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研究ノート
美しい河川景観に伴う音環境の研究
Study of sound environment with beautiful riverscape
岡 本 久
キーワード:音研究、河川景観、サウンドスケープ、騒音計、音質評価
要約
本研究ノートは、財団法人河川財団の助成を受け実施した、平成24年度の課題「美しい河川の景
観に伴う音環境の調査・記録と電子国土サイトへの公開、およびデータ分析・研究活動」、および今
年度(25年度)、同財団による助成を受け実施している課題「美しい河川の景観に伴う音環境の調
査・記録、および音質評価技術を用いた河川の印象の分析・比較・評価手法の研究」について、主
にその研究内容を紹介する形で記述したものである。
1.研究の目的および概要
本研究は、当該研究者がこれまで長年にわたり行ってきた、里地里山を中心とした地域における
音の取材活動(フィールドワーク)での経験や実績をもとに、より科学的に音環境の調査・記録、
および比較・分析を行うことを目的とし、平成24年度および今年度(25年度)、財団法人河川財団に
よる「河川整備基金」の助成を受け研究を行っているものである。
具体的には長年行ってきた録音、写真、GPS位置記録に加え、24年度には騒音計を、今年度は
音質評価ソフトウェアを導入し、正確な記録とともに様々な科学的・客観的分析が行えるようになっ
た。そして現在100ヶ所近くに及ぶ地域の記録データを用い、様々な比較や分析を進めているところ
である。
音環境の研究はサウンドスケープを始め、都市整備や騒音対策などで数多く行われているが、当
該研究者は専門が作曲であるという立場から、サウンドスケープの視点を取り入れた形でこの研究
を行っている。なお、ここでは紙面という制約上、音の記録そのものの再生や、膨大な記録の比較・
分析データを示すことはできない。わずか一箇所での記録についてではあるが、以下さっそく研究
の内容を紹介していきたいと思う。
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美しい河川景観に伴う音環境の研究
2.栃原川・渕橋での記録
2. 1 記録ポイントの地図
ここではまず、記録を行った栃原川・渕橋(渕集落)の地図上の位置を、図1に示す。
兵庫県神崎郡神河町渕 <北緯 35度 07分 58.34秒/東経 134度 45分 35.29秒/標高 256m >
図1 渕集落地図
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2. 2 「渕」集落について
兵庫県神河町の北部、二級河川「市川」とその支流「栃原川」との合流点に位置する。四方を山
に囲まれた狭い扇状地に、十数件の家屋と田畑があるだけの集落である。栃原川は集落のほぼ中央
を流れ、それに沿う形で市道(一宮生野線)が走る。また市川に沿ってJR播但線と村道が走る。
図2 渕集落(国土地理院基盤情報)
写真1 渕集落上空からの写真(Google earth)
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美しい河川景観に伴う音環境の研究
2. 3 河川の風景と解説
次に「河川の風景」として、栃原川および渕橋の写真と解説を記す。
(1)渕橋から南東方向
写真 2 渕橋から南東方向
渕橋から南東方向、栃原川を写す。JR播但線の
列車が鉄橋を渡っているのが見える。水は手前から
奥に流れ、鉄橋を超えた辺りで市川と合流し栃原川
は終わる。市川は南(写真右方向)に流れ、姫路市
の海まで続く。
川の水量は少ないが透明度は高い。川原は丸状の
白い石が目立ち、土や砂はほとんど見られない。そ
のせいか、水量の割にはせせらぎの音が大きく聞こ
える。遠くに見える三角状の山は標高 775m。特徴的な形をしているので、地図などで調べてみて
も名前は確認できなかったが、地元や山岳会などでの呼び方があるのではないかと思われる。集落
の標高がだいたい 250m なので、標高差はおよそ 500m。この集落は周囲を 600~ 900m 前後の山々
に囲まれた地域なので、谷底のような場所であるともいえる。兵庫県にはこうした里山地域が数多
く見られる。
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(2)渕橋から東方向
写真3 渕橋から東方向
渕橋から東方向、栃原川を写す。右手には、奥ま
で水田が続いているのが見える。
栃原川の水の透明度が高いのが、この写真からも
見てとれる。橋から見下ろすと、小さな魚が泳いで
いるのが見えた。
真夏の昼下がりでもあり、また集落の戸数も少な
く、おそらくは過疎地域でもあることから、記録し
ている時間中は市道を通過する数台の車、そして軽
トラックが一台、渕橋を渡り集落で停車したということ以外、人の姿などまったく見られなかった。
特筆すべき風景、特筆すべき音、特筆すべき事象など何もないような場所である。しかしこうし
た場所そして時であるからこそ、その「なんでもない風景」は、何よりもかけがえのない「里山の
風景」として貴重なものではないのかと、現地での取材を通じ感じることろである。
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美しい河川景観に伴う音環境の研究
(3)渕橋より南方向
写真4 渕橋、南側より
渕橋を南側より撮影。集落が見える。橋は特に何
の目立った点もない、白いガードレールの高欄によ
るコンクリート橋。手前左の親柱(コンクリートブ
ロック)には「とちはらがわ」の文字が刻まれてい
る。橋の向こうに数軒の住居が見える。小さな山を
背景に狭い土地に立ち並ぶ家々もまた、里山風景の
ひとつの典型的な例であると言える。
橋の左手奥、高欄沿いに目をやると物見櫓が見え
る。かつてはここには半鐘を吊り、有事の際などにはその役割
を果たしていたのであろう。今は半鐘はなく、防災無線のスピー
カーが設置されている。
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(4)渕橋、北側より
写真5 渕橋を北方向から
渕橋を北側より撮影。こちらにも集落が見える。
写真の右側に集落の奥まで続く道があり、「渕北」と
いう神姫バスの終点がある。
写真の左側の高欄には「ふちばし」
、右側には「栃
原川」の文字が刻まれている。左の地図の右端の丸
で囲んだあたりに「長谷発電所」という小規模な水
力発電所があるらしい。今回現地では確認していな
いが、地図で調べてみたところ、ここより上流の市
川と栃原川から水路を引き、発電に用いているようで
ある。インターネットで水路や発電設備などの写真を
紹介しているサイトがあり、それらを見ると歴史的建
造物といった趣も感じられ、景観および音の風景とし
て大変興味深く、いずれまたフィールドワークを行い
たいと考えている。
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美しい河川景観に伴う音環境の研究
3.騒音計記録データの分析
現地での音の記録は、騒音計と録音機を用い行っている。騒音計では河川の景観に伴う音環境の
記録に適したポイントを探し、A特性等価サウンドレベルの記録と同時に録音(Z特性・モノラル・
Wave 形式)を同時に行っている。録音機は里山全体の音風景を記録することを主な目的とし、川
から少し離れた場所に設置することが多い。従って比較・分析には騒音計による記録を用いる。
3. 1 A特性等価騒音レベル(LAeq)
LAeq
100
95
90
85
80
75
70
65
60
55
dB 50
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
15:38
15:39
15:40
15:41
15:42
15:43
15:44
15:45
15:46
15:47
図3 A特性等価騒音レベル
図3は10分間のA特性等価サウンドレベル( LAeq)のグラフである。縦軸はサウンドレベル
(dB)、横軸は記録時刻(時分)を示し、一本の棒線は10秒間の時間平均レベルを表している。
全体として平坦であることから、この場所はあまり音の変化がなかったということが見て取れる。
これは里山ではよく見られる傾向で、特に交通騒音や生活音など少ない時間帯にこういった形で記
録されることが多い。ただすべての時間平均値が 45dB 以上を記録しているというのは、データ的
にはさほど静かであったとは言い難い。なぜなら一般に 40dB かそれ以下でなけでば、体感的には
静かな印象を受けないからである。しかし実はこの要因は、ほとんどが蝉の持続的な鳴き声による
ものである。録音記録を聞き返すことでそれを識別することはできるが、サウンドレベル記録から
だけでは判別できない。後述の 1/3オクターブ周波数分析や音質評価分析などでは、様々な諸条件
をもとにある程度推測可能ではあるが、やはり何の音であったかまでは特定できない。比較や分析
には録音記録を併せて聞き返すことが必要不可欠である。
いずれにせよ、この場所での「音の主人公」は主に蝉の鳴き声であったが、実際現場での印象と
しては、その音をいわゆるノイズとしでではなく、むしろ真夏の里山らしい、ある種の囲繞感さえ
感じさせられるような「美しい音風景」であったことを記憶している。その意味で等価サウンドレ
ベルを見るだけでは音の評価はできないが、変動が少ないという点に着目すると、ある程度落ち着
いた音環境であるということは見て取ることができる。
- 58 -
3. 2 1/3オクターブ分析
1/3 Octave Analysis
100
90
80
70
60
50
48.3
40.9
dB
40
34.2
30
25.0
22.4
18.1
16.4
20
10
3.8
0
-10
-3.8
-3.4
12.5
16
5.7
9.5
21.7
22.8
23.3
23.8
24.8
25.9
26.9
34.3
29.7
33.7
33.4
32.7
31.5
31.2
41.8
42.3
35.1
34.0
19.2
12.6
11.9
-0.1
-2.7
-20
A
P
20
25
31.5
40
50
63
80
100
125
160
200
250
315
400
500
630
800
1k
1.25k
1.6k
2k
2.5k
3.15k
4k
5k
6.3k
8k
10k
12.5k
16k
20k
Hz
図4 1/3オクターブ周波数分析グラフ
図4は同じ時間帯の 1/3オクターブ周波数分析グラフである。縦軸はサウンドレベル(dB)
、横
軸は周波数(Hz)で、Aがオールパスのサウンドレベル、Pが 100Hz 以下の低周波域のパワー合
成レベル、それ以外は 1/3オクターブ各周波数毎のサウンドレベルを表している。
ここでまず目につくのが 4KHz から 10KHz 付近にかけての大きな膨らみで、これが主に蝉の鳴
き声によるものである。ただしこの帯域には他にも川の音や交通音なども含まれている。しかしサ
ウンドレベルは各音源の音圧を単純に加算合成するものでははないため、また蝉の声は里山全体を
支配していたことから、この膨らみはほとんど蝉の声によるものであると言える。
もうひとつ、80Hz の値が全体のカーブからやや突出しているのが見て取れる。これは測定時間中
数台の車が通過したことによるものであるが、特に里山地域では一般に交通量が少ないため、車が
通過する際はその音が目立って聞こえる。また山に囲まれた地形構造というのも一因であると思わ
れるが、特に低周波域が際立って聞こえることが多く、記録でもそれが顕著に現れている。Pの値、
100Hz 以下の低周波域パワー合成値が 25.0dB というのは、他の調査地域の値などと比べると決し
て低い値ではないものの、気になるほどのものではないといった程度の値である。というよりも、
実は体感的にはこのような音の変化の少ない里山では、時折通過する車の音が一つの心地よい変化、
あるいは刺激として感じることも少なくなく、やはりグラフの示す値からだけではそうした音の印
象や評価を導き出すことは困難であるといえる。
しかしながら、等価サウンドレベルや 1/3オクターブ周波数分析の大きな役割は、絶対的な数値
かつ客観的な根拠を第三者に示すことができるという点であり、ともすれば曖昧さや不確かさを多
く含む主観的印象や複数被験者によるアンケートの集計だけでは行えない、比較や分析などの科学
的な研究・評価に大いに役立つものとして位置づけられる。むろんそれは現場での印象などを否定
するものではなく、それらがあってこそ、また録音記録を何回も聞き返すなどしながら詳細に研究
を進めていくべきであることは言うまでもない。
では次に、上記のことを前提とした上で更に詳しく数値的・客観的な比較を行っていく。
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美しい河川景観に伴う音環境の研究
3. 3 等価サウンドレベルと録音記録の波形表示
図5 等価サウンドレベルと録音記録波形の重ね合わせ
図5は、騒音計による等価サウンドレベルと録音記録の波形を重ね合せてみたものある。同じ時
刻で合わせているのだが、サウンドレベルと波形の振れがあまり一致していないように見える。こ
れは等価サウンドレベルが人間の聴感に近いA特性で補正されているのに対し、録音は補正なし(Z
特性≒フラットな特性)による記録であるため、こうした見た目の違いが出てくる。実際波形の大
きな振れは主にウィンドウ・ノイズ(風雑音)によるものであり、録音機はそれをそのまま大きな
音として記録する一方、等価サウンドレベルはA特性の補正によりウィンドウ・ノイズの主な成分
である低周波域を大幅に低減し記録する。このように波形と等価サウンドレベルは記録の方式が異
なるため見た目の不一致が生じやすく、波形表示からサウンドレベルを推定するのは難しく、注意
を要する。
3. 4 等価サウンドレベルの特徴的な時間帯の詳細分析
LAeq
100
95
90
85
80
75
70
65
60
B
A
55
C
dB 50
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
15:38
15:39
15:40
15:41
15:42
15:43
15:44
15:45
15:46
15:47
図 6 3つの特徴的なポイント
図6は、等価サウンドレベルの記録を詳しく分析するため、特徴的な3つのポイントに絞り、そ
れを示したものでる。Aは車の通過、Bは2匹ぐらいの犬の鳴き声、CはA同様、別の車が通過し
た時のものである。
以下、この3つのポイントについて、詳しく調べてみることにする。
- 60 -
(1)A時刻の詳細
1/3 Octave Analysis
100
90
80
70
60
49.4
50
41.1
37.7
40
dB
36.3
35.8
30
20
34.0
29.5
27.3
25.8
23.9
27.9
29.5
28.6
27.8
31.4
35.1
36.0
34.8
34.2
34.0
34.5
33.2
32.4
41.9
41.6
35.3
33.2
18.1
14.6
9.8
10
4.2
0
-10
-3.3
-2.5
12.5
16
-0.6
-3.7
-20
A
P
20
25
31.5
40
50
63
80
100
125
160
200
250
315
400
500
630
800
1k
1.25k
1.6k
2k
2.5k
3.15k
4k
5k
6.3k
8k
10k
12.5k
16k
20k
Hz
図7 A時刻の 1/3オクターブ周波数分析
Compare
100
90
80
70
60
48.3 49.4
50
42.3 41.6
40.9 41.1 41.8 41.9
dB
37.7
40
30
36.3
35.8
25.0
25.8
23.9
20
29.5
27.9
24.8
23.8
23.3
22.8
21.7
27.8
25.9
28.6
31.4
26.9
29.7
35.1 34.2 36.0 34.3 34.8
35.1 35.3
33.7 34.2 33.4 34.0 32.7 34.5
33.2
31.5
31.2 32.4
34.0 33.2
19.2 18.1
18.1
12.6
11.9
9.5
3.8 4.2
22.4
16.4
14.6
10
34.0
29.5
27.3
9.8
5.7
0
-2.5
-3.8 -3.3 -3.4
-0.1 -0.6
-2.7 -3.7
-10
-20
A
P
12.5
16
20
25
31.5
40
50
63
80
100
125
160
200
250
315
400
500
630
800
1k
1.25k
1.6k
2k
2.5k
3.15k
4k
5k
6.3k
0.5
0.6
1.8
1.7
1.2
0.2
0.2
0.1
8k
10k
12.5k
16k
20k
-0.7
-0.8
-1.1
-2.8
-1.0
8k
10k
12.5k
16k
20k
Hz
図8 全区間とA時刻との比較
Difference
100
90
80
70
60
50
dB
40
30
20
14.4
12.7
1.1
0.5
0
13.9
8.9
10
0.9
10.9
13.4
11.4
14.6
11.2
4.6
0.4
5.7
3.0
2.7
4.5
5.4
1.8
0.5
-0.5
-10
-20
A
P
12.5
16
20
25
31.5
40
50
63
80
100
125
160
200
250
315
400
500
630
800
1k
1.25k
1.6k
2k
2.5k
3.15k
4k
5k
6.3k
Hz
図9 全区間とA時刻との差分
図7は、車の通過のあったA時刻の 1/3オクターブ周波数分析のグラフで、車の通過による低周
波域の膨らみが見て取れる。図8はA時刻と全区間との比較で、特に 31.5~ 160Hz 付近に大きな差
異を見ることができる。図9はその差分で、わずかではあるが、広い帯域で車の通過時に生じるサ
ウンドレベルの変化が見て取れる。特に低周波域以外は無視しても支障のない程度の差異ではある
が、これは記録を行った場所が道路と比較的離れた場所であったため、さほど車の通過音による影
響がなかったからである。
- 61 -
美しい河川景観に伴う音環境の研究
(2)B時刻の詳細
1/3 Octave Analysis
100
90
80
70
60
54.7
49.5
50
48.7
45.7
39.4
40
dB
43.5
39.6
32.8
30
21.9
20
15.6
15.3
10
21.5
32.8
36.7
40.9
41.9
41.0
32.2
26.9
17.4
11.0
10.6
7.1
3.3
17.5
25.1
23.8
10.9
0
-10
-7.7
-6.4
-6.0
12.5
16
20
-1.7
-2.2
-2.2
25
31.5
40
-3.4
-20
A
P
50
63
80
100
125
160
200
250
315
400
500
630
800
1k
1.25k
1.6k
2k
2.5k
3.15k
4k
5k
6.3k
8k
10k
12.5k
16k
20k
Hz
図10 B時刻の 1/3オクターブ周波数分析
Compare
100
90
80
70
60
54.7
dB
49.5
48.3
50
48.7
45.7
43.5
34.2
30
25.0
20
22.4
15.3
11.9
9.5
10
10.6
15.6
21.9
23.8
21.5
24.8 23.8
34.3
33.7
33.4
32.7
29.7
31.5
32.8
31.2
32.8
35.1
36.7
34.0
32.2
19.2
17.5
17.4
12.6
11.0
10.9
7.1
5.7
3.8
23.3
22.8
21.7
18.1
16.4
25.9 25.1 26.9 26.9
42.3
41.0
40.9 40.9 41.8 41.9
39.6
39.4
40
3.3
0
-0.1
-3.4
-3.8
-10
-7.7
-6.4
-1.7
-2.2
-2.2
-2.7 -3.4
-6.0
-20
A
P
12.5
16
20
25
31.5
40
50
63
80
100
125
160
200
250
315
400
500
630
800
1k
1.25k
1.6k
2k
2.5k
3.15k
4k
1.3
1.6
1.6
5k
6.3k
0.0
0.1
8k
10k
12.5k
16k
20k
-1.3
-1.8
-1.8
-1.7
-0.7
8k
10k
12.5k
16k
20k
Hz
図11 全区間とB時刻との比較
Difference
100
90
80
70
60
50
dB
40
30
20
10
15.3
14.4
9.7
6.4
12.0
10.1
6.9
0.0
0
-3.9
-10
-3.0
-9.7
-5.9
-5.5
-7.9
-20
A
P
12.5
16
20
25
31.5
-11.7
40
-8.6
-9.3
50
63
-7.1
-6.1
-5.3
100
125
160
-1.4
-2.3
-1.0
-0.8
200
250
315
400
-11.8
80
500
630
800
1k
1.25k
1.6k
2k
2.5k
3.15k
4k
5k
6.3k
Hz
図12 全区間とB時刻の差分
図10から図12も同様、犬の鳴いたB時刻の 1/3オクターブ周波数分析と全区間との比較、および
その差分である。ここでは 630Hz~ 2KHz 付近に膨らみが見られ、これが犬の鳴き声よるものであ
ることが見て取れる。低周波域が全区間との比較でマイナスとなっているのは、この時刻に車の音
など全くなかったことによるものであると考えられる。
- 62 -
(3)C時刻の詳細
1/3 Octave Analysis
100
90
80
70
60
50.0
50
40
dB
30.5
29.0
30
25.6
23.5
29.2
30.1
31.5
29.3
31.7
31.3
33.3
34.8
37.6
39.3
38.7
36.8
36.0
37.6
40.5
41.9
42.9
34.2
24.5
18.7
18.0
20
13.6
10
10.6
4.9
2.8
0
-10
-4.9
-4.7
-4.1
12.5
16
20
-0.4
-3.3
-20
A
P
25
31.5
40
50
63
80
100
125
160
200
250
315
400
500
630
800
1k
1.25k
1.6k
2k
2.5k
3.15k
4k
5k
6.3k
8k
10k
12.5k
16k
20k
Hz
図13 C時刻の 1/3オクターブ周波数分析
Compare
100
90
80
70
60
48.3
50
dB
50.0
40
30.5
30
25.0
25.6
22.4 23.5
20
11.9
9.5
10
5.7
3.8
2.8
13.6
21.7
22.8
24.5 23.3
31.5
30.1
29.2
29.0
25.9
24.8
23.8
29.3
31.7
26.9
29.7
31.3
34.2 33.3 34.3 34.8 33.7
39.3
37.6
33.4
38.7
32.7
36.8
31.5
36.0 35.1
37.6
42.3 42.9
40.9 40.5 41.8 41.9
34.0 34.2
31.2
19.2 18.7
18.1 18.0
16.4
12.6
10.6
4.9
0
-0.1
-3.8 -4.9 -3.4 -4.7
-10
-0.4
-2.7 -3.3
-4.1
-20
A
P
12.5
16
20
25
31.5
40
50
63
80
100
125
160
200
250
315
400
500
630
800
1k
1.25k
1.6k
2k
2.5k
3.15k
6.0
5.3
4.8
4k
5k
6.3k
8k
10k
0.1
0.6
0.2
12.5k
16k
20k
-0.5
-2.0
-0.6
12.5k
16k
20k
Hz
図14 全区間とC時刻との比較
Difference
100
90
80
70
60
50
dB
40
30
20
12.6
10
1.7
5.5
1.7
3.9
1.1
1.7
5.9
6.3
6.7
3.4
4.8
1.6
0.5
0
-1.1
-1.3
12.5
16
-10
-4.0
-4.2
-2.9
20
25
31.5
-0.1
-4.6
40
3.9
5.9
2.5
-0.4
-0.9
-20
A
P
50
63
80
100
125
160
200
250
315
400
500
630
800
1k
1.25k
1.6k
2k
2.5k
3.15k
4k
5k
6.3k
8k
10k
Hz
図15 全区間とC時刻の差分
図13から図15もまた同様、別の車の通過によるC時刻の詳細である。A時刻の車の通過時とは多
少違った形でのサウンドレベルの変化を見ることができる。また上記3つの時刻のいずれも、蝉の
声の帯域はほとんど同じ状態であり、いわゆる定常音として存在していたことがわかる。
- 63 -
美しい河川景観に伴う音環境の研究
3. 5 騒音計による分析について
騒音計によるA特性等価サウンドレベル、およびそれと同時に行う録音記録を分析することで、
音風景を上記のような形で客観的に示すことができた。また車の通過や犬が鳴いた時の変化などに
ついても、比較・分析することができた。むろん最も重要なことは、その場における景観および音
風景の印象であり、これら記録による比較や分析は、少なくともそうした印象評価を数値で表すも
のではなく、あくまでも物理的な事象を正確に記録し、印象評価を補うデータを提供するという役
割を担っている。
また今回は、ひとつの場所のみの記録について説明を行ったが、本研究では様々な場所の記録の
比較なども行っており、その比較から言えることは、数値的に等価サウンドレベルが低いからといっ
て、そこが他の場所よりも静かであったとか良好な音であったとか、そうしたことはデータだけで
は決して述べることはできないということである。
何よりも大切なことはその場所での印象評価、しかしこれもまた季節や時刻、天候や気温・風向・
風速など、諸条件によってその印象は大きく変わり、記録されるデータでさえもかなりの影響を受
ける。ただそれでも、ひとつの目安として印象記録とサウンドレベルや周波数成分の記録などを併
せて分析していくことで、その場所の音環境の特徴が、ある程度正確に数値的根拠をもって伝える
ことができるようになる。
いずれにせよ騒音計記録だけでは、ここぐらいまでの分析が限界であることは確かである。その
ため今年度はこれまでの記録を「音質評価システム」を用い、改めて比較・分析を進めているとこ
ろである。
4.音質評価
平成24年度の研究テーマとして「美しい河川に伴う音環境の研究」として、特に今年度は、これ
までのデータと今年のデータを元に、様々な音質評価についての分析や抽出されたデータについて
の実証実験などを行っている。
音質評価では小野測器の「Oscope2音質評価パック」のソフトウェアを導入し、分析を行ってい
る。このソフトは次の6つの音質評価パラメータを用い、主観的評価を数値化する。
1.ラウドネス 大きさ
2.シャープネス 甲高さ
3.ラフネス ザラザラ感
4.変動強度 変動感
5.AI 語音明瞭度
6.トーナリティ 純音感
- 64 -
現時点でこの音質評価については、まだ様々な検証を行っている段階であるため、ここでは簡単
に紹介するに留めたい。以下は上記と同じく栃原川・渕橋についての騒音計のサウンド記録データ
を、音質評価により分析したものである。
6. 1 ラウドネス
図16、図17は音の大きさを示す定常音ラウドネス、および非定常音ラウドネスのグラフで、騒音
計の1/3オクターブ周波数分析とA特性サウンドレベルとそれぞれ比較することができるが、マスキ
ング効果などが含まれ、より人間の耳に近い特性で音の大きさが表わされている。
6. 2 シャープネス
いわゆる甲高さを表すシャープネスのグラフ(図18)では、車の通過時や犬の鳴いているあたり
でその値が低くなっている。これはマスキング効果によるものと思われ、車や犬の鳴き声により一
時的に蝉の声が緩和され聞こていると見ることができそうである。
6. 3 ラフネス
ざらざら感を示すラフネスのグラフ(図19)では、特に犬の鳴き声のあたりで大きな値を示して
いる。意外にも車の通過ではラフネス値の値はほとんど変化していない。またグラフの右端の方に
見える大きな変化は、騒音計の近くを歩いた際の砂利を踏む音によるもので、砂利の音は確かにザ
ラザラ感が強いものであると、分析結果から改めて認識することができる。
6. 4 変動強度
図20の変動強度とは、音が急激にどの程度変化したかの変動感を示すもので、やはり犬の鳴き声
で顕著に、また砂利を踏む音でも少し大きな値をしてしているのがわかる。また車の通過でも若干
変化しているのが見て取れる。
6. 5 AI
図21のAI、すなわち語音明瞭度については、車の通過時や砂利を踏む音などで、その値がが下
がっているのが見て取れるが、犬の鳴いているときにはあまり変化がない。
6. 6 トーナリティ
純音感を示すトーナリティのグラフ(図22)で少し意外なのは、車の通過時にその値が高くなっ
ているということである。しかし思えばこれは蝉の声だけが響き渡る里山のような場所では、時折
通過する車の音は、どちらかというと心地良い純音度の高い音として感じられるのではないかと思
われ、実際現地においてそうした印象を受けることも少なくない。
- 65 -
美しい河川景観に伴う音環境の研究
0.000
500m
45
600.997
ᤨ㑆䎃䎾䏖䏀
125
224
315 400
500
630
800Hz
1.0
1.25
1.6
2.0
2.5
3.15
4.0
5.0
6.3
8.0
10.0 12.5kHz
䮰䭭䮐䮔䮀ኒᐲ䎃䎾䏖䏒䏑䏈䎒䎥䏄䏕䏎䏀
400m
300m
200m
100m
0
90
180
280 355
450
560
710
900Hz
1.12
1.4
1.8
๟ᵄᢙ䎃䎾䎫䏝䏀
2.24
2.8
3.55
4.5
5.6
7.1
9.0
11.2 14.0kHz
図16 定常音ラウドネス
0.000
600.997
ᤨ㑆䎃䎾䏖䏀
12.5
䮰䭭䮐䮔䮀䎃䎾䏖䏒䏑䏈䏀
10
7.5
5
2.5
0
0
200
ᤨ㑆䎃䎾䏖䏀
図17 非定常音ラウドネス
- 66 -
400
600.99
0.000
600.997
ᤨ㑆䎃䎾䏖䏀
2.5
䭾䮪䯃䮞䮔䮀䎃䎾䏄䏆䏘䏐䏀
2
1.5
1
500m
0
200
ᤨ㑆䎃䎾䏖䏀
400
600.99
図18 シャープネス(甲高さ)
0.000
600.997
ᤨ㑆䎃䎾䏖䏀
2
䮰䮜䮔䮀䎃䎾䏄䏖䏓䏈䏕䏀
1.5
1
500m
0
0
100
200
300
ᤨ㑆䎃䎾䏖䏀
図19 ラフネス(ザラザラ感)
- 67 -
400
500
599.9
美しい河川景観に伴う音環境の研究
0.000
600.997
ᤨ㑆䎃䎾䏖䏀
700m
ᄌേᒝᐲ䎃䎾䏙䏄䏆䏌䏏䏀
600m
400m
200m
0
0
100
200
300
ᤨ㑆䎃䎾䏖䏀
400
500
599.9
図20 変動強度(変動感)
169.14s, 1.00%
0.000
600.997
ᤨ㑆䎃䎾䏖䏀
1
⺆㖸᣿⍎ᐲ䎃䎾䎈䏀
900m
800m
700m
600m
500m
0
200
ᤨ㑆䎃䎾䏖䏀
図21 AI(語音明瞭度)
- 68 -
400
600.98
0.000
600.997
ᤨ㑆䎃䎾䏖䏀
500m
400m
䮏䯃䮑䮱䮍䭪䎃䎾䏗䏘䏀
300m
200m
100m
0
0
200
ᤨ㑆䎃䎾䏖䏀
400
600.99
図22 トーナリティ(純音感)
7.最後に
以上、騒音計によるA特性等価サウンドレベルおよび1/3オクターブ分析データについての比
較・分析、および簡単にではあるが音質評価の6つのパラメータによる分析を紹介した。特に音質
評価ソフトによる分析結果では、騒音計のデータ分析だけでは読み取ることができなかった印象評
価を様々な形での数値データとして見ることができ、現地で感じた印象ともある程度一致する。ま
た改めて録音したものを聞き返してみると、例えば砂利を踏む音が記録されていたことなどにあと
から気づかされることもある。
実際現地では、いわゆる「カクテル・パーティ効果」などの働きもあって、特定の音に気をとら
れてしまっていることが多く、主観的になりがちである。騒音計による記録や音質評価は、それを
補うものとして非常に有効な記録・分析手段であると考えられる。
まだまだこの研究は始めたばかりの段階にあり、今後さらに様々なフィールドワーク活動、およ
び比較・分析研究を積極的に進め、一定の法則あるいは答えを導き、ひいては我々日常生活におけ
る音環境のあり方や改善策などについて、提示提案していくことができるよう努めていきたいと考
えている。
- 69 -
美しい河川景観に伴う音環境の研究
参考文献
株式会社リオン(2012)普通騒音計 NL-42精密騒音計 NL-52取扱説明書操作編
株式会社リオン(2012)1/3オクターブ実時間分析プログラム NX-42RT 取扱説明書
株式会社リオン(2012)波形収録プログラム NX-42WR 取扱説明書
株式会社小野測器(2011)「音質評価とは」オンライン PDF ファイル http://www.onosokki. co.jp/HP-WK/c_
support/newreport/soundquality/soundquality.pdf
株式会社小野測器(2012)Oscope2電子マニュアル
岩宮眞一郎(2011)図解入門よくわかる最新音響の基本と応用 秀和システム
久野和宏・野呂雄一編著(2006)音を診る騒音の計測と評価/ dB と LAEQ,61-70
カシミール3D +山旅地図+国土交通省国土地理院電子国土および基盤情報地図(図1,図2)Googleearth
(写真1),©Google
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