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九州工業大学学術機関リポジトリ
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金属材料の結晶粒微細化新プロセスの開発および恒温鍛
造との複合化による加工性と特性向上に関する研究
中村, 克昭
2011-12
http://hdl.handle.net/10228/4897
Rights
Kyushu Institute of Technology Academic Repository
金属材料の結晶粒微細化新プロセスの開発
および恒温鍛造との複合化による
加工性と特性向上に関する研究
2011 年 12 月
中村 克昭
目
第1章
序
次
論
1.1 金属および塑性加工を取り巻く社会環境・・・・・・・・・・・・
1
1.2 自動車産業を取り巻く環境・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2
1.3 金属の結晶粒微細化技術の現状と課題・・・・・・・・・・・・・
4
1.4 本研究の目的と着眼点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5
1.5 本論文の構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
6
【参考文献】
第2章
強捻り局部加熱急冷による連続結晶粒微細化法の開発
2.1 従来技術
2.1.1.
結晶粒微細化の効果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
9
2.1.2.
結晶粒微細化法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13
2.1.3.
強ひずみ加工による結晶粒微細化法とその課題・ ・・・・・・ 16
2.1.3.1
ECAP 法
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17
2.1.3.2
ARB 法
2.1.3.3
HPT 法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
19
2.1.3.4
捻り押出法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
20
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18
2.2.
従来の強ひずみ結晶粒微細化法(SPD)の課題
・・・・・・・・
21
2.3.
強連続結晶粒微細化法“RMA-CREO”の開発 ・・・・・・・・・・
22
2.4
2.3.1
CREO 処理の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22
2.3.2
CREO 装置の開発 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 24
言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32
結
【参考文献】
第3章
3.1
強捻り局部加熱急冷連続結晶粒微細化法のマグネシウム合金への適用
FCC(アルミニウム)合金への適用
3.1.1
緒
3.1.2
実験方法
言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
37
3.1.2.1
供試材・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
38
3.1.2.2
CREO 処理法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
38
3.1.2.2.1
CREO 処理法の基本原理・・・・・・・・・・・・・
38
3.1.2.2.2
CREO 処理装置・・・・・・・・・・・・・・・・・
39
3.1.2.2.3
CREO 処理条件の定義・・・・・・・・・・・・・・
41
3.1.2.2.4
温度測定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
41
3.1.2.2.5
CREO 処理条件 ・・・・・・・・・・・・・・・・
41
3.1.2.3
結晶組織観察
3.1.2.4
引張試験 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 46
3.1.3
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
44
結果および考察
3.1.3.1
温度測定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 47
3.1.3.2
CREO 処理限界・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 49
3.1.3.3
結晶組織解析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 54
3.1.3.4
引張試験・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 65
3.1.4.
言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 66
結
【参考文献】
3.2
HCP(マグネシウム)合金への適用
3.2.1
緒
言
3.2.1.1
マグネシウム合金の特徴・・・・・・・・・・・・・・・・・ 69
3.2.1.2
本研究の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 71
3.2.2
実験方法
3.2.2.1.
供試材・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
72
3.2.2.2.
試験片形状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
72
3.2.2.3
CREO 処理
3.2.2.3.1
CREO 処理設備 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・73
3.2.2.3.2
CREO 処理中の温度測定 ・・・・・・・・・・・・・・・73
3.2.2.3.3
CREO 処理条件 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・74
3.2.2.4
結晶組織観察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・76
3.2.2.5
圧縮試験・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・78
3.2.3
結果および考察
3.2.3.1.
CREO 処理
3.2.3.1.1
温度測定結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
81
3.2.3.1.2
CREO 処理後外観 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
82
3.2.3.1.3
CREO 処理限界 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
83
3.2.3.2
結晶組織観察結果
3.2.3.2.1
マクロ組織観察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
87
3.2.3.2.2
CREO 処理による結晶方位変化・・・・・・・・・・・・
88
3.2.3.2.3
CREO 処理条件による結晶組織変化 ・・・・・・・・・
90
3.2.3.2.4
結晶粒径分布の変化・・・・・・・・・・・・・・・・・
99
3.2.3.2.5
結晶粒微細化に関する考察・・・・・・・・・・・・・・103
3.2.3.3
結晶方位分布測定結果
3.2.3.3.1
押出材・
・・・・・・・・・・・・・・・・・
106
3.2.3.3.2
CREO1 パス処理材・・・・・・・・・・・・・・・・・
107
3.2.3.3.3
CREO2 パス処理材・・・・・・・・・・・・・・・・・
111
3.2.3.3.4
結晶方位分布に関するまとめと考察
・・・・・・・・・
112
3.2.3.4.1
室温圧縮試験・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
117
3.2.3.4.2
温間圧縮特性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
118
3.2.3.4.3
CREO 処理による微細組織と塑性加工性に関する考察・ 125
3.2.3.4
3.2.4
圧縮試験
結
言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
127
【参考文献】
第4章
結晶粒微細化マグネシウム合金の恒温塑性加工・・・・・・・・・・130
4.1 マグネシウム合金の拡張押出加工
4.1.1 緒
言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 132
4.1.2 実験方法
4.1.2.1
供試材・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 133
4.1.2.2
CREO 処理条件・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 133
4.1.2.3
拡張押出実験装置・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 133
4.1.2.4
CREO 材の拡張押出評価条件・・・・・・・・・・・・・・・ 134
4.1.2.5
結晶組織観察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 136
4.1.2.6
機械特性試験・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 136
4.1.3 実験結果および考察
4.1.3.1
棒材の結晶組織・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 137
4.1.3.2
拡張押出結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 138
4.1.3.3
各拡張押出条件における外観・光顕組織・硬度分布・・・・・ 139
4.1.3.4
CREO 処理拡張押出の SEM-EBSP 観察結果
4.1.3.4.1
棒材部 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 146
4.1.3.4.2
拡張押出部・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 152
4.1.3.4.3
CREO 処理材の拡張押出による結晶組織変化・・・・・ 157
4.1.3.5
4.1.4
CREO 処理拡張押出の硬度変化・・・・・・・・・・・・・
163
言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 164
結
【参考文献】
4.2 マグネシウム合金の角筒押出加工
4.2.1 緒
言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 167
4.2.2 実験方法
4.2.2.1.
供試材・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 169
4.2.2.2.
結晶粒微細化処理・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
169
4.2.2.3.
熱安定性試験・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 169
4.2.2.4.
角筒押出・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 170
4.2.2.5.
使用プレス・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 172
4.2.2.6.
角筒押出条件・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 173
4.2.2.7.
解析方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 174
4.2.3 実験結果
4.2.3.1.
CREO 処理による結晶組織変化・・・・・・・・・・・・・・ 176
4.2.3.2.
熱安定性試験結果
4.2.3.3.
角筒押出結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 186
4.2.3.4.
角筒押出による結晶組織変化・・・・・・・・・・・・・・・ 190
4.2.3.5.
角筒押出による硬度分布変化・・・・・・・・・・・・・・・ 200
4.2.3.6.
引張試験結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 203
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 183
4.2.4 考
察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 205
4.2.5 結
言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 206
【参考文献】
4.3 マグネシウム棒材からの板側法押出法
4.3.1 緒
言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
208
4.3.2 1 方向押出成形
4.3.2.1.
1 方向押出成形法の概念・・・・・・・・・・・・・・・・・ 210
4.3.2.2.
実験条件・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 212
4.3.2.3.
実験結果および考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 217
4.3.2.4.
1 方向押出の結言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 225
4.3.3 2 方向板押出成形
4.3.3.1.
2 方向押出成形法の概念 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 227
4.3.3.2.
実験条件・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 228
4.3.3.3.
実験結果および考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 233
4.3.3.4.
2 方向押出の結言 ・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 244
4.3.4.
言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
245
押出鍛造まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
248
結
【参考文献】
4.4
第5章
結
論
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
250
【関連論文】・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・252
第 1章
序
論
1.1 金 属 お よ び 塑 性 加 工 を 取 り 巻 く 社 会 環 境
金属材料および塑性加工を取り巻く環境は大きく変化してきている。大量生産
や品質の安定化だけでは不十分な状況にある。
多くの金属部品から成り立っている自動車についても、古くはオイルショック
か ら 排 ガ ス 規 制 ・ 燃 費 規 制 が 始 ま り 、 FF( Front engine Front drive ) 化 に よ る
軽量化・低燃費化が大幅に推進された。
2000 年 代 に 入 る と 、欧 州 か ら の 環 境 物 質 規 制 が 始 ま り 、電 子・電 気 機 器 に お け
る 特 定 有 害 物 質 の 使 用 制 限 に つ い て の 欧 州 連 合 (EU) に よ る 指 令 で あ る RoHs
【 Restriction of Hazardous Substances( 危 険 物 質 に 関 す る 制 限 )】、 新 化 学 品
規 制 で あ る
REACH 【 Registration,
Evaluation,
Authorization
and
Restriction of Chemicals 】 等 の 環 境 規 制 が 開 始 さ れ た 。 日 本 の 大 手 家 電 メ ー カ
の 取 扱 説 明 書 の 印 刷 用 イ ン ク か ら カ ド ミ ウ ム【 Cd】が 検 出 さ れ た こ と か ら 、オ ラ
ンダにてクリスマス商戦時に輸入禁止措置が取られたことで大きな話題となった。
すなわち性能向上および加工性向上目的で添加されてきていた元素も、人間お
よび環境へのダメージを与える場合には排除される可能性が高くなった。 特に切
削 性 改 善 お よ び 鋳 造 流 動 性 改 善 の 目 的 で の 鉛【 Pb】に つ い て は 、有 害 性 が 強 く 指
摘 さ れ て お り 多 く の 製 品 で Pb 除 去 も し く は 低 減 の 試 み が 成 さ れ て い る 。
代 表 例 と し て 、 直 接 飲 用 に 使 用 さ れ る 水 栓 金 具 に 約 5% 含 ま れ る Pb に つ い て 、
ビ ス マ ス 【 Bi】 等 を 添 加 し た 新 合 金 の 開 発 、 内 面 の 洗 浄 お よ び コ ー テ ィ ン グ に よ
る Pb 流 出 お よ び 摂 取 の 低 減 、 そ し て 結 晶 粒 微 細 化 銅 合 金 お よ び 恒 温 鍛 造 の 開 発
に よ る Pb を 全 く 排 除 し た 銅 合 金 製 品 の 生 産 を 可 能 と し た 技 術 開 発 等 が 行 わ れ て
き た 。 1 ) ~ 11 )
ま た 自 動 車 の ド ラ イ ブ シ ャ フ ト 等 に 切 削 性 改 善 目 的 で 添 加 さ れ る 約 0.4%の Pb
を低減する材料技術および切削技術開発が進められてきた。
1
1.2.
自動車産業を取り巻く環境
現在の日本において最も主要な工業である自動車産業は、非常に多くの課題を
乗り越えて世界有数の生産量となってきている。しかしながら日本の自動車産業
に対して、非常に多くの課題が山積している状況にある。
自動車については、各国で燃費規制および炭酸ガス排出規制が設定されてきて
おり、商品開発において避けられない大きな課題となっている。古くはオイルシ
ョックから排ガス規制・燃費規制が始まり、軽量化・低燃費化が大幅に推進され
た。この時に、塑性加工の領域では等速ジョイントの温間密閉鍛造等の高い歩留
ま り を 誇 る ニ ア ネ ッ ト シ ェ イ プ 鍛 造 技 術 が 開 発 さ れ た 。1990 年 代 か ら は 急 速 に 円
高が進み、海外シフトが進行し、生産・部品調達のグローバル化が推進された。
金属部品においても低コスト化の要求が極めて高くなり、日本国内の企業には低
コスト化と日本ならではの差別化技術が必要不可欠となってきた。
燃 費 規 制 は 米 国 の CAFÉ【 Corporate Average Fuel Efficiency(企 業( 別 )平
均 燃 費 )】基 準 、日 本 に お い て も 2015 年 規 制 に よ っ て 2002 年 対 比 で 12% 減 を 目
標 と し て 設 定 さ れ て い る 。 12)
燃費向上のためには、ハイブリッド技術や電気自動車のような動力源に関する
新 技 術 導 入 が 話 題 と な る が 、 HV(Hybrid)車 で あ れ EV(Electric Vehicle)で あ れ
燃費向上においては軽量化技術である。アルミボディや超高張力鋼板技術プレス
ハードニングの採用が進んでいる。軽量化技術には、軽量技術を使用する方向と
高強度化によって使用材料を低減して軽量化する手法に大きく区分されるが、ア
ルミニウム合金等の軽量合金においても高強度化による比強度の向上は欠かせな
い技術である。
更 に 2010 年 頃 か ら 資 源 国 で あ っ た 新 興 国 の 経 済 発 展 に よ り 、 レ ア メ タ ル の 供
給不足の懸念が拡大してきた。一般には知られていなかったが、日本の金属材料
および部品には多種のレアメタルが添加されており、微量添加ではあるが必要不
可 欠 な 添 加 元 素 と な っ て い る 。中 で も マ グ ネ シ ウ ム は 生 産 量 の 80% を 中 国 1 国 に
頼っているが、アルミニウム合金の強化材として非常に重要である。 すなわち今
後の生産安定性を確保するためには、レアメタルへの依存度を如何に低下させる
かが大きな課題となる。
またリサイクル性も大きな課題である。自動車用にアルミニウム合金を製造し
て い る メ ー カ は 、毎 月 100 種 以 上 の ア ル ミ ニ ウ ム 合 金 を 製 造 し て い る が 、成 分 上
の他品種生産は生産性を低下させるのみならず、成分調整を要求するためリサイ
2
クル性にも悪影響を及ぼす。
一方で、自動車に求められる安全基準は厳しくなり、安全性向上のために搭載
されるエアバッグやボディサイズのアップ等、重量増加を引き起こす安全設備の
追加搭載が大きく増加している。
以上のように、自動車産業が直面している技術課題は多岐にわたっている。こ
れ ら の 課 題 を Fig.1.1 に ま と め た 。
1,
有害元素排除規制
2,
レアメタルの不足
3,
リサイクル性の向上
4,
自動車の燃費規制
5,
安全性の向上
6,
低コスト化の要求
7,
新興国の発展による差別化技術の必要性増大
Fig.1.1
Recent needs for automobile
これらの山積した課題に対して一つの解決策として、
【元素に頼らない合金設
計】と【ニアネットシェイプ化による材料使用量減】の方向性を挙げることが出
来る。日本は、結晶粒微細化およびニアネットシェイプに関しての研究開発が最
も進んだ国と言え、多くの研究者が開発を進めている。
3
1.3
金属の結晶粒微細化技術の現状と課題
金属材料に関して、添加元素に頼らない【結晶粒制御(微細化)による特性
向上】が有効と考える。特に近年活発な研究報告が見られる【強ひずみによる結
晶 粒 微 細 化 法 】( Severe Plastic Deformation: SPD) 1 3 ) は 、 大 き な 塑 性 変 形 に よ
り結晶粒を微細化する手法であり、添加元素を必要としていない手法である。
ECAP(Equal Channel Angular Pr essing) や
ARB(Accumulative Rolling
Bonding)等 の 多 く の プ ロ セ ス が 提 案 さ れ 研 究 さ れ て き て お り 、ナ ノ オ ー ダ ー の 結
晶粒微細化を実現し大幅な機械的性質の向上および温間延性の向上効果が得られ
ることが分かっている。一方で、これまで提案されてきた強ひずみプロセスにお
いては以下の問題が残されていた。
①プロセスに連続性が乏しく、生産性およびコスト面から工業的に実用化
困難であった。
②熱処理型合金への適用が困難であった。
③結晶粒微細化した金属材料が、次工程である鍛造等の塑性加工における加
工熱によって、結晶粒が粗大化し微細化効果が失われる。
④微細化材料の加工特性を活用するには恒温鍛造法が有効であるが、実用的
な恒温鍛造法の開発が成されてきていない。
⑤微細化材料を適正な恒温鍛造条件で加工することで、更なる微細化および
特性向上が期待できるが、研究開発は十分に成されてこなかった。
4
1.4 本 研 究 の 目 的 と 着 眼 点
筆 者 等 は 、局 部 加 熱 と 冷 却 し た 棒 金 属 材 料 に 、局 所 的 な ね じ り 塑 性 変 形 を 付
与 す る 事 で 、連 続 的 で 高 生 産 性 の 結 晶 粒 微 細 化 プ ロ セ ス RMA-CREO( 略 し て
CREO)1 4 ) に 開 発 に よ っ て 、前 項 で 示 し た 強 ひ ず み 結 晶 粒 微 細 化 法 の 課 題 を 解
決 す る こ と を 試 み た 。 RMA-CREO の RMA と は 、 Rinascimento( 復 活 =ル ネ
サ ン ス ) Metalli( 金 属 ) Arti( 技 術 、 技 能 ) の イ タ リ ア 語 か ら 作 っ た 造 語 で
あ り 、金 属 が 本 来 有 し て い る 特 性 を 引 き 出 す こ と を 意 味 し て い る 。ま た CREO
は 、 Continuo( 連 続 )Ruotato( 回 転 )Evolutione( 革 新 的 な )Organizzazion
( 制 御 シ ス テ ム )di Metallo-Processo( 金 属 プ ロ セ ス )の イ タ リ ア 語 の 頭 文 字
からの造語で、金属の連続ねじりシステムを意味している。
ま た CREO で 結 晶 粒 微 細 化 し た 金 属 材 料 を 塑 性 加 工 す る 際 の 加 熱 お よ び 摩 擦
発熱等による結晶組織の粗大化を抑制すべく、粗大化温度以下で大変形を可能に
する恒温鍛造法に着目した。更に鍛造加工法として、小さな加工力で大サイズの
成形品を得る事が可能で、加工中に微細化に有効なせん断ひずみを付与する事が
可 能 な 【 押 出 鍛 造 加 工 法 】 を 考 案 し 、 CREO 処 理 に よ る 微 細 結 晶 粒 金 属 材 料 と の
組合せ技術を開発した。
本 研 究 に お い て は 、 添 加 元 素 に 頼 ら な い 結 晶 粒 微 細 化 プ ロ セ ス RMA-CREO お
よび、微細化材料を最大限に活用可能な塑性加工プロセスである恒温押出鍛造法
について研究を行った。
5
1.5
本論文の構成
本 論 文 に お い て は 、連 続 処 理 可 能 な 結 晶 粒 微 細 化 技 術 CREO に つ い て 、マ グ ネ
シウム合金について、処理条件である処理温度・ひずみ量・処理装置の構造など
について詳細検討し、結晶粒微細化効果と処理パラメータとの関係性について研
究した。
一方、鍛造加工について、従来は結晶粒微細化技術開発と鍛造技術開発は、全
く独立した状態で行われてきており相乗効果が得られてこなかった。
本研究では、マグネシウム合金を結晶粒微細化して鍛造温度を低下させること
によって、金型加熱温度を低く抑えた恒温鍛造を実現した。更に押出鍛造成形法
によって、小さな荷重で複雑形状を高精度に鍛造加工するとともに、加工中にせ
ん断ひずみを付与する事で結晶粒微細化を促進する加工技術を開発した。
第 1 章 で は 、電 子・電 気 機 器 に お け る 特 定 有 害 物 質 の 使 用 制 限 に つ い て の 欧
州 連 合 (EU)に よ る 指 令 で あ る RoHs、新 化 学 品 規 制 で あ る REACH 等 の 環 境 規
制 に 代 表 さ れ る 金 属 を 取 り 巻 く 安 全 と 環 境 の 要 求 。ま た 自 動 車 業 界 を 取 り 巻 く
環 境・レ ア メ タ ル・リ サ イ ク ル 性・燃 費 規 制・安 全 性・低 コ ス ト 化・新 興 国 の
発展による差別化技術の必要性等について論じた。
第 2 章 で は 、従 来 の 結 晶 粒 微 細 化 技 術 で は 実 現 で き て い な か っ た 、連 続 高 生
産 性 の 結 晶 粒 微 細 化 技 術 “RMA-CREO”の 開 発 に つ い て 論 じ た 。
第 3 章 で は 、 面 心 立 方 格 子 で あ る 非 調 質 系 ア ル ミ ニ ウ ム Al-Mg 合 金 に つ い
て 、CREO 処 理 に よ る 結 晶 粒 微 細 化 の 効 果 を 明 確 に し た 。ま た 強 い 異 方 性 を 有
し 塑 性 加 工 性 が 低 い 稠 密 六 方 格 子 の マ グ ネ シ ウ ム 合 金 に つ い て 、CREO 処 理 を
用 い た 結 晶 粒 微 細 化 に よ る 、高 強 度 化 、異 方 性 お よ び 温 間 塑 性 加 工 性 に つ い て
評価した。
第 4 章 で は 、CREO 処 理 に よ っ て 結 晶 粒 微 細 化 し た マ グ ネ シ ウ ム 合 金 AZ61
を 使 用 し て 、低 荷 重 で 複 雑 で 大 型 の 成 形 が 可 能 と な る 恒 温 押 出 成 形 に つ い て 論
じ た 。基 本 押 出 成 形 法 と し て【 拡 張 押 出 法 】を 考 案 し 、更 に 拡 張 押 出 法 の 応 用
法 と し て 、中 空 形 状 を 得 る【 角 筒 押 出 法 】お よ び 板 形 状 を 得 る【 板 押 出 法 】を
開 発 し 、成 形 性 に 付 い て 評 価 す る と 共 に 、CREO 処 理 で 微 細 化 組 織 を 押 出 鍛 造
で付与したせん断ひずみによって更なる微細化と高強度化の可能性について
評価した。
以上によって、元素に頼らず高強度化し、かつ中空板形状の金属部品製造の可
能性について評価した。
6
【参考文献】
1)
松原
隆二、芦江
伸之、伊藤
幸三、萩原
光一、中村
克昭
“ 熱 間 延 性 に 優 れ た 銅 -亜 鉛 合 金 の 諸 特 性 ( 第 1 報 )”
(1997.11.12) p5
塑性加工連合講演会
2)
日経メカニカル
1998.12
no531
3)
日経メカニカル
1999.6
no537
4)
中村
克昭、久塚
清和、阿部
洋典
“ 高 強 度 ・ 高 耐 食 性 ・ 高 鍛 造 加 工 性 の 新 材 料 「 TZ メ タ ル 」”
プレス技術
5)
第 37 巻
第 2 号 (1999 年 2 月 号 )
R.Matsubara,N.Ashie、 K.Nakamura and S.Miura
“ Superplastic Forming of Corrosion Resistance CuZnSn Alloys ”
Material Science Forum Vols.304 -306(1999) pp.753 -758
6)
K.Neishi , T.Uchida , A.Yamauchi , K.Nakamura , Z.Horita ,
T.G.Langdon
“ Low-temperature superplasticity in a Cu -Zn-Sn alloy prpcessed by
severe plastic deformation ”
Material Science and Engineering A307 (2001) 23 -28
7)
中村
克昭
“素材面から見た塑性加工(ニアネットシェイプ)の技術展望”
2000.8
生産財マーケティング
8)
日経メカニカル
9)
中村
2000.12
克昭、芦江
A-66
no555
伸之、松原
隆二、東
洋二、三浦
精
“ 超 塑 性 銅 合 金 “ EES メ タ ル ” と 鍛 造 加 工 へ の 応 用 “
日本金属学会
10) 白 石
松原
まてりあ
成 輝 、中 島
第 40 巻
康 紀 、中 村
第 2号
克 昭 、東
(2001)
洋 二 、内 尾
健 司 、芦 江
隆二
“銅合金のニアネットシェイプ鍛造”
型技術
11) 中 村
第 13 号
(2001 年 12 月 号 )
克昭、竹野下
秀満、芦江
伸之、松原
“ 新 銅 合 金 EES の 特 性 と 超 塑 性 鍛 造 へ の 応 用 ”
素 形 材 2001.9 p17
12) 小 宮 山
涼一
7
隆二、東
洋二
伸之、
米 国 CAFÉ 基 準 ( 自 動 車 燃 費 基 準 ) の 概 要
13) 森 永
正彦、古原
忠、戸田
金属材料の加工と組織
IEEJ : 2008 年 3 月 号
p1
祐之
共立出版
p 132
14) Katsuaki.Nakamura , Koji Neishi , Kenji Kaneko , Michuhiko Nakagaki
and Zenji Horita
“ Development of Sever Torsion Straining Process for Rapid Continuous
Grain Refinement“
Materials Transactions,Vol.45.No.12(200 4) pp.3388 to 3342
8
第 2章
強捻り局部加熱急冷による連続結晶粒微細化法の開発
2.1 従 来 技 術
2.1.1 結 晶 粒 微 細 化 の 効 果
1)
微細化による強度上昇
金属の結晶粒微細化により多くの特性向上が期待できる事から、多くの研究が
成されてきている。向上する特性として最も顕著であるのが、延性低下を最小限
に留めての強度向上である。特に降伏点強度の向上は顕著であり、ホールペッチ
の 関 係 式 ( Hall Petch relationship) と し て 良 く 知 ら れ て い る 。 1 )
σ y =σ 0 +k y d -1/2
多結晶体金属材料において、結晶粒界は転位の移動を阻害する事で降伏応力σ
y を 上 昇 さ せ る 。 結 晶 粒 の 微 細 化 に よ っ て 粒 径 d の 平 方 根 の 逆 数 ( d -1/2 ) に 比 例
して増大する。これは結晶粒界に転位の集積が生じ、結晶粒界が 1 次すべりの転
位 の 移 動 を 阻 害 す る 事 か ら 、障 壁 の 役 割 と な る た め に 結 晶 粒 界 近 傍 に て 2 次 す べ
りが発生するタイミングを降伏点としている。
結晶粒系と硬さとの関係を超微細粒領域にて、鉄鋼材料について以下の式が成
り立つ事が示されている。
σ y [ GPa] =0.1+0.0006d -1/2 ( d:mm)
Hv[ GPa] =0.6+0.0018d -1/2 ( d:mm)
Fig.2.1.1
Relation between grain size and Vickers hardness
9
以 上 の 式 に 基 づ い て 整 理 さ れ た 結 果 ( Fig.2.1.1) 2 ) に よ れ ば 、 100nm 付 近 を 境
界 と し て 、粗 粒 領 域 に お い て は ホ ー ル ペ ッ チ の 関 係 式 が 良 く 成 り 立 つ の に 対 し て 、
100nm よ り も 微 細 な 結 晶 粒 領 域 で は ホ ー ル ペ ッ チ の 関 係 式 に 対 し て 硬 度 低 下 を
示 す 事 が 分 か る 。 こ れ は 100nm 以 下 に お い て 、 結 晶 粒 界 層 の 全 体 の 中 で の 比 率
が上昇するに伴い生じたものと報告されている。
以 上 の 結 果 に お い て 、結 晶 粒 サ イ ズ に よ っ て 強 度 向 上 の 限 界 は 存 在 す る も の の 、
金属材料の強度特性が超微細粒領域においても向上する事がわかる。
2)結 晶 粒 微 細 化 と 超 塑 性
粒子すべりモデルを使った計算解析においても、コア・マントルモデルをもち
い て 引 張 試 験 と の 比 較 を 行 っ た 報 告 が あ る 。 3)
Fig. 2.1.2
Sliding inclusion model
Fig.2.1.3 Tensile behaviors
on constitutive laws
粒子とマトリクスの界面にすべりモデルを導入した粒子分散モデルを用いて、
計 算 解 析 を 行 っ た 。 こ の 結 果 、 弾 塑 性 流 れ 則 を 用 い た Fig.2.1.3 (a)で は ネ ッ キ ン
グ を 生 じ も の の 、Backofen に よ り 提 案 さ れ て い る ひ ず み 速 度 依 存 性 を 現 す 構 成 則
を 用 い た (b)で は ひ ず み は 分 散 さ れ て 変 形 の 局 所 化 が 見 ら れ ず 、超 塑 性 特 有 の ネ ッ
キ ン グ せ ず に 大 き な 変 形 に 達 す る 特 徴 を 良 く 表 し て い る 。 5)
結 晶 粒 微 細 化 は 、単 に 強 度 を 向 上 さ せ る の み で は な く 、延 性 を 確 保 し つ つ 強
度 向 上 す る 点 に 大 き な 特 徴 が あ る 。 Fig.2.1.4 に 示 す よ う に 、
Al-5.5%Mg-2.2%Li-0.12%Zr の 常 温 引 張 試 験 に お い て 、 他 の 加 工 熱 処 理 と
ECAP 法 を 比 較 し た 場 合 に 、同 一 の 0.2%耐 力 で は ECAP 法 の 方 が 大 き な 伸 び
10
を 示 し て い る 。 4)
Fig.2.1.4 Tensile strength and elongation of Al-5.5%Mg-2.2%Li-0.12%Zr
3)結 晶 粒 微 細 化 と 耐 食 性
結 晶 粒 微 細 化 に よ っ て 耐 食 性 改 善 で き る こ と は 良 く 知 ら れ て い る 。基 本 的 に
微 細 化 に よ っ て 結 晶 粒 界 面 積 を 多 く す る こ と で 、結 晶 粒 界 に 偏 析 す る 不 純 物 元
素による電位差腐食を抑制する耐粒界腐食効果が良く知られている。
(Fig.2.1.5)ま た 応 力 腐 食 割 れ に 対 し て も 微 細 化 に よ る 抑 制 効 果 が 見 ら れ る 。 5 )
し か し な が ら 残 留 応 力 が 残 存 し て い る 場 合 に は 、応 力 腐 食 を 加 速 す る 場 合 が あ
り 、 強 ひ ず み に よ る 残 留 応 力 に 注 意 す る 必 要 が あ る 。 6)
Fig.2.1.5 Tensile strength and elongation of Al-5.5%Mg-2.2%Li-0.12%Zr
11
4)結 晶 粒 微 細 化 と 陽 極 酸 化 に お け る 発 色
ア ル ミ ニ ウ ム 合 金 に お い て 常 用 さ れ る 陽 極 酸 化 処 理 に お い て 、母 材 結 晶 粒 径
と 陽 極 酸 化 膜 処 理 後 の 明 度 な ど に 影 響 が あ る 。 7)
Al-5.5Mg 合 金 に お け る 陽 極 酸 化 後 の 表 面 組 織 を Fig.2.1.6 に 示 し た 陽 極 酸
化 膜 は ポ ー ラ ス 型 で あ り , Al 酸 化 膜 に 直 径 10nm 程 度 の 無 数 の 微 細 孔 が 認 め
ら れ た 。ま た ,し わ 状 の 白 い 線 が 多 数 観 察 さ れ 、白 い 線 で 囲 ま れ た 箇 所 は 凹 部
に な っ て い る こ と が 確 認 さ れ 、Al 酸 化 膜 の 微 細 孔 の 密 度 が 小 さ か っ た 。CREO
処 理 を し た 方 が 白 い 線 の 箇 所 は 多 く な っ て お り , そ の た め , Al 酸 化 膜 全 体 に
おける微細孔の密度は小さくなった。
陽 極 酸 化 Al-Mg 合 金 の 電 解 処 理 に お い て 、 着 色 後 の 明 度 は , CREO 処 理 を
行 っ た 方 が 高 く な っ た 。 陽 極 酸 化 Al-Mg 合 金 の 酸 化 膜 に は 無 数 の 微 細 孔 が 存
在 す る が , CREO 処 理 を 行 う と 微 細 孔 の 密 度 が 低 下 し た 。 Al 酸 化 膜 に お け る
微細孔の密度の低下も電解着色後の明度の上昇に寄与していると考えられる
ことが報告されている。
Fig.2.1.6
SEM image of anodized Al-5.5Mg alloy with and without CREO
12
2.1.2
結晶粒微細化法
結 晶 制 御 後 に 約 10μ m 以 下 に 結 晶 粒 を 微 細 化 す る た め に 、 多 種 の プ ロ セ ス
が 提 案 さ れ て き て い る 。 8)
1)共 晶 ・ 共 析 合 金
初 期 に 開 発 さ れ た 材 料 系 は 共 晶・共 析 合 金 系 で あ り 、そ の 代 表 例 が Zn-22Al
で あ る 。 熱 処 理 と 加 工 の 組 合 せ に よ り 1∼ 2μ m 程 度 ま で 微 細 化 す る 事 が 可 能
と な り 、等 軸 で あ る 事 で 200℃ 以 上 の 低 温 に お い て 非 常 に 大 き な 延 性 を 示 す 超
塑 性 合 金 と し て 知 ら れ て い る 。元 と な る 亜 鉛 系 合 金 の 強 度 レ ベ ル が 低 い 事 か ら 、
装 飾 パ ネ ル な ど の 用 途 に 用 い ら れ 、玩 具 の 超 合 金 材 料 と し て 使 用 さ れ た 実 績 も
有する。
本 合 金 は 、共 晶 お よ び 共 析 合 金 で あ る た め に 、適 用 で き る 成 分 の 合 金 は 非 常
に限定的であり、結晶粒微細化として適用された例は主に亜鉛系合金である。
Zn-22Al 合 金 は 、結 晶 粒 微 細 化 お よ び 超 塑 性 成 形 に 関 す る 最 初 に 一 般 化 し た 実
用化事例であり、微細化研究への寄与は非常に大きい。
2)加 工 熱 処 理
冷 間 加 工 と 熱 処 理 の 組 合 せ に よ り 結 晶 粒 微 細 化 を 実 現 す る 方 法 で 、特 に ア ル
ミ ニ ウ ム 合 金 に お け る 微 細 化 へ の 適 用 検 討 が 多 く 見 ら れ 、溶 体 化 し た 材 料 に 冷
間 加 工 を 施 し 、多 く の 転 位 を 導 入 し た 後 に 再 加 熱 す る 事 で 微 細 な 結 晶 を 得 る 手
法が基本と言える。
本 法 に よ り ア ル ミ ニ ウ ム 合 金 の 結 晶 粒 微 細 化 材 が 開 発 さ れ て 、特 に 微 細 化 効
果 が 得 や す い A7075(A7475) 合 金 で は 非 常 に 大 き な 温 間 延 性 の 超 塑 性 特 性 を
示す事から、高強度で複雑形状を必要とする航空機部品に適用されている。
英国を発祥とし超塑性アルミニウム合金の成形を主とする民間企業である
“ Super form 社 ” で 生 産 さ れ て お り 、 日 本 国 内 で も 航 空 機 産 業 お よ び 装 飾 用
パネルとして実用化されている。
た だ し 効 果 が 顕 著 に 発 生 す る 合 金 成 分 が 限 定 さ れ ,処 理 プ ロ セ ス が 非 常 に 多
く の 工 程 を 必 要 と し 、 更 に 得 ら れ る 結 晶 粒 径 が 約 10μ m 程 度 の 場 合 が 多 い た
め 、 前 述 の A7000 系 ア ル ミ ニ ウ ム 合 金 を 中 心 に 適 用 さ れ た 。 ま た 複 雑 な 工 程
か ら 製 造 コ ス ト が 高 く 、通 常 材 の 4 倍 レ ベ ル と 言 わ れ て お り 、航 空 機 以 外 で の
適 用 は 限 定 的 で あ り 、熱 処 理 の 効 果 を 上 げ る た め 板 材 へ の 適 用 が 中 心 で あ っ た 。
13
ま た Cu-Zn-Sn 合 金 に お い て 、筆 者 を 中 心 と し て 黄 銅 系 材 料 の 結 晶 制 御 合 金
を 開 発 し 、 α、 β、 γ の 異 な る 3 相 を 各 成 分 比 率 と 押 出 条 件 を 適 正 制 御 し て 約
10μm の 微 細 な 3 相 混 合 組 織 を 得 て い る 。
同 材 は 、結 晶 粒 微 細 化 と 3 相 の 組 織 制 御 に よ っ て 、強 度 向 上 と 共 に 高 い 淡 水
耐 食 性 を 示 す 合 金 で あ る 。さ ら に 従 来 の 類 似 合 金 で は 約 700℃ 以 上 で 行 わ れ て
い た 鍛 造 加 工 を 、 450℃ ま で の 大 幅 な 鍛 造 温 度 低 下 と 大 き な 延 性 を 達 成 し た 。
各 種 特 性 の 向 上 と 鍛 造 温 度 の 低 温 化 に よ る 恒 温 鍛 造 の 適 用 で 、水 回 り 部 品 や 輸
送 機 器 部 品 に 実 用 化 さ れ た 。 9)∼ 15)
本 合 金 に お い て も 、銅 合 金 に 特 有 の 3 相 混 合 組 織 を 活 用 す る 事 で 結 晶 粒 微 細
化を実現できたため、成分範囲については限定的であった。
3)変 態 誘 起 を 用 い た 微 細 化
炭 素 鋼 に お い て 、変 態 点 を 挟 ん で 温 度 を 急 激 に 上 下 さ せ る 事 で 、相 変 態 を 繰
り 返 し 生 じ さ せ る プ ロ セ ス で あ る 。 16)
急速加熱冷却のプロセスを実製造プロセスに適用する事が極めて困難であ
る 事 か ら 実 用 化 が 進 ん で こ な か っ た が 、近 年 で は 高 周 波 を 用 い た 加 熱 冷 却 に よ
り 5μ m 程 度 ま で 微 細 化 が 可 能 と な る 手 法 が 提 案 さ れ て い る 。
4)急 冷 凝 固 法
液 体 状 態 か ら 急 冷 す る 事 で 、微 細 な 凝 固 結 晶 組 織 が 得 ら れ る 事 が 知 ら れ て い
る 。 10 5 ℃ /sec 程 度 の 冷 却 速 度 が 必 要 で あ る 事 か ら 、 粉 末 も し く は 薄 板 状 で あ
る 事 が 必 要 で あ る 。 17 )
粉 末 に お い て は 、ガ ス 噴 霧 法 や 水 噴 霧 法 が 用 い ら れ 、製 造 し た 粉 末 は 部 品 形
状 を 得 る た め に 圧 粉・焼 結・塑 性 加 工 を 経 る 事 が 必 要 と な る 。約 1μ m の 微 細
粒 が 得 ら れ る が 、部 品 製 造 工 程 で の 加 熱 に よ る 結 晶 粒 の 粗 大 化 を 生 じ る 危 険 性
が高く、温度管理が重要となる。
ま た 急 速 冷 却 が 必 要 で あ る こ と か ら 、コ ス ト 面 で の 制 約 が 大 き く 、良 好 な 特
性 が 出 る も の の 工 業 的 に 実 用 化 の 事 例 は 殆 ど 見 ら れ な い 。( ギ ガ ス ) 数 少 な い
実 用 化 例 と し て 、 P&W 社 が 航 空 機 用 エ ン ジ ン の タ ー ビ ン ブ レ ー ド に 採 用 し た
ゲ ー ラ イ ジ ン グ 法 が 有 名 で あ る が 、現 在 で は 更 な る 耐 熱 性 の 要 求 か ら 一 方 向 性
凝固や単結晶の素材に移行したため使用されていない。
溶 融 状 態 か ら の 急 冷 凝 固 の 手 法 と し て は 、粉 末 以 外 に も 溶 融 金 属 を 冷 却 し た
14
金 属 素 材 に 吹 き 付 け て 急 冷 凝 固 さ せ る Osprey 法
18)が あ る 。
イギリスで開発さ
れ 、日 本 に も テ ス ト プ ラ ン ト が 設 置 さ れ た 。粉 末 を 製 造 せ ず に 直 接 急 冷 凝 固 さ
せ る 事 で 工 程 短 縮 が 期 待 さ れ 、ア ル ミ ニ ウ ム 合 金 を 中 心 と し て 開 発 さ れ 、超 耐
熱 合 金 の 製 造 も 検 討 さ れ た 。し か し な が ら 形 成 さ れ た 厚 み に よ り 冷 却 能 力 が 低
下 し て 、厚 物 部 材 で は 微 細 化 が 不 十 分 に な る な ど の 課 題 に よ り 実 用 的 発 展 に は
至らなかった。
5)メ カ ニ カ ル ア ロ イ ン グ
粉末をボールミル等で繰り返し強加工する事で粉末を強加工して結晶を微
細化するメカニカルアロイング法
19)が 提 案 さ れ て い る 。 本 法 は 、 熱 エ ネ ル ギ
ー に よ る 析 出 を 生 じ な い 事 か ら 、平 衡 状 態 で は 不 可 能 な 合 金 を 製 造 す る 事 に も
大きな特徴がある。しかしながらボールミルでの処理に長時間を要する事や、
粉 末 材 料 か ら バ ル ク 形 状 へ の 成 形 に 課 題 を 有 し て い る 。次 工 程 で あ る 所 定 の 形
状 を 得 る た め に は 、冷 間 加 工 で は 粉 末 間 の 結 合 強 度 を 十 分 得 る 事 が 難 し く 、拡
散 接 合 に よ る 焼 結 を 行 う と 、焼 結 時 に 加 え る 熱 に よ っ て 結 晶 粒 が 粗 大 化 し て 微
細化効果を失う。
以 上 よ り 、結 晶 粒 微 細 化 目 的 で は な く 、特 殊 合 金 の 製 造 方 法 と し て 着 目 さ れ
研究開発が進められている。
15
2.1.3 強 ひ ず み 加 工 に よ る 結 晶 粒 微 細 化 法 と そ の 課 題
2.1.1 に て 紹 介 し た 各 種 結 晶 粒 微 細 化 法 に お け る 課 題 は 、
①対象成分が限定される
②大型・厚肉の部材製造が困難である。
③製造工程が複雑であり、実用化の障害となっている。
一 方 で 、金 属 材 料 に 大 き な 塑 性 ひ ず み を 付 与 す る 事 に よ り 微 細 結 晶 組 織 を 得
る 事 が 可 能 で あ り 、成 分 に 依 存 し な い 結 晶 粒 微 細 化 法 と し て“ 強 ひ ず み 加 工 に
よ る 結 晶 粒 微 細 化 ”に つ い て 多 く の 研 究 が 成 さ れ て 、大 幅 な 特 性 改 善 効 果 が 報
告されている。
金 属 材 料 に 大 き な ひ ず み を 手 法 と し て は 圧 延・伸 線・鍛 造・ロ ー タ リ ー ス ェ
ー ジ ン グ な ど が 挙 げ ら れ る 、 材 料 成 分 に よ っ て 異 な る が 約 10μ m レ ベ ル の 微
細化が達成でき、強度・衝撃・疲労などの機械的特性向上に使用されている。
し か し な が ら 加 工 ひ ず み に よ っ て 板 厚 や 径 が 縮 小 し て し ま い 、結 果 的 に 工 具 間
の 摩 擦 増 大 な ど に よ っ て 、付 与 で き る ひ ず み 量 が 制 限 さ れ る こ と か ら 微 細 化 効
果 も 限 定 的 で あ っ た 。ま た 加 工 硬 化 の 影 響 を 強 く 受 け る 事 か ら 、上 記 同 様 に 付
与可能なひずみ量が制限される。
上記の問題を解決すべく、バルクから断面形状を加工によって変化しない
“ 形 状 不 変 加 工 法 ”に つ い て 研 究 開 発 が 1990 年 代 か ら 多 く 成 さ れ る よ う に な
ってきた。
そ の 代 表 例 が 、ECAP( Equal Channel Angular Pressing)法【 別 呼 称 で ECAE
( Equal Channel Angular Extrusion)と も 呼 ば れ る 】で あ り 、更 に 、HPT( High
Pressure Torsion) 法 、 ARB( Accumulative roll bonding) 法 、 捻 り 押 出 法
お よ び そ れ ら の 改 良 プ ロ セ ス が 提 案 さ れ て き て い る 。 20)
こ れ ら の 強 ひ ず み プ ロ セ ス は“ 形 状 不 変 加 工 ”と 呼 ば れ て お り 、素 材 の 断 面
形 状 と 処 理 後 の 断 面 形 状 が 、ほ ぼ 同 一 形 状 で あ る こ と か ら 、大 き な ひ ず み を 繰
り 返 し 付 与 す る 事 が 特 徴 の プ ロ セ ス で あ る 。 1900 年 代 か ら SPD ( Severe
Plastic Deformation)活 発 に 研 究 開 発 が 進 め ら れ て き て い る 。
(広義では前述
の ボ ー ル ミ ル 法 も SPD の 一 種 と 言 え る 。)
Table2.1.1 に 各 SPD 法 の 相 当 ひ ず み 計 算 式 を 示 し た 。2 1 ) 現 在 主 力 と な っ て
い る SPD 法 は 、 相 当 ひ ず み 4( 99% 以 上 ) を 目 標 に 開 発 さ れ て き て お り 、 付
与 す る ひ ず み 量 を 大 き く し て 微 細 化 効 果 を 得 る た め に“ 形 状 不 変 加 工 ”が 重 要
となる。
16
Table
2.1.3.1
2.1.1
Calculation of equal strain of each SPD process
ECAP 法
Segal ら に よ っ て 開 発 さ れ た ECAP 法
3 0 ) は 、代 表 的 な
SPD 法 で あ り 、非 常
に多くの研究開発が成されている結晶粒微細化法である。
Fig.2.1.7 に 示 し た よ う に 、穿 孔 し た 屈 曲 空 間 に 穴 と 同 一 の 断 面 形 状 を 有 す る
棒 状 素 材 を 押 し 込 み 、金 型 の 屈 曲 部 に て 大 き な せ ん 断 変 形 を 付 与 す る プ ロ セ ス
で あ り 、 処 理 前 後 で 同 じ 断 面 形 状 を 維 持 す る 事 か ら Equal Channel と 呼 ば れ
て い る 。 23)24)25)
同 じ 断 面 積 ・ 断 面 形 状 を 持 ち 、角 度 Fで 屈 曲 し た 貫 通 穴 に 、素 材 を 押 し 通 す
事でせん断ひずみを付与する。屈曲部において単純せん断ひずみが付与され、
変形後も試料の断面積はほぼ一定となる。
Fig.2.1.8 Process of ECAP
Fig.2.1.7 General picture of ECAP
17
ま た ECAP 法 は 、 複 数 の 処 理 を 繰 り 返 す こ と で 微 細 化 効 果 を 向 上 さ せ て い る
こ と が 報 告 さ れ て い る 。 繰 り 返 し 処 理 の 方 法 と し て は 、 Fig.2.1.8 に 示 し た よ
うに同じひずみ方向付与および交互の方向付与の場合などが提案されている。
2.1.3.2. ARB 法
強圧延を繰り返す事によって大きなひずみを付与する強ひずみ法に
Fig.2.1.9 に 示 し た ARB 法 ( Accumulative Roll bonding) が あ る 。 2 0 )
加工法としては圧延法であるが、圧延した板材を複数枚重ね合わせて、再度
圧 延 し て 各 板 材 を 圧 接 す る と 共 に 、重 ね 合 わ せ に よ っ て 回 復 さ せ た 板 厚 を 利 用
し て 、大 き な 圧 下 量 を 繰 り 返 し 付 与 す る 事 が 可 能 と な る 手 法 で あ る 。結 晶 組 織
は 、 Fig.2.1.10 に 示 す よ う に 圧 延 方 向 に 延 伸 さ れ た 微 細 粒 と な る 。
ECAP 法 や HPT 法 に 同 じ く 、 強 ひ ず み 処 理 前 後 で 基 本 的 に 素 材 形 状 が 同 じ
形 状 で 維 持 さ れ る 点 が 共 通 し て い る 。各 圧 延 の 中 間 工 程 と し て 、脱 脂・ワ イ ヤ
ー ブ ラ シ 処 理 に よ っ て 、圧 接 に 障 害 と な る 不 純 物 や 酸 化 膜 を 除 去 す る 必 要 が あ
る。
従 っ て 、圧 延 工 程 そ の も の は 連 続 性 を 持 つ も の の 、中 間 工 程 の 連 続 性 欠 如 に よ
り 、プ ロ セ ス 全 体 と し て は 連 続 性 を 得 る 事 が 難 し く 、実 用 技 術 ま で は 発 展 し て
いない。
Fig.2.1.9 General pictures of ARB 2 9 )
Fig2.1.10 Microstructure of IF steel
by 6pass ARB at 773K
18
2.1.2.3
HPT 法
Bridgman に よ っ て 開 発 さ れ た HPT 法 ( High Pressure Torsion) は 、 円 柱
素 材 を 上 下 2 分 割 し た 金 型 内 に 投 入 し 、軸 方 向 か ら 大 き な 圧 力 で 加 圧 し た 状 態
で 、周 方 向 に 上 下 金 型 を 相 対 的 に 逆 回 転 、も し く は 一 方 の 金 型 を 固 定 し て 他 方
に 回 転 を 付 与 す る 事 に よ っ て 、上 下 金 型 の 境 界 領 域 で 円 盤 状 に 強 い せ ん 断 ひ ず
み を 生 じ さ せ る 強 ひ ず み 加 工 法 の 一 種 で あ る 。Fig.2.1.11 に 示 し た よ う に 、軸
方 向 圧 力 に よ っ て 被 加 工 材 に 静 水 圧 を 生 じ さ せ る 事 に よ っ て 、素 材 の 破 断 限 界
を 大 幅 に 向 上 さ せ る 事 が 可 能 と な る 。結 果 と し て 、大 き な せ ん 断 ひ ず み を 与 え
る事が可能となる強ひずみ微細化手法である。
こ の 手 法 は 金 型 に 挿 入 し た 状 態 で せ ん 断 ひ ず み を 与 え る た め 、基 本 的 に 室 温
を 含 め た 恒 温 状 態 で の ひ ず み 付 与 が 前 提 と な る 。現 時 点 に お い て 開 発 さ れ て い
る 強 ひ ず み 法 の 中 で 最 も 大 き な ひ ず み を 付 与 で き る SPD 法 で あ り 、 近 年 で は
“強ひずみ”から“巨大ひずみ”と呼称する動きもある。
Fig.2.1.11
General picture of HPT
25)
酒 井 、 中 村 等 は 、 上 下 の 金 型 と は 別 に 軸 力 負 荷 を 可 能 に し た 新 HPT 装 置 を
考 案 し た 。 Fig.2.1.12 に 示 し た よ う に 、 加 圧 は 基 本 的 に 加 圧 ピ ン に て 付 加 し な
が ら 回 転 捻 り を 付 与 す る 方 法 で 、 Al-Mg-Sc 合 金 の F 10×8mm の 試 料 に つ い て
HPT 処 理 し 、 約 200nm の 微 細 粒 を 得 た 事 を 報 告 し て い る 。 2 6 ) 2 7 )
HPT 法 は 、 結 晶 粒 微 細 化 効 果 は 非 常 に 大 き い も の の 、 非 常 に 大 き な 軸 圧 力
に よ る 静 水 圧 付 与 の た め 、金 型 構 造 上 の 制 約 で 連 続 性 を 得 る 事 は 極 め て 困 難 で
あり、工業的実用化は極めて難しいと言える。
19
Fig. 2.1.12
2.1.3.4
General picture of HPT 3 2 )
Fig.2.1.11 Microstructure
after HPT treatment 3 3 )
捻り押出法
捻 り 押 出 法 は 水 沼 等 に よ っ て 開 発 さ れ た 結 晶 粒 微 細 化 法 で あ り 、Fig.2.1.12
に 示 す よ う に 、押 出 加 工 中 に ダ イ ス を 回 転 さ せ る こ と に よ っ て せ ん 断 ひ ず み を
付 与 し て 微 細 化 す る 。2 8 ) 2 9 ) 押 出 中 の 高 い 圧 力 下 で 捻 り 変 形 を 付 与 す る た め 、金
型と素材の焼き付きが大きく低融点合金に適用が限定される。
Fig.2.1.12
Principle of torsion extrusion
20
2.2 従 来 の 強 ひ ず み 結 晶 粒 微 細 化 法 ( SPD) の 課 題
従 来 開 発 さ れ て き た SPD 法 は 、 基 本 的 に 金 型 も し く は 圧 延 ロ ー ル な ど で 大
き な 塑 性 加 工 ひ ず み を 付 与 す る 手 法 が 大 半 で あ る 。す な わ ち 、金 型 で 素 材 を 屈
曲 さ せ る ECAP 法 、 大 き な 軸 力 で 金 型 に 素 材 を 拘 束 し て 回 転 捻 り ひ ず み を 付
与 す る HPT 法 、 ロ ー ル を 用 い て 大 き な 圧 下 量 を 繰 り 返 し 与 え る ARB 法 等 が
代表例である。
こ れ ら の 手 法 に よ り 、結 晶 粒 微 細 化 に つ い て 大 き な 効 果 が 得 ら れ る 事 が 多 く
の 綿 密 な 研 究 に よ り 明 ら か に さ れ て い る 。ま た 多 く の 合 金 に 関 す る 結 晶 粒 微 細
化 の 研 究 に よ っ て 、微 細 化 に よ っ て 機 械 的 特 性・耐 食 性 等 の 特 性 向 上 を 添 加 元
素に頼ることなく実現できる手法として極めて重要である。
し か し な が ら 多 く の 研 究 に も 拘 わ ら ず 、 SPD 法 に よ る 工 業 製 品 へ の 適 用 事
例 は 広 範 囲 で あ る と は 言 え な い も の の 、高 付 加 価 値 の 半 導 体 の ス パ ッ タ リ ン グ
ターゲット部材等に適用されてきた。
従 来 の 微 細 化 効 果 を 得 る た め に 、 SPD 法 に お い て 明 ら か に な っ た 重 要 な 技
術 要 素 は“ せ ん 断 ひ ず み ”の 付 与 で あ る 。し か し な が ら 従 来 プ ロ セ ス で は 、せ
ん 断 ひ ず み を 金 型 に よ っ て 付 与 す る こ と か ら 、ECAP の 例 な ど で 分 か る よ う に
短 尺 素 材 の 押 し 曲 げ に よ る バ ッ ヂ 処 理 で あ り 、連 続 処 理 で な い 点 が 大 き な 課 題
で あ る 。ま た せ ん 断 ひ ず み 付 与 に 大 荷 重 を 要 す る こ と か ら 、金 型 な ど の 負 荷 ・
損傷が大きく広範囲な工業的適用に課題があった。
ま た 金 属 材 料 の 大 き な 比 率 を 占 め る 熱 処 理 へ の 対 応 も 課 題 の 一 つ で あ る 。結
晶 粒 微 細 化 材 は 、熱 処 理 に お け る 再 加 熱 に よ っ て 粗 大 化 す る 事 が 避 け ら れ な い 。
す な わ ち 微 細 結 晶 と な っ た 素 材 で も 、後 熱 処 理 で 高 温 度 に 長 時 間 に 保 持 す る 事
によって結晶粒は粗大化し、微細化効果は消失してしまう。
従 来 か ら の SPD 法 の 多 く で は 、ひ ず み 付 与 す る 際 に 金 型 を 使 用 す る 事 か ら 、
強 ひ ず み と 熱 処 理 を 同 時 に 実 施 す る 事 が 出 来 な い 。こ の た め 従 来 SPD 法 で は 、
適用可能な金属材料の制約が存在した。
SPD 法 は 、 添 加 元 素 に 頼 ら な い 事 か ら 、 非 資 源 国 で あ る 日 本 に お い て 、 レ
ア メ タ ル 不 足 の 課 題 な ど を 克 服 す る 事 が 出 来 る 極 め て 有 効 な 手 法 で あ る 。そ の
一 方 で 、連 続 性 お よ び 熱 処 理 の 課 題 に よ っ て 実 用 化 が 進 ま な い 状 況 に あ る と 言
える。
以 上 よ り 、連 続 性 、金 型 不 要 で 熱 処 理 可 能 な 強 ひ ず み 結 晶 粒 微 細 化 法 が 必 要
であることが分かった。
21
2.3 連 続 結 晶 粒 微 細 化 法 “RMA-CREO”の 開 発
RMA-CREO
我 々 が 開 発 し た
は
Continuo
Ruotato
Evolutione
Organizzazion di Metallo-Processo( イ タ リ ア 語 )、開 発 当 初 STSP( Severe
Torsion Staining Process)呼 称 し て い た が 、最 も 大 き な 特 徴 で あ る 連 続 性 を
含 む 言 葉 で は な か っ た 事 か ら 、 RMA-CREO に 名 称 を 変 更 し た 。 3 0 ) 3 1 )
ま た RMA は 、 Renasciment Metalli Arty( イ タ リ ア 語 ) の 略 で あ り 、 金 属
の 復 活 技 術 を 意 味 す る 。こ れ は 添 加 元 素 な ど を 追 加 使 用 せ ず に 、そ の 金 属 材 料
が本来持っている潜在的な特性を結晶粒微細化で顕在化させる意味を持って
いる。
2.3.1
CREO 処 理 の 概 要
CREO プ ロ セ ス は 、局 部 的 に 加 熱 し た 棒 材 に 回 転 変 形( 捻 り 変 形 )を 与 え る
と と も に 、加 熱 変 形 部 分 を 軸 方 向 に 移 動 さ せ る こ と に よ り 、連 続 的 に 大 き な せ
ん断ひずみ付与を実現したものである。
Fig.2.1.13
Principle of CREO process
Fig.2.1.13 に 示 し た よ う に 棒 材 の 一 部 を 高 周 波 コ イ ル に よ り 加 熱 す る と と
もに、加熱部の両端を水冷することで局所的に低変形抵抗の領域を形成する。
棒 材 の 両 端 を 保 持 し し て 一 方 に 回 転 力 を 付 与 す る こ と に よ り 、低 変 形 抵 抗 の 加
熱 部 の み に 捻 り 変 形 を 集 中 さ せ る こ と が で き る 。こ の 変 形 は 大 き な せ ん 断 変 形
で あ り 、非 加 工 材 で あ る 金 属 材 料 の 結 晶 粒 を 非 接 触 で 微 細 化 さ せ る こ と が 可 能
となる。
また加熱領域に捻り変形を与えつつ材料を軸方向に移動することによって
せ ん 断 ひ ず み を 付 与 し 続 け る こ と が 可 能 と な り 、せ ん 断 ひ ず み が 付 与 さ れ た 領
22
域 は 加 熱 部 端 に 設 置 さ れ た 水 冷 装 置 に よ り 強 制 冷 却 さ れ て 、加 熱 保 持 に よ る 結
晶粒粗大化を防ぐ事が可能となる。
こ れ ら 一 連 の CREO に よ る せ ん 断 ひ ず み 付 与 と 強 制 冷 却 に よ っ て 、 連 続 的
に従来の強ひずみ加工並みの微細化組織を得ることが可能となった。
CREO 処 理 に お け る ひ ず み 量 は 、高 周 波 に よ る 加 熱 幅 と 回 転 数 お よ び 横 移 動
速 度 に よ っ て 決 ま る 。 す な わ ち Table2.1.1 に 示 し た 下 記 の 式 に よ っ て 算 出 で
きる。
ε=2πNR/( 3 1 / 2 t)
CREO 処 理 の 効 果 は 、 加 熱 状 態 で 捻 り 変 形 が 付 与 可 能 で あ れ ば 発 現 さ れ 、 基
本 的 に 構 造 用 合 金 の 大 半 に 適 用 可 能 と 考 え ら れ る 。Fig.2.1.14 に 示 し た よ う に 、
多くの材質で微細化効果が得られた。
Fig.2.1.14
Micro structure of alloys
23
2.3.2
CREO 装 置 の 開 発
現 時 点 ま で に CREO 処 理 装 置 を 大 き く 5 段 階 に 開 発 し て き た 。
(Fig.2.1.15,16)
第 1 段 階 と し て 、 基 礎 試 験 機 を 開 発 し 、 基 本 技 術 と な る 冷 却 構 造 や CREO
処 理 条 件 の 定 量 化 を 推 進 し た 。 サ イ ズ は F12mm で CREO 処 理 長 は 50mm で
あ っ た 。【 No1:1 号 機 】 本 機 を 使 用 し て 、 Fig.3.1.14 に 示 し た よ う に 多 く の 材
質 に つ い て CREO 処 理 効 果 に よ る 微 細 化 効 果 を 確 認 し た 。
第 2 段階としては細径材料についてコイル材を使用した連続処理装置の開
発 を 行 っ た 。【 No2: 2 号 機 】
第 3 段 階 と し て は 、 鍛 造 テ ス ト 等 に 使 用 す る た め に F30 ま で 処 理 可 能 外 径
を 拡 大 し た 【 No3: 3 号 機 】 を 開 発 し た 。 基 本 的 な 構 造 は 1 号 機 に 準 じ た も の
で、市販の旋盤を回転送り機構として流用した構造とした。
Fig.2.1.15
Fist step of CREO machine development
4 号 機 以 降 は 、実 用 機 と し て の 特 性 を 持 た せ る こ と か ら 、機 械 メ ー カ と の 共
同 に て 実 用 試 験 機 を 開 発 し た 。サ イ ズ は F50mm ま で 処 理 可 能 と し た も の で 処
理 長 さ は 約 1,000mm と し た 。 No1∼ 4 ま で の CREO 処 理 装 置 は 、 材 料 取 付 は
棒 材 に 開 け て お い た 穴 に ボ ル ト を 差 し 込 み 、装 置 側 の 取 付 ジ グ に セ ッ ト す る 方
24
式 で あ っ た 。た だ し 温 度 の 設 定 お よ び 測 定 や 処 理 ト ル ク の 測 定 な ど の 、操 作 の
自動化を大幅に進めながら測定機能を向上させた。
Fig.2.1.16 Second step of CREO machine development
No5【 RN2】 で は 更 な る 大 型 化 長 尺 化 と し て 最 大 径 F90mm で 処 理 長 さ 3,
000mm( 素 材 4,000mm)と し た 。ま た 冷 却 装 置 の 改 良 お よ び 自 動 化 の 推 進 を
は か っ た 。特 に 冷 却 装 置 に は 、真 空 排 気 装 置 を 開 発 し た こ と か ら 、No4 ま で の
CREO 処 理 装 置 で は 冷 却 水 量 が 最 大 で 3.2L/min で あ り 、か つ 冷 却 水 が 加 熱 コ
イ ル 側 に 漏 れ 出 し て 冷 却 が 不 安 定 で あ っ た が 、 No5(RN2) で は 最 大 水 量 を
35L/min ま で 増 や し て も 、 冷 却 ユ ニ ッ ト か ら の 漏 水 は 無 視 で き る ほ ど 少 な く
することが出来た。
開 発 し た CREO 処 理 装 置 に つ い て 、 詳 細 を 以 下 に 示 す 。
(1)バ ッ ヂ 処 理 タ イ プ の 設 備 開 発
基 礎 試 験 用 と し て CREO 処 理 の バ ッ ヂ 処 理 装 置【 1 号 機 】を 開 発 し た 。使 用 素
材 の 外 径 F12mm×500mm を 使 用 し 、CREO 処 理 可 能 な 長 さ は 50mm で あ る 。高
周波コイルは固定とし、素材は回転力を付与するモータを同架したステージ上に
25
取り付けて,ステージが移動する形式とした。
CREO 処 理 装 置 【 1 号 機 】 の 外 観 を Fig.2.2.17 に 示 す 。 CREO 装 置 に は 、 モ ー
タとクラッチ機構を有し、モータは回転数制御可能とした。モータおよびクラッ
チと棒材の連結は、棒材に穴空け加工しピンにて固定した。温度測定は、2 巻き
となっている高周波加熱コイルの間隙から、放射温度計にてアルミニウム棒材表
面を測定する構造とした。
Fig.2.1.17 Outlook of CREO for basic test
Fig.2.1.18
Detail of heating and cooling unit of No1 CREO machine
26
CREO 処 理 装 置 1 号 機 の 冷 却 は 、 上 方 か ら の 冷 却 水 噴 霧 と し て い た が 、 冷 却 能
力 が 不 足 し 、 か つ 1 方 向 の み の 偏 っ た 冷 却 と な る こ と か ら 、 Fig.2.1.18 に 示 す よ
うにリング形状の冷却装置を開発して設置した。リング内に冷却水を充満させた
後に、内側に開口したノズルから半径方向に冷却粋を吹き出す構造とした。これ
により全周方向からの冷却にすることで、冷却の安定化および局所集中化を実現
し た 。し か し な が ら 使 用 し た 冷 却 水 は 下 方 に 落 下 す る こ と か ら 、棒 材 の 上 下 で
冷却に差を生じることは避けられなかった。
(2)外 径 お よ び CREO 処 理 長 さ の 大 型 化
処 理 サ イ ズ の 大 型 化 お よ び 自 動 化 に よ り 、実 用 機 と し て の 特 性 を 持 た せ る こ
と か ら 、機 械 メ ー カ と の 共 同 に て 実 用 試 験 機【 No4: RN1】を 開 発 し た 。サ イ
ズ は 最 大 F50mm×処 理 長 さ 約 1,000mm( 素 材 長 2,000mm) と し た 。 高 周 波
出 力・捻 り 回 転 上 昇 速 度・横 移 動 速 度 等 の 処 理 条 件 を 全 て 一 元 的 に 制 御 可 能 な
制 御 ユ ニ ッ ト を 設 置 し た 。( Fig.2.1.19)
冷却ユニットは、冷却水噴出開口部の精度向上などの改良を加えたが、
Fig.2.1.20 に 示 し た よ う に 、基 本 的 に 冷 却 水 は 下 方 に 流 れ 出 す 構 造 で あ り 、冷
却 ユ ニ ッ ト 株 に 排 出 用 の 樋 が 設 置 さ れ て い る 。本 構 造 の た め 、冷 却 水 量 は 最 大
で も 3.2L/min で あ り 、ま た 重 力 の 影 響 お よ び 加 熱 領 域 へ の 冷 却 水 の 流 れ 込 み
に よ っ て 、捻 り 変 形 中 の 曲 が り 発 生 の 問 題 が 解 消 出 来 ず 、捻 り ひ ず み 量 を 抑 え
た 条 件 に て CREO 処 理 を 実 施 し た 。
Fig.2.1.19
CREO test machine for application study
27
Fig.2.1.20 Detail of heating and cooling unit of No2 CREO machine
(3)長 尺 化 お よ び 冷 却 装 置 の 改 良
No5【 RN-2】で は 、最 大 径 F90mm で 処 理 長 さ 3,000mm( 素 材 4,000mm)
ま で 長 尺 大 型 化 し た 。ま た 自 動 化 も 進 め 、材 料 の 着 脱 に つ い て も 油 圧 チ ャ ッ ク
の 採 用 に よ り 、素 材 の 穴 加 工 を 廃 止 す る こ と か 可 能 と な り 、着 脱 時 間 も 大 幅 に
短 縮 す る こ と が 出 来 た 。 Fig.2.1.21 に No5【 RN-1】 CREO 処 理 装 置 の 外 観 を
示す。
Fig.2.1.21
Outlook of CREO machine No5
ま た 冷 却 装 置 に つ い て は 、冷 却 水 の 落 下 や 加 熱 領 域 へ の 流 れ 込 み を 抑 制 す る
た め 、冷 却 水 の 出 口 を 設 け た 上 で 真 空 排 気 装 置 を 取 り 付 け る こ と に よ っ て 排 水
側 か ら の 負 圧 を 与 え る 構 造 と し た 。 (Fig.2.1.22)
28
Fig.2.1.22 Outlook of heating and cooling unit
真 空 排 気 装 置 を 取 り 付 け た 冷 却 ユ ニ ッ ト の 構 造 を Fig.2.1.23 に 示 し た 。 冷
却 水 は 一 旦 外 筒 側 を 通 過 し て 、冷 却 筒 の コ イ ル 側 端 部 に て 棒 材 と 接 す る 内 筒 に
入り込み、棒材を冷却する。冷却に使用された水は他端より排出される。
排 出 さ れ た 回 路 中 に 真 空 装 置 を 取 付 て 負 圧 を 発 生 さ せ る こ と で 、冷 却 水 の 流 れ
を円滑にする。コイル側のシールは、棒材との間には摩耗を防ぐために約
0.2mm 程 度 の 隙 間 を 設 置 し て い る が 、 冷 却 水 の 漏 水 は 基 本 的 に 発 生 さ せ な い
ことが可能となった。
Water inlet
Water outlet
Fig.2.1.23 Structure of cooling unit with vacuum
29
No4 ま で の CREO 処 理 装 置 に お い て は 冷 却 水 量 が 最 大 で 3.2L/min で あ り 、
か つ 冷 却 水 が 加 熱 コ イ ル 側 に 漏 れ 出 し て 冷 却 が 不 安 定 で あ っ た が 、 No5(RN2)
で は 最 大 水 量 を 35L/min ま で 増 や し て も 、 冷 却 ユ ニ ッ ト か ら の 漏 水 は 無 視 で
きるほど少なくすることが出来た。
本 設 備 の 開 発 に よ っ て 、CREO 処 理 装 置 と し て は 一 定 レ ベ ル の 完 成 形 に で き
たと考えている。
(4)連 続 CREO 処 理 装 置 処 理
棒 状 金 属 素 材 は 、直 棒 と コ イ ル 材 が 提 供 さ れ て い る 。材 料 処 理 の 大 量 生 産 に
CREO 処 理 を 適 用 す る 際 に は 、 バ ッ ヂ 処 理 タ イ プ の CREO 処 理 装 置 で は 、 コ
イ ル 状 に 巻 き 取 ら れ て い る 素 材 回 転 さ せ る 必 要 が あ り 、実 用 上 大 き な 障 害 と な
る 。 そ こ で 長 尺 コ イ ル 材 に CREO 処 理 を 適 用 す る た め に 、 2 カ 所 に CREO 処
理 機 能 を 設 置 し 、2 カ 所 で 正 逆 の 回 転 を 付 与 す る 事 で 、コ イ ル ボ ビ ン を 回 転 さ
せ る こ と な く 処 理 可 能 な プ ロ セ ス を 考 案 し た 。 基 本 的 な 概 念 を Fig.2.1.24 に
示す。
長 尺 コ イ ル 状 素 材 を 使 用 す る 事 で 、大 量 生 産 が 可 能 と な り 極 め て 高 い 材 料 歩
留まりとなるが、装置は大型であり条件調整が重要となる。
Fig.2.1.24
Principal of continuous CREO process
プロセスとしては、コイル状素材をアンコイラーで直線化し、1 回目の
CREO 処 理 で 回 転 し た 素 材 を 、 2 回 目 の 逆 回 転 か つ 同 回 転 数 の CREO 処 理 す
る 事 で 、コ イ ル 材 の 回 転 を 防 止 可 能 と な る 。捻 り 変 形 の 付 与 は 2 カ 所 の 加 熱 領
30
域 の 間 の 冷 却 さ れ た 棒 材 部 分 を 拘 束 し て 行 う 。 CREO 処 理 は 2 回 施 さ れ る 事
となり、結晶粒微細化を促進する事も可能となる。
長 尺 連 続 CREO 処 理 の 試 験 装 置 の 外 観 を Fig.2.1.25 に 示 し た 。
Fig.2.1.25
Picture of continuous CREO test machine
31
2.4
結
言
本 研 究 に お い て 、連 続 性 を 有 す る 結 晶 粒 微 細 化 プ ロ セ ス“ RMA-CREO”を 開 発
し、以下の効果を得る事が出来た。
1,
局部加熱冷却と捻りひずみの組合せより、連続せん断強ひずみを付与
す る 金 属 結 晶 粒 微 細 化 法 “RMA-CREO”を 開 発 出 来 た 。
2,
CREO 処 理 に よ っ て 、構 造 用 合 金 で あ る ア ル ミ ニ ウ・マ グ ネ シ ウ ム・鉄 鋼・
チタン・銅合金の大半について結晶粒微細化できた。
3,
本 法 は 、 金 型 を 使 用 し な い ダ イ レ ス 処 理 法 で あ り 、 他 の SPD 法 と 比 較 し
て高耐久性の微細化法となった。
4,
装置の大型化および真空吸引冷却装置等の開発により、実用レベルの
CREO 処 理 設 備 の 開 発 が 出 来 た 。
5,
2 カ 所 の 正 逆 回 転 CREO 処 理 の 組 合 せ 技 術 に よ り 、 長 尺 コ イ ル 材 の 連 続
CREO 処 理 が 可 能 と な る こ と を 明 ら か に で き た 。
32
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35
第 3章
強捻り局部加熱急冷連続結晶粒微細化法の各種合金への適用
開 発 し た 強 ひ ず み 局 部 加 熱 冷 却 連 続 結 晶 粒 微 細 化 プ ロ セ ス “RMA-CREO”を
ア ル ミ ニ ウ ム 合 金 お よ び マ グ ネ シ ウ ム 合 金 に 適 用 し 、結 晶 粒 微 細 化 の 効 果 に つ
い て 確 認 し た 。ア ル ミ ニ ウ ム 合 金 は 軽 量 構 造 用 合 金 と し て 知 ら れ 、多 く の す べ
り 面 を 有 す る 面 心 立 方 格 子 ( Face Centered Cubic lattice : FCC) 構 造 を 持 つ
こ と か ら 、同 じ 構 造 を 有 す る 銅 合 金 、金 、銀 な ど と 同 じ く 高 い 塑 性 加 工 性 を 有
する合金である。
一 方 、マ グ ネ シ ウ ム 合 金 は ア ル ミ ニ ウ ム 合 金 よ り も 軽 く 、実 用 合 金 と し て 最
軽 量 の 合 金 で あ り 、稠 密 六 方 格 子( Hexagonal Closed Packed lattice : HCP)
構 造 を 有 す る 。 室 温 で 延 性 を 示 す す べ り 面 が (0001)面 に 限 定 さ れ る こ と か ら 、
延 性 に 乏 し く 、ア ル ミ ニ ウ ム 合 金 と 逆 に 塑 性 加 工 性 の 低 さ が 課 題 と な っ て い る 。
以上の、異なった結晶構造及び塑性加工性を有する 2 種類の合金について、
RMA-CREO を 適 用 し 、 結 晶 粒 微 細 化 お よ び 塑 性 加 工 性 に つ い て 研 究 し た 。
36
3.1
3.1.1
FCC( ア ル ミ ニ ウ ム ) 合 金 へ の 適 用
緒
言
FCC 合 金 の 代 表 例 と し て A5000 系 Al-Mg 非 調 質 ア ル ミ ニ ウ ム 合 金 を 選 定 し
CREO 処 理 適 用 に お け る 結 晶 組 織 微 細 化 お よ び 機 械 的 特 性 向 上 に つ い て 研 究
を 行 っ た 。 1)∼ 5)
Al-Mg 系 合 金 は 、非 調 質 型 と し て は 最 高 レ ベ ル の 高 強 度 を 示 す ア ル ミ ニ ウ ム
合 金 で 、 輸 送 機 器 を 初 め と し て 多 く 使 用 さ れ て い る 。 6)
FCC 系 ア ル ミ ニ ウ ム 合 金 は 多 く の 滑 り 面 を 有 し て お り 、 非 常 に 高 い 塑 性 変
形 能 を 示 す 合 金 で あ る 。従 っ て 結 晶 粒 微 細 化 の 効 果 は 、高 強 度 化 や 耐 食 性 向 上
目的が望まれ、塑性変形能の向上についてはニーズが限定的である。
非 熱 処 理 型 合 金 へ の CREO 処 理 適 用 に お い て は 、 処 理 温 度 と 付 与 す る ひ ず
み量によって結晶粒微細化の程度が異なることが予想される。すなわち Z パ
ラ メ ー タ に 依 存 す る こ と が 推 定 で き 、低 温・大 き な ひ ず み 量 ほ ど 結 晶 粒 は 微 細
化 す る も の と 推 定 で き る 。し か し な が ら 低 温 に な る ほ ど 延 性 は 小 さ く な り 付 与
す る ひ ず み 量 は 小 さ く な る 。ま た 加 熱 さ れ て い な い 母 材 部 分 と 加 熱 部 分 の 変 形
抵 抗 に は 相 対 的 に 差 が 生 じ る こ と が CREO 処 理 メ カ ニ ズ ム 成 立 の 必 要 条 件 で
あることから、低温側に限界が存在することが予想される。
そ こ で 本 研 究 で は 、 温 度 と 回 転 数 を 変 化 さ せ て CREO 処 理 す る こ と に よ っ
て 、 結 晶 粒 径 お よ び 棒 材 の 半 径 方 向 の 結 晶 粒 径 分 布 を 調 べ た 。 ま た CREO 処
理による機械的性質の向上についても引張試験を実施して調べた。
37
3.1.2
実験方法
3.1.2.1
供試材
試 料 は 市 販 の Al-Mg 系 合 金 の A5056 引 き 抜 き 棒 材 を 使 用 し た 。試 料 の 組
成 を Table1 に 示 す 。
Table
3.1.1 Chemical compositions of A5056 alloys (mass%).
Alloy
Al
Mg
A5056
Bal.
6.4
Zn
−
Mn
Cu
Fe
Si
0.06
0.01
0.06
0.05
試 料 寸 法 が F12mm で 長 さ 2000mm の 棒 材 か ら 、500mm の 長 さ に 切 断 し
た 。そ の 後 、CREO 設 備 と 棒 材 の 取 付 を 目 的 と し て 、試 料 両 端 に F5.3mm の
穴開け加工を行った。
3.1.2.2
3.1.2.2.1
CREO 処 理 法
CREO 処 理 の 基 本 原 理
本 実 験 に 用 い た CREO 処 理 法 の 基 本 構 造 を Fig3.1.1.に 示 し た 。
Fig.3.1.1
Principle of CREO process
棒 状 試 料 を 高 周 波 コ イ ル に よ っ て 設 定 温 度 ま で 加 熱 し 、コ イ ル 両 端 に 設 置 し
た ス プ レ ー か ら 水 冷 す る こ と に よ り 、加 熱 軟 化 す る 領 域 を 狭 く し 、か つ 捻 り 変
形を付与して微細化した組織が加熱によって再度粗大化する事を抑制するた
めに冷却する。局所的に加熱軟化させた棒材に対して、試料の一端を固定し、
他端をモータ駆動により回転力を付与する事によって捻りひずみを加熱軟化
部 に 集 中 さ る 。棒 材 長 手 方 向 に 対 し て 、斜 め 方 向 に 捻 り 変 形 、す な わ ち 半 径 方
向 に ひ ず み が 付 与 さ れ る 。棒 材 は 長 手 方 向 に 移 動 さ せ て い る こ と か ら 、半 径 方
38
向 に 対 し て 、回 転 速 度 と 送 り 速 度 の 比 に よ っ て 、捻 り 角 度 は 変 化 し て い る も の
の、せん断ひずみが付与されることとなる。
Fig.3.1.2
3.1.2.2.2
Principal of additional cooling spray
CREO 処 理 装 置
使 用 し た CREO 処 理 装 置 の 外 観 を Fig.3.1.3 に 示 し た 。 使 用 素 材 の 外 径
F12mm×500mm を 使 用 し 、CREO 処 理 可 能 な 長 さ は 50mm で あ る 。高 周 波 コ
イルは固定とし、素材が移動する形式とした。
CREO 処 理 に は Fig.2.1.16 に 示 し た 1 号 機 を 使 用 し た 。
本 研 究 で 使 用 し た CREO 処 理 装 置 の 冷 却 は 、 Fig.3.1.2 に 示 し た よ う に 、 上
方 か ら 冷 却 水 を 霧 状 に 噴 き つ け る こ と で 行 っ た 。し か し 、本 手 法 で は 以 下 の よ
うな問題点が発生した。
① 冷却領域の拡散による、捻りひずみ量の低下
② 上方からのみの冷却による、方向および重量の影響による冷却ムラ発生
③ 噴霧状冷却による冷却能力不足の懸念
Fig.3.1.2 Principle of CREO process
以 上 に 示 し た 冷 却 の 問 題 を 解 消 す べ く Fig.2.1.17 で 示 し た リ ン グ 状 冷 却 を
39
考 案 し 設 置 し た 。全 周 方 向 か ら の 冷 却 に す る こ と で 、冷 却 の 安 定 化 お よ び 局 所
集中化をはかった。
更 に 本 研 究 で は 、CREO 処 理 に お け る 冷 却 能 力 と 結 晶 微 細 化 の 関 係 に つ い て
調 べ る た め 、追 加 冷 却 装 置 を 設 置 し た 。加 熱 冷 却 ユ ニ ッ ト に お い て 、リ ン グ 状
冷 却 ユ ニ ッ ト の 後 方 に 、水 冷 ノ ズ ル を 設 置 す る こ と で 、冷 却 能 力 を 向 上 さ せ た 。
リ ン グ 状 冷 却 ス プ レ ー は 。 コ イ ル 中 心 か ら 軸 方 向 前 後 に 25mm 離 れ た 位 置
に設置した。
本 研 究 で 、冷 却 装 置 を 上 方 か ら の 噴 霧 で 行 っ た 形 式 を【 上 方 冷 却 】と 以 下 に
記し、リング状冷却で行ったものは【リング冷却】と記した.
CREO 装 置 に は 、モ ー タ と ク ラ ッ チ 機 構 を 有 し 、モ ー タ は 回 転 数 制 御 可 能 と
し た 。モ ー タ お よ び ク ラ ッ チ と 棒 材 の 連 結 は 、棒 材 に 穴 空 け 加 工 し ピ ン に て 固
定 し た 。温 度 測 定 は 、2 巻 き と な っ て い る 高 周 波 加 熱 コ イ ル の 間 隙 か ら 、放 射
温度計にてアルミニウム棒材表面を測定する構造とした。
【 CREO 処 理 装 置 操 作 手 順 】
CREO 処 理 装 置 で は 温 度 、 回 転 数 、 移 動 速 度 の 3 つ の 要 素 を 制 御 で き る 。
具 体 的 に は 以 下 の よ う な 順 序 で CREO 処 理 を 行 っ た 。
1)
F12mm、 長 さ 500mm に 切 断 し た 素 材 の 両 端 部 か ら 10mm の 位 置 に
F5.3mm の 棒 材 固 定 穴 を 設 け る 。
2)
棒 材 を CREO 処 理 装 置 に ボ ル ト で 固 定 す る 。
3)
試 料 を 加 熱 し 、目 標 温 度 に 達 し た 後 に 、棒 材 軸 方 向 に 横 移 動 し つ つ 、モ
ータのクラッチを繋ぎ、捻り変形を付与する。
4)
50mm の 移 動 を 完 了 す る と ク ラ ッ チ が 切 ら れ ,捻 り 変 形 が 停 止 す る 。そ
の 後 に 、 台 の 移 動 と モ ー タ の 回 転 が 停 止 し 、 CREO 処 理 が 完 了 す る 。
40
3.1.2.2.3
CREO 処 理 条 件 の 定 義
CREO 処 理 に お い て 、 付 与 す る ひ ず み 量 を 定 義 す る た め に 、 試 料 の 回 転 数
と 送 り 速 度 を 複 数 の 組 み 合 わ せ を 用 い て 評 価 す る 値 と し て CREO-Value と 呼
ぶ値を定義し、以下の式で表した。
CREO-Value= ( 周 速 / 送 り 速 度 ) = 2πRn/ V
R: 試 料 半 径 ( mm)
n: 回 転 数 ( rpm)
V: 送 り 速 度 ( mm/min)
棒材捻り変形において破断は表面部の最大せん断ひずみによって規定され
る 。CREO 処 理 に お い て は 、横 移 動 速 度 を 折 り 込 む こ と で 、捻 り ひ ず み に よ る
破 断 限 界 を 表 す こ と が 可 能 と な る 。 す な わ ち CREO− Value が 大 き く な る と 、
横移動距離に対して捻り変形量が相対的に大きくなる。
CREO-Value を 定 義 す る こ と で 、同 一 材 料 に お い て 棒 材 外 径 が 異 な る 場 合 に 、
破断限界値を容易に推定できる。
3.1.2.2.4
温度測定
CREO 処 理 中 の 温 度 測 定 は 放 射 温 度 計 に て 実 施 し た 。 ア ル ミ ニ ウ ム 合 金 の
CREO 処 理 は 400℃ 以 下 で 行 う こ と か ら 、赤 外 線 放 射 量 が 十 分 で な く 、ま た ア
ルミニウム合金の表面反射により温度測定誤差が発生しやすい。
このため温度較正として、棒材に熱電対を挿入して試料温度を測定した。
F12mm の 棒 材 に F1.2mm の 穴 を 、深 さ 5.5mm(試 料 中 心 )、11.5mm(試 料 表 面 )
の 2 種 類 の 深 さ で 穴 あ け 加 工 し た 。こ の 穴 に CA 熱 電 対 を 挿 入 し た 。温 度 測 定
時は、捻り変形を付与しない条件で実施した。
3.1.2.2.5
CREO 処 理 条 件
1)CREO 処 理 に お け る 破 断 限 界 の 把 握
横 移 動 速 度 を 一 定 と し て 、温 度 と 回 転 数 お よ び 冷 却 の 強 さ を パ ラ メ ー タ と し
て CREO 処 理 の 破 断 限 界 を 調 査 し た 。 条 件 を Table3.1.2 に 示 し た 。
横 移 動 速 度 を 一 定 と し た こ と に よ り 、回 転 数 の 増 減 に よ っ て ひ ず み 量 が 変 化
す る 。ま た 冷 却 能 の 差 に よ っ て 加 熱 幅 が 変 化 す る も の と 予 測 し 、加 熱 幅 が 狭 く
な る と ひ ず み を 付 与 さ れ る 幅 が 狭 く な る こ と か ら 、ひ ず み が 集 中 し て 破 断 し や
41
すくなる傾向を予測して冷却条件を設定した。
Table3.1.2. Condition of CREO
Temperature( ℃ )
300、 450
Rotation speed( rpm)
10∼ 40
Transverse velocity( mm/min)
Cooling condition
50
Weak ,
Strong
2)CREO 処 理 の 複 数 回 処 理
結 晶 粒 微 細 化 法 で あ る ECAP 法 に お い て 、 複 数 回 処 理 す る 事 で 更 な る 結 晶
粒 微 細 化 効 果 を 示 す 事 が 報 告 さ れ て い る 。 7)8)こ れ は ひ ず み 付 与 の 方 向 を 交 互
に し 、多 く の 部 位 に 転 位 を 導 入 す る こ と で 、微 細 化 を 促 進 す る 目 的 で 行 わ れ る 。
CREO 処 理 に お い て も 、微 細 化 効 果 を 最 大 化 す る た め に 、交 互 の 方 向 に 対 し て
複 数 回 処 理 を 行 っ た 。( Fig.3.1.3)
Fig.3.1.3 Image of multiple CREO treatment
CREO 処 理 は 、 1pass が 右 回 転 、 2passes が 左 回 転 、 3passes が 右 回 転 と し
て 、 一 回 目 の 捻 り 回 転 方 向 と 逆 方 向 に 捻 っ た 。 温 度 は 、 Zener-Hollomon パ ラ
メ ー タ (Z パ ラ メ ー タ ) 9 ) の 考 え 方 か ら 、A5056 素 材 に お い て CREO 処 理 可 能 な
最 低 温 度 で あ る 300℃ と し た 。 (Table3.1.3)
42
Table 3.1.3
Multiple treatment of CREO
Temperature( ℃ )
300
Rotation speed( rpm)
10
Transvers speed( mm/min)
50
Number of CREO treatment
1,2,3,4
Direction of Rotate
Right → Left → Right
CREO 処 理 の 捻 り 変 形 挙 動 を 把 握 す る た め Fig 3.1.4 に 示 す よ う に ケ ガ キ 線
を 入 れ た 。 本 実 験 は 450℃ − 回 転 数 10rpm− 送 り 速 度 50mm/min の 捻 り 条 件
および 3 パターンの冷却条件で実施した。
Table3.1.4
Dimension of mark line
43
3.1.2.3
(1)
結晶組織観察
光学顕微鏡組織観察
CREO 処 理 組 織 は Fig.3.1.5 に 示 し た よ う に 、棒 材 の 長 手 方 向 に 対 し て 直 交
断 面 ( X 面 )、 お よ び 長 手 方 向 に 対 し て 平 行 断 面 ( Y 面 ) を 観 察 し た 。
観 察 面 は エ メ リ ー 紙 で 研 磨 後 、ア ル ミ ナ 懸 濁 液 で バ フ 研 磨 し 、過 塩 素 酸 20%
− グ リ セ ロ ー ル 10% − エ タ ノ ー ル 70% の 電 解 研 磨 液 を 用 い 、 20V で 30 秒 後
→10V で 2 分 ほ ど 電 解 研 磨 を 行 っ た 。 そ の 後 、 バ ー カ ー ス 液 を 用 い 30V で 90
秒 腐 食 し 、 光 学 顕 微 鏡 ( OLYMPUS
Fig 3.1.5
(2)
BH 2 − UMA) に て 観 察 を 行 っ た 。
Section for Optical microstructure and SEM-EBSP observation
SEM-EBSP 観 察
CREO 処 理 の 走 査 型 電 子 顕 微 鏡 (Scanning Electron Microscope:SEM)に よ
る 電 子 後 方 散 乱 回 折 像 法 (Electrode Back Scattering Pattern:EBSP) 観 察 は 、
棒材の長手方向に対しての直交断面(X 面)について実施した。
観 察 面 ( X 面 ) は エ メ リ ー 紙 1000♯ で 研 磨 後 、 ア ル ミ ナ 懸 濁 液 で バ フ 研 磨
し 、過 塩 素 酸 20% − グ リ セ ロ ー ル 10% − エ タ ノ ー ル 70% の 電 解 研 磨 液 を 用 い 、
20V で 30 秒 後 →10V で 2 分 ほ ど 電 解 研 磨 を 行 っ た 。
観 察 装 置 に は HITACHI− 4300SE
電 界 放 射 型 走 査 電 子 顕 微 鏡( FE− SEM)
と 、 TSL 社 の OIM を 使 用 し た 。 解 析 に 電 子 線 後 方 散 乱 解 析 ( EBSP) 法 を 用
い 、 試 料 は Ag ペ ー ス ト で 固 定 し た 。 試 料 の 粒 径 に 合 わ せ 10×10( μm ) ∼
100×100( μm) の 範 囲 で 測 定 し た 。
44
(3)
TEM 観 察
CREO 処 理 に よ り 結 晶 粒 微 細 化 に お い て 、 約 0.3μm で あ る EBSP 分 解 能 以
下 の 詳 細 組 織 を 観 察 す る た め に 透 過 型 電 子 顕 微 鏡 (Transmission Electron
Microscope :TEM) を 用 い 、 最 も 微 細 な 結 晶 組 織 と な る 低 温 条 件 で 複 数 回 の
CREO 処 理 し た サ ン プ ル の 解 析 の み に 使 用 し た 。 Fig.3.1.6 に 示 し た よ う に 、
CREO 処 理 し た 棒 材 か ら 放 電 加 工 で 円 周 方 向 に 厚 さ 0.8mm で 切 出 し 、得 ら れ
た デ ィ ス ク 状 試 料 の 端 部 分 を F3mm に 打 ち 抜 き 、エ メ リ ー 紙 1000♯ で 研 磨 し
て 厚 さ 100μm に 調 整 し た 。 そ の 後 、 ツ イ ン ジ ェ ッ ト 法 で 電 解 研 磨 を し 、 試 料
を 薄 膜 化 し た 。電 解 研 磨 液 は 過 塩 素 酸 20% − グ リ セ ロ ー ル 10% − エ タ ノ ー ル
70% を 用 い 、20V で 30 秒 後 →7V で 小 さ な 穴 が 開 く ま で 行 っ た 。観 察 位 置 は 、
CREO 処 理 棒 材 外 周 端 か ら 約 1.5mm の 位 置 と し た 。
電 子 顕 微 鏡 観 察 に は 日 立 製 H-8100 透 過 型 電 子 顕 微 鏡 を 使 用 し 、 加 速 電 圧
200kV で 行 っ た 。
F12
F3
F3
Fig.3.1.6
Section for TEM observation
45
3.1.2.4
引張試験
引 張 試 験 片 は Fig.3.1.7 の よ う に 、 ワ イ ヤ ー カ ッ ト お よ び マ イ ク ロ カ ッ タ ー
に 切 り 出 し 、エ メ リ ー 紙 1000♯ で 両 面 と ゲ ー ジ 幅 を 研 磨 し て 、厚 さ を 1.5mm、
ゲ ー ジ 幅 を 5.0mm、 標 点 間 距 離 25mm に し た 。
引 張 試 験 機 に は 、 SHIMADZU AG-100E イ ン ス ト ロ ン 型 オ ー ト グ ラ フ を 用
い 、 室 温 に て ク ロ ス ヘ ッ ド ス ピ ー ド 0.3mm/min に て 試 験 を 実 施 し た 。
Fig.3.1.7
Dimension of tensile test specimens
46
3.1.3
結果及び考察
3.1.3.1 温 度 測 定
設 定 温 度 300℃ に お け る 熱 電 対 に よ る 温 度 測 定 結 果 を Fig.3.1.8 に 示 し た 。
加 熱 軟 化 を 示 す 250℃ 以 上 を 捻 り 可 能 範 囲 と 設 定 す る と 、捻 り 変 形 を 受 け る 領
域 は 冷 却 能 力 に よ っ て の 変 化 は 見 ら れ ず 、 弱 冷 却 で は 約 19mm と な り 、 強 冷
却 で は 18mm で あ っ た 。 た だ し 棒 材 送 り の 後 端 側 、 す な わ ち CREO 処 理 後 に
冷 却 さ れ る こ と と な る 図 中 右 側 の プ ラ ス 位 置 に お い て は 、水 冷 ノ ズ ル を 追 加 し
た 強 冷 却 の 方 が 、 Fig.3.1.8 図 に お い て 右 側 に 位 置 す る 、 CREO 処 理 後 側 に お
いて冷却速度が大きくなっていることが分かった。
Fig.3.1.8 Temperature of CREO at 300℃
設 定 温 度 450℃ の 温 度 分 布 を Fig.3.1.9 に 示 す 。 加 熱 温 度 が 高 い こ と か ら 、
熱 伝 導 に よ っ て 素 材 部 分 の 温 度 ま で 250℃ 以 上 と な っ て お り 、冷 却 能 力 不 足 で
あ っ た 。た だ し 捻 り 後 の 冷 却 と な る グ ラ フ 中 の 右 側( プ ラ ス 側 )で は 100℃ 以
下まで冷却可能であることがわかった。
冷 却 条 件 に よ っ て 捻 り 後 の 冷 却 速 度 に 大 き な 差 を 生 じ て お り 、強 冷 却 の 条 件
で冷却速度が大きくなった。
結 晶 粒 微 細 化 は 、加 熱 部 分 に 付 与 さ れ る 大 き な ひ ず み で 結 晶 組 織 の 分 断 が 生
じ 、そ の 後 の 冷 却 に よ っ て 組 織 凍 結 す る こ と で 、ひ ず み に よ る 微 細 化 を 常 温 ま
で 維 持 す る 事 が 可 能 と な っ て い る と 考 え ら れ る 。冷 却 の 強 弱 に よ っ て 冷 却 速 度
が 変 化 す る こ と か ら 、冷 却 速 度 に よ っ て 得 ら れ る 結 晶 組 織 に 大 き な 差 を 生 じ る
ことが推定できる。
47
Fig.3.1.9 Temperature of CREO at 450℃
捻りを付与しない条件で熱電対および放射温度計によるデータを較正して、
放 射 温 度 計 の 輻 射 率 を 調 整 す る こ と に よ っ て 、熱 電 対 で 測 定 で き な い 捻 り 変 形
中の温度測定を放射温度計で実施できるようにできた。
48
3.1.3.2
CREO 処 理 限 界
(1)CREO 処 理 限 界 の 捻 り 条 件 お よ び 温 度 へ の 依 存 性
CREO 処 理 の 温 度 を 300℃ 、 お よ び 横 移 動 速 度 を 50mm/min に 一 定 に し て 、
回 転 数 の み を 変 動 さ せ る こ と に よ り CREO-value を 変 化 さ せ て CREO 処 理 し
た。
CREO 処 理 に よ る 外 観 変 化 を Fig.3.1.10 に 示 し た 。 捻 り 変 形 付 与 に よ っ て
試 験 片 外 観 に 筋 状 の 変 形 模 様 が 観 察 さ れ る 。 捻 り 量 ( CREO-value) が 大 き く
な る に つ れ て 、変 形 模 様 の ピ ッ チ は 密 に な り 、縞 模 様 の 角 度 は 半 径 方 向 に 近 づ
きせん断変形が付与されていることがわかる。
ま た 変 形 開 始 し た 境 界 領 域 は 、Fig.3.1.8 お よ び Fig.3.1.9 に 示 し た 温 度 分 布
に お け る 温 度 勾 配 が 連 続 的 で あ る の に 対 し て 、捻 り 変 形 は 急 激 に 生 じ た 傾 向 を
示 し た 。こ れ は 加 熱 に よ る 変 形 抵 抗 が 最 高 温 度 領 域 に お い て 低 く な り 、最 高 温
度 の 位 置 か ら 離 れ る に つ れ て 、徐 々 に 変 形 抵 抗 が 上 昇 し て い く が 、相 対 的 に 変
形 抵 抗 の 低 い 領 域 に 変 形 が 集 中 す る 傾 向 を 示 し た も の と 考 え ら れ る 。し た が っ
て 軟 化 領 域 の 幅 よ り も 、冷 却 速 度 の 方 が 結 晶 粒 微 細 化 に 影 響 を 与 え る 可 能 性 が
高くなる可能性が推定できる。
Fig.3.1.10
Outlook of each CREO-value at 300℃ ,50mm/min
49
2)
CREO 処 理 限 界 の 把 握
CREO 処 理 条 件 の 基 本 パ ラ メ ー タ で あ る 、処 理 温 度・回 転 数・横 移 動 速 度 を
変 化 さ せ て 、捻 り 変 形 に よ る 破 断 限 界 を 明 確 に し 、CREO 処 理 可 能 領 域 を 明 ら
か に し た 。( Fig.3.1.11)
こ の 結 果 、処 理 可 能 領 域 は 、同 一 温 度 の 場 合 に 回 転 数 と 横 移 動 速 度 に 直 線 的
に 比 例 す る 事 が 分 か っ た 。こ れ は 加 熱 さ れ た 変 形 抵 抗 が 低 下 し た 領 域 が 破 断 無
く 変 形 可 能 な 条 件 で 、受 け る こ と が 出 来 る ひ ず み 量 に 比 例 す る こ と と 同 義 で あ
る 。し か し な が ら 横 移 動 速 度 が 極 端 に 高 速 も し く は 低 速 の 場 合 に は 、加 熱 温 度
の軸方向分布および径方向分布が変化することが予想される。
こ の 限 界 捻 り ひ ず み 量 を 示 す た め の パ ラ メ ー タ を 限 界 CREO-value と し た 。
CREO 処 理 温 度 が 高 く な る に つ れ て【 回 転 数 − 横 移 動 速 度 】の 傾 き は 大 き く な
っ た 。す な わ ち 加 熱 温 度 が 高 く な る こ と で 供 試 材 の 延 性 が 大 き く な り 、受 動 可
能 な 捻 り ひ ず み 量 が 大 き く な り 限 界 CREO-value が 大 と な る 。 限 界
CREO-Value 近 傍 ほ ど 、 微 細 化 効 果 が 大 き い こ と が 予 想 で き る 。
Fig.3.1.11
CREO
enable area at (a)400℃ (b)450℃ (c)500℃
50
(2) CREO 処 理 限 界 の 冷 却 能 依 存 性
横移動速度を一定として、温度と回転数で加工限界を整理したものを
Fig.3.1.12(a)に 示 し た 。CREO 処 理 限 界 は 、回 転 数 と 処 理 温 度 に 比 例 し た 関 係
を 示 し 、処 理 温 度 が 高 い ほ ど 高 回 転 で の 捻 り ひ ず み を 付 与 す る 事 が 出 来 た 。更
に Fig.2.1.17 に 示 し た 追 加 冷 却 ユ ニ ッ ト に て 冷 却 能 を 向 上 さ せ た 条 件 で 同 様
の CREO 処 理 限 界 線 図 を 作 成 し た 。 こ の 結 果 、 Fig.3.1.12(b)に 示 し た よ う に
回 転 数 と 処 理 温 度 の 限 界 線 図 の 傾 き は 変 化 し な い が 、捻 り 限 界 は 平 行 に シ フ ト
し て 低 下 す る こ と が 分 か っ た 。こ れ は 冷 却 能 を 向 上 さ せ る 事 で 延 性 が 高 い 加 熱
軟 化 領 域 が 狭 く な り 、同 じ 捻 り 回 転 数 に お い て も ひ ず み を 受 動 す る 領 域 が 狭 く
なったため、結果的に高いひずみを付与されたものと考えられる。
(a) Normal ring cooling
(b) Ring cooling with extra cooling unit
Fig.3.1.12
CREO treatment enable area
at 50mm/min
こ の 結 果 か ら 、 冷 却 条 件 に よ っ て CREO-value は 変 化 し 、 高 い 冷 却 能 ほ ど
51
低 い ひ ず み で 材 料 破 断 が 発 生 す る 事 が 分 か っ た 。す な わ ち 以 下 の こ と が 明 ら か
に出来た。
① 冷 却 条 件 を 強 め る と 最 大 CREO-Value が 下 が る
② 加 工 温 度 を 高 め る と 最 大 CREO-Value が 上 が る
(3)冷 却 条 件 に よ る 捻 り 変 形 の 差 異 観 察
冷 却 条 件 に よ っ て 変 形 の 位 置 お よ び 領 域 が 変 化 す る こ と が 予 想 さ れ た 。こ の
た め 供 試 棒 材 に ケ ガ キ 線 を 入 れ 、 CREO 処 理 後 の 変 形 位 置 を 観 察 し た 。
( Fig.3.1.13)
Fig.3.1.13
Deformation area transformation with cooling condition
入 り 口 側 の 冷 却 を 緩 や か に し た 条 件 (a)で は 、 加 工 開 始 位 置 が 入 口 側 に シ フ
ト す る 傾 向 を 示 し た 。 冷 却 条 件 を (a)と 正 反 対 に 設 定 す る 事 に よ り 、 加 工 開 始
位 置 は 緩 冷 却 の 出 口 側 に シ フ ト す る 傾 向 を 示 し た 。更 に 入 り 口 側 と 出 口 側 の 冷
却 条 件 を 同 一 に し た 条 件( b)で は 、条 件 (a)と (c)の 中 間 的 な 開 始 位 置 を 示 し た 。
52
ま た 捻 り 変 形 を 受 け た 幅 に つ い て 調 べ た 。入 り 口 も し く は 出 口 の 一 方 を 緩 冷
却 と し た 条 件 (a)(c)は 同 等 の 捻 り 変 形 幅 と な り 、 入 口 出 口 を 同 等 の 冷 却 能 力 で
バ ラ ン ス し た 条 件 (b)が 、 最 も 狭 い 捻 り 変 形 幅 と な っ た 。 こ れ は 冷 却 能 力 が 低
い 側 は 、高 周 波 で 加 熱 さ れ た 供 試 材 が 十 分 に 冷 却 さ れ ず 、低 変 形 抵 抗 領 域 が 広
が っ て い る こ と か ら 捻 り 変 形 の 幅 が 広 く な っ た も の と 思 わ れ る 。こ の 様 に 冷 却
能 力 が 不 十 分 な 場 合 に は 、変 形 を 受 け る 領 域 が 広 が る こ と か ら 、結 果 的 に ひ ず
み量が小さくなることが分かる。最も大きな捻りひずみが付与される場所は、
最 高 温 度 の 部 位 で あ り 高 周 波 コ イ ル の 近 傍 と 一 致 す る こ と が 予 想 さ れ る 。冷 却
装 置 に 近 づ く ほ ど 、供 試 材 の 温 度 は 低 下 傾 向 を 示 す 事 が 予 想 さ れ る 。特 に 出 口
側 の 冷 却 直 前 で の 冷 却 能 力 が 低 く 、か つ 小 さ な ひ ず み を 付 与 す る 状 態 に な る と 、
結晶粒微細化が十分に得られない状況となる。
こ の 様 に 、CREO 処 理 に お い て は 、工 具 な ど で 供 試 材 を 拘 束 し て 変 形 を 与 え な
い ダ イ レ ス 加 工 で あ る た め 、加 熱 に よ り 供 試 材 が 軟 化 し た 領 域 に 捻 り ひ ず み が
集 中 す る 。こ の た め 加 熱 領 域 お よ び 冷 却 の 条 件 設 定 が 重 要 と な り 、設 備 設 計 に
お い て も 高 周 波 加 熱 コ イ ル の 形 状・巻 き 数・出 力 特 性 が 重 要 で あ り 、更 に 冷 却
装置の冷却能力・冷却範囲の制御が非常に重要となることが分かった。
53
3.1.3.3
結晶組織解析
(1)初 期 組 織
供 試 材 の 組 織 を Fig3.1.14 に 示 し た 。平 均 結 晶 粒 径 は 約 40μm で あ り 、等 軸
の 焼 鈍 組 織 を 示 し た 。ま た 試 料 位 置 に よ る 大 き な 粒 径 分 布 の 変 化 は 見 ら れ な か
った。
Fig.3.1.14 Initial microstructure
(2)CREO 処 理 に よ る マ ク ロ 組 織 変 化
CREO 処 理 し た A5056 供 試 材 に つ い て 、処 理 後 組 織 を 観 察 し た 。
( Fig.3.1.15)
結 晶 組 織 は 、未 加 工 部 か ら 加 工 部 に 向 か っ て い く に 従 っ て 、初 期 組 織 領 域 が 漏
斗 状 に 狭 ま っ て い き 、安 定 領 域 に 入 る と 初 期 組 織 は 供 試 棒 材 の 中 心 部 の み に 残
留することとなった。
微 細 化 領 域 に お い て 外 周 部 の 方 が 微 細 な 組 織 と な る 傾 向 を 予 想 し た が 、微 細
化領域での結晶粒径の内外差は光顕マクロ組織においては観察されなかった。
本 処 理 条 件 に お い て は 、 安 定 CREO 処 理 領 域 に お け る 粗 大 粒 領 域 は 芯 状 と
な り 、そ の 領 域 関 係 を 保 っ た ま ま 加 工 が 進 ん だ 。ま た 芯 状 に 残 留 し た 初 期 組 織
も 、結 晶 組 織 は 斜 め に 延 伸 さ れ た 組 織 と な っ て お り 、変 形 し て い る こ と が 確 認
された。
54
Fig.3.1.15 Microstructure distribution of cross section after CREO
微 細 粒 領 域 の 更 な る 詳 細 観 察 の た め 、 CREO 処 理 材 の 半 径 方 向 に
SEM-EBSP 観 察 を 行 い 、 結 晶 粒 径 分 布 を 調 査 し た 。( Fig.3.1.16)
結晶粒径は、外周部が最も微細化されており、中心部に向けて粗大化傾向が
観 察 さ れ た 。 し か し 粗 大 化 傾 向 は 顕 著 で は な く 、 最 外 周 部 か ら 1/2R 部 ま で は
結 晶 粒 径 に 変 化 は 見 ら れ な か っ た 。更 に 中 心 部 方 向 で は 粗 大 化 傾 向 が 見 ら れ る
が 、そ の 変 化 が 非 常 に 小 さ か っ た 。中 心 部 か ら 約 1mm は 粗 大 化 組 織 と な っ て
い る が 、 そ れ で も Fig.3.1.15 の 光 学 顕 微 鏡 組 織 観 察 結 果 で も 分 か る よ う に 、
組 織 の 変 化 が 観 察 さ れ て い る 。 ま た Fig.3.1.14 に 示 し た CREO 処 理 前 の 供 試
材 の 結 晶 粒 径 が 50∼ 100μm で あ る こ と に 対 し て 、CREO 処 理 後 に お い て は 約
10μm ま で 微 細 化 さ れ て お り 、こ の 結 晶 粒 径 は 現 状 の 工 業 的 手 法 で の 最 小 の 結
晶粒径レベルであった。
中心部においては、大傾角粒界による明確な境界観察が減少し、小傾角粒界
もしくは転位と思われる分解困難な境界が観察された。
55
Fig.3.1.16
Grain size distribution by SEM-EBSP
(3)CREO-value に よ る 組 織 変 化
半 径 方 向 の 結 晶 粒 径 分 布 と CREO-value と の 関 係 を 調 査 し た 。 固 定 条 件 と
し て 、設 定 温 度・横 移 動 速 度・冷 却 条 件 は 同 一 と し 、回 転 数 を 10rpm∼ 80rpm
の 範 囲 で CREO-value を 変 化 さ せ て 、ひ ず み 量 を 変 化 さ せ た 。(Table 3.1.4) 結
晶組織は、半径方向の全範囲を観察するために光学顕微鏡を用いた。
56
Table3.1.4 Condition of CREO
No
Temperatur
Rotation
Transvers
Cooling
e
(rpm)
speed
condition
(℃)
CREO-Value
(mm/min)
( a)
300
10
200
Strong
0.05
( b)
300
20
200
Strong
0.1
( c)
300
40
200
Strong
0.2
( d)
300
80
200
Strong
0.4
Fig.3.1.17
Relationship between grain distribution and CREO-value
at 300℃ and CR-V=0.05,0.1 with extra cooling system
57
Fig.3.1.18
Relationship between grain distribution and CREO-value
at 300℃ and CR-V=0.2,0.4 with extra cooling system
結 晶 組 織 観 察 結 果 を Fig.3.1.17 お よ び Fig.3.1.18 に 示 し た 。 光 学 顕 微 鏡 の
範 囲 で は あ る が 、CREO-Value が 大 き い ほ ど 中 心 部 の 粗 大 粒 残 存 領 域 が 縮 小 し
て い く 傾 向 を 示 し た 。 CREO-value=0.2 以 上 で は 、 中 心 残 留 部 の 直 径 は 約
1.7mm で 一 定 と な っ た 。 こ れ は 棒 材 の 捻 り 回 転 な の で 試 料 中 心 に 近 く な る に
し た が い 、周 方 向 の せ ん 断 ひ ず み が 小 さ く な り 、微 細 化 に 必 要 な ひ ず み 量 を 得
ることが出来なくなったものと考えられる。
Fig.3.1.16 の 結 果 と 併 せ て 、中 心 部 の 粗 大 粒 残 留 領 域 を 小 さ く す る た め に 捻
り ひ ず み 量 が 大 き い ほ ど 効 果 が 大 き い が 、一 定 以 上 の ひ ず み を 付 与 し た 場 合 の
粒 径 は 同 等 で あ り 、大 き な ひ ず み の 付 与 に よ り 更 な る 結 晶 粒 微 細 化 す る 効 果 は
期待できないことが分かった。
棒 材 に 捻 り ひ ず み を 付 与 す る に 際 し て 、中 心 部 は 基 本 的 に ひ ず み = 0 と な り
微 細 化 効 果 は 得 ら れ な い と 予 測 し て い た 。し か し 実 際 に は 、中 心 部 近 傍 の 部 位
からのひずみ伝播によって組織の延伸および微細化が進行していることが分
58
かった。
以 上 の 結 果 よ り 、中 心 部 近 傍 の 結 晶 粒 微 細 化 お よ び 中 心 部 の 素 材 粒 領 域 を 減
少させるために捻りひずみ量を大きくすることが効果的であることが推定で
き る が 、周 辺 部 の ひ ず み 伝 播( 引 き ず り )に よ っ て 、中 心 部 も 一 定 レ ベ ル の 延
伸および微細化効果は得られる事が分かった。
(4)
弱 冷 却 に お け る CREO 処 理 温 度 と 結 晶 粒 微 細 化 効 果 の 関 係
CREO 処 理 温 度 に よ る 結 晶 組 織 変 化 に つ い て 調 べ た 。 追 加 冷 却 ユ ニ ッ ト
を 作 動 さ せ な い “弱 冷 却 ”の 条 件 で 、300℃ と 450℃ の 2 水 準 に て CREO 処 理 を
実 施 し た 。 観 察 に は SEM-EBSP を 用 い て 、 Fig 3.1.5 で 示 し た X 面 に つ い て
観察した。
条 件( 1) 設 定 300℃ -回 転 数 20rpm-送 り 速 度 50mm/min
( CREO-Value0.4)
条 件( 2) 設 定 450℃ -回 転 数 40rpm-送 り 速 度 50mm/min
( CREO-Value0.8)
観 察 結 果 を Fig.3.1.19 に 示 し た 。 両 条 件 の 組 織 を 比 べ る と 、 条 件 (1)が 結 晶
粒 径 5.5μm、 条 件 (2)が 結 晶 粒 径 8.9μm と 微 細 化 さ れ て い た 。
結 晶 組 織 は 高 温 ( 450℃ ) で CREO-value が 大 き な 条 件 (2)に 比 較 し て 、 条
件 (1)の 低 温 で あ る 300℃ で の CREO 処 理 の 方 が CREO-Value が 小 さ い に も 係
わ ら ず 微 細 化 さ れ て い た 。す な わ ち ひ ず み 量 よ り も 微 細 化 に は 温 度 の 影 響 が 大
き い 事 が 分 か っ た 。こ れ は 加 熱 温 度 が 高 い 場 合 に は 、最 高 温 度 付 近 で 捻 り 変 形
ひ ず み が 最 大 と な り 、冷 却 さ れ る に と も な い 、最 高 温 度 部 に 対 し て 相 対 的 に 変
形 抵 抗 が 上 昇 す る こ と か ら 、捻 り 変 形 無 し に 一 定 以 上 の 加 熱 状 態 に な る 。こ の
余 熱 と も 言 え る 加 熱 状 態 の 熱 エ ネ ル ギ ー に よ っ て 、捻 り に よ っ て 微 細 化 し た 結
晶組織が粗大化したものと思われる。
300℃ で の 低 温 CREO 処 理 に お い て は 、最 高 温 度 そ の も の が 捻 り 変 形 付 与 可
能 な 最 低 限 の 温 度 に 設 定 さ れ て い る た め 、最 高 温 度 か ら 少 し で も 温 度 低 下 す る
と結晶粒を粗大化させないレベルの温度以下に達してしまうのではないかと
予 想 さ れ る 。す な わ ち 捻 り 変 形 に よ り 結 晶 組 織 が 微 細 化 さ れ た 直 後 に 、結 晶 粒
粗大化温度以下まで冷却されることで微細化組織が維持されるものと思われ
る。
59
Fig.3.1.19
Relationship between microstructure and CREO temperature
at transvers speed 50mm/min
(5)強 冷 却 に お け る CREO 処 理 温 度 と 結 晶 粒 微 細 化 効 果 の 関 係
冷 却 能 力 が CREO 処 理 に よ っ て 付 与 さ れ る 捻 り 変 形 の 位 置 お よ び 幅 が 変 化
す る こ と は 3.1.3.2
(3)に て 述 べ た 。 こ の 冷 却 能 力 の 差 に よ っ て 結 晶 組 織 に
変 化 を 生 じ る こ と が 予 想 さ れ る 事 か ら 、CREO 処 理 温 度 は (4)項 に 同 じ く 300℃
と 450℃ と し 、 冷 却 能 力 の み を 強 化 し た 条 件 に て 冷 却 能 の 影 響 を 調 べ た 。
CREO 処 理 の 条 件 は 、 以 下 に 示 す 条 件 (3)(4)で あ り 、 処 理 後 の 結 晶 組 織 観 察
に は SEM-EBSP を 用 い て 、 Fig 3.1.5 で 示 し た X 面 に つ い て 観 察 し た 。
条 件( 3) 設 定 300℃ -回 転 数 10rpm-送 り 速 度 50mm/min( ST-Value0.2)
条 件( 4) 設 定 450℃ -回 転 数 30rpm-送 り 速 度 50mm/min( ST-Value0.6)
観 察 結 果 を Fig.3.1.20 に 示 し た 。 両 条 件 の 組 織 を 比 べ る と 、 条 件 (3)が 結 晶
粒 径 0.9μm、条 件 (2)が 結 晶 粒 径 5.2μm と 微 細 化 さ れ て い た 。弱 冷 却 と 比 較 す
るとい、冷却能力のアップによって大幅に微細化が促進されたことが分かる。
60
ま た 強 冷 却 条 件 に お い て も 弱 冷 却 と 同 様 に CREO-Value が 小 さ い に も 拘 わ
ら ず 条 件 (3)の 方 が 結 晶 組 織 は 微 細 化 さ れ た 。 こ の 事 か ら ,冷 却 能 力 を 強 め た 強
冷 却 条 件 に お い て も 、微 細 化 に 寄 与 す る 要 因 と し て は 、CREO 処 理 温 度 の 寄 与
率が高いことが分かった。
Fig.3.1.20
Relationship between microstructure and cooling ability
with extra cooling unit at transvers speed 50mm/min
微 細 化 条 件 と し て 有 効 な 低 温 で あ る 300℃ で の CREO 処 理 に お い て 、 弱 冷
却 の 条 件 (1)と 強 冷 却 の 条 件 (3)の 結 晶 組 織 を 比 較 し た 。(Fig.3.1.21) こ の 結 果 、
強 冷 却 の 条 件 (3)の 結 晶 粒 径 が 約 0.9μm に 対 し て 、緩 冷 却 で あ る 条 件 (1)で は 約
5.5μm と 顕 著 な 差 が 見 ら れ た 。
CREO 処 理 の 最 高 温 度 領 域 で 、 最 大 の 捻 り ひ ず み が 付 与 さ れ て 結 晶 組 織 が
微 細 化 さ れ る ま で は 両 条 件 共 に 等 し い が 、処 理 後 の 冷 却 能 力 に 違 い に よ り 、短
時 間 で “粗 大 化 温 度 ”以 下 ま で 冷 却 さ れ た か 否 か に よ っ て 結 晶 組 織 の 差 が 発 生
したものと思われる。
61
以上のことをまとめると、次のようになる。
①捻らなければ微細化しない
② CREO 処 理 温 度 は 低 い 方 が 微 細 化 す る 。
③冷却能力が高いほど微細化する。
ま た CREO 処 理 に お け る 微 細 化 へ の 寄 与 率 は 、 ほ ぼ 【 CREO 処 理 温 度 】 >
【 冷 却 能 力 】 > 【 CREO-value( 捻 り ひ ず み 量 )】 の 順 で あ る と 考 え る 、
Fig.3.1.21
Relationship between microstructure and cooling ability
at 300℃ , transvers speed 50mm/min
62
(5)複 数 回 加 工 に よ る 組 織 の 違 い
こ れ ま で の CREO 処 理 で 、低 温( 300℃ )お よ び 強 冷 却 に お い て 結 晶 粒 は 最
も 微 細 化 さ れ る こ と が 分 か っ た 。こ の 微 細 化 条 件 を 基 準 と し て 、更 な る 微 細 化
を 進 め る た め 、 複 数 回 の CREO 処 理 を 試 み た 。 複 数 回 の 逆 方 の ひ ず み 付 与 に
つ い て は ECAP 処 理 等 で 多 く 報 告 さ れ て き て お り 、 微 細 化 効 果 が 確 認 さ れ て
い る 。 ま た 第 3 章 第 1 節 に て 記 載 し た マ グ ネ シ ウ ム 合 金 の CREO 処 理 に お い
ても効果が確認できている。
本 研 究 で は Table 3.1.4 で 示 し た 条 件 に て 2 回 お よ び 3 回 の CREO 処 理 を 行
っ た 。 こ れ ら の 1μm 以 下 で の 結 晶 組 織 比 較 に は 、 今 回 使 用 し た SEM-EBSP
で は 分 解 能 が 不 足 す る こ と か ら 、 TEM に て 観 察 し た 。
ま ず 1 回 CREO 処 理 に お い て 最 も 微 細 な 組 織 が 得 ら れ た 条 件 (3)に つ い て
TEM に て 結 晶 組 織 を 観 察 し た 。
条 件 (3)は SEM-EBSP で は 観 察 困 難 な た め に 電 子 顕 微 鏡 を 用 い て 観 察 し た
結 果 を Fig.3.1.22 に 示 す 。 回 折 図 形 は リ ン グ 状 に な っ て お り 、 SEM-EBSP 同
様 に 様 々 な 結 晶 方 位 が 存 在 し た 。ま た 粒 内 に は 強 ひ ず み 加 工 に 特 有 な 複 数 の 転
位 が 確 認 さ れ て い た が 、粒 界 そ の も の は 等 軸 に 近 い も の が 多 く 見 ら れ 、捻 り 変
形後の熱で再結晶していることが分かる。
Fig.3.1.22
TEM observation result with 1 pass CREO at 300 ℃,10rpm,50mm/min
63
複 数 回 で の CREO 処 理 加 工 は 4 パ ス で 破 断 し 、 3 パ ス で は 試 料 表 面 に 多 数
の ク ラ ッ ク が 観 察 さ れ た 。2 パ ス で は 試 料 表 面 に 複 数 の 線 が 入 る が ク ラ ッ ク は
観察されなかった。試料外周部の組織を電子顕微鏡で観察を行ったものを
Fig.3.1.23 に 示 す 。 1 パ ス の 結 晶 粒 径 が 約 0.91μm に 対 し て 、 2 パ ス が 結 晶 粒
径 0.86μm、 3 パ ス が 結 晶 粒 径 0.72μm と 、 CREO 処 理 回 数 を 増 や す 事 で 微 細
化は進むものの、その程度は小さなものであった。
こ れ は 供 試 材 で あ る ア ル ミ ニ ウ ム 合 金 が FCC で あ り 、 多 く の す べ り 面 を 有
す る こ と が 原 因 で は な い か と 考 え ら れ る 。す な わ ち 方 向 を 変 え て ひ ず み を 付 与
し て も 、多 く の 容 易 す べ り 面 の 存 在 か ら 、粒 界 滑 り が 発 生 し て 粒 内 へ の 転 位 の
導 入 お よ び 粒 界 の 形 成 に 至 ら な か っ た の で は な い か と 考 え る 。マ グ ネ シ ウ ム 合
金 の 場 合 に は 、 HCP 構 造 で あ る た め 、 す べ り 面 が 限 ら れ る こ と か ら 、 粒 内 へ
の ひ ず み 導 入 が 容 易 と な り 、強 ひ ず み に よ る 微 細 化 効 果 が 顕 著 に 現 れ た も の と
考える。
更 に ECAP 処 理 等 に 比 較 し て 効 果 が 小 さ か っ た の は 、 ECAP が 金 型 内 で 素
材 を 拘 束 し た 状 態 で 、静 水 圧 に 近 い 状 態 で 強 ひ ず み を 繰 り 返 し 付 与 で き る 点 が
CREO 処 理 と 大 き く 異 な っ た も の と 思 わ れ る 。 CREO 処 理 で は ひ ず み が 付 与
さ れ る 部 位 は 、加 熱 軟 化 に よ り 形 成 さ れ た 低 変 形 抵 抗 領 域 も し く は 粒 界 滑 り に
より形成された低変形抵抗領域を選択してひずみが集中する点に大きな相違
があると考えた。
Fig.3.1.23
TEM microstructures comparing between 2 pass and 3 pass
at 300 ℃,10rpm,50mm/min
64
3.1.3.4
引張試験
引 張 試 験 の 比 較 材 と し て 、 入 手 材 を 400℃ ×1Hr 焼 鈍 し た 焼 鈍 材 、 受 領 材
( H34 引 抜 材 )と CREO 処 理 材【 条 件 (1)∼ (4)】に つ い て 室 温 で の 引 張 試 験 を
実 施 し た 。 結 果 を Fig.3.1.24 に 示 す 。
全 て の 応 力 − ひ ず み 曲 線 で 降 伏 後 に セ レ ー シ ョ ン が 確 認 さ れ 、動 的 ひ ず み 時
効 が 起 こ っ て い る と 考 え ら れ る ( 11 ) 。 CREO 処 理 温 度 300℃ で は 、 耐 力 ・ 最 大
応 力 が 大 き く な り 、伸 び が 小 さ く な っ た 。CREO 処 理 温 度 450℃ で は 、耐 力 ・
最大応力は低くなり、伸びが大きくなった。
特 に 、 CREO 処 理 温 度 300℃ 、 追 加 冷 却 ユ ニ ッ ト で 強 冷 却 し た 条 件 (3)に お
い て 、耐 力・最 大 応 力 が 最 大 を 示 し た 。最 大 応 力 は 、比 較 対 象 と な る 焼 鈍 材 と
比 較 し て 、 約 27% 向 上 し た 。 ( 1 2 )
Fig.3.1.24
Result of tensile test
65
3.1.4
結
言
1)
CREO 処 理 限 界 は CREO-value で 示 す 事 が 可 能 で あ る 。
2)
処理温度が低いほど、付与可能な捻りひずみ量は低くなり、限界
CREO-value が 小 さ く な る 。
3)
冷却能力が高くするほど、付与可能な捻りひずみ量は低くなり、限界
CREO-value が 小 さ く な る 。
4)
CREO 処 理 後 の 結 晶 は 、 Zener-Hollomon パ ラ メ ー タ に 従 い 、 CREO
処理温度が低いほど結晶粒径は微細化する。
5)
冷却能力を向上させるほど、結晶粒径は微細化された。
6)
今 回 試 験 範 囲 で 、 最 も 低 い CREO 処 理 温 度 300℃ と 強 冷 却 の 組 合 せ に
よ り 最 も 微 細 な 平 均 結 晶 粒 径 0.9μm の 試 料 が 得 ら れ た 。
7)
CREO 処 理 温 度 300℃ と 強 冷 却 の 組 合 せ に よ り 得 ら れ た 結 晶 粒 径 0.9μm
の試料は、耐力と最大応力が最も高くなった。
8)
CREO 処 理 棒 材 中 心 部 に 残 留 す る 粗 大 粒 領 域 は 、 捻 り ひ ず み 量 が 大 き
い 程 、す な わ ち CREO-Value が 大 き く な る ほ ど 、粗 大 領 域 が 減 少 す る 。
9)
中 心 部 に 残 留 す る 粗 大 領 域 の 大 き さ は 、 今 回 の CREO 処 理 条 件 範 囲 で
CREO-value を 大 き く し て も 一 定 以 下 に 縮 減 出 来 な い こ と が 分 か っ た 。
66
【参考文献】
1)
中村
克昭、根石
浩司、金子
賢治、堀田
善治、中垣
道彦
“ 恒 温 鍛 造 用 金 属 素 材 の 連 続 結 晶 粒 微 細 化 プ ロ セ ス ” STSP“ ”
ア ル ト ピ ア 2003 12
2)
Katsuaki Nakamura,Koji Neishi,Kenji Kaneko, Michihiko Nakagaki
and Zenji Horita
“ Development of Severe Torsion Straining Process for Rapid
Continuous Grain
Refinement”
Materials Transactions,45(2004)3338
3)
東野
昭彦、宮原
勇一、根石
中垣
道彦、堀田
善治
浩司、中村
克昭、金子
賢治、
“ 強 ひ ず み 拘 束 連 続 加 工 プ ロ セ ス ”STSP“ に よ る Al-Mg 合 金 の 微 細 粒 解
析と機械的性質の改善”
第 55 回 塑 性 加 工 連 合 講 演 会
4)
(2004)
p 395-396
Katsuaki Nakamura , Koji Neishi , Kenji Kaneko , Michihiko Nakagaki
and Zenji Horita
“ Continuous Grain Refinement Using Severe Torsion Straining
Process”
Materials science Forum Vols.503-504(January 2006) pp385-390
5)
Koji Neishi , Akihiko Higashino , Yuichi Miyahara ,
Katsuaki Nakamura , Kenji Kaneko , Michihiko Nakagaki and
Zenji Horita
“ Grain Refinement of Commercial Al-Mg alloy Using Severe Torsion
Straining Process”
Materials science Forum Vols.503-504(January 2006) pp955-960
6)
7)
軽金属協会
アルミニウムハンドブック
堀田善治、古川
稔 、 Terence G. Langdon、 根 本
實
“ 新 し い 組 織 制 御 法 と し て の ECAP”
まてりあ
8)
第 37 巻
第 9 号 (1998)
Zenji HORITA , Takayoshi FUJINAMI , Minoru NEMOTO and
Terence G. LANGDON
Proceedings of ICAA-6 (1998)
Aluminumu alloys Vol1
67
P449-454
9)
森永
正彦、古原
忠、戸田
祐之
“ 金 属 材 料 の 加 工 と 組 織 ( 共 立 出 版 )” p 183
68
3.2
HCP(マグネシウム)合金への適用
3.2.1
緒
3.2.1.1
言
マグネシウム合金の特徴
稠密六方格子(HCP)構造を有する代表的な合金であるマグネシウム合金は軽量、高
比強度、高比剛性、振動吸収性、電磁波遮蔽性など優れた特性を有することから近年、
自動車や電子機器製品等への利用が急増している。1)∼4)
マグネシウム合金の優れた特性を以下に列挙する。
①軽量
(実用金属中最軽量)
②高比強度
(実用金属中最大)
③高比剛性
(樹脂系材料との比較)
④比熱が小さい、優れた放熱特性
⑤耐くぼみ性
(178 J/cm3・K)
(加工硬化率が高い)
⑥高振動吸収性
一方で、大きな課題として以下が挙げられる。
①HCP 構造であることから塑性加工性が低く、300℃以上での加熱成形が必要で、
熱容量が小さいことから金型加熱が必要である。
②高比強度ではあるが、CFRP 等の台頭で更なる強度向上が必要。
③複雑形状・高精度部品の製造技術が未発達である。
④連続鋳造法が確立されておらず、地金価格に対して棒材価格が非常に高い。
⑤耐食性が低く、表面処理が不可欠である。
⑥引火性が高く、特に粉末状態では爆発的は燃焼を示す。
以上の中で重要な課題として挙げられる塑性加工性の低さは、マグネシウム合金の結
晶構造である稠密六方格子(HCP=Hexagonal closed packed lattice)構造に起因してい
る。(Fig.3.2.15))
すべり系には、底面すべり系(0001)< 11 2 0 >、柱面すべり系{ 10 1 0 }< 11 2 0 >、一次錘面
すべり系{ 10 1 1 }< 11 2 0 >および二次錐面すべり系 {1 1 22} < 11 2 3 > がある。底面すべり系
は室温でも活動するが、非底面すべり系は 300 ℃以上の高温にならないと活動しにくい
ため、冷間での塑性加工性が劣っている。6)
このためマグネシウム合金の塑性加工は加熱成形が使用され、成形温度は 330℃以上の
高い温度が必要であり、かつマグネシウムが軽量で熱容量が小さいことから型によって
69
冷却されやすく、金型も加熱する恒温塑性加工が必要である。
このため、金型加熱方法の開発および素材と金型両方を加熱するに必要なエネルギー
の低減、恒温環境で使用可能な潤滑材開発等の課題を有している。この課題を,個々の要
素技術で解決する方向性と、加工温度を低温化することで解決する、2 種の方向性を有
すると考える。
Fig.3.2.1
Structure of HCP
マグネシウム合金は、軽量性を活用して自動車・電子機器・光学機器等の用途で多く
の部品に適用されてきている。
自動車用では、ほぼ全量がダイカストで製造されており、ステアリング支持部やイン
パネ周りに使用されている。また海外メーカではエンジン本体の一部に適用されている。
一方、電子機器等ではパソコン本体、光学機器では高級一眼レフカメラ本体等に使用さ
れているが製法はダイカストが中心である。
塑性加工による部品は極めて限定的であるものの、パソコンの上天板およびモバイル
機器で板鍛造法であるプレスフォージング
11)により塑性加工が適用されている。また光
学機器においては、高級レンズのフード等に鍛造品が使用されている。
このように軽量化の要請からマグネシウムの用途は拡大しているものの、塑性加工に
70
よる部品製造は拡大できていない。この理由として、以下に示す点が実用化への大きい
と考えられる。
①330℃以上での加熱成形が必要で、金型加熱が必要である。
②CFRP 等の台頭で更なる強度向上が必要。
③複雑形状・高精度部品の製造技術が未発達である。
④連続鋳造法が確立されておらず、地金価格に対して棒材価格が非常に高い。
3.2.1.2
本研究の目的
マグネシウム合金の塑性加工性および機械的特性を向上させる方法として、結晶粒微
細化が提案されてきている。マグネシウム合金の結晶粒微細化する方法としては、強ひ
ず み 加 工 法 と し て ECAP(Equal Channel Angular Pressing)12) ∼ 14) や HPT(High
Pressure Torsion)15)16) ARB(Accumulative Roll Bonding)17)などのプロセスについて多
くの研究が行われてきており、塑性加工における加工温度低下および延性向上等の成形
性向上が確認されている。一方で、微細化による高強度化についても多くの研究がなさ
れてきており、高強度化が確認されている。
従来の SPD 法における課題であった連続性および大型化を実現した CREO 処理(旧
名 STSP)
(14)
は、捻り変形の回転数を制御することで、異方性制御することによる機械
的特性制御が期待できる。
CREO 処理されたマグネシウム合金は、マグネシウム合金で一般的な素材製法である
押出加工において、(0001)面が押出方向に平行に配向することによって強い集合性を示
す。18)∼22)
CREO 処理の捻り変形付与による集合組織を積極的に制御して変更すること
で、塑性加工性および機械的特性の向上をはかることは非常に重要であり、塑性加工用
としてマグネシウム合金の適用拡大への寄与が期待できる。
そこでマグネシウム合金の CREO 処理に関して、以下の点について研究を行った。
(a) マグネシウム合金への CREO 処理適用による、CREO 処理条件と結晶組織の関連を
明確にする。
(b)CREO 処理により形成される集合組織について、CREO 処理条件と結晶方位の関係を
明らかにする。
(C)CREO 処理による結晶粒微細化および結晶方位制御による、圧縮塑性加工性の改良
について明確にする。
71
3.2.2
3.2.2.1
実験方法
供試材
本研究では、汎用マグネシウム合金として、Mg-Al-Zn 系合金の JIS-AZ61 押出材を用
いた。本研究で使用した JIS-AZ61 押出材の成分組成表を Table 3.2.1 に示した。
Table 3.2.1 Chemical composition of AZ61
3.2.2.2
試験片形状
本研究で使用した装置で CREO 処理可能な試料寸法は、試料直径F12 mm 試料長さ
500 mm であるが、マグネシウム棒材入手性の低さから、入手できた押出材は外径F15
mm であった。長尺の切削が困難であった。このため Fig.3.2.2 に示す、試験片形状と試
料取付用のジグ(SUS304)形状とした。各試料は長さ 280 mm×F12 mm に切削後、試料
の両端部に直径 4.4 mm の穴を開け、ジグに M4 ステンレスネジで試料を固定した。
(a)
(b)
Fig.3.2.2
Test specimen
Holding tool
Dimension of test specimen and holding tool
72
3.2.2.3
3.2.2.3.1
CREO 処理
CREO 処理設備
使用した CREO 処理装置は、3.1.2.2.2 にて示した装置と同一であり、処理径F12mm
処理長さ 50mm の試験装置を用いた。
3.2.2.3.2
CREO 処理中の温度測定
CREO 処理中の温度測定は、捻り変形が付与されていることから、熱電対を使用する
事が出来ないため、放射温度計を使用した。放射温度計は輻射率によって測定値に大き
な差を生じる。このため、捻り変形を付与しない条件で加熱および横移動を行い、埋め
込んだ K 熱電対の測定温度と放射温度計の測定温度を比較した。
熱電対の設置は、Fig.3.2.3 に示すように、試料に深さ 6 mm(測定位置 r = 0)、11 mm(同
r = 5)にF12 をドリル加工し、クロメル-アルメルをアーク溶接して作製した K 熱電対を
挿入した。熱電対を挿入した棒材を CREO 処理装置にセットし、捻り変形を加えずに加
熱および横移動させた状態での温度変化を測定した。
Fig.3.2.3
Position of thermo couple
熱電対の温度を基準とし、放射温度計の輻射率を調整し、両方の温度が同一になるよ
うにした。温度較正の基準位置は、コイルの中心位置における試料中心付近とした。
なお放射温度計と熱電対の相対位置は、棒材の横移動によって異なる。このため放射
温度計は最高温度を示す位置に設置し、熱電対温度はピーク温度を用いることによって、
放射温度計の較正を行った。(Fig.3.2.4)
73
First position of thermo couple
Fig.3.2.4
3.2.2.3.3
Last position of thermo couple
Relative position between thermo couple and radiation thermometer
CREO 処理条件
1)CREO 処理における破断限界の把握
CREO 処理温度と捻り回転数、横移動速度をパラメータとして、破断しない加工限界
条件を調べた。基本的に、破断は最外周のせん断ひずみで発生することが予想され、低
温・高回転・低横移動速度・大外径ほど破断しやすくなる傾向を示す。
本研究では外径および冷却の強さは強冷却で一定とし、処理温度・回転数・横移動速
度をパラメータとして CREO 処理限界を調査した。条件を Table3.2.2 に示した。
横移動速度を一定としたことにより、回転数の増減によってひずみ量が変化する。ま
た冷却能の差によって加熱幅が変化するものと予測し、加熱幅が狭くなるとひずみを付
与される幅が狭くなることから、ひずみが集中して破断しやすくなる傾向を予測して冷
却条件を設定した。
Table 3.2.2
Condition of CREO
Diameter of rod
F12mm
Temperature(℃)
300、350、400
Rotation speed(rpm)
10、15、20
Transverse velocity(mm/min)
Cooling
75∼200
With or without
2)CREO 処理の複数回処理
結晶粒微細化法である ECAP 法において、複数回処理する事で更なる結晶粒微細化効
果を示す事が報告されている。これはひずみ付与の方向を交互にすることで、多くの部
位に転位を導入することで、微細化を促進する目的で行われる。特に HCP 構造であるマ
74
グネシウム合金においては、処理中の滑り面が底面中心となるため、異なった方向での
複数回 CREO 処理の効果が期待できる。また微細化効果を最大化するために、交互の方
向に対して複数回処理を行った。(Fig.3.2.5)
Fig.3.2.5
Image of multiple CREO treatment
複数回処理においては、横移動速度と回転数を一定とし、温度と方向のみをパラメータ
とした。回転数は、低温側の 300℃における処理可能回転数とした。(Table3.2.3)
Table 3.2.3
Multiple treatment of CREO
F12
Diameter of rod
Temperature(℃)
300、350
Rotation speed(rpm)
10
Transvers speed(mm/min)
200
Number of CREO treatment
1,2,3,4
Right → Left → Right→Left
Direction of Rotate
75
3.2.2.4
(1)
結晶組織観察
光学顕微鏡組織観察
光学顕微鏡組織観察試料はワイヤーカットにて試料の押出方向と平行に切り出した。
観察面を#1000 エメリー紙で研磨後、アルミナ懸濁液およびメタノールを用いてバフで
機械研磨を行った。10 mlHCl-10 mlHNO3-160 mlC2H5OH 水溶液で約 15 sec 化学研磨
した後に、4.2g ピクリン酸-10 mlCH3COOH-10 ml H2O-160 mlC2H5OH 水溶液で約 10
sec 粒界腐食を行い観察用試料とした。観察箇所は試料の中心付近(r = 0)、中間部(r = 3)、
表面付近(r = 5)である。組織観察は光学顕微鏡 OLYMPUS BH2-UMA を用いて、倍率を
1000 倍として行った。
得られた光学顕微鏡組織から結晶粒径分布測定を行うために、混粒になっている観察領
域について微細粒域と粗大粒域にわけた。微細粒域については光学顕微鏡写真から、明
瞭に結晶粒界を確認できる 100 個以上の結晶粒の結晶粒界を画像処理ソフト Photoshop
で赤色の線で明確にして結晶粒の内部を黒色に塗りつぶし、その他の領域及び結晶粒界
を白色に塗りつぶした。画像を画像処理ソフト Scion Image で二値化処理を行い、各結
晶粒について断面積を求めた。
i 個目の結晶粒の断面積を Si としたとき、結晶粒径 di は次の式で規定した。
di = 2
Si
p
また、n 個の結晶粒の平均結晶粒径は面積分率に対する平均結晶粒径 d を次の式で規
定して、測定した断面積から結晶粒径を算出した。
n
d =
åS d
i =1
n
åS
i =1
(2)
i
i
i
電子線後方散乱解析法(EBSP)による結晶方位分布測定
HCP 合金において重要な異方性を測定するために、電子線後方散乱解析法(EBSP:
Electron Back Scattering Pattern)による結晶方位測定を行った。観察する試料は、
Fig.3.7 に示した CREO 処理材からの切り出し位置とした。観察面は、切り出し後に、
#1000 エメリー紙で研磨後、アルミナ懸濁液およびメタノールを用いてバフで機械研磨
にて鏡面を得た。その後、各試料とも 10 mlHCl-200 mlC2H5OH 水溶液により約 30 s 化
76
学研磨を行い観察用試料とした。
EBSP 測定は TSL 社製の OIM(Orientation Image Microscopy) を備えた電界放射型
走査電子顕微鏡(FESEM: Field Emission Scanning Electron Microscopy) HITACHI
S-4300SE により行った。なお、加速電圧は 20 kV、測定範囲は 100 μm×100μmm、ス
テップサイズは 0.5μm で測定を行った。
また、測定によって得られたデータを解析ソフト TSL OIM Date Analysis ver.2.0 に
より解析を行った。測定結果の信頼性が 90 %以上となる信頼性指数(CI 値:Confidence
Index)0.1 以上のデータを抽出して OIM 像を作成した。また調和関数による強度計算を
行い、正極点図を作成した。
77
3.2.2.5
圧縮試験
供試材の塑性加工性を調べるため、単軸圧縮試験を行った。
(1)
圧縮試験供試材条件
恒温圧縮試験に供したマグネシウム合金の CREO 処理を Table3.2.4 に示した。
Table 3.2.4
CREO condition of compressive test material
Appellative
CREO treatment condition
1st
pass
2nd
pass
As extruded
−
−
CREO 1 pass
300 -10 rpm-200 mm/min
−
CREO 2 pass
350 -10 rpm-200 mm/min
300 -10 rpm-200 mm/min
(2)圧縮試験機
圧縮試験機は、最大荷重 200kN の油圧試験機を用いた。(Fig.3.2.6)試験機にはロー
ドセルおよびエンコーダを設置して荷重およびストロークを測定可能とした。
圧縮試験機内に金型加熱装置を取付け、金型および供試材の双方を同じ温度に保った
状態で圧縮加工可能とした。すなわち恒温鍛造が可能な圧縮試験機とした。金型加熱は
ダイセットに組み込んだ抵抗ヒータにて行い、金型内に挿入した熱電対の温度をフィー
ドバックして電流調整器にて温度制御を行った。(Fig.3.2.7)
金型には、ハイス鋼を使用して、マグネシウム合金との焼き付きを防止した。
Fig.3.2.6
Fig.3.2.7
Compressive test machine
78
Principle of compressive test
(2)
圧縮試験条件
試験片としては、押出材、CREO 処理材を旋盤でF10 mm に切削後、放電加工機で円
柱状に切り出し、端面を#1000 エメリー紙で研磨した。
室温での圧縮試験においては、Table 3.2.5 に示したように、初期高さを 10.0、9.4、
8.9 mm に調整し、試験片を油圧プレス機でそれぞれ 8.0 mm まで室温で圧縮加工し各試
料の破断限界を調査した。これはマグネシウム合金の冷間における限界圧縮率が約 20%
程度になることが予想され、破断近傍での寸法を同一レベルに調整したことによる。初
期クロスヘッドスピードは 1 mm/sec で一定とし、潤滑材には Mo を 5 %含む鉱油を用い
た。
Table 3.2.5
Condition of compression test at room temperature
Initial height
Compression rate
10.0 mm
20%
9.4 mm
15%
8.9 mm
10%
Height after compression
8.0 mm
恒温圧縮試験は、Table.3.2.6 に示したように、温度は 150 ℃、175 ℃、200 ℃とし、
金型を所定温度まで加熱した後、圧縮試験片が十分所定温度まで加熱されるよう約 2 分
間金型上で加熱保持した後、それぞれ 8.0 mm(圧縮率 20 %)、
6.0 mm(同 40 %)、
4.0 mm(同
60 %)、2.0 mm(同 80 %)に圧縮加工を行い、試料の破断限界を調査した。なお、潤滑材
には Mg 合金塑性加工用の潤滑油を用いた。
結晶粒微細化材の場合には、延性および変形抵抗の変形速度依存性が大きい事が知ら
れている。そこで初期クロスヘッドスピードは 10 mm/sec で一定とし、初期ひずみ速度
が 1 s-1 に相当する条件で行った。初期ひずみ速度を一定にするため、圧縮試験供試材の
初期高さを 10mm で一定にした。
Table 3.2.6
Condition of compression test at Isothermal
Temperature
150,175,200 ℃
Compression ratio
20,40,60,80
F10×10
Initial size of test piece
Cross head speed
mm
10 mm/sec
79
%
また、圧縮試験中の変形荷重をロードセル、および変位をリニアスケールエンコーダ
によって測定し、真応力−真ひずみ曲線を作成した。なお、真応力は試料が均一変形し
ているものとみなして算出した。また、圧縮変形中の変位を測定した結果、変形中のク
ロスヘッドスピードはほぼ一定であったため、変形開始点から変形終了点までの変形に
要した時間をもとに変形中の平均クロスヘッドスピードを決定し、それをもとに真ひず
みを算出した。
80
3.2.3
結果および考察
3.2.3.1
3.2.3.1.1
CREO 処理
温度測定結果
Fig.3.2.8 に【300 ℃】【350 ℃】【300 ℃水冷なし】の 3 水準についての温度履歴測
定結果を示す。300 ℃、350℃ともに加熱中心で最高温度をとるのではなく、加熱中心
からさらに 5∼10 mm 移動した位置で最高温度を示していた。また加工発熱も加算され
る事から、実際の加工温度は設定温度よりも高くなっていると考えられる。
300℃では大きな冷却速度を示したが、350℃では表面での冷却速度が低下した。冷
却速度については中心部の方が早くなった。これは高周波コイルを通過した後も、コイ
ルからの輻射熱の影響が表面のみに作用したのではないかと考える。冷却速度が遅い表
面部においても 200 ℃以上の高温領域は、最高温度から 7∼8sec の区間のみであった。
水冷を無くした条件にて温度測定を実施した結果、冷却速度が著しく低下して徐冷条
件となった。CREO 処理が終了してからも表面付近で 10 sec 以上、中心付近では 50 sec
以上も 200 ℃以上の高温に保持されていることがわかり、加熱保持時間の長さによる、
再結晶および粗大化が懸念された。
Fig.3.2.8
Result of temperature measurement
また中心部よりも表面部のほうがやや温度が高くなる傾向にあったが、予想外に小さ
く、棒材内外の温度差については、その影響が無視できるほど小さいことが分かった。
81
3.2.3.1.2
CREO 処理後外観
AZ61 の CREO 処理条件と外観を Table3.2.7 に示した。AZ61 では、350℃での高温
処理で筋模様が顕著に現れた。捻り回転数 10 rpm、横移動速度 100 mm/min の試料に
おいては送り方向のスジの間隔は 10 mm であり、捻り回転量と一致した。加工可能条件
よりも大きな CREO-Value で CREO 処理を行った場合、加工時に発生するスジに沿っ
ての破断が確認された。これは塑性不安定状態に入ったことで、ネッキングを生じて破
断に至ったものと推定出来る。
複数回 CREO 処理において、1 パス目と 2 パス目を逆方向で実施した場合に、1 パス
目の CREO 処理で発生していた表面の筋模様が、2 パス目終了後には目立たなくなって
いる様子が観察された。表面に発生する筋模様については、HCP のみならず FCC、BCC
等の他の合金系でも観察される現象である。塑性変形が開始する位置にせん断帯が生じ
たものと思われる。組織観察では、スジ模様直下に得意な結晶組織は観察されなかった
ことから、そのせん断帯から内部へひずみが伝播され破壊に至ったものと考えられる。
Table
3.2.7
Outlook of specimens after CREO of AZ61
Temperature
Rotation speed
Transfer speed
As extruded
−
−
−
CREO 1pass
350℃
10rpm
100mm/min
3.76
CREO 1pass
300℃
10rpm
200mm/min
1.88
CREO 1pass
300℃
10rpm
150mm/min
2.51
1pass
350℃
10rpm
200mm/min
1.88
2pass
300℃
−10rpm
200mm/min
1.88
CREO
82
CR-V
Outlook
3.2.3.1.3
(1)
CREO 処理限界
CREO1 回処理における加工限界
AZ61 押出材の各加工温度における CREO 処理可否マップを Fig.3.2.9 に示した。
最も低い 300℃での CREO 処理において、捻り回転量 10rpm で横移動速度 200mm/min
が加工可能となった。温度上昇に伴い回転量が 10rpm で一定の条件で、横移動速度が遅
い側に加工可能範囲が広がった。横移動速度が遅くなると、相対的に回転量が増加した
ことと同じ効果となり、CREO-Value が大きくなる。すなわち温度が 300℃から 350℃
に上昇したことにで材料の延性が上がり、限界 CREO-Value が大きくなった。更に温度
を上げて 400℃にすると、
CREO 処理可能な限界 CREO-Value は 350℃に比較して 25%
増加した。
(a) CREO at 300℃
(C) CREO at 350℃
Fig.3.2.9
(C) CREO at 400℃
CREO process limitation of AZ61 at each temperature
83
以上の結果を、捻り回転数 10 rpm における加工限界条件での限界 CREO-Value と加
工温度の関係で整理した。
(Fig.3.2.10)処理温度が高くなるほど限界 CREO-Value は大
きくなり、1 回の CREO 処理で導入することのできるひずみ量が大きくなることがわか
る。また限界 CREO-Value と CREO 処理温度は、ほぼ直線的な比例関係を示す事が分
かった。
Fig.3.2.10
(2)
CREO process limitation of AZ61 at each temperature
複数回 CREO 処理適用時の加工限界
複数回 CREO 処理の可否を、Table 3.2.8 に示した。複数回処理には多くのパターン
が存在するため、CREO 処理条件の温度以外の条件は、10 rpm-200 mm/min とした。
これは最も延性が低い 300 ℃1 パス処理における最大捻り回転量を採用したものである。
先ず CREO 処理の 1 パスと 2 パスを同一方向として CREOP 処理を行った。この結果、
1 パス時に発生したスジに沿って試料が破断した。これは同一方向にひずみが加算され
えることによるものと考えられる。そこでパス毎に捻り回転方向を逆にして(奇数パス回
数目:右回転、偶数パス回数目:左回転)行った。1 パスと 2 パスの加工温度を 300 ℃の
場合、2 パス目の CREO 処理において破断を生じた。そこで 1 パス目の加工を 350 ℃に
上げて延性を向上させて、付与したひずみ量が限界よりも大幅に小さくなるように設定
した。この結果、2 パス目の加工が 300 ℃で可能となった。また処理温度をすべて 350 ℃
とした場合、4 パス目まで加工できることがわかった。これは 1 パスにおける限界ひず
み量に余裕があることから塑性不安定状態に無いこと、および低温により転位の残留に
よる延性低下が避けられることが原因と考えられる。
84
Table 3.2.8
Map of CREO process limitation
(5)加工限界に関する考察
加工限界は、温度が高いほど向上する傾向を示した。これはせん断ひずみが付与され
た加熱領域での材料延性に依存していると考えられる。温度と限界ひずみ量(限界
CREO-value)に 1 次比例し、CREO の加工限界は 1 次関数で表されることがわかった。
これは加工限界となる破壊が表面の最大せん断ひずみのみに依存することで、自由表面
での最大ひずみを考えればよいことを示している。
マグネシウム合金押出材では、マグネシウムの主要すべり面である(0001)面が棒材押
出方向(長手方向)に沿って並ぶことが知られている。このため CREO 処理における捻
り変形は、長手方向に沿っている(0001)面に対して交差するような形でせん断変形を加
えることになるため、CREO-Value を大きくとることができないと考えられる。そこで
多くの滑り面が活動する 330℃以上の温度域にて CREO 処理を行う事で、多くのひずみ
を付与する事が出来た。また CREO 処理によるせん断ひずみ付与の過程において、捻り
方向に沿って(0001)面が形成されることが予想されるが、既存の軸方向の(0001)面も残
存するために、2 パスを低温である 300℃で処理可能になったのではないかと考えられ
る。
また 300 ℃における AZ61 と A5056 の CREO 処理条件(22)の比較を示す。加工限界条
件は横移動速度が 200 mm/min のとき、捻り回転数が AZ61 の場合 10 rpm であるのに
対し、A5056 では 80 rpm での加工が可能である。これは熱間延性の差によって生じた
85
ものと考えられる。(Fig.3.2.11)
Fig.3.2.11
CREO process limitation of AZ61 and A5056
86
3.2.3.2
3.2.3.2.1
結晶組織観察結果
マクロ組織観察
棒材全域でのマクロな結晶組織分布を観察すべく、AZ61 に対して CREO1 パス処理材
(300 ℃-10 rpm-200 mm/min)
(Fig.3.2.12)
について試料断面全体のマクロ断面組織を観察した。
広域に結晶組織を観察するために、光顕写真を貼り合わせ広域化を図った。
CREO 処理の開始部および終了部は、加工域と未加工域の境界がすり鉢状になってお
り、また全面に渡って中心部に幅 1∼2 mm の芯が残存している様子が確認された。温度
測定においては表層部と中心部の加熱幅に差は見られない。すなわち低変形抵抗の幅に
ついての内外差は見られない。しかし捻り変形開始によって、表層部のひずみ量が大き
いことから、加熱軟化領域が表層ほど広がった可能性が考えられる。
また CREO 処理が充分に行われている定常領域においては、残留した中心粗大部の幅
は送り方向に対して均一な大きさとなった。
Fig.3.2.12
Macro structure of AZ61 CREO cross section
87
3.2.3.2.2
CREO 処理による結晶方位変化
各処理位置における結晶方位の変化を調べるために、CREO処理 1パス材(350 ℃-10
rpm-100 mm/min)の各部長手方向断面についてSEM-EBSP観察を行った。その結果得
られた(0001)正極点図およびOIM像をFig.3.2.13に示した。
押出素材部分である③④は、熱間押出によって形成された押出方向に平行に(0001)面
が並んだ集合組織を示した。またCREO処理領域の中心部①②は、押出領域と類似した
集合組織を示し、熱間押出時に形成された集合組織がCREO処理領域の中心部①②に残
留していることが分かった。
表面近傍における集合組織の変化を見るため、押出部からCREO処理部への移行する
Fig.3.2.13の⑤∼⑧に示した領域に着目した。押出棒材部である⑧→⑦の領域では、棒材
長手方向に沿った集合組織が形成されており、結晶粒径にも大きな変化は見られなかっ
た。CREO処理が付与開始された⑥においてTD方向に傾きが始まり、⑤のCREO定常状
態では更に傾きが大きくなり、RD方向に強い集合性を示した。すなわち半径方向に
(0001)面が並ぶ集合組織を形成し、押出方向からほぼ直角方向に集合組織が方位を変え
ていることがわかった。
結晶組織は⑦から微細化が始まり、CREO処理進行に伴って微細化し、⑦→⑥→⑤の
順に微細化が進行した。⑤に示すCREO定常状態の結晶粒径は、残存する粗大粒でも
10μm以下で、大半の部分では数μm以下もしくはひずみが残留した組織となった。
CREO処理が十分に付与された定常状態となっている⑤では、半径方向に沿った集合
組織が形成された。ただし集合性については、ランダム化も進行してきており、半径方
向に集合性を有するが他方向にも(0001)面が存在することから、延性向上が期待できる。
結晶組織は微細化されており、集合性の低下と併せて大幅な延性向上が期待できる結晶
組織が得られた。
88
Fig.3.2.13 Cristal orientation of each position by SEM-EBSP
89
3.2.3.2.3
(1)
CREO 処理条件における結晶組織変化
押出材
Fig.3.2.13 に押出材の光学顕微鏡写真を示す。全体的にほぼ均一な組織となっており、
押出材としては良好な結晶組織を示した。平均結晶粒径は中心部で 18 μm、中間部で
19μm、表面付近では 21μm であり、表層部の方が若干ではあるが微細な傾向を示した。
これは棒材製造の押出加工の表層部は、大変形を受けると共に押出金型との摩擦によっ
て多くのひずみが付与されて軽微ではあるが微細化の傾向を示したものと思われる。
組織はほぼ等軸であることから十分に高い温度で押し出されたものと思われる。一部
には双晶変形した結晶粒が観察された。
Fig.3.2.13 Optical microstructure of extruded rod
(1) Surface (2) 1/2R
(3) Center
(2) CREO 処理 1 パス材
①300 ℃ CREO 処理材
【300℃-10 rpm-200mm/min】
Fig.3.2.14 に光学顕微鏡写真を示す。中心付近では押出材の組織が残っているもの
の、粒界付近には一部微細な再結晶粒が確認された。この微細な結晶粒の割合は表面
に行くに従って増加し、中間部で 47 %、表面付近で 57 %が結晶粒径 5μm 以下の微細
90
粒になっていることがわかった。表面付近の微細粒域の平均結晶粒径は 1.5μm であっ
た。
Fig.3.2.14
Optical microstructure of CREO 【300℃-10 rpm-200mm/min】
(1)Surface
(2) 1/2R
(3) Center
②350 ℃ CREO 処理材
【350℃-10 rpm-100 mm/min】
Fig.3.2.14 に光学顕微鏡写真を示す。中心付近では粒径約 5μm 程度の微細粒域が帯
状に形成されている組織と押出材の組織がそのまま残っていると思われる 10∼20 μm
の結晶粒が確認された。また、表面付近ではほぼ全面に渡って結晶粒径約 5 μm 程度
の微細粒になっている様子が確認された。しかし CREO 処理温度の上昇に伴い、300℃
での CREO 処理と比較して、結晶粒径は大きくなり、低温ほど結晶粒径は小さくなる
Z パラメータを実証した結果となった。
結晶粒微細化は、素材の結晶粒界を起点に進んでいくことがわかった。中心部分で
は粒界近傍にひずみが観察され、素材の結晶粒径に対して幅を有してきていることが
わかる。更に 1/2R 領域では、素材の粗大粒が粒界から進行する微細化が不十分で未微
細化の粗大粒が残存したものと考えられる。
91
Fig.3.2.14
Optical micro structure of CREO 【350℃-10 rpm-100mm/min】
(1) Surface (2) 1/2R
(3) Center
③350 ℃ CREO 処理材
【350℃-10 rpm-200 mm/min】
②の CREO 処理条件に比較して、横移動速度のみ 2 倍の 200mm/min に遅くした
CREO-value 半分の条件にて CREO 処理した光学顕微鏡組織を Fig.3.2.15 に示した。
中心付近では押出材と同様の∼20μm の結晶粒径で、表面付近では結晶粒径は約 5μm
程度であった。2 倍のひずみ量を付与した【350℃-10 rpm-100 mm/min】の条件に比
較して、表面付近の微細化は同等レベルであるが、1/2R の領域において粗大粒の残留
が顕著であった。中心部については、素材の結晶粒界近傍で僅かに微細化が開始され
た程度であり、捻り変形量の不足により、中心部での微細化が進行していない事が明
らかになった。
92
Fig.3.2.15
④ 400 ℃
Micro structure of 350 ℃ CREO 【350℃-10 rpm-200 mm/min】
(1) Surface (2) 1/2R
(3) Center
CREO 処理材
【10 rpm-75 mm/min】
Fig.3.2.16 に光学顕微鏡写真を示す。中心付近では結晶粒径 10∼20μm の組織となっ
ており、また①の条件の試料のように粒界付近に微細な再結晶粒が現れている様子も無
く、捻りひずみ不足により素材の結晶粒界がそのまま維持されていることがわかった。
表面近傍でも結晶粒径は約 10μm 程度であり、結晶粒微細化程度は低くなった。
付与される捻り変形のひずみ量としては最大であるにも係わらず、中心部の組織変化
は見られなかった。これは処理温度が非常に高く、中心部のひずみ量が小さいことから、
既存の粒径による結晶粒界滑りと回復再結晶が同時に発生することによって、素材の結
晶粒界に戻っていることによるものではないかと考えられる。
93
Fig.3.2.16
Microstructure of 400 ℃ CREO 【400℃-10 rpm-75 mm/min】
(1) Surface (2) 1/2R
(3) Center
⑤1 パス CREO 処理における光顕組織のまとめ
CREO 処理による結晶粒微細化は、素材の結晶粒界を起点として微細化が進行して、
ひずみ量の増大に伴い、素材の残留粗大粒が消失し均質な微細化組織となることがわか
った。CREO 処理は、低温ほど得られる結晶粒径は小さくなるものの、低温下により延
性も低下するため付与可能な捻り変形量が低下する。結果として、中心部近傍のひずみ
量が特に不足して、粗大粒が残留する結果となった。
CREO 処理温度を高くすることで付与可能なひずみ量が増大し、微細化領域は中心部
側に拡大して行った。その一方で、表面近傍の大きなひずみ付与されている領域での結
晶粒は、温度上昇に伴い大きくなる傾向を示した。
更に高温にて CREO 処理する事で、表面近傍での粗大化傾向を示すだけでなく、捻り
変形のひずみ量としては最大であるにも拘わらず、中心部に素材粗大粒が残存した。こ
れは処理温度が非常に高いことと、中心部のひずみ量が小さいことから、CREO 処理に
よって微細化した結晶粒が熱によって粗大化した可能性があると考える。
94
(3)
CREO 水冷なし処理材
①
300 ℃ CREO 水冷なし処理材
【10 rpm-200mm/min】
CREO 処理は水冷がない状態でも加工可能であり、また加工限界も水冷があった場合
の 300 ℃での加工と同様であった。Fig.3.2.17 に光学顕微鏡写真を示す。表面付近では
結晶粒径約 5μm で同条件の水冷がある場合と比較して粗大になっている様子が確認さ
れた。
一方で中心部近傍の結晶組織には粒界を起点とした微細化が進行していた。水冷を付
与した 300℃で同条件の CREO 処理材の結晶組織との比較においても、微細化の進行し
た領域は広いと言える。加熱領域が広くなったことで、ひずみ付与の角度が浅くなった
ことから、中心部までひずみ伝播した可能性がある。
また水冷無しの場合には、表層部に対して中心部の冷却速度が大幅に遅くなっている。
このため外周部の変形抵抗が上昇した後に、表層部がシェル状に作用して、内部のみが
変形した事によって微細化が進行した可能性が考えられる。
Fig.3.2.17
Microstructure of
(1) Surface
(2)
CREO at 300℃ without cooling
1/2R
(3) Center
95
(4) CREO 処理複数パス材
① 350 ℃→300 ℃ CREO 2 パス加工材
【10 rpm-200 mm/min】
Fig.3.22 に光学顕微鏡写真を示す。表面付近では平均結晶粒径 1.4 μm の均一微細な結
晶組織を得る事が出来た。300℃1 パスの CREO 処理と比較すると、微細結晶粒の大き
さには顕著な差はないが、Fig.3.2.18 に示した 1 パスの CREO 処理では残留していた約
15μm の粗大粒が、2 パス処理によって消失して微細均一組織が得られた。
また中間部でも、1 パスでは多く残留していた粗大結晶粒が、2 パス CREO 処理によ
って粗大粒は著しく減少することがわかった。
中心部付近では、押出材の組織が残っているものの、粒界付近に微細な結晶粒が現れ
てきている。1 パス CREO に比較して、2 パス CREO 処理により結晶粒界から進行する
微細化領域のバンドは拡大する傾向を示した。
Fig.3.2.18
Microstructure of 350 ℃ → 300 ℃
【CREO 2pass】
(1) Surface
(2)
1/2R
(3) Center
96
②
350 ℃ CREO 2 パス加工材
【10 rpm-200 mm/min】
Fig.3.2.19 に光学顕微鏡写真を示す。表層部の結晶組織は微細化され光学顕微鏡では
判別が困難なレベルであったが、2 パス目を 300℃で CREO 処理した場合と比較して、
粒は等軸であり高温 CREO 処理に起因する再結晶の進行によって等軸化が進行したので
はないかと考えられる。
中間部は、300℃で見られた微細粒と粗大粒の明確に区分された混合組織ではなく、数
μm レベルの結晶粒が均一に分散した結晶組織となった。CREO 処理温度の高さにより、
ひずみ付与後の再結晶が進行したものと考えられる。
中心部付近の結晶粒径は押出材の場合と変化が少なく、粒界 3 重点近傍で数 μm の比
較的小さな結晶が存在するが、粗大粒においては結晶粒界からの微細結晶粒のバンド形
成などは観察されなかった。これは高温加熱によって捻り変形が表層部および中間部の
変形能が高くなったことから、中心部までのひずみ伝播量が減少したのではないかと考
えられる。
これは全体的に加工組織になっている様子が確認された。表面付近の組織については
光学顕微鏡観察では結晶粒界が充分に確認できなかった。
Fig.3.2.19
Microstructure of 350 ℃ → 350℃ 【CREO 2pass】
(1) Surface
(2)
1/2R
(3) Center
97
③
350 ℃ CREO 4 パス加工材
Fig.3.2.20
【10 rpm-200 mm/min】
に光学顕微鏡写真を示す。2 パス加工材と同様に、全体的に CREO 処理
による微細化組織となっている様子が見られる。中心部では粗大粒の残留が見られ、
CREO 処理回数を 2 パスから 4 パスへと増やす事による、中心部微細化の効果は見られ
なかった。
Fig.3.2.20
Micro structure of 350 ℃ → 350℃ 【CREO 4pass】
(1) Surface
(2)
1/2R
(3) Center
④複数回 CREO 処理における光顕組織のまとめ
複数回の CREO 処理により結晶粒微細化が進行する事がわかった。特に 1 パス目で残
留していた粗大粒を微細化して均質組織を得る効果が顕著であった。複数回の効果は、2
パスと 4 パスでは顕著な差は観察されず、2 パス処理が結晶粒微細化および均質化に効
果的であることがわかった。複数回処理において、初回の CREO 処理においては、ひず
み量を多く付与するために高温側で処理し、2 パス CREO 処理は微細化の進行を重視し
て低温側で処理した場合に、微細化効果は本研究範囲で最大となることがわかった。
98
3.2.3.2.4
結晶粒径分布の変化
AZ61 押出材、CREO1 パス処理材(300 ℃-10 rpm-200 mm/min)、CREO2 パス処理
材について、表層部、中間部(1/2R)および中心部の結晶粒分布を整理した。
棒材表層部の結晶粒径分布を Fig.3.2.21 に示した。押出棒材の結晶粒径は 5∼35μm に
分布し、最頻値は約 20μm であった。CREO 処理を 1 パス行う事によって 20μm を超え
る粒径が見られなくなるとともに、2.5μm 以下の微細な結晶粒比率が著しく増加した。
CREO 処理による微細化効果により、粗大粒が微細化された際に、2.5μm 以下の微細粒
に変化した可能性が高いことを示している。
CREO 処理を 2 パス行う事によって、7.5μm 以上の粒径分布は消失し、全ての結晶粒
が 7.5μm 未満の領域に分布する事がわかった。1 パス CREO で残留した粗大粒を微細化
した結果となったが、CREO 処理温度条件下における優先滑り面である(0001)面に交差
した方向にひずみを付与したことによって、粗大粒が優先的にせん断ひずみによって微
細化したと考えられる。
Fig.3.2.21
Grain size distribution at surface of rod
中間部においては Fig.3.2.22 に示したように、押出素材では 10∼25μm の結晶粒径の
分布が最頻値であった。CREO 処理 1 パスによって、この範囲の粒径が減少したものの、
99
表層部ほどの顕著な減少ではなかった。これは表層部に比較して付与されるせん断ひず
み量が減少していることから、微細化の程度が緩やかになったものと考えられる。
CREO 処理 2 パスにおいては、20μm 以上の粗大粒が殆ど消失していることがわかっ
たが、表層部で見られるような 7.5μm 以上の粒径分布が消失するような現象は見られず、
10μm 以上の粒径も僅かであるが残留していた。
Fig.3.2.22
Grain size distribution at 1/2R of rod
中心部付近では Fig.3.2.23 に示したように、CREO 処理による微細化効果が更に低下
して、粒径の最頻値が押出素材の約 17.5μm から CREO 処理 1 パスでは 12.5μm にシフ
トしたレベルであった。ただし 2.5μm レベルの微細粒の比率は増加してきており、
CREO
処理の効果が見られる。光学顕微鏡写真の結果と併せて、中心部では押出素材の粗大粒
の結晶粒界から微細化が開始され、ひずみ量不足により粗大粒の外周部を微細化した段
階で処理が完了されてためと考えられる。
この微細化不足を補う意味で、CREO2 パスの効果は大きく、CREO2 パスでは 20μm
以上の粗大粒が減少して、微細粒比率が増加している。2 パス処理によって、特に大き
な結晶粒の結晶粒界近傍が微細化されたものと考えられる。これも前述の光学顕微鏡で
見られるように、素材の粗大粒の結晶粒界近傍から微細粒が発生して、捻りひずみ量の
増加に伴って存在比率を増加している事と一致する。
100
Fig.3.2.23
Grain size distribution at center of rod
CREO 処理によって、粗大粒の結晶粒界から微細化が開始され、粗大粒の減少分が微
細粒の増加分に移行する事が推定できた。更に 5μm 以下の微細粒について、結晶粒径分
布を調べた。Fig.3.2.24 に CREO 処理 1 パスおよび 2 パスについて、5μm 以下の粒径分
布を示した。
表層部については、CREO 処理 1 パスと 2 パスの差は小さく、1.5μm に最頻値が見ら
れ、分布曲線も非常に類似したものであった。表層部では 2 パスの効果は小さく、これ
は 1 パス目で既に微細化していた表層部の微細結晶粒領域では、CREO 処理 2 パス目で
温度は下げているものの、結晶粒界滑りが発生するに十分な加熱条件であることから、
付与したせん断ひずみが粒界滑りに消費されてしまい、更なる微細化には寄与しなかっ
たものと思われる。
中間部においては、CREO2 パスの効果は若干大きくなった。これは中間層では、粗
大粒から微細粒への変化もあるが、既に微細化した粒が粗大粒を取り囲んだ状態で存在
するため、微細粒による結晶粒界滑り発生比率も多く存在することが考えられる。
中心部においては、微細粒比率が低いことから微細化効果が得られるものの、CREO
処理を 2 パス行っても、十分に微細化するレベルには至らず、1∼2μm レベルの微細粒
領域の増加までには至らなかった。
101
Fig.3.2.24
Grain boundary distribution in area below 5μm
102
3.2.3.2.5
(1)
結晶粒微細化に関する考察
微細化生成のメカニズム
CREO処理によるマグネシウム合金の結晶粒微細化は、結晶粒界を起点として粒内に
微細領域が拡大する傾向を示した。これはマグネシウムにおける粒内のすべり面が底面
のみであることから、粒界近傍の方が変形を受動しやすい状況にあることが原因である
と考えられる。このため素材の結晶組織は微細であるほど、粒内中心部までに到達する
のに必要なひずみ量が少なくて済むと推定できる。
結晶組織が等軸である原因については、最高温度でひずみが付与された後に、冷却ま
での時間で加熱保持され、再結晶したものと考えられる。すなわちひずみが加わった時
点では、容易すべり面から転位が導入されて微細化(粒界が創製)された鋭角の結晶粒
が、捻りひずみ付与後の熱エネルギーで等軸化したものと推定できる。
生成された結晶の粒界と温度依存性については、低温で CREO 処理を行った方が結晶
粒径は微細化する傾向を示した。これは Z パラメータと相関を持つ傾向である。また低
温・低 CREO-value 条件ほど粗大粒の島状の残留が観察される。低温であるほど付与で
きるひずみ量が小さいにもかかわらず結晶粒が微細化する原因として、
1,低温側の方が素材の変形能が低いことから、ひずみの緩和が進まず局所的に大き
なひずみが付与されることが考えられる。
2,低温側ほど、捻りせん断ひずみ付与後に再結晶および結晶粒粗大化に寄与する熱
エネルギーが小さくなることから粗大化が抑制されて、結果的に微細組織が得ら
れるものと考えられる。
マグネシウム合金において、結晶粒界から数μmの領域で、粒界への応力集中によって
非底面すべり面への交差すべりが活性化することが知られている。
数μm以下の微細
組織においては、結晶粒径の小ささから交差すべりが粒界から結晶粒全体まで拡散する
ことで結晶粒微細化が更に進行する23)。本研究において、CREO処理の大きなせん断ひ
ずみ付与によって、押出材の粗大な結晶粒界から結晶粒微細化が始まっていたことが確
認できたことから、CREO処理における微細化の進行に関して交差すべりの効果がある
ものと考えられる。
一方で CREO 処理の複数回処理第において、同一方向の複数回 CREO 処理では、
蓄積された残留ひずみに同方向のひずみが加算されて破断限界に至ったものと考えられ
る。
103
逆方向の複数回 CREO 処理において、多くの捻りせん断ひずみが付与可能となった理
由としては、バウシンガー効果と同様の考え方によった事が考えられる。
複数回の逆方向 CREO2 パス処理で微細化が進み、かつ 1 回目の CREO 処理で残留し
ていた粗大粒が消失していることは、1 回目の CREO 処理で結晶粒界の生成核となる転
位を多く導入出来ていることが推定できる。光学顕微鏡観察では観察困難であるが、粒
内の転位が残留していることが考えられる。これにより逆方向の複数回 CREO において
結晶傾角が大きくなり、結晶粒界になってものと思われる。すなわち第 1 回目の CREO
処理において、結晶粒界の生成核となる転位を多く導入出来ていることが推定できる。
また同一方向の複数回 CREO 処理では、蓄積された残留ひずみに同方向のひずみが加算
されて破断限界に至ったものと考えられる。
(2)
水冷条件と結晶粒径分布の関係に関する考察
CREO処理装置では加熱部の両端を水冷することにより局所的な加熱部を作り、せん
断ひずみを付与している。マグネシウム合金の押出材は熱伝導率が他の合金系と比較し
て低くいことから、空冷によってもCREO処理は可能性について検証した。CREO処理
の捻り変形付与は可能であったが、結晶粒径は水冷をかけた場合と比較して大幅に粗大
化していた。
これは水冷のない状態ではCREO処理後、マグネシウムの再結晶温度以上である
200 ℃以上に長時間保持され、かつ捻り変形を付与された直後であるため動的再結晶も
容易に生じる状況であることから、捻り変形直後は微細化していた結晶組織が再粗大化
したことが推定できる。
(3)
複数回 CREO 処理による結晶粒微細化効果に関する考察
複数回処理によって結晶粒微細化が進行し、特に 1 パス CREO 処理において残留した
粗大粒が 2 パス CREO 処理によって、微細化して均質化した。
これは 1 パス目に捻り方向に沿って粗大粒含む結晶粒の(0001)面が平行に並んだ状態
の組織に対して、2 パス目では 1 パス目のファイバーフローに対して、直交もしくは近
傍の交差する方向にひずみが付与されたことによって、特に粗大粒に対して効果的なせ
ん断ひずみ付与状態が得られたものと考えられる。
しかしながら表層部および中間部については、CREO 処理 1 パスと 2 パスの差は小さ
くなった。これは 1 パス目で既に微細化していた表層部近傍の微細結晶粒領域において、
104
CREO 処理 2 パス目にて交差するせん断ひずみを付与しても、微細粒に結晶粒界滑りが
発生しても、せん断ひずみが粒界滑りに消費されてしまい、更なる微細化には寄与しな
かったものと思われる。
CREO 処理 2 パス目で温度を下げた 300℃条件の方が、微細化効果大となったのは、
(0001)優先滑り面が活発に活動しにくい低温で処理したことが有効であったと考えられ
る。
105
3.2.3.3
3.2.3.3.1
結晶方位分布測定結果
押出材
Fig.3.2.25 に押出材の正極点図および OIM 像を示す。表面層と中心部の結晶方位に顕
著な差は見られず、大部分の結晶粒が押出方向に対して(0001)面が押出方向に集積した
強い異方性を示した。(1010)および(1122)面は分散傾向を示した。
これは棒材製造において熱間押出を行う際に、容易すべり面である(0001)面が、押出方
向に沿って平行に並んだものが原因であると思われる。この強い集合性のために、例え
ば切削加工で部品製造する際には軸方向と半径方向の機械的性質が大きく異なる事に繋
がる。
結晶粒径は光学顕微鏡観察結果に同じく、表層側で若干大きくなる傾向を示した。
これは棒材製造において熱間押出を行う際に、容易すべり面である(0001)面が、押出方
向に沿って平行に並んだものが原因であると思われる。この強い集合性のために、例え
ば切削加工で部品製造する際には軸方向と半径方向の機械的性質が大きく異なる事に繋
がる。
結晶粒径は光学顕微鏡観察結果に同じく、表層側が中心部よりも若干大きくなる傾向
を示した。これは押出加工時に発生した加工発熱により粗大化した可能性があると考え
られる。
(a) Surface area
(b) Center area
Fig.3.2.25
OIM result in cross section of extruded rod in cross section
106
3.2.3.3.2
CREO1 パス処理材
1 パスの CREO 処理における結晶方位および結晶組織の変化について、CREO 処理条
件の温度および横移動速度をパラメータとして調べた。
①【350 ℃-10 rpm-100 mm/min】
Fig3.2.26 に CREO 1 パス処理材(350 ℃-10 rpm-100 mm/min)の正極点図および
OIM 像を示した。
表層部において、押出材の(0001)面の集合組織が捻り変形によって TD 方向に約 90°
変位した。容易滑り面である底面すべり(0001)面が断面に平行に近い状態まで多く観察
された。また(1010)面についても集合組織の変位が観察された。
一方、中心部においては、(0001)面が変位しているものの、その程度は小さく中心
部への捻り変形の伝達程度が小さいことを示している。
結晶粒径は、光学顕微鏡組織に同じく、表層部では数 μm レベルの粒が主な均質組
織となった。一方、中心部の結晶粒径は押出材に対して微細化されているものの、押出
時の結晶粒が残存している状態であった。
(a) Surface area
(b) Center area
Fig.3.2.26 OIM result in cross section of CREO treatment rod
【350℃-10rpm-100mm/min】
107
②【350 ℃-10 rpm-200 mm/min】
CREO 処理条件の中で、横移動速度を 200mm/min に大きくした、すなわち捻りひ
ずみ量を 50%に低下させた条件の試料についての正極点図および OIM 像を Fig.3.32 に
示した。
表層部の結晶方位は、Fig.3.2.27 に示した【350 ℃-10 rpm-100 mm/min】条件に
類似した結果となった。しかし中心部は押出素材の結晶方位に類似した結果となった。
これは横移動速度を 2 倍に増加させた捻り変形量、すなわち CREO-Value が 50%まで
低下した事によって、中心部まで捻り変形が伝播できなかったために、押出素材の集合
組織が残留したものと考えられる。
結晶粒径の観察においても、横移動速度の増加に伴うね捻り変形量の減少によって、
中心部に粗大粒が多く残留しており、中心部のひずみ量不足がわかる。
(a) Surface area
(b) Center area
Fig.3.2.27 OIM result in cross section of CREO treatment rod
【350℃-10rpm-200mm/min】
108
③【300 ℃-10 rpm-200 mm/min】
Fig.3.2.28 に示した【350 ℃-10 rpm-200 mm/min】の CREO 処理条件に対して、
CREO 処理温度のみ 50℃低下させた CREO 処理条件【300 ℃-10 rpm-200 mm/min】
の結晶方位および結晶粒径観察を行った。
表層部の結晶方位の温度依存性は観察されず、300℃と 350℃の CREO 処理では類似
した結晶配向を示した。すなわち棒材長手方向に直交する断面に平行に近い方位で
(0001)面が形成された。
中心部については CREO 処理温度による差が見られ、(0001)面が傾きを生じていた。
これは付与した捻りひずみ量が同一の場合においても、処理温度が低下することで内部
まで捻りひずみが伝播することを示している。
結晶粒径の観察結果において、表層部では 5μm 以下の微細粒の均一組織を示し、温度
を 50℃低下させる事で大幅な結晶粒微細化された。SPD 法における結晶粒径の Z パラ
メータ依存性に従い、低温での強ひずみ付与ほど結晶粒の微細化できることがわかった。
中心部の結晶粒は粗大ではあったが、押出材および CREO 処理【350 ℃-10 rpm-200
mm/min】が等軸であったことに対して、低温化した CREO 処理条件【300 ℃-10
rpm-200 mm/min】においてはひずみにより細長く引き延ばされた粒形状となった。粒
形状の変化からも、CREO 処理低温化による中心部へのひずみ伝播の効果が確認できた。
(a) Surface area
(b) Center area
Fig.3.2.28 OIM result in cross section of CREO treatment rod
【300℃-10rpm-200mm/min】
109
(3)
CREO 水冷なし処理材
水冷を行わず空冷のみで局部加熱状態を形成した条件で CREO 処理を行った。
Fig.3.2.29 に CREO 水冷無し加工材の正極点図および OIM 像を示す。表層部の集合組
織に水冷有無の差は観察されなかった。しかし中心部においては水冷有りで観察された
(0001)面の傾きは、水冷無しの条件では観察されず棒材長手押出方向に(0001)面が並ん
だ集合組織となった。
水冷無しにおいて加熱幅は拡大しており、付与された回転数は同じでも、ひずみを受
ける領域が拡大したことから、単位体積あたりのひずみ量は大幅に低下している事が原
因と考えられる。
結晶粒径は水冷をかけた場合と比較して大幅に粗大化していた。水冷の無い状態で
CREO処理後に、マグネシウムの再結晶温度以上である200 ℃以上に長時間保持された
事が原因と考えられる。
(a) Surface area
(b) Center area
Fig.3.2.29
OIM result in cross section of CREO treatment rod
【350℃-10rpm-200mm/min without cooling】
110
3.2.3.3.3
CREO 2 パス処理材
CREO 処理を性逆回転の 2 方向に付与することによる、結晶方位および結晶組織の変
化を調べた。光学顕微鏡組織観察結果から微細化効果が最も大きく得られた CREO 処理
条件である、CREO 処理 1pass 条件【350 ℃-10 rpm-200 mm/min】と逆回転の 2pass
目条件【300 ℃-10 rpm-200 mm/min】の組合せについて、EBSP によって結晶方位と
結晶組織を観察した。2 回のパスにおいて、温度と回転方向は同一条件とした。
Fig.3.2.30 に CREO 2 パス処理材の正極点図および OIM 像を示した。表層部では 1
パス CREO で半径方向に変位していた結晶方位が、押出方向に類似した棒材長手押出方
向に並んだ集合組織となった。結晶粒径は 5μm 以下に微細化された状態であり、結晶方
位のみの制御が可能となっている。
中心部においては、付与されるひずみ量が少ないため、押出素材と 1 パスおよび 2 パ
スの各条件で大きな差は見られず、棒材長手押出方向に(0001)面が並んだ集合組織を示
した。
(a)
Surface area
(b) Center area
Fig.3.2.30
Pole figure and OIM result in cross section of CREO treatment rod
【350℃-10rpm-200mm/min and 300℃-10rpm-200mm/min】
111
3.2.3.3.4
(1)
結晶方位分布に関するまとめと考察
CREO処理条件と結晶方位分布の関係
マグネシウム合金押出材をCREO処理すると、軸方向に対して直交に近い方向にせん
断変形を付与される。この角度は、回転数と送り速度の比、すなわちCREO-Valueによ
り決定される。同一回転数においても、捻り量は棒材半径が大きくなるにつれて増加し、
また試料長軸方向及び試料半径方向に生じる温度勾配によってもせん断面の角度が変化
してくるものと思われる。
Fig.3.2.31に、押出材および各CREO処理条件を付与した棒材の長手方向の直交断面に
ついて観察した正極点図とOIM像を一覧として整理した。
Fig.3.2.31
(a) Surface area
(b) Center area
Pole figures and OIM results of 1 pass CREO on each condition
表層部(Fig.3.2.31(a))では、押出素材において押出方向に(0001)面が並んだ集合組織
が、CREO処理によって半径方向に変位した。同一温度で横移動速度を変化させても
(0001)面の傾き量に差は見られなかった。しかし同一の回転数および横移動速度、すな
わち同一のCREO-Valueに設定した場合には、集合性は強くなった。以上より、一定以
上のせん断ひずみ量が付与された場合の集合組織は、ほぼ同一の傾きを示す事が分かる。
112
また結晶粒径を観察すると、温度が一定の場合には粒径の著しい差異は見られなかっ
た。しかし350℃条件での比較において、微細化レベルはほぼ同一ではあるが、
CREO-Valueが大きな【350℃-10rpm-100mm/min】の条件の方で粒界が明確に現れて
おり、結晶の回転および再結晶が十分に進んでいると考えられた。CREO-Valueが50%
と小さな【350℃-10rpm-200mm/min】のCREO条件では、サブグレインの比率が多い
のではないかと考えられる。
以上より、塑性変形に十分なひずみ量が付与されて、結晶粒が微細化された後は、新
たな結晶回転は生じずせん断ひずみに沿った粒界滑りによって塑性変形が生じており結
晶方位および結晶組織の微細化は進行していないことがわかった。
一方、中心部(Fig.3.2.31(b))については、350℃におけるCREO-Valueの違いにより、
微細化の進行に差が見られた。これはひずみ量が微細化限界に必要な量以下の場合にお
いての、付与されたひずみ量の差に比例して微細化の進行に差が生じたものと思われる。
CREO処理温度の差に関しては、低温化によって捻りひずみが内部まで進行する事が
推定でき、中心部における結晶方位の傾きを生じたものと考えられる。
113
(2)水冷の有無による集合組織の変化
Fig.3.2.32に、押出材および水冷有無のCREO処理条件を付与した棒材について、直交
断面の正極点図とOIM像を一覧として整理した。
CREO 処理材表層部の集合組織に水冷有無の差は観察されなかったが、中心部におい
ては 水冷の有無によって(0001)面の傾きに差を生じ、水冷無しの条件では押出棒材類似
の集合組織となった。
水冷無しによる加熱幅は拡大によって、単位体積あたりのひずみ量は大幅に低下し、
特に中心部のひずみが非常に低くなったこと原因と考えられる。
結晶粒径は水冷をかけた場合と比較して大幅に粗大化していた。水冷の無い状態で
CREO処理後に、マグネシウムの再結晶温度以上である200 ℃以上に長時間保持された
事が原因と考えられる。
結晶粒微細化において、水冷の有無は極端な事例ではあるが、今後の更なる表層部の
みならず中心部の微細化促進および結晶方位制御において、冷却能力向上に大きな効果
があることが予想される。今後推進していく対象素材の大径化も含めて、CREO 処理装
置の改良において冷却能力の向上は必須の課題になると思われる。
Fig.3.2.32
(a) Surface area
(b) Center area
Pole figures and OIM images with cooling and without cooling
condiution
114
(3)
CREO 2パス処理材の集合組織
CREO が 1 パスの場合と 2 パスの場合において、結晶粒微細化の程度によらず集合組
織の傾きが変化することがわかった。Fig.3.2.33 に、各処理条件での表層部の正極点図
および OIM 像を整理した。
1 パス CREO で半径方向に変位していた結晶方位が、同一 CREO-Value で逆回転の 2
パス処理によって、押出材に類似した集合組織となった。1 パス CREO によって傾いた
(0001)面が逆回転のひずみ付与によって回転したものである。2 パス目が十分に大きなひ
ずみ量であれば、半径方向に強い集合性を示す事が予想されるが、棒材長手方向に沿っ
た集合組織を示している。このため同一の CREO-Value を逆回転に付与した際に、既に
微細化された結晶組織の各粒界に対して付与される回転量が、半径方向集合組織形成に
は不足したため、結果として長手方向の集合組織が形成されたものと考えられる。
以上より、結晶粒微細化を十分に達成しつつ、特定の集合組織を必要とする際には、2
パスのCREO処理を活用し、2パス目のCREO処理の条件を制御することで集合性をある
程度制御できる可能性があることが分かった。
(a) Surface area
(b) Center area
Fig.3.2.33 OIM result in cross section of CREO treatment rod
at 350℃-10rpm-200mm/min without cooling
そこでCREO処理を2パス行った際のCREO-valueと結晶方位の関係を調べるために、
2パス目のCREO-Valueを変化させて正極点図とOIM像を観察した結果をFig.3.2.34に
115
示した。
1パス目のCREO処理を350 ℃-10 rpm-200 mm/minで実施した後に、2パスCREO処
理の捻り回転数を10 rpmと一定とし、送り速度をパラメータとして150、200、300
mm/minを選定した。Fig.3.2.34に(0001)極点図を示す。ともに送り速度が200 mm/min
の場合と類似の集合組織が確認され、2パスの横移動速度が150mm/minで長手方向近傍
に(0001)面の傾きを生じ、200mm/minになると、集合性が強まると若干ではあるが、長
手方向への傾きが増加する傾向を示した。更に300mm/minまで横移動速度を大きくする
と、(0001)面は棒材長手押出方向に沿った集合組織を示した。
以上のように、2パスCREOの組合せにより、結晶粒微細化を維持もしくは促進しなが
ら、一定レベルの結晶方位の集合組織制御が可能であることを明らかに出来た。
Fig.3.2.34
OIM result in cross section of CREO treatment rod at 2 pass condition
116
3.2.3.4
圧縮試験
3.2.3.4.1
室温圧縮特性
Fig.3.2.35 に AZ61 室温圧縮試験結果を示した。
押出材は、圧縮率 10 %では破断せず塑性変形可能であったが、15%の圧縮率では圧縮
方向した軸方向に対して約 45°の角度で破断した。一方、CREO 1 パス処理材では、圧
縮率 15 %でも破断することなく、均一に圧縮変形した。圧縮率 20 %で圧縮方向に対し
て、押出材に同じく軸方向に対して 45°の角度にクラックを生じて破断した。CREO 2
パス材は、圧縮率 10 %では破断しなかったが、圧縮率 15 %では押出材料に同じく軸方
向に対して約 45°クラックを生じて破断した。
室温においても、CREO 処理により Mg 合金の室温での限界圧縮率が向上したが、
CREO2 パス処理材では 押出材と同レベルの限界圧縮率となった。前章までで示した結
晶組織観察結果から、
最も結晶粒が細かい 2 パス CREO 材の限界圧縮率が 1 パス CREO
材に比較して低下していることから、1 パス CREO の室温での延性向上は、結晶粒微細
化の効果ではないことが予想される。一方、結晶方位観察結果より、1 パス CREO 材に
おいては、捻り変形付与によって、室温での滑り面である捻り面に沿って並んでいるこ
とが確認できており、その角度は軸に対して半径方向に近い斜め方向であった。このた
め室温での滑り面と、圧縮破断を生じる圧縮軸に対して斜め方向が一致したことにより、
1 パス CREO 材において 15%まで圧縮延性が向上したものと考えられる。
・
Fig.3.2.35
Appearance configuration of AZ61 compression test result
at room temperature150℃
117
3.3.4.2
(1)
温間圧縮特性
圧縮成形性
Fig.3.2.36 に、圧縮試験温度 150 ℃における圧縮試結果を示した。
押出材は、圧縮率 20 %で圧縮方向と 45°に試料が破断した。一方、CREO1 パス処理
材では圧縮率 20 %では破断することなく変形していたが、圧縮率 40 %で圧縮方向と 45°
に試料が破断した。約 45°のクラックとは別に、試験片の上下端外周部に細かなクラッ
クが多数発生じた。150℃レベルの加熱状態では延性が不足していることがわかる。
CREO 2 パス処理材では押出材と同様に圧縮率 20 %で圧縮方向と 45°にクラックを生
じて破断した。以上の結果は、室温での圧縮試験結果と同等の結果であった。
・
Fig.3.2.36
Appearance configuration of AZ61 compression test result at 150℃
試験温度を上げて、175℃での圧縮試験を行った結果を Fig.3.2.37 に示した。
押出材および 2 パス CREO 材は室温での結果に同じく、圧縮率 20 %では軸方向に対
して約 45°に試料が破断した。一方、1 パス CREO 材では圧縮率 60 %まで圧縮可能であ
った。試料の端面から、斜め 45°方向に渦巻状に細かなクラックが発生したが、大きな
クラック無く変形可能であった。圧縮率 80 %においては、側面にクラックが発生したが、
118
大割れというレベルではなく、延性不足ではあるもの脆性的な破壊とは言えない状態で
あった。
CREO 2 パス処理材では、押出材と同様に圧縮率 20 %で軸方向に対して約 45 °にク
ラックが発生した。しかし押出材および室温での圧縮試験に比較して、クラックは若干
小さくなり延性が改善され始めていることが観察された。
・
Fig.3.2.37
Appearance configuration of AZ61 compression test result at 175℃
更に圧縮試験温度を上げて、試験温度 200℃での圧縮試験を行った。試験結果を
Fig.3.2.38 に示した。
押出材は、室温から 175℃までの圧縮試験結果に同じく、圧縮率 20 %で軸方向に対し
て約 45°にクラックを生じて脆性的に破壊した。
CREO 1 パス処理材では、
大幅に延性が向上し、圧縮率 80 %まで圧縮変形化であった。
側面のみならず表面にも割れ等は見当たらなかった。試験片の側面のみならず試験片の
上下端外周部にもクラック発生は観察されなかった。
CREO 2 パス処理材は、側面表面に一部小さなクラックが観察されるものの、圧縮率
119
80 %まで変形可能であった。また試験片の上下端外周部の微細クラックも観察されなか
った。
以上の結果より、CREO 処理による圧縮延性向上は 200℃以上で実現できることが
わかった。ただ 1 パス CREO 材で示された圧縮延性向上は、圧縮軸方向に対して(0001)
面が約 45°に並んだ異方性により改善された可能性がある。
・
Fig.3.2.38
Appearance configuration of AZ61 compression test result at 200℃
120
(2) 圧縮変形中の流動応力曲線
各試験温度における真ひずみ∼真応力について調べた。ただし測定レンジの関係によ
り、圧縮率で 25%程度までしか測定できていない。圧縮試験温度が 150℃の場合、
Fig.3.2.39(a)示すように、真ひずみ 0.15∼0.20 で最大応力となり、最大応力の値は【1
パス CREO 材→2 パス CREO 材→押出材】の順で高くなった。1 パス CREO 材の最大
応力は、押出材に対して 56 MPa 低くなり約 15%低下した。最大ひずみ(延性)は、1
パス CREO 材が最も大きく、1 パス CREO 材、押出材の順となった。
圧縮試験温度が 175℃の場合の真応力-真ひずみ曲線を、Fig.3.2.39 (b)に示した。25℃
の温度上昇に伴い、150 ℃の場合と比較して押出材は最大応力に差が見られなかった。
CREO 処理材では、押出材に比較して 1 パスで約 7%、2 パスで約 11%の応力低下が見
られた。2 パス CREO 材の延性が向上し、塑性真ひずみ量が約 0.2 以上においては加工
軟化に伴う流動応力の低下が見られた。
圧縮試験温度 200 ℃における真応力~真ひずみ曲線を、Fig.3.2.39 (b)に示した。
200 ℃
では 2 パス CREO 材の流動応力も低下した。175℃に比較して、押出材で約 14%、1 パ
ス CREO 材で 12%、2 パス CREO 材で約 14%の最大応力が低下した。ただし押出材は
200℃において圧縮率 20%(真ひずみで約 0.22)において既に破断しており、グラフ上
では応力データが存在するが、破断材の圧縮応力が生じている状態である。
高い延性を有する CREO 処理材の 1 パスと 2 パスを比較すると、1 パスでは最大応力
のピークは真ひずみ 0.25 にあり、加工硬化は緩やかであった。一方、2 パスでは最大応
力は真ひずみ 0.15 で示し、加工硬化した後に加工軟化する結晶粒微細化材に特徴に一致
する応力変化を示した。
また、各圧縮試験温度において降伏応力は結晶粒度の小さい CREO 2 パス処理材が最
大であった。これは結晶粒微細化により、降伏点強度が上昇し、塑性変形が進行するに
つれて結晶方位が変化して、粒界滑り中心の塑性変形に移行する事で応力低下を生じた
のではないかと考える。
121
Fig.3.2.39
(a)
At 150℃
(b)
At 175℃
(c) At 200℃
Compression load diagram of AZ61
122
(3) 圧縮変形後の結晶組織
Fig.3.2.40 に CREO 1 パス処理材の 80%圧縮試験後の光学顕微鏡写真を示した。
Fig.3.2.13 に示した棒材段階での光学顕微鏡写真と比較して、中心部(a)については粗大
粒内にひずみが付与されており、(b)部において傾向が顕著になり粗大粒内に新たな粒界
が生じていることが観察できた。特に外周に近い(c)部に置いては棒材段階の粗大粒が圧
縮変形によって細長く変形し、微細化が進行していることがわかった。
Fig.3.2.40
Optical microstructure of AZ61 after compression test at 200℃
【CREO condition : 300 -10 rpm-200 mm/min】
2 パス CREO 材の 200℃における 80%圧縮試験後の光学顕微鏡写真を Fig.3.2.41 に示
した。中心部(a)においても顕著な微細化効果が観察されてきており、結晶粒界から生じ
る微細化のバンドが棒材段階に比較して大幅に拡大している事がわかった。1/2R の(b)
部についても粗大粒が減少して微細化領域が拡大している事がわかった。一方、棒材段
階から既に均質微細化されている外周の(c)部については、圧縮ひずみ付与においても変
化は殆ど見られず、圧縮変形による微細化は粗大粒中心に付与されたものと考えられる。
123
Fig.3.2.41 Optical microstructure of AZ61 after compression test at 200℃
【CREO condition : 350 -10 rpm-200 mm/min and 300 -10 rpm-200 mm/min】
以上の圧縮後光学顕微鏡組織観察結果より、マグネシウムの一般的な鍛造温度である
330℃以上に比較して、CREO 処理によって大幅な低温化を図った 200℃における鍛造
加工によって、棒材 CREO 処理段階で残留した粗大粒が微細化する傾向が見られた。特
に 2 パス CREO 材において、粗大粒の微細化傾向は顕著になっていることがわかった。
CREO 処理後に、微細化によって低温化した温度での恒温鍛造によって、更なる結晶
粒微細化が促進できる可能性があることがわかった。微細化材と恒温鍛造との組合せに
よる形状創成だけでなく更なる特性向上も視野に入れることが可能となる。
124
3.2.3.4.3.
(1)
CREO処理による微細組織と塑性加工性に関する考察
室温圧縮特性と微細組織の関係
室温圧縮試験の結果、1パスCREO 処理材では室温での限界圧縮率が向上したが、2
パスCREO材では押出材と同等であり圧縮特性向上は見られなかった。圧縮特性向上の
原因として、結晶粒微細化と結晶方位が考えられる。結晶粒微細化による圧縮特性向上
の要因として、温間域における結晶粒界すべりによるものと、微細粒によるひずみ分散
が考えられる。今回のCREO処理後の結晶組織観察において、CREO処理パス回数が多
い方が微細であることが確認できている。このため1パスCREO処理材における室温圧縮
特性向上は結晶粒微細化のみによるものではないと考えられる。
このため室温圧縮特性の向上は、結晶方位が原因ではないかと考えられた。CREO処
理を1パス付与する事で、常温での滑り面である(0001)面が半径方向に近い方向、すなわ
ち棒材軸方向から半径方向にシフトした斜めの螺旋状集合組織を形成した。この(0001)
集合組織が圧縮変形においてクラック発生する側面斜め方向に近い方位で並んだ状態と
なったため、室温での延性が向上したものと考えられる。(0001)集合組織と圧縮特性向
上のメカニズムについて、Fig.3.2.42に模式図を示した。円柱素材の圧縮において、圧縮
軸に対して45°の面でせん断応力は最大となり、CREO 1パス処理材では最大せん断応力
面医近い方位に容易すべり面である(0001)面が並ぶことにより延性向上したものと考え
られる。
Fig.3.2.42
Relationship image between compaction ability and crystal orientation
being depending on CREO pass number
125
一方、押出材およびCREO 2パス処理材の集合組織は圧縮方向に並行もすくは垂直で
あることから、容易すべり面(0001)面による高い変形能を活用する事が出来なかった。
このため最大せん断応力面で脆性的に破壊が起こったものと思われる。
(2)
温間圧縮特性と微細組織の関係
圧縮試験温度150 ℃∼175 ℃においては、1パスCREO材のみが高延性を示し、室温
圧縮特性と同様の傾向を示した。この温度における圧縮特性の傾向は室温での圧縮試験
の場合と同様の考え方で説明できる。すなわち175 ℃以下では結晶粒微細化のみで塑性
加工性を向上させることが難しく、塑性加工性は(0001)面集合組織の影響を強く受ける
と考えられる。
圧縮試験温度が200 ℃においては押出材が20 %で破断しているのに対し、CREO処理
材では1パス2パス処理材ともに80 %まで圧縮可能であった。従って、200 ℃においては
結晶粒の微細化効果により圧縮特性が向上したものと考えられる。
すべり系に乏しいマグネシウム合金においては、粒界滑りに必要な温度域に達すると
粒界すべりの塑性変形への寄与が大きくなり、結晶粒が微細であるほどその効果は大き
くなる。
(23)
本研究において、CREO処理の大きなせん断ひずみ付与によって、押出材の粗大な結
晶粒界から結晶粒微細化が始まっており、かつ圧縮変形後の組織観察でも同様の粗大粒
結晶粒界からの微細化進行が確認できた。
126
3.2.4
結
言
本研究では、Mg 合金に CREO 処理を行い、その微細組織や結晶方位分布、およびそ
れらと塑性加工性との関係を評価することにより、以下の知見を得た。
1)
CREO 処理により、マグネシウム合金の結晶粒微細化の連続処理が可能となった。
2)
CREO 処理により形成された微細化領域と CREO 処理前押出組織の境界は、すり鉢
形状を形成し、半径方向の中心部には未処理領域が残留した。残留部の径は、
CREO-value が大ほど小さくなったが、本研究の実験範囲では消失不可であった。
3)
低温 CREO 処理が低いほど微細化が進み、今回実験範囲の最低 CREO 処理温度
300 ℃の試料表層部で平均結晶粒径 1.5 μm が達成された。
4)
複数回 CREO 処理によって、1pass 処理後の残留粗大粒を微細化できることがわか
った。
5)
CREO 処理により、棒材の半径方向側に(0001)面に傾いた集合組織を形成すること
が出来た。
6)
2pass 目の CREO 処理を 1pass の逆方向にすること、 (0001)面が押出材と類似の棒
材長手方向に並んだ集合組織となった。
7)
1passCREO 処理によって、室温での限界圧縮率が向上することがわかった。
一方、 2 パス CREO 処理材は。1 パス処理材より限界圧縮率が低下し、押出材と同
等であった。これは 1pass において、圧縮変形のすべり面に(0001)面が並ぶことが
原因と考えられる。
8)
CREO 処理により、温間域で表面に割れを生じることなく圧縮率 80 %で圧縮変形可
能であった。圧縮変形応力についても大幅に減少することができることがわかった。
9)
CREO 処理後に、微細化によって低温化した温度での恒温鍛造によって、残留した
粗大粒が消失する効果が確認できた。ただし温間恒温鍛造による更なる微細化は、
既に微細化された組織には効果が見られなかった。
以上を総括して、CREO 処理で連続的な結晶粒微細化が可能であり、微細化材と恒温
鍛造との組合せにより、塑性加工による形状創成だけでなく、製品の更なる特性向上
も可能であることがわかった。
127
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129
陽
第 4章 結 晶 粒 微 細 化 マ グ ネ シ ウ ム 合 金 の 恒 温 塑 性 加 工
前 章 に お い て CREO 処 理 を 用 い た 微 細 化 に よ る 塑 性 変 形 荷 重 の 低 減 お よ び 延
性向上、集合組織制御による延性向上を達成すると共に、加工後の特性を大幅に
向 上 さ せ る 可 能 性 を 見 出 し た 。 1)∼ 10)
そ こ で 本 章 で は CREO 処 理 に よ っ て 結 晶 粒 微 細 化 お よ び 集 合 組 織 制 御 し た マ
グネシウム合金を対象として、高強度で複雑・高精度の鍛造部品を実現すべく、
押出鍛造法を基本とした恒温鍛造研究開発を行った。押出鍛造法は、以下の点に
着目して研究を進めた。
① CREO 処 理 に よ る 結 晶 粒 微 細 化 の 効 果 で あ る 、低 温 で の 延 性 を 活 用 し た 大 変
形の鍛造加工を実現する。
②押出鍛造により、低温で大きなせん断ひずみを付与し、更なる微細化と特性
向上をはかる。
③小口径棒材から大サイズの中空・板材の成形品を得る。
こ の こ と に よ り 棒 材 に 限 定 さ れ る CREO 処 理 の 制 約 を 緩 和 さ せ る こ と が 可
能となる。
具 体 的 な 加 工 法 と し て 、Fig.4.1 に 示 し た【 拡 張 押 出 】
【角筒押出】
【 板 押 出 】を
考案した。図中に青色の矢印で示したように鍛造工程中に大きなせん断変形を付
与する事が可能な鍛造法であり、全て丸棒からの成形を可能としている。
(a) Expansion extrusion
(b) Square tube extrusion
(c) Lateral sheet extrusion
Fig.4.1 General pictures of extrusion forging
CREO 処 理 を 用 い て 結 晶 粒 微 細 化 し た マ グ ネ シ ウ ム 合 金 AZ61 を 使 用 し て 、 各
押出加工法の研究を進めた。
130
【 拡 張 押 出 】で は 、結 晶 粒 微 細 化 に よ っ て 鍛 造 温 度 を 下 げ 、200℃ に て 丸 棒 か ら
円 盤 状 に 拡 張 押 出 す る 加 工 法 “拡 張 押 出 ”を 試 み 、 結 晶 組 織 変 化 を 調 べ た 。
また拡張押出をベースにして、丸棒からの前方押出によって薄肉中空の角筒を
成形する【角筒押出】を試み、成形の可否および成形荷重について調べ、また結
晶組織及び機械的性質の変化を調べた。
更 に 棒 材 素 材 に 適 用 が 限 定 さ れ る CREO 処 理 の 課 題 で あ る 板 状 素 形 材 の 加 工
に つ い て も 、【 板 横 押 出 成 形 】 に よ っ て 棒 材 径 の 2 倍 の 幅 に 至 る 板 材 を 成 形 す る
ことを試みた。他の加工法と同様に、成形の可否のみならず結晶組織および機械
的性質の変化を調べた。本法により得られた微細組織を有する板材をプレス成形
素材として用いる事で、更に板形状の成形可能性について確認した。
CREO 処 理 に よ っ て 微 細 化 し て 温 間 鍛 造 性 を 向 上 さ せ た マ グ ネ シ ウ ム 合 金
AZ61 を 用 い て 、
【拡張押出】
【角筒押出】
【 板 押 出 】の 各 押 出 鍛 造 法 に よ っ て 、棒
材からの成形可能性の拡大および鍛造加工中の追加結晶制御と機械的性質向上を
同時に実現可能であることを示した。
131
4.1. マ グ ネ シ ウ ム の 拡 張 押 出 加 工
4.1.1.
緒
言
押 出 鍛 造 成 形 法 の 基 礎 成 形 法 と し て 拡 張 押 出 成 形 を 考 案 し た 。11 ) ∼ 1 4 ) 本 法 は 、
Fig.4.1.1 に 示 す よ う に 、 押 出 方 向 に 直 交 し た 金 型 の 間 隙 を 設 定 し て お き 、 押
出により下方に押し出された素材は下型に押し当てられた後に間隙にて解放
さ れ た 空 間 で あ る 押 出 に 直 交 方 向 に 拡 張 さ れ る 。拡 張 押 出 さ れ た 先 端 面 は 半 径
方 向 に 広 げ ら れ 、大 き な 引 っ 張 り ひ ず み が 発 生 す る こ と に な る 。本 法 の 効 果 と
して以下がある。
(1)棒 材 か ら の 拡 張 成 形 に よ っ て 、素 材 棒 材 の 外 径 に 対 し て 大 き な サ イ ズ の
部品が成形可能となる。
(2)拡 張 押 出 に よ っ て 棒 材 軸 方 向 に 直 行 し た 半 径 方 向 に 押 し 出 す こ と で 、更
な る せ ん 断 ひ ず み 付 与 が 可 能 と な り 、結 晶 粒 微 細 化 の 促 進 お よ び CREO
処理で残留した粗大粒の微細化が期待できる。特に、押出加工温度およ
び加工度を適正化することで、大幅な機械的特性の向上が期待できる。
(3)単 軸 圧 縮 試 験 で は 評 価 困 難 な 、大 き な 延 性 を 有 す る 金 属 材 料 の 評 価 法 と
して利用可能である。
そ こ で 考 案 し た 拡 張 押 出 の 温 度 お よ び 間 隙( 加 工 度 )を パ ラ メ ー タ ー と し て 、
拡張押出による結晶粒微細化材の成形性評価およびせん断ひずみによる結晶
組織および特性変化について調べた。
Fig.4.1.1
General outline of expansion extrusion process
132
4.1.2
4.1.2.1
実験方法
供試材
試 料 は JIS-AZ61 CREO 処 理 素 材 は F 20 の 素 材 を 用 い て 、 処 理 温 度 300 ℃
に お い て 、 ね じ り 回 転 数 15rpm、 送 り 横 移 動 速 度 300 mm/min で 行 っ た 。
CREO 処 理 後 素 材 を F 14.4 mm に 切 削 加 工 し た も の を 使 用 し た 。成 分 を Table
4.1.1 に 示 す 。
Table 4.1.1
Al
6.47
4.1.2.2
Zn
0.85
Chemical compositions of AZ61
Mn
0.27
Cu
0.003
(mass%).
Si
Mg
0.026
Bal.
CREO 処 理 設 備 お よ び 処 理 条 件
CREO 処 理 は 、 Fig.2.1.18 お よ び Fig.2.1.19 で 示 し た 【 RN-1】 設 備 に て 実
施 し た 。CREO 処 理 中 の 温 度 測 定 は 、設 置 し た 放 射 温 度 計 に て 行 い 、供 試 棒 材
中に埋め込んだ K 熱電対の温度を測定して放射温度計の輻射率を較正した。
4.1.2.3
拡張押出実験装置
拡 張 押 出 に 使 用 し た 圧 縮 試 験 機 は 、 Fig.4.1.2 に 示 し た よ う に 、 上 下 に 対 向
し た 2 本 の 油 圧 シ リ ン ダ ー を 有 し て お り 、下 方 に メ イ ン シ リ ン ダ ー 20tonf、上
方 に サ ブ シ リ ン ダ ー 10tonf の 最 大 荷 重 を 発 生 す る こ と が 出 来 る 。
Fig.4.1.2
Expansion forging test equipment
133
4.1.2.4
CREO 材 の 拡 張 押 出 評 価 条 件
拡 張 押 出 試 験 に 使 用 し た 金 型 構 造 寸 法 を Fig.4.1.3 に 示 し た 。 金 型 は ヒ ー タ
によって加熱し、内蔵した熱電対と接触温度計にて温度管理した。
上 方 金 型 の 空 間 金 型 に 設 け た 押 出 部 内 径 F 15 に 入 る よ う に 素 材 を 下 型 上 に
セ ッ ト し 、上 型 を 下 降 さ せ て 下 型 と ス ペ ー サ を 介 し て 接 触 さ せ て 加 圧 す る 。こ
の 状 態 で 60sec 以 上 保 持 す る こ と に よ っ て 金 型 に よ り 素 材 が 加 熱 さ れ 、素 材 と
金型が同一温度となる恒温状態を得ることが出来る。
上 下 金 型 が 加 圧 さ れ た 状 態 で 、押 出 シ リ ン ダ ー を 下 降 さ せ て 素 材 を 上 下 金 型
に よ り 形 成 さ れ た 間 隙 か ら 押 出 方 向 と は 直 角 に 、軸 に 対 し て 半 径 方 向 に 板 状 に
押 し 出 さ れ る 。金 型 と 素 材 の 接 触 量 を 一 定 に す る た め 、上 型 は F 25 の 領 域 の み
凸 形 状 と な っ て お り 、 素 材 と の 加 圧 接 触 領 域 は F 25 の 円 内 に 限 定 し た 。
試 料 ・ 金 型 共 に 200℃ か ら 270℃ に 加 熱 し た 恒 温( 温 間 )条 件 下 で 、油 圧 プ
レ ス を 用 い て 加 工 し た 。 押 し 広 げ の 際 の 肉 厚 は 2.2mm と 4.5mm を 用 い 、 潤
滑は油性潤滑剤を使用した。操作手順としては以下のように行った。
①下型の中心位置に素材をセットする。
②上型を下降させて、上型に設けた押出穴内に素材を挿入する。
③ 挿 入 状 態 で 60sec 以 上 保 持 し 、 素 材 と 金 型 温 度 を 同 一 に す る 。
④ 押 出 シ リ ン ダ ー に て 、上 方 よ り 素 材 を 押 出 し 、対 向 す る 平 面 の 下 型 に 押 し
当てることにより、水平(半径)方向に板状に押出加工する。
⑤押出シリンダーを上昇させる。
⑥ 上 下 の 金 型 を 開 放 さ せ て ,成 形 品 を 取 り 出 す 。
実 験 条 件 を Table 4.1.1 に 示 し た 。
Fig.4.1.3
Schematic illustration of expanding forging test
134
Table4.1.1 Test condition of expansion forging
135
4.1.2.5
(1)
結晶組織観察
光学顕微鏡組織
手 順 と し て 、エ メ リ ー 紙 で 順 次 研 磨 番 手 を 細 か く し て 研 磨 し 、そ の 後 は【 化
学 研 磨 →水 洗 浄 →エ ッ チ ン グ →水 洗 浄 】 に て 処 理 す る 。 化 学 研 磨 は 、 【 塩 酸 :
10ml、 硝 酸 : 10ml、
エ タ ノ ー ル : 160ml】 溶 液 に て 行 い 、 エ ッ チ ン グ 液 は
【 ピ ク リ ン 酸 : 4.2g、 酢 酸 : 10ml、 蒸 留 水 : 10ml、 エ タ ノ ー ル : 160ml】 を
使用した。
光 学 顕 微 鏡 は 、ニ コ ン 製 工 業 用 顕 微 鏡 エ ク リ プ ス L150 顕 微 鏡 用 お よ び デ ジ
タ ル カ メ ラ 付 き ア ダ プ タ ー セ ッ ト NYpix8400S2-P84M を 使 用 し た 。
(2)EBSP 測 定 試 料 作 製
供 試 材 よ り 研 磨 法 を 用 い て EBSP 用 測 定 試 料 を 作 製 し た .
観 察 装 置 は 日 本 電 子 社 製 の 電 界 放 出 型 走 査 電 子 顕 微 鏡 JSM-6500F を 使 用 し
た 。 EBSP シ ス テ ム は TSL 社 製 お よ び OIM シ ス テ ム (ver.4.6)を 使 用 し た 。
測 定 範 囲 は 、 90×90μm と し て 、 測 定 間 隔 は 0.3μm step に 設 定 し た 。
4.1.2.6
機械特性試験
(1)硬 度 試 験
マ イ ク ロ ビ ッ カ ー ス 微 小 硬 さ 試 験 機 と し て ミ ツ ト ヨ 製 HM-103 を 使 用 し た 。
測 定 荷 重 は 0.3Kgf と し た 。
136
4.1.3.
実験結果および考察
4.1.3.1
棒材の結晶組織
結 晶 組 織 観 察 結 果 を Fig.4.1.7 に 示 し た 。 押 出 素 材 レ ベ ル で は 約 20μm の 均
一な結晶組織を有し、押出素材としては比較的細かな結晶組織と言える。
一 方 、CREO 処 理 材 に お い て 、中 心 部( r=0mm)は 押 出 素 材 の 同 等 の 結 晶 組
織 を 呈 し て い る が 、CREO 処 理 材 に お い て は 粒 界 の 幅 が 大 き く な っ て い る こ と
が わ か る 。 3.2 の マ グ ネ シ ウ ム 合 金 に 関 す る 中 で 報 告 し た よ う に 、 結 晶 粒 微 細
化 は 粒 界 を 基 点 に 進 行 し 、ひ ず み 量 の 増 大 に 伴 い 微 細 化 領 域 が 粒 内 に 拡 大 す る
傾 向 を 示 し た 。す な わ ち 捻 り 変 形 は 付 与 さ れ て い る も の の 、ひ ず み 量 が 小 さ く
押出素材の結晶粒径を変化させるに至っていないことが分かる。
中 心 以 外 は 5μm 以 下 の 微 細 組 織 を 示 し 、 粗 大 粒 の 残 留 も 見 ら れ な か っ た 。
微 細 化 傾 向 と し て は 、 1/2R 部 よ り も 表 層 部 の 方 が 結 晶 粒 径 は 小 さ く な っ た 。
微 細 化 さ れ た 結 晶 粒 は 比 較 的 等 軸 で あ り 、ひ ず み 方 向 の 変 形 も 見 ら れ な か っ
た 。こ の 事 か ら 、強 い せ ん 断 ひ ず み を 受 け て か ら 再 結 晶 温 度 以 下 に 冷 却 さ れ る
までに等軸化するに加熱状態での時間的な猶予があった事が推定できる。
300℃
Fig.4.1.4
Microstructure of as CREO-treated and as extruded AZ61
137
4.1.3.2
拡張押出結果
拡 張 押 出 結 果 を Fig.4.1.5 に 示 し た 。 押 出 材 は 低 温 側 で 脆 性 的 な 破 壊 を 示 し
た。また隙間が小さいほど、初期に脆性的な破壊を示した。最も延性が高い
270K に お い て も 隙 間 2.2mm で は 、 円 盤 状 に 拡 張 押 出 す る こ と は 出 来 ず 、 2
方 向 に 細 長 く 分 断 さ れ て 押 し 出 さ れ る 結 果 と な っ た 。 隙 間 4.5mm で は 、 拡 張
押 出 の 形 態 を 呈 し た が 、 全 て の 場 合 に 破 壊 を 生 じ た 。 270K に お い て は 円 盤 周
辺 部 の 延 性 破 壊 で あ っ た が 、低 温 で 延 性 が 低 い 235℃ お よ び 200℃ で は 、押 出
初期に大きな破壊音を伴い押出方向で下型に押しつけられる底面部が脆性的
に 破 壊 し た 。こ れ は 3.2 の 圧 縮 試 験 で 示 し た 、単 軸 圧 縮 応 力 下 で 圧 縮 方 向 に 対
し て 45deg の せ ん 断 亀 裂 が 発 生 し た も の と 同 様 の 延 性 不 足 が 原 因 と 思 わ れ る 。
一 方 、 CREO 処 理 材 に つ い て は 、 高 い 延 性 ゆ え に 割 れ 発 生 は 200℃ で 間 隙
4.5mm の 場 合 の み で あ っ た 。 こ の 場 合 の 割 れ 発 生 部 分 は 、 押 し 出 さ れ た 円 盤
の 外 周 部 で あ り 、押 出 材 と 同 じ 位 置 で あ っ た 。た だ 押 出 材 で 生 じ た 破 壊 音 な ど
は 観 察 さ れ ず 、延 性 的 な 破 壊 で あ っ た 。破 壊 は 、ギ ャ ッ プ 形 成 を F 25 以 内 と し
た 金 型 凸 部 を 超 え た 領 域 で 発 生 し た 。こ れ は 、拡 張 成 分 と 外 周 部 へ の 曲 げ の 重
複によって破断限界に達したものと思われる。
最 も 低 温 で あ る 473K で 、 か つ 最 も 間 隙 が 小 さ い 2.2mm の 場 合 に は 、 押 出
シ リ ン ダ ー の 荷 重 不 足 に よ り 、ス ト ロ ー ク エ ン ド ま で の 押 出 成 形 は 出 来 な か っ
た。
Fig.4.1.5
Result of Expansion forging test
138
4.1.3.3
(1)
各拡張押出条件における外観・光顕組織・硬度分布
拡張押出のファイバーフロー観察
押出材の断面について強めのエッチングを施すことによってファイバーフ
ロ ー を 観 察 す る こ と が 出 来 た 。 (Fig.4.1.6)
素材部は棒材製造時に形成された長手方向に平行なファイバーフローが観
察された。金型から出るまでは平行のフローを示し、金型コーナによって
90deg の 曲 が っ た フ ロ ー と な っ た 。屈 曲 し た フ ァ イ バ ー フ ロ ー か ら 、ECAP に
よるせん断ひずみ付与を類似したひずみが付与されていることが分かる。
素 材 の 中 心 軸 で 、対 向 す る 下 型 に 押 圧 さ れ る 部 位 に は デ ッ ド メ タ ル 状 の フ ァ
イ バ ー の 滞 留 が 観 察 さ れ た 。シ リ ン ダ ー 部 内 径 F 15 に 対 し て 素 材 外 径 が F 14.4
で あ り 、 圧 縮 率 に 換 算 す る と 8.5% に 相 当 す る 。 更 に 対 向 す る 金 型 に 押 し つ け
ら れ て 水 平( 半 径 )方 向 に 押 し 出 さ れ る に 際 し て 、素 材 に は 半 径 方 向 の ひ ず み
が 加 算 さ れ る 。 3.2.3.4.2 の 温 間 圧 縮 試 験 結 果 に 示 し た よ う に 200℃ に お い て
は 圧 縮 率 20% 以 下 で 破 断 し て お り 、 前 述 の シ リ ン ダ ー の ク リ ア ラ ン ス に よ る
8% お よ び 拡 張 開 始 時 の ひ ず み 付 与 に よ り 、 圧 縮 開 始 時 点 で の 脆 性 破 壊 を 生 じ
たものと思われる。
F 15
Fig.4.1.6 Fiber flow of plastic deformation
As Extrusion Expansion forging temp. : 270℃
Gap between tools
: 4.5mm
中心軸からファイバーフローは水平(半径)方向に直角に曲げられていた。
半 径 方 向 に 拡 張 さ れ た フ ラ ン ジ 部 は 、F 25 の 凸 部 以 内 で は 板 厚 が ほ ぼ 一 定 と な
っ て い る が 、外 周 に 行 き F 25 領 域 外 で は 薄 肉 化 し て お り 、特 に 先 端 部 で 間 隙 に
139
対 し て 非 常 に 薄 肉 に な っ た こ と と 、1 方 向 押 出 に よ る 上 方 へ の 偏 荷 重 に よ っ て 、
巻 き 込 み を 生 じ た 。こ の 巻 き 込 み 部 の 下 方 に 位 置 す る 曲 げ 外 周 部 で 伸 び 変 形 が
加算される事によって加工限界を越えて外周破断を生じたものと思われる。
押 出 コ ー ナ 部 近 傍 の 結 晶 組 織 を Fig.4.1.7 に 示 し た 。 押 出 コ ー ナ 部 で 強 い せ
ん 断 変 形 が 付 与 さ れ 、結 晶 粒 が 微 細 化 さ れ て い く 状 態 が 観 察 で き た 。粒 内 に は
コ ー ナ 半 径 方 向 に 沿 っ て す べ り 線 が 観 察 さ れ 、変 形 の 進 行 と 共 に 結 晶 粒 は 更 に
微細化され低い倍率では観察困難なレベルとなった。
Fig.4.1.7 Transformation of crystal grain at the corner
As Extrusion Expansion forging temp. : 270℃
Gap between tools
: 4.5mm
140
(1)
押出材の拡張押出結果
【 270 ℃
4.5mm】
押出材において唯一脆性破壊を生じなかった最高温かつ最大間隙の条件の
サ ン プ ル に つ い て 外 観 観 察 ( Fig.4.1.8) お よ び 組 織 観 察 を 実 施 し た 。
破 断 は 外 周 部 の 一 部 に 発 生 し て お り 、押 出 方 向 に 生 じ た 表 面 模 様 に 沿 っ て 引
き裂かれた状態で破壊していた。
下 型 と 接 触 す る 下 面 側 は 、押 出 棒 材 が 押 し つ け ら れ る 部 分 に 明 確 な 加 工 痕 が
見 ら れ 、押 し つ け る 圧 力 が 付 与 さ れ る 部 分 に 対 し て 、拡 張 部 に は 軽 微 で は あ る
が凹部を生じていた。
Fig.4.1.8 Outlook of expansion forging of extruded AZ61
at 270℃ with 4.5mm tool gap
素 材 部 の 結 晶 組 織 は Fig.4.1.9 に 示 す よ う に 、 外 周 部 が 若 干 粗 大 な 等 軸 組 織
で あ っ た 。押 出 に よ っ て 結 晶 粒 は 微 細 化 さ れ て お り 、10μm 程 度 と な っ て い た 。
押 出 に よ る ひ ず み は 、棒 材 製 造 時 の 押 出 加 工 と 直 行 方 向 に 付 与 さ れ る こ と か ら 、
ECAP 法 と 同 様 に 効 果 的 に 結 晶 粒 を 微 細 化 す る 事 が 可 能 と な る と 考 え ら れ る 。
今 回 使 用 し た 温 度 が 、通 常 の 押 出 材 で の 延 性 を 得 る に は 低 す ぎ る こ と か ら 破
断 を 生 じ た 。 従 っ て 、 マ グ ネ シ ウ ム 合 金 押 出 素 材 の 鍛 造 に 用 い ら れ る 、 330℃
以 上 に 加 熱 で き れ ば 、拡 張 押 出 中 に せ ん 断 ひ ず み を 付 与 し て 結 晶 粒 を 一 定 レ ベ
ル 微 細 化 す る 可 能 性 が あ る 。し か し な が ら 恒 温 鍛 造 で 大 き な せ ん 断 ひ ず み を 与
え る 状 態 で 、 330℃ 以 上 の 加 熱 状 態 で は 、 潤 滑 剤 の 選 定 が 困 難 で あ り 、 金 型 の
加熱が非常に困難になる等について大きな課題が残る。
141
As extruded
Temp.: 270℃
Gap
Fig.4.1.9
(2)
: 4.5mm
Microstructure of extruded AZ61 expansion forging sample
with 4.5mm tool gap
CREO 処 理 の 拡 張 押 出 結 果
【 270℃
2.2mm】
CREO 処 理 材 に 関 し て は 、強 加 工 で あ る 間 隙 2.2mm に つ い て の み 詳 細 調 査
し た 。 270℃ に お い て も 、 拡 張 押 出 品 外 観 は 非 常 に 滑 ら か で あ り 、 押 出 材 で 見
ら れ た 半 径 方 向 の ス ジ 模 様 も 軽 微 な も の で あ っ た 。外 周 の 一 部 に ネ ッ キ ン グ 状
の 凹 部 が 観 察 さ れ た が 、 ク ラ ッ ク な ど は 観 察 で き な か っ た 。( Fig.4.1.10)
比 較 と し て 押 出 材 に つ い て 、同 一 条 件 で 拡 張 押 出 し た サ ン プ ル 外 観 も 示 し た 。
押 出 材 で は 2 方 向 に 分 断 さ れ CREO 処 理 に よ る 大 幅 な 延 性 向 上 が 確 認 で き た 。
またシリンダーによる押出部にはバリの発生は観察されなかった。
Fig.4.1.10 Outlook of expansion forging of CREO treated AZ61
at 270℃ with 2.2mm tool gap
142
As CREO
Temp.: 270℃
Gap
Fig.4.1.11
: 2.2mm
Microstructure of CREO treated AZ61 expansion forging
sample with 2.2mm tool gap
CREO 処 理 材 の 270℃ 間 隙 2.2mm の 断 面 組 織 を 観 察 し た 。( Fig.4.1.11)
CREO 処 理 に よ っ て 押 出 前 の 素 材 部 分 に お い て も 結 晶 粒 は 微 細 で あ っ た 。更 に
拡張押出により微細化は一段と進み材料の流れに沿って伸ばされた微細組織
を示す事が分かった。
結 晶 組 織 は 押 出 先 端 で あ る 外 周 部 の 方 が 粗 い 傾 向 を 示 し た 。こ れ は 先 端 部 で
は 、摩 擦 力 が 発 生 す る 面 積 が 小 さ く 、更 に 外 周 部 の 板 厚 が 減 少 す る こ と か ら 背
圧 が 小 さ く な る こ と が 推 定 で き る 。一 方 、加 工 後 半 の 方 で は 、外 周 部 の 摩 擦 抵
抗 に よ っ て 背 圧 が 高 く な る こ と か ら 鋭 角 に 屈 曲 し 、せ ん 断 ひ ず み 量 が 大 き く な
り微細化が進んだものと考えられる。
(3)
CREO 処 理 材 の 拡 張 押 出 結 果
【 200℃
2.2mm】
CREO 処 理 材 に お い て 、 最 も 低 い 温 度 200℃ で 、 か つ 最 小 の 間 隙 2.2mm の
条 件 に お い て は 、圧 縮 試 験 機 の 荷 重 不 足 で 完 全 に 押 し 出 し き る こ と は 出 来 な か
ったが、金型の凸形状を超える領域までの拡張押出成形を行う事が出来た。
Fig.4.1.12 に 示 す よ う に 、表 面 状 態 は 良 好 で あ り 、ネ ッ キ ン グ も 見 ら れ な か っ
た 。最 外 周 部 の 下 面 側 で は 若 干 の 表 面 荒 れ が 発 生 し て い る こ と が 観 察 さ れ 、成
形限界が近づいている事が推定できる。
押出のコーナ部および押出の対向部において潤滑剤の焼き付きのような変
143
色 が 観 察 さ れ た 。 こ の 領 域 は 面 積 も 大 き く 押 出 速 度 も 大 き な 、 い わ ゆ る 高 PV
( Pressure Velocity) 値 と な る 領 域 で あ り 、 潤 滑 性 能 が
不足して変質を開始したのではないかと考えられる。
Fig.4.1.12 Outlook of expansion forging of CREO treated AZ61
at 200℃ with 2.2mm tool gap
断 面 組 織 を 光 学 顕 微 鏡 で 観 察 し た ( Fig4.1.13 ,14)。 素 材 部 分 の 外 周 部 は 約
5μm の 結 晶 粒 径 で あ っ た が 、 内 周 部 で は 粗 大 粒 と の 混 粒 と な っ て い た 。 押 出
が 開 始 さ れ る に 従 い 微 細 化 が 進 行 す る が 、 コ ー ナ 部 近 傍 で あ る Fig4.1.13③ ④
⑤の微細化は、内側に位置する③に比較して微細化していることが分かった。
こ れ は コ ー ナ 内 周 側 の 方 が 、鋭 角 に 屈 曲 し せ ん 断 ひ ず み 量 が 大 き い 事 が 原 因 と
考 え る 。押 し 出 さ れ て 板 状 と な っ た 円 周 部 の ⑤ は コ ー ナ 部 で あ る ④ と 類 似 し た
結晶組織となっていた。
更に下方に押出が進行した領域である⑥では棒材内周部にもかかわらず③
に 比 較 し て 微 細 化 が 進 行 し て い た 。 こ れ は Fig.4.1.4 に 示 し た マ ク ロ 組 織 か ら
分 か る よ う に 、棒 材 内 周 部 の 方 が 、せ ん 断 ひ ず み 付 与 が 遅 れ て 生 じ る こ と に よ
る と 考 え ら れ る 。⑦ か ら ⑧ で は 大 き な 組 織 変 化 は 見 ら れ ず 、⑦ の 位 置 で せ ん 断
ひずみ付与は完了し組織の微細化も完了したものと考えられる。
144
①
① ②
②
③
⑥
③
④
⑥
⑦
④
⑦
⑤
⑧
⑤
⑧
Fig.4.1.13
Optical microstructure of expansion extrusion 【 1 】
更 に 下 型 側 の 位 置 に つ い て の 光 学 顕 微 鏡 組 織 を Fig.4.1.14 に 示 し た 。
下型側である⑨⑩の位置になると半径方向位置による結晶粒径の差は見られ
な く な る 。ま た 拡 張 押 出 さ れ た 外 周 部 ⑪ と の 差 も 見 ら れ な く な っ た 。更 に 下 型
側 で あ る ⑫ ⑬ ⑭ も 同 様 の 組 織 の 傾 向 を 示 し 、平 均 結 晶 粒 径 は 約 2∼ 3μm 程 度 に
なっていた。
①②
①
②
⑨
⑫
⑨
⑩
⑫
⑬
⑩
⑪
⑭
⑬
⑪
⑭
Fig.4.1.14
Optical microstructure of expansion extrusion 【 2 】
145
4.1.3
CREO 処理材拡張押出の SEM-EBSP 観察結果 【200℃ 2.2mm】
今 回 の 実 験 範 囲 で 最 も 微 細 化 が 進 ん だ 条 件 で あ る 、 CREO 処 理 材 を 200℃
に て 間 隙 2.2mm で 拡 張 押 出 サ ン プ ル に つ い て 、SEM-EBSP に て 組 織 解 析 を 行
った。
4.1.3.4.1
棒材部
(1)Image Quality 観 察 結 果
押 出 を 行 う 棒 材 部 、す な わ ち CREO 処 理 部 分 は 、約 10μm の 粗 大 粒 と 1∼ 3μm
の 微 細 粒 の 混 粒 組 織 と な っ て い た 。( Fig.4.1.15)
微細結晶粒が集合する領
域がバンド状に観察される。
光 学 顕 微 鏡 で 観 察 し た Fig.4.1.4 の CREO 処 理 後 組 織 に 比 較 し て 、若 干 粗 大
化 し た 傾 向 を 示 し た 。こ れ は 200℃ と 粗 大 化 に は 低 い 温 度 で は あ る が 、押 出 に
よ る 金 型 と の 摩 擦 熱 が 付 与 さ れ て 、軽 微 で は あ る が 再 結 晶 と 粗 大 化 が 進 ん だ の
ではないかと考えられる。
Fig.4.1.15
Transformation of grain size by forging
146
(2)EBSP に よ る 粒 径 分 布 観 察
EBSP に よ る 結 晶 粒 界 の 判 定 角 度 を【 2∼ 5deg】
【 5∼ 15deg】
【 15∼ 180deg】
に 分 割 し て 、粒 界 マ ッ プ を 測 定 し た( Fig.4.1.16)。15deg 以 上 の 大 傾 角 粒 界 が
約 69.3% と 大 半 を 占 め て い る が 、 5∼ 15deg の 範 囲 も 11.2%を 占 め 、 2∼ 5deg
も 約 19.5% と 多 く 観 察 さ れ 、 15deg 未 満 の 小 傾 角 粒 界 が 多 く 観 察 さ れ た 。 特
に 2∼ 5deg の 傾 角 を 有 す る 粒 界 が 、粗 大 な 結 晶 粒 内 に 観 察 さ れ た 。IQ 像 で は 、
2deg 以 下 の 更 に 小 傾 角 と 思 わ れ る パ タ ー ン が 粗 大 結 晶 粒 内 に 観 察 さ れ る こ と
から粗大粒の中にも亜粒界もしくはすべり線のような線状組織が観察され、
CREO 処 理 に よ る ひ ず み が 、加 熱 捻 り の 後 の 急 冷 に よ っ て 、完 全 に ひ ず み が 消
失するまでの加熱保持時間ではない事が推定できる。
Fig.4.1.16
Grain map of extruded rod
Fig.4.1.17 に 、 結 晶 傾 角 5deg を し き い 値 と し た 粒 径 分 布 を 示 し た 。 粒 内 に
部 分 的 で は あ る が 双 晶 が 観 察 さ れ 、 双 晶 を 含 ん だ 場 合 と ,除 外 し た 場 合 の 結 晶
粒 径 分 布 を 比 較 し た ( in Area で 評 価 )。
双 晶 を 含 ん だ 分 布 で は 、 平 均 結 晶 粒 径 が 5.2μm で あ り 、 15μm レ ベ ル の 粗
大 粒 が 残 存 し て い る こ と が 分 か っ た 。最 頻 値 と し て は 2∼ 4μm で あ り 、一 部 の
粗 大 粒 を 除 け ば 10μm 以 内 に 粒 径 が お さ ま っ て い る こ と が 分 か っ た 。
147
Fig.4.1.17
Grain distribution of extruded rod in area
双 晶 を 除 外 し て 同 様 の 測 定 を 行 っ た 。( Fig.4.1.18) 最 小 粒 径 と 最 大 粒 径 は
変 化 し な か っ た が 、 平 均 結 晶 粒 径 は 5.2μm→6.0μm と 軽 微 で は あ る も の の 大
き く な っ た 。 こ れ は 双 晶 の 大 き さ が 5μm 以 下 の 2∼ 4μm の 範 囲 で あ っ た こ と
を示している。
Fig.4.1.18
Grain distribution of extruded rod in area except Twin
148
Fig.4.1.19 に 、 数 量 で 整 理 し た EBSP 粒 径 分 布 の デ ー タ を 示 し た 。 金 属 体 全
体 で 見 る と 、面 積 比 で 全 体 の 特 性 を 規 定 す る こ と か ら 、あ く ま で も 結 晶 粒 の 分
布 状 況 の 把 握 の た め に 調 査 し た 。 粒 径 分 布 は 、 微 細 化 傾 向 を 示 し 、 2μm 以 下
の 領 域 で 最 も 粒 数 が 多 く な っ た 。こ れ は 同 一 面 積 で は 、微 細 粒 ほ ど 粒 数 は 多 く
なることに依るものである。
Fig.4.1.19
Fig.4.1.20
Grain distribution of extruded rod in number
Grain distribution of extruded rod in number except Twin
149
双 晶 を 除 外 す る こ と に よ る 分 布 の 違 い を Fig.4.1.20 に 示 し た 。 3μm 以 下 の
領 域 で の 粒 数 が 低 下 し て お り 、こ の 範 囲 の 大 き さ の 双 晶 が 存 在 し て い た こ と が
分かる。
(2)結 晶 方 位
CREO 処 理 材 の 正 極 点 図 を Fig.4.1.21 に 示 し た 。入 手 材 で あ る 押 出 棒 材 で
は 、軸 方 向 に 熱 間 押 出 加 工 さ れ る こ と か ら 、(0001)面 が 押 出 方 向 に 平 行 に 並 ぶ
こ と を 3.2.3.3.1.に て 既 に 説 明 し た 。 CREO 処 理 の 捻 り ひ ず み が 付 与 さ れ る こ
と に よ っ て 、 (0001)面 が 傾 き を 生 じ る 事 に な る 。 今 回 の CREO 処 理 は 、 F 20
素 材 を ね じ り 回 転 数 15rpm、 送 り 横 移 動 速 度 300 mm/min で 行 っ た た め 、
20mm で 1 回 転 す る 事 に な る 。 こ れ は 外 周 の 展 開 長 を 考 え た 場 合 、
周 長 =20×π=約 62.8mm
( 1 回 転 の 距 離 )で あ り 、20mm で 1 回 転 し て 周 長
を 回 り き る こ と と な る 。 こ の た め 棒 材 の 軸 方 向 か ら の 傾 き は
tan-1(62.6/20)=72deg と な る 。
この角度がすなわち結晶方位のズレに一致すると考えられる。
Fig.4.1.21
Transformation of grain size by forging
ND か ら 見 た 反 転 極 点 図 に よ る 各 方 位 の 分 布 は 、 赤 色 が 濃 い 傾 向 、 す な わ ち
(0001) 面 が 観 察 面 に 平 行 に 多 く 観 察 さ れ る 傾 向 を 示 す (Fig.4.1.22) 。 こ れ は
CREO 処 理 に よ っ て 、素 材 段 階 で は 押 出 方 向 に 平 行 に 位 置 し て い た (0001)面 が 、
強い捻りひずみによって断面に近い並行状態に並んだ為に生じた結果である
と思われる。
微 細 粒 の 方 が ( 1010) 面 、 す な わ ち 六 角 柱 の 側 面 が 多 く 観 察 さ れ る 傾 向 を
150
示 し た 。こ れ は 正 極 点 図 に お い て も 観 察 さ れ た 傾 向 で あ る が 、局 所 的 に せ ん 断
ひ ず み が 付 与 さ れ て 結 晶 粒 が 微 細 化 さ れ た 際 に 、ひ ず み を 緩 和 す る た め に 分 断
された結晶粒の一部が回転を生じて方位が変化したものと考えられる。
Fig.4.1.22
Invers pole figure ( ND) of extruded rod
151
4.1.3.4.2
拡張押出部
(1)結 晶 粒 系 分 布
CREO 処 理 で 微 細 化 さ れ た も の の 粗 大 粒 が 残 存 し た 組 織 の 棒 材 を 、 200℃
間 隙 2.2mm で 拡 張 押 出 し て 板 状 に 成 形 し た 面 の Image Quality 像 を 観 察 す る
と 、 CREO 処 理 材 で 見 ら れ た 15μm 程 度 の 粗 大 粒 は 観 察 さ れ な く な っ た
( Fig.4.1.23)。 最 大 の 粒 で も 数 μm レ ベ ル で あ り 、 一 部 の 大 径 の 粒 を 除 い て 、
1∼ 3μm レ ベ ル の 微 細 均 一 組 織 と な っ て い た 。 ま た 結 晶 粒 の 形 状 は CREO 処
理材と比較して等軸と言うよりも球形に近い形状を示していた。
等 軸 の 組 織 お よ び 粗 大 粒 内 部 に ひ ず み 残 存 が 観 察 で き な い こ と か ら 、強 ひ ず
みが付与された後に再結晶に十分な熱が付与されたことが推定できる。
今 回 使 用 し た EBSP の 測 定 ピ ッ チ が 0.3μm で あ り 、 実 際 問 題 と し て も 分 解
能 限 界 近 傍 で も あ っ た こ と か ら 、更 に 微 細 な 結 晶 粒 が 存 在 し て い る 可 能 性 が 高
いと思われる。
粗 大 粒 が 消 失 し た 原 因 と し て は 、CREO 処 理 と は 異 な っ た 方 向 で 強 い ひ ず み
が加算される事で、粗大粒が微細化されたことが考えられる。粗大粒内には、
今 回 の 観 察 範 囲 外 で あ る 2deg 以 下 の 傾 角 の 粒 界 を 含 む 小 傾 角 の 粒 界 お よ び 転
位 な ど が 、異 な っ た 方 向 の 強 い ひ ず み 付 与 に よ っ て 結 晶 の 回 転 を 生 じ て 結 晶 傾
角が大きくなったものではないかと考える。
Fig.4.1.23
Transformation of grain size by forging
152
更 に 拡 張 押 出 時 お よ び 完 了 も 継 続 さ れ る 200℃ の 加 熱 に よ っ て 等 軸 ( 球 形 )
化が進行したのではないかと考える。
EBSP に よ る 結 晶 粒 界 の 判 定 角 度 を【 2∼ 5deg】
【 5∼ 15deg】
【 15∼ 180deg】
に 分 割 し て 、 粒 界 マ ッ プ を 測 定 し た ( Fig.4.1.24)
CREO 処 理 材 と は 大 き く 異 な り 、 15 ∼ 180deg の 大 傾 角 粒 界 が 面 積 率 で
83.4% を 占 め る 状 態 で あ っ た 。
( CREO 処 理 材:69.3% )更 に 小 傾 角 で あ る 、5
∼ 15deg は 9.6% ( CREO 処 理 材 : 11.2% )、 2∼ 5deg で は 7.0% ( CREO 処 理
材 : 19.5% ) と な り 、 特 に 2∼ 5deg の 小 径 各 粒 界 の 減 少 が 著 し か っ た 。 こ れ
は Image Quality 像 で の 外 観 観 察 で 等 軸 ( 球 形 ) の 粒 径 で あ っ た こ と の 原 因
と 同 じ く 、 ひ ず み 付 与 後 に 急 冷 処 理 を 行 う CREO 処 理 と は 異 な り 、 拡 張 押 出
で は 押 出 完 了 後 も 加 熱 状 態 が 継 続 さ れ る こ と か ら 、動 的 再 結 晶 に 静 的 再 結 晶 が
加算された状態ではないかと推定できる。
ま た CREO 処 理 と は 異 な っ た 方 向 で 強 い ひ ず み が 加 算 さ れ る 事 で 粗 大 粒 が
微 細 化 さ れ た こ と が 考 え ら れ る 。 CREO 処 理 材 で は 比 率 が 高 か っ た 2∼ 5deg
の 傾 角 を 有 す る 粒 界 は 、異 な っ た 方 向 の 強 い ひ ず み 付 与 に よ っ て 結 晶 の 回 転 を
生じて大傾角化されたものと思われる。
Fig.4.1.24
Grain map of extended area
153
Fig.4.1.25 お よ び Fig.4.1.26 に 結 晶 傾 角 5deg を し き い 値 と し た 粒 径 分 布 を
示 し た 。 双 晶 は 殆 ど 観 察 さ れ ず 、 双 晶 を 含 ん だ 場 合 と ,除 外 し た 場 合 の 結 晶 粒
径 分 布 を 面 積 率 で 比 較 し て も 分 布 に 差 は 見 ら れ な か っ た ( in Area で 評 価 )。
Fig.4.1.25
Fig.4.1.26
Grain distribution of extended area (area)
Grain distribution of extended area except for twin(area)
Fig.4.1.27 お よ び Fig.4.1.28 に 、 数 量 で 整 理 し た EBSP 粒 径 分 布 の デ ー タ
を 示 し た 。 粒 径 分 布 は 、 面 積 比 に 比 較 し て 微 細 化 傾 向 を 示 し 、 2μm 以 下 の 領
154
域 で 最 も 粒 数 が 多 く な っ た 。同 一 面 積 で は 、微 細 粒 ほ ど 粒 数 は 多 く な る こ と に
依 る も の で あ る 。双 晶 を 除 外 し て も 粒 径 分 布 は 変 化 せ ず 拡 張 押 出 後 に は 双 晶 が
消失していることが分かる
Fig.4.1.27
Grain distribution of extended area (Number)
Fig.4.1.28 Grain distribution of extended area except for twin (Number )
155
(2)結 晶 方 位
CREO 処 理 材 の 拡 張 押 出 後 の 拡 張 部 に つ い て 正 極 点 図 を Fig.4.1.29 に 示 し
た 。拡 張 押 出 に よ っ て 、半 径 方 向 に 狭 い 隙 間 か ら 大 き な ひ ず み で 直 行 方 向 に 押
し 出 さ れ た 事 か ら 、 押 し 出 さ れ た 平 面 に (0001)面 が 集 積 し た こ と が わ か っ た 。
CREO 処 理 の 影 響 が 残 っ て い る の か 、(0001)面 は ね じ れ た 方 向 に 引 き 延 ば さ れ
た 状 態 に な っ て い た 。(1010)面 の 集 積 は 非 常 に 弱 く 、低 温 で 押 し 出 し た こ と か
ら (0001)の す べ り が 支 配 的 に な っ た こ と が 原 因 と 考 え ら れ る 。
Fig.4.1.29
Pole figure of expansion area
ND か ら 見 た 反 転 極 点 図 (Fig.4.1.30)で は 赤 色 が 濃 い 傾 向 、 す な わ ち (0001)
面 が 観 察 面 に 平 行 に 多 く 観 察 さ れ る 傾 向 を 示 す 。こ れ は 拡 張 押 出 に よ っ て 、押
し 出 さ れ た 方 向 に 平 行 に (0001)面 が 集 積 し た こ と が 原 因 と 考 え ら れ る 。ま た 縞
--
状 に (2110)面 が 観 察 さ れ る が 、 こ れ は CREO 処 理 に よ っ て 生 じ た 異 方 性 が 拡
張押出後まで持ち込まれたものと考えられる。
Fig.4.1.30
Invers pole figure of expansion area ( ND)
156
4.1.3.4.3
CREO 処 理 材 の 拡 張 押 出 に よ る 結 晶 組 織 の 変 化
(1)Image Quality の 比 較
CREO 処 理 材 と 拡 張 押 出 材 の IQ 像 を Fig.4.1.31 に 示 し た 。CREO 処 理 材 で
存 在 し て い た 約 10μm の 粗 大 粒 が 消 失 し て 、均 一 な 微 細 組 織 に な っ て い る こ と
が分かった。また拡張押出後は、等軸で十分に再結晶した組織になっていた。
粗 大 粒 が 消 失 し た 原 因 と し て は 、CREO 処 理 と は 異 な っ た 方 向 で 強 い ひ ず み が
加 算 さ れ る 事 で 、粗 大 粒 が 微 細 化 さ れ た と 考 え ら れ る 。粗 大 粒 内 に は 、今 回 の
観 察 範 囲 外 で あ る 2deg 以 下 の 傾 角 の 粒 界 を 含 む 小 傾 角 の 粒 界 お よ び 転 位 な ど
が 、異 な っ た 方 向 の 強 い ひ ず み 付 与 に よ っ て 結 晶 の 回 転 を 生 じ て 結 晶 傾 角 が 大
き く な っ た も の で は な い か と 考 え る 。更 に 拡 張 押 出 時 お よ び 完 了 も 継 続 さ れ る
200℃ の 加 熱 に よ っ て 等 軸 ( 球 形 ) 化 が 進 行 し た の で は な い か と 考 え る 。
こ の よ う に CREO 処 理 に よ っ て 加 工 可 能 な 温 度 を 下 げ る こ と に よ っ て 、 結
晶 粒 の 粗 大 化 を 抑 え つ つ 、CREO 処 理 と は 異 な っ た 方 向 の 大 き な せ ん 断 ひ ず み
を 付 与 す る 事 で 、微 細 等 軸 な 結 晶 組 織 を 得 る こ と が 可 能 と な っ た 。こ れ に よ り
強度と延性を両立することが期待できる。
(a) As CREO
(b)As Extended
Fig.4.1.31 Image Quality of CREO treated AZ61 and expansion area
157
(2)粒 界 マ ッ プ の 比 較
粒 界 マ ッ プ 比 較 を Fig.4.1.32 に 示 し た 。
CREO 処 理 材 で は 15deg 以 上 の 大 傾 角 粒 界 が 多 い も の の 、 15deg 以 下 の
小 傾 角 粒 界 も 多 く 観 察 さ れ た 。 特 に 特 に 2∼ 5deg の 傾 角 を 有 す る 粒 界 が 、 粗
大 な 結 晶 粒 内 に 観 察 さ れ た 。IQ 像 で は 、2deg 以 下 の 更 に 小 傾 角 と 思 わ れ る パ
ターンが粗大結晶粒内に観察されることから粗大粒の中にも亜粒界もしくは
す べ り 線 の よ う な 線 状 組 織 が 観 察 さ れ 、CREO 処 理 に よ る ひ ず み が 、加 熱 捻 り
の 後 の 急 冷 に よ っ て 、完 全 に ひ ず み が 消 失 す る ま で の 加 熱 保 持 時 間 で は な い 事
が推定できる。
こ の CREO 処 理 材 を 拡 張 押 出 す る こ と で 、 小 傾 角 粒 界 が 大 幅 に 減 少 し 大 傾
角 粒 界 が 80% 以 上 を 占 め る 状 態 と な っ た 。( Table 4.1.3)
Table 4.1.3
Portion of each Grain boundary angle
Grain boundary angle
As CREO
CREO+Expansion
15∼ 180deg
69.3%
83.4%
5∼ 15deg
11.2%
9.6%
2∼ 5deg
19.5%
7.0%
(a)
As CREO
Fig.4.1.32
158
Grain map
(b)As Extended
CREO 処 理 材 で は ひ ず み 付 与 後 に 急 冷 処 理 を 行 う こ と に 比 較 し て 、拡 張 押 出
で は 押 出 完 了 後 も 加 熱 状 態 が 継 続 さ れ る こ と か ら 、動 的 再 結 晶 に 静 的 再 結 晶 が
加算された状態ではないかと推定できる。
ま た CREO 処 理 と は 異 な っ た 方 向 で 強 い ひ ず み が 加 算 さ れ る 事 で 粗 大 粒 が
微 細 化 さ れ た こ と が 考 え ら れ る 。 CREO 処 理 材 で は 比 率 が 高 か っ た 2∼ 5deg
の 傾 角 を 有 す る 粒 界 は 、異 な っ た 方 向 の 強 い ひ ず み 付 与 に よ っ て 結 晶 の 回 転 を
生じて大傾角化されたものと思われる。
159
(3)結 晶 粒 系 分 布 の 比 較
結 晶 粒 系 分 布 を 、Fig.4.1.33 は 、CREO 処 理 材 で は 最 大 16μm レ ベ ル ま で に
分 布 し て い た 結 晶 粒 径 が 、 拡 張 押 出 に よ っ て 粗 大 粒 は 消 失 し 最 大 粒 で も 7μm
ま で 小 さ く な っ た 。 測 定 ピ ッ チ が 0.3μm で あ る こ と か ら 、 最 小 粒 径 0.45μm
に つ い て は 、更 に 小 径 の 粒 界 が 存 在 す る 可 能 性 が 残 っ て い る が 、1∼ 3μm に 集
中した微細均質な結晶粒系分布を示すことができた。
(a)
As CREO
Fig.4.1.33
(b)As Extended
Grain map without twin
Fig.4.1.34 Transformation of grain size distribution
160
(4)結 晶 方 位 の 比 較
CREO 処 理 の 捻 り ひ ず み が 付 与 さ れ る こ と に よ っ て 、 (0001)面 が 傾 き を 生 じ
る事になる。この角度がすなわち結晶方位のズレに一致すると考えられる。
ま た 極 点 図( Fig.4.1.35)で は CREO 処 理 に よ っ て 、素 材 段 階 で は 押 出 方 向 に
平 行 に 位 置 し て い た (0001)面 が 、強 い 捻 り ひ ず み に よ っ て 断 面 に 近 い 並 行 状 態
に並んだ為に生じた結果であると思われる。
(a)
As CREO
(b) As Extended
Fig.4.1.35 Transformation of pole figure
拡 張 押 出 に よ っ て 、半 径 方 向 に 狭 い 隙 間 か ら 大 き な ひ ず み で 直 行 方 向 に 押 し
出 さ れ た 事 か ら 、押 し 出 さ れ た 平 面 に (0001)面 が 集 合 し 、CREO 処 理 の 影 響 と
思 わ れ る (0001)面 は ね じ れ た 方 向 に 引 き 延 ば さ れ た 状 態 に な っ て い た 。
Fig.4.1.36 に 示 し た ND か ら 見 た 反 転 極 点 図 で は 赤 色 が 濃 い 傾 向 、す な わ ち
161
--
(0001)面 が 観 察 面 に 平 行 に 多 く 観 察 さ れ る 傾 向 を 示 す 。こ れ は 拡 張 押 出 に よ っ
て 、 押 し 出 さ れ た 方 向 に 垂 直 に (0001)面 が 集 積 し た こ と が 原 因 と 考 え ら れ る 。
-ま た 縞 状 に (2110)面
が 観 察 さ れ る が 、 こ れ は CREO 処 理 に よ っ て 生 じ た 異 方
性 が 拡 張 押 出 後 ま で 持 ち 込 ま れ た も の と 考 え ら れ る 。 こ の CREO 処 理 の 影 響
残 留 と 思 わ れ る 組 織 に つ い て は 、拡 張 押 出 条 件 で あ る 押 出 温 度 お よ び 押 出 比 に
よ っ て 増 減 す る こ と が 予 想 さ れ る が 、条 件 を 変 化 さ せ て も 傾 向 は 類 似 す る こ と
が予想される。
(a) As CREO
(b) As Extended
Fig.4.1.36 Transformation of grain size distribution in area ND
162
15∼ 180deg
4.1.3.4
CREO 処 理 材 拡 張 押 出 の 硬 度 変 化
押 出 前 後 で ,素 材 部 分 の 半 径 方 向 硬 度 分 布 と 拡 張 押 出 成 形 さ れ た 平 板( 円 盤 )
部 の 硬 度 分 布 を 比 較 し た 。 こ の 結 果 を Fig.4.1.37 に 示 し た 。 CREO 処 理 し た
素 材 に つ い て 、 図 中 の A1∼ A3 に 示 し た 棒 素 材 領 域 の 硬 度 は 約 Hv=76 程 度 で
あ っ た の に 対 し て 、押 出 が 開 始 さ れ た B1∼ B3 に お い て 硬 度 上 昇 が 開 始 さ れ る 。
B 列 の 中 で も 押 出 か ら 最 も 遠 い 棒 材 中 心 部 と な る B1 の 硬 度 上 昇 は 相 対 的 に 小
さくなった。板形状に向けての大きな塑性流動が発生する C 列および D 列で
は 硬 度 が 約 HV=88 程 度 ま で 上 昇 し た 。こ の 上 昇 し た 硬 度 は 、拡 張 押 出 さ れ た
板 形 状 部 に 維 持 さ れ た 。 板 形 状 部 の 硬 度 は Hv=90 程 度 と な り 、 CREO 処 理 素
材 に 対 し て Hv で 約 14 の 上 昇 と な り 、 CREO 処 理 に よ る 硬 度 上 昇 と 、 温 度 を
200 ℃ に 低 く 設 定 し た 拡 張 押 出 に よ る せ ん 断 ひ ず み 追 加 付 与 に よ っ て 大 幅 な
硬 度 上 昇 が 得 ら れ る 事 が 分 か っ た 。 こ の 結 果 は 、 4.1.3.3.3 で 述 べ た CREO 処
理 材 の 拡 張 押 出 に よ る 結 晶 組 織 と 非 常 に よ い 一 致 を 示 す も の で あ り 、CREO 処
理 と 恒 温 鍛 造 の 組 合 せ に よ っ て 結 晶 組 織 の 結 晶 粒 微 細 化 が 促 進 さ れ 、更 な る 硬
度上昇が得られる事がわかった。
Fig.4.1.37
Hardness distribution of crosss section
163
4.1.4
結
言
RMA-CREO 処 理 と 拡 張 押 出 成 形 の 組 み 合 わ せ に よ っ て 、成 形 性 お よ び 結 晶
組織変化と硬度変化について調べ、以下の結論を得た。
1)マ グ ネ シ ウ ム 合 金 AZ61 に つ い て 、CREO 処 理 に よ っ て 200℃ の 低 温 条 件
で、円盤状の板材成形を行う拡張押出成形が可能となった。
2)CREO 処 理 の 有 無 に よ っ て 成 形 性 に 大 き な 差 が 見 ら れ 、特 に 235℃ 以 下 の
低 温 度 条 件 で は 、CREO 処 理 未 実 施 の 押 出 素 材 に お い て 、脆 性 的 な 破 断 を
生じた。
3)CREO 処 理 材 に お い て は 、 マ グ ネ シ ウ ム 合 金 鍛 造 温 度 と し て は 、 低 温 で
あ る 200℃ に お い て 良 好 な 成 形 性 を 示 し た 。
4)拡 張 押 出 の 押 出 コ ー ナ 部 で 生 じ る 大 き な せ ん 断 変 形 に よ っ て 、更 な る 結 晶
粒微細化が得られる事が分かった。
5)結 晶 組 織 観 察 か ら 、 CREO 処 理 材 で 残 留 し て い た 粗 大 粒 が 、 拡 張 押 出 に
よって微細化して、均質微細結晶組織を得ることができた。
6)CREO 処 理 で は 、付 与 さ れ た ね じ り 変 形 に よ っ て 斜 め 方 向 の 集 合 組 織 を 示
し た が 、拡 張 押 出 に よ っ て 板 状 部 の 平 面 に 対 し て (0001)面 が 平 行 し て 並 ぶ
集合組織に変化した。
7)CREO 処 理 で 上 昇 し た 硬 度 は 、拡 張 押 出 に よ っ て 更 に 硬 度 上 昇 し 、CREO
処 理 材 に 対 し て Hv で 約 14 の 上 昇 を 示 し た 。
8)CREO 処 理 と 恒 温 鍛 造 の 組 合 せ に よ っ て 結 晶 組 織 の 結 晶 粒 微 細 化 が 促 進
され、拡張押出による硬度上昇をもたらしたものと考えられる。
9)拡 張 押 出 成 形 法 を 使 用 す る 大 変 形 付 与 条 件 に お い て 、 高 延 性 の 結 晶 粒
微細化材の延性評価について可能性を得る事が出来た。
164
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Application to Plastic Forming“
ICCES’07 (2007) p1947-1951
166
4.2 マ グ ネ シ ウ ム の 角 筒 押 出
4.2.1
緒
言
素 材 か ら 塑 性 加 工 を 通 し て 一 貫 し た 結 晶 制 御 を 目 指 し た 。す な わ ち CREO を
用 い て 結 晶 粒 を 微 細 化 し た マ グ ネ シ ウ ム 合 金 を 、従 来 に 比 較 し て 低 い 温 度 域 に
て 大 変 形 を 与 え る 事 に よ り 、結 晶 粒 の 粗 大 化 を 抑 制 す る の み な ら ず 更 な る 結 晶
粒微細化を進め、機械的特性の更なる向上を期待できる。
ま た 連 続 性 が 高 い CREO 処 理 法 で あ る が 、回 転 に よ る 捻 り 変 形 付 与 を 基 本 と
し て い る た め に 、板 状 化 す る こ と が 困 難 で あ っ た 。そ こ で 4.2 で 報 告 し た 拡 張
押出加工法
1)∼ 2)を 発 展 さ せ る こ と で 、 通 常 は 板 材 プ レ ス 成 形 を 適 用 す る よ う
な板形状部品への適用することを考案した。
本 研 究 で は 、CREO に よ り 結 晶 粒 微 細 化 し て 成 形 温 度 を 低 温 化 し た マ グ ネ シ
ウ ム 合 金 を 用 い て 、恒 温 状 態 に お け る 角 筒 形 状 の 押 出 成 形 の 可 能 性 に つ い て 調
査 し た 。 3)∼ 6)
一方で、成形温度・成形速度などを制御して、素材から塑性加工完了までを
通 し た 結 晶 制 御 に よ り 、CREO 処 理 で 得 ら れ た 微 細 化 組 織 を 製 品 ま で の 維 持 す
る 可 能 性 に つ い て 検 証 し た 。 ま た CREO 処 理 に と っ て 導 入 さ れ た 微 細 化 組 織
お よ び 転 位 な ど を 、 CREO 処 理 と は 異 な っ た 方 向 に 押 出 成 形 す る こ と で 、
CREO 処 理 後 を 超 え る 結 晶 粒 微 細 化 お よ び 機 械 的 特 性 の 向 上 を は か る こ と を
試みた。
角 筒 形 状 の 成 形 に お い て は 、パ ン チ を 素 材 に 押 し 込 ん で 成 形 す る 後 方 押 出 が
一 般 的 で あ る が 、素 材 に 付 与 さ れ る ひ ず み 履 歴 が パ ン チ の 押 し 込 み 位 置 で 異 な
り 、均 一 な 塑 性 ひ ず み 付 与 が 難 し い 。こ の た め 本 研 究 で は 、上 下 の ダ イ ス に よ
り 角 筒 形 状 の 間 隙 を 形 成 す る 。素 材 を 押 出 パ ン チ に よ り 加 圧 し て 、形 成 さ れ た
間隙から素材を押出成形する事により角筒形状を得る前方押出成形を採用し
た 。 (Fig.4.2.1)
本成形法によって、棒材からの中空部材の成形が可能となるばかりでなく、
2 回 に わ た る 大 き な せ ん 断 ひ ず み の 付 与 に よ っ て 、CREO 処 理 で 残 留 し た 粗 大
粒 及 び 、棒 材 中 心 部 に 残 留 し た 未 微 細 化 領 域 の 、鍛 造 加 工 に よ る 微 細 均 質 化 の
可能性について検証した。
167
Fig.4.2.1 Schematic illustration of isothermal square tube shaped forging process
168
4.2.2
実験方法
4.2.2.1
供試材
供 試 材 と し て 構 造 用 マ グ ネ シ ウ ム 合 金 と し て 普 及 し て い る JIS-AZ61F30
mm 押 出 材 と し た 。 基 本 成 分 を Table.4.2.1 に 示 し た 。
Table 4.2.1
Chemical composition of AZ61
(mass%).
4.2.2.2.
Al
Zn
Mn
Cu
Si
Mg
6.05
0.76
0.24
0.001
0.01
Bal.
結晶粒微細化処理
(1)処 理 設 備
CREO 処 理 は 、 Fig.2.1.18 お よ び Fig.2.1.19 で 示 し た 【 RN-1】 設 備 に て 実
施した。
(2)CREO 処 理 条 件
本 研 究 で は F30、 長 さ 2000mm の AZ61 素 材 を 用 い て 、 Tble4.2.2 に 示 し た
条 件 に て CREO 処 理 を 行 っ た 。
Table 4.2.2 Condition of CREO
4.2.2.3
Material
JIS-AZ61
Size of rod
F30×2,000mm
Temperature of CREO
350℃
Transfer speed
300mm/min
Rotation speed
8,10,12rpm
熱安定性試験
CREO 処 理 し た 棒 材 を 大 気 炉 に て 再 加 熱 し て 、熱 安 定 性 を 確 認 し た 。評 価 は
光学顕微鏡による組織観察とビッカース硬度計による硬度分布測定により実
施 し た 。 熱 安 定 性 加 熱 条 件 を Table 4.2.3 に 示 し た 。
169
Table 4.2.3
4.2.2.4
Heating test condition
No
Temperature
Keeping time
Cooling
1
200℃
0.5Hr
FC
2
200℃
2.0Hr
FC
3
250℃
0.5Hr
FC
4
250℃
2.0Hr
FC
5
300℃
0.5Hr
FC
6
300℃
2.0Hr
FC
7
400℃
0.5Hr
FC
8
400℃
2.0Hr
FC
角筒押出
(1)試 験 片
恒 温 角 筒 押 出 成 形 に 用 い る 素 材 は 、 CREO 処 理 を 施 し た AZ61 棒 材 を
F 29.0×60mm に 切 削 加 工 し て 作 製 し た 。
素 材 に は 黒 鉛 系 固 体 潤 滑 剤 を 塗 布 し て 乾 燥 付 着 さ せ る こ と に よ っ て 、金 型 に
塗布する潤滑剤との相乗効果により、潤滑を円滑に行うこととした。
(2)金 型 構 造
金 型 の 基 本 構 造 を Fig.4.2.2 に 、 金 型 図 面 を Fig.4.2.3 に 示 す 。 素 材 が 押 し
出 さ れ る 下 型 に は 一 辺 40mm の 角 形 状 を 彫 り 込 み 、 上 型 は 一 辺 36mm の 外 寸
を 設 定 す る 事 で 、隙 間 2mm を 全 周 に 渡 っ て 形 成 し た 。パ ン チ に ラ ン ド( ベ ア
リ ン グ )を 設 け る こ と に よ っ て 、素 材 と 金 型 の 接 す る 部 位 は 、押 出 の 円 筒 内 お
よ び 角 筒 を 形 成 す る 高 さ 5mm の 区 間 の み と し て 、成 形 完 了 し た 部 位 は 金 型 か
ら離れることによって金型摩耗を低減する構造とした。
恒 温 鍛 造 を 実 現 す る た め に は 金 型 加 熱 が 必 要 で あ る 。金 型 加 熱 に は 、金 型 内
部 に 発 熱 体 を 組 み 込 ん だ 構 造 が 使 用 さ れ る 場 合 が 多 い が 、多 様 な 形 状 お よ び 構
造 の 金 型 で 成 形 試 験 を 行 う た め に 、ダ イ セ ッ ト 部 分 に 加 熱 ヒ ー タ を 組 み 込 ん だ
加 熱 ダ イ セ ッ ト を 製 作 し た 。こ の 構 造 に よ っ て 、金 型 交 換 が 容 易 に 行 え る こ と
となった。
170
金 型 の 温 度 管 理 は 、金 型 内 に 設 置 し た 熱 電 対 に よ り 、型 加 熱 ダ イ セ ッ ト の 制
御 装 置 に フ ィ ー ド バ ッ ク し て 行 っ た 。更 に 、金 型 表 面 か ら の 放 熱 に よ る 素 材 と
の 接 触 表 面 の 温 度 低 下 を 補 正 す る た め に 、金 型 表 面 温 度 を 表 面 接 触 式 の 温 度 計
で測定して、金型加熱ダイセットの設定温度を調整した。
金型材質として、ダイスおよびパンチの双方共に日立金属製のハイス鋼
YKR3( HRc=62∼ 64) を 使 用 し た 。 素 材 と 接 触 す る 面 に つ い て は ラ ッ プ 仕 上
げとして焼き付きおよびカジリを低減した。
Fig.4.2.2
Schematic illustration of dies
Fig.4.2.3
Principal dimension of die
171
4.2.2.5
使用プレス
角 筒 押 出 成 形 に 使 用 し た プ レ ス は 、上 下 の 同 軸 上 に 4 本 の 油 圧 4 シ リ ン ダ ー
を有するもので、全てのシリンダーについてサーボ制御がかけられており圧
力 ・ 位 置 ・ 速 度 の 制 御 が 可 能 で あ る ( Fig.4.2.4)。
4 本 シ リ ン ダ ー の 基 本 性 能 は Table4.2.3 に 示 し た 通 り で あ り 、 各 シ リ ン ダ
ー は 他 の シ リ ン ダ ー 操 作 の 影 響 を 受 け な い よ う に 、個 々 に 独 立 し た 油 圧 回 路 を
有 し て い る シ ス テ ム と な っ て い る 。ま た 全 て の シ リ ン ダ ー に つ い て 、圧 力 お よ
び 位 置 が 測 定 可 能 と な っ て い る 。 サ ン プ リ ン グ タ イ ム は 0.1sec 単 位 と な っ て
いる。
本 研 究 の 角 筒 成 形 で は メ イ ン シ リ ン ダ ー お よ び 4th シ リ ン ダ ー を 使 用 し た 。
メ イ ン シ リ ン ダ ー に よ り 上 部 ボ ル ス タ ー( 金 型 加 熱 ダ イ セ ッ ト )に 取 り 付 け た
パ ン チ を 下 降 さ せ て 、下 方 の 金 型 加 熱 ダ イ セ ッ ト に 設 置 し た 角 筒 ダ イ ス で 間 隙
を 形 成 し た 。 素 材 は 、 4th シ リ ン ダ ー に て 上 方 に 向 か っ て 押 出 成 形 す る こ と に
よ っ て 、 2mm に 設 定 し た 角 形 状 の 間 隙 か ら 、 材 料 が 押 し 出 さ れ て 角 筒 形 状 を
得ることが可能となる。
成 形 完 了 す る と 、 上 パ ン チ が 上 昇 し て 、下 型 に 残 っ た 成 形 品 を 3 r d シ リ ン ダ
ーで取り出す構造となっている。
Fig.4.2.4
Photograph of hydraulic press with 4 cylinder
172
Table4.2.4
Cylinder
4.2.2.6
Principal capacities of hydraulic press
Maximum
Maximum
Maximum
power
speed
stroke
Main
2500kN
140mm/sec
800mm
Cushion
1250kN
145mm/sec
300mm
3rd
1250kN
150mm/sec
500mm
4th
700kN
155mm/sec
500mm
角筒押出条件
試 料・金 型 共 に 180℃ 及 び 200℃ に 加 熱 し た 恒 温 条 件 下 で 成 形 を 行 っ た 。押
出 速 度 は 、 4 t h シ リ ン ダ ー に て 、 高 速 側 【 約 17.5mm/sec 】 お よ び 低 速 側
【 0.07mm/sec】 に 設 定 し た 。 な お 低 速 側 は プ レ ス の 制 御 範 囲 以 下 の 低 速 を 用
い る た め 、シ リ ン ダ ー の 発 生 圧 力 を 制 御 す る こ と に よ っ て 、押 出 荷 重 と バ ラ ン
スを取ることによって条件を設定した。
す な わ ち 押 出 成 形 に 必 要 な 荷 重 に 対 し て 、押 出 シ リ ン ダ ー の リ リ ー フ 圧 を 近
接 さ せ て 設 定 す る こ と で 、押 出 シ リ ン ダ ー が 僅 か に 大 き い 荷 重 を 発 生 さ せ る こ
と に よ り 非 常 に 遅 い 成 形 速 度 を 実 現 し た 。条 件 を 選 定 す る た め に 、条 件 を 変 え
て成形試作を行い、目標の成形速度を得た。
角 筒 押 出 成 形 条 件 を Table 4.2.5 に 示 す 。 成 形 温 度 は 、 結 晶 粒 微 細 化 し て 発
現 し た 低 温 延 性 の 下 限 値 で あ る 180℃ お よ び 更 に 高 い 200℃ を 選 定 し た 。
成 形 速 度 と し て は プ レ ス の 最 低 速 度 で あ る 約 17mm/sec と シ リ ン ダ ー の 荷
重バランスで得られたスムースなシリンダーの動きを示す最低速度である約
0.07mm/sec を 選 定 し た 。
金型への潤滑は油性黒鉛を使用し、毎回の成形前に塗布した。
Table 4.2.5
Condition of isothermal square tube shaped forging
No
Forging temperature
Extrusion speed
1
200℃ (473K)
17.70mm/sec
2
200℃ (473K)
0.07mm/sec
3
180℃ (453K)
17.30mm/sec
4
180℃ (453K)
0.07mm/sec
173
4.2.2.7
(1)
解析方法
光学顕微鏡組織
4.1.2.5 と 同 じ 手 法 に よ り 光 学 顕 微 鏡 組 織 を 撮 影 し た 。
(2)EBSP 測 定 試 料 作 製
4.1.2.5 と 同 じ 手 法 に よ り EBSP 用 測 定 試 料 を 作 製 し 観 察 し た 。 観 察 位 置 は
Fig.4.2.5 に 示 し た 。
(a) CREO rod sample
(b) Forged sample
Fig.4.2.5
Positions of EBSP measurement
(3)引 張 試 験
引 張 試 験 片 は 、 Fig.4.2.6 に 示 し た よ う に 標 点 間 距 離 8mm、 標 点 幅 4m m 、
厚 み 1mm と し 、 島 津 製 作 所 製 万 能 試 験 機 AGSG 型 を 用 い て 、 試 験 速 度
500mm/min に て 実 施 し た 。
棒 材 か ら の 試 験 片 は Fig.4.2.7 に 示 し た よ う に 、 棒 の 中 心 か ら 半 径 方 向 に
10mm の 位 置 か ら 板 状 に 切 り 出 し た 後 に 引 張 試 験 片 形 状 に 加 工 し た 。引 張 試 験
片 の 切 り 出 し 方 向 は 、 棒 材 の 長 手 ( 軸 ) 方 向 に 対 し て 、 0deg、 45deg、 90deg
の 3 方向とした。
角 筒 成 形 サ ン プ ル か ら は 、 4 辺 の 板 状 部 分 か ら 押 出 方 向 に 対 し て 、 0deg、
45deg、90deg の 3 方 向 に つ い て 、短 冊 状 に 切 り 出 し て 引 張 試 験 片 を 加 工 し た 。
174
Fig.4.2.6 Dimension of tensile test piece
Fig.4.2.7 Cutting out positions
from CREO rod sample and forged sample
175
4.2.3
実験結果および考察
4.2.3.1
1)素
CREO 処 理 に よ る 結 晶 組 織 変 化
材
AZ61 マ グ ネ シ ウ ム 合 金 素 材 の 結 晶 粒 を SEM-EBSP に て 観 察 し た 結 果 、
Fig.4.2.8 に 示 し た よ う に 十 分 に 焼 鈍 さ れ た 等 軸 の 再 結 晶 組 織 を 示 し た 。 約
30μm の 粗 大 粒 と 5∼ 10μm の 比 較 的 小 径 の 結 晶 粒 が 混 在 し た 組 織 を 示 し た 。
粒内には、双晶およびひずみの残留などは観察されなかった。
Fig.4.2.8
Image quality of raw material rod
結 晶 方 位 は 、 ほ ぼ (0001) 面 が 棒 材 の 長 手 方 向 に 並 ん だ 組 織 と な っ た
(Fig.4.2.9)。こ れ は 棒 材 製 造 工 程 で あ る 熱 間 押 出 に お い て 、容 易 す べ り 面 で あ
る (0001)が 押 出 方 向 に 並 行 に 並 ん だ こ と 原 因 と 考 え ら れ る 。
Fig.4.2.9
Pole figure of raw material rod
176
結 晶 方 位 分 布 マ ッ プ を Fig.4.2.10 に 示 し た 。 (0001)面 が 集 積 し て お り 、 部
- 分 的 に (1010) (2110)面 が 観 察 さ れ た 。 観 察 領 域 の 範 囲 で は 、 (0001)面 近 傍 の
面 を 持 つ 結 晶 粒 は 粗 大 化 傾 向 を 示 し 、他 の 面 は 相 対 的 に 小 径 と な っ た 。こ れ は
(0001)面 が 主 と し て 形 成 さ れ 、他 の 面 が 補 完 的 な 位 置 づ け と な っ て い る の で は
ないかと考えられる。
Fig.4.2.10 Orientation distribution map of raw material
Fig.4.2.11 Grain boundary map of raw material
177
結 晶 傾 角 は Fig.4.2.11 に 示 す よ う に 大 傾 角 粒 界 が 大 半 を 占 め て お り 、15deg
以 上 の 傾 角 を 有 す る 粒 界 が 86.5% を 占 め た 。 2∼ 5deg は 粒 内 の 一 部 に 観 察 さ
れ る が 、研 磨 剤 の 残 留 部 も し く は 粒 内 析 出 部 が 起 点 で あ り 結 晶 粒 界 と は 考 え ら
れない。
5∼ 15deg の 粒 界 が 11.8% の 比 率 で 観 察 さ れ る が 、こ れ は 結 晶 粒 の 整 合 性 を
得るために生じた補完的な意味合いで出てきたものと考えられる。
基 本 的 に 粗 大 粒 で あ り 、観 察 視 野 内 の 結 晶 粒 数 が 少 な い こ と か ら 精 度 が 充 分
と は い え な い が 、 結 晶 傾 角 5deg 以 上 に お け る 結 晶 粒 度 分 布 を Fig4.2.12 に 示
し た 。 10μm レ ベ ル の 小 径 と 、 18μm お よ び 25μm 以 上 の グ ル ー プ に 分 か れ る
傾向が見られた。
Fig.4.2.12 Orientation distribution map and grain size distribution
of raw material 5degree
178
(2)CREO 処 理 後 の 結 晶 組 織
① Image Quality 観 察 結 果
押 出 を 行 う 棒 材 部 、 す な わ ち CREO 処 理 部 分 は 、 約 10μm の 粗 大 粒 が 散 在
す る が 、 大 半 は 3μm 以 下 の 微 細 粒 で あ っ た 。( Fig.4.2.13)
微細粒に関して
は 、 今 回 使 用 し た EBSP の 分 析 精 度 越 え て 分 解 で き て い な か っ た 。 こ の た め
非常に微細な結晶粒もしくは転位などが残留している可能性が高い状況であ
っ た 。 こ の 黒 く EBSP で 分 解 で き て い な い 微 細 結 晶 粒 も し く は 転 位 が 集 合 し
ていると推定される領域がバンド状に観察された。
粗 大 粒 の 内 部 に は 筋 状 の ひ ず み 残 留 が 観 察 さ れ た 。次 工 程 で あ る 鍛 造 に お け
る 温 度・加 工 度・加 工 方 向・加 工 速 度 等 を 制 御 す る こ と に よ っ て 、粗 大 粒 を 微
細化することが期待できる。
Fig.4.2.13 Image quality of CREO treated material
179
CREO 処 理 材 の 正 極 点 図 を Fig.4.2.14 に 示 し た 。 入 手 材 で あ る 押 出 棒 材 で
は 、軸 方 向 に 熱 間 押 出 加 工 さ れ る こ と か ら 、(0001)面 が 押 出 方 向 に 垂 直 に 並 ぶ
こ と を Fig.4.2.9
に 示 し た 。 CREO 処 理 の 捻 り ひ ず み が 付 与 さ れ る こ と に よ
っ て 、 (0001)面 が 傾 き を 生 じ る 事 に な る 。 今 回 の CREO 処 理 は 、 F30 素 材 を
ね じ り 回 転 数 8rpm、送 り 横 移 動 速 度 300 mm/min で 行 っ た た め 、37.5mm の
移動距離で 1 回転する事になる。これは外周の展開長を考えた場合、周長
=30×π ≒ 94.2mm ( 1 回 転 の 距 離 ) で あ り 、 棒 材 の 軸 方 向 か ら の 傾 き は
tan-1(94.2/37.5)=68.3deg と な る 。 こ れ は 拡 張 押 出 で 使 用 し た CREO 素 材 の
72deg と 類 似 し た 角 度 と な っ て い た 。
この捻りによって付与された角度がすなわち結晶方位のズレに一致すると
考えられる。
Fig.4.2.14 Pole figure of CREO treated material
Fig.4.2.15 Orientation distribution map
of CREO treated material
180
Fig.4.2.15 に 示 す よ う に ND か ら 見 た 結 晶 方 位 マ ッ プ で は 、各 方 位 が ラ ン ダ
ム に 分 布 す る 傾 向 を 示 し た 。同 一 方 向 を 示 す 粒 が バ ン ド 状 に 並 ぶ 傾 向 を 示 し て
お り 、CREO 処 理 に よ る せ ん 断 ひ ず み が バ ン ド 状 に 付 与 さ れ た 結 果 で あ る と 考
えられる。
EBSP に よ る 結 晶 粒 界 の 判 定 角 度 を【 2∼ 5deg】
【 5∼ 15deg】
【 15∼ 180deg】
に 分 割 し て 、粒 界 マ ッ プ を 測 定 し た 。
( Fig.4.2.16)15deg 以 上 の 大 傾 角 粒 界 が
約 72.9% と 大 半 を 占 め て い る が 、 5∼ 15deg の 範 囲 も 13.2%を 占 め 、 2∼ 5deg
も 約 13.9% と 多 く 観 察 さ れ た 。
素材の組織が残留していると思われる粗大粒の中に小傾角の線が観察され
る 。 こ れ は CREO 処 理 に よ り 付 与 さ れ た ひ ず み が 粗 大 粒 内 に 入 り 始 め て い る
も の の 、粒 を 微 細 化 す る ほ ど の ひ ず み 量 が 付 与 さ れ な か っ た た め 、2∼ 5deg の
傾角を有する粒界が、粗大な結晶粒内に観察されたものと思われる。
IQ 像 で は 、2deg 以 下 の 更 に 小 傾 角 と 思 わ れ る パ タ ー ン が 粗 大 結 晶 粒 内 に 観
察されることから粗大粒の中にも亜粒界もしくはすべり線のような線状組織
が 観 察 さ れ 、CREO 処 理 に よ る ひ ず み が 、加 熱 捻 り の 後 の 急 冷 に よ っ て 、完 全
にひずみが消失するのには不十分な加熱保持時間である事が推定できる。
Fig.4.2.16 Grain boundary map of CREO-treated material
181
Fig.4.2.17 に 、結 晶 傾 角 5deg を し き い 値 と し た 粒 径 分 布 を 、Fig.4.2.18
に
2deg し き い 値 の 粒 径 分 布 を 示 し た 。 両 者 の 比 較 で 、 5→2deg で 分 布 変 化 を 見
る と 、1∼ 2μm の 小 径 の 粒 が 増 加 し て い る こ と が 分 か る 。ま た 15μm レ ベ ル の
粗 大 粒 が 2deg で は 小 径 化 し て い る こ と が 分 か る 。 す な わ ち 粗 大 粒 の 一 部 が 1
∼ 2μm に 2∼ 5deg の 傾 角 の 結 晶 で 分 割 さ れ て い る こ と が 分 か っ た 。
Fig.4.2.17 Distribution of grain with boundary angle less than5deg of
CREO treated material 5deg
Fig.4.2.18 Distribution of grain with boundary angle less than5deg of
CREO treated material 2deg
182
4.2.3.2
熱安定性試験結果
CREO 処 理 し た AZ61 マ グ ネ シ ウ ム 合 金 を 大 気 炉 に て 再 加 熱 し 、結 晶 組 織 変
化 を 調 べ た 。 Fig4.2.19 に 示 し た よ う に 、 200℃ の 再 加 熱 ま で は 変 化 は 見 ら れ
ず 、 250℃ で は 再 結 晶 と 軽 微 な 粗 大 化 傾 向 を 示 し た 。 300℃ 以 上 で は 顕 著 に 粗
大 化 し 、 特 に 長 時 間 側 で は 50μm 以 上 の 粗 大 粒 に な る こ と が わ か っ た 。
Fig 4.2.19
Microstructure after annealing
183
再 加 熱 後 の 硬 度 分 布 を 測 定 し た 結 果 を Fig.4.2.20 に 示 し た 。 250℃ ×2Hr か
ら 硬 度 低 下 が 観 察 さ れ 、 300℃ 以 上 で 大 幅 な 硬 度 低 下 を 示 し た 。 表 面 の 硬 度 低
下 が 顕 著 で あ っ た が 、こ れ は 電 気 炉 の 構 造 か ら 外 周 部 か ら 熱 が 伝 播 し た こ と で
生じたものと思われる。
一 方 、200℃ の 再 加 熱 で は 、熱 処 理 を 施 し て い な い As CREO 材 に 比 較 し て 、
若干の硬度上昇が見られた。これは時効硬化によるものと思われた。
Fig.4.2.20 Hardness distribution of CREO treated AZ61 after heating
棒 材 の 硬 度 分 布 と 結 晶 組 織 を 比 較 す る た め 、 2mm 間 隔 で 撮 影 し た 光 学 顕 微
鏡 組 織 を Fig.4.2.21 に 示 し た 。
200℃ の 再 加 熱 で は 、 光 顕 組 織 の 変 化 は 見 ら れ ず 、 250℃ で 2Hr 加 熱 し た 条
件 で 、部 分 的 に 粗 大 粒 を 生 じ た こ と が 観 察 さ れ た 。300℃ で は 急 激 に 粗 大 化 し 、
特 に 表 層 部 の 粗 大 化 が 顕 著 で あ っ た が 、棒 材 中 心 部 で は 結 晶 粒 が 小 さ く な る 傾
向が見られた。
光 顕 組 織 と 硬 度 分 布 に は 強 い 相 関 が 見 ら れ 、結 晶 粒 の 粗 大 化 に 伴 い 硬 度 低 下
を招く。
184
Fig.4.2.21
Microstructure after annealing
【 200℃
250℃ 】
Fig.4.2.22
Microstructure after annealing
【 300℃
400℃ 】
185
4.2.3.3
角筒押出結果
1)成 形 性 と 成 形 荷 重 変 化
角 筒 押 出 成 形 の 進 捗 状 態 を Fig.4.2.23 に 示 し た 。 角 筒 押 出 に 際 し て も 、 棒
材 か ら 半 径 方 向 の 間 隙 に 材 料 流 動 が 発 生 す る 状 態 は 、拡 張 押 出 と 同 様 に 半 径 方
向 に 同 心 円 状 に 拡 張 し て い た 。拡 張 さ れ た 円 盤 状 材 料 は 、棒 材 端 面 か ら 最 も 近
い 距 離 に あ る 角 筒 の 辺 に 最 初 に 達 す る 。そ し て 角 筒 形 状 へ 移 行 す る コ ー ナ 部 で
曲 げ ら れ た 。( Fig.4.2.23(b)) コ ー ナ 部 の 屈 曲 に よ る 抵 抗 で 、 四 角 底 辺 の コ ー
ナ 部 の 充 満 が 追 い つ い て き て 、結 果 的 に は 四 角 底 辺 の 底 部 に 材 料 が 充 満 し て か
ら 、角 筒 の 長 手 方 向 へ の 成 形 が 進 行 す る 事 が 分 か っ た 。す な わ ち 拡 張 押 出 の 進
度 に か か わ ら ず 、角 筒 部 の 成 形 は 角 筒 の 間 隙 か ら の 均 一 押 出 で 決 定 す る 事 が 分
かった。
こ の 事 に よ り 、角 筒 の み な ら ず 種 々 の 形 状 に 対 し て 、同 様 の 手 法 が 適 用 可 能
であることが推定できる。
(a)
Fig.4.2.23
(b)
(c)
(d)
(e)
(f)
Appearance of square-shape cylinder forming at each step
成 形 荷 重 ∼ ス ト ロ ー ク 線 図 を Fig.4.2.24 に 示 し た 。 四 角 底 辺 に 材 料 が 充 満
す る ま で は 荷 重 が 急 激 に 上 昇 し 、角 筒 押 出 状 態 に 入 っ て か ら は 非 常 に 緩 や か に
荷 重 が 低 下 し て い く こ と が 分 か っ た 。 成 形 荷 重 は 、【 素 材 の 変 形 抵 抗 】 と 【 素
材 と 金 型 の 接 触 抵 抗 】の 和 と 考 え る こ と が 出 来 る 。変 形 を 受 け る 領 域 は 丸 棒 か
ら 角 筒 形 状 に 変 化 す る 領 域 に 限 定 さ れ る た め 、材 料 の 変 形 抵 抗 は 成 形 の 進 度 に
対 し て 変 化 せ ず に 一 定 で あ る と 考 え ら れ る 。素 材 と 金 型 と 接 触 抵 抗 に つ い て 考
186
え る と 、四 角 底 辺 か ら 角 筒 へ 変 形 す る 領 域 の 面 積 は 一 定 で あ り 変 化 し な い 。そ
こで素材と金型と四角底辺これは押出の進行に伴い押し出される棒材の長さ、
すなわち棒材部の素材と金型の接触面積が減少することによって緩やかな荷
重変化が生じたもの考えられる。
た だ し 変 形 の 進 行 に 従 っ て 、潤 滑 剤 の 膜 厚 は 減 少 す る こ と が 容 易 に 推 定 で き 、
か つ 金 型 の 表 面 損 傷 も 発 生 拡 大 し て い く こ と が 予 測 で き る こ と か ら 、荷 重 の 減
少 量 は 、金 型 の 幾 何 学 形 状 に よ っ て 決 ま る 値 よ り も 更 に 緩 や か に な っ て い る こ
とが推定できる。
以 上 に よ っ て 、断 面 減 少 率 が 一 定 の 場 合 に は 、成 形 荷 重 は 押 し 出 さ れ る 棒 材
部 の 金 型 と の 接 触 面 積 、す な わ ち 棒 材 の 長 さ に 比 例 す る こ と が 分 か る 。棒 材 の
長 さ が 短 け れ ば 成 形 荷 重 は 低 く な り 、長 け れ ば 荷 重 は 大 き く な る こ と が 予 想 さ
れる。
Fig.4.2.24
Forming condition and load stroke diagram
Fig.4.2.25 に 示 す よ う に 成 形 品 の 表 面 状 態 は 良 好 で あ り 、特 に 外 周 部 は 非 常
に 良 好 な 表 面 で あ っ た 。一 方 、内 側 に つ い て は 擦 痕 が 観 察 さ れ た 。こ れ は 外 周
部 が 、棒 素 材 の 外 周 部 に 塗 布 さ れ た 潤 滑 剤 が 外 周 部 形 成 の 型 接 触 部 に ま で 持 ち
込まれることから十分な潤滑が行われているためであると考えられる。一方、
内側はパンチに塗布された潤滑剤と棒材端面の潤滑剤が成形に伴って引き延
187
ば さ れ て い る こ と か ら 潤 滑 剤 の 膜 厚 の 減 少 が 顕 著 で あ る こ と が 推 定 で き る 。特
に 成 形 が 進 行 す る に つ れ て 潤 滑 剤 が 不 足 す る 状 態 と な る 。こ れ は 成 形 品 の 内 側
の 観 察 か ら も 、容 易 に 確 認 す る こ と が 可 能 で あ る 。内 側 の 棒 材 側 で あ る 、後 で
成 形 さ れ た 領 域 に な る ほ ど 、潤 滑 剤 が 消 失 し 、マ グ ネ シ ウ ム の 素 地 が 露 出 し て
きており、傷も深く顕著になってくる。
パ ン チ 側 の 潤 滑 は 非 常 に 難 し い こ と か ら 、最 も 容 易 な 対 策 と し て パ ン チ 材 質
の 変 更 お よ び 表 面 処 理 に よ り 、素 材 と 金 型 材 質 の 親 和 性 を 低 下 す る 方 法 が 効 果
的と考えられる。
Fig.4.2.25 Outlook of products
2)成 形 荷 重 に 及 ぼ す 温 度 お よ び 速 度 の 影 響
成 形 温 度 と 速 度 を 変 化 さ せ た 場 合 の 荷 重 を Fig.4.2.26 に 示 し た 。 低 速 条 件
の 方 が 温 度 上 昇 に よ る 荷 重 低 下 は 大 き く 17.6%で あ っ た が 、高 速 条 件 で は 荷 重
減 少 率 は 9.5%と な っ た 。 こ れ は 高 速 成 形 時 の 加 工 発 熱 お よ び 摩 擦 熱 の 差 が 関
与しているのではないかと思われる。
500
450
400
Load kN
350
300
250
200
150
17mm/sec
100
0.07mm/sec
50
0
180℃
200℃
Forming Temperature
Fig.4.2.26 Relation between load and temperature , forming speed
188
3)四 角 底 辺 の 底 部 厚 み が 成 形 荷 重 に 及 ぼ す 影 響
上 下 金 型 間 に 設 置 し た ス ペ ー サ の 厚 み を 変 化 さ せ て 、四 角 底 辺 の 底 部 厚 み を
変化させて成形荷重を測定した。成形条件としては、金型および成形温度が
180℃ 、 成 形 速 度 は 低 速 の 0.07mm/sec と し た 。
Fig.4.2.27 に 示 す よ う に 底 部 の 厚 み が 増 加 す る に 従 い 成 形 荷 重 が 低 下 す る
こ と が 分 か っ た 。厚 み を 大 き く す れ ば 四 角 底 辺 部 の 素 材 と 金 型 の 接 触 面 積 は 増
加 す る 事 に な る が 荷 重 は 低 下 し た 。こ れ は 最 大 荷 重 が 四 角 底 辺 の 形 成 時 に 発 生
し て い る こ と を 示 し て い る 。変 形 に 要 す る 荷 重 が 最 も 大 き な 、丸 棒 か ら 板 形 状
へ の 変 形 で あ り 、底 部 厚 み が 大 き く な る こ と は 、拡 張 押 出 の 厚 み が 増 大 す る こ
と と 同 じ で あ り 、拡 張 押 出 の 断 面 減 少 率 を 低 下 さ せ る こ と に 等 し く な り 、結 果
として成形荷重が低下したものと思われる。
Fig.4.2.27 Relation between load and bottom thickness
189
4.2.3.4
(1)
角筒押出による結晶組織変化
角 筒 押 出 180℃
① Image Quality
17.3mm/sec 押 出
結晶粒系分布
CREO 処 理 材 に お け る 塑 性 加 工 可 能 な 最 低 温 度 で あ る 180℃ で 、高 速 の 角 筒
押 出 加 工 を 行 っ た 場 合 の 、 四 角 筒 部 分 の 結 晶 組 織 を EBSP に て 観 察 し た 。
Image Quality 像 を 観 察 す る と 、CREO 処 理 材 で 見 ら れ た 15μm 程 度 の 粗 大 粒
は 消 失 し 、 数 μm レ ベ ル の 等 軸 組 織 を 示 し た 。
等 軸 の 組 織 お よ び 粗 大 粒 内 部 に ひ ず み 残 存 が 観 察 で き な い こ と か ら 、強 ひ ず
みが付与された後に再結晶に十分な熱が付与されたことが推定できる。
粗 大 粒 が 消 失 し た 原 因 と し て は 、CREO 処 理 と は 異 な っ た 方 向 で 強 い ひ ず み
が加算される事で、粗大粒が微細化されたことが考えられる。粗大粒内には、
今 回 の 観 察 範 囲 外 で あ る 2deg 以 下 の 傾 角 の 粒 界 を 含 む 小 傾 角 の 粒 界 お よ び 転
位 な ど が 、異 な っ た 方 向 の 強 い ひ ず み 付 与 に よ っ て 結 晶 の 回 転 を 生 じ て 結 晶 傾
角が大きくなったものではないかと考える。
更 に 拡 張 押 出 時 お よ び 完 了 も 継 続 さ れ る 180℃ の 加 熱 お よ び 加 工 発 熱 に よ
って等軸(球形)化が進行したのではないかと考える。
Fig.4.2.28
Image quality after forging at 17.3mm/min
190
②正極点図
角 筒 押 出 の 四 角 筒 部 の 正 極 点 図 を Fig.4.2.29 に 示 し た 。( 0001) 面 に 非 常
に強く集積していた。拡張押出および角筒への 2 回に及ぶ曲げ押出によって、
半 径 方 向 に 狭 い 隙 間 か ら 大 き な ひ ず み で 直 行 方 向 に 押 し 出 さ れ た 事 か ら 、押 し
出 さ れ た 平 面 に (0001)面 が 強 く 集 積 し た こ と が わ か っ た 。
Fig.4.2.29
③結晶方位マップ
Pole figure after forging at 17.3mm/min
ND か ら 見 た 結 晶 方 位 マ ッ プ で は 赤 色 が 濃 い 傾 向 、す な わ ち (0001)面 が 観 察
面に平行に多く観察される傾向を示した。
( Fig4.2.30)拡 張 押 出 以 上 に (0001)
面 へ の 集 積 が 強 く 現 れ て お り 、拡 張 押 出 お よ び 角 筒 へ の 2 回 に 及 ぶ 曲 げ 押 出 に
よって集積したことがわかった。
Fig.4.2.30
Orientation distribution map after forging at 17.3mm/min
191
④結晶粒界マップによる結晶傾角の分類
EBSP に よ る 結 晶 粒 界 の 判 定 角 度 を【 2∼ 5deg】
【 5∼ 15deg】
【 15∼ 180deg】
に 分 割 し て 、 粒 界 マ ッ プ を 測 定 し た 。( Fig.4.2.31)
15∼ 180deg の 大 傾 角 粒 界 が 面 積 率 で 86.7% を 占 め る 状 態 で あ っ た ( CREO
処 理 材 : 72.9% )。 更 に 小 傾 角 で あ る 、 5∼ 15deg は 10.8% ( CREO 処 理 材 :
13.2% )、2∼ 5deg で は 2.5%( CREO 処 理 材 : 13.9%)と な り 、特 に 2∼ 5deg
の小径各粒界の減少が著しかった。
こ れ は Image Quality 像 で の 外 観 観 察 で 等 軸 ( 球 形 ) の 粒 径 で あ っ た こ と
の 原 因 と 同 じ く 、 ひ ず み 付 与 後 に 急 冷 処 理 を 行 う CREO 処 理 と は 異 な り 、 角
筒 押 出 加 工 で は 押 出 完 了 後 も 加 熱 状 態 が 継 続 さ れ る こ と と 、高 速 加 工 に お い て
変 形 発 熱 お よ び 金 型 と 素 材 の 摩 擦 発 熱 に よ っ て 、動 的 再 結 晶 に 静 的 再 結 晶 が 加
算された状態ではないかと推定できる。角筒押出の金型は加工接触面が約
5mm と 短 く 、 四 角 辺 成 形 後 は 金 型 と は 接 触 し て い な い 状 況 と な る こ と か ら 、
成形温度以上に保たれる時間が拡張押出に比較しても長くなったと考えられ
る。
ま た CREO 処 理 と は 異 な っ た 方 向 で 強 い ひ ず み が 加 算 さ れ る 事 で 粗 大 粒 が
微 細 化 さ れ た こ と が 考 え ら れ る 。 CREO 処 理 材 で は 比 率 が 高 か っ た 2∼ 5deg
の 傾 角 を 有 す る 粒 界 は 、異 な っ た 方 向 の 強 い ひ ず み 付 与 に よ っ て 大 傾 角 化 さ れ 、
前述の加熱保持によって等軸化したものと考えられる。
Fig.4.2.31
Grain boundary map after forging at 17.3mm/min
192
⑤結晶粒系分布
Fig.4.2.32 お よ び Fig.4.2.33 に 結 晶 傾 角 5deg お よ び 2deg を し き い 値 と し
た 粒 径 分 布 を 示 し た 。 2 ∼ 5deg の 小 傾 角 粒 界 比 率 が 低 い こ と か ら 、 結 晶 傾 角
に よ る 差 は 殆 ど 見 ら れ な か っ た 。結 晶 粒 径 は 3∼ 6μm に 集 積 し た 正 規 分 布 と 言
える分布状態を示した。
Fig.4.2.32
Orientation distribution map less than 5 degree
after forming at 17.3mm/min
Fig.4.2.33
Orientation distribution map less than 2degree
after forming at 17.3mm/min
193
(2) 角 筒 押 出 180℃
① Image Quality
0.07 mm/sec 押 出
結晶粒系分布
CREO 処 理 材 に お け る 塑 性 加 工 可 能 な 最 低 温 度 で あ る 180℃ で 、低 速 で 加 工
発 熱 を 最 大 限 に 抑 制 し た 条 件 で の 角 筒 押 出 加 工 を 行 い 、四 角 筒 部 分 の 結 晶 組 織
を EBSP に て 観 察 し た 。Image Quality 像 を 観 察 す る と 、今 回 使 用 し た EBSP
の 分 解 能 で は 改 造 で き て い な い レ ベ ル の 微 細 粒 を 含 む 、均 一 な 微 細 結 晶 組 織 を
示 し た ( Fig.4.2.34)。 観 察 さ れ た 最 大 の 粒 で も 2μm 程 度 で あ り 、 非 常 に 微 細
な均一組織と言える。
CREO 処 理 で 残 留 し た 数 μm レ ベ ル の 結 晶 粒 ま で 微 細 化 さ れ て お り 、CREO
処理による微細化で、塑性加工の低温化を実現し、低温化と更なる強加工(2
次加工)を施すことにより、相乗効果が得られ微細均一組織となったものと。
素 材 段 階 で の 微 細 化 す る 手 法 に 比 較 し て 、CREO 処 理 お よ び 恒 温 鍛 造 の 組 合
せ に よ っ て 、比 較 的 容 易 に 均 質 な 微 細 結 晶 組 織 を 得 る こ と が 可 能 で あ る こ と を
示している。
Fig.4.2.34
Image quality after forging at 0.07mm/min
194
②正極点図
角 筒 押 出 の 四 角 筒 部 の 正 極 点 図 を Fig.4.2.35 に 示 し た 。同 じ 180℃ で の 高
速 加 工 の 場 合 と 同 様 に 、( 0001) 面 に 非 常 に 強 く 集 積 し て い た 。 拡 張 押 出 お よ
び 角 筒 へ の 2 回 に 及 ぶ 曲 げ 押 出 に よ っ て 、半 径 方 向 に 狭 い 隙 間 か ら 大 き な ひ ず
み で 直 行 方 向 に 押 し 出 さ れ た 事 か ら 、押 し 出 さ れ た 平 面 に (0001)面 が 強 く 集 積
したことがわかった。
Fig.4.2.35
Pole figure after forging at 0.07mm/min
③結晶方位マップ
ND か ら 見 た 結 晶 方 位 マ ッ プ で は 赤 色 が 濃 い 傾 向 、す な わ ち (0001)面 が 観 察
面 に 平 行 に 多 く 観 察 さ れ 、部 分 的 に (1010)(2110)面 が 観 察 さ れ た が 、そ の 比 率
は極めて少なかった。
( Fig4.2.36)拡 張 押 出 以 上 に (0001)面 へ の 集 積 が 強 く 現
れ て お り 、拡 張 押 出 お よ び 角 筒 へ の 2 回 に 及 ぶ 板 状 の 曲 げ 押 出 に よ っ て 集 積 し
た こ と が わ か っ た 。一 部 バ ン ド 状 に (2110)面 の 繋 が り が 観 察 さ れ る が 、基 本 的
に は (0001)面 主 体 の 均 一 な 方 位 を 持 っ た 面 の 集 合 で あ る と 言 え る 。
Fig.4.2.36
Orientation distribution map after forging at 0.07mm/min
195
④結晶粒界マップによる結晶傾角の分類
EBSP に よ る 結 晶 粒 界 の 判 定 角 度 を【 2∼ 5deg】
【 5∼ 15deg】
【 15∼ 180deg】
に 分 割 し て 、 粒 界 マ ッ プ を 測 定 し た 。( Fig.4.2.37)
15∼ 180deg の 大 傾 角 粒 界 が 面 積 率 で 89.5% を 占 め る 状 態 で あ っ た 。
( CREO
処 理 材:72.9% )更 に 小 傾 角 で あ る 、5∼ 15deg は 8.2%( CREO 処 理 材:13.2% )、
2∼ 5deg で は 2.3% ( CREO 処 理 材 : 13.9%) と な り 、 全 て の 条 件 に て 最 も 大
傾角粒界の比率が高くなった。
低 速 の 角 筒 押 出 加 工 で は 、押 出 完 了 後 も 加 熱 状 態 が 継 続 さ れ る も の の 、変 形
に よ る 発 熱 は 金 型 と の 接 触 電 熱 に よ り 冷 却 さ れ 、金 型 と 素 材 の 摩 擦 発 熱 に よ る
発熱も最小となる。
従って角筒押出により大きなせん断ひずみが加わった際の動的再結晶によ
り、大傾角粒界が支配的となったものと思われる。
Fig.4.2.37
Grain boundary map after forging at 0.07mm/min
196
⑤結晶粒系分布
Fig.4.2.38 お よ び Fig.4.2.39 に 結 晶 傾 角 5deg お よ び 2deg を し き い 値 と し
た 粒 径 分 布 を 示 し た 。 2 ∼ 5deg の 小 傾 角 粒 界 比 率 が 低 い こ と か ら 、 結 晶 傾 角
に よ る 差 は 殆 ど 見 ら れ な か っ た 。 結 晶 粒 径 は 1μm に 強 く 集 積 し た 微 細 組 織 と
なった。
Fig.4.2.38
Fig.4.2.39
Grain boundary map Area after forging at 0.07mm/min 5deg
Grain boundary map Area after forging at 0.07mm/min 2deg
197
(3)角 筒 組 織 ま と め と 考 察
CREO 処 理 で 微 細 化 さ れ た 結 晶 組 織 は 、更 に 微 細 化 さ れ 均 一 分 散 し た 状 態 と
な っ た 。 粒 径 は 0.45∼ 4.6μm に 分 布 し て い る 混 粒 の 状 態 と な っ た が 、 そ の 大
半 は 2μm 以 下 に 集 中 分 布 し て い る こ と が わ か っ た 。平 均 結 晶 粒 径 は 約 1.67μm
まで微細化されることが分かった。
特 に CREO 処 理 後 に 残 留 し て い た 粗 大 粒 が 消 失 し 、 微 細 結 晶 粒 に つ い て は
同 レ ベ ル と な っ た 。こ の 事 か ら 、CREO 処 理 後 の 低 温・低 速 で の 角 筒 押 出 に お
け る 、結 晶 粒 微 細 化 効 果 は 、特 に 残 留 し た 粗 大 粒 の み に 作 用 し た も の と 考 え ら
れ る 。結 果 と し て 粗 大 粒 が 微 細 化 さ れ て 、均 一 か つ 微 細 な 結 晶 組 織 を 得 る こ と
ができたと考えられる。
ま た 結 晶 傾 角 に 着 目 す る と 、十 分 に 焼 鈍 さ れ た 素 材 と 180℃ で 高 速 鍛 造 し た
場 合 が 同 様 に 比 率 を 有 し て お り 、低 速 鍛 造 で は 更 に 大 傾 角 粒 界 比 率 が 増 大 し た 。
(Table 4.2.5)
Fig.4.2.40 Microstructure of Forging product at 453K ,0.070mm/sec
198
Table 4.2.5
Crystal angle
15deg∼
Raw material
Distribution of each crystal angle
As CREO
180℃
forging
17.3mm/sec
0.07mm/sec
86.5%
72.9%
86.7%
89.5%
5∼ 15deg
11.8%
13.2%
10.8%
8.2%
2∼ 5deg
1.7%
13.9%
2.5%
2.3%
90deg
199
4.2.3.5
角筒押出による 硬度分布変化
(1)押 出 素 材 材 お よ び CREO 処 理 材
素 材 の 硬 度 分 布 を Fig.4.2.41、お よ び CREO 処 理 材 の 硬 度 分 布 を Fig.4.2.42
に示した。
素 材 は 外 周 部 の 硬 度 が 若 干 高 く な る 傾 向 を 示 し た 。こ れ は 押 出 時 の ひ ず み 量
が表面ほど高いことと、処理温度が低温側であったことが推定できる。
80.0
As extruded
Hardness(HV)
75.0
70.0
65.0
60.0
0.0
2.5
Fig.4.2.41
5.0
7.5
10.0
12.5
Distance from rod center(mm)
15.0
Hardness distribution of extruded rod
一 方 、CREO 処 理 に よ っ て 硬 度 上 昇 し 、捻 り ひ ず み 量 に 比 例 し て 外 周 部 ほ ど
高 い 硬 度 を 示 し た 。回 転 量 の 大 き さ の 影 響 は 10rpm と 12rpm の 硬 度 分 布 に 差
は 見 ら れ な か っ た が 、 8rpm で は 全 般 的 に 若 干 低 い 硬 度 分 布 を 示 し た 。
80.0
As CREO
350℃
Hardness (HV)
75.0
70.0
8rpm
10rpm
12rpm
65.0
60.0
0.0
2.5
5.0
7.5
10.0
12.5
15.0
Distance from rod center (mm)
Fig.4.2.42
Hardness distribution of CREO treated rod
200
(2)180℃ 高 速 鍛 造 に お け る 硬 度 分 布
Fig4.2.42 に 角 筒 押 出 成 形 品 の 断 面 硬 度 を 示 し た 。CREO 処 理 を 施 し た 素 材
の 表 面 部 お よ び 1/R 部 で Hv≒ 75 を 示 し 、捻 り ひ ず み の 効 果 が 得 ら れ な い 中 心
部 で は Hv≒ 65 と な っ た 。
素 材 CREO 段 階 で ひ ず み が 付 与 さ れ て い な い 中 心 部 は 硬 度 上 昇 す る も の の 、
棒 材 表 面 部 は 硬 度 低 下 す る 傾 向 を 示 し た 。棒 材 が 押 し 出 さ れ て 金 型 と 接 触 す る
パ ン チ 頂 点( 角 筒 底 辺 部 )に て パ ン チ と 接 触 す る 。こ の 部 分 は 潤 滑 剤 の 追 加 供
給 が 無 く 、素 材 が 押 し 広 げ ら れ る 部 分 で あ り 加 工 発 熱 が 顕 著 と な る 部 位 で あ る
事が原因と考えられる。
押 し 出 さ れ た 角 筒 部 の 硬 度 は 、Hv≒ 65∼ 77 と な り CREO 材 に 比 較 し て 硬 度 低
下 し た 。 特 に 四 角 筒 の 根 元 部 分 で あ る DE の 3∼ 5 に つ い て は 素 材 に 対 し て 硬
度 低 下 し た 。こ の 領 域 は 、押 出 加 工 の 加 工 後 半 に 属 す る も の で あ り 、加 工 発 熱
が 蓄 積 し て 高 温 に な っ た も の と 考 え ら れ る 。ま た 加 工 後 半 は 潤 滑 剤 が 減 少 し て
き て お り 、摩 擦 発 熱 も 大 き く な っ て い る こ と が 考 え ら れ る こ と か ら 、相 乗 効 果
により加熱軟化したものと思われる。
Fig.4.2.42
Hardness distribution of forging products at 180℃
with 17.3mm/sec
201
2)180℃ 低 速 鍛 造 に お け る 硬 度 分 布
一 方 、同 じ 180℃ で あ る が 、鍛 造 速 度 を 大 幅 に 低 速 化 し た 角 筒 成 形 品 の 断 面
硬 度 を Fig4.2.43 に 示 し た 。
高 速 鍛 造 と は 異 な り 、角 筒 部 の 硬 度 低 下 が 見 ら れ ず Hv≒ 80 と な っ た 。極 め
て 低 速 の 加 工 で あ る た め 、加 工 発 熱 の 影 響 が 最 小 限 で あ っ た こ と が 原 因 と 思 わ
れる。
こ の 結 果 に よ り 、加 工 発 熱 に よ る 結 晶 粒 微 細 化 効 果 を 低 下 に よ り 、機 械 的 性
質 が 低 下 す る こ と が 予 想 さ れ る 。こ の た め 微 細 結 晶 粒 素 材 を 鍛 造 に 供 す る 場 合
には、加工発熱の影響を十分に考慮すべきであると言える。
Fig.4.2.44
Hardness distribution of forging products at 180℃
with 0.07mm/sec
202
4.2.3.6
引張試験結果
素 材 お よ び CREO 材 、180℃ 低 速 鍛 造 に つ い て 、引 張 試 験 に よ り 機 械 的 特 性
を 比 較 し た 。( Fig.4.2.45)
結 晶 粒 微 細 化 の 効 果 は Hall-Petch の 関 係 式 よ り 、 耐 力 の 向 上 に 最 も 顕 著 に
現 れ る 。 引 張 方 向 3 方 向 平 均 値 で の 比 較 に お い て 、 素 材 に 対 し て CREO 処 理
に よ り 0.2%耐 力 が 50% 向 上 し 、更 に 角 筒 押 出 に よ っ て 約 2.5 倍 に 耐 力 が 向 上
し た 。 CREO 処 理 材 と 比 較 し て も 約 1.7 倍 に 達 し た 。
破 断 強 度 は 、 CREO 処 理 に よ っ て 約 12% 高 強 度 化 し 、 鍛 造 後 で は 素 材 に 対
し て 約 30% の 大 幅 な 強 度 向 上 を 実 現 で き た 。
延 性 に つ い て は 、 CREO 処 理 で の 低 下 は 見 ら れ ず 、 鍛 造 後 で も 約 15% 程 度
の延性低下であった。
Fig.4.2.44
Average Mechanical Properties of Tensile Test
異 方 性 を 調 べ る た め Fig4.2.45 に 各 引 張 方 向 で の 機 械 的 性 質 を 示 し た 。
耐 力 は 、CREO 処 理 材 の 異 方 性 が 強 く 発 生 し 、45deg 方 向 に お い て 顕 著 な 耐
力 増 加 が 見 ら れ た 。 ま た 最 大 の 耐 力 示 す 方 位 が 、 素 材 で は 0deg、 CREO 材 で
は 45deg と な り 、 鍛 造 後 で は 90deg の 方 向 と な り 、 結 晶 方 位 が 各 処 理 工 程 で
変化していることが分かる。
引 張 強 さ は 、耐 力 ほ ど の 強 い 異 方 性 は 見 ら れ な か っ た が 、各 処 理 工 程 に よ っ
て 最 大 の 引 張 強 さ を 示 す 方 位 は 異 な っ て い た 。素 材 で は 0deg で 最 も 高 強 度 と
203
な っ た が 、 CREO 材 で も 0deg、 鍛 造 後 で は 90deg 方 向 と な っ た 。
伸 び に つ い て は 、CREO 処 理 後 の 材 料 で 90deg 方 向 に 大 き な 延 性 を 示 し た 。
角 筒 押 出 鍛 造 後 の 延 性 に お い て は 強 い 異 方 性 は 見 ら れ ず 、延 性 の 低 下 も 素 材 に
対 し て 15%程 度 で あ っ た 。
素 材 に お け る 異 方 性 は 、 0deg 方 向 の 耐 力 ・ 引 張 強 度 が 最 も 高 く 現 れ た が 、
CREO 処 理 後 は 45deg 方 向 が 最 大 値 と な っ た 。 ま た 角 筒 押 出 鍛 造 後 は 90deg
に 最 大 値 が 発 生 し 、各 処 理 を 経 る 毎 に 、結 晶 粒 の 変 化 の み な ら ず 集 合 組 織 の 変
化が著しいことが推定できる。
(a) 0.2% Proof Stress
(c)
(b)Tensile Strength
Elongation
Fig.4.2.45 Mechanical Properties of Tensile Test
204
4.2.4
考
察
回 転 変 形 と 急 冷 処 理 の 組 み 合 わ せ た CREO 処 理 に よ り 、 局 部 加 熱 さ れ て 軟
化した領域のみにせん断ひずみが付与されることにより結晶粒が微細化され、
かつ直後に冷却されることにより粒の粗大化を抑えることで微細結晶粒が得
られたものと思われる。
一 般 的 に 、粒 界 滑 り が 発 現 す る 温 度 領 域 に お い て 、微 細 粒 と 粗 大 粒 の 混 合 組
織 に で は 、大 き な 比 率 を 占 め る 微 細 粒 が 滑 り 発 生 す る 粒 界 を 多 く 有 す る こ と か
ら 、優 先 的 に 塑 性 変 形 す る と 考 え ら れ る 。こ の た め 微 細 結 晶 粒 中 に 分 散 残 留 し
た 粗 大 粒 は 変 形 に よ る 微 細 化 の 影 響 を 受 け に く い と 考 え ら れ る 。し か し 角 筒 押
出 後 の 組 織 で は 、CREO 処 理 後 に 残 留 し て い た 粗 大 な 結 晶 粒 が 消 失 し 、微 細 均
質な結晶組織に移行していた。
こ れ は CREO 処 理 後 に 残 留 し た 10μm を 超 え る 粗 大 粒 に つ い て も 、 粒 内 に
ひ ず み お よ び 亜 粒 界 が 形 成 さ れ て お り 、次 工 程 で あ る 角 筒 押 出 に お い て CREO
処理に比較して低い温度かつ異なった方向の大きなせん断ひずみを付与した
こ と に よ り 、粗 大 粒 を 優 先 的 に 分 断 し 、均 一 で 微 細 な 結 晶 組 織 を 得 る こ と が 出
来たものと考える。
結 果 と し て 、得 ら れ た 結 晶 粒 の 大 き さ に よ っ て 引 張 り 試 験 の 特 性 が 大 き く 変
化し、高い耐力、破断強度を示したものと思われる。
205
4.2.5
結
言
本研究によって以下の結果を得ることができた。
1)
結 晶 粒 微 細 化 材 の 使 用 に お い て 、180℃ の 低 温 領 域 で 棒 材 か ら 角 筒 形 状 の
押出成形が可能である事が分かった。
2)
成 形 荷 重 は 500KN 以 下 で あ り 、 通 常 の 後 方 押 出 に 比 較 し て 1/5∼ 1/10 の
低い荷重にて成形可能であった。
3)
結晶粒微細化されたマグネシウム合金素材を、微細化処理に対して低い
温 度 域 で 大 き な 塑 性 変 形 を 与 え る 事 で 、更 な る 結 晶 粒 微 細 化 が 実 現 で き る
ことが分かった。
4)
CREO 処 理 に お い て 中 心 部 に 残 留 し た 未 結 晶 粒 微 細 化 領 域 は 、角 筒 押 出 鍛
造により微細化均質化可能であることが分かった。
5)
CREO 処 理 、角 筒 押 出 に よ っ て 結 晶 粒 が 微 細 化 さ れ る に 伴 い 、耐 力 お よ び
破断強度は著しく向上される事が分かった。
6)
結晶粒微細化を単なる素材の処理にとどめず、後工程である塑性加工技
術 と 積 極 的 に 組 み 合 わ せ る こ と に よ っ て 、微 細 化 効 果 を 製 品 ま で 引 き 継 ぐ
こ と が 出 来 る と と も に 、個 々 の 微 細 化 技 術 の み で は 達 成 困 難 で あ っ た 微 細
化と特性改良が可能となる事を明らかにできた。
206
【参考文献】
1)
中村
克昭
“STSP に よ り 結 晶 粒 微 細 化 し た Mg 合 金 の 恒 温 塑 性 加 工 に よ る 特 性 改 良 ”
第 57 回 塑 性 加 工 連 合 講 演 会 (2006)
2)
p419-420
K.Nakamura
“ Rapid Continuous Metal Grain Refinement process “STSP” and its
Application to Plastic Forming“
ICCES’07 (2007) p1947-1951
3)
中村
克昭
“結 晶 粒 微 細 化 し た マ グ ネ シ ウ ム 合 金 の 恒 温 鍛 造 に 関 す る 研 究 ”
第 58 回 塑 性 加 工 連 合 講 演 会
4) 中 村
克昭、鈴木
(2007) P267-268
裕
“ 微 細 結 晶 粒 Mg 合 金 の 恒 温 条 件 下 に お け る 押 広 げ 鍛 造 ”
型技術
5) 中 村
第 25 巻
克昭、杉本
第 7号
2010
康子、恵良
7 月号
p90-91
秀則、鈴木
裕
微 細 結 晶 Al-Mg 合 金 の 恒 温 条 件 下 に お け る 押 出 鍛 造
型技術
第 26 巻
6) 日 経 も の づ く り
第 7号
2011
7 月号
May 2011 P28-30
207
p18-19
4.3
マグネシウム棒材からの板側法押出法
4.3.1 緒
言
金 属 板 材 の 製 造 方 法 と し て 圧 延 法 が 一 般 的 で あ り 、高 精 度・高 品 質 の 板 材 が
供 給 さ れ て い る 。し か し な が ら 圧 延 の 板 材 は 大 量 生 産 さ れ る こ と か ら 、必 要 材
料 と 板 厚 に 関 し て は 市 場 の 供 給 状 態 と 関 連 し て し ま い 、特 殊 な 素 材 の 使 用 は 極
め て 困 難 で あ る 。棒 材 か ら 型 材 へ の 押 出 も 窓 枠 等 で 使 用 さ れ て し て い る が 、大
量 生 産 に 適 し た 手 法 で あ り 、押 出 設 備 も 非 常 に 大 型 で あ る 事 か ら 大 量 生 産 に 限
定 的 で あ っ た 。 1)
また板形状部材の製造方法として圧延した板材からのプレス成形が一般的
で あ り 、自 動 車・家 電 等 々 に 広 く 活 用 さ れ て き た 。し か し な が ら プ レ ス 成 形 に
お け る 最 大 の 欠 点 と し て 、自 由 な 板 厚 が 得 に く い 事 が 挙 げ ら れ る 。す な わ ち 成
形 開 始 時 点 の 素 材 が 均 一 板 厚 の 素 材 で あ り 、プ レ ス 成 形 中 に 素 材 に 付 与 さ れ る
単 軸 ひ ず み・平 面 ひ ず み・等 2 軸 ひ ず み お よ び そ れ ら が 複 合 し た ひ ず み を 受 け
る 事 か ら 、製 品 の 要 求 か ら で は な く プ レ ス 成 形 上 の 制 約 か ら 成 形 品 各 部 位 の 板
厚 が 決 ま っ て し ま う 。こ の 板 厚 の 製 品 特 性 最 適 化 を 目 的 と し て 、プ レ ス 成 形 に
おいて多くの改良の試みが成されてきた。
そ の 一 つ が 多 工 程 に よ る 板 厚 の 最 適 化 で あ る 。し か し 板 厚 の 最 適 化 の た め に
多くの成形工程を有し、金型への負担も大きなものであった。
ま た 液 圧 成 形 法 も 板 分 布 改 良 の 手 法 の 一 つ で あ る 。板 厚 を 大 き く 保 ち た い 部
分 を 先 行 し て 金 型 に 接 触 さ せ る 事 に よ っ て 、素 材 と 金 型 の 摩 擦 に よ っ て 変 形 を
抑 制 す る こ と で 接 触 部 の 板 厚 を 素 材 に 近 い 状 態 に 保 つ 技 術 で あ る が 、使 用 す る
板 厚 に よ る 制 限 が あ る た め 、積 極 的 に 板 厚 を 増 減 さ せ る 事 に は 限 界 が あ る 成 形
法である。
鍛 造 法 に よ る 板 形 成 と し て は 、ア プ セ ッ ト で 大 き な 荷 重 を か け て 板 状 製 品 を
成 形 す る 方 法 、お よ び 側 方 押 出 で ツ バ 状 の 板 状 部 を 形 成 す る と 組 み 合 わ せ る 鍛
造 法 が 提 案 さ れ て い る 。 2)3)
また板鍛造と呼ばれる厚板を鍛造して板厚分布を形成する事に実現した方
法 が あ り 、精 密 小 物 部 品 に 限 定 的 で あ る が 粉 末 部 品 の 競 合 技 術 と し て 適 用 さ れ
てきた。
従 来 技 術 の 課 題 を 克 服 す る 目 的 で 、本 研 究 で は 鍛 造 法 と 押 出 法 の 双 方 の 特 徴
を併せ持った押出鍛造法を板材の成形法に適用する事を考えた。
こ れ ま で の 章 に て 、CREO 処 理 で 結 晶 粒 微 細 化 し た 素 材 を 用 い る こ と に よ り 、
208
低温での加工が可能となる恒温鍛造法として、半径方向の拡張押出
角筒押出
4)5)お よ び
6)∼ 8)に つ い て 報 告 し た 。
本章では、棒材からの素材押出方向と直交した方向に板形状押出を行なう成
形 手 法 を 考 案 し た 。 9)∼ 10)
本 手 法 の 基 本 構 造 は 、金 属 組 織 を 有 す る 素 材 が 収 容 さ れ る 収 容 部 と 、こ の 収
容 部 に 収 容 さ れ た 素 材 を 外 部 に 排 出 す る 排 出 口 を 有 す る 金 型 を 加 熱 し 、収 容 部
に 収 容 さ れ 且 つ 加 熱 さ れ て い る 前 記 素 材 を 軸 方 向 に 加 圧 し て 、排 出 口 か ら 排 出
させる加圧・排出工程によって構成される。
本 法 を 応 用 し た 成 形 手 法 と し て 、板 状 に 押 し 出 さ れ た 成 形 材 を 、板 に 対 し て
法 線 方 向 か ら の 絞 り 成 形 等 の 板 成 形 加 工 を 付 与 す る 事 に よ っ て 、 3次 元 形 状 の
成形が可能となる。
こ の 複 合 加 工 の 大 き な 特 徴 は 板 厚 分 布 を 持 っ た 1次 成 形 材 を 、連 動 し た 成 形 工
程で板厚分布を持ったプレス加工品へと再成形する事が可能となる点である。
こ れ に よ り 板 厚 分 布 を 有 す る 絞 り・曲 げ 。張 出 等 の 成 形 品 が 小 ロ ッ ト か ら 生 産
する事が可能となる。
本 章 に お い て は 、棒 形 状 の 素 材 か ら 板 形 状 へ の 押 出 加 工 に つ い て 、1 軸 お よ
び対向する 2 軸からの押出加工性と金型形状について研究した内容について
報告する。
209
4.3.2
1 方向板押出成形
4.3.2.1
1 方向板押出成形法の概念
1 方 向 か ら の 横 押 出 鍛 造 は 、金 型 の 一 方 の み に 材 料 の 収 容 部 と 押 出 の パ ン チ
を 有 し 、対 向 す る 金 型 は 押 出 方 向 に 直 行 し た 平 面 の み を 有 す る 構 造 と し た 。素
材 で あ る 棒 材 を 押 し 出 す 事 で 、素 材 は 対 向 す る 下 金 型 平 面 に 押 し つ け ら れ た 後
に 、下 型 側 面 に 設 け た 排 出 口 か ら 押 し 出 さ れ る 。押 し 出 さ れ る 形 状 は 基 本 的 に
排出口の形状で決定される。
今 回 は 平 板 形 状 の 排 出 口 を 設 け た が 、平 板 だ け で な く 板 厚 分 布 を 有 す る 異 形
断 面 形 状 を 設 定 す る 事 で 、通 常 実 施 さ れ て い る 押 出 成 形 と 同 様 に 、多 様 な 形 状
を押出成形で得る事が可能となる
押 出 加 工 の 手 法 と し て は 、1 方 向 か ら 押 し 出 す 方 法 と 、対 向 す る 2 方 向 か ら
押 し 出 す 方 法 が 考 え ら れ る 。1 方 向 か ら の 押 出 で は 、素 材 押 出 方 向 に 対 向 す る
金 型 と の 摩 擦 抵 抗 が 大 き い こ と が 予 想 さ れ 、上 下 2 方 向 か ら の 押 出 の 場 合 に は
2 方向の押出速度およびタイミングを厳密に合わせることが必要となってく
る。本項では、1 方向からの押出加工について実験を行った。
基 本 的 な 加 工 概 念 を Fig.4.3.1 に 示 す 。
(a)
Open position
Fig.4.3.1
(b)
Forging
General picture of lateral Extrusion from 1 direction
210
プ レ ス 内 部 に 金 型 に 設 置 し 、素 材 を 金 型 内 で 拘 束 し つ つ 、上 方 か ら の シ リ ン
ダ ー に て 加 圧 す る 。加 圧 さ れ た 素 材 は 金 型 横 方 向 に 予 め 設 け た 平 板 の 空 隙 よ り
押 し 出 さ れ る 。こ の 際 に 、素 材 に は 大 き な せ ん 断 変 形 が 付 与 さ れ 、せ ん 断 ひ ず
みによって結晶粒微細化の促進が期待できる。
1 方 向 成 形 の 場 合 に は 、押 出 方 向 に 対 向 す る 金 型 面 の 摩 擦 力 に よ っ て 、成 形
荷重の上昇および金型の摩耗が予想される。
211
4.3.2.2
実験条件
1)素 材 製 造 条 件
素 材 と し て AZ61 マ グ ネ シ ウ ム 合 金 を 使 用 し た 。 基 本 成 分 は Table.4.4.1 に
示 し た よ う に 、マ グ ネ シ ウ ム を 基 本 元 素 と し て 約 6% の ア ル ミ ニ ウ ム お よ び 約
1% の 亜 鉛 を 添 加 し た 中 高 強 度 に 分 類 さ れ る Mg-6Al-1Zn 押 出 合 金 で あ る 。
供 試 材 の 成 分 を Table4.4.1 に 示 す 。
Table 4.3.1 Chemical components of AZ61
Mass%
本 章 で は Φ30mm の AZ61 押 出 材 を CREO 処 理 し て 使 用 し た 。 CREO 処 理
条 件 は 、 捻 り 変 形 に よ る 加 工 発 熱 を 含 ま な い 状 態 で 300℃ の 条 件 で 、 回 転 数
8.1rpm、 横 移 動 速 度 300mm/min に て 微 細 化 処 理 を 行 っ た 。
加 熱 両 端 の 水 冷 は 、水 量 を 増 加 さ せ つ つ 加 熱 部 へ の 不 安 定 な 水 の 流 れ 込 み を
抑制するため、給水とは反対側に真空吸引する装置を使用した。
CREO 処 理 条 件 を Table 4.3.2 に 示 し た 。
Table.4.3.2
Condition of CREO
Material
AZ61
Diameter
F30mm
CREO temperature
300℃
Rotation speed
8.1rpm
Transfer speed
300mm/min
Cooling water volume
Forward
10 L/min
Backward
12 L/min
No.
STAZ61 D30 0515 001,2,4
212
2)
押出鍛造プレス
押 出 成 形 に 使 用 し た プ レ ス を Fig.4.3.2 に 示 し た 。 隠 し リ ン ダ ー を サ ー ボ 制
御 し た 油 圧 4 シ リ ン ダ ー を 有 す る も の で 、メ イ ン シ リ ン ダ ー お よ び 加 工 圧 発 生
可 能 な ダ イ ク ッ シ ョ ン に 加 え て 、上 下 方 向 か ら 2 本 の シ リ ン ダ ー を 有 し て い る 。
各 シ リ ン ダ ー は 個 別 の 制 御 バ ル ブ を 有 し て い る た め 、独 立 し て 前 進 後 退 停 止 お
よ び 速 度 設 定 な ど が 可 能 な シ ス テ ム と な っ て い る 。 基 本 特 性 を Table 4.3.3 に
示 し た 。プ レ ス ダ イ セ ッ ト は 、独 自 に 設 計 製 作 し た 金 型 加 熱 装 置 を 設 け て お り 、
金 型 の み 交 換 で き る 形 式 と し て お り 、最 高 温 度 約 500℃ ま で 金 型 を 加 熱 保 持 す
ることが可能となっている。
本研究の板材押出においては、メインシリンダーで上下の金型を加圧して、
金 型 内 部 に 設 け た 円 柱 状 の 空 間 に マ グ ネ シ ウ ム 合 金 素 材 を 設 置 す る 。加 圧 保 持
し た 状 態 で 、 3rd シ リ ン ダ ー に よ っ て 棒 状 素 材 を 上 方 向 か ら 押 出 し 、 予 め 設 け
た水平方向の間隙から板状に押出す。
上型
Fig.4.3.2
Photograph of hydraulic press with 4 cylinder
Table.4.3.3
Principle capacities of hydraulic press
Cylinder
Max. power
Max. speed
Max. stroke
Main
2500kN
140mm/sec
800mm
Cushion
1250kN
145mm/sec
300mm
3rd
1250kN
150mm/sec
500mm
4th
700kN
155mm/sec
500mm
213
3)成 形 条 件
横 押 出 鍛 造 は 、 上 型 内 に Φ36 の シ リ ン ダ ー を 形 成 し 、 上 方 よ り パ ン チ を 下
降 さ せ て 金 型 内 に 素 材 を 充 満 さ せ る 。横 方 向 に 設 け た 2mm 厚 の 板 形 状 開 口 部
よ り 材 料 が 押 し 出 し た 。 金 型 に は 棒 材 押 出 部 外 径 F36 か ら 扇 状 に 幅 60mm に
拡 大 さ れ る よ う 金 型 基 本 形 状 を Fig.4.3.3 に 示 し た 。 ま た 素 材 押 出 方 向 に 対 向
す る 金 型 の 外 観 を Fig4.3.4 に 示 し た 。
鍛 造 加 工 に は 、 金 型 加 熱 装 置 を 取 り 付 け た AP&T 社 製 の 油 圧 NC 制 御 4 シ
リ ン ダ ー プ レ ス を 使 用 し 、 473K(200℃ )の 恒 温 状 態 で 加 工 し た 。
Fig.4.3.3
Principal dimension of tools
Fig.4.3.4 Outlook of extrusion area of principle tool
使 用 し た 金 型 は 、押 出 成 形 性 の 影 響 を 調 べ る 目 的 で Fig.4.3.5~7 に 示 し た
金 型 図 の 中 の A~D の 4 項 目 を パ ラ メ ー タ と し て 選 定 し 、 そ の 設 定 値 は
Table4.3.4 に 示 し た 種 類 の 条 件 で 評 価 を 行 っ た 。
押出シリンダーの出口コーナ R は、強いせん断変形を付与できる一方で、
押 出 荷 重 を 大 幅 に 増 加 さ せ る 事 が 懸 念 さ れ る 。潤 滑 供 給 に つ い て は 、押 出 成 形
の 場 合 の 潤 滑 剤 の 欠 乏 を 、押 出 時 に 生 じ る と 予 想 さ れ る 負 圧 で 被 加 工 材 に 供 給
214
させることを期待した。またダイスコーナ R は扇状に押出される領域のコー
ナ R を変化させたもので、被加工材の流動特性を向上させる効果と、バリ発
生によって変形抵抗を増加させるマイナス効果の両方が予想される。
押 出 シ リ ン ダ ー の 外 径 に つ い て は 、 押 出 比 が 約 10% 増 加 す る 事 に よ る マ イ
ナ ス 効 果 が あ る も の の 、拡 張 す る 比 率 が 低 下 す る こ と で 棒 材 押 出 対 向 部 で の 等
2 軸引張量を低減することで、摩擦力を低下することを期待した。
Table4.4.4 Condition of tool design
No
①
②
③
④
1 mm
1 mm
1 mm
Non
Non
Exist
Cylinder corner radius
A
0 mm
Lubricant supply pocket
B
Non
Die corner radius
C
2 mm
2 mm
0.2mm
0.2 mm
Diameter of Cylinder
D
F36.5
F36.5
F36.5
F40
D
A
Fig.4.3.5
Principal dimension of upper extrusion die
215
B
Fig.4.3.6
Principal dimension of upper extrusion die
with lubricant pocket
C
Fig.4.3.7
Principal dimension of lower die
216
4.3.2.3
実験結果および考察
(1)成 形 性
一 般 的 な マ グ ネ シ ウ ム 鍛 造 温 度 で あ る 約 300℃ に 比 較 し て 、本 法 で は 更
に 低 温 の 200℃ に お い て 、良 好 な 成 形 品 を 得 る こ と が 出 来 た 。
( Fig.4.3.8)
し か し 成 形 長 135mm 程 度 ま で は 約 0.5sec の 加 工 時 間 で 成 形 可 能 で あ る
が 、 こ の 後 は 、 プ レ ス の 最 大 荷 重 700KN で も 成 形 で き ず 停 止 し た 。 こ れ
は 棒 材 の 押 出 の 金 型 対 向 部 に 繰 り 返 し 棒 材 が 押 圧 摺 動 し た こ と か ら 、潤 滑
剤 の 膜 切 れ を 生 じ て 摩 擦 係 数 が 上 昇 し た も の と 思 わ れ る 。こ の た め 成 形 長
135mm 以 上 の 場 合 に は 、 成 形 途 中 で 金 型 を 開 い て 潤 滑 剤 を 再 塗 布 す る こ
とによって成形することが出来た。
(a)
Billet
(b) Products
Fig.4.3.8 Forging billet and products
2)金 型 条 件 に よ る 成 形 性 評 価 結 果
実 験 条 件 ① で は 、 押 出 シ リ ン ダ ー の 耐 荷 重 の 上 限 で あ る 650KN ま で の
加重付与では成形できなかった。本条件では、特に特徴的な条件設定は、
押出シリンダーの出口コーナ R を 0 とした点にある。
よ り 厳 し い せ ん 断 変 形 付 与 に 有 効 と 思 わ れ た コ ー ナ R=0 で あ っ た が 、
変 形 抵 抗 の 増 加 に よ り 上 限 荷 重 を 超 え た も の と 思 わ れ る 。ま た コ ー ナ R=0
で あ る こ と で 、被 加 工 材( ビ レ ッ ト )の カ ジ リ が 発 生 し た こ と に よ っ て 焼
き付きを生じたことで成形荷重が増加した可能性もある。
217
Table 4.3.9
Forging test result of condition No.1( ① )
No
Result
①
Cylinder corner radius
A
0 mm
Lubricant supply pocket
B
Non
Die corner radius
C
2 mm
Diameter of Cylinder
D
F 36.5
Impossible to forge
実 験 条 件 ① に お い て 成 形 不 可 で あ っ た 結 果 を 受 け て 、押 出 シ リ ン ダ ー の
出 口 コ ー ナ R を 1mm 付 与 し 、 材 料 流 動 性 を 改 善 し た 。 こ の 結 果 、 Table
4.3.10 に 示 し た よ う に 成 形 可 能 と な っ た 。
成 形 後 の ダ イ ス の 表 面 状 態 を Fig.4.3.8 に 示 し た よ う に 、 摩 擦 痕 は 棒 材
ビ レ ッ ト が 押 し つ け ら れ る 対 向 面 で は な く 、開 口 し た ス リ ッ ト 面 付 近 に 放
射 状 に 発 生 し て い た 。 摩 擦 痕 の 起 点 は ス リ ッ ト に 入 る 位 置 か ら 約 10mm
程度の範囲であり、以降の領域では発生しなかった。
Table 4.3.10
No
Forging test result of condition No.2( ② )
②
Cylinder corner radius
A
1 mm
Lubricant supply pocket
B
Non
Die corner radius
C
2 mm
Diameter of Cylinder
D
F 36.5
Result
Fig.4.3.9
Outlook of die surface
218
Load stroke diagram
成 形 品 を Fig.4.3.10 に 示 し た 。 成 形 荷 重 が 過 大 で あ る こ と か ら 、 押 出
シ リ ン ダ ー お よ び 上 下 金 型 の 合 わ せ 面 に バ リ が 観 察 さ れ た 。こ の た め 更 に
成形荷重を低下させる金型構造が必要であると考えられた。
Fig.4.3.10
Outlook of products
更に、ダイスコーナ R の影響を調べるために、ダイスのコーナ R を
【 2mm→0.2mm】 に 変 更 し た 。
こ の 結 果 、 Table4.3.11 に 示 し た よ う に 、 平 面 部 の 長 さ は 事 件 条 件 ② に
対して短くなった。これはダイスコーナ R を小さくしたことで材料流動
性が低下したために生じ、主原因としてはコーナ R が小さくなったこと
で 、材 料 が コ ー ナ へ 充 満 す る 際 に 大 き な 塑 性 変 形 を 受 け 、新 生 面 が 生 じ て
摩擦係数が上昇したためと推定できる。
Table 4.3.10
Forging test result of condition No.3( ③ )
No
Result
③
Cylinder corner radius
A
1 mm
Lubricant supply pocket
B
Non
Die corner radius
C
0.2 mm
Diameter of Cylinder
D
F 36
219
Load stroke diagram
実 験 条 件 ④ と し て 、潤 滑 剤 の 不 足 を 補 う 目 的 で 潤 滑 ポ ケ ッ ト を 設 置 し た 。
(金
型 図 面 は 、 Fig.4.3.7 参 照 ) 一 方 で 実 験 条 件 ③ で は 成 形 を 低 下 さ せ た ダ イ ス コ
ー ナ R は 0.2mm に 固 定 し た 。ま た 潤 滑 ポ ケ ッ ト を ダ イ ス に 加 工 す る 際 に 、押
出シリンダー内径を潤滑ポケット幅分のみ拡大した。
こ の 結 果 、実 験 条 件 ② と 同 レ ベ ル ま で 成 形 性 が 向 上 し た 。こ れ は 潤 滑 ポ ケ ッ
ト の 効 果 が 現 れ た も の と 考 え ら れ る 。一 方 、最 終 ス ト ロ ー ク ま で 押 出 成 形 す る
ことは出来なかった。これはダイスコーナ R の影響もあるが、ポケット内に
封入した潤滑剤の絶対量が不足したことが原因と考えられる。
ポケットの潤滑剤容量を拡大することで、対策が可能と考えられるが、
Fig.4.3.10 に 示 し た よ う に オ イ ル ポ ケ ッ ト 内 に 材 料 が 入 り 込 み 、型 に 習 っ て い
た 。こ の た め オ イ ル ポ ケ ッ ト の 幅 も し く は 深 さ を 大 き く し て も 、材 料 が 流 入 す
ることによって材料流動抵抗が増加する事が予想されることから効果は限定
的であることが理解できる。
Table 4.3.11
No
Forging test result of condition No.4( ④ )
Cylinder corner radius
A
1 mm
Lubricant supply pocket
B
Exist
Die corner radius
C
0.2 mm
Diameter of Cylinder
D
F 40
Fig.4.3.10
Result
④
Load stroke diagram
Outlook of products with lubricant pocket
220
4)成 形 品 の 硬 度 分 布
押出成形品の断面硬度を測定した。
測 定 位 置 は Fig.4.3.11 に 示 し た よ う に 、 F36 の CREO 処 理 し た 棒 材 部 分
と押出された板材部分を測定した。
Fig.4.3.11
Measuring position of extruded sample of AZ61
測 定 対 象 と し た の は 、Table 4.3.11 に 示 し た 成 形 条 件 で 得 ら れ た サ ン プ ル と
し た 。す な わ ち 最 も 良 好 な 成 形 条 件 の サ ン プ ル で あ り 、押 出 シ リ ン ダ ー の コ ー
ナ R は 1mm、 ダ イ ス コ ー ナ R は 0.2mm、 押 出 シ リ ン ダ ー 系 は F40 で あ り 、
潤滑剤ポケットを設置した金型を使用した。
①棒材部分の硬度分布
硬 度 測 定 結 果 Fig.4.3.12 に お い て 、 CREO 処 理 し た 棒 材 部 分 が A の デ ー タ
で 示 し た 。 AZ61 の 素 材 段 階 で の 硬 度 は Hv=65 程 度 で あ り 、 CREO 処 理 に よ
っ て Hv で 20 レ ベ ル の 硬 度 上 昇 が 得 ら れ て い る こ と が 分 か る 。ま た CREO 処
理 の 特 徴 で も あ る 、中 心 部 の 素 材 粗 大 組 織 残 留 の た め A2 位 置 で の 硬 度 が 、A1、
A3 で 示 さ れ る 棒 材 外 周 部 に 比 較 し て 低 い 硬 度 を 示 し た 。
押出の出口側に近づく B 位置のデータでは、棒材の内外硬度差が均一化し
た も の の 、 外 周 部 硬 度 は 素 材 ( A1、 A3) に 対 し て 硬 度 低 下 が 見 ら れ た 。 金 型
に よ る 200℃ 加 熱 で は 、 4.4.3.3 で 示 し た よ う に 硬 度 低 下 す る と は 考 え ら れ な
い 。 B1~B3 の 範 囲 で は 押 出 変 形 は 僅 か で あ る と 考 え ら れ 、 横 押 出 加 工 に よ る
微 細 化 と 硬 度 上 昇 の 効 果 は 得 ら れ な い こ と が 予 想 さ れ る 。従 っ て 押 出 に 際 し て
生じる摩擦発熱によって硬度低下する温度まで棒材表層部分が上昇した可能
221
性がある。
C 位 置 に お い て は 、横 押 出 方 向 の C3 ほ ど 高 い 硬 度 を 示 し た 。4.1.3.2 項 の 拡
張 押 出 マ ク ロ エ ッ チ ン グ 組 織 と 同 様 に 、底 面 で の 横 方 向 の 強 い 材 料 流 動 が 発 生
し た こ と か ら 、摩 擦 発 熱 に よ る 軟 化 を 上 回 る 微 細 化 が 進 ん だ の で は な い か と 考
えられた。
②板材部分の硬度分布
板 材 部 分 の 硬 度 は 全 般 的 に 、CREO 処 理 後 に 対 し て 低 下 傾 向 と な っ た 。押 し
出 さ れ た 板 材 先 端 付 近 の 硬 度 が 最 も 高 く 、根 元 に 近 づ く ほ ど に 硬 度 低 下 が 顕 著
に な っ た 。こ れ は 押 出 の 加 工 発 熱 お よ び 素 材 と 金 型 の 摩 擦 発 熱 が 発 生 し 、成 形
の 後 期 で あ る 根 元 に 近 い ほ ど に 、熱 が 金 型 に 蓄 積 さ れ 温 度 が 更 に 上 昇 し た こ と
が原因と考えられる。
板 形 状 を 形 成 す る 金 型 は 、 Fig.4.3.5 に 示 し た よ う に 、 板 形 状 で 金 型 と 素 材
が 接 触 す る 部 分 が 短 い が 、更 に 接 触 部 分 を 短 く し 空 圧 に よ る 成 形 品 の 冷 却 な ど
を加える事で硬度低下は抑制可能と考える。
90.0
Hardness Hv
85.0
80.0
75.0
70.0
A
B
65.0
C
60.0
1
2
3
4
5
6
Position
Fig.4.3.12 Cross section hardness distribution of extruded sample of AZ61
222
5)結 晶 組 織 観 察 結 果
押 出 サ ン プ ル の 光 学 顕 微 鏡 組 織 を Fig.4.3.13 お よ び Fig.4.3.14 に 示 し た 。
測 定 対 象 と し た の は 硬 度 測 定 に 同 じ く 、Table 4.3.11 に 示 し た 成 形 条 件 で 得 ら
れ た サ ン プ ル と し た 。す な わ ち 最 も 良 好 な 成 形 条 件 の サ ン プ ル で あ り 、押 出 シ
リ ン ダ ー の コ ー ナ R は 1mm、 ダ イ ス コ ー ナ R は 0.2mm、 押 出 シ リ ン ダ ー 系
は F40 で あ り 、 潤 滑 剤 ポ ケ ッ ト を 設 置 し た 金 型 を 使 用 し た 。
棒 材 領 域 で あ る A 列 の 組 織 は 、Fig 4.3.13 に 示 し た よ う に 、微 細 粒 と 粗 大 粒
が混在したものとなった。押出下進行する B 列から C 列に移行する事で、粗
大粒の比率が減少する傾向を示した。
こ れ は 横 押 出 に よ る せ ん 断 お よ び 曲 げ ひ ず み 付 与 に よ っ て 、CREO 処 理 段 階 で
は残留していた粗大粒が微細化され比率が減少したもの考えられる。
Fig.4.3.13 Cross section microstructure of extruded sample of AZ61
223
押 出 さ れ た 板 材 形 状 の 領 域 に お け る 光 学 顕 微 鏡 組 織 を Fig.4.3.14 に 示 し た 。
板材領域では何れの位置においても粗大粒は消失し、微細均質組織となった。
横方向押出によって強いせん断ひずみが付与されて粗大粒が微細化したもの
と考えられ、非常任均質性の高い結晶組織を得る事が出来た。
こ の よ う に 横 押 出 に よ っ て 結 晶 組 織 が 大 幅 に 改 善 さ れ 、微 細 均 質 な 結 晶 組 織
を 得 る 事 が 可 能 で あ る こ と が 分 か り 、棒 材 か ら 板 材 へ 形 状 を 変 え る の み な ら ず 、
結晶組織および特性を向上させる手法として有効であることが分かった。
Fig. 4.3.14
Cross section microstructure of extruded sample of AZ61
224
4.3.2.4
1 方向横押出の結言
① 一 般 的 な マ グ ネ シ ウ ム 鍛 造 温 度 で あ る 約 300℃ に 比 較 し て 、本 法 で は 更 に 低
温 の 200℃ に お い て 、 良 好 な 成 形 品 を 得 る こ と が 出 来 た 。
② 成 形 長 135mm 程 度 ま で は 約 0.5sec の 加 工 時 間 で 成 形 可 能 で あ る が 、 こ の
後 は 、 プ レ ス の 最 大 荷 重 700KN で も 成 形 で き ず 停 止 し た 。 こ れ は 棒 材 の 押
出 の 金 型 対 向 部 に 繰 り 返 し 棒 材 が 押 圧 摺 動 し た こ と か ら 、潤 滑 剤 の 膜 切 れ を
生じて摩擦係数が上昇したものと思われる。
③金型形状において、以下の条件で良好な成形結果が得られた。
Table 4.3.12 Condition of tool design
No
④
Cylinder corner radius
A
1 mm
Lubricant supply pocket
B
Exist
Die corner radius
C
0.2 mm
Diameter of Cylinder
D
F40
④ 棒 材 部 分 に お い て CREO 処 理 に よ っ て 上 昇 し た 硬 度 は 、 押 出 口 近 傍 で 硬 度
の 上 昇 し た 領 域 と 加 工 し た 領 域 が 見 ら れ た 。硬 度 上 昇 は 加 工 ひ ず み に よ り 微
細 化 し て 得 ら れ 、硬 度 低 下 は 押 出 に 際 し て 生 じ る 摩 擦 発 熱 に よ っ て 硬 度 低 下
したものと思われる。
④ 板 材 部 分 に お け る 硬 度 分 布 は 全 般 的 に 、CREO 処 理 後 に 対 し て 低 下 傾 向 と な
っ た 。押 し 出 さ れ た 板 材 先 端 付 近 の 硬 度 が 最 も 高 く 、根 元 に 近 づ く ほ ど に 硬
度 低 下 が 顕 著 に な っ た 。こ れ は 押 出 の 加 工 発 熱 お よ び 素 材 と 金 型 の 摩 擦 発 熱
が 発 生 し 、成 形 の 後 期 で あ る 根 元 に 近 い ほ ど に 、熱 が 金 型 に 蓄 積 さ れ 温 度 が
更に上昇したことが原因と考えられる。
⑤ 板 形 状 を 形 成 す る 金 型 は 、 Fig.4.3.5 に 示 し た よ う に 、 板 形 状 で 金 型 と 素 材
が 接 触 す る 部 分 が 短 い が 、更 に 接 触 部 分 を 短 く し 空 圧 に よ る 成 形 品 の 冷 却 な
どを加える事で硬度低下は抑制可能と考える。
225
⑥押出された板材形状の領域において、素材に残存していた粗大粒は消失し、
微 細 均 質 組 織 と な っ た 。横 方 向 押 出 に よ っ て 強 い せ ん 断 ひ ず み が 付 与 さ れ て
粗 大 粒 が 微 細 化 し た も の と 考 え ら れ 、非 常 任 均 質 性 の 高 い 結 晶 組 織 を 得 る 事
が出来た。
⑦ 横 押 出 に よ っ て 結 晶 組 織 が 大 幅 に 改 善 さ れ 、微 細 均 質 な 結 晶 組 織 を 得 る 事 が
可 能 で あ る こ と が 分 か り 、棒 材 か ら 板 材 へ 形 状 を 変 え る の み な ら ず 、結 晶 組
織および特性を向上させる手法として有効であることが分かった
226
4.3.3
2 方向板押出成形
4.3.2.1
2 方向板押出成形法の概念
摩 擦 力 の 問 題 を 解 決 す る た め に 、棒 材 に 上 下 2 軸 か ら 同 時 に 加 圧 し て 押 出 す
る 2 軸 押 出 鍛 造 を 試 み た 。 加 工 概 念 を Fig.4.3.16 に 示 し た 。 素 材 を プ レ ス メ
イ ン シ リ ン ダ ー で 加 圧 保 持 し 、上 下 の サ ブ シ リ ン ダ ー に て 素 材 を 対 向 状 態 で 押
し 込 む 。高 い 圧 力 と な っ た 素 材 は 唯 一 開 放 さ れ た 横 方 向 の 開 口 部 で あ る 板 形 状
空隙から押し出される。
こ の 時 、上 下 の シ リ ン ダ ー の 速 度 が 不 連 続 に 不 一 致 の 場 合 に は 、素 材 押 出 部
に 板 材 の 押 出 に 対 し て 直 交 す る せ ん 断 ひ ず み が 発 生 し 、切 断 に 至 る こ と が 予 想
さ れ る 。こ の た め 成 形 に は サ ー ボ 機 能 付 き の プ レ ス シ リ ン ダ ー は 不 可 欠 で あ り 、
かつサブシリンダーのメカニカルサーボプレスは製作されていないことから、
油圧サーボプレスが不可欠な設備となる。
(a)
(b)
Open position
Fig.4.3.16
Forging
General picture of lateral Extrusion from 2direction
227
4.3.2.2
実験条件
(1)素 材 製 造 条 件
素 材 と し て AZ61 マ グ ネ シ ウ ム 合 金 を 使 用 し た 。 基 本 成 分 は Table.4.3.1 に
示 し た よ う に 、マ グ ネ シ ウ ム を 基 本 元 素 と し て 約 6% の ア ル ミ ニ ウ ム お よ び 約
1% の 亜 鉛 を 添 加 し た 中 高 強 度 に 分 類 さ れ る Mg-6Al-1Zn 押 出 合 金 で あ る 。
供 試 材 の 成 分 を Table4.3.1 に 示 す 。
Table 4.3.13 Chemical components of AZ61
Mass%
本 章 で は Φ30mm の AZ61 押 出 材 を CREO 処 理 し て 使 用 し た 。 CREO 処 理
条 件 は 、 捻 り 変 形 に よ る 加 工 発 熱 を 含 ま な い 状 態 で 300℃ の 条 件 で 、 回 転 数
8rpm、 横 移 動 速 度 300mm/min に て 微 細 化 処 理 を 行 っ た 。
加 熱 両 端 の 水 冷 は 、水 量 を 増 加 さ せ つ つ 加 熱 部 へ の 不 安 定 な 水 の 流 れ 込 み を
抑 制 す る た め 、給 水 と は 反 対 側 に 真 空 吸 引 す る 装 置 を 使 用 し た 。1 方 向 横 押 出
成 形 時 と 異 な る の は 、水 量 増 加 の み で あ る が 、マ グ ネ シ ウ ム 合 金 の 場 合 に は 熱
容 量 が 小 さ い こ と か ら 、過 剰 側 に 水 量 を 増 や し た の み で CREOS 処 理 時 の 曲 が
り発生低減以外には影響は無いと考えられる。
CREO 処 理 条 件 を Table 4.3.14 お よ び 、CREO 処 理 後 の 素 材 外 観 を Fig.4.3.17
に示した。
Table.4.3.14
Condition of CREO
Material
AZ61
Diameter
F 30mm
CREO temperature
300℃
Rotation speed
8rpm
Transfer speed
300mm/min
Water cooling
Forward
15 L/min
volume
backward
30 L/min
No.
CAZ61
228
D30 100824
Fig.4.3.17 Outlook of CREO treated AZ61
(2)
押出鍛造プレス
2 方向押出成形に使用したプレスは、1 方向横押出成形に使用したものを使
用した。
(3)成 形 条 件
横 押 出 鍛 造 は 、 上 型 内 に Φ36 の シ リ ン ダ ー を 形 成 し 、 上 方 よ り パ ン チ を 下
降 さ せ て 金 型 内 に 素 材 を 充 満 さ せ る 。横 方 向 に 設 け た 2mm 厚 の 板 形 状 開 口 部
よ り 材 料 が 押 し 出 し た 。 金 型 に は 棒 材 押 出 部 外 径 F36 か ら 扇 状 に 幅 60mm に
拡 大 さ れ る よ う 金 型 基 本 形 状 を 決 め た 。( Fig.4.3.4) 素 材 押 出 方 向 に 対 向 す る
金 型 の 外 観 を Fig4.3.5 に 示 し た 。
鍛 造 加 工 に は 、 金 型 加 熱 装 置 を 取 り 付 け た AP&T 社 製 の 油 圧 NC 制 御 4 シ
リ ン ダ ー プ レ ス を 使 用 し 、 473K(200℃ )の 恒 温 状 態 で 加 工 し た 。
Fig.4.3.18 Outlook of extrusion area of principle tool
229
(4)金 型 の 寸 法 形 状
2 方向横押出成形では、1 方向押出にて良好な成形結果であった条件にて
金 型 を 製 作 し た 。た だ し 潤 滑 ポ ケ ッ ト は 、押 出 シ リ ン ダ ー 追 加 の た め 設 置 で き
なかった。また押出シリンダーのコーナ R は、上下位置での設置が金型構造
上 で 不 可 能 で あ っ た た め 、 0.2mm と し た 。
す な わ ち Fig.4.3.19 に 示 し た よ う に 、 ダ イ ス コ ー ナ R: 0.2mm、 押 出 シ リ
ン ダ ー コ ー ナ R: 0.2mm、 押 出 シ リ ン ダ ー 径 : F36.5mm と し た 。
A
C
D
Fig.4.3.19 Principal dimension of extrusion di e
Table 4.3.15 Condition of tool design
No
①
Cylinder corner radius
A
Lubricant supply pocket
B
Die corner radius
C
0.2 mm
Diameter of Cylinder
D
F 36.5
230
0.2 mm
Non
Fig.4.3.20
Fig.4.3.21
Outlook of lower extrusion die
Outlook of upper extrusion die
231
(5)引 張 試 験 条 件
2 方 向 横 押 出 成 形 に つ い て は 引 張 試 験 を 実 施 し た 。 Fig.4.3.22
に試験片の
切 り 出 し 位 置 を , Fig.4.3.23 試 験 片 の 寸 法 形 状 を 示 し た . 引 張 試 験 片 は 、 押
出 方 向 に 対 し て 、0deg、45deg、90deg の 3 方 向 か ら 切 り 出 し を 行 っ た 。引 張
試 験 は ,オ ー ト グ ラ フ 精 密 万 能 試 験 機 AG-X (㈱ 島 津 製 作 所 製 )を 用 い て 、ク ロ
ス ヘ ッ ド 速 度 0.5mm/min に て 実 施 し た 。
Fig.4.3.22
Position of tensile test specimens
Fig.4.3.23 Dimension of tensile test specimens
232
4.3.2.3
実験結果および考察
(1)成 形 性
2 方 向 か ら の 同 時 押 出 成 形 に よ っ て 、Fig.4.3.24 に 示 し た よ う に 、潤 滑 剤 の
再 塗 布 等 無 し に 高 速 で 押 出 加 工 す る こ と が 可 能 と な っ た 。当 初 は 、プ レ ス の 上
下押出シリンダーの速度制御のみで 2 方向からの押出速度を同期させること
を 検 討 し た が 、 上 下 の 速 度 差 が 解 消 で き ず 、 結 果 的 に 上 下 で 30KN の 補 償 荷
重を付与する事で上下シリンダーの速度を同期させることが可能となった。
ま た 1 方 向 押 出 で は 600KN を 付 与 し て も 途 中 停 止 し た が 、 2 方 向 押 出 で は
550KN 程 度 の 荷 重 で 押 出 長 約 470mm ま で 成 形 す る こ と が 可 能 と な っ た 。
Fig.4.3.24
Outlook of lateral extrusion product from 2 direction
ただし金型による押出に対して直行方向の拘束距離が非常に短いこともあ
り 、曲 が り が 多 く 発 生 し た 。こ れ は 金 型 構 造 の 問 題 で あ り 、ガ イ ド 等 で 曲 が り
拘束することによって解消するレベルであると考えられる。
Fig.4.3.25
Outlook of lateral extrusion product from 2 direction
成 形 の 進 行 状 態 を Fig.4.3.26 に 示 し た 。
円 柱 棒 材 の 素 材 ビ レ ッ ト を 上 下 か ら 加 圧 す る と 、開 放 さ れ た 空 隙 か ら 矩 形 断 面
233
に押し出されてくる。押出の進行に伴って、扇形状に広がり最大幅である
60mm 幅 の 状 態 ま で 拡 張 さ れ る と 、 以 降 は 一 定 幅 で 押 出 が 進 行 す る 。
成 形 完 了 時 点 で 板 状 部 が 棒 材 部 か ら 脱 落 し た も の が 見 ら れ た が 、こ れ は 上 下
シ リ ン ダ ー が 成 形 完 了 し て 停 止 し た タ イ ミ ン グ で 、上 下 の 停 止 位 置 に ズ レ を 生
じてせん断ひずみが発生したことが原因と考えられる。
Fig.4.3.26
1 2
Outlook of forging steps
3 4
5
Fig.4.3.27 Load stroke diagram
234
(3)
成形荷重
成 形 時 の 荷 重 ス ト ロ ー ク 線 図 を Fig4.3.28 に 示 し 、図 中 に Fig.4.3.27 の 各 成
形 ス テ ッ プ の No を 記 載 し た 。ス テ ッ プ 1 に て F30 の ビ レ ッ ト が F36 の シ リ ン
ダ ー 内 径 ま で 圧 縮 さ れ て 充 満 す る 。横 方 向 に も 材 料 流 動 を 開 始 し て 、板 状 成 形
部 が 扇 状 に 拡 幅 す る 。最 大 荷 重 点 で あ る ス テ ッ プ 4 付 近 に て 、板 状 成 形 部 で 金
型 と の 接 触 が 最 大 と な る 。以 降 は 、成 形 中 の 荷 重 が 安 定 化 し て 、ス ト ロ ー ク エ
ンド到達で荷重低下する。ステップ 4 からステップ 5 の区間は、プレス設備
の 荷 重 不 足 も あ り 、 パ ン チ の 移 動 が 非 常 に 遅 い 状 態 と な り 、 Fig4.3.28 で の 両
矢印区間で緩やかに押出成形が進行する事が分かった。
また
成 形 完 了 時 に 破 断 状 態 を 観 察 す る た め に 、成 形 品 を 樹 脂 埋 め し て 断 面 形
状 を 観 察 し た 。( Fig.4.3.27)
ク ラ ッ ク 発 生 は 、棒 材 と 板 材 の 境 界 部 の み で あ り 、押 出 成 形 さ れ た 板 材 領 域
に ク ラ ッ ク 等 の 欠 陥 は 観 察 さ れ な か っ た 。ま た 成 形 条 件 に よ る 傾 向 差 も 観 察 さ
れ買った。
こ の た め 成 形 完 了 時 の ,シ リ ン ダ ー の オ ー バ ー シ ュ ー ト 量 の 差 が 生 じ て 、 せ
ん断亀裂が入ったものと推定できた。
せ ん 断 亀 裂 を 抑 制 す る た め に は 、金 型 を 衝 突 停 止 さ せ る こ と で 、メ カ ニ カ ル
に正確な停止位置をえること等が考えられる。
Fig.4.3.28
Cross section photo of extrusion area
235
押 出 を 限 界 ま で 押 し 込 ん だ 状 態 で の 板 状 成 形 部 の 状 況 を 確 認 し た 。押 出 荷 重
を 低 下 さ せ て 成 形 す る た め 、 ビ レ ッ ト 長 さ を 20mm ま で 短 縮 化 し て 押 出 成 形
を実施した。
押出完了部近傍では、波打状態が顕著
Table 4.3.16
Forging condition
に発生した。押出シリンダーに残留する
No.
100913-11
棒材部が一定以下に低下することによっ
Billet length
20mm
て、材料流動が並行流から乱流状態に移
Remain rod height
4.8mm
Stroke
15.2mm
行したことが推定できる。
Load
Fig.4.3.29
Upper
618KN
Lower
580KN
Temperature
200℃
Material
AZ61
Outlook of short billet forging
236
(4)金 型 摩 耗
型の同一箇所が素材を接触し続けるが、金型材質にハイスを使用する事で、
金型損傷は顕著には観察されなかった。
押 出 パ ン チ は 、素 材 を 押 し 出 す た め 高 面 圧 を 受 け る 部 分 と な る 。押 出 パ ン チ
に は 長 さ 10mm の ラ ン ド 部 を 形 成 し 潤 滑 お よ び 被 加 工 材 の 溶 着 に よ る 成 形 荷
重 の 増 加 を 抑 制 す る 構 造 と し た 。成 形 前 で は 全 面 に 塗 布 さ れ て い た 潤 滑 剤 が 鍛
造 時 の 押 出 に よ っ て ラ ン ド 部 の 潤 滑 は 大 半 が 消 失 す る 状 況 に あ っ た 。鍛 造 加 工
後 の パ ン チ ラ ン ド 部 に は 押 出 方 向 の 擦 痕 が 押 出 方 向 に 並 行 に 観 察 さ れ た が 、顕
著な焼き付き等は見られなかった。
(a) Before forging
(b) After forging
Fig.4.3.30 Outlook of extrusion punch
鍛 造 後 の 上 型 表 面 を 観 察 す る と 、板 形 状 の 端 部 の み に 若 干 の 素 材 凝 着 状 の 痕 が
見 ら れ る の み で あ っ た 。( Fig.4.3.30
)押出シリンダーコーナ R 部であり、
か つ 板 の 幅 方 向 端 部 の 領 域 に 潤 滑 剤 の 付 着 が 見 ら れ た 。こ れ は シ リ ン ダ ー 内 部
か ら 押 し 出 さ れ た 潤 滑 剤 が し ご き 出 さ れ た も の と 思 わ れ る が 、素 材 の 凝 着 や 摩
耗は観察されなかった。
ま た 押 出 シ リ ン ダ ー コ ー ナ R 部 か ら 板 形 状 へ 移 行 す る 領 域 に 、 数 mm レ ベ
ル の 幅 で 金 型 の 光 沢 面 が 生 じ て お り 、金 型 摩 耗 す る 可 能 性 の あ る 領 域 で あ る こ
とが分かった。
237
(a) Overall appearance (b) Detailed image
Fig.4.3.31 Outlook of upper die surface after forging
板 形 状 を 彫 り 込 ん だ 下 型 表 面 を 観 察 す る と 、板 の 幅 方 向 端 部 に 潤 滑 剤 の 堆 積
が 見 ら れ た 。金 型 の 摩 耗 の 兆 候 が 見 ら れ る の は 、上 型 に 同 じ く 押 出 シ リ ン ダ ー
コーナ R 部から板形状へ移行する領域のみであった。
Fig.4.3.32
Outlook of lower die surface after forging
238
押出シリンダー内部を観察
す る と 、 Fig.4.4.33 に 示 し た
ように素材の焼き付きが観察
された。
これは押出シリンダーとダイ
スの間に入り込んだマグネシ
ウム素材が高い圧力によって
金型に凝着したものと考えら
れる。
今後はクリアランスおよび
潤滑剤等の最適化をはかる必
要がある。
Fig.4.3.33
Inner surface of extrusion cylinder
以 上 の よ う に 、押 出 以 降 の 金 型 表 面 に は 摩 耗 お よ び 凝 着 の 傾 向 は 低 か っ た が 、
押 出 シ リ ン ダ ー 内 部 へ の 焼 き 付 き・凝 着 に つ い て 対 策 が 必 要 で あ る こ と が 分 か
った。
(5)
引張試験結果
押 出 速 度 を 高 速 と 低 速 の 2 水 準 に て 設 定 し 、板 状 成 形 部 の 引 張 試 験 を 行 っ た 。
プレスの吐出量を制御して成形した 2 種について、荷重ストローク線図を
Fig4.3.34 お よ び Fig.4.3.35 に 示 し た 。最 初 に メ イ ン シ リ ン ダ ー が 上 下 の 金 型
を勝つ保持する。
保 持 後 に 上 下 の 3rd4th シ リ ン ダ ー を 移 動 さ せ る が 、 移 動 当 初 は 金 型 内 を 移
動 し て い る の み で あ り 、素 材 に 接 触 し て い な い た め 荷 重 上 昇 は 見 ら れ な い 。次
に 第 1 段 階 の 荷 重 上 昇 が 発 生 す る が 、こ れ は 金 型 キ ャ ビ テ ィ に 対 し て 細 い ビ レ
ッ ト を 使 用 し て い る た め 、ビ レ ッ ト が 単 軸 圧 縮 さ れ て 金 型 内 に 充 満 し て い る 工
程となる。
板 形 状 の 押 出 は 、3 r d 4th の 荷 重 が ピ ー ク に 達 し て 定 常 状 態 を 続 け て い る 状 態 で
239
行われる。
Fig.4.3.34 Load-stroke diagram of Low speed forging
Fig.4.3.35 Load-stroke diagram of High speed forging
240
こ の た め 板 状 成 形 の 押 出 速 度 を 算 出 す る に は 、荷 重 定 常 状 態 で の ス ト ロ ー ク
∼ 時 間 ダ イ ア グ ラ ム か ら 読 み 取 る 必 要 が あ る た め 、 3rd 4th シ リ ン ダ ー の ス ト
ローク
∼ 時 間 ダ イ ア グ ラ ム を Fig.4.3.36 お よ び Fig.4.3.37 に 示 し た 。
押 出 速 度 の 測 定 範 囲 は 、ス ト ロ ー ク ∼ 時 間 ダ イ ア グ ラ ム の 中 で 、朱 書 き 矢 印
で示した範囲を選定した。
Fig.4.3.36
Fig.4.3.37
3 r d and 4 t h cylinder Stroke-Time diagram of
low speed extrusion
3 r d and 4 t h cylinder Stroke-Time diagram of
high speed extrusion
241
以 上 よ り 、 2 種 類 の 条 件 で 算 出 し た 押 出 速 度 を Table 4.3.17 に 示 し た 。
板材領域の押出速度を 2 水準で約 2 倍の速度差を付与した。
Table 4.3.17
Low speed(No9)
High speed (No17)
3rd+4th Cylinder extrusion speed
0.076mm/sec
0.168mm/sec
Sheet area extrusion speed
0.644mm/sec
1.424mm/sec
2 種 類 の 引 張 試 験 を 実 施 し 、 低 速 に お け る 結 果 を Fig.4.3.38 に 示 し た 。
引 張 強 さ は 350N/mm 2 を 超 え る 値 を 示 し 、 素 材 レ ベ ル で の 引 張 強 度 で あ る 約
280KN に 対 し て 、 約 20% の 強 度 向 上 と な っ た 。 こ れ は 4.2.3.7 項 で 示 し た 角
筒押出成形品の引張試験結果と類似した結果となった。
引 張 方 向 に よ る 異 方 性 は 非 常 に 小 さ く 、引 張 方 向 に よ る 差 は 殆 ど 見 ら れ な か
った。
Fig.4.3.38 Tensile test result at low speed
一 方 、押 出 速 度 を 約 2 倍 に 高 速 化 し た 押 出 条 件 に お い て は 、引 張 強 度 が 低 速
押 出 条 件 に 比 較 し て 強 度 低 下 し 、約 310MPa レ ベ ル と な っ た 。
( Fig4.3.39)こ
の 条 件 に お い て も 素 材 引 張 強 度 に 対 し て 10% 程 度 の 強 度 上 昇 が 得 ら れ た 。 破
断 伸 び に つ い て は 、低 速 押 出 条 件 で は 2.2∼ 2.7mm で あ っ た の に 対 し て 、高 速
押 出 条 件 に お い て は 2.45∼ 3.05mm で あ り 、 高 速 押 出 条 件 の 方 が 20% 程 度 向
242
上した。
こ れ は 高 速 押 出 条 件 の 方 が 、加 工 発 熱 の 影 響 が 大 き く な っ た こ と が 原 因 と 考
えられる。
Fig.4.3.39 Tensile test result at high speed
243
4.3.2.4
1)
2 方向横押出の結言
1 方向押出に対して、2 方向押出成形は低荷重で成形することが可能と
な り 、 ビ レ ッ ト 長 さ 100mm か ら 、 押 出 長 さ 470mm の フ ル ス ケ ー ル で
成形することが可能であった。
2)
上 下 方 向 か ら の 2 方 向 押 出 で の 懸 念 材 料 で あ っ た 、上 下 シ リ ン ダ ー の 同
期 に つ い て は 問 題 な く 、成 形 さ れ た 板 状 成 形 部 に お い て 破 断 な ど は 発 生
しなかった。
3)
金 型 損 傷 に つ い て は 、押 出 シ リ ン ダ ー 内 部 へ の 素 材 の 焼 き 付 き が 観 察 さ
れた。
現 状 に お い て 問 題 は 発 生 し て い な い が 、今 後 は シ リ ン ダ ー 部 の 金 型 材 質
および潤滑剤について改良を加える必要があると考えられる。
4)
板 状 成 形 部 の 引 張 試 験 を 行 い 、低 速 押 出 に お い て は 角 筒 押 出 に お け る 低
速 押 出 と 同 等 の 引 張 強 度 と な り 、 素 材 に 対 し て 約 20% 強 度 上 昇 し た 。
5)
高 速 押 出 に お い て は 、引 張 強 度 の 素 材 に 対 す る 向 上 幅 は 約 ⑩ % に 留 ま っ
た が 、 低 速 押 出 に 比 較 し て 約 10% の 破 断 伸 び 向 上 し た 。
244
4.3.4
結
言
マ グ ネ シ ウ ム 合 金 AZ61 を CREO 処 理 で 結 晶 粒 微 細 化 す る 事 に よ っ て 、
200℃ の 低 温 で 、板 横 押 出 鍛 造 が 可 能 で あ る 事 が 分 か っ た 。ま た 2 方 向 押 出 化
することによって、低荷重で良好な成形性を実現する事が出来た。
ま た CREO 処 理 に よ る 結 晶 粒 微 細 化 と 低 温 に 温 度 制 御 し た 大 き な せ ん 断 ひ
ず み 付 与 し た 横 押 出 成 形 の 相 乗 効 果 に よ っ て 、高 い 引 張 強 度 を 得 る 事 が 可 能 と
な り 、素 材 か ら 鍛 造 加 工 を 通 し た 結 晶 制 御 お よ び 機 械 的 促 成 制 御 と 向 上 が 可 能
であることが明らかとなった。
以上の横押出成形が可能となったことで、連続的に結晶粒微細化可能な
CREO 処 理 に お け る 課 題 で あ っ た 板 形 状 素 形 材 の 製 造 へ 一 つ の 可 能 性 を 提 示
できた。
横 押 出 成 形 は ,Fig.4.3.40 に 示 し た よ う に 、 板 押 出 成 形 と プ レ ス 成 形 を 組 み
合 わ せ る こ と が 可 能 と な る 。CREO 処 理 と 横 押 出 成 形 に よ っ て 結 晶 粒 を 微 細 化
し て 極 め て 高 い 成 形 を 得 た 板 状 素 形 材 を 、最 も 成 形 性 の 良 い 加 熱 状 態 を 保 っ た
ま ま で プ レ ス 成 形 す る こ と で 、Fig.4.3.41 に 示 し た よ う な 複 雑 形 状 の プ レ ス 成
形 品 を 高 精 度 に 成 形 す る こ と が 可 能 と な り 、か つ 得 ら れ た 成 形 品 は 高 強 度 の も
のとする事が可能となる。
Fig.4.3.40
Application of lateral sheet extrusion forging
245
また押出形状は金型によって断面形状を変更可能である。中空成形も可能で
あ る こ と か ら 、押 出 と プ レ ス の 連 動 に よ っ て 多 様 な 形 状 を 、少 な い 金 型 で 成 形
することが期待できる。
以 上 の よ う に 、CREO 処 理 お よ び 板 横 押 出 成 形 、そ し て プ レ ス 成 形 を 組 み 合
わ せ る こ と で 、良 好 な 機 械 的 促 成 を 持 ち な が ら 、複 雑 形 状 の 成 形 品 を 得 る 事 が
期待できる。
Fig.4.3.41
Product from sheet extrusion
246
Fig.4.3.43
Cross section design variation
of sheet extrusion forging
【参考文献】
1)
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コロナ社
p 134
2)
塑性加工便覧
コロナ社
p 232
3)
わかりやすい鍛造加工
4)
中村
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p113
克昭
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第 57 回 塑 性 加 工 連 合 講 演 会 (2006)
5)
p419-420
K.Nakamura
“ Rapid Continuous Metal Grain Refinement process “STSP” and its
Application to Plastic Forming“
ICCES’07 (2007) p1947-1951
6)
中村
克昭
“結 晶 粒 微 細 化 し た マ グ ネ シ ウ ム 合 金 の 恒 温 鍛 造 に 関 す る 研 究 ”
第 58 回 塑 性 加 工 連 合 講 演 会
7)
中村
克昭、鈴木
(2007) P267-268
裕
“ 微 細 結 晶 粒 Mg 合 金 の 恒 温 条 件 下 に お け る 押 広 げ 鍛 造 ”
型技術
8)
中村
第 25 巻
克昭、杉本
第 7号
2010
康子、恵良
7 月号
p90-91
秀則、鈴木
裕
微 細 結 晶 Al-Mg 合 金 の 恒 温 条 件 下 に お け る 押 出 鍛 造
型技術
9)
中村
第 26 巻
克昭、鈴木
第 7号
2011
7 月号
p18-19
裕
横押出鍛造による棒素材からの新板材成形法
型技術
第 25 巻
10) 日 経 も の づ く り
第 12 号
2010
May 2011 P28-30
247
12 月 号
p92-93
4.4
押出鍛造まとめ
RMA-CREO 処 理 で 微 細 化 し て 塑 性 加 工 性 を 大 幅 に 向 上 し た マ グ ネ シ ウ ム 合
金 AZ61 を 用 い て 、高 強 度 で 複 雑・高 精 度 の 鍛 造 部 品 を 実 現 す べ く 押 出 成 形 法
を基本とした恒温鍛造技術の研究開発を行った。
マ グ ネ シ ウ ム 合 金 と し て は 低 温 で あ る 200℃ 以 下 に お い て 、 1 回 も し く は 2
回のせん断変形を付与する大変形においても割れ等発生せず成形することが
出来た。
低 温 で 鍛 造 加 工 す る こ と で 、CREO に よ り 結 晶 粒 微 細 化 し た 金 属 材 料 が 加 工
時 加 熱 で 組 織 が 粗 大 化 す る 事 を 抑 制 し た 。更 に 温 度 管 理 下 に お け る せ ん 断 ひ ず
み付与によって、更なる微細化と特性向上をはかることを目指した結果、
CREO 処 理 に て 残 留 し た 粗 大 粒 を 微 細 化 す る 効 果 を 見 い だ せ た 。こ れ に よ っ て
大幅な強度上昇が得られた。
具体的な加工法として、
【拡張押出】
【角筒押出】
【 板 押 出 】を 考 案 し た 。CREO
処 理 を 用 い て 結 晶 粒 微 細 化 し た マ グ ネ シ ウ ム 合 金 AZ61 を 使 用 し て 、各 押 出 加
工法の研究を進めた。
【 拡 張 押 出 】 で は 、 結 晶 粒 微 細 化 に よ っ て 鍛 造 温 度 を 下 げ 、 200℃ に て 丸
棒 か ら 円 盤 状 に 拡 張 押 出 す る 加 工 法 “拡 張 押 出 ”を 試 み 、良 好 な 成 形 結 果 を 得 る
事 が 出 来 た 。成 形 さ れ た 拡 張 部 の 組 織 観 察 で 、CREO処 理 材 に 比 較 し て 均 質 微
細な結晶組織が得られる事が分かった。
ま た 拡 張 押 出 を ベ ー ス に し て 、丸 棒 か ら の 前 方 押 出 に よ っ て 薄 肉 の 角 筒 を 成
形 す る【 角 筒 押 出 】を 試 み た 。こ の 結 果 、顕 著 な 金 型 損 傷 も 無 く 、良 好 な 面 粗
度 の 角 筒 形 状 成 形 品 を 得 る 事 が 可 能 で あ る こ と を 示 し た 。押 出 荷 重 は 、一 般 に
使 用 さ れ る 後 方 押 出 に お け る 成 形 荷 重 の 1/5∼ 1/10 ま で 、低 荷 重 化 が 可 能 で あ
る こ と を 示 せ た 。 ま た 素 材 で あ る CREO 処 理 棒 材 に 対 し て 、 大 径 の 成 形 品 を
得 る 事 が 可 能 で あ る こ と が 分 か り 、CREO 処 理 材 の サ イ ズ の 限 界 に よ ら ず 成 形
品を得る事が可能であることが示せた。
結 晶 組 織 も 微 細 化 し 、特 に 低 速 で 押 出 し た 場 合 に お い て 、微 細 化 お よ び 強 度
上 昇 す る 事 が 分 か っ た 。低 速 鍛 造 に 比 較 し て 高 速 鍛 造 に お い て 、結 晶 組 織 が 粗
大 化 し て 強 度 が 低 下 し た が 、こ れ は 速 度 に 依 存 し や す い 加 工 発 熱 の 影 響 と 思 わ
れ る 。こ れ は 鍛 造 後 の 冷 却 に よ り 微 細 化 及 び 強 度 上 昇 が は か れ る も の と 思 わ れ
る。
248
更 に CREO 処 理 の 課 題 で あ る 板 状 素 形 材 の 加 工 に つ い て も 、
【板横押出成形】
に よ っ て 棒 材 径 の 2 倍 の 幅 に 至 る 板 材 を 成 形 す る こ と が 出 来 た 。本 法 に よ り 得
ら れ た 微 細 組 織 を 有 す る 板 材 を プ レ ス 成 形 に 用 い る 事 に よ っ て 、更 に 板 形 状 の
成 形 が 可 能 と な っ た 。特 に 押 出 鍛 造 と プ レ ス 絞 り 加 工 を 連 動 さ せ る こ と に よ っ
て 、CREO 処 理 及 び 押 出 鍛 造 で 形 成 さ れ た 微 細 結 晶 組 織 が 供 す る 高 い 延 性 を 活
用して複雑形状が成形可能となる。
以 上 の 、3 種 類 の 押 出 鍛 造 加 工 に お い て 、CREO 処 理 に よ っ て 形 成 し た 微 細
結晶粒組織を損傷することなく成形可能であることを示した。また
更 に 、CREO 処 理 で 付 与 し た 強 ひ ず み に 、鍛 造 加 工 で 更 な る せ ん 断 ひ ず み を
付 与 す る 事 で 、CREO 材 の 微 細 結 晶 を 更 に 微 細 化 す る 事 が 可 能 と な っ た 。こ れ
に よ り 引 張 強 度 お よ び 耐 力 を 添 加 元 素 に 頼 る こ と な く CREO 処 理 後 の 材 料 以
上に向上させる事が出来た。
本 プ ロ セ ス に よ る 効 果 は 、今 回 対 象 と し た マ グ ネ シ ウ ム 合 金 の み に 生 じ る も
のではなく、広範囲の金属材料に適用可能であると考える。
添 加 元 素 に 頼 ら な い 結 晶 粒 微 細 化 プ ロ セ ス RMA-CREO お よ び 、微 細 化 材 料
を 最 大 限 に 活 用 可 能 な 塑 性 加 工 プ ロ セ ス で あ る 恒 温 押 出 鍛 造 に よ っ て 、安 全 ・
環 境 に 最 大 限 の 配 慮 を 行 い 、レ ア メ タ ル に 頼 ら な い 、複 雑 形 状 の 金 属 部 品 製 造
技術の可能性を見いだせたと考える。
249
第 5章
結
論
本 論 文 で は 、添 加 元 素 に 頼 ら な い 金 属 材 料 の 開 発 を 目 指 し て 、強 ひ ず み 結 晶
粒 微 細 化 プ ロ セ ス “RMA-CREO”の 開 発 を 行 っ て き た 。 ま た CREO 処 理 材 を 使
用 し た 恒 温 押 出 鍛 造 技 術 と の 相 乗 効 果 に よ っ て 、【 元 素 に 頼 ら な い 合 金 設 計 】
と【 ニ ア ネ ッ ト シ ェ イ プ 化 に よ る 材 料 使 用 量 減 】を 目 指 し 、高 強 度 で 複 雑・高
精度の鍛造部品を実現すべく研究開発を行ってきた。
第 1 章 で は 、電 子・電 気 機 器 に お け る 特 定 有 害 物 質 の 使 用 制 限 に つ い て の 欧
州 連 合 (EU)に よ る 指 令 で あ る RoHs、新 化 学 品 規 制 で あ る REACH 等 の 環 境 規
制 に 代 表 さ れ る 金 属 を 取 り 巻 く 安 全 と 環 境 の 要 求 。ま た 自 動 車 業 界 を 取 り 巻 く
環 境・レ ア メ タ ル・リ サ イ ク ル 性・燃 費 規 制・安 全 性・低 コ ス ト 化・新 興 国 の
発展による差別化技術の必要性等について論じた。
こ の 結 果 、添 加 元 素 に 頼 ら な い 実 用 的 な 連 続 結 晶 粒 微 細 化 技 術 お よ び ニ ア ネ
ットシェイプ可能な恒温鍛造の必要性に思い至った。
第 2 章 で は 、従 来 の 結 晶 粒 微 細 化 技 術 で は 実 現 で き て い な か っ た 、連 続 高 生
産 性 の 結 晶 粒 微 細 化 技 術 “RMA-CREO”に よ っ て 、 多 様 な 材 質 に つ い て 結 晶 粒
微細化可能であることを論じた。
第 3 章 で は 、 面 心 立 方 格 子 で あ る 非 調 質 系 ア ル ミ ニ ウ ム Al-Mg 合 金 に つ い
て 、 CREO 処 理 に よ る 結 晶 粒 微 細 化 の 効 果 に つ い て 、 CREO 処 理 可 能 条 件 を
明 確 化 し た 。 ま た CREO 処 理 条 件 の 最 適 化 を 行 い 、 微 細 な 結 晶 組 織 を 得 る こ
と を 示 し た 。ま た 結 晶 粒 微 細 化 に よ る 高 強 度 化 に つ い て 調 べ 、特 に Hall-Petch
の 関 係 式 で 示 さ れ る よ う に ,大 幅 な 耐 力 向 上 を 実 現 す る 事 が 出 来 た 。
また強い異方性を有し塑性加工性が低い稠密六方格子のマグネシウム合金
に つ い て CREO 処 理 を 適 用 し た 。 材 料 と し て は 結 晶 粒 微 細 化 を 実 現 す る こ と
が 可 能 と な り 、異 方 性 の 制 御 を 可 能 に す る と と も に 高 強 度 化 を 実 現 で き た 。ま
た 結 晶 粒 微 細 化 に よ っ て 、 鍛 造 可 能 温 度 を 一 般 材 の 330℃ 以 上 の 高 温 か ら 、
200℃ 以 下 ま で 大 幅 に 低 下 さ せ る こ と に 成 功 し た 。
第 4 章 で は 、CREO 処 理 に よ っ て 結 晶 粒 微 細 化 し た マ グ ネ シ ウ ム 合 金 AZ61
を 使 用 し て 、低 荷 重 で 複 雑 で 大 型 の 成 形 が 可 能 と な る 恒 温 押 出 成 形 に つ い て 論
じた。
結晶粒微細化によって低下することが出来た鍛造温度を最大限に活用する
た め 、 200℃ の 低 い 温 度 で 丸 棒 か ら 円 盤 状 に 拡 張 押 出 す る 加 工 法 “拡 張 押 出 ”を
試み、良好な成形結果を得る事が出来た。
250
拡 張 押 出 を ベ ー ス に し て 、同 じ く 200℃ の 低 温 下 で 、丸 棒 か ら の 前 方 押 出 に
よ っ て 薄 肉 の 角 筒 を 成 形 す る こ と を 試 み た 。こ の 結 果 、顕 著 な 金 型 損 傷 も 無 く 、
良好な面粗度の角筒形状成形品を得る事が可能であることを示した。
更 に CREO 処 理 の 特 徴 で あ り ,か つ 課 題 で あ る 板 状 素 形 材 の 製 造 に 関 し て も
200℃ に て 、 押 出 を 利 用 し た 板 横 押 出 成 形 に つ い て 、 1 方 向 お よ び 2 方 向 か ら
の 押 出 成 形 に よ っ て 検 討 し た 。こ の 結 果 、1 方 向 か ら で も 板 形 状 を 成 形 可 能 で
あ る が 、2 方 向 か ら 押 出 シ リ ン ダ ー を 同 期 さ せ て 押 し 出 し た 2 方 向 板 横 押 出 成
形 に よ っ て 、棒 材 径 の 2 倍 の 幅 に 至 る 板 材 を 成 形 す る こ と が 出 来 た 。本 法 を プ
レ ス 成 形 と の 組 合 せ に よ っ て 応 用 す る 事 で 、更 に 複 雑 形 状 の 成 形 実 現 可 能 性 に
ついて示す事が出来た。
以 上 の 、3 種 類 の 押 出 鍛 造 加 工 に お い て 、CREO 処 理 に よ っ て 形 成 し た 微 細
結 晶 粒 組 織 を 損 傷 す る こ と な く 成 形 可 能 で あ る こ と を 示 し た 。更 に 、CREO 処
理 で 付 与 し た 強 ひ ず み の 方 向 と は 異 な る 方 向 で 、大 き な せ ん 断 ひ ず み を 押 出 鍛
造 に て 付 与 す る 事 に よ っ て 、結 晶 粒 の 一 段 の 微 細 化 を 実 現 で き た 。素 材 に 対 し
て 向 上 し た CREO 処 理 後 の 機 械 的 性 質 が 、 更 な る 結 晶 粒 微 細 化 に よ っ て 、 引
張強度および耐力を、添加元素に頼ることなく向上させる事が出来た。
本 プ ロ セ ス に よ る 効 果 は 、今 回 対 象 と し た ア ル ミ ニ ウ ム 合 金 お よ び マ グ ネ シ
ウ ム 合 金 の み に 生 じ る も の で は な く 、広 範 囲 の 金 属 材 料 に 適 用 可 能 で あ る と 考
える。
添 加 元 素 に 頼 ら な い 結 晶 粒 微 細 化 プ ロ セ ス RMA-CREO お よ び 、微 細 化 材 料
を 最 大 限 に 活 用 可 能 な 塑 性 加 工 プ ロ セ ス で あ る 恒 温 押 出 鍛 造 に よ っ て 、安 全 ・
環 境 に 最 大 限 の 配 慮 を 行 い 、レ ア メ タ ル に 頼 ら な い 、金 属 部 品 製 造 技 術 の 可 能
性を実現する事が出来た。
今 後 は 、RMA-CREO 技 術 の 効 果 を 最 大 に す る 処 理 条 件 の 明 確 化 お よ び 、大
きな特徴である加工熱処理についての研究開発を進めていく。
ま た 加 工 熱 処 理 の 範 疇 と し て 、素 材 の 処 理 の み な ら ず 、後 加 工 で あ る 鍛 造 加
工 等 の 塑 性 加 工 ま で 含 ん だ RMA-CREO 技 術 を 活 用 し た 加 工 熱 処 理 技 術 の 開
発に進んでいきたいと考える。
251
【関連論文】
1. 学 会 誌 等
1)
全著者名
Kastuaki Nakamura, Koji Neishi, Kenji Kaneko,
Michihiko Nakagaki, Zenji Horita
論文題名
Department of Severe Torsion Straining Process for Rapid
Continuous Grain Refinement
2)
掲載誌
Materials Transactions,Vol.45.No.12(2004) pp.3388 to 3342
全著者名
中野
博明、孫
仁俊、大原
秀樹、大上
悟、中村
克昭、
福島久哲
3)
論文題名
連 続 ね じ り 加 工 を 行 っ た Al-Mg 合 金 の 耐 孔 食 性
掲載誌
表面技術
全著者名
大上
悟 、中 野
増田
正孝
論文題名
59 巻
第 6 号 (2008)
博 昭 、倉 井
43− 47
大 輔 、福 島
久 哲 、中 村
克昭
陽 極 酸 化 Al-Mg 合 金 の 電 解 着 色 後 の 色 調 に 及 ぼ す 連 続 ね じ り
加工の影響
4)
5)
第 72 巻
第 9 号 (2008)
395− 400
掲載誌
日本金属学会誌
全著者名
Genki Sakai, Katsuaki Nakamura,Zenji HoritaT.G.Langdon
論文題名
Developing high-torsion for use with bulk samples
掲載誌
Material Science and Engineering A406 (2005) 268-273
全著者名
K.Neishi, T.Uchida , A.Yamauchi , K.Nakamura , Z.Horita ,
T.G.Langdon
論文題名
Low temperature superplasticity in a Cu-Zn-Sn alloy
processed by severe plastic deformation
掲載誌
2.
国際会議等
1)
全著者名
Material Science and Engineering A307(2001) 23-28
Katsuaki Nakamura , Koji Neishi , Kenji Kaneko,
Michihiko Nakagaki and Zenji Horita
252
論文題名
Continuous Grain Refinement Using Severe Torsion
Straining Process
掲載誌
Materials science Forum Vols.503-504(January 2006)
pp385-390
2)
全著者名
Katsuaki Nakamura
論文題名
Rapid Continuous Metal Grain Refinement process “STSP”
and its Application to Plastic Forming
掲載誌
International Conference on Computational &
Experimental Engineering and Science ICCES07 (2007)
p1947-1951
3)
全著者名
Yoshiyasu Kawasaki , Koji Neishi , Yuichi Miyahara
Katsuaki Nakamura , Kenji Kaneko , Michoihiko Nakagaki
and Zenji Horita
論文題名
Application of severe Torsion Straining Process for Grain
Refinement of steel
掲載誌
Materials science Forum Vols.503-504(January 2006)
pp943-948
4)
全著者名
Yuichi Miyahara , Naoki Emi , Koji Neishi ,
Katsuaki Nakamura , Koji Neishi , Kenji Kaneko,
Michihiko Nakagaki and Zenji Horita
論文題名
Microstructures and Mechanical Properties of Mg alloy
after SevereTorsion Straining Process
掲載誌
Materials Science Forum Vols.503-504(January 2006)
pp.949-954
5)
全著者名
Koji Neishi , Akihiko Higashino , Yuichi Miyahara,
Katsuaki Nakamura , Kenji Kaneko, Michihiko Nakagaki
and Zenji Horita
論文題名
Grain Refinment of Commercial Al-Mg alloy Using Severe
Torsion Straining Process
253
掲載誌
Materials science Forum Vols.503-504(January 2006)
pp955-960
6)
全著者名
Genki Sakai , Katsuaki Nakamura , Zenji Horita and
Terence G. Langdon
論文題名
Application of High Pressure Torsion to Bulk Samples
掲載誌
Materials Science Forum Vols.503-504(January 2006)
pp.949-954
7)
全著者名
R.Matsubara , N.Asie , K.Nakamura and S.Miura
論文題名
Superplastic Forming of Corrosion Resistance CuZnSn
Alloys
掲載誌
3.
1)
Material Science Forum Vol.304-306 (1999) 753-758
特許
特許番号
特許
第 456033 号
対象国
日本
発明者
堀田
善治
、
中村
克昭
中垣
道彦
、
金子
賢治
発明の名称
、
根石
浩司
、
金属加工方法及び同金属加工方法を用いた金属体並びに同
金属加工方法を用いた金属含有セラミックス体
2)
3)
特許番号
特許
第 4002273 号
対象国
日本
発明者
堀田
善治
、
中村
克昭
中垣
道彦
、
金子
賢治
、
根石
浩司
、
発明の名称
金属加工方法及び同金属加工方法を用いた金属体
特許番号
US 7,559,221 B2
対象国
USA
発明者
Zenji Horita , Katsuaki Nakamura , Koji Neishi ,
Michihiko Nakagaki , Kenji Kaneko
254
発明の名称
METHOD OF WORKING METALBODY OBTAINED
BY THE METHOD AND METAL-CONTAINING
CERAMIC BODY OBTAINED BY THE METHOD
4)
特許番号
US 7,574,888 B2
対象国
USA
発明者
Zenji Horita , Katsuaki Nakamura , Koji Neishi ,
Michihiko Nakagaki , Kenji Kaneko
発明の名称
METHOD OF WORKING METALBODY OBTAINED
BY THE METHOD AND METAL-CONTAINING
CERAMIC BODY OBTAINED BY THE METHOD
5)
特許番号
US 7,637,136 B2
対象国
USA
発明者
Zenji Horita , Katsuaki Nakamura , Koji Neishi ,
Michihiko Nakagaki , Kenji Kaneko
発明の名称
METHOD OF WORKING METALBODY OBTAINED
BY THE METHOD AND METAL-CONTAINING
CERAMIC BODY OBTAINED BY THE METHOD
6)
7)
特許番号
ZL 03 8 22187X
対象国
中華人民共和国
発明者
堀田
善治
、
中村
克昭
中垣
道彦
、
金子
賢治
発明の名称
金属加工方法
特許番号
發明第
対象国
中華民国
発明者
堀田
善治
、
中村
克昭
中垣
道彦
、
金子
賢治
発明の名称
、
根石
浩司
、
、
根石
浩司
、
Ⅰ 301778 號
金 属 加 工 方 法 、使 用 該 金 属 加 工 方 法 之 金 属 體 、以 及 含 有 使 用
該金属加工方法的金属之陶資體
255
8)
10-1014639 号
特許番号
特許第
対象国
韓国
発明者
堀田
善治
、
中村
克昭
中垣
道彦
、
金子
賢治
発明の名称
、
根石
浩司
、
金属加工方法及び同金属加工方法を用いた金属体並びに同
金属加工方法を用いた金属含有セラミックス体
9)
第 4777775 号
特許番号
特許
対象国
日本
発明者
中村
克昭
、
堀田
善治
中垣
道彦
、
金子
賢治
発明の名称
10) 特 許 番 号
、
根石
浩司
、
金属加工方法及び同金属加工方法を用いた金属体
特許
ZL 2004 8 0006266.1 号
対象国
中華人民共和国
発明者
中村
克昭
、
堀田
善治
中垣
道彦
、
金子
賢治
特許
第 4616173 号
、
根石
浩司
、
、
根石
浩司
、
発明の名称
11) 特 許 番 号
対象国
日本
発明者
中村
克昭
、
堀田
善治
中垣
道彦
、
金子
賢治
発明の名称
筒状金属の成型方法及び筒状金属の成型機及び筒状金属成
型体
12) 特 許 番 号
特許
ZL 2004 8 0021301.7
対象国
中華人民共和国
発明者
中村
克昭
、
堀田
善治
中垣
道彦
、
金子
賢治
発明の名称
金属成型方法和金属成型机
256
、
根石
浩司
、
13) 特 許 番 号
US 7,389,668 B2
対象国
USA
発明者
Katsuaki Nakamura , Zenji Horita , Koji Neishi ,
Michihiko Nakagaki , Kenji Kaneko
発明の名称
METAL MOLDING METHOD AND MACHINES,AND
METAL MOLDED BODY
257
謝
辞
本 論 文 は 、九 州 工 業 大 学 情 報 工 学 部・鈴 木 教 授 の 御 指 導 の も と に 作 成 し た も
のであり、貴重な御意見、御指導を賜りましたことを深く感謝しております。
また、本論文を詳細に御検討いただき、審査の労をとっていただきました、
九 州 工 業 大 学 情 報 工 学 部・木 村 教 授 、楢 原 教 授 、古 賀 准 教 授 、同 じ く 九 州 工 業
大学工学部・恵良教授に深く感謝いたします。
本 研 究 を 遂 行 し 、本 論 文 を ま と め る に あ た り 、九 州 工 業 大 学 情 報 工 学 部・中
垣 名 誉 教 授 よ り 多 く の 御 指 導 を 賜 り ま し て 、心 よ り 感 謝 申 し 上 げ ま す 。ま た 九
州 大 学 工 学 部 材 料 工 学 部 門・堀 田 教 授 は じ め 堀 田 研 究 室 の 卒 業 生 に は 研 究 を 共
に遂行させていただき深く感謝しております。
広 範 囲 に わ た る 本 研 究 遂 行 に あ た り ま し て は 、結 晶 粒 微 細 化 設 備 開 発 に お い
て ナ イ ス 株 式 会 社 に 、恒 温 鍛 造 技 術 開 発 に お い て 日 本 ハ ー ド ウ ェ ア ー 株 式 会 社 、
AP&T 株 式 会 社 に 、多 大 な る 御 支 援 御 協 力 を い た だ き ま し た こ と を 深 く 感 謝 し
ております。
ここに厚く御礼申し上げます。
最 後 に な り ま す が 、学 位 取 得 に つ い て の 理 解 者 で あ り 支 援 者 で あ っ た 家 族 に
深く感謝いたします。
258