業における3次元 CAD の普及状況と、3次元情報技術導
入の開発プロセスと成果に与える影響を概観する。
Summary
3-D information technologies have large potential to change product development
processes, organizational structure and skill of engineers dramatically. This paper
illustrates present status of diffusion of 3-D CAD in the Japanese manufacturing
industry and impacts of 3-D technologies on product development processes and
performance based on quantitative surveys conducted in 1998 and 2001.
2
第1章
はじめに
1−1
本稿の目的
情報技術の急速な進展は、製造業における新製品開発プロセスに対して極めて大きな影
響をもたらしつつある。様々な情報技術の中で、本稿が注目するのはソリッドモデラーと
呼ばれる新世代の3次元 CAD(Computer Aided Design: コンピュータ支援設計)を中心とし
た3次元情報技術群である。新世代の3次元 CAD は立体の内部構造までも含めた製品情報
全体をデジタル情報として定義することができ、CAE(Computer Aided Engineering: 解析)
や CAM(Computer Aided Manufacturing: 工作機械へのデータ出力)、ラピッド・プロトタイ
ピング(高速試作製作技術)などの関連技術と組み合わせることによって、製品開発のプ
ロセス全体を強力に支援する。2次元を中心とした旧来の CAD 技術が既存の開発プロセス
や開発組織を前提として各開発作業の効率化を目的としていたのに対して、新世代の3次
元情報技術は、開発プロセス、開発分業構造、開発者のスキルなどに広範囲に渡って根本
的な変化を要請する潜在力を持ち、製品開発マネジメントの新しい方向性を示す中核技術
として位置付けられる。
本稿の目的は、1998 年 11∼12 月1、2001 年 3∼4 月の 2 回にわたっておこなった「製品
開発における CAD 利用の現状に関する調査」の結果を記述的に報告し、日本の製造企業に
おける3次元 CAD の普及状況と、3次元情報技術導入の開発プロセスと成果に与える影響
を概観することにある。
1−2
調査方法
1998 年 11∼12 月、2001 年 3∼4 月の 2 回にわたって、日本企業における(1)3次元
CAD の普及状況、(2)3次元 CAD 導入に影響を与える要因、(3)3次元 CAD の開発成
果への影響を把握するために質問紙郵送調査をおこなった。上場機械系企業全社および店
頭公開企業・未上場企業からの無作為抽出をおこない、事業部制を採用している企業に関
しては事業部へと、特に売上高が1兆円を超える上場企業については複数の主要事業部門
へと発送された。質問票は、製品開発関連部署の責任者宛に発送され、第 1 回調査では 169
社・部門、第 2 回調査では、200 社・部門から回答があった。産業分野別の回答数と構成比
は、以下の通りである。
1
1998 年の調査は、機械振興協会経済研究所の「製品開発における3次元 CAD 利用の現状に関する調査」
としておこなわれた。1998 年調査の詳細は、同調査の報告書(機会振興協会経済研究所 1999)と青島・延
岡・竹田(2000)を参照のこと。2001 年の調査は、未来開拓学術推進研究事業によっておこなわれた。2001
年調査では新たな質問項目が追加されたが、それ以外の質問票の内容は、両調査の間で一貫している。な
お、両調査の質問票は、共に本稿の著者らが設計している。
3
表1−1:産業分野別の回答数
一般機械
電気機械
輸送機械
精密機械
その他/
不明
合計
1998 年調査
回答数
構成比
74
43.8%
51
30.2
25
14.8
11
6.5
8
4.7
169
第2章
CAD 導入と利用の現状
2−1
CAD の普及状況
2001 年調査
回答数
構成比
55
27.5%
50
25.0
44
22.0
13
6.5
38
19.0
200
合計
回答数
129
101
69
24
46
構成比
35.0%
27.4
18.7
6.5
12.5
369
最初に、CAD の導入状況を把握するために、普及率の時系列変化を示す。図2−1は2
回の調査で実施した 2 次元 CAD と 3 次元 CAD をそれぞれ何年に導入したかという質問の
回答から作成した普及曲線である(2回の調査の結果を合算している)。この数値は、特定
のプロジェクトのみに導入した場合や、工程のごく一部に導入した場合も含まれることに
留意を要する。
製造業における CAD は 2 次元 CAD を中心に 80 年代に入り急速に普及し、現在ではほ
とんどの企業で製品開発に CAD が利用されている。導入時期と普及曲線を見ると、80 年
にはまだ 10%以下であった普及率が 90 年代初盤には 80%まで上昇し、90 年代中頃までに
は急速な普及段階が終わり、90 年代後半には 90%に達してその後は安定して推移している。
残りの 10%弱の中には、2 次元 CAD を導入することなく、3 次元 CAD のみを導入したと
回答した企業も含まれているため、ほとんどすべてのサンプル企業で何らかの CAD が導入
されていると言える。
3 次元 CAD は現在でも約 70%強の企業にしか導入されていない。92 年までは特に普及
が遅く、80 年代初盤から 10 年以上をかけて普及率は 20%にしか上昇していなかった。そ
の後、93 年以降 98 年にかけて急速に普及速度が加速された。しかし、99 年以降は、再び
加速度は鈍ってきている。この図から考えると、3 次元 CAD は現在急速に普及する段階が
過ぎて安定期にさしかかりつつあると言える。
3 次元 CAD の 1992 年∼1998 年までの普及曲線の形状は、2 次元 CAD の 1983∼1989
年の普及曲線に類似的であり、その差異は約 11 年間であった。2 次元 CAD と 3 次元 CAD
の普及曲線の大きな違いは、2 次元 CAD の普及率の成長が 70%まで鈍化しなかったのに対
し、3 次元 CAD では普及率 60%を超えたところで鈍化していることである。このことから、
4
2 次元 CAD の普及率は 90%強で飽和しているが、3 次元 CAD の普及率は 2 次元 CAD よ
りも低い 80%弱程度の水準で飽和すると予測できる。残り約 20%の企業は、2 次元の図面
で十分な業界であると考えられる。
図2−1
CAD の普及曲線(N=339)
100%
90%
80%
70%
60%
2次元
3次元
50%
40%
30%
20%
10%
0%
1980 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001
次に、実際の使用実態を見てみよう。既に約 70%の企業が 3 次元 CAD を導入している
ことがわかったが、実際の製品開発や設計業務にどの程度使用されているのかは別の問題
である。図2−2は、CAD の現在の使用段階に関する質問への回答である。この図から、
2001 年現在、3 次元 CAD をメインのツールとして安定的に使用している企業は 12%、3
次元 CAD への移行段階にある企業は 37%であり、3 年前の調査に比べると、2 次元 CAD
や 3 次元のワイヤフレーム、サーフェスの割合が若干減って、3 次元ソリッドで安定してい
る企業が若干増えている。3次元ソリッドのみの導入段階を聞いた質問でも、CAD を開発
に使用している企業は 2001 年現在 48%で 3 年前の 35%に比べて確実に増加している(図
2−3)。
5
図2−2
CAD の利用段階(N=167:199)
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
手書き図面から2次元CADへの移行段階
2次元CADがメインで安定段階
2次元から3次元(ワイヤーフレームやサーフェス)
への移
行段階
2次元から3次元(ソリッド)への移行段階
3次元(
ワイヤーフレーム・サーフェス)
からソリッドへの移
行段階
3次元(
ワイヤーフレーム・サーフェス)メインで安定段階
3次元(ソリッド)メインで安定段階
1998年
図2−3
2001年
3次元ソリッド CAD の導入(N=156:197)
60%
50%
40%
1998年
2001年
30%
20%
10%
0%
開発に使用
導入中
導入検討中
未検討
次に、設計者が実際にどの程度 CAD を使用しているのかを見る。図2−4は、各企業の
設計者の中で CAD を使用する設計者の割合を示している。平均で設計者の 86%以上が 2
次元 CAD を利用しており、この数字は前回の調査でも変わらない。3 次元 CAD を使用す
る設計者の割合は、今回の調査では平均 27%で、3 年前の調査の 20%に比べて着実に増加
6
している。3 次元 CAD を全く使っていないサンプルを除いても、3 次元 CAD を使用して
いる設計者の割合は 3 年前の 32%から 37%に増加している。
図2−4
CAD を使用する設計者の割合(%)(N=162:188)
%
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
1998年
2001年
2次元CAD
3次元CAD
図2−5は、CAD ターミナル一台あたりの設計者数(未使用企業を除く平均値)の現状、
3 年前の状況、3 年後の予測の 1998 年時点での調査結果と 2001 年時点での調査結果を重
ねてプロットしたものである。2次元 CAD については、すでに 1995 年時点で普及が十分
に終わった段階であり、その後もターミナルあたりの設計者数はあまり減少していない。3
次元 CAD については、1995 年から現在、さらに 2004 年に向けて急速に増加していくこと
が読み取れる。2001 年現在は CAD 一台あたり 8.9 人で、これは前回調査の予測 6.1 人より
は若干普及が遅れている。しかし、1998 年時点では、2001 年調査の方が前回の調査に比べ
て絶対値が若干高くでているため、サンプルの違いによる誤差の範囲であろう。2004 年の
予測は CAD 一台あたり 4.5 人で、いまだ 2 次元 CAD の水準にはならない。
7
図2−5
CAD ターミナル一台あたりの設計者数(N=156:188)
1台あたり設計者数
30
28.5
25
20
16.7
15
11.7
10
8.9
6.1
5
2.6
3
2.3
2.3
2.2
4.5
2.5
0
1995
3次元1998年調査
1998
2001
3次元2001年調査
2次元1998年調査
2004
2次元2001年調査
図2−6は、使用している CAD の種類である。2次元、3次元ともに約半数が1種類の
CAD を使っているが、3 年前の調査に比べて、ベンダー数が増加している傾向が見られる。
また、3次元 CAD は、2次元 CAD に比べてやや CAD ベンダーが集中している。
8
図2−6
CAD のベンダー数(CAD 利用企業のみ N=153:186、106:154)
2次元CADのベンダー数
度数(
%)
70
60
50
40
1998年調査
2001年調査
30
20
10
上
6
10
以
5
4
3
2
1
0
ベンダー数
3次元CADのベンダー数
度数(%)
70
60
50
40
1998年調査
2001年調査
30
20
10
0
1
2
3
4
5
6
7
ベンダー数
図2−7は、使用している CAD の内製品/市販品割合である。2次元では 90%、3次
元では 94%が市販品のみであり、CAD を内製するケースはごく少数であることがわかる。
9
CAD の市販品/内製品割合
2次元CAD
度数(%)
100
80
60
1998年調査
2001年調査
40
20
0
主として内製品
主として市販品
半々くらい
3次元CAD
度数(%)
図2−7
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
1998年調査
2001年調査
主として内製品
主として市販品
半々くらい
10
3 次元 CAD 導入の目的と問題点
2−2
図2−3で示した通り、現在検討中も含めると 84%の企業で 3 次元 CAD の使用に前向
きである。3 次元 CAD を導入する際に企業が目的として考えているのはどのような点であ
ろうか。
まず、図2−8に 3 次元 CAD 導入の目的として回答したものを重要なものから順番に並
べている。この中でも、平均的に「重要な目的(4点)」以上の点数を与えられた項目は次
の 4 項目である。
(1)
開発期間の短縮
(2)
形状の矛盾(形状としてなりたたない、干渉など)をなくす
(3)
製品品質の向上
(4)
試作回数の削減
つまり、3 次元 CAD を導入することによって、(1)開発期間を改善しながら(3)製品
品質も向上させたいとしている。平均4ポイントにわずかに足りないが、開発工数の削減
も5番目に重視している。また、その方法としては、その他の特に重要とされている項目
である(2)、(4)を考え合わせると、「3 次元で設計することによって、設計段階に発生
する形状の矛盾をなくし、試作の回数を減少させること」を期待しているのがわかる。
3 年前の調査と比較すると、これら上位の目的の順位は変わらないが、いくつか統計上有
意に変化している項目がある。まず、試作製作のスピードアップが大きく増加し、順位を
上げている。生産技術・製造部門・協力企業に正確なデータを送るも増加している。後工
程に正確なデータを送りつつ試作のスピードを上げることがより重視されるようになった。
一方、設計者自身が解析をおこなえるようにする、生産技術・製造部門・協力企業に早期
にデータを送る、ラピッド・プロトタイピングの活用、デザイナーが設計要件を考慮した
デザインをおこなう、意匠デザイナーと設計者のコミュニケーションを密にする、は減少
している。
11
図2−8
3次元 CAD 導入の目的(N=166:197)
1
2
3
4
開発期間の短縮
形状の矛盾をなくす
製品品質の向上
試作回数の削減
開発工数の削減
設計データを容易に解析に利用する
試作製作のスピードアップ***
製造性の向上
設計変更の削減
設計工数の削減
同時並行化促進
設計者自身が解析を行えるようにする**
試作や金型のコスト削減
ユニット・部品の流用、設計のモジュール化を推進
生産技術・製造部門・
協力企業に正確なデータを送る*
解析の種類を増やす
設計者が製造要件を考慮した設計をおこなう
プレゼンテーションへの活用
生産技術・製造部門・協力企業に早期にデータを送る*
社内の製造・
生産技術・
金型部門からの意見を取り入れる
後工程からの寸法・
形状の確認を減らす
製品のシリーズ展開を容易にする
ラピッド・プロトタイピングの活用*
営業や顧客からの意見を取り入れる
製品の小型化・薄型化
3次元曲面の表現
協力企業の意見を取り入れる
顧客企業からのCAD使用の要求
デザイナーが設計要件を考慮したデザインをおこなう*
サプライヤーとの共同開発の促進
海外生産や製造委託を容易にする
意匠デザイナーと設計者のコミュニケーションを密にする*
競合企業も導入している
1998年
2001年
*印は、1998 年調査と 2001 年調査の平均差の t 値有意水準。*P<0.1, **P<0.05, ***P<0.01
12
5
次に図2−9では、問題点についても同様に、重要なものから順に並べてある。この図
からわかるように、次にあげる上位5項目が「ある程度あてはまる(4 点)」に近いまたは
それ以上の点数になっている。
(1)
投資額が大きい
(2)
教育に時間とコストがかかる
(3)
投資効果の測定が難しい
4位は「メンテナンスやサポートにコストがかかる」であり、システムへの投資に関係す
る項目が上位を占めている。しかし、一位の「投資額が大きい」は前回調査に比べて減少
している。3次元 CAD システムはいまだ2次元 CAD に比べて高価であるものの、PC ベ
ースのシステムが増加するなど低価格化がすすみつつあることを反映している。また、下
位の問題点であるが、会社としての一貫した導入方針がない、設計部門から抵抗がある、
熟練者からの抵抗がある、が減少している。3 年前に比べ、企業の戦略としての導入が若干
すすみ、技術が浸透するにしたがって、現場からの抵抗が減りつつあることが読み取れる。
13
図2−9
3次元 CAD 導入の問題点
1
2
3
4
投資額が大きい*
教育に時間とコストがかかる
投資効果の測定が難しい
メンテナンスやサポートにコストがかかる
設計者に新しいスキルが要求される
設計工数がかえって増加する
他のCADシステムに変更するのが難しい
開発プロセスを変更する必要がある
3次元データでは検図や書き込みが難しい
各部門の業務分担のありかたを見直す必要がある
すでに導入済みのCADからの移管が難しい
どのような3次元CADを導入するべきなのか判断が難しい
人員の再配置が必要である
開発コストがあがる
会社としての一貫した導入方針がない*
開発期間が長くなる
設計部門から抵抗がある**
熟練者からの抵抗がある*
ソフトウェアやハードウェアの能力がまだ低い
協力企業が対応できない
事業部として一貫した導入方針がない
外注や購買の制度を変更する必要がある
異なるCADを統合するのが難しい
CADベンダーを通じて自社ノウハウが流出してしまう
製造部門からの抵抗がある
試作部門からの抵抗がある
意匠デザイナーから抵抗がある
金型部門からの抵抗がある
解析部門からの抵抗がある
1998年
2001年
*印は、1998 年調査と 2001 年調査の平均差の t 値の有意水準。*P<0.1, **P<0.05, ***P<0.01
1998 年調査で 0 の項目は、今回調査で加わった項目。
14
5
2−3
導入組織、設計者による解析、CAD オペレータ
導入組織
3 次元 CAD を導入するための組織的な取り組み(仕組み)に関する回答結果を図2−1
0に示している。特別プロジェクトを編成するパターンが若干減って、設計部門などの現
場主導型が増えている。3次元 CAD の普及が進んでいることを反映して、3 次元 CAD を
特別な技術として捉える傾向が減っていると読むことができる。
図2−10
3 次元 CAD 導入の主体部門(N=145:179)
度数(%)
60
50
40
1998年調査
2001年調査
30
20
10
そ の他
生 産 技 術 ・製 造 部 門 が 主 導
設 計部 門 が主導
解 析専 門部 門 が主導
事 業 部 の情 報 シ ス テ ム部 門
が主 導
本 社 の 情 報 シ ステ ム 部 門 が
主導
導 入 の た め の事 業 部 内 の 特
別 プ ロジ ェク ト あ る い は 専
属部 署 が主体
導 入 の た め の全 社 的 な 特 別
プ ロジ ェク トあ る いは 専 属
部 署 が主体
0
設計者による解析
3 次元 CAD 導入によって広く見られる現象として、従来専門の担当者や部署が行ってい
た解析を設計者自身が行うようになる、という現象がある。今回の調査では、設計業務(設
計+解析)に占める解析の割合と設計者自身でおこなう会席業務の割合を、現在と3年前
について質問した。有効回答のうち、3次元 CAD を使用中の企業と本格的には使用してい
ない企業(図2−3)の平均値を表2−1に示す。
15
表2−1
3次元使用
現在
回答者数
設計業務に占める解析の割合
未使用
3年前
現在
3年前
(86)
(86)
(77)
(75)
11.8%
7.8%
15.5%
10.7%
29.9%
19.8%
解析業務における設計者自身が
おこなう解析の割合
37.9%
35.0%
(2001 年調査のみ)
3 次元 CAD 使用企業、未使用企業共に、この3年間で解析の割合が増加しているのは同
じであるが、設計者自身が解析を行うようになった程度は 3 次元使用企業で顕著に増加し
ている。
なお、3次元 CAD の導入目的で、「設計者自身が解析を行えるようにする」は、1998 年
調査では4位であったが、2001 年調査では 12 位に落ちていた(図2−8)
。設計者による
解析の活用は、3 年前には多くの企業で目標とされたが、現在はある程度達成されたので、
順位が落ちたと考えられる。
CAD オペレータ
3 次元 CAD においては、操作の習得が特に 2 次元図面に慣れた設計者にとって難しく、
企業によっては専門のオペレータを置くところがある。その一方で、2 次元図面の時代には、
CAD 普及以前に存在したトレーサーが道具を持ち替えて CAD オペレータに転身できたが、
3 次元の時代になると、設計スキルを持たないオペレータが CAD を操作するのが困難にな
る側面もある。そこで、今回の調査では、設計者一人あたりの CAD オペレータと CAE 用
のモデリング専従者の数を質問した。その結果、設計者一人あたりの CAD オペレータの数
は、3次元 CAD 使用企業と未使用企業共に平均 0.5 人で、人数に差が見られなかった。CAE
モデリング専従者は、未使用企業 0.05 人に対し、使用企業 0.2 人で増加傾向にあった。
16
製品開発プロジェクトにおける 3 次元情報技術のインパクト
3章
質問紙調査の後半では、回答者が所属する事業部(あるいは全社)の中で CAD の利用と
いう点で最も進んだ開発プロジェクトを特定し、同種製品の過去のプロジェクトと比較し
ながら質問した。本稿では、主に、3 次元 CAD を利用したプロジェクトと 2 次元 CAD 中
心のプロジェクトを比較することによって、3 次元情報技術導入の効果を見る。2001 年の
今回調査では、設計工程で 3 次元 CAD を 1%以上使用しているプロジェクトが 132(前回
調査 59)、まったく利用していないプロジェクトが 53(前回調査 79)と分析に足る有効回
答を収集できた。
3 次元 CAD 利用プロジェクトの特性
3−1
まず、回答者が特定した最新の製品開発プロジェクトの特性を見る。表3−1は、調査
対象プロジェクトの設計開始時期と量産開始時期である。1998 年調査では、8割近くが
1998 年~1999 年量産開始のプロジェクトであった。2001 年調査では、9割が 2000 年以降
量産開始のプロジェクトである。この特徴は、3 次元導入プロジェクトと未導入プロジェク
トとの間に大きな差はなかった。
表3−1
調査対象最新プロジェクトの時期
量産開始時期(年)
1965
1987
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
設計開始時期(年)
1990
1992
1996
1997
1998
(N=169:200)
1998 年調査 2001 年調査
0.7%
0.7%
0.7%
0.6%
2.1%
2.1%
13.5%
1.2%
77.3%
2.4%
2.8%
9.4%
45.3%
40.3%
1.2%
100%
100%
2001 年調査
0.6%
0.6%
3.4%
5.2%
16.7%
17
全体
0.3%
0.3%
0.6%
1.0%
1.0%
6.8%
36.3%
6.4%
24.8%
21.9%
0.6%
100%
1999
2000
35.6%
37.9%
100%
表3−2は、3 次元導入プロジェクトと未導入プロジェクトの製品特性をまとめたもので
ある。3 次元導入プロジェクトは新規部品点数の割合が平均 65%であり、54%の未導入プ
ロジェクトに比べて有意に割合が高い。3 次元 CAD の現在の技術では、一度完成したモデ
ルを再加工するのは容易ではないため、流用部品が多い改善型のプロジェクトよりも新規
プロジェクトが選ばれる傾向を裏付けている。また、標準部品の割合は、未導入プロジェ
クトの方が有意に高い。3 次元情報技術は、標準部品の組み合わせで出来るような比較的単
純なプロジェクトではむしろ使われない傾向にある。製造拠点では、3 次元導入プロジェク
トは、海外の割合が 32%(国内と両方を含む)あり、未導入プロジェクトの 16%に比べて
高い。製造拠点の海外進出に 3 次元情報技術が利用されていることが伺われる。
表3−2
調査対象最新プロジェクトの製品特性(有効回答の平均値。括弧内は回答数)
項目
総部品点数
新規部品点数割合
外注部品割合
標準部品割合
レイアウトの重要性
製造拠点
国内のみ
海外のみ
国内・海外両方
3−2
3 次元導入
プロジェクト
1619
(98)
64.96%***
(151)
45.01%
(91)
22.05%
(94)
4.43
(107)
68.3%
(114)
7.2%
(12)
24.6%
(41)
三次元未導入
プロジェクト
2036
(67)
54.38%
(146)
47.91%
(65)
30.69%***
(65)
4.43
(72)
84.5%
(136)
3.1%
(5)
12.4%
(20)
調査対象プロジェクトにおける 3 次元 CAD の利用
データ比率
調査対象プロジェクトの設計工程における各種データの比率を図3−1に示す。1998 年
調査に比べ、今回の調査では、2次元 CAD データの比率が 76%から 67%に減少し、ソリ
ッドの 3 次元データの割合が 12%から 21%に有意に増加している。製造に渡すデータでは、
ソリッドとサーフェスの 3 次元データの割合が増加し、外部企業に対しては、全種類の 3
18
次元データの割合が増加する傾向が見られる。1998 年頃の最新プロジェクトと現在の最新
プロジェクトを比較すると、3 次元化が着実にすすんでいることがわかる。
図3−1
調査対象プロジェクトにおけるデータ比率
設計工程(N=155:185)
手書き図面
3次元ワイヤーフレーム
3次元ソリッド
1998年調査 4.43
2001年調査 2.9
2次元CAD
3次元サーフェス
4.32 11.5
3.51
75.85
5.04
4.96
67.16
20.52
製造へ渡すデータ(N=144:173)
1998年調査 4.22
83.46
2001年調査 6.13
79.13
2.88
3.23
4.72
4.6
3.65
外部企業に渡すデータ(N=136:172)
19
6.08
1998年調査 6.04
2001年調査 6.77
5.67
79.6
4.93
3.05
6.44
73.31
4.38
7.29
ネットワーク利用
ネットワークを使った CAD データの伝送をおこなっている企業は、1998 年調査では
68%であったのに対し、2001 年調査では 75%に増加している。ネットワークの接続先とし
ては、国内の社内拠点 47%、国内他社(サプライヤーなど)45%、海外の自社拠点 23%、
海外の他社 13%となっている(2001 年調査)
。1998 年から 2001 年にかけてのネットワー
ク接続率の増加に最も貢献しているのは、国内他社に対する伝送で、12%増加している。
最終の正式図面・データ
最終の正式図面・データは、3 次元未使用プロジェクトでは 100%2 次元図面・データで
あるが、3 次元使用プロジェクトでは、2 次元の割合は 80%、3 次元データから出力した簡
略化された図面は 10%、3 次元データは 10%であった。
3 次元情報技術利用工程
3 次元 CAD を始めとした 3 次元情報技術を使用している工程を図3−2に示す(未使用
プロジェクトを含む)。2001 年度調査では、設計への利用率は、基本設計 42%、詳細設計
39%である。テスト・解析はこれをより多く 44%、次いで企業内プレゼンテーション 29%、
金型設計 27%、顧客へのプレゼンテーション 24%、金型への出図 24%、意匠デザイン23%、
試作への出図 19%、デジタル・モックアップ 18%、ラピッド・プロトタイピング 17%、
カタログ・取り扱い説明書 17%、サプライヤーへの出図 14%と続く。意匠デザイン工程で
は 3 次元 CAD の利用が早くから試されているが、ツールの機能と組織体制との適合の両面
で問題点が多いことが指摘されており、今回の調査でも意匠デザインが若干での利用が若
干減というかたちで現れている。他の工程では一様に利用率が伸びており、利用工程の多
様性も増していることがわかる。
20
図3−2
3次元情報技術利用工程(N=169:200)
意匠デザイン
製品の基本設計
製品の詳細設計
テスト・解析
金型設計
治工具設計
生産工程
金型への出図
1998年
2001年
サプライヤーへの出図
模型製作の為の出図
試作への出図
ラピッド・プロトタイピング
デジタルモックアップ
開発過程報告の企業内プレゼンテーション
顧客へのプレゼンテーション
カタログ・取扱説明書
%
0
3−3
10
20
30
40
50
3 次元 CAD 導入の影響
図3−3は、調査対象になっている最新の製品プロジェクトの成果を、以前の同種の
プロジェクトを比較して、『全くあてはまらない』から『全く当てはまる』まで5ポイント
のリカート・スケールで評価したものである。3 次元 CAD 利用プロジェクトは、調査した
31 項目中 28 項目で未利用プロジェクトに比べて高い点数をつけており、うち 22 項目にお
いて 95%以上の信頼性で有意差があった。
21
図3−3
3次元 CAD 導入の効果:2001 年調査
3次元ユーザー対ノンユーザー(N=106:71)
1
2
3
4
5
3.87
形状の矛盾が少なくなった***
3.16
製品品質が向上した***
3.66
3.24
開発期間が全体として短縮した***
3.58
3.14
サプライヤーとの共同開発が促進された***
3.51
2.97
量産出図までの開発期間が短縮した***
3.50
3.01
3.46
製造性(金型や加工、組立て)が向上した***
3.08
設計データがより容易に解析に利用できるようになった***
3.45
2.91
3.44
開発中の設計変更が減少した***
3.07
解析の種類が増えた***
3.39
2.94
生産技術・製造部門・協力企業により早期にデータを送ることができた***
2.69
試作製作がスピードアップした***
2.67
ラピッド・プロトタイピングが活用できた***
3.38
3.35
3.35
2.80
量産出図後量産までの開発期間が短縮した**
3.33
3.01
同時並行化が促進された***
3.33
2.91
3.30
3.16
製品の小型化、薄型化がよりうまく実現できた
意匠デザイナーと設計者とのコミュニケーションを密にすることができた***
3.29
2.83
3.23
協力企業の意見をよりうまく取りいれることができた***
2.70
3.22
3.14
海外生産や製造委託を容易にすることができた
試作回数が削減された***
3.21
2.77
3.20
2.99
開発工数が削減された
後工程からの寸法、形状の確認が減少した***
3.15
2.57
3.12
2.93
プレゼンテーションへ、CADデータが、よりうまく活用できた
3.05
3.19
設計者が製造要件を考慮した設計をよりうまく行なうことができた
3.00
設計工数が削減された
3.23
2.97
営業や顧客からの意見をよりうまく取りいれることができた**
2.63
2.94
3.11
ユニット・部品の流用、設計のモジュール化を、よりうまく推進することができた
試作や金型のコストが低下した***
2.91
2.30
生産技術・製造部門・協力企業により正確なデータを送ることができた***
2.90
2.43
社内の製造・生産技術・金型部門からの意見をよりうまく取りいれることができた***
2.34
製品のシリーズ展開をより容易におこなうことができた***
2.33
設計者自身がより多く解析をできるようになった
2.27
2001年3次元ユーザー
2.87
2.79
2.58
2001年3次元ノンユーザー
*印は、3次元ユーザーとノンユーザーの平均差の t 値の有意水準。*P<0.1, **P<0.05, ***P<0.01
22
これらのうち、3 次元 CAD 導入の目的として特に重要(平均 4.0 以上)とされている4
項目のうち、形状の矛盾の減少、製品品質の向上、開発期間短縮の3つの項目は、プロジ
ェクト評価でも 1∼3位の高得点をつけ、ノンユーザーに比べての中で 99%以上の水準で
有意差があり、ほぼ期待通りの効果をあげていると考えられる。
重要な項目としてあげられていた試作回数の削減については、3 次元未使用プロジェクト
に比べて有意に高かったものの、平均 3.21(3 は「どちらともいえない」)と絶対値はそれ
ほど高くなかった。3 次元情報技術は、試作製作を効率化して短期間に多くの試作品を低コ
ストで生み出す方向を支援する場合もあり、試作回数削減とは反対方向に作用した場合も
あったと考えられる。
図3−4 は、今回調査の3次元 CAD ユーザーと前回調査を比べたものである。以下の項
目で、90%以上の信頼性で増加していた。(*P<0.1, **P<0.05, ***P<0.01)
開発期間が全体として短縮した**
サプライヤーとの共同開発が促進された***
量産出図までの開発期間が短縮した**
ラピッド・プロトタイピングが活用できた***
量産出図後量産までの開発期間が短縮した*
協力企業の意見をよりうまく取りいれることができた*
海外生産や製造委託を容易にすることができた***
開発期間短縮効果が現れ、外部企業との協働への活用がすすんでいることが伺われる。
また、次の項目では、90%以上の信頼性で減少していた。
プレゼンテーションへ、CADデータが、よりうまく活用できた***
設計者が製造要件を考慮した設計をよりうまく行なうことができた*
生産技術・製造部門・協力企業により正確なデータを送ることができた***
社内の製造・生産技術・金型部門からの意見をよりうまく取りいれることができた**
製品のシリーズ展開をより容易におこなうことができた*
設計者自身がより多く解析をできるようになった**
これらの項目は、導入初期に達成される機能であり、現在は、総合的なパフォーマンス向
上や企業ネットワークにおける活用という段階に入っていると解釈できる。
23
図3−4
3次元 CAD 導入の効果:3次元ユーザー
1998 年調査 対 2001 年調査(N=106:59)*P<0.1, **P<0.05, ***P<0.01
1
2
3
4
5
3.95
3.87
形状の矛盾が少なくなった
3.61
3.66
製品品質が向上した
3.25
3.58
開発期間が全体として短縮した**
2.75
サプライヤーとの共同開発が促進された***
3.51
3.12
量産出図までの開発期間が短縮した**
3.50
製造性(金型や加工、組立て)が向上した
3.42
3.46
設計データがより容易に解析に利用できるようになった
3.25
3.45
開発中の設計変更が減少した
3.27
3.44
解析の種類が増えた
3.22
3.39
生産技術・製造部門・協力企業により早期にデータを送ることができた
3.17
3.38
試作製作がスピードアップした
3.37
3.35
2.78
ラピッド・プロトタイピングが活用できた***
3.35
量産出図後量産までの開発期間が短縮した*
3.05
3.33
同時並行化が促進された
3.27
3.33
製品の小型化、薄型化がよりうまく実現できた
3.22
3.30
意匠デザイナーと設計者とのコミュニケーションを密にすることができた
3.05
3.29
2.98
3.23
協力企業の意見をよりうまく取りいれることができた*
2.49
海外生産や製造委託を容易にすることができた***
3.22
試作回数が削減された
3.22
3.21
開発工数が削減された
3.05
3.20
3.39
3.15
後工程からの寸法、形状の確認が減少した
プレゼンテーションへ、CADデータが、よりうまく活用できた***
3.12
3.58
3.29
3.05
設計者が製造要件を考慮した設計をよりうまく行なうことができた*
設計工数が削減された
2.93
3.00
営業や顧客からの意見をよりうまく取りいれることができた
2.83
2.97
ユニット・部品の流用、設計のモジュール化を、よりうまく推進することができた
3.00
2.94
2.78
2.91
試作や金型のコストが低下した
生産技術・製造部門・協力企業により正確なデータを送ることができた***
3.34
2.90
社内の製造・生産技術・金型部門からの意見をよりうまく取りいれることができた
**
2.87
3.24
3.05
2.79
製品のシリーズ展開をより容易におこなうことができた*
設計者自身がより多く解析をできるようになった**
2.58
24
2.93
1998年3次元ユーザー
2001年3次元ユーザー
4章
3次元情報技術導入に伴うコミュニケーションとタスクの変化
今回の調査では、新たに部門間・企業間コミュニケーションとタスクの変化をみている。
今回調査の 200 サンプルを、最近のプロジェクトにおける3次元 CAD の利用率の高低によ
って3つのグループに分けて比較をおこなった。最近のプロジェクトでの3次元 CAD の利
用率は、同種の過去のプロジェクトと比べた場合の3次元 CAD 利用の増加率と高い相関が
ある(0.74)。ここでは、最近終了した代表的な製品プロジェクトで設計工数に3次元 CAD
(ワイヤフレーム、サーフェス、ソリッドの合計)を利用する率が 50%以上であったグルー
プをヘビー・ユーザー(N=77)、1∼49%であったグループをライト・ユーザー(N=55)、
利用していないグループをノンユーザー(N=53)と呼ぶ。
4−1
コミュニケーションのフロント・ローディング
図4−1は、製品設計者と他の各部門・協力企業において、量産出図前のコミュニケー
ションの増減値(『大幅に減少』から『大幅に増加』まで5ポイントのリカート・スケール)
から量算出図後のコミュニケーションの増減値(同じく5ポイント・スケール)を減じた
「部門間コミュニケーションのフロント・ローディング」の程度を表したものである。3
次元 CAD のノンユーザーは、わずかにフロント・ローディングの傾向が見られるものの、
3次元 CAD ユーザーに比べてその程度は小さい。3次元利用者の間では、ヘビー・ユーザ
ーがライト・ユーザーに比べてフロント・ローディングの程度が大きく、特に、製品設計者
と金型・冶工具設計者、金型メーカー、部品サプライヤー、意匠デザイナーとの間での差が
大きい。3次元 CAD の導入と部門間のコミュニケーションの前倒しは深い関連があること、
また、大規模な導入であるほどその傾向が強まることが示唆されている。
25
図4−1:部門間・企業間コミュニケーションのフロント・ローディング
製 品 設 計 者 と部 品 サ プ ラ イ
ヤー
4−2
3Dライトユーザー(50%未満)
製 品 設 計 者 と外 部 の 金 型 メー
カー
3Dノンユーザー
製 品 設 計 者 と金 型 ・冶 工 具 設
計者
製 品 設 計 者 と解 析 者
製 品 設 計 者 と意 匠 デ ザ イ ナー
0.5
0.45
0.4
0.35
0.3
0.25
0.2
0.15
0.1
0.05
0
3Dヘビーユーザー(50%以上)
各部門の仕事量の変化
まず、製品開発に関わる総工数は、以前の製品プロジェクトを 100 とした場合、ノンユ
ーザーは 93、3次元 CAD ライトユーザーは 91、ヘビーユーザーは 98 であった。3 次元情
報技術導入に関係なく、総工数削減がすすんでいるが、3 次元 CAD 導入をおこなうと開発
工数にはむしろマイナスに働くという側面がここでも現れている。
各部門別にみてみよう。図4−2は、各部門の仕事量の増減(『大幅に減少』から『大幅
に増加』まで5ポイントのリカート・スケール)を示したものである。3次元 CAD ユーザ
ーは、上流にある製品設計者、解析者、意匠デザイナーの 3 部門が平均で仕事量を増加させ、
下流の4部門(試作・テスト、金型、冶工具、工程)が減少しており、コミュニケーション
だけでなく、作業負荷にもフロント・ローディングがおこっていることがわかる。特にヘ
ビー・ユーザーにその傾向が顕著である。ノンユーザーはほとんどフラットであり、作業
26
負荷のフロント・ローディングの傾向はほとんど見られない。
図4−2:作業負荷のフロント・ローディング
3.8
3.6
3.4
3.2
3
2.8
2.6
2.4
工 程 エ ンジ ニア
3Dライトユーザー(50%未満)
冶工 具設 計者
テ ス ト担 当 者
・
金型 設計 者
試作 製造
4−3
解析 者
3Dノンユーザー
製品 設計 者
意匠 デザ イ ナー
2.2
3Dヘビーユーザー(50%以上)
各部門のタスクの変化
各部門の仕事が質的に変わったどうかについても、『全くあてはまらない』から『全くあ
てはまる』までの5ポイントのリカート・スケールで尋ねた(図4−3)。平均で中間値で
ある3以上の変化があった項目は、「製品設計者が生産要件を考慮して設計するようにな
った」「製品設計者が金型要件を考慮して設計するようになった」「製品設計者が解析作業
までおこなうようなった」の3つの項目だけであるが、ほとんどの項目においても、3次
元 CAD ユーザーの方がノンユーザーよりも高い得点をつけており、3次元 CAD 導入がタ
スクの変化と関連があることが示されている。
27
図4−3:タスクの変化
1
2
3
意匠デザイナーが製品要件を考慮してデザインするように
なった
4
5
2.52
2.64
2.98
2.46
2.38
意匠デザイナーが金型・生産要件まで考慮してデザイン
するようになった
2.86
2.30
2.28
意匠デザイナーが製品設計まで行うようになった
2.08
2.75
製品設計者が金型要件まで考慮して設計するようになっ
た
3.19
3.46
2.16
2.21
製品設計者が金型設計まで行うようになった
2.00
3.22
製品設計者が生産要件を考慮して設計するようになった
3.57
3.63
2.62
製品設計者が解析作業まで行うようになった
3.30
3.35
2.31
2.44
解析者が製品設計を行うようになった
1.98
2.05
金型設計者が具体的な設計作業に口を出すようになった
2.64
2.65
1.90
1.94
1.83
金型設計者が製品設計まで行うようになった
2.35
工程エンジニアが製品設計に口を出すようになった
2.72
2.67
2.51
2.67
2.63
製品設計と生産技術に分けられる組織構造がより統合す
る方向へと改革された
2.29
製品設計と解析を分けられる組織構造がより統合する方
向へと改革された
3Dノンユーザー
4−4
2.83
2.73
3Dライトユーザー(50%未満)
3Dヘビーユーザー(50%以上)
サプライヤーとの関係の変化
外部の部品メーカーや金型メーカーとのサプライヤーとの関係においては、絶対値が3
より大きい項目がヘビー・ユーザーにおける「より詳細な設計・金型データが金型メーカ
ーに渡されるようになった」だけであるものの、社内タスク変化と同様に、3次元 CAD ユ
ーザー(特にヘビー・ユーザー)の方がノンユーザーよりも高い得点をつけており、3次
元 CAD 導入との関連が示唆されている(図4−4)。
28
図4−4:サプライヤーとの関係の変化
1
2
3
4
1.81
サプライヤーと3次元CADデータの統合が図られた
2.13
2.75
1.75
金型メーカーと3次元CADデータの統合が図られた
2.25
3.00
より詳細な設計・
金型データが金型メーカに渡されるように
なった
2.12
2.67
3.47
2.35
2.37
より詳細な設計CADデータをサプライヤーから得るように
なった
より詳細な設計・金型データを金型メーカーから得るように
なった
2.78
2.08
2.23
2.66
外注部品の割合が増えた
2.50
2.31
2.39
同じ外注部品でも設計をよりサプライヤーにまかせるように
なった
2.28
2.15
2.47
金型設計を外部の金型メーカーによりまかせるようになった
金型メーカーやサプライヤーにデータを渡す前に3次元デー
タの加工業者を利用するようになった
サプライヤーから部品設計に関するノウハウを学んだ
2.30
2.37
2.60
1.85
2.06
2.35
2.27
2.39
2.53
2.15
金型メーカーから金型設計・製作のノウハウを学んだ
2.44
2.98
3Dノンユーザー
3Dライトユーザー(50%未満) 3Dヘビーユーザー(50%以上)
29
5
参考文献
青島矢一, 延岡健太郎, 竹田陽子,「新世代3次元 CAD の導入と製品開発プロセスへの影響」
ITEM ディスカッションペーパー, No.33, 2000 年 1 月.
機械振興協会経済研究所, 「製品開発における3次元 CAD 利用の現状に関する調査」, 1999
年 5 月.
30