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食科協News
第4号
【巻頭言】
HACCP に不可欠な食品微生物の基礎知識
東京水産大学教授 藤井建夫
HACCP という言葉は,最近では一般
の新聞でもよく見かけるようになり、
食品企業でもその導入を考えるとこ
ろが多くなっている。このような背景
のもとで、食品企業の技術者や管理者
を対象にした HACCP 関連の講習会が
いろいろな主催者によって頻繁に開
催されており、その案内を目にする機
会も多いが、それを見て気になるのは、
食品微生物についての教育プログラ
ムがほとんど含まれていないことで
ある。言うまでもなく HACCP が最も得
意とするのは微生物的危害に対して
であるので、危害分析を行うにしても、
検証を行うにしても、また日常の運用
にしても、微生物の基礎的な知識は不
可欠なはずである。
HACCP の日常的な作業は比較的単純
に機械的に行いうる部分が多いので、
そのことを HACCP の利点として強調
するためか、HACCP システムが誰にで
もできるという風に拡大解釈され、誤
解されている嫌いがある。
そもそも HACCP を構築する際の危
害分析には微生物の専門家の協力は
欠かせないはずであるが、実際にはそ
のような配慮を欠いて書類作りが行
われ申請されるケースもあるのでは
なかろうか。これでは最初からボタン
の掛け違いである。
日々の作業の中でも加工現場の責
任者には、停電で貯蔵タンクの温度が
上がればどのような微生物危害が起
こりうるか、ホースに一晩水が溜まっ
ていればそこで何が起こりうるか、清
浄な室内へ段ボールを持ち込めばど
うまずいのか、などというようなこと
1
に直感的に頭が働く素養が求められ
よう。
HACCP 認定工場で事故が起こると
様々な批判がなされるが、だから
HACCP は役に立たないとか、HACCP が
間違いというのは短絡すぎる。大抵は
危害分析が形式化していたり、一般衛
生管理が不十分、運用が不適切、検証
が行われていないなどということで
あって、どうやら根本的な原因は、現
場に食品微生物のことが分かる担当
者がいないということのように思え
てくる。
HACCP に求められる微生物知識とい
っても特段難しいことではない。例え
ば次のようなレベルの知識で十分で
あろう。微生物の大きさはどれくらい
で、食品には何個くらいの微生物が付
いているのか。それは一晩でどれくら
いの数になるのか。5℃と 10℃で増殖
速度はどれくらい違うのか。凍結で微
生物は死滅するのか。要冷蔵食品の腐
敗細菌数は何度 C 培養で測定するの
がよいのか。120℃4分の加熱でも死
なない細菌がいるが、どのような食品
で問題となるのか。真空包装食品はレ
トルトパックと見かけが似ているが、
何が違うのか。食中毒防止の 3 原則で
は防げない食中毒も多いがそれはな
ぜか。サルモネラ、腸炎ビブリオが汚
染しやすい食品は何か。
折角の HACCP も微生物知識が抜け
たままでは、仏作って魂入れずの諺の
ごとく、意味がないことになりかねな
い。食品従事者、とりわけ現場の責任
者への微生物知識の普及を望む次第
である。