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セーフティライトカーテンに
よる安全防護
オムロン株式会社 センサ事業部 安全センサPMグループ 三角 文彦
はじめに
機械災害は、
「人間」と「機械の運
本号のテーマであるセーフティラ
転出力」が同一空間内に同時に存在
イトカーテンは、上記(2)
「停止の
弊社では昨年よりお客様の機械安
する場合に、機械の駆動部などの危
原則」を実現するためのインターロ
全や労働安全の確保・実現をサポー
険源に人間が接触してしまうことで
ック装置の入力部として使用される
トさせていただくため、各種セーフ
発生します。従ってこのような災害
センサです。
(図1)
ティコンポーネントの積極的な商品
が発生するメカニズムの条件が成立
バラエティ拡大に併せて、安全規格
しないようにすることが機械災害防
や労働安全衛生マネージメントシス
止のために必要であり、これを実現
テム等に関するセミナーを実施して
するためには下記の2つの方法があ
います。
ります。
本情報誌においても、Bell No.29
号で機械の安全対策の考え方、基本
セーフティライトカーテンとは
前号ではインターロック装置とし
て、開閉可能なガードとそれに取り
付けたセーフティドアスイッチによ
(1) 隔離の原則(空間的な分離)
り実現する方法を紹介しました。本
安全性能、およびセーフティコンポ
「人間の作業空間」と「機械の作業空
号では固定ガードの設置できない場
ーネントの基本構造についての解説
間」の間に防護ガードを設置し、危
所に電子式のセーフティライトカー
を行いました。また前号の Bell
険源を全て覆ってしまうことによ
テンを使用する方法をご紹介します。
No.33号では“機械安全とインター
って、空間的な重なりが発生しない
セーフティライトカーテンとは、
ロック装置”と題して、実際の安全
ようにする方法。ガードには、柵、
機械の稼動部など危険源への人体の
対策としての防護ガード装置に伴う
カバー、扉などがあります。
接近を、光の入光/遮光状態の違い
インターロック装置のあり方をご紹
介しました。
として検出し、機械の運転停止の為
(2) 停止の原則(時間的な分離)
本稿ではセーフティコンポ解説シ
加工ワークの出し入れやメンテナ
リーズの三回目として、セーフティ
ンスの為に、人間が機械にアクセ
ライトカーテンを用いた安全防護の
スする必要がある場合は、上記隔
方法についてご紹介いたします。
離の原則が成立しない。そこで
の信号を運転制御部に対して出力す
ることを目的とした光電センサの1
種です。
「人間」と「機械の運転出力」を
機械災害防止の基本
6
時間的に分離するための「インタ
ーロック」装置を設ける方法。言
前号でも述べましたが、セーフテ
い換えると、人間が機械に接近す
ィライトカーテンをご理解いただき、
るときは確実に機械が停止してお
正しくお使いいただくために必要な
り、かつ人間が機械から離れるま
基本的な考え方ですので繰り返し解
では、確実に機械の再始動を阻止
説いたします。
することが必要です。
機械の作業空間
人間の作業空間
危険領域
図 1 機械災害発生のメカニズム
光電式のセーフティセンサとして
は、投光器と受光器を相対させて使
用する透過形のセーフティライトカ
ーテンが一般的に使用されますが、
セーフティライトカーテンの
基本機能
に応じて動作モードを選択できるよ
うになっています。ところがセーフ
ティライトカーテンにはこの動作モ
危険源への侵入個所となる場所に、
ード切替スイッチがなく、透過形で
投受光器一体になったセンサと専用
投光器と受光器を対向させて設置し
入光時オンというモードしかありま
の反射板を組み合わせた回帰反射形
ます。人がこの投受光器間に侵入し
せん。これはセーフティセンサに求
のセーフティセンサや、レーザ光を
ていない時は全ての受光部が入光状
められる要件のひとつ「危険検出型
広い角度に照射し、人体からの反射
態になっています。この状態を安全
ではなく安全確認型で動作すること」
光を検出するレーザースキャナー式
な状態とします。ところが人が危険
に基づきます。
セーフティエリアセンサ等も存在し
源に接近し、人体の一部が投受光器
「安全確認型」とは、
“今安全かどう
ます。弊社では現在、透過形のセー
間に侵入すると、いずれかの光軸が
か”
を検出していて
“安全状態”
を出力
フティライトカーテンを安全カテゴ
人体で遮られ、受光部に到達しなく
しておき
(センサがオン)
、
安全かどう
リの違いによる二機種にわけて商品
なります。この状態を危険な状態と
か分からないときに出力を停止する
化しております。
定義します。つまりセーフティライ
(センサがオフ)というシステムです。
透過形のセーフティライトカーテ
トカーテンは全ての受光部に入光し
一方「危険検出型」
とは、
“今危険かど
ンは、縦 1 列に並んだ複数個の投光
ているか、あるいは 1 つでも遮光し
うか”を検出していて、
“危険状態”を
部(一般には赤外LEDとレンズおよ
ている受光部があるかで安全と危険
出力しておく(センサがオン)システ
び投光回路)とその制御回路部から
を判別し、その出力は安全時にオン、
ムです。
なる投光器と、投光部の個数(光軸
危険時にオフとなる
数)と同数の受光部(一般にはフォ
ように設計されてい
トダイオードとレンズおよび受光回
ます。セーフティラ
路)とその制御回路部からなる受器
イトカーテンの出力
とで構成されており、つまり複数個
は機械動力の起動と
の透過型光電スイッチが一組の投光
停止を制御するセー
器と受光器の中に一列に並んで入っ
フティリレーやコン
ているような仕組みになっています。
タクタに入力され、
(図2)
センサ出力オフで直
ちに機械動力を停止
させるような安全回
投光器
受光器
光ビーム
(光軸)
路を構成するのが基
本的な使用方法で
す。
(図3)
図 3 セーフティライトカーテンの設置
安全確認型と危険検出型
図 2 セーフティライトカーテン
セーフティライトカーテンが安全
確認型でなければいけないのはセン
さて一般の制御用光電スイッチに
サが故障したときには“今危険であ
は入光時オンと遮光時オンを切り替
る”と判定しなければいけないため
えるスイッチがあり、ユーザが必要
です。危険検出型のセンサでは、例
7
えば投光素子が壊れる、受光素子が
弊社のセーフティライトカーテン形
供していくことがセーフティコンポ
壊れる、断線によって電源が切れる
F3S-A
(写真1)
では応答速度20ms
ーネントメーカである我々に求めら
といったほとんどの故障モードで危
毎に以下の項目について故障診断を
た使命であると考えています。
険を検出できなくなるため、出力が
実施し、もし異常が発見された場合
安全な時と同じオフ状態になってし
は直ちに出力をオフにします。
まいます。安全確認型では故障によ
● 投光素子破損
って出力が出なくなっても、危険時
● 投光回路破損
な時と同じオフ状態なので、安全が
● コード断線、短絡
確保されるわけです。
●受光素子破損
するには、危険源の特定と危険度合
● 受光回路破損
いの算定、つまりリスクアセスメン
● CPU暴走
トを実施し、その結果必要となる安
● 外乱光の入光
全対策カテゴリーに応じた商品を選
● 出力回路の破損
ぶ必要があります。リスク査定テー
セーフティライトカーテンに
求められる要件
リスクアセスメントと安全対策と
してのセーフティライトカーテン
セーフティライトカーテンを選択
複数光軸を有する透過形の光電ス
またフェールセーフ設計について
イッチには、セーフティライトカー
はダブルCPUによる相互チェックと
これによるとリスクカテゴリーは
テン以外に、安全防護には使えない
信号処理回路や出力回路の 2 重化に
リスクの一番小さいカテゴリーIから
一般のエリアセンサと呼ばれるもの
よる冗長性の確保と、安全動作を立
一番大きいカテゴリー V の 5 段階に
があります。セーフティライトカー
証するための FMEA 解析(Failure
分類され、安全対策カテゴリーは安
テンを一般のエリアセンサと区別す
Mode and Effects Analysis 故障モ
全性の一番低いカテゴリー B から一
る要件が上述の安全確認型であるこ
ード影響解析)により単一部品レベ
番高いカテゴリー4に分類されます。
と以外に2つあります。
ブルの例を図4に示します。
ルの故障がセンサ全体に及ぼす影響
カテゴリー査定テーブルによると、
(1)定期的な故障診断の手段を有する
を全て検証し、故障時オフの原則を
一番危険度の大きなリスクカテゴリ
(2)故障時には常に出力が安全側、
証明しています。
ー V と評価された個所には安全対策
つまりオフ状態になる、すなわ
これら自社による安全設計の立証
カテゴリ 4 に分類される要求性能を
ちフェールセーフ設計となって
に加え第三者認証機関による国際安
満たした安全関連部を構成する必要
いる。
全規格適合証明を受けた商品をご提
があり、またリスクカテゴリーIIIの個
リスク分析の結果
安全対策の性能評価
安全対策の
カテゴリー
リスクカテゴリー
S1(軽傷)
開始点
(危険源)
S2
(重傷)
P1(大)
F1
(希れ)
P2(小)
8
1
2
3
a
N
Ⅱ
b
N (N)
Ⅲ
c
(N) N
d
N
P1(大)
F2
Ⅳ
(頻繁)
P2(小)
傷害のひどさ
Ⅴ
S
頻度
F
災害回避の可能性P
写真 1 セーフティライトカーテン F3S-A と
セーフティリレーユニット G9SA
B
Ⅰ
M-e
Ab
4
N
図 4 リスクカテゴリーと安全性確保対策のカテゴリー
M+
所には安全対策カテゴリ 2 あるいは
サとの違いを見ていくことで解説い
3 に分類される要求性能を満たした
たしました。セーフティライトカー
安全対策を実施する必要があります。
テンの選択には、リスクアセスメン
セーフティライトカーテンはその
トの結果を元に適切な最小検出物体
性能要求を定めた国際規格である、
サイズと適切な検出幅を見積もる必
IEC61496-1(EN61496-1)
要があります。
IEC61496-2(prEN61496-2)
また設置の上で考慮する内容とし
にもとづき、安全性の違いで分類さ
ては、相互干渉が起こらないように
れます。
配置すること、十分な安全距離を確
安全対策カテゴリ 4 の要求事項を
保すること等があります。詳細はカ
満足するものを「タイプ4」
、カテゴ
タログや取扱説明書に記載の注意事
リ 2 の要求事項を満足しているもの
項を参照いただければ幸いです。
を「タイプ2」呼びます。 弊社のセ
弊社では今後も機械安全、労働安
ーフティライトカーテン形F3S-Aは
全に求められるセンシングテクノロ
タイプ 4 に分類される商品であり、
ジーを追求し、全てのセンサを安全
安全対策カテゴリ4以下(4,3,2,
にしていくことを究極の目標として
1およびB)に使用できるのに対して、
セーフティセンサの商品化に取り組
タイプ 2 のセーフティライトカーテ
んでいきます。
ンである形F3S-B(写真2)は安全対
策カテゴリー2以下(2,1およびB)
でのみ使用できます。IEC614961、-2で具体的に規定があるのは現在
タイプ4とタイプ2の2種類で、タイ
プ 3 と タ イ プ 1 は U n d e r
Consideration(検討中)と記載されて
います。したがってセーフティライ
トカーテンの中で国際規格適合をう
たっている製品は現状タイプ 4 かタ
イプ 2 に属し、これらの要求事項を
満足していない製品は日本国内では
単にフェールセーフタイプのエリア
センサとして販売されています。
おわりに
本稿では機械災害防止の原則のひ
とつである「停止の原則」実現に利
用されるセーフティライトカーテン
の特徴について、一般のエリアセン
写真 2 セーフティライトカーテン F3S-B
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