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Title トルク飽和を考慮したサーボモータの動特性解析とその応用 Author(s) 酒井, 史敏 Citation 博士学位論文要旨 論文内容の要旨および論文審査結果の要旨/金 沢大学大学院自然科学研究科, 平成13年6月: 249-254 Issue Date 2001-06 Type Others Text version publisher URL http://hdl.handle.net/2297/16360 Right *KURAに登録されているコンテンツの著作権は,執筆者,出版社(学協会)などが有します。 *KURAに登録されているコンテンツの利用については,著作権法に規定されている私的使用や引用などの範囲内で行ってください。 *著作権法に規定されている私的使用や引用などの範囲を超える利用を行う場合には,著作権者の許諾を得てください。ただし,著作権者 から著作権等管理事業者(学術著作権協会,日本著作出版権管理システムなど)に権利委託されているコンテンツの利用手続については ,各著作権等管理事業者に確認してください。 http://dspace.lib.kanazawa-u.ac.jp/dspace/ 氏名 生年月曰 本籍 酒井史敏 学位授与の要件 栃木県 博士(工学) 博甲第401号 平成13年3月22日 課程博士(学位規則第4条第1項) 学位授与の題目 トルク飽和を考慮したサーボモータの動特性解析とその応用 論文審査委員(主査) 神谷好承(工学部・教授) 論文審査委員(副査) 藤原直史(自然科学研究科・教授)藤田政之(工学部・教授) 宮崎猛(工学部・助教授)関啓明(自然科学研究科・講師) 学位の種類 学位記番号 学位授与の日付 学位論文要  ̄ 曰 ABSTRACT Servomotorsarewidelyusedasactuatorstodrivemanyautomaticmachines・AmanufactuICdservo driver(amplifier)isusuallyselectedtodriveandcontroleachmotorathighPerfOrmance・Theservo driverhasnotonlyaroleofamplifyingacontrolsignalAimingatahighperfOrmanceofthemotion controlsuchasdecreasingthesteadystateerroragainstthedismrbances,compensationcircuitsshould beinvolvedintheservodriver6Motionofthemotordrivenbysuchservodrivershasverycomplicated dynamiccharacteristicsinfact、Thesecharacteristicscannotbeexplainedbyconsideringthedriverasa linearsystemInthissmdy,itistriedtomakeclearaboutinnercompositionoftheservodriverthrough measuringthedynamiccharacteristicsoftheservomotorwhichisdrivenbythemanufacturedservo driverbAnd,itistriedtoexpressmathematicallytransferfUnctionofthevelocitycontrolsystem. 1.緒言 産業用メカトロニクス機器の中でもその代表とされている数値制御工作機械,産業用ロボッ トなどの機械に用いられているサーボ系においては,かなり以前からサーボ系の特`性が位置 フィードバックゲインによって表現きれてきている.制御系の設計および解析においては系を 1次または2次の低次のモデルに近似することはごく自然なことではある.しかし,サーボ系 に関し,その内部構成がどのような条件を満たしていればこのように考えてよく,また,その 低次モデルを使用してよい条件はどのようなものであるかなどについてはほとんど明確にきれ ていない.現状のサーボ系の捉え方においては,メカニズムは剛体としてモータ軸に結合され ているとみなされている.このような前提条件下でメカニズムを駆動するためのサーボモータ の選定もおこなわれている.サーボ系の制御パラメータの調整もこのことを踏まえたものであ る.このような前提条件に立った低次モデルでの近似の条件はかなり明確に示されてい、るが, 実際にはこの前提条件を満たすことは種々の制約より困難となってきており,さらにメカトロ ニクス機器の動作の高速,高精度化の要求は常に生じており,近年ますます高い値が目標とさ れてきている.これらに対応する制御方策を考えていくためには,制御系をより正確にモデル 化することが要求きれてきている.しかし,サーポアンプを用いた制御系はブラックボックス として詳しいデータはあまり公開きれないのが一般的である.さらに市販のサーポアンプには 単なる制御信号の増幅だけでなく外乱に対して定常偏差を小きぐするといったモータの制御性 能を高める目的からいくつかの補償要素を含ませてあり,さらにサーボモータやサーポアンプ -249- の回路素子を保護するための機能を持たせてある.そのために市販のサーポアンプにより駆動 されるサーボモータの動特性を測定してみるとそれは決して単純なものではなく,サーボモー タの運動が線形系であるとはとても考えられない動特性を示すことが多く精度の良いモデルを 簡単に求めることは困難である.そこでサーポアンプ内でどのような制御が施されているのか を詳細に検討し,サーポアンプにより駆動されるサーボモータのもつ複雑な動特'性の根拠を明 らかにすることは重要であり,各構成要素の目的や役割を詳細に考察し,実際の使用にあたり 考慮すぺき点についても明らかにすることが必要と考えられる. 2.DCサーボモータの動特性に関する考察 2.1サーポアンプを用いた速度制御系 本研究で使用したサーポアンプの取扱説明書に記載されている回路図をもとに図2.1の速度 制御系を考える(制御系内の既知なパラメータは表2.1を参照).この制御系には速度フィー ドバックループの内側に,電機子電流を検出し,これをフィードバックする電流制御のための ループが加えられている.また,速度アンプq(s)の出力がモータヘの電流指令となることか ら,この電流指令を飽和要素によって制限することでモータに流れる電機子電流の最大値を制 限している.この飽和要素はモータを過電流から保護するために設けられているものであり, [IrTbmI lnble3・lParametersofveIocitycontrolsystem y Pammeter Momentofinema Armatu尼【巴gig⑭nEe Armatu”inductance VoItageconstant To【queconstant Tachometergenemtorcoefficient Fig.2.lBlockdiagramofDCservomotorvelocitycontrolsystem Gainof妃彪旧ncefiIter Timeconstantof唾佗祀ncefiIに「 5 必須な要素である.また,速度アンプ,電流アンプは共にP'制御器で構成きれている.速度 指令電圧レム(3)にはフィルタが付加きれ,スパイク状の入力を取り除いている. 図2.,において電流アンプα(3),速度アンプq(3)が,式(2-1)に示すようにそれぞれP'制御 器で構成されているとし, G(`)薑(÷十K膠)Mい)藝与十K。(2D KP:パワーアンプのゲイン 飽和要素の影響を受けない線形領域での応答を考えると目標値1'h(s)に対するタコジェネ出力 電圧7と。(s)は,式(2-2)のように与えられ, 柳涼+篝芸鶚…。為川I c3s3+c2s2+cls7L(s) α484+CZ3S3+α282+α1s+CUO a4=ノムム,α3=ノ1,(凡十aKBKP), α2=moKAKP+M6KEKPKD+'67kg, αI=AI冊(KAKPkD+KβKPXと),α・=M6kAkPkb ム2=k7LKBKPKb,6,=M6(KAKPKD+KDKPKで)’ 60=M6KAKPKb cヨーム乃,c2=Tb(凡十aKbKp),c,=αLkAKP -250- (2-2) 20 00 0 = ̄ 撒」 11 ⅡⅡIInHIⅢ【 I、ⅡmIl lUTm mmIumm 01 -10 1 000 一 IDV 1.0V ⑪宙~ qWvUW ロ ] mmmnTT ■■凸“ -1」 |llllllI VelocityvoItage 1 号各員一己Eく 2.0V 四m 四m Ⅱ. VelocityvoItagc:30V(1000rpm) eIocIWvolmgc: rpm 塗 11 ・i 畠 ■ ! ili FKD L .□3.OVO2.0V- - △1.OVoO、5V 0.5V 111;1111 -20 lO 00.020040.060080.1 100 蝋 RCquencyHz 0 5 Times I nmnuI 識 bibg lili 回 M1I ; b唐I 呵一 IO ; :師 Lクヘコサ、I■ 鶏 Lベゾ、Ⅱh頒皿 同》 1 ● 1m Ⅲ. 皿 Ⅲ ’|’ ’112 れに対して実測によって得られたモータ動特 ,性の一例として,速度指令電圧としてステッ プ入力を与えたときのタコジェネ出力電圧を 図2.2に,また正弦波状入力電圧においてそ 0000 メータ(α,KAKP,KBKP,K6KD)を含む.こ 5050 o⑪、呵二」 式(2-2)にはその分母,分子に未知なパラ 、一 ( I Fig.2.2Step妃sponsesofvelocitycontrolsystem 鐘 100 FmBquencyHz Fig.2.3Frequencycharactel・isticsofvelocitycontrolsystem の周波数と振幅を変化させたときの周波数特 '性を図2.3に示す.図2.2のステップ応答をみ ると,どの速度指令電圧に対してもほぼ一定 の角加速度で立ち上がっている.また,図2.3 の周波数特`性をみると,速度指令電圧が大き くなるにつれて折れ点周波数が低くなってい 0.0 0.02 0.03 0.04 0.05 Times る.こうした現象は飽和要素によって電流指 令を制限することでモータに流れる電機子電 (a)Velocityvoltage:0.5V(167rpm)巾莚mUI奴,C ̄ここて ̄プレー、狂勾屯慨ゴー電 流の最大値を制限していることによるもので 10 50s こ】巨巴目U シつ冒冒ECU旨曾目◎ 1 050 く】臣閏昌U シC5EER〕旨留目Q ある. 2.2サーボアンプの構成要素の詳細 2.2.1電流フィードバック係数α 速度指令としてステップ入力を与え,その ときに検出された電流指令とそのときの電機 子電流の様子を図2.41こ示す.この結果から, 本研究で使用したサーポアンプの場合,電流 5 00.010.020.030.0400s Times (b)Velocityvoltage:3.0V(1000rpm) 指令の最大値が±7Vに制限されていること Fig.2.4Currentcommandanditscurrentatstepresponseが,またそのときに流れる電機子電流がおよ そ3.5Aに収束していることがわかる.これよ り電流フィードバック係数はα=2V/Aであることがわかる. 2.2.2電流アンプQ(s) 図2.1に示す速度制御系の一部分であるサーボモータと電流ループのみを考える(図2.5参 照).ここで電流アンプを式(2-1)のPI制御器とすれば電機子電流jlm(s)は, ヱビ且』[且叶丞Eムムピ旦A暦 j,、(3)=ムムム (2-3) CD,’'2=o`ノaKAKP+ハァハ底,ニーベ十aKBkP LAZLの"i (2-4) Mnの胸洩烏,/恥)+``+2艸町、(,) のように与えられる.図2.6の電機子電流波形から時定数はおよそ0.005sであり,またオー バーシュートは生じていないので式(2-4)における固有角周波数の卿,を1256rad/s(1/0.005=200 -251- Hz),減衰係数色を1とすることができる.このとき電流アンプのPIゲインが KAKp=4023.8,KBKP=2.6のように求まる. 4 CurTent 3 ロロ く旨⑪ビコU 、皿】Ⅱ【 ニロ【 Z 1 0 耐mBmn巴qmnI =0.005 |’ Times Fig.2.6Timeconstantofcurrentroop Fig.2.5Servomotorandcurrentroop 2.2.3速度アンプq(8) 速度ループに比ぺ,電流ループの応答が十分速いために電流ループの特性をほぼ定数とみな すことができる.ざらに速度指令電圧に付加されているフィルタも速度ループのもつ時定数よ りも十分小言いため定数とみなす.このとき,図21の速度制御系は図2.7のように簡略化し て扱うことができる.飽和要素の影響を受けない線形領域での応答を考えるとタコジェネ出か 電圧乃Q(s)は, Ls 脚〒鶚豐差馴、い)一両圭凉ろァ恥) 必`言等,`=畿(z`) として与えられる.この式から未知パラメータである速度アンプのPIゲインK6,K・を求めた (2-5) いところであるが,前述のように速度制御系に微少な速度指令電圧を加えたとしても,出力速 ロロⅡ C ■皿 ■ロⅡ 卯 度に飽和要素の影響が現れてしまい速 度アンプゲインを求めることができな い.また,仮に線形領域の特性が測定で き,折れ点周波数がわかったとしても, 式(2-5)にみられるように速度指令電圧 に対する伝達関数の零点に速度アンプ ゲインの値が含まれており簡単には速 度アンプゲインを求めることができな Fig.2.7SimpIifiedvelocitycontroIsyste、 い. 2.3実験による速度アンプゲインの推定 前項までの議論では速度アンプゲインの値を特定することができない.これに対して,式(2- 5)の外乱トルク71(8)に対する伝達関数に注目すると零点は近似的に原点のみであるため,外 乱特`性を測定することで速度アンプゲインを求められることがわかる. 外乱入力に対するモータ軸の速度変動を簡単に測定するために,板ばねとフライホイールか らなる振動負荷をある回転数で回転ぎせておき,モータを急停止きせることにより負荷を振動 ざせモータ軸に働く反力を外乱トルクとして与える方法を用いる.あらかじめ既知な慣性モー メントを持つ負荷系の自由振動を測定しておき,板ばねのばね定数を求めておくことでモータ 軸位置と負荷軸位置の差,すなわち板ばねのたわみ量からモータ軸に加わる外乱トルクの大き ざを求めることとする.外乱トルク71(s)を入力としモータ軸変位o(s)を出力とする系の伝達 -252- 関数は, e(8) -= ノ1, (2-7) ,(3)32+2`h)"s+cDm2 峠樂`薑搬 (2-8) となり,式(2-7)のゲインは ’。(ノの)|_ノhの卿‘ |鵲卜 (2-9) トー器)+(2:島1 のように表せるため,速度制御系にある減衰係数‘を仮定し,測定により求められるゲインと 外乱トルクの周波数CDを代入すれば速度制御系の固有周波数の,,がわかり,結果的には式(2-8) から速度アンプのゲインを求めることができる.実験により速度制御系の固有周波数はおよそ 60Hz程度であることがわかり,Kb=1263.9,k、=6.71と推定される. 2.4考察 電流指令には飽和要素が設けてあるため電流指令が飽和した状態におけるモータ運動の動特 性は非線形になる.これより,市販のサーポアンプを用いたモータの速度制御系を線形系とし て扱うことのできる範囲の速度指令電圧レベルとその周波数,およびモータ軸の慣性モーメン ト(ノム×")との間の関係を考察する. 速度アンプが式(2-1)に示すようにH制御器で構成されているとすると速度アンプの出力で ある図2.7中のC点の電圧値WS)と速度指令電圧1'h(8)との関係は 1'6(3) 而予+鎧學f:莚(川) u7zJb伽L のように与えられ,前項までに求めたパラメータを用いることで 山川無4F・伽川 陥(8) のように与えられる.また,221節より|γc(')'1in"=7Vであるため,速度指令電圧レベルをVn vとすれば,飽和に達する周波数′は近似 、ble2o2Saturationfrequency 1753496g8 VeIocI【ycommandmdノsIO47 (rpm)(1000)(6667)(3313)(1667〕 Snluratuonけequencymd/sII67175035007000 (Hz)(186)(279)(557)(1114) N雷(云○臣⑩コワ賀一臣。一一国三回の 2 的に ,鮓歳川 のようになり,飽和限界の周波数′が速度 指令電圧レベルyQvとモータ軸の,慣性モー メント(ノ&×")の関数として与えられる. 式(2-12)より求めた一例を表2.2に示す.ま た,式(2-12)をみるとモータ軸の`慣性モー メントあるいは入力電圧のレベルが2倍に なれば飽和限界の周波数はそれぞれ半分に なることがわかり,図2.8に示すように線 形系として扱うことのできる領域は実際に AmpIitudeofveIocityvoltagewV Fig.2.8Relationshipbetweensaturatio、frequency, amplitudeofvelocityvoltage,andmomentofinertia -253- は非常に狭いことがわかる. 3.結言 本研究では,一般にブラックボックスとして詳しいデータはあまり公開されることのない サーポアンプを用いた速度制御系の内部でどのような制御が施されているのかを詳細に検討し, 速度制御系の伝達関数を定量的に表現することを試みた.そして,サーポアンプにより駆動き れるサーボモータのもつ複雑な非線形動特性の根拠を明らかにし,各構成要素の目的や役割を 詳細に考察し,実際の使用にあたり考慮すべき点についても明らかにすることができた~ 学位論文審査結果の要旨 平成13年1月23曰に第1回学位論文審査委員会を開催し,提出された学位論文及び関係資料に基づき検 討した。同年1月30曰の口頭発表後に開催した第2回学位論文審査委員会において協議の結果,以下のよう に判定した。 本論文は,まず市販のDCサーボモータ駆動用のサーボアンプに含まれている速度及び電流アンプの各ゲイ ンがモータ動特性に及ぼす影響について詳細に検討し,さらにサーボモータの動特性と回路内の電圧値を実測 することによりサーボアンプの内部構成の詳細を明らかにし,市販のサーボアンプにより駆動されるサーボ モータの伝達関数を定量的に表現することを試みている。そして,位置制御系を構成したときにサーボアン プに含まれる飽和要素の影響で発生するオーバシュートの発生とその対策について議論をおこない,位置決 め精度を低下させない新たな対策としてモータの最大速度を制限するオーバシュート対策を提案している。 また,剛性の不足する機構に対する位置決め制御への応用において,セミクローズド制御とフルクローズド 制御を融合し安定かつ高い位置決め制度を得る手法を提案し,負荷軸に固体摩擦を作用させた場合と,モータ 軸と負荷軸との間に非線形な伝達特性を持たせた場合の実験より提案する制御手法の有効性を確認している。 このように本研究は学術的な解析をベースにして実用性の高いサーボモータ動特性解析を提案しており, きわめて有益な知見を与えるものであり,本論文は博士(工学)に値するものと判定する。 -254-