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“財”
第 回
他人じゃなく、自分に負けるな
有限会社ハヤカワプランニング 代表取締役
早川浩士
扱説明書風にまとめられてある。
“トリセツ”に依存する人
ブレークした一因には、
問の「○型
取扱マスター検定試験問題」が用意され、
「トリセツ」とは、「取扱説明書」を短
問以上得点すれば「○型取扱マスタ
く縮めた言葉である。
ー」との憎らしいほどの演出もある。
パソコンや携帯電話などには必ず、そ
この「トリセツ」本に依存している人
の機種の取り扱い方を説明する冊子がつ
がいたとしたら、自分の血液型取扱説明
いてくる。それを読めば、
「こうするの
書を読んで、自身の血液型取扱マスター
か、ああするのか」と、使い方が分かよ
となって、自らの取り扱い方をうまくさ
うになる。
せることが先決ではないだろうか。
「相手をうまく扱うにはどうしたらよ
「言うは易く、行うは難し」。多くの人
いだろう?」と悩む人の中には、人の「ト
は、「自分に優しく、他人に厳しく」と、
リセツ」を切望するニーズが少なからず
自分のことを棚に上げて、相手の言動を
あったのであろう。
気にしてばかりである。
これに応えた「○型女の取扱説明書」
という本が、昨年注目を集めた。
げきりん
“
逆鱗
に触れる”とは
型、型、型、型と つの血液
型による取り扱い説明を記した本を片手
「逆鱗に触れる」という故事がある。
に、
「型って、こうなの!」、
「型って、
龍のあごの下の逆さのウロコを逆鱗と
そうなの!」、「型って、ああなの!」
いう。これを触れられた龍は、怒ってそ
「型って、そうだったの!」などなど、
の人を殺したという一節が、中国古典
興味本位で読み比べながら、○型の人を
『韓非子』にある。
うまく扱うには、「ああしてはダメ!」、
天子(皇帝)を龍に例え、天子のよう
「こうするのがヨイ!」ということが、取
な偉い人でさえ、許されること(やって
師長主任業務実践
もよいこと)と、許されないこと(やっ
いう人も少なくない。
てはよくないこと)がある。
まずは、
「俗世間 つもりちがい十カ
許されないこと(やってはよくないこ
条」から目を通してほしい。
と)を行えば、怒りに触れてしまうのは
一、高いつもりで 低いのは 教養
当然のこと。人は誰しも、許されること
二、低いつもりで 高いのが 気位
(やってもよいこと)と、許されないこと
三、深いつもりで 浅いのは 知識
(やってはよくないこと)がある。
四、浅いつもりで 深いのが 欲
「逆鱗に触れる」のは、後述のことであ
五、厚いつもりで 薄いのは 人情
り、「虎の尾を踏む」もある。いずれも、
六、薄いつもりで 厚いのが 面の皮
上司、先輩など目上の人の怒りに触れた
七、強いつもりで 弱いのは 根性
ときに使うことがある。
八、弱いつもりで 強いのが 我
人は、血液型に限らず、生まれ年の干
九、多いつもりで 少ないのは 分別
支、生まれ月の星座も違えば、出身地、
十、少ないつもりで 多いのが 無駄
社会歴、生活歴、学歴、家族歴、そして
生活環境も異なる。
“心がけ”とは
対人関係を改善して良好に努めること
は大事なことであるといって、その一つ
「心がけ」とは、常に心に用意している
ひとつを安易に“トリセツ”に求めては
こと。“る”を 文字加えた「心がける」
いないだろうか。
は、常に心にとどめる。常に注意して努
△△サンとの対人関係が最悪なのは、
力するなど、
「心がけ」から一歩踏み込ん
「○型取扱説明書」の習熟度が低く、「○
で、いつも心にとどめておくようにする
型取扱マスター検定試験」の得点も、あ
という意思を強めた表現となる。
と数点及んでいないために「○型取扱マ
遅刻をしないよう、心がける。挨拶を
スター」となっていなかったから。この
怠らないよう、心がける。ほう(報告)、
ような言い訳が、堂々とまかり通るよう
れん(連絡)、そう(相談)を徹底するよ
な現場であってはなるまい。
う、心がける。
大事なことは、その人をうまく取り扱
当たり前のように思われるかもしれな
うことにあるのではない。
いが、その当たり前の大切さを一人ひと
りが大事にしつづけるには、「○○○を
つもりちがい十カ条
心がけ(る)」という言葉を意識して使う
そっせんすいはん
ことを
率
先
垂
範
することである。
その人に対して、どのように接したら
上司(先輩)からの指導(助言)を忘
よいかという「心がけ」は、いつの時代
れないように「心がける」とか、上司
にあっても対人関係を揺るがせない、最
(先輩)を目指して努力するように「心が
も見すごせない視点である。
往々にして、
「心がけているつもり」と
(
)
け る」の“が け”を 漢 字 で 表 す と、心
“掛”ける、心“懸”ける、となる。
“掛”、
“懸”には、事物の一部を何かに
食べこぼす者などなど。
固定してつながらせ、全体の重みをそこ
それもそのはず。
にゆだねるという意味がある。
メートル以上はあろうかと思われ
この場合、その何かは心である。
る、菜箸よりも長い箸を握らされていた。
いつも○○○を心にとどめて忘れない
中には、長い箸を器用に使いこなして
ようにする。それが「心がけ」である。
口に運ぶ者もいたが、周囲の罪人がそれ
を妬んで箸で突く、叩くなどの邪魔をす
るため、誰一人として満足な食事をして
いる者はいない。
毎日、毎食、この光景が繰り広げられ
ていたのであろう。
空腹を通り越して飢餓状態にあった罪
人たちは、些細なことから喧嘩が絶えな
“地獄と極楽の箸”の話
かったという。
「極 楽 は、ど の よ う な 食 事 の 光 景 か
地獄にも極楽にも箸があって、その箸
な?」と、関心の湧いた男は出かけてみ
にまつわる喩え話がある。
たという。
さて、地獄と極楽の箸は、どちらのほ
改めて、ビックリしてしまった。
うが長いのだろう?
それは、地獄となんら変らぬ料理が食
昔々、地獄と極楽をそれぞれ見学に出
卓に並べられ、しかも、同じように長い
かけたという男の話である。
箸が用意されていたことだった。
地獄を尋ねたのは、ちょうど食事が始
しかし、極楽に旅立った人たちの誰も
まる時刻だった。罪人たちは、テーブル
が穏やかで、ゆったりとして、満足そう
の両側に勢ぞろいして、食事をとろうと
な表情がにじみあふれていた。
している。
地獄と極楽、料理も箸も条件は同じ。
見て驚いたのは、食卓に並べられた料
その違いは、どこにあるのだろう?
理の数々。豪勢な山海の珍味が山盛り状
そんなことを不思議がっていた男だっ
態だった。
たが、食事が始まったとたん、その謎は
それに反して、罪人たちは痩せこけた
吹っ飛んでしまった。
者ばかりで、目だけがギラギラと血走っ
彼らは、お互いに向き合った者同士が、
ていた。
「まず、何から食べますか?」
箸を手にするや否や、ご馳走をつまみ
「私は、これを!」
損ねる者、つまんだものの口に運ぶ前に
「それから、あれも!」
と、それぞれが声をかけ合っていた。
そして、長い箸を使って相手の希望ど
おりのご馳走をはさむと、
師長主任業務実践
「さあ、どうぞ!」と言いながら、その
“因果応報”という言葉がある。
人の口に運んであげて、食べるための手
過去における善悪の業に応じて現在に
伝いをしてあげたのである。
おいて幸不幸の果報を生じ、現在の業に
食べ終わるや、
応じて未来の果報を生ずることをいう。
「ありがとうございます。今度は、あ
この話を題材にしながら、思い当たる
なたの番です。どれにしますか?」
ことがあれば、話し合ってみるとよい。
「では、これをお願いします!」
箸を運んだ者が答えて、食べさせてい
“オイアクマ”
ただいていた。
この食事の光景は、お互いの会話が弾
の悪魔を「オイアクマ」という。
んでいて、実に微笑ましいものであった
「オ」 → 怒るな
という。
「イ」 → 威張るな
「なるほど!」
「ア」 → 焦るな
男は、極楽で見た人と地獄で見た人に
「ク」 → 腐るな
「心がけ」の違いを感じた。
「マ」 → 負けるな
地獄の人は、
「自分さえよければ、他人
「オイアクマ」という つの悪魔が住み
はどうでもよい!」という「心がけ」で
付きやすい人がいる。
ある。
地位や肩書きがついた途端、部下に対
つまり、自分中心でしかものを見てい
して怒る、威張るようになる人。
ないから、使いにくい長い箸を自分のた
相手の昇進の早さについていけず、焦
めに使おうとすることばかりが頭をよぎ
る、腐る、そして負けを感じる人。
っていた。
怒ったところで、威張ったところで、
極楽の人は、
「自分のことはさておい
人は育たない。育たないと、焦ったとこ
て、他人のためにどうしたらよいか!」
ろで、腐ったところで、何の前進もない。
という「心がけ」である。
最も大事なのは、他人にではなく、自
相手がいて自分がいる、という見方や
らに対して「負けるな」である。
考え方であることから、自分のためには
自らの中に巣食っている「オイアクマ」
使いにくい長い箸でも、相手のためには
がいると感じたなら、己の心に克つとい
役に立つと精を出していた。
う「克己心」を鍛え直すことから。
地獄と極楽の箸の長さは、どちらも引
部下を見ているつもりの自身が、最も
けをとらぬほど長かったのだが、相手を
部下から見られているという「心がけ」
思いやる心を大切にして、相手のためを
を肝に銘じることも、人“財”育成には欠
思って行動していた極楽の人は、また相
かせない。率
先
垂
範
と ともに
率
先
躬
行
そっ せん すい はん
そっ せん きゅう こう
手からも大切にされ、自分自身にも思い
(人に先立って自ら行うこと。模範を示
やる心が巡り巡ってくるという暮らし方
す意図を強調する垂範とは異なるもの)
をしていたという話である。
の「心がけ」も励行したい。
(
)