Download 我が国沿岸の想定高潮偏差と湾形状による増幅特性

Transcript
我が国沿岸の想定高潮偏差と湾形状による増幅特性
河合弘泰*
・竹村慎治** ・ 山城
賢***
柴木秀之**** ・平石哲也*****
130 oE
1. は じ め に
平成 11 年 9 月 24 日に来襲した台風 9918 号により,特
に周防灘,八代海においては,これまでの想定規模を上
回る高潮が発生し,多くの港湾・海岸施設が破壊される
とともに,背後地にも浸水などによる大きな被害が生じ
た(河合ら,2000;滝川ら,2000).台風 9918 号は,規
模的には台風 9119 号や周防灘台風(台風 4216 号)と同
程度であり,これまでの想定をくつがえすような巨大な
台風ではなかった.それにもかかわらず各地で甚大な被
害が生じた理由は,進行経路および天文潮位にあり,こ
れは,超巨大な台風でなくても,その経路とその時の天
文潮位により,高潮災害が発生する可能性があることを
意味している.
ところで,東京湾,伊勢湾,大阪湾の三大湾では,高
潮の危険性に対する認識が比較的高く,高潮災害に対す
る数多くの検討が行われてきた.しかし,他の沿岸域は
過去数十年間に顕著な高潮災害に見舞われなかったこと
もあり,高潮の危険性について必ずしも十分に検討され
てはいない.したがって,全国の沿岸について高潮の危
険性の検討を速やかに進める必要がある.
そこで,本研究では,高潮の危険性の高い沿岸域を明
らかにするために,我が国沿岸の全域を対象として高潮
の数値シミュレーションを行った.また,高潮の計算結
果をもとに,湾の平面的な形状や海底勾配などの海底地
形の特徴による高潮の特性についても検討した.
2. 高潮シミュレーション
2.1 想定台風
高潮シミュレーションの外力として想定する台風(以
降,想定台風と呼ぶ)の設定には,モンテカルロ法によ
って確率的に発生させる方法と,既往の代表的な台風を
モデル化する方法がある.本研究では後者を用い,モデ
*
正会員 工修 独立行政法人港湾空港技術研究所 海洋・水工部
主任研究官
**
独立行政法人港湾空港技術研究所 地盤・構造部
地盤改良研究室
***
正会員 工博 九州大学大学院助手 工学研究院環境都市部門
****
正会員 工修 株式会社エコー 環境水理部
*****
正会員 工博 独立行政法人港湾空港技術研究所 海洋・水工部
波浪研究室長
135 oE
140 oE
145 oE
45 oN
北進タイプ
伊勢湾台風の経路
40 oN
27日 00:00 968hPa
21:00 945hPa
18:00 929hPa
15:00 925hPa
35 oN
( 142.5 oE, 36.0 oN )
( 127.5 oE, 31.0 oN )
09:00 925hPa
26日 06:00 920hPa
30 oN
No.100
No.110
No.120
No.130
09:00 970hPa
45oN
東進タイプ
06:00 955hPa
03:00 950hPa
28日 00:00 950hPa
40oN
( 129.7oE, 35.8oN )
No.206 21:00 945hPa
18:00 945hPa
台風9119号の経路
15:00 935hPa
35oN
12:00 935hPa
27日 09:00 935hPa
30oN
No.200
( 129.7oE, 29.8oN )
130oE
135oE
140oE
145oE
図−1 想定台風の経路
ルとする台風を伊勢湾台風(台風 5915 号)及び台風 9119
号とした.
伊勢湾台風及び台風 9119 号の実際の経路を図−1 に示
す.伊勢湾台風は日本を南から北に進行し,台風 9119
号は西から東に進行した.これらはそれぞれ,太平洋沿
岸から日本に上陸した台風,九州の周辺から日本海に抜
けて東北や北海道に達した代表的な台風と位置づけるこ
とができる.本研究では,伊勢湾台風をモデルとする台
風を北進タイプ,台風 9119 号をモデルとする台風を東進
領域 6
領域 3
領域 7
最大高潮偏差 (m)
5.0
伊勢 湾 ・ 熊 野 灘 沿 岸
1.8km
西日 本 沿 岸
1.8km
領域 13
九州 沿 岸
1.8km
領域 6
北海 道沿 岸
1.8km
領域 7
北日 本沿 岸
1.8km
大浦
領域 11
領域 12
最大高潮偏差 (m)
神戸
5.4km
5.4km
尼崎
日本 沿岸 中央 部
日本 沿岸 西部
三角
領域 4
領域 5
大阪
1.8km
1.8km
口之津
能登 沿 岸
南関 東 ∼ 遠 州 灘 沿 岸
舞阪
領域 10
尾鷲
P-02
5.4km
0.0
長崎
16.2km 領域 9
1.0
浜田
P-01
1.8km
2.0
呉
日本 沿岸 東部
格子間隔
観測値
推算値
3.0
松山
日本 沿岸
領域 3
北関 東 ・ 新 潟 沿 岸
地点
4.0
壇 ノ浦
領域 2
32.4km 領域 8
鳥羽
計算領域
格子間隔
松阪
計算領域
外洋
名古屋
領域 1
領域 5
9119号台風
台風9119号
横浜
領域 2
川崎
領域 12
5.0
東京
領域 11
領域 1
1.0
銚子
領域 10
領域 13
2.0
八戸
領域 4
観測値
推算値
3.0
0.0
領域 9
伊勢湾台風
宮古
領域 8
4.0
地点
図−3 最大高潮偏差の観測値と推算値との比較
(上図:伊勢湾台風 下図:台風 9119 号)
図−2 高潮シミュレーションの計算対象領域
タイプと名付けることにした.北進タイプについては,
想定台風の上陸時刻位置(伊勢湾台風の上陸時刻位置は
(135.5 oE,33.4 oN))を ,(127.5 oE,31.0 oN)∼(142.5 oE,
36.0oN)の範囲について等間隔(東西に 0.5°間隔)に 31
地点設定し,その上陸位置に合わせて伊勢湾台風の経路
を平行移動し台風経路を想定した.東進タイプについて
は,想定台風の上陸時刻位置(台風 9119 号の上陸時刻位
32.8oN))
を,
(129.7oE,
29.8oN)∼(129.7oE,
置は(129.7oE,
35.8oN)の範囲について等間隔(南北に 1.0°間隔)に 7
地点設定し,その上陸位置に合わせて台風 9119 号の経路
を平行移動し台風経路を想定した.
以上の全 38 ケース(北進タイプ:31 ケース,東進タ
イプ:7 ケース)の想定台風について高潮シミュレーシ
ョンを行い,日本全国の沿岸における最大規模の発生高
潮を予測した.図−1 にこれら北進タイプ及び東進タイ
プの台風経路を示す.
2.2 計算領域
高潮シミュレーションの対象範囲は,図−2 に示す日
本全体を含む太平洋及び日本海の広域とした.計算格子
の間隔は,外洋から日本沿岸の計算領域を,格子間隔が
異なる 13 の領域に分割し,日本沿岸に近い領域ほど小さ
い格子を段階的に用いた.なお,各計算領域の格子間隔
は図−2 に示す通りであり,沿岸域における最小格子間
隔は 1,800m である.
2.3 高潮推算法
高潮シミュレーションに用いた推算手法は,気圧低下
による吸上げと風の吹き寄せを考慮した非線形長波理論
に基づく単層モデルで,従来から多く用いられてきた手
法である(例えば,運輸省港湾技術研究所波浪研究
室,1996).
高潮推算に用いる海上風,すなわち海面上 10m 高度の
風は,Myers の気圧分布を仮定した台風モデルにより推
算した自由大気の風(傾度風及び場の風)に海面摩擦を
考慮したものを用いた.一般に,自由大気の風から海上
風への変換は,傾度風と場の風に 0.60∼0.70 程度の風
速の低減率を乗じ,
傾度風を約 30°の角度で低圧部に風
向を偏向させることにより行われる.本研究では,伊勢
湾台風による海上風の試行計算を行い,伊勢湾周辺の観
測風と比較した結果,推算風と観測風との一致の程度が
比較的良い設定値として,風速の低減率を 0.75,風向の
偏向角を 30°と設定した.
2.4 高潮推算の妥当性
想定台風による高潮シミュレーションを行うにあたり,
伊勢湾台風および台風 9119 号による高潮追算を行い,本
研究で設定した計算条件及び高潮推算手法の妥当性につ
いて検討した.
図−3 に,
伊勢湾台風及び台風 9119 号による最大高潮
偏差の観測値と推算値との比較を示す.
図より観測値と推算値を比較すると,湾奥(名古屋,
大阪,尼崎,呉等)については,推算値が大きめの値と
なり,湾口部付近(鳥羽)や外洋沿岸(尾鷲,舞阪等)
については,逆に推算値が小さめの値となる傾向がある.
しかし,全体的な最大高潮偏差の分布傾向は良く表して
いることから,高潮の危険性が高い沿岸域を知る目的に
対しては,十分な精度をもっていると考えられる.
0.2
0.2
北進タイプ
0.1
0.4
0.4
0.1
0.2
0.2
0.3
0.2
0.3
0.3
0.5
0.3
0.3
3.高潮推算結果の考察
0.4
0.7
3.1 最大高潮偏差分布
図−4 は,北進タイプの全 31 ケース及び東進タイプの
全 7 ケースにおける予測最大偏差から,各計算点の最大
値を抽出したコンター図である.以下に北進タイプ及び
東進タイプによる予測高潮偏差の特徴をまとめる.
a) 北進タイプの高潮偏差
顕著な高潮偏差の発生地域は,東京湾,伊勢湾,大阪
湾の三大湾に加え,播磨灘から周防灘までの瀬戸内海沿
岸及び八代海,有明海等の西九州沿岸といった西日本に
広く見られる.関東以北では,太平洋沿岸の鹿島灘や仙
台湾で 1m 以上の高潮偏差が生じている.
一方,仙台湾以北の太平洋沿岸と九州・山口を除く日
本海沿岸全域では,伊勢湾台風モデルの勢力が北上する
につれ減衰するように与えていること,台風の危険半円
側で吹き寄せによる高潮が発達するような水深の浅い大
きな内湾がないことから,顕著な高潮偏差が見られない.
b) 東進タイプの高潮偏差
顕著な高潮偏差の発生地域は,西九州沿岸,周防灘か
ら安芸灘一帯,大阪湾及び伊勢湾奥など西日本に広く見
られる.また,台風 9119 号は上陸後も勢力を保っている
ことから,高潮の発生は日本海沿岸全域で見られ,北海
道の稚内港,天塩港,苫小牧港周辺でも 1m 以上の高潮偏
差が発生する.
3.2 既往最大高潮偏差との比較
図−5 に,北進タイプ及び東進タイプそれぞれの予測
最大偏差と既往最大偏差の比較を示す.既往最大偏差の
値は,気象庁(2000),平石(2000)他による.
図−5 より,内湾については,想定台風による予測最
大偏差が既往最大偏差より全体的に大きいものの,予測
最大偏差と既往最大偏差の定性的な分布傾向は良く一致
している.三大湾,瀬戸内海,西九州沿岸の偏差は全国
的に見ても突出している.
外洋沿岸については,予測最大偏差と既往最大偏差の
分布傾向は全体的に一致するが,概ね既往最大偏差のほ
うが大きく,特に土佐湾,紀伊水道,遠州灘では予測結
果を大きく上回る高潮偏差が実際に発生している.
土佐湾,紀伊水道,遠州灘における既往最大偏差の要
因には,気圧低下による吸上げ及び海上風による吹き寄
0.6
0.8
0.4
0.5
0.5
0.6
0.6
0.4
0.8
0.7
0.8
0.6
0.3
0.8 0.8
0.9
0.8
0.8
0.8
0.9
0.7
0.9
0.8 0.8
0 9
東進タイプ
0.2
0.5
0.5
1.1
0.5
0.4
0.4
0.4
0.4
0.3
0.5
0.4
0.4
0.5
0.4
0.5
0.5
0.4
0.2
0.5
0.7
0.4
0.5
0.3
0.3
0.2
0.5
0.2
0.4
0.2
0.4
0.5
0.4
0.3
0.3
0.5
0.6
0.5
0.4
0.1
0.6
0.5
0.6
0.5
0.6
0.6
0.6
0.1
0.7
0.9
0.5 0.9
0.6
0.8
0.7
0.8
0.4
0.8
0.2
0.5
0.7
0.2
0.1
図−4 予測最大高潮偏差分布
せの効果に加え,波浪による水位上昇の効果(wave‐
setup)が含まれており,そのため,吸上げと吹き寄せ効
果のみを考慮した予測値を大きく上回っているものと思
われる.
3.3 高潮の地域特性
図−5 に見られるように,一般的に高潮偏差は外洋に
面した沿岸よりも湾の奥で顕著に発生することが知られ
ており,その原因は,湾形状や湾内の水深が浅いことに
よるとされている.一方,外洋沿岸での高潮は,内湾の
それに比べて小さいものの,高波浪が同時に発生し,高
波浪の影響により大きな高潮が発生する場合がある.
そこで,高潮シミュレーションの結果をもとに,内湾
の高潮に対する湾形状の影響と外洋沿岸の高潮に対する
高波浪の影響について検討する.
a) 内湾の高潮に対する湾形状の影響
図−6 上図は内湾における海底勾配と高潮偏差の関係
を示したものである.ここで示す海底勾配とは,代表点
から予測最大偏差の等値線に垂直な向きに断面を取り,
3
2
1
高潮偏差 (m)
オ ホ ー ツ ク 海 紋 別 港
5
4
1
高潮偏差 (m)
宗 谷 湾 稚 内 港
根 室 海 峡 野 村 湾
オ ホ ー ツ ク 海 網 走 港
太 平 洋 沿 岸 十 勝 港
太 平 洋 沿 岸 苫 小 牧 港
2
太 平 洋 沿 岸 厚 岸 湾
石 狩 湾 石 狩 川 河 口
石 狩 湾 小 樽 港 内 浦 湾 長 万 部 川 河 口
太 平 洋 沿 岸 鵡 川 河 口 日 本 海 沿 岸 天 塩 港 日 本 海 沿 岸 留 萌 港 平均
3
た
こ
足
形
図−6 海底勾配,湾形状による高潮偏差の比較(内湾)
5
4
3
津 軽 海 峡 函 館 港 陸 奥 湾 大 湊 港
陸 奥 湾 青 森 港
宮 古 湾 宮 古 港
日 本 海 沿 岸 岩 内 港 日 本 海 沿 岸 江 差 港 太 平 洋 沿 岸 八 戸 港
太 平 洋 沿 岸 日 野 畑 港
日 本 海 沿 岸 深 浦 港
日 本 海 沿 岸 能 代 港
日 本 海 沿 岸 船 川 港
日 本 海 沿 岸 秋 田 港
太 平 洋 沿 岸 釜 石 港
鹿 島 灘 日 立 港
日 本 海 沿 岸 酒 田 港
4
V
字
形
矩
形
2
仙 台 湾 松 島 港
仙 台 湾 仙 台 港
富 山 湾 伏 木 港
東 京 湾 千 葉 港
相 模 湾 相 模 川 河 口
駿 河 湾 田 子 浦 港
三 河 湾 三 河 港
伊 勢 湾 名 古 屋 港
伊 勢 湾 松 阪 港
熊 野 灘 尾 鷲 港
若 狭 湾 敦 賀 港
若 狭 湾 宮 津 湾
大 阪 湾 尼 崎 港
播 磨 灘 明 石 港
播 磨 灘 高 松 港
日 本 海 沿 岸 新 潟 港
日 本 海 沿 岸 金 沢 港
鹿 島 灘 新 宮 寺 浜
鹿 島 灘 興 津 港
遠 州 灘 波 浮 港
遠 州 灘 浜 名 港
紀 伊 水 道 田 辺 港
紀 伊 水 道 日 和 佐 港
土 佐 湾 高 知 港
土 佐 湾 須 崎 港
日 本 海 沿 岸 鳥 取 港
日 本 海 沿 岸 萩 港
日 向 灘 延 岡 港
日 向 灘 宮 崎 港
5
0.004
0.003
0.002
平均海底勾配
0.001
0
1
半
円
形
0
0
予測最大偏差(湾長20km以上)
予測最大偏差(湾長20km以下)
予測最大偏 差(瀬 戸内海・周防灘)
既往最大 偏差
6
0
6
海底勾配がほぼ一定である範囲について求めた平均勾配
である.また,予測最大偏差は,湾口から湾奥までの距
離が 20km 以上とそれ未満,及び湾長が明確でない瀬戸内
海・周防灘(広島湾は除く)の3通りに分けている.
一般的に,海底勾配が小さく水深の浅いところが長く
続いている湾であるほど,吹き寄せの効果は強く高潮偏
差は大きくなると考えられている.
図−6 上図より,顕著な高潮は海底勾配が緩い沿岸域
で発生しており,とりわけ 3m 以上の高潮は,全て湾長が
20km 以上の長い湾で発生している.したがって,海底勾
配が小さく湾長が長い湾であるほど大きな高潮偏差が発
生しやすいといえる.
なお,外洋沿岸についても同様の検討を行ったが,海
底勾配と高潮偏差との明確な関係は認められなかった.
図−6 下図は,各湾形状における上位 3 位の高潮偏差
を比較したものである.なお,湾形状の分類は,おおよ
その形状で分類したものであり,たこ足形は湾奥が枝分
れした形状を意味する.また,図中には各湾形状におけ
る高潮偏差の平均値を実線で示している.この図より,
備 後 灘 児 島 港
燧 灘 今 治 港
伊 予 灘 松 山 港
安 芸 灘 広 島 港
豊 後 水 道 宇 和 島 港
豊 後 水 道 八 幡 浜 港
美 保 湾 境 港
周 防 灘 門 司 港
周 防 灘 宇 島 港
別 府 湾 別 府 港
響 灘 小 倉 港
玄 海 灘 博 多 港
伊 万 里 湾 伊 万 里 港
五 島 灘 佐 世 保 港
長 崎 湾 長 崎 港
橘 湾 小 浜 港
有 明 海 三 池 港
島 原 湾 熊 本 港
八 代 海 松 合
吹 上 浜 新 川 港
0
鹿 児 島 湾 加 治 木 港
志 布 志 湾 志 布 志 港
0
4
3
2
高潮 偏差 (m)
予測最大偏差(北進タイプ)
予測最大偏差(東進タイプ)
既往最大偏差
〔内湾〕
5
予測最大偏差( 北進タイプ)
予測最大偏差( 東進タイプ)
既往最大偏差
〔外洋沿岸〕
3
2
1
高潮偏差 (m)
6
1
4
図−5 予測最大高潮偏差と既往最大高潮偏差との比較
4
予測最 大偏差+wave-setup
〔外洋沿岸〕
高潮偏差 (m)
予測最 大偏差
wave-setupの効果
3
既往最 大偏差
2
1
オ ホ ー ツ ク 海 紋 別 港
オ ホ ー ツ ク 海 網 走 港
太 平 洋 沿 岸 十 勝 港
太 平 洋 沿 岸 苫 小 牧 港
太 平 洋 沿 岸 鵡 川 河 口 日 本 海 沿 岸 天 塩 港 日 本 海 沿 岸 留 萌 港 日 本 海 沿 岸 岩 内 港 日 本 海 沿 岸 江 差 港 太 平 洋 沿 岸 八 戸 港
太 平 洋 沿 岸 日 野 畑 港
日 本 海 沿 岸 深 浦 港
日 本 海 沿 岸 能 代 港
日 本 海 沿 岸 船 川 港
日 本 海 沿 岸 秋 田 港
太 平 洋 沿 岸 釜 石 港
鹿 島 灘 日 立 港
日 本 海 沿 岸 酒 田 港
日 本 海 沿 岸 新 潟 港
日 本 海 沿 岸 金 沢 港
鹿 島 灘 新 宮 寺 浜
鹿 島 灘 興 津 港
遠 州 灘 波 浮 港
遠 州 灘 浜 名 港
紀 伊 水 道 田 辺 港
紀 伊 水 道 日 和 佐 港
土 佐 湾 高 知 港
土 佐 湾 須 崎 港
日 本 海 沿 岸 鳥 取 港
日 本 海 沿 岸 萩 港
日 向 灘 延 岡 港
日 向 灘 宮 崎 港
0
図−7 wave-setup を考慮した場合の予測最大高潮偏差と既往最大高潮偏差との比較(外洋沿岸)
概ね半円形や矩形に比べV字形やたこ足形といった湾奥
が狭くなる形状の湾で,湾奥の高潮偏差が大きいという
傾向がみられる.
b) 外洋沿岸の高潮に対する高波浪の影響
湾内では,通常,外洋に比べ波高が小さいため,汀線
付近で若干の水位上昇が生じる程度であり,また,防波
堤等で遮蔽された港内においては,砕波が生じないため,
wave-setup も生じない.一方,外洋沿岸では,来襲する
波が高波浪であり, wave-setup も湾内に比べ大きく,
合田(1975)によれば,波高の 10%∼10 数%程度の水位上
昇が生じる.
図−7 は,外洋沿岸において,各沿岸の 50 年確率波高
をもとに 10%の水位上昇が生じると仮定し,図−5 に示し
た予測最大偏差に加え,既往最大偏差と比較したもので
ある.図−7 より,土佐湾,紀伊水道においては,最大
で 1m 近くの波浪による水位上昇が生じると推測される.
この波浪による水位上昇量を考慮すると,予測最大偏
差と既往最大偏差との間に大きな差が見られた土佐湾高
知港や紀伊水道日和佐港においても,予測最大偏差と既
往最大偏差はほぼ一致する.一方で,外洋沿岸の全ての
代表点について水位上昇量を加えているため,逆に予測
値と既往最大偏差の差が開いた地点もある.これらの地
点については2つの可能性が考えられる.その 1 つは,
潮位観測が始まってから現在までに顕著な高潮に見舞わ
れていないこと.もう 1 つは,観測値が港内の遮蔽域(防
波堤等の内側)で得られており,観測値は砕波にともな
う水位上昇を含まないことである.
4. お わ り に
本研究における主要な結論は以下のとおりである.
(1)全国の沿岸を対象に最大規模の高潮偏差を予測し
た結果,三大湾,瀬戸内海及び西九州沿岸で大き
な高潮が発生する傾向があることを明らかにした.
(2)内湾では,湾形状,海底勾配等の地形の特徴が,
湾奥における高潮増大の一因となることを明らか
にした.
(3)外洋性の波浪が直接来襲する沿岸では,高潮に
wave-setup の効果を考慮する必要があることを
示した.
参 考 文 献
運輸省港湾技術研究所(1996):津波・高潮数値計算システム取扱説明書
(プログラムマニュアル).
河合弘泰・平石哲也・丸山晴広・田中良男・古屋正之・石井伸治(2000):
八代海と周防灘における台風 9918 号の高潮・波浪災害の現地調査,海
岸工学論文集,第 47 巻,pp.311-315.
気象庁(2000):平成 13 年潮位表.
合田良実(1975):浅海域における波浪の砕波変形,港湾技術研究所報告
第 14 巻第 3 号,pp.59-106.
滝川清・田渕幹修・山田文彦・井手俊範(2000):台風 9918 号による不知
火海海岸の被災特性,海岸工学論文集,第 47 巻,pp.296-300.
平石哲也(2000):八代海における台風 18 号による高潮災害,波となぎさ
No.144,pp.16-19.