Download ダイブ コンピューター( Diving Computer) ①

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※ この内容は、DES沖縄会報誌の連載を加筆訂正したものです。
ダイブ コンピューター(Diving Computer) ①
今どきのダイバーは持っていない人の方が珍しい程、ダイブコンピューターが普及しています。潜
水の初級コース( オープン ウォーターダイバー, スクーバダイバー, ワンスターダイバー、ノービスⅠ等と認定企業によって呼
び方は様々です)では「ダイブテーブルの使い方」のところで、ダイブコンピューターの便利さとダイ
ブテーブルの面倒臭さを理由に、高価なダイブコンピューターをお買上げ頂いた「お客様」も多い筈
です。早速箱を開けて実物を手にして、ふと、ダイビング器材のくせにやたらと分厚い取扱説明書の
最初に書いてある事を読んでみると、太字や赤字で目立つ様に次ぎの様な事が必ず書いてあります。
注 意 ① 講習での減圧症防止理論を理解した上で使用する(Cカード講習の内容を理解する)
② 正規のマルチレベルプロファイル(最初に深く、徐々に浮上)を厳守する。
特に、以下の様な潜水方法では正確な計算は出来ない。
・ リバースプロファイル(最初に浅く、段々深く潜る)
Reverse
・ ソートゥース プロファイル(頻繁に潜降・浮上を繰り返す)
Saw tooth
・ リピート ディープ プロファイル(深々度潜水の繰り返し)
Repeat deep
・ ショートインターバル プロフイル(短か過ぎる水面休息時間)
Short interval
③ 事前に限界水深と時間を確認し、予備の時計と水深計を準備する
④ 他のダイブコンピューターと供用しない
⑤ 個人的な体調、体格、性別、ダイビング技術等の差は考慮されない。
⑥ 表示を厳守しても、減圧症を100%防止する事は保証出来ない。
⑦ うんぬん かんぬん
そうなんです。最新のダイブコンピューターでも無減圧限界時間とか残留窒素時間とかマルチレベル
ダイビングとかの難しい理論を理解した上で使わないと「減圧症になっちゃう」のです。あなたは自
分のダイブコンピューターの取扱説明書をちゃんと読みましたか?その前に、当日の潜水計画ダイブ
テーブルを引きますか?その前に、ちゃんと減圧症の危険性を理解した上でダイビングに参加してい
ますか?多分、殆どのダイバーの正直な答えは「No!」です。何故なら、「ダイブテーブルの限界
時間よりも、もっと深く長く潜っていたいから」と言うのが、ダイブコンピューターを購入する最も
大きな理由だからです。
今回からの連載はダイブコンピューターの有効性を否定するものではありません。只、現状として
機械であるダイブコンピューターを人が利用するのでは無く、人がダイブコンピューターの表示に振り
回されているとしか思えません。では、何故ダイブコンピューターは誤った表示をしてしまうのでし
ょうか。その理由として以下の様な4つの原因が考えられます。
① データ処理方法の問題: パソコンやワープロでお解りの通り、コンピューターは正確なデー
タがインプットされなければ誤った答えが返ってきます。ダイビングでの正確なデータとは、ダイブ
コンピューターが唯一理解できる正規のマルチレベルパターン(最初に最大水深へ到達後、徐々に浮上
してゆく)に従ったダイビングの実施です。何故、このパターン以外ではダイブコンピューターが正確
に作働しないのかは、高校の理系コース数学ⅡB以降で習う指数・対数関数と微分・積分の理解が不
可欠ですので、ここでは省略します(本当は書いてる本人も良く解りません)。更に、各ダイブコン
ピューターが具体的にどんな定数値や演算式を採用しているか不明で、今後も開示される事は無いで
しょう。
② 装着位置と水深との誤差の問題: ダイブコンピューターには腕時計の様に手首に装着するも
のと、残圧計と一緒にゲージコンソールとしてタンクからぶら下がっているもの等、様々な装着位置
が考えられます。理論的にはガス交換場所である肺と同じ水深となる様な位置が望ましいので、BC
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の胸のD型リングに掛けておく事が良いのではないでしょうか。水平姿勢であれば余り誤差は無いと
思いますが、立ち姿勢で腕を上げた状態では、手首とコンソールとの水深の違いは1㍍以上になりま
す。「たった1㍍の違いなんて」とおっしゃいますが、特に深い水深での1㍍の違いは潜水可能時間
(無減圧限界時間)に大きく影響します。例えば、NAUIのダイブテーブルでは水深24㍍迄の限
界時間は35分ですが、水深25㍍になると水深27㍍迄の限界時間を採用するので10分短い25分に
なってしまいます。この1㍍の違い(厳密には圧力センサーの精度範囲である1㌢の違いでも)によ
り、US NAVY Dive Table準拠型の演算式を採用しているダイブコンピューターではそのまま潜水可能
時間の短縮または延長として表示されます。
③ 個人差の問題:良く聞く話として「皆んなと一緒の水深で、ダイブコンピューターの指示にキ
ッチリ従って潜っていたのに、私だけが減圧症になった。」と言うのがあります。最も可能性の高い
理由が、直前のダイビングではダイブコンピューターを付け忘れていたか、別のダイブコンピューター
を使用していた為、残留窒素時間が計算されずに限界時間が長く表示された場合でしょう。この様な
不注意でダイブコンピューターが悪者扱いされる事も少なくないのです。しかし、ダイブコンピュータ
ーの指示に従っていても減圧症になる人はなるのです。その原因が個人差です。特に肥満や体調不良
や水中での重労働等は減圧症発症の大きな要因ですが、ダイブコンピューターがこれらの要因を感知
する術はありません。機種によっては高所や低水温等の設定により、安全率を高める事も可能ですが、
個人差をどの程度に設定したら良いのかは不明です。
④ 滞底時間と潜水時間との認識の違い: 一般レジャーダイバーは減圧停止を必要としない無
減圧潜水が基本であり、安全率を高める為に浮上時間も含めた時間(潜降開始から浮上完了迄)を潜
水時間(Dive Time。U字型潜水)として認識しています。しかし、US NAVY Dive Table や日本の潜水
士減圧表は減圧潜水を前提としているので、減圧に必要な浮上時間を含めない時間(潜降開始から浮
上を開始する直前迄の時間)を潜水時間(Bottom time。 区別の必要上、滞底時間。L字型潜水)とし
ています。例えば、潜水士用の減圧表によりますと水深40㍍に60分間滞底していたダイバーは12㍍で
8分、9㍍で22分、6㍍で27分、3㍍で65分の合計122分間の減圧停止が必要になり、潜降に必要な4分間
も合わせた潜水時間は186分になりますから、滞底時間と潜水時間とでは3倍近い差(186 ÷ 64 =
2.90625)があります。ダイブコンピューターの場合、マルチレベルパターンとして最大水深に達し
たら必ず浮上を開始する、即ち、減圧を開始する滞底時間型システム(L字型潜水)を採用している
からこそ、水深が浅くなるに従って潜水可能時間が長く表示されるのです。ところが、一般ユーザー
は滅茶苦茶なダイビングパターンを取りますからダイブコンピューターとしては「まだ潜降中なのか、
或いは減圧計算を始めても良いのかどうか」のタイムリミットを、何処かで区切らざるを得ません。
この区切り方の違いも、各ダイブコンピューター機種別の表示の差になってしまいます。
兎に角、「ダイブコンピューターの表示は多くの誤りが含まれている可能性が高い」事をまず心に
留めておいて下さい。
次回からは組織分画(コンパ-トメント)、半飽和時間 (ハーフタイム)、過飽和耐性(M値)等の、難解な用語の解
説に挑戦してみよう!と思っております。また、記載内容についての素朴な疑問を事務局宛お知らせ
下さい。自分でも上手に説明出来ているとは思えませんので、「普通の人にはこの言葉や説明では解ら
ない筈。」と言った皆様からのお叱りの質問をお待ちしております。
ダイブ コンピューター(Diving Computer) ②
前回の説明で、「ダイブコンピューターの有らぬ濡れ衣」を、少しは晴らして頂けましたでしょう
か。今回からはダイブコンピューターの演算理論(水深と時間の経過から何を計算しているのか)の
理解に必要な用語についてお話しします。
①
身体組織分画(コンパ-トメント:Tissue Compartment in Body)
3
人の身体は、窒素の溶け込みと排出が早い区分と遅い区分とに分けた方が、減圧症の発症と予防を
考える上で都合の良い事が、山羊を使った実験により、100年前のイギリスのホールデンと言う生
理学者によって提唱されました。このホールデン理論は様々な改良が加えられてはいますが、現在で
も最も基本となる減圧理論です。ホールデンは血液の様に肺での空気との接触が多い区分を早い組織、
皮下脂肪の様に血流が乏しく窒素が分配され難い区分を遅い組織と呼んで、理論的な5つの分画を設
定しましたが、具体的にどの組織や臓器がどの分画に当てはまるかと言う分類では有りません。ここ
がポイントです。よく筋肉は早い組織で関節は遅い組織といった表現を耳にしますが、これも後程お
話しするハーフタイムやM値との混同を原因とする間違いであり、説明の都合上、その様な表現にな
っただけの事だと理解しておいて下さい。
② 半飽和時間 (ハーフタイム:Saturational Half Time)
ホールデンは5つの組織分画を5分から75分迄の半飽和時間毎に区分しました。現在は、US NAVY
Dive Tableが提唱する5分から120分迄の6つの半飽和時間が主流(5, 10, 20, 40, 80, 120の6分画)
となっています。繰り返しますが、「血液は半飽和時間が5分の早い分画であり、脂肪組織は120分
の遅い分画」等と言う分類方法は存在しません。最近の機種では半飽和時間が4分から635分(10時間
35分)の16区画と言う組織分画演算モデルも採用されています。
飽和とは窒素がそれ以上、身体に溶け込めない状態です。水に塩を溶かす場合で考えてみます。塩
は4℃の水100mlに約48㌘以上溶かす事は出来ません(塩の溶解度と言います)。この状態を塩の飽
和と言います。但し、これは水温が常温の場合であって、水を加温すれば更に溶かせますし、冷やせ
ば塩粒となって現れます。塩の場合は温度が上がれば水に溶け易くなりますが、気体の場合は逆に、
温度が下がる程溶け易くなります(炭酸飲料は温めると気が抜けますよね)。更に、圧力が高くなる
程溶け込みます。この様に、気体の飽和状態は外部からの様々な条件によって一定しません。陸上の
大気圧下で生活している人の身体も、ほぼ窒素の飽和状態にあります。高気圧や低気圧とかの大気圧
の変動は、水深での水圧変化に比べれば極めて小さい(水深10㍍から水面迄の圧力変化は、地上から
高度13,000㍍以上へ急上昇するのと同じ)ので、常にほぼ飽和状態を保てます。しかし、水深毎の身
体への窒素の飽和状態は、組織分画の違いもあり、常に変化せざるを得ません。更に、溶け込む早さ
は最初は早いのですが、飽和状態に近づくに従って溶け込み難くなり、どんどん遅くなります。同じ
事が溶け出す早さにも当てはまります。そこで、ホールデンは指数関数的なハーフタイムと言う考え
方を採用しました。潜降したダイバーが同じ水深に留まっている場合、その水深での飽和迄の時間は、
その組織分画のハーフタイムにより飽和迄の半分だけ溶け込む、と言う考え方です。例えば、ハーフ
タイム10分の組織分画で考えてみましょう。
10分経過 飽和迄の半分(1/2 )が溶け込む
50%
20分 々
飽和迄の残りの半分(1/4)が溶け込む
75%
30分 々
飽和迄の残りの半分(1/8)が溶け込む
87.5%
40分 々
飽和迄の残りの半分(1/16)が溶け込む
93.75%
50分 々
飽和迄の残りの半分(1/32)が溶け込む
96.875%
60分 々
飽和迄の残りの半分(1/64)が溶け込む
98.4375%
70分 々
飽和迄の残りの半分(1/128)が溶け込む
99.21875%
この様な繰り返しですから、200分経っても400分経っても絶対に100%の飽和状態にはなりませんが、
その組織分画のハーフタイムが6回分経過(98.4%飽和)すれば、ほぼ飽和状態になると考えても差し
支え無くなります。ですから、ハーフタイム120分の組織分画には潜降後120分が経過しても、
その水圧での飽和量の半分(50%)しか窒素は溶け込めません。逆に、この半分しか溶けていない窒素
でも、浮上後の大気圧下でほぼ抜ける迄には12時間(120分 × 6回)以上の時間がどうしても掛
かるのです。これが、ダイブテーブルで残留窒素時間を計算しなくても良くなる(反復潜水ではなく
なる)為には、浮上後の水面休息時間が12時間以上必要となる根拠です。ちなみに、PADIのダ
4
イブテーブルでは最も遅い分画が120分より短い設定なので、反復潜水の制限時間が長く(水面休
息時間が短くても長く潜れる様に)なっていると考えられます。
ちょっと複雑な話しになりましたから、今回はここ迄にします。次回は皆さんが(私が??)最も
苦手なM値(過飽和耐性)についてお話しします。但し、今回の説明が理解出来ていないとM値の話
しはチンプンカンプンになります。
ダイブ コンピューター(Diving Computer) ③
今回はM値のお話しです。前回の身体組織分画とハーフタイムの意味をもう一度確認した上で読ん
で頂かないと解らないですョ。
① 過飽和耐性( M値:Maximum saturation Value )
減圧症予防を考える場合、各組織分画での飽和到達時間が無減圧限界時間を意味する訳では有りま
せん。ここがポイントです。もし、そうだとすると、ハーフタイム5分の組織分画が存在する以上、
潜水後30分(5分 × 6回)経過により飽和する訳ですから、どんなに浅い水深であれ30分以上
の潜水は出来ない事になってしまいます。逆に、水深が深い場合、例えば水深30㍍(絶対圧4気圧)
では水面の4倍もの量が溶け込まないと飽和に達しない訳ですから、最大水深では飽和していなくて
も、ある水深まで浮上した時点でいきなり飽和する事になります。そこでM値の登場となりました。
各組織分画にはそれぞれのM値があり、水面に戻った場合に窒素が気泡化する限界を数値化したも
のです。公表されているM値はUS NAVY Dive Tableのものしかありませんので、従来の解説書では
FSWA単位でのM値により、無減圧限界時間を解説しようとしている場合が殆どです。理論的解説に
はこの方法が正確を期せますが、混乱もあります(と言うより、私が混乱してます)。そこで、潜水
前の水面での各組織分画の飽和状態を「1」とした場合、何倍迄だったら気泡化しないかを数字化し
たM値(窒素圧限界、あくまでも私独自の仮称)で話しを進めます。
組織分画
水面M値
窒素圧限界
5分
104FSWA
3.15
→ 水面の3.15倍迄の窒素量なら大丈夫
10分
88
々
2.67
20分
72
々
2.18
40分
58
々
1.76
↓
80分
52
々
1.58
水面の大気圧値
120分
51
々
1.55
← (72FSWA÷33FSWA=2.18)
さて、5分の組織分画に限って言えば(身体全てが5分の組織分画だけで出来ていると仮定すると)、
水面の3.15倍迄の窒素圧迄であれば、そのまま浮上しても体内に気泡は出来ない、と言う事です。
と言う事は、水深21㍍(絶対圧3.1気圧)より浅ければ、何時間潜水していても限界時間は来ないと
言う事になります。
5分の組織分画の水深20㍍(絶対圧3気圧)での窒素飽和率
5分経過
50%×3気圧 = 150%
10分経過
75%×
々
= 225%
15分経過
87%×
々
= 261%
20分経過
93%×
々
= 279%
25分経過
96%×
々
= 288%
30分経過
98%×
々
= 294%
35分経過
99%×
々
= 297% →水面の2.97倍 >
3.15
5
90分経過 100%×
々
= 300% →水面の3.00倍 >
3.15
次に、20分の組織分画では、水面の2.18倍迄の窒素圧迄であれば、そのまま浮上しても体内に
気泡は出来ない、と言う事です。と言う事は、水深20㍍(絶対圧3気圧)では37分頃に、20分の
組織分画が限界時間を超えると言う事になります。
20分の組織分画の水深20㍍(絶対圧3気圧)での窒素飽和率
20分経過
50%×3気圧 = 150%
25分経過
60%×
々
= 180%
30分経過
66%×
々
= 198%
35分経過
72%×
々
= 216% →水面の2.16倍 < 2.18
40分経過
75%×
々
= 225% →水面の2.25倍 > 2.18
OK
NG
ダイブコンピューターは全ての組織分画(最近の機種は6分画では無く、倍の16分画以上を採用)に
ついて、水深変化と時間経過に応じて、どの組織分画がM値を超えそうになるのかを延々と計算して
いるのです。更に、浮上後も全ての組織分画からどの程度の窒素が減少するのかを計算して、次回ダ
イビングの水深毎の限界時間や、飛行機搭乗可能時間の表示に備えています。水深と潜水時間によっ
てどの組織分画がM値に達するのかは一概には言えません。一般論としては、水深が深ければ「早い
組織分画」、水深が浅く潜水時間が長い反復潜水を繰り返すと「遅い組織分画」がM値になって限界
時間を決定します。
「水深12㍍より浅ければ」とか「スキンダイビングだけなら」絶対に減圧症にはならない、と教
わっている方が多いと思います(ホールデンの時代では反復潜水の発想が無かったし、遅い組織分画
も75分と短かったので、彼もそう思っていました)が、モズク漁や水中作業の様に水深6㍍程度の
長時間潜水を連日繰り返していると、ある日突然に「遅い組織分画」がM値を超えます。現在のダイ
ブテーブルでは、この様な計算はできませんので、「浅く長く潜る」必要のある方にとってダイブコ
ンピューターは必需品と言えるでしょう。 更に、タンクを使わないスキンダイビングでも毎日続けて
いれば、いつかは「遅い組織分画」がM値を超えるので、 減圧症になっても不思議では無いのです。
M値は、それこそUS NAVYの兵士達の人体実験により得られた貴重なデータです。アメリカ海軍
特殊部隊( Navy Seals )の隊員は基本的に一日一回しか潜りませんから、US NAVY Dive Tableも基本
的に反復潜水に関しては弱い部分があります。せっかくダイブコンピューターを買ったのでしたら、
この「けなげな働き者」の仕事ぶりを理解して上げて、単なる水深計とログメモリーで終わらせずに、
減圧症防止に役立たせて上げて下さいませ。
次回は、具体的なダイブコンピューターの使い方の注意点についてお話しします。
ダイブ コンピューター(Diving Computer) ④
今回はダイブコンピューターの使い方についてお話しします。かなりハードな使用にも耐えますが、
一応は精密機械ですので、それなりの気配りは必要です。
ダイブコンピューターの基本構造は圧力センサー、メモリー(記憶装置)と演算装置(CPU)、液
晶表示そしてバッテリーの5つから構成されています。
圧力センサー は基本的に気圧計ですので、理論的には水深を㍉単位以下で計測しています。しか
し、波の影響やダイバーの激しい動きによる変動差を小さくする為に、2∼8秒間での平均水深を記
憶並びに表示する様に設定されています。センサー自体は感圧素子といって圧力変化を電気信号に変
える役目を果たしています。素子自体は固体ですから圧力や衝撃に強いのですが、海水との接触面が
汚れたり塩詰まりを起こすと正しく作動出来ません。
6
メモリー は作働プログラムを記憶するROMと、ダイビングの実行を記録するRAMとに分かれ
ます。また、最近の機種は日常の周囲圧を常時モニターして記録していますから、飛行機搭乗や高所
移動した場合は、ある一定時間後でなければ正しく作働しないものもあります。
CPU は完全にブラックボックスで、情報が全くありません。
液晶表示 は直射日光等で高温になると真っ黒になって、表示が読めなくなります。また、高温は
内部部品の故障原因にもなりますから、特に、コンソールゲージ組み込み型では炎天下のボート上や
真夏の車のトランク等に放置すれば、故障するのが当然と言えるでしょう。更に、炎天下のボート上
からいきなりエントリーすれば、その温度差による各外装部品の収縮率の違いにより水没の危険性も
あります。
バッテリー の電池切れによりROMは記録が消えませんが、RAMは跡形もなく消えてしまいます。
ローバッテリーが表示されるといきなり動かなくなる機種と、いつまでも動き続けるものとが有りま
すので注意が必要です。基本的には、ダイビング中の故障に備えて予備のダイブコンピューターか、
予備の時計と水深計を携帯する必要があります。
スイッチのON/OFF・モード : 最近の機種では水深1.5㍍の水圧や水との接触により潜水モードの
スィッチのON/OFFが自動的に行われる様になりましたが、ほんの数年前の機種でも、潜水前に潜水モー
ドへ切り替えないと全く使えないものが殆どでした。今でもログメモリー機能だけを付けた時計では、
潜水モードへの切り替えが必要です。また、浮上後も水分感知部分が濡れたままになっていると、浮
上が完了していないと誤解する機種もあるので、エキジットしたらタオルで拭く等により水気を良く
切っておきましょう。ナイトロクスモードへの変更は現状ではマニュアルで行うしかありませんので、
呉々もナイトロクスモードのまま、普通の空気潜水を行わない様に注意して下さい。
浮上速度は水深が浅くなるに従って遅くするように設定されています。潜水士では10㍍/分、レ
ジャーダイバーでは18㍍/分以下となっていますが、殆どのダイブコンピューターでは水深6㍍迄
は12㍍/分、6㍍より浅い場合には8㍍/分の浮上速度を超えると警告(アラーム)が来ます。無減
圧限界以内でのダイビングであっても急な浮上により急激な気泡形成が起こる危険性がありますの
で、「一気浮上」は呉々も控えて下さい。ちなみに、’04/12/24付の科学誌「Science」によると、鯨
にも急浮上が原因と思われる減圧症がある事が発表されています。また、減圧停止の表示は単なる「気
休めのオマケ」です。何故なら、減圧症を予防する為の減圧停止には、予備ボンベや水深を安定させ
る減圧ステージ等の厳格なシステムが不可欠だからです。市販の全てのダイブコンピューターは「無
減圧潜水」でのレジャーダイビングを前提としており、プロ用の「減圧潜水モデル」は存在しません。
ダイブコンピューターは深く長く潜る為の道具では無いのです。
最後に、飛行機搭乗禁止時間の表示はあくまでも「目安」でしかありません。特にリゾートダイビ
ングでは短期集中的に潜って、その日の飛行機で帰るパターンを繰り返すダイバーも少なくありませ
ん。減圧症は関節痛や呼吸困難の様な急性症状だけではありません。慢性減圧症としての骨壊死は自
覚症状が一切ありません。ある日突然、歩きにくいとか肘が曲がらないといった症状が出た時には、
既に骨はボロボロで人工関節の埋込み等が必要になります。股関節や肩の筋肉を全て開いて関節を丸
ごと入れ替える手術なんて、想像しただけでも大変なのがお解り頂けるのではないでしょうか。また、
無謀なダイビングの繰り返しは認知症(痴呆症)の原因としての指摘もあります。どうか、控えめなダ
イビングを心掛けて下さい。