Download Agilent 4285A プレシジョン LCR メータ

Transcript
Agilent
4285A プレシジョン LCR メータ
製造・品質管理部門における
RF コイルの高確度・高速選別
アプリケーション・ノート 369-10
はじめに
VTR などの電子機器に使用される高周
波数用インダクタ、RF コイルは、他
の電子部品と同様に小型化、ローコス
ト化、高品質化の要求が強まっていま
す。このアプリケーション・ノートで
は、Agilent Technologies 4285A プレシ
ジョン LCR メータを用いることによ
り、RF コイルの測定・選別段階で、
大幅なローコスト化、高品質化を実現
する方法と、その具体例である高確
度・高速 L-Q 測定/選別システムをご紹
介します。
今までの問題と 4285A に
よる解決
1) 高確度、しかも高速測定
今までの LCR メータにより微小インダ
クタンスを測定する時には、インピー
ダンスが小さいため、測定値の再現性
が悪く、一方、測定インピーダンスを
大きくするために測定周波数を数 MHz
に上げると、LCR メータ自体の測定確
度が落ちてしまうという問題がありま
した。
4285A は、MHz 帯でも 0.5 %の L 測定
確度、しかも測定速度 30 ms で、今ま
でにない高速高信頼選別を行なうこと
ができます。
また、高い Q 値をもつコイルの測定に
は、共振法で L-Q 測定を行う自動同調
Q 測定用ユニット、42851A プレシジョ
ン Q アダプタを併用することにより、
Q 測定確度 5 %の Q 選別が可能です。
測定時間と操作の熟練を要した Q メー
タにとってかわり、大幅な信頼性向上、
自動化がはかれます。表 1 に 4285A の
主な仕様を示します。
2) 測定条件を任意に設定
一般的に、RF コイルは多品種生産で
ある場合が多く、また測定周波数は、
そのインダクタンス値に応じて kHz 帯
から MHz 帯に及びます。
4285A は、75 kHz から30 MHz の測定周
波数を1台でカバーし、JIS や MIL 規格 C15305E で規定された周波数 (79.6 kHz、
252 kHz、769 kHz.....25.2 MHz)も設定で
きるため、多種のコイルの測定/選別に対
応できます。
また、コイルのインダクタンスや Q の
測定値は電流依存性があるため、L-Q
測定では測定電流レベルを規定する必
要があります。ところが、Q メータで
は測定信号レベルを任意に変えること
ができず、また今までの LCR メータで
も信号レベルが電圧で設定されること
が多く、測定信号を電流レベルで設定
したいコイルの測定には不向きでし
た。4285A は、電流値でレベルを設定
でき、ALC(自動レベル調整機能)を用
いた定電流測定も行えます。42851A
を併用した場合は、電圧で信号レベル
を設定し、電流モニタによって試料に
流れる電流値を確認できます。
3) システム対応の強力誤差補正機
能、ハンドラ・インタフェース
(オプション)
今までの LCR メータでは、測定ケーブ
ルを使用できる周波数が 15 MHz 程度
に制限され、システムに組み入れたと
きには、メータ本体の仕様が充分達成
されないことが多くありました。
4285A では 1 m、2 m のテスト・リード
が 30 MHz までの全周波数帯域で使用で
きるうえ、テスト・リードの先に接続
されたフィクスチャ部の誤差を OPEN/
SHORT/LOAD 補正機能によって補正で
きます。補正は、任意に周波数点を設
定して実行できるため、MIL、JIS 規格
等で規定された測定周波数において補
正を実行し、正確な測定を行なうこと
ができます。
また、内蔵のコンパレータやハンド
ラ・インタフェース(オプション)を用
いると、ハンドラと組み合せた測定/選
別システムの設計が容易に行えます。
表1 4285A の主な仕様
測定方法
4285A(標準)
4285A(OPT.4285A-002)+42851A
自動バランス・ブリッジ
共振法(自動同調)
測定周波数
基本確度
(代表値)
75 kHz ∼ 30 MHz,100 Hz 分解能
10 mH
@100 kHz
L:0.18%
Q:± 5%
1μH
@10 MHz
L:0.3%
Q:± 10%
@Q=30
L:± 3.5%
Q:± 5%@Q=5 ∼ 100
@Q=30
測定速度
(代表値)
30 ms(@INTEG TIME SHORT)
65 ms(@INTEG TIME MEDIUM)
測定信号レベル
V:5 mVrms ∼ 2 Vrms
(定電圧モードで 10 mVrms ∼ 1 Vrms)
I:200 μ Arms ∼ 20 mArms)
(定電圧モードで 100 μ Arms ∼ 20 mArms)
V、I モニタ可能
同調固定モード:75 ms
自動同調モード:75 ms ∼ 1.5 s
V:≦ 1.0 Vrms、可変
V、I モニタ可能
2
く、しかも高速に選別を行えるシス
テムを設計するためのポイントを以
下に示します。
高確度・高速測定システムの例
ここで RF コイルの生産ラインにおけ
る L-Q 測定/選別システムの構成例、お
よびシステム設計のテクニックをいく
つかご紹介します。
4285A で L および Q を測定し、その値
を 4285A 内蔵コンパレータによって
BIN 選別するシステムを図 1 に示しま
す。ここでは、以下の機器を使用して
います。(詳しくはページ「付録 1」の
オーダ情報をご参照ください。
■4285A プレシジョン LCR メータ
オプション 4285A-201 ハンドラ・
インタフェース付き
■16048A テスト・リード(1 m、BNC
コネクタ)
■ハンドラ・インタフェース・ケーブル
アンフェノール 36 ピン(オス)のコネ
クタのケーブルをご用意ください。
■ハンドラ(4285A オプション 4285A201 対応)
4285A 本体の持つ性能を損うことな
1) ケーブルの接続
4285A の測定端子をハンドラの試料コ
ンタクト近くまで延長するは、アジレ
ント・テクノロジー製テスト・リード
をご使用ください。4285A で使用可能
なケーブルには、1 m ケーブルと 2 m
ケーブルがあります。ケーブルを接続
後、ケーブル補正を行い 4285A 内部の
メモリにケーブルの特性を記憶させま
す。その後、特性データを有効にする
ためケーブルの長さを所定の値に設定
します。(図 3 の(A))。
2) 試料コンタクト部
16048A 等のアジレント・テクノロジー
製テスト・リードは、4285A の測定端
子の 4 端子対構成をそのまま延長して
います。テスト・リードの末端をコネ
クタ・プレート(部品番号 16032-60001、
16048A に付属)で図 2 のように接続し
た先は、残留インピーダンスや外来ノ
図1 高確度・高速 L-Q システムの例
イズの影響を受けやすくなるので次の
ような注意を要します。
・外来ノイズの影響等を軽減するた
め、延長リードのシールド導体を図
2 のようになるべく試料コンタクト
点に近いところで接続する。
・残留インダクタンスを軽減するた
め、延長リードを極力短くする。
・残留インダクタンスが変化しないよ
うにするため、延長リードや試料コ
ンタクト部はなるべく長さや形が変
化せず、震動等にも耐えうるように
する。
4285A は安定なインダクタンス測定が
行なえますが、試料のインダクタンス
が小さい場合は、むしろ、試料コンタ
クト部の再現性が測定値のバラつきに
影響することが多く、上記の注意を十
分考慮する必要があります。
3) 補正
4285A の強力な補正機能により、延長
リード、コンタクト部等の残留インピー
ダンスを補正し、正確な試料のインピー
ダンス(L、Q)が測定できるようにしま
す。
図2 試料コンタクト
3
OPEN/SHORT/LOAD 補正は、実際の
測定で使用する周波数で実行します
(図 3 の(B))。4285A は、MIL 規格 C15305E で規定された周波数点などを最
大 7 点まで補正周波数として設定でき
ます。
図 4 に示すように、OPEN 補正は、試
料を接続しない状態で実行し、浮遊ア
ドミタンスを補正します。
SHORT 補正は残留インピーダンスの
補正を行ないますが、L、Q 測定への
影響が大きいので、慎重にコンタクト
同志を(できれば直接)接触させて実行
します。
延長リードが長い、コンタクト部が複
雑等の場合には、OPEN/SHORT 補正だ
けでは残留インピーダンスを取り切れ
ない時があります。このような場合に
は、OPEN/SHORT 補正に加えて LOAD
補正を実行します。値がわかっている
ワーキング・スタンダードを用意し、
その値(L-Q の値など)を入力し(図 3(C)
と(D))、試料のかわりにワーキング・
スタンダードを接続して LOAD 補正を
実行します。
ワーキング・スタンダードを 4285A お
よび 42851A に直接接続して実際の測定
周波数や信号レベルにおいて測定した
値を、ワーキング・スタンダードの基
準値として用いることもできます。こ
の場合は 4285A に直結型テスト・フィクス
チャ(16047C、16034E など)を接続して
ワーキング・スタンダードを測定したとき
の L 値、4285A に 42851A を接続して、
ワーキング・スタンダードを測定した
ときの Q 値を、基準値として入力しま
す。(測定信号レベルの設定は、4285A
単体の場合と、42851A 併用の場合で電
流信号レベル・モニタ値が同じになる
ようにする必要があります。)
4) 測定条件、コンパレータの設定
測定周波数、測定信号レベルなどの測
定条件やコンパレータの条件をそれぞ
れ設定します。
図 5 では、コンパレータの条件は、L
値によって BIN1 から BIN9 まで、さら
に Q 値によって GO/NO-GO をふりわけ
ています。
図3 補正機能の設定
図5 コンパレータの設定
図4 補正の実行
4
5) インタフェースのタイミング設計
4285A オプション 4285A-201 ハンド
ラ・インタフェースはハンドラからの
トリガ信号(/EXT-TRG)を入力し、測定
終了の信号(/INDEX)、コンパレータ判
定終了の信号(/EOM))、BIN 選別結果
のデータ(/BIN1 ∼/BIN9 など)を出力
し、ハンドラと 4285A の測定のタイミ
ングをを調整できます。入出力信号は、
外来ノイズ対策のためフォト・アイソ
レートされており、出力信号はオープ
ン・コレクタ出力となっています。図
6 に、4285A とハンドラのインタフェ
ースのタイミング・チャートの例を示
します。この例では 1 つの試料にかか
る測定・選別時間の概算は
(測定時間(30 ms、@INTEG SHORT)−演算・比較時間)
+ハンドラの試料移動および選別時間
になります。
また、必要であれば、ハンドラの試料
コンタクト時のチャタリングによる影
響を回避するために、4285A の測定(図
6 中の Tm1)の前にディレイ時間(1 ms
∼ 60 s)も設定できます。
6) メモリ・カード
4285A の測定条件、コンパレータのリ
ミット値をはじめとする設定データ
は、メモリ・カードに記憶することが
できます。1 度メモリ・カードに記憶
しておけば、製造ラインで使用する際
に容易に諸設定を呼び出すことができ
ます。
7) 測定・選別の実行
測定・選別実行中は、図 7 に示す BIN
COUNT DISPLAY ページでは、各 BIN
に選別された個数のカウントを表示す
ることができます。(このページは、
図 6 中の表示時間 Tm3 が約 0.5 ms で、
他のページより短くなります。)
図7 選別結果の表示
図6 タイミング・チャートの例
5
8) 高確度 Q 測定・選別システムの
応用
約 5 MHz 以上の高周波において、約 50
以上の高い Q 値を有する試料を、より
高確度で測定し、信頼性の高い Q 値に
よる選別を行う場合は、図 8 に示すよ
うな 4285A に 42851A プレシジョン Q
アダプタを併用したシステムをおすす
めします。
42851A の測定端子はバインディン
グ・ポストなので、図 9 に示すように、
延長リードで試料コンタクト部を延長
する必要があります。
延長リードと試料コンタクト部の残留
インピーダンスと浮遊容量について
は、オフセット L/C/R 機能を用いて、
それぞれの値を入力することにより、
測定値からこれらを差し引いた値を表
示することが出来ます。
しかし 42851A は、試料だけでなく延
長リードとコンタクト部を含むすべて
を測定しているので、測定確度は延長
リードとコンタクト部の分だけ悪化す
ることになります。そこで、なるべく
確度の悪化を抑えた測定値を得るに
は、延長リードの残留 L、C、R が試料
の値に比べて十分小さい(およそ 10 分
の 1 以下)必要があります。
図8 高確度 Q 測定システムの例
補正は、以下に示す手順を参考にして
行なってください。
i ) あらかじめ延長リードと試料コンタク
ト部の残留L、C、Rを測定します。
延長リードと試料コンタクト部のみ
を、テスト・フィクスチャ(16047D など)
を用いて 4285A に接続し、4285A の
ノーマル LCR 測定モードで測定し
ます。オフセットL、R値として、
試料コンタクトの先を短絡した状態
での直列インダクタンス、抵抗値を
測定します。オフセットC値とし
て、試料コンタクトの先を開放にし
た状態での並列容量値を測定しま
す。
ii ) 42851A に延長リードをつなぐ前に、
42851A 内部の誤差を補正する
SHORT 補正を行ないます。SHORT
補正は 42851A に付属するショー
ト・バーを、バインディングポスト
の HIGH-LOW 端子に接続して実行
します。
(42851A 使用時は、OPEN 補正は不
要です。)
iii) 延長リードを接続し、オフセット
L/C/Rを設定します。i)の手
順で得た延長リードの残留 L、C、
R 値を、それぞれ入力します。
iv) LOAD 補正を行なう場合は、試料
コンタクト部にワーキング・スタ
ンダードを接続して実行します。
インタフェースのタイミングは、428451A 使
用時の測定速度 (図6中のTm1) が75 ms∼
1.5 S となることを考慮して設計します。
おわりに
本アプリケーション・ノートでは、4285A(お
よび 42851A)をハンドラと組み合せたシ
ステムにより、高確度・高速 L-Q 測定/選
別システムを実現し、RF コイルのローコ
スト化、高品質化に貢献する方法につい
て述べました。このほか、42841A バイア
ス・カレント・ソースを加えることにより、試
料に 10 A までの DC バイアスを重畳した
測定も行えます。
さらに、GPIB によって 4285A を外部
コントローラと接続すれば、測定/選別
のデータを集録し、統計処理を施して、
RF コイルの品質管理や製造工程への
フィードバックに活用することも可能
になります。
図9 延長リードと試料コンタクト部
6
【付録 1. オーダリング情報】
高確度・高速 L-Q 測定システム(図1)
■ 4285A プレシジョン LCR メータ
□オプション 4285A-201 ハンド
ラ・インタフェース
4285A のコンパレータ判定結果
と測定終了信号を外部のハンド
ラに出力するためのインタフェ
ースです。
■テスト・リード
次のテスト・リードの中から 1 つ
を選択してください。
□16048A(測定器接続端子から末
端までの長さは約 95 cm、BNC
コネクタ付き)
□16048D(測定器接続端子から末
端までの長さは約 189 cm、BNC
コネクタ付き)
■部品番号 04278-61650 ハンドラ・
インタフェースケーブル(アンフェ
ノール 36 ピン、オス・コネクタ)
4285A オプション 4285A-201 ハン
ドラ・インタフェースのコネク
タとハンドラを接続する約1 mの
ケーブルです。ケーブル延長の
必要がある場合は、次のような
部品を用いて自作してください。
□ケーブル(36 線)
□アンフェノール 36 ピン、
オス・コネクタ
(Amphenol 57FE-30360-20N
(D8))
□アンフェノール 36 ピン、
メス・コネクタ
(部品番号 1252-2022)
高確度 Q 測定システム(図8)
■ 4285A プレシジョン LCR メータ
□オプション 4285A-201
ハンドラ・インタフェース
(前述「高確度・高速 L-Q 測定シ
ステム」での説明をご参照くだ
さい。)
□オプション4285A-002
アクセサリ・コントロール・イン
タフェース
42851A プレシジョン Q アダプタ
をコントロールするためのイン
タフェースです。
■ 42851A プレシジョン Q アダプタ
■10503A BNC ケーブル(122 cm、
オス・コネクタ): 2 本
4285A と 42851A を接続するための
ケーブルです。これ以外のBNC ケー
ブルでも、長さ 2 m 以内であれば
使用可能です。
■部 品 番 号 0 4 2 7 8 - 6 1 6 5 0 ハ ン ド
ラ・インタフェースケーブル
(アンフェノール 36 ピン、オス・
コネクタ)
(前述「高確度・高速 L-Q 測定シ
ステム」での説明をご参照くだ
さい。)
【付録 2.
ハンドラについて】
本アプリケーション・ノートで示した
システム例を構成するには、4285A オ
プション 4285A-201 ハンドラ・インタ
フェースの入出力信号の仕様(詳細は
取扱説明書をご参照ください)に適合
するハンドラをお求めください。ハン
ドラの機種、インタフェースなどにつ
いては、次に示すようなハンドラ販売
会社にお問い合わせください。
□株式会社ヒューモラボラトリー
〒167-0042東京都杉並区西荻北5-19-11
TEL 03-3395-5311
□株式会社東京ウェルズ
〒143-0021 東京都大田区北馬込2-28-1
TEL 03-3775-4331
7
January 24, 2003
5091-1596JA
0000-02H