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高速むオンビヌムを甚いた次䞖代集積回路甚材料評䟡
法の研究
金子, 哲匥
高知工科倧孊, 博士論文.
2004-03
http://hdl.handle.net/10173/227
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author
Kochi, JAPAN
http://kutarr.lib.kochi-tech.ac.jp/dspace/
平成16幎3月修了
博士工孊孊䜍論文
高速むオンビヌムを甚いた
次䞖代集積回路甚材料評䟡法の研究
Development of Analytical System
using Swift Ion Beam and its Application
to Characterization of
Next Generation ULSI Materials
平成15幎12月26日
高知工科倧孊倧孊院 工孊研究科 基盀工孊専攻
孊籍番号 1046003
金子 哲匥
Tetsuya
Kaneko
2
目次
3
目次
目次
7
本論文の芁旚
本論文で取り扱われる話題の範囲ず論文の構成
12
本研究に関連した孊䌚発衚および発衚論文の䞀芧
13
第郚
序章
第1章
高速むオンビヌムを利甚した
高粟床元玠分析技術の実蚌的研究
高速むオンビヌム埌方散乱法による組成分析の抂芁
i)
基瀎抂念
ii)
枬定法の名称
iii)
高速むオンプロヌブ埌方散乱法を甚いた組成分析法の原理抂略
iv)
分析装眮の抂芁
17
高速むオンプロヌブ埌方散乱法による組成分析の
定量的な蚘述散乱゚ネルギヌ分配係数、散乱断面積、阻止胜
1
散乱゚ネルギヌ分配係数ず元玠同定、質量分解胜
1-1-1
原子栞質量の同定ず散乱゚ネルギヌ分配係数
1-1-2
散乱゚ネルギヌ分配係数K ファクタの蚈算
1-1-3
散乱゚ネルギヌ分配係数K ファクタの倀
1-1-4
散乱゚ネルギヌ分配係数K ファクタず質量分解胜

散乱断面積、埮分散乱断面積ず存圚量、怜出感床
25
34
1-2-1
埮分散乱断面積、元玠存圚密床ず埌方散乱収量
1-2-2
ラザフォヌド埮分散乱断面積
1-2-3
ラザフォヌド埮分散乱断面積の有効゚ネルギヌ範囲
1-2-4
䜎゚ネルギヌ領域におけるラザフォヌド埮分散乱断面積の補正係数
1-2-5
枬定の確率過皋ず怜出粒子数の統蚈誀差
1-2-6
怜出感床の芋積もり

厚い詊料の分析、元玠の深さ分垃ず詊料の阻止胜
1-3-1
詊料の阻止胜詊料通過によるプロヌブ゚ネルギヌの枛衰
43
4
目次
1-3-2
未知詊料の阻止胜の線圢掚定阻止断面積ず Bragg の法則
1-3-3
元玠阻止胜の半経隓的衚匏Ziegler-Biersack-Littmark の匏
1-3-4
゚ネルギヌストラグリング
1-3-5
電子゚ネルギヌ損倱ストラグリング
1-3-6
耇数元玠からなる詊料䞭でのストラグリングの倧きさの掚定
1-3-7
スペクトルに圱響を及がすその他の効果幟䜕孊的゚ネルギヌ広が
りず倚重散乱

第 1 章で論じられた高速むオンビヌムの匟性散乱法
による材料組成分析法に぀いおのたずめ
第章の参考文献
第章
52
54
栞共鳎反応を利甚した酞玠の高感床分析系の構築

16
O(α,α)16O 栞共鳎反応ずそれに䌎う
非 Rutherford 散乱断面積
58
2-1-1 高゚ネルギヌ領域における非 Rutherford 散乱条件
2-1-2 2.2MeV-3.2MeV の゚ネルギヌ領域における 4He に察する
16
O の散乱断面積
2-1-3 Leavitt らによる倀ず Cheng らによる倀の違い

暙準酞化物を利甚した蚈枬系の范正
62
2-2-1 ゚ネルギヌ范正
2-2-2 MCA チャンネル゚ネルギヌ范正
2-2-3 怜出噚立䜓角の范正
(a)幟䜕孊的な立䜓角の芋積もり
(b)枬定で埗られるスペクトルの高さず立䜓角
(c)枬定倀による立䜓角の決定
2-2-4 深さ゚ネルギヌ倉換

酞玠枬定の感床および深さ分解胜
77
2-3-1 衚面における深さ分解胜
2-3-2 衚面における酞玠定量粟床および感床

第 2 章のたずめ
第章の参考文献
83
84
5
目次
第章
匟性反跳散乱分析法による氎玠分垃分析系の構築
匟性反跳氎玠怜出法の原理

氎玠反跳過皋ず反跳゚ネルギヌ分配係数 K ファクタ89

散乱断面積の Rutherford の倀からのずれ
91

氎玠に察する阻止胜
92

氎玠に察する MCA チャンネル゚ネルギヌ范正
92

Al 箔による前方散乱プロヌブず反跳氎玠ずの分離
94

幟䜕孊的゚ネルギヌ広がりの抂算
98

怜出噚の立䜓角
100

第 3 章のたずめ
104
第章の参考文献
第郚
87

105
本研究で構築された分析系の材料科孊ぞの応甚
第章
匷誘電䜓酞化物䞭の酞玠および氎玠分析ぞの応甚

匷誘電䜓䞍揮発性メモリ
4-1-1
匷誘電䜓䞍揮発性メモリの特城
4-1-2
匷誘電䜓メモリの高性胜化がもたらす瀟䌚的圱響
4-1-3
応甚分野の䟋-RF-ID タグ
4-1-4
匷誘電䜓メモリ補膜プロセスの課題

むオンビヌム分析を応甚した匷誘電䜓膜の
組成分析ず評䟡
4-2-1
110
123
匷誘電䜓メモリ補膜プロセスにおける課題解決のためのむオンビヌ
ム分析技法の応甚
4-2-2
有機金属分解法MOD法による SBT 詊料の堆積
4-2-3
むオンビヌム分析の匷誘電䜓膜分析ぞの応甚
4-2-4
MOD 法で堆積された SBT 詊料の分析評䟡結果
(a)
結晶構造ず X 線回折パタヌン
(b)
誘電分極履歎曲線
(c)
衚面モルフォロゞ芳察
(d)
RBS による組成分析
6
目次

(e)
NRA を応甚した酞玠プロファむル分析
(f)
ERD を応甚した氎玠プロファむル分析
第章のたずめ
第章の参考文献
第章
137
140
非導電性高分子材料であるポリむミド暹脂の照射損傷機構研究
ぞの応甚

高゚ネルギヌむオンず高分子材料ずの盞互䜜甚
143

PMDA-ODA ポリむミド暹脂のむオンビヌム応答
146
に関しおこれたで報告されおいる知芋

栞叩き出しず衝突カスケヌド過皋による損傷の芋積もり 148

1.5MeV 4He+むオンプロヌブ照射実隓

プロヌブむオン照射に䌎っお生じる
ポリむミド詊料衚面近傍からの酞玠および氎玠の枛少

154
高゚ネルギヌむオンプロヌブ照射による
X 線回折パタヌンの倉化
157

むオンプロヌブ照射に䌎う着色および衚面圢態の倉化
160

章のたずめず今埌の研究課題
163
第章の参考文献
第章
167
今埌の発展的研究ず課題

高゚ネルギヌむオンプロヌブによる材料分析
に぀いおの課題ず応甚
第章の参考文献
謝蟞
149
169
173
本論文の芁旚
7
本論文の芁旚
本論文は MeV 領域の高゚ネルギヌむオンをプロヌブに甚いお固䜓薄膜詊料の衚
面近傍の元玠分析を行う手法ずその応甚に぀いおの研究をたずめたものである。
䞻芁な論点は点あり、それは、
【1】 固䜓薄膜詊料䞭の酞玠分垃を栞共鳎散乱分析法によっお定量するための
実蚌的研究
【2】 固䜓薄膜詊料䞭の氎玠分垃を匟性反跳散乱分析法によっお定量するため
の実蚌的研究
【3】 匷誘電䜓酞化物䞭の酞玠および氎玠分析ぞの応甚
【4】 非導電性高分子材料であるポリむミド暹脂の照射損傷の研究
である。以䞋本芁旚では本文䞭で論じられおいるこれら点に぀いお芁玄する。
【芁旚 1】固䜓薄膜詊料䞭の酞玠分垃を栞共鳎散乱分析法によっお定量するため
の実蚌的研究に぀いお
MeV 領域の高゚ネルギヌに加速されたヘリりムむオンプロヌブず詊料䞭の原
子栞ずのクヌロン反発力を利甚したラザフォヌド埌方散乱分析法は、詊料䞭の
元玠の深さ分垃が高粟床に埗られる元玠分析法ずしお確立されおきた。しかし、
クヌロン反発力を利甚するずいう原理から、電荷の少ない軜い元玠、即ち炭玠、
窒玠および酞玠等に察する感床が比范的小さいずいう匱点があった。通垞おこ
なわれおいるラザフォヌド埌方散乱法の堎合、同じ小型の固䜓怜出噚を甚いる
ずいう条件の䞋に感床を増倧させるには、散乱角を小さくするか、あるいはプ
ロヌブむオンの゚ネルギヌを䞋げるこずが考えられる。そうするず埌方散乱プ
ロヌブが詊料衚面から脱出するたでに詊料内郚を通過する距離が長くなるなど
の原因で最倧枬定可胜深さが浅くなったり、深さ分解胜が悪化したりずいう欠
点がある。たたこのような感床改善法による感床の増倧は元玠に関しお非遞択
的であっお、目的の酞玠以倖の元玠に察しおもそれぞれ増倧するので酞玠信号
ずそれ以倖の信号ずの分離ずいう芳点からは有効ではない。
䞀方本研究で行われたように原子栞共鳎反応 16O(α,α)16O による散乱断面積の
増倧珟象を利甚するず、最倧枬定深さや質量分解胜を保ったたた、酞玠に察す
8
本論文の芁旚
る感床だけを遞択的に増倧させるこずができる。この原理はすでに知られおお
り、実隓報告もすでにあるが、実際に枬定を遂行するには、照射条件の倉化に
よっお急峻に倉化する共鳎埮分散乱断面積に぀いお、MCA ゚ネルギヌ分解胜ず
枬定系の゚ネルギヌ分解胜ずの制限による共鳎ピヌクの鈍りを考慮した泚意深
い范正によっお枬定系を構築する必芁がある。
本研究における䞻芁な成果その
本研究では Si 基板䞊に圢成した厚さがお
よそ 100nm の酞化膜を甚いお、3032[keV]のヘリりム酞玠栞共鳎反応を利甚し、
枬定系の゚ネルギヌ分解胜 13[keV]FWHMによる酞玠共鳎ピヌクの珟れ方を
考慮しおプロヌブ粒子゚ネルギヌの范正を行った2-2-1 節。皮々の暙準詊料を
甚いお、正確に范正された゚ネルギヌに察しお MCA チャンネル゚ネルギヌ倉
換匏を決定2-2-2 節し、怜出噚の立䜓角を決定(2-2-3 節)した。枬定深さ分解
胜 30[nm]を実蚌2-3-1 および 2-2-1 節し、5[µC]のプロヌブ照射量で酞玠量を
4%の粟床で決定できるこずを瀺した2-3-2 節。䞋地 Si 由来の信号ずの分離に
よっお決たる酞玠怜出感床を SiO2 膜厚換算で 1.5[nm]であるず決定し、MCA チ
ャンネル゚ネルギヌ幅が 1.785[keV]の枬定系を甚い、同䞀゚ネルギヌ、同䞀幟䜕
孊配眮における Rutherford 散乱の 20 倍の酞玠怜出感床増倧を実蚌した。
【芁旚 2】固䜓薄膜詊料䞭の氎玠分垃を匟性反跳散乱分析法によっお定量するた
めの実蚌的研究
固䜓衚面近傍の氎玠の深さ分垃を高粟床に枬定するこずは、半導䜓衚面のダ
ングリングボンドの制埡や氎玠吞蔵合金の改良など幅広い応甚分野をも぀基瀎
技術である。䜎速むオンで詊料をスパッタリングする次むオン質量分析法
SIMSに比べお、詊料党䜓の構造を壊さずに枬定する高゚ネルギヌむオンプ
ロヌブを甚いた匟性反跳散乱分析法は、固䜓衚面近傍の氎玠の深さ分垃をより
高粟床に枬定するこずができる方法であるずいわれ研究が続けられおいる。
ヘリりムむオンをプロヌブずしお甚いた堎合、プロヌブむオンは質量の軜い
氎玠原子栞ずの衝突によっお埌方散乱を起こさない。したがっお氎玠分析のた
めにはプロヌブビヌムを詊料衚面法線に察しお倧きい角床で入射し、跳ね飛ば
された反跳氎玠自身を怜出するこずになる。この堎合に問題ずなるのは氎玠信
号をマスクするように高゚ネルギヌ偎に倧量に散乱されおくるプロヌブむオン
本論文の芁旚
9
ず目的の氎玠ずを分離しお怜出するこずである。
本研究における䞻芁な成果その
本研究では 4He むオンプロヌブによる匟
性反跳散乱を利甚した氎玠枬定系が構築された。被枬定詊料からの氎玠ず前方
散乱プロヌブずを分離するために Al 箔に察する透過性の違いが利甚された。分
離膜の膜厚やプロヌブ照射条件の怜蚎が行われ、E0=1507[keV]の 4He+プロヌブ
に察し、およそ 5[µm]厚の圧延 Al 箔を甚いお氎玠を遞択的に怜出できるこずを
実蚌した3-6 節。氎玠プロヌブ埌方散乱法によっお、怜出噚の゚ネルギヌ応
答を范正(3-5 節)し、文献による非ラザフォヌド反跳断面積の補正匏を利甚3-3
節しお定量的な反跳氎玠蚈枬系を構築し、氎玠の深さ分垃を定量するこずに
成功した。E0=1507[keV]の 4He+プロヌブ、盎埄 0.5[mm]のコリメヌタ詊料䞊で
0.7[mm]の照射スポット埄を甚いお入射角 80 床で Kapton 詊料に照射し、反跳
氎玠を反跳角 30 床の䜍眮に眮かれた 2.55[msr]の怜出噚で怜出した堎合、本研究
で構築した枬定系の実蚌衚面゚ネルギヌ分解胜は 84[keV](FWHM)3-6 節で
あり、深さ分解胜は Kapton 換算で 110[nm]3-6 節である。1 䟡むオンの照射
ドヌズ量 2[µC]で、MCA の゚ネルギヌ幅が 18.16[keV]のずき、Kapton 詊料から
1ch あたり 2500 カりント皋床の氎玠収量が埗られ (図 3-8-3)、統蚈的揺らぎの倧
きさを収量の平方根で評䟡するず粟床に盞圓する。110[nm]にわたる領域か
らの積分カりントは 10000 カりントを超え、統蚈的揺らぎの倧きさは 1%未満ず
なる。分解胜を制限する芁玠のうち、Al 箔における゚ネルギヌストラグリング
衚 3-6-2ず怜出噚立䜓角で決たる幟䜕孊的゚ネルギヌ広がり3-7 節ずが
定量的に芋積もられ、分解胜向䞊のための指針が䞎えられた。
【芁旚 3】匷誘電䜓酞化物䞭の酞玠および氎玠分析ぞの応甚
匷誘電䜓薄膜が次䞖代の䞍揮発性蚘憶媒䜓甚材料ずしお近幎泚目を集めおい
る。匷誘電䜓デバむスは結晶䞭のむオンの倉䜍による電気双極子モヌメントの
倉化に基づく自発分極を情報蚘録に利甚しようずするものである。匷磁性䜓を
応甚した磁気蚘憶媒䜓ず異なり、アレむ状に䞊べたメモリ芁玠を電気的に結線
するこずにより曞き蟌みおよび読み出しが可胜であり、磁気ヘッドや光孊系を
機械的に動かす必芁がない。したがっお高速で機械的振動に匷いデバむスが実
珟できる可胜性がある。たた匷磁性䜓デバむスが䞍揮発性の蚘憶デバむスであ
10
本論文の芁旚
るのず同様、単䜍結晶栌子の集合䜓で構成される匷誘電䜓の分極ドメむンの分
極方向は宀枩で自然に反転するこずがなく、埓っお蚘憶保持に電力を消費する
こずがない。たたフロヌティングゲヌトぞの電荷泚入を利甚する半導䜓メモリ
玠子に比べおも、䜎電圧駆動、高速読み曞き、長寿呜ずいう特性をもっおいる。
このような高速頑匷省電力ずいう有望な特性を持぀メモリを珟圚の ULSI 補
造プロセスに組み入れ高密床集積化を実珟するためには
・ 他の回路構成芁玠、䟋えば埮现金属配線を損傷しない熱非平衡䜎枩補膜プロ
セスの確立
・ フォヌミングガスアニヌルプロセスなど氎玠雰囲気で起こる還元劣化問題
の克服
を達成する必芁がある。
匷誘電䜓材料の特性は結晶栌子䞭のむオン倉䜍ず分極ドメむン壁の運動によ
っお決定されるので、結晶方䜍、栌子欠陥、サむト眮換䞍玔物、栌子ミスフィ
ットによる応力など結晶栌子を修食する芁因によっお倉化する。RTARapid
Thermal Annealing法を甚い熱力孊的非平衡状態で堆積された酞化物倚結晶膜䞭
の酞玠定量ず酞化物を還元劣化させる氎玠の深さ分垃枬定、盞界面における拡
散に぀いおの情報を埗るために本研究で構築されたむオンビヌム分析を応甚す
るこずを詊みる。
本研究における䞻芁な成果その
本研究ではコロラド倧孊 C. Araujo 教授お
よび起業家コヌス加玍剛倪教授ず共同で、有機金属分解法(MOD)を甚い Pt 電極
䞊にタンタル酞ストロンチりムビスマス系薄膜を䜜成した(4-2-2 節)。堆積され
た膜に察しお電子顕埮鏡による結晶モルフォロゞ芳察や X 線回折、匷誘電特性
枬定を行うず共に、酞玠欠損や氎玠分垃デヌタを埗るこずを目的ずしおむオン
ビヌム分析による薄膜評䟡を行い、結果を MOCVD 法で補膜された詊料ず比范
怜蚎した4-2-4 節。その結果ビスマスの偏析圢態、酞玠分垃や氎玠含量分垃な
どに぀いお補膜プロセス改善や還元劣化防止に結び付けるための有益なデヌタ
が埗られた。
【芁旚 4】非導電性高分子材料であるポリむミド暹脂の照射損傷の研究
導電性固䜓詊料に察しおは䟵襲床の䜎い分析法であるむオンビヌム分析法で
本論文の芁旚
11
あるが、非導電性高分子詊料に察しおは、詊料の脆化、収瞮、着色、匷床䞊昇
などの巚芖的な物性の倉化を匕き起こすこずが知られおいる。その理由ずしお
は、入射、散乱、反跳むオンが詊料䞭の電子を励起する結果、化孊結合が切断
され、生成されたラゞカルによっお連鎖的に架橋反応ず分解反応ずを匕き起こ
すためであるず考えられる。このような研究の工孊的応甚にはむオントラック
゚ッチングによる埮现孔フィルタの䜜成や、局所非平衡加熱、むオン打ち蟌み
による衚面硬化局の圢成や剥離ずいった特殊加工技術の開発がある。
本研究では、新たに構築した氎玠定量システムを甚い、むオン照射に䌎う高
分子材料䞭の損傷機構に関する基瀎デヌタの収集を目的に、耐熱耐攟射線材ず
しお人工衛星保護膜や LSI の宇宙線防護膜などに甚いられるカプトン暹脂
PMDA-ODA ポリむミドに高゚ネルギヌむオンを照射し、その応答を調べた。
本研究における䞻芁な成果そのカプトン暹脂に 1.5MeV のヘリりムむオ
ンを入射角 85 床で照射した堎合、衚面から 200nm たでの浅い領域ではプロヌブ
むオンによる反跳カスケヌドによる損傷効果は小さいこずがモンテカルロシミ
ュレヌションによっお予枬される(5-3 節)。䞀方前方反跳および埌方散乱プロヌ
ブスペクトル同時枬定を行い、プロヌブむオンビヌム照射に䌎う酞玠、氎玠組
成倉化を動的に蚈枬した結果、反跳カスケヌドによる損傷機構では説明できな
い著しい酞玠、氎玠の組成倉化が芳枬された(5-5 節)。
照射は 1.5MeV の 4He+むオンをプロヌブずしお、0.1W/cm2 未満の゚ネルギヌ
泚入密床で、照射フルヌ゚ンスを 1.4×1014 cm-2 から 2.8×1015 cm-2 たで倉化させな
がら行われた。深さ 30-150nm の領域においおほが䞀様に初期量比で 50以䞊の
氎玠が倱われおおり、最衚面(0-30nm)では氎玠の枛少量はさらに倧きく 70皋
床であった。たた、同時に枬定された最衚面(0-30nm)の酞玠量の枛少は初期比
25であった。照射埌の衚面には導電性の倉化が芋られ、肉県では照射領域に
おける着色が芳察された。X 線回折枬定によれば照射によっお分解ず共に架橋
反応が起きおいるこずが瀺唆され、SEM 芳察では反跳カスケヌド欠陥が集䞭す
る領域に境界局が圢成されおいるこずが芳察された。以䞊の結果から、むオン
照射に䌎う著しい氎玠、酞玠の枛少には電子励起機構が重芁な圹割を果たしお
いるず考えられる。このようにしお、むオン照射による電子励起局所加熱やむ
オン打ち蟌みによる原子栞叩き出しをさたざたな機胜性材料加工・開発に応甚
するための基瀎ずなるデヌタが埗られた。
12
本論文の構成
本論文で取り扱われる話題の範囲ず本論文の構成
本論文は MeV 領域の高゚ネルギヌむオンをプロヌブに甚いお固䜓薄膜詊料の
衚面近傍の元玠分析を行う手法ずその応甚に぀いおの研究をたずめたものであ
る。本論文でプロヌブむオンずしお甚いられるのはヘリりムむオンであり、基
本ずなるラザフォヌド埌方散乱法(RBS: Rutherford Backscattering Spectrometry)に
加えお酞玠感床増幅のための栞共鳎散乱分析NRA: Nuclear Resonance/Reaction
Analysis)ず氎玠定量のための匟性反跳怜出法(ERD: Erastic Recoil Detection)を行
うためのシステムの構築、それに加えおこれらの分析法の材料科孊ぞの応甚が
取り扱われる。
本論文の構成は次のようになっおいる。最初に本研究で埗られた䞻芁な成果
を䞭心に本論文の内容が芁玄された埌、本論文に関連しお公刊された論文や発
衚に぀いおの䞀芧がたずめられる。
ひき぀づく前半の第 1 章から第 3 章たでを第 1 郚ずし、䞻に高速むオンビヌ
ムを甚いた分析法の構築に぀いお、手法の原理、構築の芁点や基本デヌタ、枬
定誀差や本研究における改良点などが蚘述される。
第 4 章以降を第 2 郚ずし、本研究で構築された分析系の応甚䟋ずしお匷誘電
䜓䞍揮発性メモリ甚酞化物膜やポリむミド暹脂ずいったような材料分析ぞの応
甚が蚘述される。
本論文に関連した論文、孊䌚発衚䞀芧
13
本論文に関連した論文および孊䌚発衚の䞀芧
原著論文線
1. T. Kaneko, M. Watamori, H. Makita, C. Araujo and G. Kano,
Damage Evaluation after Ion Beam Irradiation on Polyimide Films using ERD and RBS
techniques simultaneously,
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section B:
Beam Interactions with Materials and Atoms,2004, in press.
2. T. Kaneko, M. Watamori, H. Makita, C. Araujo and G. Kano,
Depth Profiling of Hydrogen and Oxygen in Ferroelectric Films Using High-energy Ion Beam,
Integrated Ferroelectrics, Vol.53, pp.391-399(2003).
孊䌚発衚件
1. T. Kaneko, M. Watamori, H. Makita, C. Araujo and G. Kano,
ʺDamage Evaluation after Ion Beam Irradiation on Polyimide Films using ERD and RBS
techniques simultaneouslyʺ
The16th International Conference on Ion Beam Analysis, June 29-July 4, 2003, Albuquerque,
NM, USA, ポスタヌセッション
2. 金子 哲匥,綿森 道倫,牧田 寛,加玍 剛倪,C. Araujo,
RBS-ERDA同時分析法を甚いたポリむミド膜の分析ず照射損傷
春季第50回応甚物理孊関係連合講挔䌚,ビヌム応甚,むオンビヌム䞀般,
2003幎平成15幎3月30日、神奈川倧孊、口頭講挔
3. T. Kaneko, M. Watamori, H. Makita, C. Araujo and G. Kano,
“Depth Profiling of Hydrogen and Oxygen in Ferroelectric Films Using High-energy Ion Beam”
15th International Symposium on Integrated Ferroelectrics (ISIF2003),
Colorado Springs, USA, March 9-12, 2003. 招埅講挔
14
本論文に関連した論文、孊䌚発衚䞀芧
4. 金子 哲匥, 野村 志穂,綿森 道倫,牧田 寛,加玍 剛倪,C. Araujo,
高速むオンビヌムを甚いた匟性反跳散乱法による氎玠定量ず性胜改善
第63回応甚物理孊䌚孊術講挔䌚25a-B-II,ビヌム応甚,むオンビヌム䞀般,
2002幎平成14幎9月25日、新期倧孊, ポスタヌセッション
5. T. Kaneko, S. Nomura, and M. Watamori,
“High Energy Ion Beam Scattering Spectrometry for Carbon Thin Film Characterization”
Israel-Japan Binational Workshop on Diamond Science and Technology,
Tosa-Yamada, Kochi pref. JAPAN, Dec. 6-7, 2001. 口頭発衚
6. 金子 哲匥, 野村 志穂,綿森 道倫,牧田 寛,加玍 剛倪,C. Araujo,
高速むオンビヌム散乱法を甚いた匷誘電䜓膜衚面の氎玠の枬定
第49回応甚物理孊関係連合講挔䌚28p-ZA-II,匷誘電䜓薄膜,
2002幎平成14幎3月25日、東海倧孊, 口頭講挔
7. 金子 哲匥, 野村 志穂,綿森 道倫,牧田 寛,加玍 剛倪,C. Araujo,
SBT膜の評䟡におけるラザフォヌド埌方散乱法の有効性
第48回応甚物理孊関係連合講挔䌚30a-YA-5,匷誘電䜓薄膜,
2001幎平成13幎3月30日、明治倧孊, 口頭講挔
第郚 高速むオンビヌムを利甚した
高粟床元玠分析技術の実蚌的研究
16
高速むオンプロヌブ埌方散乱法による組成分析の抂芁
高速むオンプロヌブ埌方散乱法による組成分析の抂芁
序章
17
高速むオンプロヌブ埌方散乱法による組成分析の抂芁
本章では、高速むオンプロヌブの埌方散乱を利甚した組成分析法ずはどのよ
うなもので、どのように行われるのかに぀いお基本的な事項を説明する。
i)
基瀎抂念
高速むオンビヌム分析法ずは、MeV 領域の高゚ネルギヌむオンプロヌブを甚
いお詊料の元玠組成の深さ分垃を枬定する方法である。枬定は真空䞭に眮かれ
た詊料にプロヌブむオンビヌムを照射し、詊料䞭の原子栞ずのクヌロン反発力
によっお埌方散乱しおきたプロヌブの゚ネルギヌスペクトルを枬定するこずに
よっお行う。非垞に高い゚ネルギヌのプロヌブを甚いるこずは次のような利点
がある。すなわち、
・ プロヌブず固䜓詊料䞭でのさたざたな励起状態ずの゚ネルギヌ垯が離れ
おいるために盞互䜜甚を近䌌的に無芖できるか、平均倀で眮き換えられ
る。
・ プロヌブの量子力孊的波長が短いので叀兞的な扱いでよく蚘述するこず
ができる。
このような利点のため理論的な芋通しがよく、定量性に優れおいるずいう特
城をも぀。以䞋の数節では高速むオンビヌム分析法を甚いた組成分析の原理ず
特城を抂芳する。
ii)
枬定法の名称
高速むオンビヌムを甚いお詊料の元玠組成を明らかにする RBS 分析法の起源
は、䞖玀初頭における量子力孊の誕生ず原子構造の研究の歎史ず深い関連
があり、H. Geiger ず E. Marsden[1]、および E.Rutherford[2]の有名な原子構造に関
する研究あたりに遡るこずができる。ここで分析法発展の歎史に぀いお蚘述す
るこずは本論文の目的ではないが、分析法の名称に関しお短い説明をしおおき
たい。
「高速むオンビヌム分析法」ずいうのは英語の”swift ion beam”ず”ion beam
analysis”ずの぀の語句を合成しお翻蚳したものであるず思われる。技術甚語ず
しおは枬定が短時間に終わるずいう意味で高速なのか、むオンの速床が高速な
のかあいたいであるずいう欠点がある。したがっお高゚ネルギヌむオンビヌム
分析法(HEIS:High-Energy Ion-beam Spectrometry)ずいわれるこずも倚い。しかし
高゚ネルギヌむオンずいうず、原子栞物理孊で GeV あるいは TeV 領域のむオン
18
高速むオンプロヌブ埌方散乱法による組成分析の抂芁
が甚いられおいる珟圚ではやはり曖昧さがある。そういうわけで珟圚のずころ
文献などにおいおは力点が運動量にあるかあるいぱネルギヌにあるかに応じ
お適宜「高速(swift)」あるいは「高゚ネルギヌ(high-energy)」が混圚しお䜿われ
おいる。本論文では先達に敬意を衚しお「高速むオンビヌム」ずいう蚀い方を
採甚する。
「高速」あるいは「高゚ネルギヌ」の定矩に぀いおは、圓面は「栌子
振動に比べお十分高速であるが盞察性理論による質量増加は無芖できる皋床」
あるいは、
「プロヌブず暙的原子栞ずの原子栞間反発力を考える際に最近接距離
が䞀番内偎の叀兞的な電子軌道半埄よりも十分短く、盞互䜜甚を蚘述する際に
電子による遮蔜を考慮しなくおよいような高゚ネルギヌであるが、原子栞反応
が起こらない皋床」であるずしおおく。
この「高速むオンビヌム分析法」は怜出粒子の皮類や怜出噚の幟䜕孊的配眮
によっおさらに现かく分類される。陜子、あるいはα粒子をプロヌブに甚い、
埌方散乱プロヌブを怜出する方法で、原子栞間盞互䜜甚が遮蔜クヌロン力
によるものをラザフォヌド埌方散乱法RBS、このラザフォヌド埌方散乱法で、
プロヌブずしお炭玠等の重いむオンを甚いる手法は重むオン RBS 法HIRBS
Heavy Ion RBSず呌ばれる。高い゚ネルギヌ領域で、原子栞共鳎珟象を利甚す
る手法は栞共鳎栞反応分析法NRA:Nuclear Resonance/Reaction Analysis
、
埌方散乱粒子でなく蛍光 X 線を分光する方法は PIXEParticle Induced X-ray
Emission 、 ガ ン マ 線 を 分 光 す る 手 法 は PIGE(Particle Induced Gamma-ray
Emission)ず呌ばれる。埌方散乱粒子の代わりにプロヌブむオンによっお詊料䞭
から叩き出された原子栞を怜出する手法を匟性反跳散乱怜出法ERD: Elastic
Recoil Detectionずいう。そのほかに、結晶詊料の結晶性を調べるむオンビヌム
チャネリング法(Ion-beam Channeling Technique)がある。
高速むオンビヌム分析法は MeV 領域のむオンビヌムをプロヌブに甚いお、詊
料衚面付近の元玠分析を行う方法であり、プロヌブの皮類や、怜出法によっお
è¡š(ii)-1 のように分類される[3]。
è¡š(ii)-1 高速むオンビヌム分析法の分類
高速むオンビヌム分析法

Rutherford 埌方散乱法(RBS)
重むオン RBS 法HIRBS
栞共鳎分析法(NRA)
むオンビヌム励起蛍光 X 線分光法(PIXE)
むオンビヌム励起ガンマ線分光法(PIGE)
匟性反跳散乱怜出法(ERD)
むオンビヌムチャネリング分析法
高速むオンプロヌブ埌方散乱法による組成分析の抂芁
19
本研究では、衚(ii)-1 に列挙した手法のうち
・ ヘリりムむオンプロヌブを甚いたラザフォヌド埌方散乱法による
高粟床な組成分析、
・ 酞玠に察する感床増倧を目的ずした栞共鳎分析法
および、
・ 氎玠怜出を目的ずした匟性反跳散乱怜出法
を実珟するシステムが構築され、匷誘電䜓䞍揮発性メモリ甚材料ずしお期埅さ
れおいるビスマス局状ぺロブスカむトや耐熱耐攟射線暹脂ずしお知られるポリ
むミド暹脂の分析ぞの応甚が詊みられる。
iii)
高速むオンプロヌブ埌方散乱法を甚いた組成分析法の原理抂略
本節では定量性がよいずいう特城を持぀高速むオンプロヌブ埌方散乱法を甚
いた組成分析法に぀いおその抂略を簡単に説明する。なお、本節で挙げられお
いる詊料厚などの数字は必ずしも原理に基づく本質的な限界ではなく兞型䟋で
ある。
高速むオンビヌムをプロヌブずしお甚い、その匟性散乱を利甚しお詊料の元
玠 組 成 を 分 析 す る 方 法  ラ ザ フ ォ ヌ ド 埌 方 散 ä¹± 分 析 法 ,RBS:Rutherford
Backscattering Spectrometryは次のように行われる。厚さが数 mm 皋床で瞊
暪cm 角皋床の平板状詊料を 10-4 [Pa]皋床より真空床の良い真空䞭に眮き、加
速噚で 2MeV 皋床に加速したヘリりムむオン1 䟡でも2 䟡でもよいが、説
明の単玔化のために+2 䟡のα粒子ずする。の平行ビヌムを詊料法線ずほが平行
に入射する。詊料を真空䞭に眮くのは入射むオンビヌムおよび怜出粒子が空気
䞭の分子に散乱され、枛衰しおしたうこずを防ぐためである。
MeV 皋床の゚ネルギヌに加速されたα粒子のド・ブロむ波長は 10-14 m 皋床で
あり、兞型的な結晶の栌子間隔 10-10m に比べお 3 桁以䞊短い。したがっお詊料
衚面近傍でのプロヌブむオンの振る舞いは叀兞的な粒子ず考えおよい。この
ド・ブロむ波長のスケヌルでみるず、固䜓詊料は疎な間隔で配列した正電荷を
持぀原子栞ず、その呚囲に存圚する電子雲からなる透過しやすいものに芋える。
詊料構成元玠の原子栞の正電荷によるクヌロン反発力は長距離にわたっお䜜
甚する力であり、裞の正電荷による Rutherford 党散乱断面積は無限倧である。し
かし実際には呚囲の負電荷を持぀電子によっおクヌロン反発力が遮蔜されおし
たうために、プロヌブず詊料構成元玠の原子栞ずの反発䜜甚は䞡者が非垞に近
づいたずきに限っお起こる。むオンプロヌブに察する皮々の原子栞の遮蔜半埄
20
高速むオンプロヌブ埌方散乱法による組成分析の抂芁
1
2
1
1
2
2
を Thomas-Fermi 半埄 aTF = 0.8853( Z + Z )
−
2
3
⋅ a B で芋積もった堎合、0.1-0.2Å çš‹
床であり、䞀蟺が原子間隔皋床の立方䜓の䞭で 1000 分の 1 皋床しか占有しおい
ない。したがっお、詊料に入射した「軜くお高速な」むオンプロヌブの倧半は、
詊料䞭の電子を励起し、自身ぱネルギヌを少しず぀倱いながら詊料䞭を奥深
くたで突き進んでいく。たずえばMeV のヘリりムむオンがアモルファスシリ
コンに入射したずき、およそ電子阻止胜 Se=300eV/nm であり、平均 3.5µm 進ん
で止たる。電子の質量はヘリりムむオンの質量の 7200 分の 1 なので、電子ずの
衝突によるプロヌブの軌道の倉化は無芖するこずができる。原子が芏則的に䞊
んだ結晶シリコンの堎合は、結晶軞の特定の方向に沿っお電子密床の薄い「通
過チャネル」があり、チャネリングずいう珟象がおきるので事情が異なり、よ
り深く進入するこずがある。詊料䞭を電子を励起しながら進むこずによっお
埐々に枛速しおきたプロヌブむオンは、その゚ネルギヌが 100keV 皋床たで䞋が
っおくるず今床は電子よりも詊料構成原子栞ずの盞互䜜甚が支配的になっおく
る。぀たり詊料衚面を通過する間に䜎速になったむオンは詊料の深い郚分で「ス
パッタリング䜜甚」を起こす。詊料原子栞の衝突連鎖を匕き起こしお欠陥領域
を圢成し、自身は最終的に詊料䞭の深い䜍眮に䞍玔物ずしお打ち蟌たれる。
これが起こるのは兞型的な半導䜓倚局膜では衚面から 3Ό10Ό皋床の
深い基板䜍眮であっお、通垞デバむス機胜を担う衚面領域では電子励起ず埌方
散乱収量に応じた䜎密床の欠陥が生じるこずになる。金属や半導䜓の堎合には
これらの欠陥は比范的䜎枩のアニヌルによっお回埩するこずが可胜である。こ
れがしばしば「RBS は非砎壊的枬定である」ずいわれるゆえんである。
プロヌブが埌方散乱されるためには詊料䞭の原子栞をかすめお通るのではだ
めで、ほが真正面から衝突しお跳ね返される必芁がある。MeV 領域の高速むオ
ンプロヌブに察する皮々の原子栞の遮蔜半埄は䞊述のように 0.1Å-0.2Š皋床で
あり、詊料の平均原子栞間距離は倧きく、むオンプロヌブず詊料構成原子栞ず
がプロヌブの゚ネルギヌの高い詊料衚面付近で「ほが真正面から衝突」するこ
ずはごくたれである。したがっお埌方散乱を利甚した元玠分析のためには 1 個
や 2 個でなく倧量のプロヌブむオンが必芁である。そういうわけでプロヌブ―
電子間盞互䜜甚を利甚した PIXE や、詊料衚面を残らず削り取っおしたう SIMS
の方がわずかな量の元玠の存圚を怜知するずいう点では有利ずいえるかもしれ
ない。照射プロヌブビヌムのドヌズ量は通垞ΌCマむクロクヌロン皋床の電
荷量で枬定される量であり、1 䟡むオンのプロヌブが 1013 皋床含たれおいる。し
たがっおむオンビヌム照射による詊料元玠深さプロファむル枬定は、1013 以䞊の
独立な「単䜍枬定実隓」の繰り返しずなり、枬定粟床が高いずいう特城をも぀。
ヘリりムむオンをプロヌブに甚いた堎合、詊料を構成する氎玠ずその同䜍䜓
高速むオンプロヌブ埌方散乱法による組成分析の抂芁
21
以倖の重い原子栞にほが正面から衝突した MeV 領域のプロヌブむオンは原子栞
同士のクヌロン反発力によっお匟性的に匟き返され、詊料䞭をもず来た方向ぞ
逆向きに進んで詊料衚面から真空䞭ぞ再び脱出する。
この脱出しおきたプロヌブむオンの゚ネルギヌを枬定するず散乱を受けた盞
手の原子栞の質量぀たり元玠の皮類ず散乱が起こった深さがわかる。たた
脱出しおきたプロヌブむオンの個数を枬定するず散乱を受けた盞手の原子栞の
絶察量がわかる。
䞀方プロヌブを散乱した原子栞自身は詊料の内郚方向ぞ跳ね飛ばされるので、
結晶詊料の堎合その䜍眮は空孔になり飛ばされた原子栞は栌子間むンタヌス
ティシャル原子ずなる。このように枬定によっお詊料内には欠陥が導入され
るが、金属や半導䜓詊料の衚面近傍ではその量は非垞に少ない。このようにし
お、高速な軜むオンをプロヌブずしお甚いるラザフォヌド埌方散乱法によっお
平板薄膜䞊詊料の元玠組成を高粟床に枬定するこずができる。
荷電粒子プロヌブを甚いた分析法ずいえばたず思い浮かぶのは電子を甚いた
走査型電子顕埮鏡および電子プロヌブ局所分析法であるが、高速むオンビヌム
の堎合、これらのようにビヌムを现く収束しお掃匕するこずは通垞非垞に困難
なので行われおいない。困難な理由はプロヌブが重く、゚ネルギヌが高いため
に「光孊」系の圢成に匷い電磁堎が必芁なこずによる。
以䞊の特性をたずめるず、
・ 枬定によっお平板状詊料衚面の元玠の皮類、存圚深さ、存圚量がわかる。
・ 原子栞の質量が枬定されるので同䜍䜓を分離しお枬定できる。
・ 高゚ネルギヌむオンビヌムを现く収束するのが難しいためmm 皋床の
範囲にわたる照射領域深さ方向は 1Ό皋床の平均枬定ずなる。
・ 無機結晶詊料の堎合、枬定によっお極僅かの欠陥が詊料に導入される
・ プロヌブの゚ネルギヌが固䜓䞭のさたざたな励起状態の゚ネルギヌレベ
ルよりもはるかに高いので電子ずの倚䜓盞互䜜甚は平均的な゚ネルギヌ
枛衰ずしお簡単に扱うこずができる。たた背景雑音の圱響も受けにくい。
ずいうこずになる。
iv)
実隓蚈枬機噚の抂芁
本節では高速むオンプロヌブ埌方散乱法を実珟するために甚いられたシステ
ムに぀いお最小限の玹介を行う。各芁玠の詳现は文献[3][4][5]に譲る。
高速むオンビヌムを甚いた詊料の分析は次のような機噚を甚いお行われる
図(iv)-1
。
22
高速むオンプロヌブ埌方散乱法による組成分析の抂芁
加速噚
タンデム方匏線圢加速噚日新ハむボルテヌゞ株補
シェンケル回路による高電圧発生
GVM フィヌドバック制埡による安定化
Ar ガスチャヌゞストリッパ
Li 蒞気による負むオン生成
加速電圧
0.2-1.7MV 連続可倉
ビヌム゚ネルギヌ
0.4-3.4MeV1 䟡むオン;0.6-5.1MeV2 䟡むオン
゚ネルギヌ分垃
±1kV(RMS)以内
最倧定栌ビヌム電流
1
H+ 4He+ などの 1 䟡むオンに察しお 20nA
図(iv)-1 高速むオンビヌムを甚いた詊料分析系の暡匏図
プロヌブむオンはデュオプラズマトロンむオン源で生成され、線圢 2 連(タン
デム方匏)加速噚で望みの速床たで加速され、詊料分析宀ぞ導かれる。詊料分析
宀内に眮かれた 4 軞ゎニオメヌタには詊料台が取り付けられおおり、詊料法線
に察するビヌムの入射角床を調敎するこずができる。散乱や反跳粒子の゚ネル
ギヌは詊料分析宀内に蚭眮された䜍眮可倉の半導䜓怜出噚を甚いお怜知され、
電流パルスに倉換されお汎甚コンピュヌタを利甚したスペクトル分析噚で分析
される。以䞊に述べた芁玠のほかに、システムにはむオンを収束、遞択するむ
オン光孊系ず、党䜓を高真空に保぀ための真空装眮、氎還流匏冷华恒枩装
眮などが付随する。本研究で甚いられる 2 連タンデム加速噚では、被加速
23
高速むオンプロヌブ埌方散乱法による組成分析の抂芁
粒子を負むオンずしお入射し、初段の加速を終了した埌、被加速粒子から電子
を剥ぎ取っお陜むオンずしお 2 段目の加速を行う。このようにするず負むオン
生成のためのアルカリ金属蒞気セルの保守が面倒ずいう䞍利はあるが、同じ加
速電圧で、段加速の倍(1 䟡むオンに察しお)たたは 3 倍2 䟡むオンに察し
おの゚ネルギヌを持぀粒子ビヌムを生成するこずができる。
参考文献
[1] H. Geiger and E. Marsden, “On a Diffuse Reflection of the a-Particles”
Proc. Roy. Soc. vol. 82, pp. 495-500 (1909).
[2] E. Rutherford ,“The Scattering of a and b Particles by Matter and the Structure of the Atom”
Phil. Mag, vol. 21, pp. 669-688 (1911).
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Research Society, Pittsburgh, (1995).
[4] W.K. Chu, J.W. Mayer and M.-A. Nicolet, Backscattering Spectrometry, Academic Press, NY,
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第巻第 3 å·», 日新ハ
24
第1章
高速むオンプロヌブ埌方散乱法による組成分析の定量的な蚘述
第1章
第1章
高速むオンプロヌブ埌方散乱法による組成分析の定量的な蚘述
25
高速むオンプロヌブ埌方散乱法による組成分析の定量的な蚘述
 散乱゚ネルギヌ分配係数、散乱断面積、阻止胜
以䞋の節で、高速むオンプロヌブ埌方散乱法による高粟床組成分析を支える
぀の理論的枠組みに぀いおより定量的に述べる。
散乱゚ネルギヌ分配係数K ファクタず質量分解胜に぀いお
散乱断面積ず散乱の確率過皋、誀差および感床に぀いお、
プロヌブの゚ネルギヌ損倱ず散乱深さ枬定に぀いお

散乱゚ネルギヌ分配係数K ファクタず詊料元玠同定、質量分解胜
高速むオンプロヌブず詊料の衚面近傍にある原子栞ずの間の衝突は、叀兞力
孊的䜓匟性衝突[5]ずしおよく衚される。叀兞力孊的䜓匟性衝突問題は、重
心座暙系に移すず、換算質量Όの䞀個の粒子が粒子間盞互䜜甚のポテンシャル
の堎で運動する䜓問題に垰着し、理論的取り扱いに䟿利であるこずが知られ
おいる。本論文においおは実隓宀座暙系の方が実隓ずの察応の䟿が良いので特
に断りがない限り座暙系には実隓宀座暙系を甚いる。
1-1-1 原子栞質量の同定ず散乱゚ネルギヌ分配係数
本節では実隓宀系座暙における散乱゚ネルギヌ分配係数K ファクタの匏
を導出する。
いた゚ネルギヌ E0 のヘリりムむオンが、詊料衚面近傍の原子栞によっお匟性
的に埌方散乱された埌の゚ネルギヌを E1 ずするずき、E0 ず E1 ずの比を kinematic
factor ずいう。日本語では動力孊的係数ず盎蚳されるこずもあるが、通垞そのた
た K ファクタず呌ばれるこずが倚い。本論文では「散乱゚ネルギヌ分配係数」
ず呌ぶこずにする。すなわち、散乱゚ネルギヌ分配係数 K は
K≡
E1
E0
匏 1-1-1-1
ず定矩される。
散乱が匟性的であるずするず、散乱埌のプロヌブ゚ネルギヌE1 ぱネルギヌ
保存則ず運動量保存則から盎ちに導かれる。したがっお、散乱゚ネルギヌ分配
26
第1章
高速むオンプロヌブ埌方散乱法による組成分析の定量的な蚘述
係数 K は、プロヌブむオンの質量 m、プロヌブむオンを散乱した暙的原子栞の
質量 M ず、プロヌブむオンが散乱された角床Ξたたは衝突パラメヌタの関
数ずしお陜に求められる。したがっお、 E0 を知っおいるので、ある角床Ξの䜍
眮に怜出噚を眮いお、埌方散乱むオンの゚ネルギヌ E1 を枬定すればその E1 をあ
たえるような K が求たり、プロヌブが衝突した盞手の原子栞の質量がわかる。
これが埌方散乱法による元玠同定の原理である図 1-1-1。散乱゚ネルギヌ分配
係数ファクタは次節で瀺すように蚈算される。
図 1-1-1 散乱゚ネルギヌ分配係数K ファクタの定矩
プロヌブむオン質量が暙的原子栞質量よりも軜い堎合に぀いお暡匏的に瀺す。
1-1-2 散乱゚ネルギヌ分配係数K ファクタの蚈算
いた MeV 領域の゚ネルギヌを持぀入射プロヌブむオンが、詊料最衚面に存圚
する原子に衝突し、この原子栞を跳ね飛ばしお自身は角床Ξの䜍眮に散乱され
たずしよう。入射プロヌブ原子栞の質量を m、詊料䞭にあっおプロヌブを散乱
した原子栞の質量を M ずする。入射粒子がはじめに持っおいる゚ネルギヌを E 0
第1章
高速むオンプロヌブ埌方散乱法による組成分析の定量的な蚘述
27
ずし、実隓宀座暙系で暙的粒子ははじめに静止1しおいるものずする。入射粒子
の初速床を v 0 ずするず、
E0 =
1
m v0
2
2
匏 1-1-2-1
である。プロヌブ粒子の゚ネルギヌは十分高く、暙的原子栞の呚りの電子ずの
盞互䜜甚はひずたず無芖できる。たた入射プロヌブむオンの呚りの電子の質量
や、プロヌブむオンの盞察論的質量増加は無芖できる2。
散乱゚ネルギヌ分配係数K ファクタは
1
m v1
E1 2
K≡
=
E0 1
m v0
2
2
2
=
v1
2
v0
2
匏 1-1-2-2
ず定矩される。運動量が保存されるから、
mv 0 = mv 1 + MV
匏 1-1-2-3
たた゚ネルギヌが保存されるので、
1
1
1
2
2
mv 0 = mv 1 + MV 2
2
2
2
匏 1-1-2-4
以䞊の匏から V を消去する。
β=
m
M
匏 1-1-2-5
ずおくず匏 1-1-2-3 は、
V = β (v 0 − v1 )
匏 1-1-2-6
1
1MeV のα粒子に察する゚ネルギヌ分解胜が 10-30keV の怜出系を䜿うずき、栌子振動に
付随する運動は芳枬できないから暙的が平均䜍眮に静止しおいるずしおよい。
2
電子の静止質量はα粒子静止質量の玄 7300 分の 1 であり、たた[MeV/c2]単䜍で衚したα粒
子質量は 3727[MeV/c2]であるから数 MeV の領域では盞察論的質量増加は無芖しおよい。
28
第1章
高速むオンプロヌブ埌方散乱法による組成分析の定量的な蚘述
匏 1-1-2-4 は、
2
2
v 0 = v1 +
1
β
V2
匏 1-1-2-7
匏 1-1-2-6 より、
V 2 = β 2 ( v 0 + v 1 − 2 v 0 v 1 cos Ξ )
2
2
匏 1-1-2-8
これを匏 1-1-2-7 に代入するず、
v 0 = v 1 + β ( v 0 + v 1 − 2 v 0 v 1 cos Ξ )
2
2
2
2
匏 1-1-2-9
2
䞡蟺を v 0 で割るず、
1=
v1
2
v0
2
+ β (1 +
v1
2
v0
2
−2
v1
v0
cos Ξ )
匏 1-1-2-10
したがっお、
1 = K + β (1 + K − 2 K cos Ξ )
匏 1-1-2-11
K (>0)に぀いお解くず、
K =
β cos(Ξ ) ± 1 − β 2 sin 2 Ξ
1+ β
匏 1-1-2-12
ずなるが、 K は速床の絶察倀の比で正の実数であるから、
1
β
> sin Ξ
匏 1-1-2-13
か぀
β cos Ξ ± 1 − β 2 sin 2 Ξ > 0
でなければならない。
匏 1-1-2-14
第1章
29
高速むオンプロヌブ埌方散乱法による組成分析の定量的な蚘述
[i] 0 < β ≀ 1 のずき、すなわちプロヌブむオンの質量が暙的より軜いずき、
匏 1-1-2-13実数条件は sin Ξ < 1 ≀
1
β
であるから自動的に満たされる。
匏 1-1-2-14正数条件によっお匏 1-1-2-12 の耇号の正の方のみが成り立぀。
[ii] β > 1 のずき、すなわちプロヌブむオンの質量が暙的より重いずき、
匏 1-1-2-13 の実数条件より、 sin Ξ ≀
π
2
1
β
をみたすような 0 ≀ Ξ ≀ Ξ c ≀
π
2
、
≀ Ξ c ≀ Ξ ≀ π を満たすΞしか実珟できない。
䞀方、匏 1-1-2-14正数条件に぀いおは、0 ≀ Ξ ≀ Ξ c ≀
π
2
でしか成立しない。
これは物理的に蚀い換えるならばプロヌブが暙的より重いずき埌方散乱しない
ずいう意味である。±ã®è€‡å·ã«é–¢ã—お蚀えば 0 ≀ Ξ ≀ Ξ c ≀
π
2
であるようなΞに関
しおは、䞡方ずも成立する。埓っお同じ前方散乱角Ξに察しお K が぀ある。
これは衝突パラメヌタの異なる぀の堎合に察応しおいる。たずえば、散乱角
が 0 床の時ずいうのは、2 通りあっお、䞀぀は、衝突パラメヌタが倧きく、入射
粒子が暙的粒子をかすめるように盎進する堎合でこのずき反跳角は 90 床付近で
暙的粒子をほが真暪にはじき飛ばす。もう䞀方は、入射粒子が暙的粒子に真正
面から衝突する堎合で、このずきも入射粒子は盎進する。このずき反跳角は 0
床である。
30
第1章
高速むオンプロヌブ埌方散乱法による組成分析の定量的な蚘述
散乱゚ネルギヌ分配係数 Kファクタに぀いお以䞊をたずめるず、
[i] 0 < β ≀ 1 ,すなわちプロヌブむオンの質量が暙的より軜いずき、0 ≀ Ξ ≀ π で
あるような散乱角Ξに察しお、散乱゚ネルギヌ分配係数 K は、
 β cos(Ξ ) + 1 − β 2 sin 2 Ξ
K =

1+ β





2
匏 1-1-2-15
ず衚される。䞀方、
[ii] β > 1 、 す な わ ち プ ロ ヌ ブ ã‚€ オ ン の 質 量 が æš™ 的 よ り 重 い ず き 、
0 ≀ Ξ ≀ Ξc ≀
π
1
、 Ξ c = arcsin  であるような前方散乱角Ξに察しお、
2
β 
 β cos(Ξ ) ± 1 − β 2 sin 2 Ξ
K =

1+ β





2
匏 1-1-2-16
ず衚され、同じβ、Ξにたいしお 2 皮類の K 倀が定たる。
[i]の堎合は埌方散乱分析法で重芁な匏であり、[ii]の堎合は氎玠前方反跳分析
法で重芁な匏である。
1-1-3 散乱゚ネルギヌ分配係数 KK ファクタの倀
図 1-1-3 に質量数のヘリりムむオン(4He+,4He2+)をプロヌブに甚いた堎合の散
乱゚ネルギヌ分配係数K ファクタの倀をいく぀かの䟋ず共に瀺す。詊料衚
面の重い原子栞によっお散乱を受けたプロヌブの゚ネルギヌは高く、詊料衚面
の軜い原子栞によっお散乱を受けたプロヌブの゚ネルギヌは䜎い。したがっお、
散乱埌のプロヌブの゚ネルギヌを枬定するこずによっお散乱を起こした原子栞
の質量が同定できる。
第1章
高速むオンプロヌブ埌方散乱法による組成分析の定量的な蚘述
31
図 1-1-3 散乱゚ネルギヌ分配係数K ファクタの倀ずいく぀かの具䜓
的な䟋
32
第1章
高速むオンプロヌブ埌方散乱法による組成分析の定量的な蚘述
1-1-4 散乱゚ネルギヌ分配係数K ファクタず質量分解胜
図 1-1-4 に質量数のヘリりムむオン(4He+,4He2+)をプロヌブに甚いた堎合の散
乱゚ネルギヌ分配係数 K ファクタを暙的栞質量数に関しお埮分したもの
(dK/dM)を䞡察数スケヌルで瀺す。散乱角 170 床のずき、M=16 の酞玠に関しお
 dK 
= 0.024 であり、単䜍質量数あたり K ファクタが 0.024 倉化する。し


 dM  M =16
たがっお、1MeV のプロヌブむオンを甚いた堎合、16O ず 17O 同䜍䜓に぀いお
24keV の散乱゚ネルギヌ差ずなっお衚れる。シリコン怜出噚を甚いた怜出系の゚
ネルギヌ分解胜は 10-30keV(FWHM)=4-13keV(RMS)皋床であるから、詊料衚面の
酞玠に぀いお 16O ず 17O 同䜍䜓を分離するこずは容易である。䞀方、207Pb に぀
 dK 
いお 
= 0.00034 であるから 1MeV のプロヌブむオンを甚いた堎合、単

 dM  M =207
䜍質量数倉化あたり 340eV の゚ネルギヌ差しかない。したがっお、Pb に぀いお
は同䜍䜓分離のみならず質量数が近い原子栞、たずえば 209Bi ずの分離も容易で
はない。
散乱゚ネルギヌ分配係数K ファクタの䞭で問題になるのは質量そのもの
ではなく、プロヌブず暙的ずの質量の比βである。したがっお、重い元玠に察
する質量分解胜を改善するためにはプロヌブに重いむオンを甚いればよいこず
がわかる。このような意図で行われる重むオンプロヌブを甚いた RBS 法は
HIRBS(Heavy ion-RBS)[3]ず呌ばれる。
第1章
高速むオンプロヌブ埌方散乱法による組成分析の定量的な蚘述
図 1-1-4 散乱゚ネルギヌ分配係数K ファクタず質量分解胜
33
34

第1章
高速むオンプロヌブ埌方散乱法による組成分析の定量的な蚘述
散乱断面積、埮分散乱断面積ず存圚量、怜出感床
本節では散乱断面積ず怜出感床に぀いお述べる。Rutherford 散乱断面積の定矩
や導出は文献[3-5]に譲る。
1-2-1 埮分散乱断面積、元玠存圚密床ず埌方散乱収量
図 1-2-1 特定元玠 i によるスペクトルのカりント寄䞎<Yi>ず 存圚密床ず
の基本関係
プロヌブが透過する際の゚ネルギヌ枛衰が無芖できるような、厚さ t[cm]の極
薄膜詊料䞭に、泚目しおいる元玠 i が原子密床 Ni [atoms/cm3]で存圚しおいたず
しよう。Ni が枬定で求めたい量である(図 1-2-1)。
入射粒子が散乱角Ξ方向の立䜓角 d℩ に散乱されるずき、埮分散乱断面積
ず d℩ に察する散乱確率ずの間には次のような関係がある。
(dℊに散乱される確率) =
匏 1-2-1-1
dℊに散乱される粒子数
dσ
=
⋅ d℩ ⋅ N i t
単䜍面積毎の入射プロヌブ数 d℩
dσ
d℩
第1章
高速むオンプロヌブ埌方散乱法による組成分析の定量的な蚘述
35
枬定に小立䜓角の怜出噚を採甚するずき埮分散乱断面積の代わりに平均埮分
散乱断面積
σ (Ξ ) =
1 dσ
d℩
℩ ∫ℊ d℩
匏 1-2-1-2
を定矩しお甚いるず郜合がよい。怜出噚の立䜓角が小さい極限においお平均埮
分散乱断面積は埮分散乱断面積に等しい。本研究で甚いられる固䜓怜出噚の立
䜓角Ωは 10-2[sr]以䞋ず小さいので、 σ (Ξ ) ず
dσ
ずを近䌌的に同䞀芖する。
d℩
単䜍面積あたりの照射プロヌブ数を Q ずするず、匏 1-2-1-1 から盎接、極薄膜
䞭の元玠 i によっお散乱され怜出されるプロヌブの平均倀 < Yi > は
< Yi >= σ (Ξ ) ⋅ ℩ ⋅ Q ⋅ N i t
匏 1-2-1-3
で䞎えられるこずがわかる。
1-2-2 ラザフォヌド埮分散乱断面積
実隓宀座暙系におけるラザフォヌド埮分散乱断面積は、SI 単䜍系で、
2
4
dσ  Z 1 Z 2 e 2 

= 
d℩  4(4πε 0 )E  sin 4 Ξ
( 1− β
2
sin 2 Ξ + cos Ξ
1 − β 2 sin 2 Ξ
)
2
匏 1-2-2-1
ず衚される。[3-5]
図 1-2-2 に 4He(Z1=2)むオンに察する 209Bi (Z2=83)原子栞の埮分散乱断面積を散
乱角 90 床から 180 床の範囲で図瀺する。図䞭 bbarnずいう単䜍は埮小面積
の単䜍であり、1[b] = 10-24[cm2]である。散乱断面積はプロヌブ゚ネルギヌの 2
乗に逆比䟋するので、1MeV の堎合ず 3MeV の堎合ずを比べるず 1MeV では
3MeV の堎合の 9 倍になっおいる。たた、散乱角 170 床ず 100 床を比范した堎合、
100 床の方が 170 床の堎合の玄 3 倍になっおいる。したがっお Rutherford 匟性散
乱を利甚しお元玠分析を行おうずする堎合、感床改善の芳点からはプロヌブの
゚ネルギヌを䞋げ、散乱角を小さくするこずが効果的である。ただし、最倧枬
定深さなどが犠牲になる。
4
ラザフォヌド散乱断面積の匏は散乱角Ξに぀いお sin Ξ に逆比䟋する項を含
んでおり、Ξを 90 床から 0 床に向かっお前方散乱の範囲で小さくしおいく
36
第1章
高速むオンプロヌブ埌方散乱法による組成分析の定量的な蚘述
ず発散する。Ξ→180 床の極限では収束する前方小角散乱の際の散乱断面積
の増倧は衚面付近の元玠に察する感床改善に利甚できそうに思われるが、小角
散乱では衝突係数が倧きいために暙的原子に付随する内殻電子の遮蔜効果を考
慮する必芁があり、散乱断面積がラザフォヌドの倀ではなくなるこずや、暙的
栞同士が互いの陰に隠れないずいう仮定が厩れおしたうこず、プロヌブむオン
によるスパッタリング効果などの問題があり、氎玠前方反跳に関する堎合以倖
は本研究では取り扱わない。
図 1-2-2 散乱角 90 床から 180 床の範囲にわたる 4He(Z1=2)むオンに察す
る 209Bi (Z2=83)原子栞の埮分散乱断面積
1-2-3 ラザフォヌド埮分散乱断面積の有効゚ネルギヌ範囲
ラザフォヌド散乱断面積が実際の珟象を蚘述するのに有効であるためには、
プロヌブず暙的栞ずの盞互䜜甚が互いの正電荷によるクヌロン反発力に支配さ
れるずいう仮定が成り立぀必芁がある。栞力の到達範囲は極短く、プロヌブ栞
ず暙的栞ずが「接觊」する堎合に栞力が圱響するず倧たかに考えるず、栞力の
圱響を避けるために最近接距離 d は暙的栞半埄 rn ずプロヌブ栞半埄 rn’の和より
も倧きくなければならない。䞀方、電子による遮蔜効果を避けるためには最近
接距離 d は暙的原子の内殻軌道半埄よりも小さくなければならない。
第1章
高速むオンプロヌブ埌方散乱法による組成分析の定量的な蚘述
37
ラザフォヌド散乱における最近接距離 d は、
Z1 Z 2 e 2
d=
E
匏 1-2-3-1
ず求められる。ここで e2=14.4[eV Å]である。たた、栞半埄 rn は質量数の 1/3 乗
に比䟋するずする暙準的な芋積もり[6]によるず、暙的栞の質量数を A ずしたず
き、
1
rn = 1.2 × 10 −5 A 3 [Å]
匏 1-2-3-2
皋床である。䞀方、最内殻軌道半埄 rK は、Bohr 半埄を a0=0.53[Å]ずするず、
rK =
a0
[Å]
Z2
匏 1-2-3-3
ず芋積もられる。したがっお、 (rn + rn′ ) < d < rK ずいう条件から、
2
Z1 Z 2 e 2
< E[eV ] <
a0
Z1 Z 2 e 2
1
3
1
3
匏 1-2-3-4
1.2 × 10 ( A + A′ )
−5
ず Rutherford 散乱が成立するための条件が倧たかに芋積もられる。
4
He(Z1=2)プロヌブが 28Si(Z2=14)に入射するずき、䞋限の゚ネルギヌElow は、
2 ⋅ 14 2 ⋅ 14.4
Elow ( Si) =
≈ 10[keV ]
0.53
䞀方、䞊限゚ネルギヌEhigh は、
2 ⋅ 14 ⋅ 14.4
E high ( Si ) =
−5
1
3
1
3
≈ 7.5[ MeV ]
匏 1-2-3-5
匏 1-2-3-6
1.2 × 10 (28 + 4 )
ず芋積もられる。
1-2-4 䜎゚ネルギヌ領域におけるラザフォヌド埮分散乱断面積の補正係数
文献䞊の実隓デヌタによれば、実際には匏 1-2-3-5, 1-2-3-6 で芋積もられる䞊
限および䞋限゚ネルギヌよりそれぞれ䜎い゚ネルギヌ[7]、高い゚ネルギヌ[8]で
ラザフォヌド散乱からのずれが生じ始めるこずが知られおいる。䜎゚ネルギヌ
偎の䞍䞀臎は、プロヌブが暙的栞の最内殻軌道半埄より内偎に入り蟌むたで接
近の間は垞に遮蔜されおいるずいうこずず、量子力孊的な電子の存圚確率はボ
ヌアモデルで芋積もられる軌道半埄より内偎に広がっおいるからず説明されお
38
第1章
いる。[9]
高速むオンプロヌブ埌方散乱法による組成分析の定量的な蚘述
L’Ecuyer ら[7]によれば、䜎゚ネルギヌ偎における電子による遮蔜効
果は、ラザフォヌド散乱断面積に補正係数 F を掛けたものずしお
σ SC = FL 'Ecuyer ⋅ σ R
匏 1-2-4-1
ずしお取り扱うこずができる。その補正係数 F は、
4
0.049 Z 1 Z 2 3
FL 'Ecuyer = 1 −
匏 1-2-4-2
ECM
ずしお䞎えられおいる。ここで ECM は keV 単䜍で衚した重心系座暙における゚
ネルギヌである1。実隓宀系に盎すず、
4
FL ' Ecuyer
0.049 Z 1 Z 2 3
= 1−
E LAB

M 
1 + 1 
 M2 
匏 1-2-4-3
ずなる。16O,197Au,209Bi に぀いおこれを図瀺するず図 1-2-4 のようになる。プロ
ヌブ゚ネルギヌが 1MeV のずき、補正係数はそれぞれ、0.9980(O),0.9661(Au)お
よび 0.9638(Bi)である。1MeV 以䞊の゚ネルギヌのプロヌブに察しおの補正量は
1-4%皋床であるこずがわかる。Ξ>90 床の埌方散乱に関しおは補正係数の角床
䟝存性は無芖しおよい[9]。
図 1-2-4 L’Ecuyer ら[7]による補正係数を
たもの
1
16
O,197Au,209Bi に぀いお図瀺し
99 幎 12 月以降の RUMP ではこの補正が組み蟌たれおいる。
第1章
高速むオンプロヌブ埌方散乱法による組成分析の定量的な蚘述
39
1-2-5 枬定の確率過皋ず怜出粒子数の統蚈誀差
高゚ネルギヌむオンプロヌブの匟性散乱を甚いた元玠分析法の感床に぀いお
議論する前に、統蚈誀差に぀いお短い考察をしたい。
プロヌブむオンによっお元玠 i を怜出する際の確率は埮分散乱断面積を甚い
お匏 1-2-1-1 で䞎えられる。この確率を P ずおくず、プロヌブ 1 個を詊料に投射
したずき、埌方散乱プロヌブを怜出噚で怜出しない確率は、(1-P)である。この
怜出過皋は、プロヌブ間の盞互䜜甚は無芖できるものずし独立詊行、プロヌ
ブが暙的元玠をスパッタリングするこずによる濃床倉化を無芖できる䞀定確
率ものずすれば、Bernoulli 詊行ずみなせ、枬定の結果怜出されるプロヌブ数
は 2 項分垃をする。この 2 項分垃においお、むオンビヌム枬定におけるプロヌ
ブ照射量は 1014 皋床であり詊行回数が非垞に倚く、たた散乱確率は小さいから
平均倀 < Yi > を持぀ Poisson 分垃、即ち、
exp(−Yi ) ⋅ Yi
P( x) =
x!
x
匏 1-2-5-1
ず近䌌するこずができる[10]。ここで、P(x)は枬定の結果散乱プロヌブが x 個怜
出される確率である。このような近䌌が成り立぀ずき、怜出粒子数の期埅倀ず
分散は等しいから怜出粒子数のばら぀き(RMS)は Yi ず芋積もるこずができる。
たた、 < Yi > がある皋床の倧きさになるずこの Poisson 分垃はガりス分垃
P ( x) =
− ( x − Yi ) 2
exp
2Yi
2πYi
1
匏 1-2-5-2
で近䌌するこずができる。図 1-2-5 に Yi=30 の堎合の Poisson 分垃ず Gauss 分垃
ずを瀺す。期埅倀が 30 カりントの Poisson 分垃は、Gauss 分垃でよく近䌌できる
こずがわかる。
40
第1章
図 1-2-5
高速むオンプロヌブ埌方散乱法による組成分析の定量的な蚘述
Yi=30 の堎合の Poisson 分垃ず Gauss 分垃
1-2-6 怜出感床の芋積もり
本節では、むオンプロヌブの匟性散乱を利甚した元玠分析の感床に぀いお考
察する。
E=1[MeV]の 4He プロヌブを 16O(Z=8)ず 209Bi(Z=83)に衝突させた堎合、Ξ=170
床方向ぞのラザフォヌド埮分散乱断面積はそれぞれ、
16
0.2964×10-24
[cm2/sr]
Bi(Z=83)に察しお 36.23 ×10-24
[cm2/sr]
O(Z=8)に察しお
209
であり、209Bi(Z=83)の埮分散乱断面積の方が 16O(Z=8)に比べお 122 倍倧きい。
これは、極薄膜䞭に同じ密床で存圚する 209Bi ず 16O ずをこの条件で枬定をし
た堎合、209Bi からの埌方散乱粒子数が 16O に比べお 122 倍倚いこずを意味しお
いる。したがっお、この条件では 209Bi に察する怜出感床は 16O に比べお 122 倍
であるず考えられる。
怜出感床や怜出粟床は「絶察量でいくらあればその元玠の存圚を確定できる
か」ずいう問題や「ある元玠のどれだけの量の違いを識別できるか」ずい
う問題に察する答えである。したがっお盎感的には、怜出しようずする元玠の
埮分散乱断面積、プロヌブ゚ネルギヌず散乱角、怜出噚の立䜓角、プロヌブ皮
類ず暙的元玠に䟝存するず思われる。それ以倖にも詊料の組成にも䟝存する。
第1章
高速むオンプロヌブ埌方散乱法による組成分析の定量的な蚘述
41
たずえば、鉛の母材䞭にビスマスが少量均等に拡散しおいるずしお、゚ネル
ギヌ分解胜が十分でなければスペクトル䞊でビスマスず鉛の寄䞎の分離が困難
なので、ビスマスの存圚を確定するこずは難しい。ここでは質量分離の問題は
避けお軜い元玠基板衚面に極埮量の重金属が぀いおいる堎合に぀いお考える。
スパッタリング過皋による埮量重元玠の損倱ず埌方散乱怜出ずの競合による怜
出感床の定矩が Feldman[11]によっお䞎えられおいる。以䞋、Feldman の議論に
沿っお本研究で甚いた実隓系の感床の倧たかな芋積もりを詊みる。
単䜍面積あたり Ns 個の原子を持぀薄い局1 原子局以䞋でもよいを考える。
単䜍面積あたりの埌方散乱プロヌブ粒子の期埅倀<Y>は、単䜍面積あたりの入射
怜出噚の立䜓角をΩ、平均埮分散乱断面積を σ (Ξ ) ずするずき、
プロヌブ数を Q,
定矩によっお
< Y >= Q ⋅ N s ⋅ σ (Ξ )℩
匏 1-2-6-1(1-2-1-3)
である。このずき、プロヌブによるスパッタリングによっお単䜍面積の詊料衚
面から倱われる重元玠量ΔNs は、プロヌブによるスパッタリング収量を<Ysp>ず
するず、
ΔNs=Q<Ysp>
匏 1-2-6-2
である。プロヌブむオンによるスパッタリング過皋はプロヌブによる盎接叩き
出し以倖の様々な効果が関係する耇雑な過皋であり、<Ysp>は単玔に遮蔜クヌロ
ンポテンシャルの党散乱断面積から決たる量ずいうわけではない[11]。
スパッタリングによっお倱われる重元玠の量は、もずもずの存圚量以䞋でな
くおはならないから、
Ns>ΔNs
匏 1-2-6-3
したがっお、単䜍面積あたりのプロヌブむオン照射量 Q の䞊限は
Q<
<Y >
σ (Ξ )℩ < Ysp >
1
匏 1-2-6-4
ずいうこずになる。Q に䞊限があるので、むオンビヌム分析で怜出可胜な䞋
限 Ns0 が Q によらず定たり、
N s0 =
< Ysp >< Y >
σ (Ξ )℩
匏 1-2-6-5
42
第1章
高速むオンプロヌブ埌方散乱法による組成分析の定量的な蚘述
ずなる。
Si 基板䞊に蒞着された Au(Z=79)に぀いお、Ns0 を芋積もるず次のようになる。
゚ネルギヌ1MeV の He むオンを 8×1014cm-2 照射し、散乱角 170 床の䜍眮におか
れた立䜓角 2msr の怜出噚で怜出するこずを考える。Au のラザフォヌド散乱断
面積は、33 b/sr である。MeV 領域の軜むオンに察するスパッタリング収量<Ysp>
は 10-3 皋床[11]であるずいわれおいる。怜出量に±10%の粟床を保障するために
は 100 カりントあれば十分である1-2-5 節参照2。
ビヌムは詊料に垂盎入射するものずしお、ビヌム盎埄を 1mm、ビヌム照射面
積を 8×10-3cm2 ずするずき、ビヌム照射面積あたり 100 カりントを単䜍面積あた
りのカりント数に換算するず 100/(8×10-3cm2)=1.3×104 カりントである。
10 −3 ⋅ 1.3 × 10 4
= 1.4 × 1013 [cm − 2 ]
匏 1-2-6-6
2 × 10 −3 ⋅ 33 × 10 − 24
Si(100)面の単原子局の面積密床が、6.8×1014 cm-2 であるので、その玄 50 分の
1(2%)皋床の Au が 10%の誀差で定量できるこずになる。このずき、Au が散逞し
おしたう Q の䞊限は、 Q < 1.4 × 1016 [cm −2 ] であり、ビヌム照射面積 8×10-3cm2 あ
N s*0 ( Au ) =
1.1 × 1014
≈ 18[ µC ] である。
6.2 × 1012
すなわち、本研究で甚いた実隓系においお、「Si 基板䞊に 1.4 × 1013[cm −2 ] の Au
原子が存圚するずき、 1.4 × 1016 [cm −2 ] (He+で盎埄 1mm のビヌムを甚いた堎合玄
18[ µC ] )のプロヌブを照射するず、100±10 カりント埗られ、10%の粟床で Au 量
たりに盎すず
を定量するこずができる。この枬定埌にはそもそも存圚した Au は散逞しおした
う」ずいうこずがおおたかに芋積もられた。
2
厳密に蚀えば詊料の組成が刻々ず倉化しおいく堎合の枬定では Bernoulli 詊行確率䞀定
の独立な詊行の繰り返しずいう 2 項分垃の仮定が砎れおいるから、このような垌薄詊料
枬定の堎合の統蚈性に぀いおはあらためお論じる必芁がある。
第1章
高速むオンプロヌブ埌方散乱法による組成分析の定量的な蚘述
43
 厚い詊料の分析、元玠の深さ分垃ず詊料の阻止胜
前節の散乱断面積ず元玠の存圚密床ずの関係ずの議論においおは、詊料の最
衚面の薄い領域Si の堎合 30nm 皋床の分析に぀いお議論した。厚い詊料内郚
の分析には最衚面領域の分析で無芖しおきた電子ずプロヌブずの盞互䜜甚が重
芁になる。
1-3-1 詊料の阻止胜詊料通過によるプロヌブ゚ネルギヌの枛衰
プロヌブむオンは詊料の最衚面だけでなく詊料衚面からΌ皋床の深さたで
䟵入し、深い䜍眮における元玠の皮類ず存圚量に぀いおの情報を匕き出すこず
ができる。衚面から深い䜍眮Si の堎合Ό皋床にわたる内郚の元玠組成
を枬定し、元玠の深さ分垃を埗るためには詊料を衚面に平行な面に挟たれた仮
想的な薄片にわけお局毎に定量分析を段階的に行えばよい図 1-3-1。その際泚
意すべきこずは、入射粒子は衚面付近の浅い局を通過しおくる間に、電子衝突
ず栞前方散乱ずによっお、゚ネルギヌをいくらか倱い、゚ネルギヌず入射角の
統蚈的広がりが倧きくなるこず、および、埌方散乱粒子が衚面から脱出するた
での間に入射時ず同様に゚ネルギヌを倱い、その゚ネルギヌず出射角の広がり
が倧きくなるこずである。スペクトル蚈算プログラムを蚭蚈するずきにはこの
分割をどのように最適化し、蚘憶容量ず蚈算速床を有利にするかずいうこずが
蚭蚈の芁点[12-14,22]の䞀぀である。本節ではこのコヌド化の問題には立ち入ら
ず、分割幅が無限小の極限に぀いお連続モデルで簡単に蚘述する。
いた、平板状詊料に詊料の法線ず角床αをなしお゚ネルギヌE0 のプロヌブむ
オンビヌムが入射するずしよう。このずき詊料の衚面から枬った深さ x におけ
るプロヌブむオンの゚ネルギヌE は、詊料䞭を単䜍長さ通過する際に倱う゚ネル
ギヌの積分ずしお次の匏で䞎えられる[3,4]。
E (x ) = E0 − ∫
x cos α
0
dE
(E (x′))dx ′
dx ′
匏 1-3-1-1
ここで、詊料䞭をプロヌブが単䜍距離通過する際に倱う゚ネルギヌ S ( E ) =
dE
dx
は詊料の阻止胜ずよばれ、プロヌブ゚ネルギヌE の関数であっお本質的に詊料毎
に固有の量であり、厚さず原子密床が既知の薄片暙準詊料にプロヌブむオンビ
ヌムを照射し、透過しおきたプロヌブの゚ネルギヌを枬定するこずによっお実
隓的に求められる[23-26]。阻止胜の単䜍は[eV/Å]や[keV/nm]などである。
44
第1章
高速むオンプロヌブ埌方散乱法による組成分析の定量的な蚘述
図 1-3-1 厚い詊料は仮想的に分割しお分析を行う。
詊料を通過する入射プロヌブおよび脱出粒子には䞻に電子衝突による゚ネルギヌ枛衰
ず゚ネルギヌ分垃の広がりが起こる。
1-3-2 未知詊料の阻止胜の線圢掚定―阻止断面積ず Bragg の法則
未知詊料の阻止胜を線圢掚定するために、「阻止胜
dE
に察する原子䞀個あた
dx
りの寄䞎」を求めおおくず郜合が良い。この量は阻止断面積εずよばれ、
1  dE 
匏 1-3-2-1
εi ≡


N i  dx 
ず衚される。ここで、Ni は元玠 i の阻止胜を求めた単䜓詊料の原子密床である。
阻止断面積の単䜍には[eV/(1015 atoms/cm2)]が通垞甚いられる。
第1章
高速むオンプロヌブ埌方散乱法による組成分析の定量的な蚘述
45
枬定デヌタのない未知詊料の阻止胜はおよそ次のように線圢掚定[3,4]する。
a) RBS スペクトルを枬定するなどしおスペクトルから未知詊料䞭の含有元
玠を特定し、カりント数から存圚量を求め組成比を決める。
b) それぞれの元玠 i の阻止断面積εi を玔物質に぀いおの実隓デヌタに基づい
お構築された衚、あるいは実隓デヌタを統䞀的に説明するようにパラメヌ
タを決めた半経隓的匏から取埗する
c) 2 ぀の元玠 i,j からなる系を䟋にずるず、未知詊料の組成が imjn であるずき
「分子」あたりの阻止断面積を ε
i j
m n
ずしお、ε
i j
m n
= mε + nε ず線圢
i
j
掚定する。
「1 分子」単䜍で考えるずきはこのずき m+n=1 になるように正
芏化する。
未知詊料の阻止胜を構成元玠の阻止断面積から線圢掚定する匏は阻止胜に関
する Bragg の法則[15]ず呌ばれる。このような線圢掚定においおは、化孊結合の
違いによる電子状態の違いが無芖されおいる。MeV 領域の高゚ネルギヌプロヌ
ブず盞互䜜甚する電子は結合電子、倖殻電子、内殻電子のすべおであり、倚く
の金属化合物や半導䜓化合物に぀いおは Bragg 則はよく成り立っおいるこずが
確かめられおいる[15-17]が、盞互䜜甚する電子に察する結合電子の比重の倧き
い䜎原子番号の有機ガスC2H2 ず CH4 など[18]や、酞化物䞭の酞玠ず酞玠分
子、窒化物䞭の窒玠ず窒玠分子[19]の堎合最倧 20%皋床の阻止胜の Bragg 則から
のずれが報告されおいる。
このずれを補正するために Ziegler ら[20]は「ケルン CAB(core and bond)モデル
[21]による補正法を提案しおいる。これはプロヌブず盞互䜜甚する詊料䞭の電子
のうち、閉殻で結合に参加しおいない内殻電子の寄䞎ず、結合電子の寄䞎ずを
分けお考えようずいうアプロヌチである。CAB モデルに基づく阻止断面積補正
に぀いおは文献[20]ず[3]に譲る。
1-3-3 元玠阻止胜の半経隓的衚匏Ziegler-Biersack-Littmark の匏
阻止胜 S ( E ) =
dE
は本質的に詊料固有の量であるが、単䜓元玠の阻止断面積か
dx
ら Bragg 則を甚いお掚定できるこずを述べた。しかし単䜓元玠の阻止断面積 ε i は
46
第1章
高速むオンプロヌブ埌方散乱法による組成分析の定量的な蚘述
入射粒子の皮類や゚ネルギヌに䟝存するので、プロヌブ粒子の皮類や゚ネルギ
ヌ毎に察応する実隓デヌタの衚を参照しなければならず、蚈算遂行に䞍䟿であ
る。したがっお、入射゚ネルギヌの関数ずしお阻止断面積を衚す匏があるず郜
合がよい。このような匏ず実隓デヌタに基づくパラメヌタの倀は数倚く提案さ
れおいる[22,27-36]。
阻止胜の物理的な機構は電子衝突による寄䞎 ε el (E ) ず栞衝突による寄䞎
ε n (E ) の和であるから、阻止断面積ε (E)は次のように衚せる。
ε (E) ≡
1 dE
= ε el ( E ) + ε n ( E )
N dx
匏 1-3-3-1
栞衝突による寄䞎の効果はプロヌブの゚ネルギヌが玄 100keV 以䞋にならない
ず電子衝突の効果ず同じ匷さにならないから高速むオンビヌム分析においおは
それほど重芁ではない䜎速むオンのスパッタリング過皋では重芁になる。
本研究では埗られたスペクトルを解析するにあたり、4He プロヌブの電子阻止
断面積に぀いお Ziegler ら [27]によっお提案された匏ZBL85 匏ず略称)、およ
び 12C、28Si に぀いお Konac らによっお提案[30]された匏KKKNS 匏ず略称
を甚いる。ZBL85 匏によるパラメヌタ定匏化は次のようなものである。
電子阻止断面積εel(E)をフェルミ速床を基準に Bethe-Bloch の匏でよく蚘述で
きる「高速偎」ず、LSS 理論[52]でよく蚘述できる「䜎速偎」の寄䞎にわける。
1
1
1
=
+
匏 1-3-3-2
ε el (E ) ε LOW ε HIGH
ずおき、
ε LOW ≡ c1 ⋅ V c 2 + c3 ⋅ V c 4
匏 1-3-3-3
c5
c

⋅ ln 7 + c8V 
匏 1-3-3-4
c6
V
V

ず定矩し、実隓デヌタに基づいお暙的元玠毎に c1-c8 のパラメヌタの組を決定す
る。ここで、V は実隓宀系における栞子あたりの゚ネルギヌE/m1[keV/amu]であ
る。εの単䜍は、原子密床で割った阻止断面積衚瀺であれば[eV/(1015atoms/cm2)]
であり、阻止胜衚瀺であれば[eV/nm]等である。衚 1-3-3 に Si に察する阻止断面
積衚瀺の ZBL パラメヌタを瀺す。LSS 的な振る舞いを反映しお C4 は玄 0.5 であ
り、Bethe-Bloch 的な振る舞いを反映しお C6 が 1 に近い倀になっおいる。KKKNS
匏に぀いおは文献[30]に譲る。
ε HIGH ≡
第1章
47
高速むオンプロヌブ埌方散乱法による組成分析の定量的な蚘述
è¡š 1-3-3 Si に察する ZBL パラメヌタ阻止断面積衚瀺
ZBL(4He in Si)
C1
C2
C3
C4
C5
C6
C7
C8
2.0720
0.0044516
3.5585
0.53933
1515.2
0.93161
1790.3
0.035198
本研究では、栞阻止断面積 ε n ( E ) に぀いおは次匏[36]を甚いる。すなわち、
ε n = sn
8.462Z 1 Z 2 M 1

(M 1 + M 2 ) Z

2
3
1

+ Z 

2
3
2
匏 1-3-3-5
1
2
ここで
sn は s n = 0.5 ⋅
ln(1 + E R )
E R + 0.10718E R
0.37544
匏 1-3-3-6
で䞎えられる芏栌化栞゚ネルギヌ損倱、
ER =
32.53M 2 E

Z 1 Z 2 (M 1 + M 2 ) Z + Z

2
3
1
2
3
2




1
2
匏 1-3-3-7
は芏栌化゚ネルギヌである。εn の単䜍はεel ず同様に、[eV/(1015atoms/cm2)]であ
る。
1-3-4 ゚ネルギヌストラグリング
䞀般に、厚い詊料の深い䜍眮の元玠分析では、衚面から詊料に進入したプロ
ヌブが浅い䜍眮を透過しお深い䜍眮に到達するたでの間ず、散乱された深い䜍
眮から怜出噚に到達するたでの間に、詊料䞭の電子や原子栞ず盞互䜜甚するこ
ずによっお゚ネルギヌを僅かづ぀倱っおいく。この量をどのように評䟡するか
に぀いお 1-3-1 から 1-3-3 節で述べた。電子衝突や栞による前方散乱過皋は統蚈
的なものであるので、加速噚で生成された圓初狭いガりス型の分垃をもっおい
たプロヌブ゚ネルギヌの広がりは詊料奥深くぞ進む過皋ず、散乱を受けお怜出
噚に到達するたでの間に倧きくなる。このような゚ネルギヌのがやけを「゚ネ
ルギヌストラグリング(energy straggling)」ずいう。゚ネルギヌストラグリングは、
電子衝突ず栞衝突の 2 皮類の機構を反映しお、
48

第1章
高速むオンプロヌブ埌方散乱法による組成分析の定量的な蚘述
プロヌブ毎の電子ずの衝突の統蚈的な揺らぎに起因する電子゚ネルギ
ヌ損倱広がり

プロヌブ毎の原子栞の前方散乱珟象の統蚈的な揺らぎに起因する栞゚
ネルギヌ損倱広がり
の皮類がある。
1-3-5 電子゚ネルギヌ損倱ストラグリング
ストラグリングのうち、原子栞による前方散乱が原因の栞゚ネルギヌ損倱ス
トラグリングは高゚ネルギヌ軜むオンの堎合には無芖するこずができ、䞻芁な
原因は電子ずプロヌブずの衝突による電子゚ネルギヌ損倱ストラグリングであ
る。電子衝突によっお生じる゚ネルギヌ損倱の統蚈性に぀いおの理論には、゚
ネルギヌ損倱の倧きさによっお異なる皮類の䞻だったものがある。をプロ
ヌブ集団の初期゚ネルギヌ、Δを詊料通過䞭に電子に移譲する平均゚ネルギ
ヌの倧きさずするず、ΔE/E を基準に Vavilov, Bohr, Symon, Payne- Tschalär 理論
などに分けられる[37]。
è¡š 1-3-5 プロヌブむオンビヌムの電子損倱の揺らぎに関する代衚的な解析
ΔE/E
理論
特城
文献
1%以䞋
Vavilov-Landau
薄膜
1-20%
Bohr-Chu
平均衝突回数が倚い堎合のガりス分垃近䌌
非ガりス的分垃
[38,39]
[40,41]
W.K.Chu による匷束瞛近䌌による補正
20-50%
Symon
阻止胜の゚ネルギヌ䟝存性による分垃の倉
[42]
ガりス分垃だが Bohr より広がり
圢を考慮
が倧きい。
50-90%
Payne, Tschalär
平均゚ネルギヌが阻止胜のピヌクより䜎く
[42-44]
なったずきの分垃の倉圢を考慮したもの
本研究では、ストラグリングの蚈算には特に断りがない限り Bohr-Chu 型のガ
りス分垃近䌌を甚いる。衚面近傍の分析に関しおは枬定系の総合゚ネルギヌ分
解胜は通垞怜出噚によっお支配されるためにストラグリングの効果は副次的で
あるが、特に Vavilov-Landau 型の非察称性が問題になるような堎合には、
SRIM(TRIM)[17] モンテカルロシミュレヌションを行い ,ガりス分垃近䌌の劥圓
性を確かめる。
第1章
高速むオンプロヌブ埌方散乱法による組成分析の定量的な蚘述
49
Bohr 近䌌による電子損倱゚ネルギヌストラグリング ℩ 2B は1、入射プロヌブの
原子番号を Z1,暙的原子の原子番号 Z2,暙的原子の原子密床を N, 詊料通過距離を
t ずするず、
℩ 2B [keV 2 ] = 4π ⋅ e 4 Z 12 Z 2 ⋅ Nt
= 0.26 Z 12 Z 2 ⋅ Nt[1018 atoms / cm 2 ]
匏 1-3-5-1
で䞎えられる。[[3]の第 2 章、[4]] 䟋えば、1000keV±1keV の He(Z1=2)プロヌ
ブが、アモルファス Si(Z2=14,N=5×1022cm-3)䞭で 10%の゚ネルギヌを倱う堎合を
考える。たず Ziegler-Biersack-Litttmark 匏ず栞阻止胜の評䟡匏から阻止断面積を
求め、密床から阻止胜を求め、積分を実行する。阻止胜の積分が 1000keV の 10%
になるのは t=320nm=3.2×10-5cm である。このずき Vavilov-Landau 型の非察称な
゚ネルギヌ分垃はガりス分垃で十分近䌌でき、Bohr ストラグリングの倀は、
℩ 2B [keV 2 ] = 0.26 ⋅ 4 ⋅ 14 ⋅ 5 × 10 22 ⋅ 3.2 × 10 −5 × 10 −18
= 23.3[keV 2 ]
匏 1-3-5-2
ずなる。加速噚で生成されたビヌムの゚ネルギヌの揺らぎ ℩ 2BEAM =1[keV2]ず、
Bohr ストラグリング ℩ 2B ずは互いに独立な確率倉数の揺らぎであるから、最終的
2
は、
な゚ネルギヌ揺らぎの倧きさ ℩TRANSMIT
2
℩ TRANSMIT
= ℩ 2BEAM + ℩ 2B = 24.3[keV 2 ]
匏 1-3-5-3
ずいうこずになる。すなわち、
「1000keV±1keV の He ビヌムが 320nm のアモル
ファス Si 局を通過した埌、ビヌムの゚ネルギヌ分垃はは 900keV±5keV になっ
おいる」ず芋積もられる。±5keV(RMS)=12keVFWHMに盞圓する。怜出噚
の分解胜が 12keVFWHMのずき、プロヌブが Si 䞭を通過する距離が 320nm
になるずストラグリングず怜出噚分解胜の効果が同じになり、それ以䞊の通過
距離では怜出分解胜を支配するのはストラグリングであるずいえる。プロヌブ
が Si 䞭を通過する距離が 320nm ずいうこずは垂盎入射で重い粒子(K~1)を 170
床の䜍眮で怜出した堎合、片道぀たり深さ換算で 160nm ずいうこずになる。
Bohr 近䌌による電子゚ネルギヌストラグリング蚈算では、暙的原子の電荷の
すべおがプロヌブず盞互䜜甚するずいう仮定が眮かれおいた。この仮定は、プ
ロヌブの速床がボヌア速床ず同皋床かあるいは䜎くなっおくるか、あるいは暙
的の原子番号が倧きくなっおくるず砎れる。Bohr 近䌌に察する様々な修正が提
1
゚ネルギヌストラグリングにはΩの文字が圓おられるこずが倚い[3,4]が、立䜓角のΩずは
党く関係がない。
50
第1章
高速むオンプロヌブ埌方散乱法による組成分析の定量的な蚘述
案[45]ずその䞭の参考文献されおおり、その䞭で代衚的なものは Lindhard
ず Scharff による補正 (1953)ず Chu(1976)による補正[41]である。本研究で甚いら
れた蚈算機プログラム RUMP[12]においおは Chu による Bohr ストラグリングに
察する補正を蚈算するコヌドが含たれおいる。

 E
Chu による補正は、Bohr ストラグリングに察する補正係数を H 
, Z 2  ずし

 M1
お、

 E
2
, Z 2  ⋅ ℩ 2B
℩ CHU
= H 

 M1
匏 1-3-5-4
ずかける。図 1-3-5 に補正係数を図瀺する。
図 1-3-5 Chu による Bohr ストラグリングに察する補正係数
図䞭黒䞞は、Chu[46]によるデヌタで、実線はSzilágyi[47]らによるデヌタ
Au(Z2=79)膜に 2MeV の 4He プロヌブ(E/M1=500keV)を入射したずき、Chu による
ストラグリングの倀は、Bohr の倀のおよそ 40%であるこずがわかる。
第1章
51
高速むオンプロヌブ埌方散乱法による組成分析の定量的な蚘述
1-3-6 耇数元玠からなる詊料䞭でのストラグリングの倧きさの掚定
耇数元玠からなる詊料のストラグリングは単䜓詊料のストラグリングから組
成比で重み付けをしお線圢掚定する[4]。前述のように、電子阻止胜に぀いおは
Bragg 則から最倧 20のずれが報告されおいるが、ストラグリングの線圢掚定
の劥圓性に぀いおの情報は少ない。2 ぀の元玠 i,j からなる系を䟋にずるず、未
知詊料の組成が imjn であるずき「分子」あたりのストラグリングを ℩ 2i j ずし
m n
お、
℩ 2im jn
N im jn t
=m
℩ 2i
Nit
+n
℩ 2j
N jt
匏 1-3-6-1
ず線圢掚定する。
1-3-7 スペクトルに圱響を及がすその他の効果幟䜕孊的な゚ネルギヌ広がり
ず倚重散乱
スペクトルに圱響を及がす゚ネルギヌストラグリング以倖の効果ずしお、幟
䜕孊的な゚ネルギヌ広がり[47,48]、倚重散乱[47][49-51]ずがある。
倚重散乱の効果は MeV 領域の軜むオンプロヌブを甚いお詊料衚面近傍の分析
を行う堎合、散乱断面積が小さいために無芖しおよいが、入射゚ネルギヌが䞋
がっおくるかあるいは深い䜍眮からの散乱の堎合圱響が出おくる。幟䜕孊的な
゚ネルギヌ広がりず倚重散乱の詳现な議論に぀いおは文献[47-51]に譲る。
52
第1章

高速むオンプロヌブ埌方散乱法による組成分析の定量的な蚘述
第 1 章で論じられた高速むオンビヌムの匟性散乱法による
材料組成分析法に぀いおのたずめ
第 1 章で論じられた高速むオンビヌムの匟性散乱法による材料組成分析法に
぀いお芁点をたずめるず以䞋のようになる。
散乱゚ネルギヌ分配係数 K ず質量分解胜に぀いお節
・ むオンプロヌブ匟性散乱分析法では、質量の違いが埌方散乱プロヌブの
゚ネルギヌの違いずしお怜知され元玠が同定される。
・ 入射゚ネルギヌに察する散乱埌の゚ネルギヌの比を散乱゚ネルギヌ分配
係数 KK ファクタず定矩する(匏 1-1-1-1)。
・ 散乱゚ネルギヌ分配係数 KK ファクタはプロヌブむオンず暙的栞ず
m
の質量比 β ≡ 1 ず、散乱角Ξの関数である(匏 1-1-2-15, 1-1-2-16)。
m2
原理的な質量分解胜は軜元玠に察しおは良く、O や Si のような元玠に぀
いお同䜍䜓を分離するこずは比范的容易である(1-1-4 節)。
・ βが小さい重い元玠に関しおは同䜍䜓の分離だけでなく質量数の近接し
た元玠間の分離も容易ではない1-1-4 節。
・
散乱断面積σず怜出粒子数、怜出感床に぀いお節
・ 高速むオンビヌムを甚いた組成分析法は、クヌロン反発力を利甚した怜
出法である。原子栞の電荷量が異なるために怜出確率は元玠毎に異なる。
・ 元玠毎に異なる怜出確率に関する重芁な量がラザフォヌド埮分散乱断面
積である。極薄膜詊料の堎合、散乱断面積の総和のビヌム照射面積に察
する比が散乱確率である。(匏 1-2-1-1)
・ 原子栞の怜出確率は埮分散乱断面積ず怜出噚の立䜓角の積に比䟋する。
(匏 1-2-1-3)
・ ラザフォヌド埮分散乱断面積は暙的原子番号、぀たり電荷の倧きさの 2
乗に比䟋しお倧きくなり、入射゚ネルギヌの 2 乗に反比䟋しお小さくな
る。(匏 1-2-2-1)
・ 埌方散乱の堎合散乱角が 90 床に向かっお小さいほうが散乱断面積が倧き
く、感床が高くなる。(匏 1-2-2-1)
・ 入射゚ネルギヌが䜎くなるか、あるいは衝突係数が倧きくなる散乱角
が小さくなるず電子による遮蔜効果のため Rutherford の倀より散乱断面
第1章
・
高速むオンプロヌブ埌方散乱法による組成分析の定量的な蚘述
53
積は小さくなる。1MeV の 4He を 197Au に照射する堎合の Rutherford 散乱
断面積からのずれは 3%皋床である。(匏 1-2-4-3) 入射゚ネルギヌが高く
なるず栞力効果で散乱断面積にずれが生じる。
照射の結果怜出される粒子数の分垃は Poisson 分垃ずみなせ、平均倀ず分
散ずが等しい。したがっお怜出カりント数 Y に察する統蚈誀差は Y で評
䟡できる。(匏 1-2-5-1、1-2-5-2)
・ スパッタリング過皋ずの競合で怜出感床を芋積もるずき、1MeV の 4He
むオンを 2msr の怜出噚で怜出する際、Si(100)面䞊に蒞着した Au に察す
匏
る誀差 10%での怜出感床は、1.4 × 1013 [cm −2 ] ず倧たかに芋積もられる。
1-2-6-6
阻止胜 S ず゚ネルギヌストラグリングΩ2 に぀いお節
・
厚い詊料を分析するには詊料を仮想的な薄局に分割し、それぞれの薄局
に察する入射ビヌムの応答を考慮しお線圢和を取り、合成されたスペク
トルが実際のスペクトルを良く説明するように各局の元玠含有量を決め
おいく。その際、入射および散乱粒子が詊料を通過する距離原子数
に応じお゚ネルギヌが枛衰し、゚ネルギヌ分垃が広がるこずを考慮しな
ければならない。
・ ゚ネルギヌ枛衰を蚘述する量が阻止胜であり、゚ネルギヌの統蚈的な広
がりを蚘述する量が゚ネルギヌストラグリングである。
・ 詊料䞭を単䜍距離進む堎合の゚ネルギヌ枛衰を詊料の阻止胜 S ず呌び、
実隓的に求められた単䜓詊料の阻止胜を原子密床で割ったものをその元
玠の阻止断面積ε匏 1-3-2-1ずいう。
・ 未知詊料の阻止胜は含有元玠ず含有比を求めおから、含有元玠各々の阻
止断面積から含有量に応じお線圢掚定(Bragg の法則)する。
・
・
・
・
・
電子の結合状態が考慮されおいない Bragg の法則で掚定した阻止胜ず実
隓倀ずの間には 10-20%皋床の誀差が生じるこずは珍しくない。
阻止胜の物理的な由来は電子衝突ず栞による小角前方散乱である匏
1-3-3-1。MeV 領域のプロヌブに察しお䞻芁な効果は電子衝突である。
単䜓詊料の阻止胜の電子衝突成分 Se の半経隓的定匏化が䜕皮類か知られ
おいる。代衚的なものの䞀぀が、ZBL85匏 1-3-3-2、1-3-3-3、1-3-3-4
である。
阻止胜ず同様゚ネルギヌストラグリングに぀いおも䞻芁な効果は電子衝
突゚ネルギヌ損倱ストラグリングである。
電子衝突゚ネルギヌ損倱ストラグリングによる゚ネルギヌ広がりは本質
54
第1章
高速むオンプロヌブ埌方散乱法による組成分析の定量的な蚘述
的に平均倀の呚りに察称でないが、゚ネルギヌ損倱が入射゚ネルギヌの
1を超えるず近䌌的にガりス分垃で評䟡しおも実甚䞊問題がなくなる。
・ 電子損倱゚ネルギヌストラグリングに察する最も単玔な評䟡匏は Bohr の
匏匏 1-3-5-1である。Chu による匷束瞛近䌌補正匏 1-3-5-4、図 1-3-5
を加えたものがよく甚いられる。
・ 未知詊料に察する゚ネルギヌストラグリングは Bragg の公匏に準じお原
子栞 1 個通過あたりのストラグリングを評䟡し、含有量によっお線圢掚
定する匏 1-3-6-1
。
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第1章
高速むオンプロヌブ埌方散乱法による組成分析の定量的な蚘述
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56
第1章
高速むオンプロヌブ埌方散乱法による組成分析の定量的な蚘述
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第 2 ç«  栞共鳎反応を利甚した酞玠の高感床分析系の構築
第章
57
栞共鳎反応を利甚した酞玠の高感床分析系の構築
本章では栞共鳎反応を利甚した酞玠の高感床分析系の構築に぀いお述べる。
MeV 領域の高゚ネルギヌに加速されたヘリりムむオンプロヌブず詊料䞭の原
子栞ずのクヌロン反発力を利甚したラザフォヌド埌方散乱分析(RBS)法は、詊料
䞭の元玠の深さ分垃が高粟床に埗られる元玠分析法ずしお確立されおきた。し
かし、クヌロン反発力を利甚するずいう原理から、原子栞の電荷が少ない䜎原
子番号元玠、即ち炭玠、窒玠および酞玠等に察する感床が比范的小さいずいう
匱点があった1-2-2 節。通垞おこなわれおいるラザフォヌド埌方散乱法の堎合、
同じ小型の固䜓怜出噚を甚いるずいう条件の䞋に感床を増倧させるには、散乱
断面積の匏に埓っお散乱角を小さくするか、あるいはプロヌブむオンの゚ネル
ギヌを䞋げるこずが考えられる1-2-2 節。そうするず埌方散乱プロヌブが詊料
衚面から脱出するたでに詊料内郚を通過する距離が長くなるなどの原因で最倧
枬定可胜深さが浅くなったり、深さ分解胜が悪化したりずいう欠点がある。た
たこのような感床改善法による感床の増倧は元玠に関しお非遞択的であっお、
目的の酞玠以倖の元玠に察しおもそれぞれ増倧するので酞玠信号ずそれ以倖の
信号ずの分離ずいう芳点からは有効ではない。
1-2-3 節で觊れられたように、入射プロヌブむオンの゚ネルギヌが高くなるず、
プロヌブむオンず暙的原子栞ずの最近接距離が短くなっお栞力の効果が及ぶよ
うになり、散乱断面積は Rutherford の倀から倖れる。特に、3.032MeV 近傍で 4He
むオンを 16O 原子栞に衝突させお 170 床付近で怜出するずき、埮分散乱断面積が
著しく増倧するこずが知られおいる[1-8]。これは質量数 4 の He 原子栞が質量数
16 の酞玠原子栞ず耇合栞質量数 20 の Ne 原子栞を圢成し、その埌解離しお
α粒子ず酞玠原子栞ずに戻る原子栞共鳎反応 16O(α,α)16O によるものず説明され
おいる。このずき、反応の前埌で栞゚ネルギヌが攟出されるこずはなくいわ
ゆる Q 倀が 0、1-1 節で論じた散乱゚ネルギヌ分配係数の蚈算には党く圱響が
ない。この
16
O(α,α)16O 反応による散乱断面積の増倧珟象を利甚[10-16]するず、
高゚ネルギヌプロヌブを䜿う利点である最倧枬定深さや質量分解胜に぀いおの
有利さを保ったたた 16O に察する感床だけを遞択的に増倧させるこずができる。
本章では、この 3.032MeV 付近で起こる共鳎栞反応による埮分散乱断面積の増
倧を利甚しお通垞の Rutherford 埌方散乱法よりも高感床な酞玠定量を実珟する
こずを目的ずしお枬定系の構築を行う。
第 2 ç«  栞共鳎反応を利甚した酞玠の高感床分析系の構築
58

16
O(α,α)16O 栞共鳎反応ずそれに䌎う非ラザフォヌド散乱断面積
2-1-1 高゚ネルギヌ領域における非ラザフォヌド散乱条件
䞀般に、ラザフォヌド埌方散乱法においおは、散乱されるプロヌブ原子栞は
暙的栞に察しお電子によるクヌロン堎の遮蔜効果を考えなくおもよい距離、即
ち電子の叀兞的な最内殻軌道半埄の内偎たで近づく。高゚ネルギヌ偎で起きる
非ラザフォヌド匟性散乱は、プロヌブむオンの゚ネルギヌが高くなっお、暙的
栞に察しお正面衝突に近い軌道で接近しおいったずき、栞同士がクヌロン力以
倖に栞力効果を及がしあう距離たで近接するず、散乱断面積がクヌロン堎によ
る䜓散乱を仮定しお導かれたラザフォヌドの匏で蚈算される倀ではなくなる
こずに䌎う珟象である。重芁なこずは、栞の倉換や粒子の攟出を䌎わない共鳎
栞反応においおは、散乱は匟性的であり、散乱゚ネルギヌ分配係数に぀いおは
ラザフォヌド散乱の堎合に比べお党く倉化がないずいうこずである。ヘリりム
むオンプロヌブず酞玠原子栞ずの間の共鳎栞反応 16O(α,α)16O に぀いおは、実隓
デヌタ[4,5 ずそこに匕甚されおいる文献,および 6]、郚分波展開解析[4,5]、およ
び R 行列解析[7,8]、栞゚ネルギヌ準䜍に぀いおのレビュヌ [9]などの報告があり、
詳现に぀いおはこれら文献に譲る。
散乱条件がラザフォヌド散乱であるかどうかの高゚ネルギヌ偎の刀定基準ず
しお、1-2-3 節で、暙的栞半埄ずプロヌブ栞半埄の和ず最近接距離ずの関係を芋
積もった。実隓デヌタの怜蚎に基づく評䟡匏ずしお次の実隓匏がある。[17-19]
LAB
E NR
≅ (0.12 ± 0.01) Z 2 − (0.5 ± 0.1)
E
LAB
NR
≅ (0.25 ± 0.01) Z 2 + (0.4 ± 0.2)
(プロヌブが 1H の堎合)
4
(プロヌブが He の堎合)
匏 2-1-1-1
匏 2-1-1-2
LAB
ここで E NR
は 160°<qlab<180°ã®åŸŒæ–¹æ•£ä¹±ã«å¯Ÿã—おラザフォヌド散乱断面積か
らのずれが 4%になる実隓宀座暙系゚ネルギヌである。
この評䟡匏によれば、質量数 4 の He (Z1=2, M1=4amu)をプロヌブずし、質量数
16 の O(Z2=8, M2=16amu)を暙的にした堎合、
(
)
LAB
E NR
α ,16O [MeV] = (0.25 ± 0.01) × 8 + (0.4 ± 0.2) ≈ 2.4 [MeV]
匏 2-1-1-3
第 2 ç«  栞共鳎反応を利甚した酞玠の高感床分析系の構築
59
ずなる。すなわち、2.4MeV より高゚ネルギヌのプロヌブを甚いる堎合には散乱
断面積の補正が必芁になる可胜性があるこずを瀺しおいる。次節で文献に報告
されおいる酞玠共鳎散乱断面積の倀に぀いお述べる。
2-1-2 2.2MeV-3.2MeV の゚ネルギヌ領域における 4He に察する
16
O の散乱断面積
衚 2-1-2 に
16
O(α,α)16O 反応の散乱断面積の実隓倀の代衚的なもの[5][20]に
たずめられおいるのうち、本研究で枬定可胜な゚ネルギヌ領域のデヌタ
[1][5][6]を瀺す。
è¡š 2-1-1
16
O(α,α)16O 反応の散乱断面積の実隓倀の代衚䟋[5][20]
角床、゚ネルギヌは実隓宀系である。
反応
散乱角実隓宀系
゚ネルギヌ(keV)
文献
165°
2050-9000
Feng 1994
[1 の 7 章で匕甚]
16
170°
1770-5000
Leavitt 1990[5]
16
170°
2000-9000
Cheng 1993[6]
16
16
O(α,α) O
O(α,α)16O
O(α,α)16O
図 2-1-1 䞊図に 16O(α,α)16O 反応が起こる条件で Leavitt らによっお枬定された
散乱断面積[5]を、たた䞋図に Rutherford の倀からのずれを癟分率でそれぞれ瀺
す。Bozoian の評䟡匏による閟倀 2400keV 付近では目芖でも Rutherford の倀から
のずれが目立ち始める(図 2-1-1 侊)
実際には 2400keV では 10%皋床乖離しおい
るこずがわかる図 2-1-1 䞋散乱断面積の倀は 3032keV 付近に鋭いピヌクがあ
り、ラザフォヌドの堎合の 20 倍2000%になっおいる。即ち、詊料最衚面の
酞玠に 3032keV の 4He むオンをプロヌブずしお照射し、170 床で埌方散乱プロヌ
ブを怜出するずき、怜出感床がラザフォヌド散乱の堎合の 20 倍になるずいうこ
ずを意味する。
なお Bozoian の評䟡匏によればこの゚ネルギヌ垯、たずえば 3200keV のプロ
ヌブに察しお、Z2=12 以降の元玠は共鳎を起こさないから、3032keV 付近の共鳎
ピヌクを酞玠の怜出感床改善に応甚しようずするずき、マグネシりムより重い
元玠の分析に圱響を䞎えるこずがないこずにも泚意すべきである。
第 2 ç«  栞共鳎反応を利甚した酞玠の高感床分析系の構築
60
図 2-1-1
16
O(α,α)16O 反応に䌎う散乱断面積の倉化2.2-3.2MeV, qlab=170°ïŒ‰
Rutherford 散乱断面積の蚈算倀を点線で、Leavitt らによる実隓倀[5]を黒䞞で瀺す。䞋
図はラザフォヌドからのずれを癟分率で衚瀺したもの。角床、゚ネルギヌは実隓宀系。
3030keV 付近に鋭いピヌクがあり、散乱断面積が 20 倍2000%になっおいるこずが
わかる。Bozoian の評䟡匏による倀 2400keV 付近では目芖でもずれが目立ち始める(侊
図) 実際には 2400keV では 10%皋床乖離しおいるこずがわかる䞋図
第 2 ç«  栞共鳎反応を利甚した酞玠の高感床分析系の構築
図 2-1-2
16
61
O(α,α)16O 反応に䌎う共鳎ピヌクの文献による違い
2-1-2 Leavitt らによる倀ず Cheng らによる倀の違い
図 2-1-2 に 16O(α,α)16O 反応に䌎う 3032keV 付近の共鳎ピヌクの文献による違
いを瀺す。Leavitt(1990)[5]ず Cheng(1993)[6]は良く䞀臎しおいる。Feng(1994)[1
に匕甚]は散乱角が異なる。酞玠共鳎反応による散乱断面積に぀いおたずめるず
次のようになる。
・ 共鳎ピヌクの最倧は 3032-3034[keV]付近でおこる
・ ピヌクでラザフォヌドの倀の玄 23 倍0.73 [b/sr]になる
・ ピヌク半倀幅は 13[keV](FWHM)である
・ 散乱角 165 床では共鳎ピヌクが高゚ネルギヌ偎にシフトし、ピヌクが鈍る
第 2 ç«  栞共鳎反応を利甚した酞玠の高感床分析系の構築
62

暙準酞化物を利甚した蚈枬系の范正
本節では皮々の酞化物詊料を利甚した蚈枬系の范正を行う。本研究で甚いら
れた蚈枬系固有のパラメヌタの代衚的なものは、MCA チャネル゚ネルギヌ倉
換係数、怜出噚角床、怜出噚立䜓角などがある。
2-2-1 ゚ネルギヌ范正
本研究に甚いた加速噚では加速電圧を安定化
させるために GVM(Generating VoltMeter)を甚い
たフィヌドバック制埡系を構成しおいる。GVM
は固定電極板ず、それに察向した回転シヌルド電
極板から構成されおいる(図 2-2-1-1)。これらを枬
定したい電界䞭に眮き、扇圢のシヌルド電極を回
転させ出し入れするこずによっお生じる固定電
極䞭の誘起電荷の倉化から加速噚端子電圧を求
めおいる。加速噚から出力される高゚ネルギヌむ
オンビヌムの゚ネルギヌの揺らぎの長呚期成分
図 2-2-1-1
GVM の原理
であるドリフトはこの GVM の枩床係数に䟝存するので、装眮党䜓は埪環氎恒枩
装眮で 19-22 床の枩床に保たれおいる。
むオンビヌムはデュオプラズマトロンむオン源からおよそ 18[kV]可倉の
匕き出し電圧で匕き出され、その埌タンデム加速噚で 2 段加速される。したが
っお、加速噚タヌミナル電圧を V[kV]ずするず、ビヌム゚ネルギヌE[keV]は、
E=2V+ 18 (He+むオンの堎合)、たたは
匏 2-2-1-1
E=3V+18 (He2+むオンの堎合)
匏 2-2-1-2
ずなる。
GVM の指瀺倀に基づく名目端子電圧 Vnominal ず実際の電圧 V ずの関係が線圢
であるずしお、比䟋係数を a、オフセットを b ずするず
V = a ⋅ Vno min al + b
匏 2-2-1-3
ず曞ける。GVM を甚いた枬定ではオフセット倀 b は通垞 1[kV]を超えるこずは
ないから 0.1の粟床では無芖しおよく、゚ネルギヌ范正は点で行えばよい。
第 2 ç«  栞共鳎反応を利甚した酞玠の高感床分析系の構築
63
本研究ではこの゚ネルギヌ范正の基準に 3032[keV] の酞玠共鳎を甚いる。
3032[keV]の 4He むオンに察しお密床 2.2[g/cm3]のアモルファス SiO2 の阻止胜は、
20.3[eV/Å]ず芋積もられる1-3-3 節。3032[keV]付近のピヌクの共鳎幅(RMS)
を 6[keV]ずするず玄 30[nm]に盞圓する。30[nm]より薄い皋床の衚面酞化膜を持
぀詊料に察しお酞玠に由来する埌方散乱プロヌブ粒子カりントが最倧ずなる゚
ネルギヌを 3032[keV]ず決定すればよい。ずころが、゚ネルギヌ分解胜 12-20[keV]
皋床の系で厚い酞化物詊料を枬定した堎合、酞玠共鳎に由来する埌方散乱プロ
ヌブ粒子カりントが最倧ずなる゚ネルギヌは高゚ネルギヌ偎に少しずれお
3035[keV]ずなる。その理由は、怜出系の゚ネルギヌ分解胜が有限なために、最
衚面の酞玠から埗られる埌方散乱収量が MCA の䜕チャンネルかにわたっお分
散しピヌクが鈍っおしたうこずによる。このこずは文献による共鳎ピヌク゚ネ
ルギヌの報告のばら぀きの原因の䞀぀ず考えられる。
図 2-2-1-2 に SiO2(101[nm])/Si 詊料に Vnominal=3074[keV]の 4He+むオンを入射角
5 床で 5[µC]照射スポット埄 1mm照射し、埌方散乱粒子を 170 床の䜍眮で怜
出するこずによっお埗られたスペクトルを瀺す。
図 2-2-1-2 SiO2(101nm)/Si 詊料に Vnominal=3074keV の 4He+むオンを 5µC 照
射照射スポット埄 1mmし、埌方散乱粒子を 170 床の䜍眮で怜出するこ
ずによっお埗られたスペクトル
64
第 2 ç«  栞共鳎反応を利甚した酞玠の高感床分析系の構築
SiO2(101[nm])/Si 詊料は Si 基板を HF で衚面を゚ッチングし、その埌酞玠雰囲
気䞭で熱酞化するこずによっお準備され、SiO2 局の厚さぱリプ゜メヌタによ
っお光孊枬定されたものである。たた、怜出噚の角床は詊料台の SiO2 詊料にレ
ヌザ光をあお、反射スポットの䜍眮をもちいお決定した。埌方散乱゚ネルギヌ
スペクトルの 891[ch]付近に衚面 Si の信号の立ち䞊がりがあり、530-550[ch]近傍
に酞玠共鳎ピヌクがある。867[ch]付近には Si/SiO2 境界を瀺す信号の゚ッゞがあ
る。
同様の枬定を 3006[keV]-3086[keV]の領域にわたっおおこなった結果の酞玠信
号郚分(510-560[ch])を抜き出したものを図 2-2-1-3 に瀺す。図䞭 1520-1524-3066
などずあるのは、片偎端子電圧パネル蚭定倀[keV]-GVM の読み[keV]-名目゚ネル
ギヌ[keV]である。
図 2-2-1-3 SiO2(101nm)/Si 詊料に Vnominal を倉えお 4He+むオンを 5µC 照射
照射スポット埄 1mmし、埌方散乱粒子を 170 床の䜍眮で怜出するこず
によっお埗られたスペクトルの酞玠共鳎信号郚分。Vnominal3066keV でピヌ
クが最倧ずなる。
Vnominal を 3006[keV]から少しづ぀䞊げおいくず、ピヌク高さは、3066[keV]で最
倧ずなり、 3080[keV] では再び枛少する。したがっお、 Vnominal =3066[keV] を
3035[keV] ず決めればよいこずがわかる。片偎端子電圧では、 GVM 衚瀺の
第 2 ç«  栞共鳎反応を利甚した酞玠の高感床分析系の構築
65
1524[keV]が (3035-18)/2=1508.5[keV]ずなるので、匏 2-2-1-3 の係数 a は、
a≡
V
Vno min al
=
1508.5 ± 2
= 0.9898 ± 0.002
1524 ± 1
匏 2-2-1-4
ずなる。ここで、Leavitt らによるピヌク゚ネルギヌの枬定誀差を文献[5]から
4[keV]ずし、片偎加速電圧に぀いおはその半分の 2keV ずした。本節で GVM を
甚いお枬定した゚ネルギヌの盞察誀差を 1[keV]ず芋積もった。
2-2-2 MCA チャネル゚ネルギヌ范正
本節では、枬定゚ネルギヌず MCA(Multi-Channel Analyzer)チャンネルずの察
応に぀いお述べる。本研究で甚いられた波高分析噚(PHA:Pulse-Height Analyzer)
ず MCA はアナログ-デゞタル倉換噚ず蚈枬甚蚈算機で構成されおいる。怜出噚
以降の信号の流れは次のようになる。
散乱粒子は半導䜓怜出噚に入射し、゚ネルギヌに応じた正孔電子察を発生
させる。怜出噚バむアス電界によっお収集され、電流パルスずなった信号は前
眮増幅噚(EG&G ORTEC 142A)に入力され、粒子の゚ネルギヌに比䟋した波高を
持぀電圧パルスに倉換される。電圧パルスはスペクトル分析甚増幅噚 (EG&G
ORTEC 572)で、時間幅 500[nsec]Shaping Time:0.5[ÎŒsec]に敎圢されたガりス
分垃型の電圧パルスずなる。この電圧パルスは、Wilkinson 型アナログデゞタ
ル倉換噚(Labo 4803A, クロック呚波数 200[MHz]、13bit 量子化)で波高に応じた
数倀デヌタずなり、蚈枬甚蚈算機に送信される。
スペクトル分析甚増幅噚の増幅利埗は 20-50-100-200-500-1K の 6 皮類の粗レン
ゞず、0.5-1.5 範囲の埮調敎ポテンショメヌタによっお調敎1する。ここでアナロ
グデゞタル倉換噚のチャンネルず゚ネルギヌの察応付けを決めるために暙準
詊料の RBS 枬定を行い、チャンネル゚ネルギヌ倉換匏を求めた。
衚 2-2-2-1、
図 2-2-2-1その結果、増幅噚のゲむンが 100(粗レンゞ)*0.90(埮調敎)のずき、
E = (3.785 ± 0.001) × Ch100*0.90 + (222.7 ± 0.5) [keV]
匏 2-2-2-1
ず決められた。RBS スペクトルの立ち䞊がり幅からこの范正枬定における蚈枬
系の゚ネルギヌ分解胜を決めるこずが出来る。RBS スペクトルの立ち䞊がり幅
が狭い Si に぀いお、
3.471[Ch]x3.785[Ch/keV]=13.14[keV](FWHM)=5.580[keV](RMS) 匏 2-2-2-2
1
SSD1 が 0.900、SSD2 が 0.925 で固定されおいる。
第 2 ç«  栞共鳎反応を利甚した酞玠の高感床分析系の構築
66
ずなり、ほが怜出噚の分解胜 12keV(FWHM)で決たっおいるこずがわかる。RBS
スペクトルの立ち䞊がりの幅にばら぀きがあるのはわずかに重さの違う同䜍䜓
に察するスペクトルの立ち䞊がりが重なっおいるこずが䞻因である。
è¡š 2-2-2-1 様々な詊料に 3035keV の 4He+むオンを 10µC 照射スポット埄
1mmし、埌方散乱粒子を 170 床の䜍眮で怜出するこずによっお埗られた
スペクトルの各元玠に察応する信号の立ち䞊がり䜍眮[ch]を求めたもの。
信号の立ち䞊がり䜍眮は、スペクトルを数倀埮分したものにガりス型関数でピヌク
の圓おはめをしお求めた。O、Si、Ti、Au、Bi では同䜍䜓が分離されおおり M2 は同䜍
䜓毎の質量である。
M2
k(170)E0
[keV]
衚面元玠
信号の䜍眮[ch]
立ち䞊がり幅
(FWHM)[ch]
O
15.99
1100
231.6TiO2
230.6 (SiO2)
4.304 TiO2
4.646
(SiO2)
Si
27.98
1714
395.8
3.471
Ti
47.95
2177
517.4
3.631
Sn
118.7
2655
642.6
5.502
Ta
180.9
2780
675.6
4.747
197.0
2800
680.8
4.233
207.2
2811
683.6
4.351
209.0
2813
684.4
4.144
16
28
48
197
Au
Pb
209
Bi
図 2-2-2-1 è¡š 2-2-2-1 の「チャンネル」を「kE」に察しおプロットし、最
小 2 乗法で盎線の傟きず切片ずを求めた。
第 2 ç«  栞共鳎反応を利甚した酞玠の高感床分析系の構築
67
他の粗レンゞに぀いおは、SSD からの信号の代わりに暙準パルス発生噚をスペ
クトル分析増幅噚の入力ずし、信号ピヌクが珟れる䜍眮の察応から簡易枬定し
た。その結果、チャンネル間の察応を
Ch(200 × 0.90) = 2.120 × Ch(100 × 0.90) + 56.19
匏 2-2-2-3
Ch( 100 × 0.90) = 1.945 × Ch(50 × 0.90) + 51.85
匏 2-2-2-4
ず、それぞれ求めた。これらの結果を゚ネルギヌに぀いお衚すず、
E = (3.785 ± 0.001) × Ch100*0.90 + (222.7 ± 0.6) [keV]
匏 2-2-2-2
E = 1.785 × Ch200*0.90 + 122.4 [keV]
匏 2-2-2-5
E = 7.364 × Ch50*0.90 + 419.0 [keV]
匏 2-2-2-6
ずなる。
2-2-3 怜出噚立䜓角の范正
(a) 幟䜕孊的な立䜓角の芋積もり
ある䞀定の条件で照射されたビヌムによっお怜出される埌方散乱粒子数は、
怜出噚の立䜓角に比䟋する匏 1-2-1-3。照射スポットに正察しおいる円圢怜出
噚の立䜓角は、怜出噚の有感面積半埄を rd、怜出噚䞭心ず照射スポット䞭心の距
離を Lout ずしお、 Lout >> rd のずき、 ℩ G ≈
π rd2
L2out
で近䌌的に評䟡できる。本研究で
甚いられた怜出噚に぀いおは、衚 2-2-3-(a)-1 のようになる。
è¡š 2-2-3-(a)-1 怜出噚のみかけの立䜓角の芋積もり
rd
Lout
℩G
怜出噚 1
3 mm
117 mm
2.1 msr
怜出噚 2
5 mm
158 mm
3.2 msr
怜出噚の有感面積半埄 rd は幟䜕孊的な倖芋ず䞀臎するずは限らず、正確に求
めるこずが難しい。したがっお立䜓角は幟䜕孊的に評䟡されるよりはむしろ、
暙準詊料のスペクトルから匏 1-2-1-3ず類䌌の関係匏によっお実隓的に決め
られるこずが倚い。以䞋本節でぱネルギヌ范正に甚いたスペクトルの量的な
関係が統䞀的に説明できるように立䜓角Ωを決定する。
第 2 ç«  栞共鳎反応を利甚した酞玠の高感床分析系の構築
68
(b)枬定で埗られるスペクトルの高さず立䜓角
怜出噚立䜓角はスペクトルの高さMCAチャンネルあたりのカりント数
から求められるので、ここでスペクトルの高さず立䜓角の関係に぀いお述べる。
MCA チャンネル゚ネルギヌ范正に甚いた詊料のうち、単䞀元玠詊料である
Sn に぀いお、チャンネルあたりの怜出粒子数、぀たりスペクトルの高さを求め
る図 2-2-3-(b)-1。入射粒子の゚ネルギヌは E0=3035keV である。これが最衚面
の Sn 原子栞によっお散乱され怜出される堎合、散乱゚ネルギヌ分配係数K
ファクタは k(170deg,Sn)=0.87471-1-2-15 匏であるから埌方散乱プロヌブの
゚ネルギヌは 2655keV1-1-1-1 匏ずなり、643ch2-2-2-2 匏、および図 2-2-2-1
に怜出される。ここで単玔化のため、怜出噚の゚ネルギヌ分解胜ず、ビヌムの
角床広がりなどを無芖する。
図 2-2-3-(b)-1 衚面スペク
トル高さの蚈算Sn の堎合
詊料法線ず入射ビヌムのなす
角をαずするず、衚面から厚
さ
τ0/cos(α)[nm]の領域の
Nτ0/ cos(α) [atoms/cm2]個の
Sn 原 子 æ ž か ら の 散 ä¹± が
643[ch]に珟れる。
怜出噚の分
解胜の制限を無芖した堎合
MCA1ch あ た り の ã‚š ネ ル ギ ヌ 幅 W=3.785[keV/ch]  2-2-2-2 匏  な の で
2655-3.785=2651.215keV 以䞋の埌方散乱プロヌブは䞀぀䞋のチャンネルである
641.6ch642chに怜出される。いた、(2655-W)keV に怜出される粒子が詊料の
衚面から深さτ0 の䜍眮にあったずしよう。Sn の密床を N[atoms/cm3]ずするずき、
単䜍面積あたり、
N ⋅τ 0
個の Sn 原子栞が 643 チャンネルぞの埌方散乱に関䞎す
cos α
第 2 ç«  栞共鳎反応を利甚した酞玠の高感床分析系の構築
69
る。ここでαは入射ビヌムが詊料法線ずなす角である。 N ⋅ τ 0 個でなく
ずいうこずに泚意が必芁である。あるプロヌブむオンは、Sn 詊料䞭を
N ⋅τ 0
個
cos α
τ0
cos α
の距
 dE 
離だけ進み、Sn の阻止胜 S ( E ) = 
 = S el ( E ) + S n ( E ) [keV/nm](1-3-3-1 匏) にし
 dx 
たがっお、 ∫
τ0
cos(α )
0
S ( E (x ))dx だけ゚ネルギヌを倱う。この䜍眮でのプロヌブ゚ネル
ギヌを Ebefore ず定矩しよう。すなわち、
τ0
Ebefore ≡ E 0 − ∫ cos(α ) S ( E ( x ))dx
0
匏 2-2-3-(b)-1
深さτ0 の䜍眮にある Sn 原子栞に散乱を受けた埌の゚ネルギヌを Eafter ずする
ず、
E after ≡ k ⋅ Ebefore
匏 2-2-3-(b)-2
ずなる。出射角をβずするず、深さτ0 で怜出噚方向に埌方散乱されたプロヌブ
は衚面に到達するたでに
τ0
cos β
の道のりを通過しなければならない。出射角βは、
詊料法線ず、詊料照射スポット䞭心ず怜出噚ずを結ぶ出射線に挟たれた角であ
る。本研究では入射ビヌム、出射線、詊料法線が同䞀平面䞊にある、いわゆる
IBM 方匏の配眮[1]なので、
β(180 床-散乱角)-入射角α [deg.]
匏 2-2-3-(b)-3
である。プロヌブが衚面から脱出する際の゚ネルギヌを Eout ずするず、
τ0
E out = E after − ∫ cos( β ) S ( E (x ′))dx ′
0
匏 2-2-3-(b)-4
ず曞ける。
埌方散乱粒子の脱出゚ネルギヌEout が Eout=2655-W[keV]になるように深さτ0
を決定するこずができる。匏 2-2-3-(b)-1,2,および 4から、
τ0
τ0


kE0 − W = k  E 0 − ∫ cos α S (E ( x ))dx  − ∫ cos β S (E ( x ′))dx ′
0
0


衚面から
τ0
cos α
匏 2-2-3-(b)-5
たでの薄い領域における阻止胜の入射経路に沿った平均倀を SIn
第 2 ç«  栞共鳎反応を利甚した酞玠の高感床分析系の構築
70
ずし、深さ
τ0
cos α
から衚面ぞ脱出するたでの出射経路に沿った平均倀を SOut ず曞
くず、匏 2-2-3-(b)-5の゚ネルギヌ枛衰を衚す積分を平均阻止胜ず経路長の積
で衚すこずが出来お、
τ
τ


kE0 − W = k  E 0 − 0 S In  − 0 S Out
cos α

 cos β
匏 2-2-3-(b)-6
匏 2-2-3-(b)-6を τ 0 に぀いお解くず、
τ0 =
W
匏 2-2-3-(b)-7
S
 k ⋅ S In


+ Out 
 cos(α ) cos( β ) 
ずなる。したがっお、最衚面に盞圓する MCA の詊料際衚面に盞圓するチャン
ネルに怜出されるカりント数の期埅倀<H0>は、匏 1-2-1-3においお t = τ 0 ずし
お、
H0 =
1
E 0 − E before
∫
Ebefore
ずなる。 Ebefore ≡ E0 −
H0 =
E0
σdE ⋅℩ ⋅ Q ⋅ N
W
S
 k ⋅ S In


+ Out 
 cos(α ) cos( β ) 
匏 2-2-3-(b)-8
τ0
S In 匏 2-2-3-(b)-1であったから、
cos(α )
cos(α ) E0
W
σdE ⋅℩ ⋅ Q ⋅ N
τ0
∫
τ 0 S In E0 − cos(α ) S In
 k ⋅ S In

S

+ Out 
 cos(α ) cos( β ) 
匏 2-2-3-(b)-9
ずなり、Ωに぀いお解くず、
℩=
1
σ In ⋅ Q ⋅ N ⋅ W
S
 k ⋅ S In


+ Out  H 0
 cos(α ) cos( β ) 
匏 2-2-3-(b)-10
が埗られる。ここで匏 2-2-3-(b)-9の埮分散乱断面積の積分を、入射経路にわ
たる平均倀 σ In で眮き換えた。さらに、 ε In ≡
℩=
1
σ In ⋅ Q ⋅ W
ε
 k ⋅ ε In


+ Out  H 0
 cos(α ) cos( β ) 
S In
N
、 ε Out ≡
S Out
を定矩するず、
N
匏 2-2-3-(b)-11
ず密床 N に䟝存しない圢に曞ける。
実際にスペクトルを蚈算する際には、経路䞭の平均倀 ε In などは、阻止断面積
を E0 の呚りに Taylor 倚項匏に展開しお行うが、以䞋では説明の簡単さのために、
第 2 ç«  栞共鳎反応を利甚した酞玠の高感床分析系の構築
71
展開の第項だけでおおたかに評䟡する。すなわち ε In → ε (E 0 ) 、ε Out → ε (kE0 ) 、
σ In → σ (E 0 ) の近䌌でおよびΩを評䟡するず次のようになる。すなわち、
W
τ0 =
匏 2-2-3-(b)-12
 k ⋅ ε (E 0 ) ε (kE0 ) 

+
N 
cos(
)
cos(
)
α
β


℩0 =
1
σ (E 0 ) ⋅ Q ⋅ W
 k ⋅ ε (E 0 ) ε (kE0 ) 

 H 0
+
 cos(α ) cos( β ) 
匏 2-2-3-(b)-13
ずなる。
図 2-2-3-(b)-2 ZBL85 によ
る Sn の阻止断面積
この匏に、N(Sn)=3.694x1022[atoms/cm3], ε(E0,Sn)=83.85[eV/(1015atoms/ cm2)],
ε(kE0,Sn)= 89.05 [eV/1015atoms/(1015atoms/ cm2)]図 2-2-3-(b)-2, cos(5deg)=0.9962,
σ(Sn,170deg)= 1.425 x10-24[cm2/sr], Q(4He+,10µC)= 6.242x1013, W=3785[eV/ch]
を代入するず、
τ0 =
3785[eV / ch]
3.694 × 10 [atoms / cm 3 ] × 163.0[eV/(1015 atoms/cm 2 )]
22
匏 2-2-3-(b)-14
−7
= 6.286 × 10 [cm / ch]
℩ 0 [ sr ] =
1
× 163.0[eV/(1015 atoms/cm 2 )] H 0
13
1.425 × 10 [cm /sr] ⋅ 6.242 × 10 ⋅ 3785[eV / ch]
- 24
2
= 4.842 × 10 −7 [ sr /(counts / ch)] H 0 [counts / ch]
匏 2-2-3-(b)-15
ずなる。仮に、Ωに幟䜕孊的な芋積もりΩ=2.1x10-3[sr] 衚 2-2-3-1を甚いる
第 2 ç«  栞共鳎反応を利甚した酞玠の高感床分析系の構築
72
ず、およそ<H0>は 4.3×102 カりントずなる。
たた、MCA チャンネル゚ネルギヌ范正枬定の結果衚 2-2-2-1より、Sn è©Š
料の信号立ち䞊がり幅は 5.502[ch](FWHM)であったから、衚面における深さ分解
胜は衚面近䌌で芋積もった τ 0 = 6.286[nm / ch] に 5.502[ch]を掛けた 35[nm]皋床ず
芋積もられる。
(c)枬定倀による立䜓角の決定
1-3-1 節の図 1-3-1 に瀺したように、詊料を仮想的な薄局に分け、2-2-3-(b)節で
述べたような手続きに埓っお逐次的にチャンネルあたりのカりント数を蚈算し
おいくず、スペクトル党䜓を蚈算するこずができる。そのための蚈算機プログ
ラムがいく぀か発衚されおいる。本研究では RUMP[21]を蚈算に甚いる。Sn に
察しお蚈算で求めたスペクトルず、
衚 2-2-2-1のために枬定した結果ずを䜵せ
お衚瀺するず図 2-2-3-(c)-1 のようになる。
図 2-2-3-(c)-1 では、1 チャンネルあたりのカりント数は 3500 カりント皋床で
あり、衚面近䌌による芋積もり 4300 カりントより割皋床少ない。したがっお、
真の立䜓角も幟䜕孊的な芋積もりより 2 割皋床少なく 2.1[msr] ×0.8=1.7[msr]皋床
になる。ここでは議論しないが、Sn 詊料衚面では Pb ず O によるコンタミネヌ
ションが確認され、Sn 単䜓から期埅されるカりント数より少なくなっおいる。
したがっお、汚染の圱響のない詊料内郚の 500ch-570ch の枬定倀に぀いお、最小
2 乗法で蚈算倀が合うように立䜓角を決めるず、
Ω=1.737[msr]
匏 2-2-3-(c)-1
が埗られる。Ω=1.737[msr]の倀で他のスペクトルもよく説明するこずが出来る。
図 2-2-3-(c)-2 に SiO2(101nm)/Si 詊料に぀いお、枬定倀ず蚈算倀ずを重ねお瀺
す。500ch 以䞋の領域で、枬定倀の方が若干倧きくなっおいるのは蚈算で考慮さ
れおいない倚重散乱の効果(1-3-7 節)ず、結晶シリコン詊料の阻止胜をアモルフ
ァスシリコンの阻止胜で芋積もったこずによる誀差である。
第 2 ç«  栞共鳎反応を利甚した酞玠の高感床分析系の構築
73
図 2-2-3-(c)-1 Sn に぀いおの埌方散乱スペクトルの枬定倀ず、Ω=1.737
で蚈算した倀ずを瀺す。620ch-640ch 付近でのずれは、詊料のコンタミネ
ヌション(Pb)によるものである。
図 2-2-3-(c)-2 SiO2(101nm)/Si に぀いお埌方散乱スペクトルの枬定倀
図
2-2-1-2 ず同じデヌタず、Ω=1.737[msr]で蚈算した倀ずを瀺す。
第 2 ç«  栞共鳎反応を利甚した酞玠の高感床分析系の構築
74
2-2-4 深さ゚ネルギヌ倉換
再び前節の Sn を䟋に深さず゚ネルギヌの倉換に぀いお述べる。深さはスペク
トルを逐次蚈算する際に、衚面に぀いおτ0 を求めたように決められるが、ここ
ではもう䞀床簡単に芋おおく。
むオンビヌムで枬定される「深さ」は詊料の阻止断面積による゚ネルギヌ枛衰
である。実際の空間的広がりに倉換するには䜕らかの方法で枬定した密床に関
する情報が必芁ずなる。阻止胜は阻止断面積に原子密床を掛けお埗られる。
プロヌブむオンの詊料通過距離を x、プロヌブむオンの゚ネルギヌを E(x),è©Šæ–™
の阻止胜を S(E)=dE/dx ず眮くず、
dx
(E )dE
dE
dx =
匏 2-2-4-1
であるから
x=∫
E0
E
−1
E0
E0
dx
(E )dE = ∫E  dE  dE = ∫E 1 dE
dE
S (E )
 dx 
匏 2-2-4-2
の関係がある。即ち、阻止胜の逆数を゚ネルギヌ区間に枡っお積分すれば透過
距 離 x ず な る 。 図 2-2-3-(b)-2 に 瀺 し た Sn の 阻 æ­¢ 断 面 積 に 密 床
N(Sn)=3.694×1022[atoms/cm3]を掛けお阻止胜ずし、その逆数を積分するこずによ
っおプロヌブむオンの゚ネルギヌず透過距離の関係図 2-2-4-1が埗られる。
E0=3035keV で入射したプロヌブむオンは、Sn 䞭を平均 8ÎŒm 以䞊進んで止た
る。Sn 詊料の深さ 1µm にある原子栞からの 170 床方向ぞの埌方散乱は、スペク
トルの 475ch に珟れる。これは次のように蚈算される。
3035keV で入射角 5 床で入射したプロヌブが、詊料の 1µm の䜍眮に到達する
たでに透過しなければならない距離は、
1000[nm]cos(5deg.)=1004[nm]
である。衚面から 1004[nm]だけ Sn 䞭を透過したプロヌブむオンはその゚ネルギ
ヌを 3035keV から 2717keV たで枛らす。この䜍眮で 170 床方向に埌方散乱され
たプロヌブの゚ネルギヌは k 倍になり、2376keV になる。2376keV の埌方散乱プ
ロヌブが衚面に到達するたでに
1000[nm]cos(5deg.)=1004[nm]
第 2 ç«  栞共鳎反応を利甚した酞玠の高感床分析系の構築
75
透過しなければならない。この距離はいた偶然に入射角αず出射角βが等しい
ので同じである。詊料から脱出するたでに 2376keV の埌方散乱むオンは 2019keV
ずなり、475ch に怜出される。阻止胜が゚ネルギヌに䟝存するために、入射経路
ず脱出経路で倱う゚ネルギヌは同じではない。したがっお、チャンネル深さ
の関係は単玔な線圢ではない。たた、入射゚ネルギヌの揺らぎは±1keV(RMS)
皋床であったが、プロヌブむオンが入射経路に沿っお詊料䞭を進むに぀れ、深
さ 1µm の䜍眮でぱネルギヌストラグリングによっお゚ネルギヌの揺らぎは倧
きくなっおいる。
図 2-2-4-1 Sn に E0=3035keV の He むオンプロヌブを入射したずきの゚
ネルギヌを Sn 䞭での透過距離に察しお瀺す。3035keV で入射したプロヌ
ブむオンは Sn 䞭を平均 8µm 以䞊進む。
1000[nm]厚の Sn(Z2=50,N=3.694×1022[atoms/cm3])局透過による Bohr ストラグリ
ングは、匏 1-3-5-1 より、
(℩ )
IN 2
B
= 0.26 ⋅ 4 ⋅ 50 ⋅ 3.7 × 10 22 ⋅ 1 × 10 − 4 × 10 −18
= 190[keV 2 ]
であり、RMS 倀で衚すず±14keV である。3035keV における Chu 補正を 47%ず
(
IN
するず ℩ Chu
)
2
= 89[keV 2 ] 、RMS 倀で衚すず±9.4keV(RMS)ずいうこずになる。
第 2 ç«  栞共鳎反応を利甚した酞玠の高感床分析系の構築
76
図 2-2-4-2 Sn に察
する Bohr ストラグリン
グの Chu 補正係数 図
1-3-5 のデヌタから Sn
に぀いお抜粋したも
の。デヌタにない゚ネ
ルギヌの倀は 3 次スプ
ラむン関数による補
間
入射゚ネルギヌの統蚈的な広がりを±1.0keV(RMS)ずするず、深さ 1µm の䜍眮
の Sn 原子栞に散乱される盎前のプロヌブむオン集団の゚ネルギヌの統蚈的広が
りは、Bohr-Chu ストラグリングず、入射むオン集団の゚ネルギヌ広がりずをあ
わせお、
(℩
)
2
Before
= 12 + 9.4 2 = 89[keV 2 ]
匏 2-2-4-3
ずなる。散乱゚ネルギヌ分配係数 k<1 であるから散乱埌にこの揺らぎは k 倍に
圧瞮され、
(℩ )
2
After
= (0.8747 × 9.4) 2 [keV 2 ]
匏 2-2-4-4
ずなり、RMS 倀で衚瀺するず±8.3keV ずなる。脱出過皋に぀いお 2376keV に察
する Chu 補正係数が 0.43 であるずするず散乱埌脱出するたでに
(℩ Out )2 = 190 × 0.43 = 82[keV 2 ](±9.0[keV ])
の広がりが加わるので、結局電子゚ネルギヌ損倱ストラグリングの効果は、
(℩ STR )2 = (℩ After )2 + (℩ Out )2 = (8.32 + 9.0 2 )[keV 2 ]
匏 2-2-4-5
から±12[keV](RMS)が、怜出噚分解胜ず怜出噚立䜓角効果、同䜍䜓の非分離効
果などの怜出系分解胜の制限に加わる。これらを含んだ怜出系の総合分解胜を
Sn 信号の立ち䞊がり幅から 21keV(FWHM)、すなわち±9keV(RMS)ずするず、
(℩Total )2 = 9 2 + 122 = 152 [keV 2 ]
匏 2-2-4-6
から±15keV(RMS)、すなわち 35keV(FWHM)ずなる。以䞊の芋積もりにおいお、
第 2 ç«  栞共鳎反応を利甚した酞玠の高感床分析系の構築
77
ガりス分垃に察する FWHM 倀は RMS 倀の 2 2 ln 2 = 2.355 倍ずなるこずを甚い
た。たた、深さ 1µm における゚ネルギヌ分解胜は、電子゚ネルギヌ損倱ストラ
グリング以倖の分解胜の制限を衚面の堎合ず同じ±9[keV](RMS)ずし、小角散乱
による栞゚ネルギヌ損倱ストラグリングは小さいため無芖した。
2019keV から 35keV 離れた゚ネルギヌである 2054keV および 1984keV の埌方
散乱粒子を生じさせる Sn 原子栞の深さは次のように求められる。
匏 2-2-3-(b)-6 を導いたのず同様の議論によっお、深さτに存圚する原子栞に
よっお埌方散乱され怜出される堎合の平均怜出゚ネルギヌEOut は、
τ
τ


E Out = k  E 0 −
S In  −
S Out
cos α

 cos β
匏 2-2-4-7
ず曞ける。したがっお、
S
∂EOut

 kS
∆τ = − In + Out ∆τ
∂τ
 cos α cos β 
匏 2-2-4-8
ず衚せる。したがっお、
S

 0.8747 S In
35[keV ] = −
+ Out ∆τ
0.9962 
 0.9962
入射・出射経路に沿った平均阻止胜は各々、S In =
および、 S Out =
匏 2-2-4-9
3035 − 2717
= 0.3167[keV / nm] 、
1004
2376 − 2019
= 0.3556[keV / nm] ずなるから、
1004
∆τ = 55[nm]
匏 2-2-4-10
深さ 1000[nm]で埌方散乱されお怜出された粒子の 35keV の゚ネルギヌの䞍確定
さを深さの䞍確定さに換算するず±55[nm]ず芋積もられる。衚面における深さ
分解胜±35[nm]に比べるず 1.6 倍がやけおいるずいうこずになる。

酞玠枬定の感床および深さ分解胜
本節では 16O(α,α)16O 反応を利甚した酞玠量枬定の深さ分解胜、感床および粟
床に぀いお、SiO2(101nm)/Si 詊料に぀いおの枬定倀を基に簡単にたずめおおく。
第 2 ç«  栞共鳎反応を利甚した酞玠の高感床分析系の構築
78
2-3-1 衚面における深さ分解胜
3032keV 近傍のプロヌブむオンに察しお、入射角 5 床、出射角 5 床、散乱角
170 床の条件で SiO2(101nm)/Si 詊料衚面近傍の酞玠量を定量しようずするずき、
衚面における総合゚ネルギヌ分解胜は、スペクトルの衚面 Si の立ち䞊がりから
12 [keV](FWHM)=5.1[keV](RMS)ず芋積もるこずが出来る図 2-3-1-1。これは
ほが固䜓怜出噚の性胜に等しい。
図 2-3-1-1
2975keV のプロヌ
ブを甚いお枬定し
た SiO2(101nm)/Si
詊料の衚面 28Si
からの埌方散乱に
盞圓するスペクト
ル郚分。
FWHM=12[keV]ず
芋積もられる。
SiO2 詊料に入射した 3032keV のプロヌブむオンが最衚面酞玠によっお埌方
散乱されるずきの゚ネルギヌは k(O)=0.3625 であるから、1099[keV]である。
1099keV から FWHM ゚ネルギヌ分解胜である 12keV 離れた゚ネルギヌである
1087keV に散乱を生じさせるような酞玠の SiO2 䞭の深さは、匏 2-2-3-(b)-12 を
導出したのず同様の議論によっお求められる。それに先立っお MCA1ch の゚
ネルギヌ幅 W=1.785[keV/ch]に盞圓する SiO2 局の厚さ τ 0 を蚈算しおおこう。
匏 2-2-3-(b)-6より、 τ 0 は、
τ0 =
W
S
 k ⋅ S In


+ Out 
 cos(α ) cos( β ) 
=
1.785 × 10 3
 0.3625 ⋅ 203.4 × 10 7 319.7 × 10 7

+
0.9962
0.9962




= 4.520[nm]
匏 2-3-1-1
ず求められる。ここで、阻止胜の゚ネルギヌ䟝存性
dS
は MCA1 チャンネル
dE
第 2 ç«  栞共鳎反応を利甚した酞玠の高感床分析系の構築
79
の゚ネルギヌ幅 W に比べお小さいので、匏 2-2-3-(b)-9 から、2-2-3-(b)-12 を導
いたずきず同様、阻止胜の評䟡を詊料衚面の倀で行い衚面近䌌
、SIn=S(E0)、
SOut=S(kE0)ずし、密床 N(SiO2)=2.20[g/cm3]=6.62x1022[atoms/cm3]の SiO2 局の阻
止胜を、Bragg 則1-3-2 節を利甚しお 203.4[eV/nm]
E=3032keV、319.7[eV/nm]
E=1099keVずした。゚ネルギヌ分解胜 12keV(FWHM)はチャンネル幅でい
うず、6.7[ch]、RMS 倀である 5.1[keV]はチャンネル幅でいうず 2.9[ch]=13[nm]
である。したがっお、衚面における深さ分解胜 ∆t は、
∆t = 6.7 × Ï„ 0 = 30[nm]
ずなり、101nm の酞化膜䞭においおは衚面近傍(13nm±13nm)、43nm 近傍(43nm
±13nm)、73nm 近傍(73nm±13nm)ず互いに 30nm 離れた 3 ぀の領域からの酞
玠量が区別できるこずを意味する。図 2-2-1-3 においおもほが同じ高さの 4 ぀
のピヌクが区別されおいるのが芋お取れる。
2-3-2 衚面における酞玠定量粟床および感床
1-2-6 節でスパッタリング過皋ずの競合で決たる怜出感床に぀いお述べた。軜元
玠基板の䞊の重元玠の分析ず違い、SiO2 䞭の O の定量では O ず䞋地の Si ずの分
離に぀いお議論する必芁があるこずず、スパッタリング収量が実隓倀に基づい
おいないこずのために、1-2-6 節の議論はそのたたでは適甚できない。しかし手
始めに同じ議論を詊み、その埌に実蚌感床に぀いお議論する。
Si 基板䞊に圢成された非垞に薄い SiO2 局を考える。非垞に薄いずいう意味は、
酞玠に埌方散乱されたプロヌブむオンの゚ネルギヌ幅が MCA の 1 チャンネルよ
り狭い皋床、即ち、4.5nm 皋床前節参照より薄いずいう意味である。3.032MeV
の He むオンを詊料に入射角 5 床で照射し、散乱角 170 床の䜍眮に眮かれた立䜓
角 1.737[msr]の怜出噚で埌方散乱粒子を怜出するこずを考える。16O の共鳎埮分
散乱断面積のピヌクは 0.73[b/sr](3032keV)である。酞化膜が非垞に薄く、その䞭
でのビヌム゚ネルギヌ枛衰が 1keV 皋床の堎合には、共鳎埮分散乱断面積ずしお
ピヌク倀をそのたた䜿甚しおよい。プロヌブむオンによるスパッタリング収量
を 10-3 ず仮定し、怜出量に±10%の粟床を保障するために必芁なカりント数を
100 カりントずする。ビヌム盎埄を 1mm、ビヌム照射面積を
π × 0.5 ×
0.5
≈ 8 × 10 −3 [cm 2 ] ずするずき、ビヌム照射面積あたり 100 カりント
0.9662
第 2 ç«  栞共鳎反応を利甚した酞玠の高感床分析系の構築
80
の収量を単䜍面積あたりの収量に換算するず、
(
)
100 / 8 × 10 −3 = 1.3 × 10 4 [counts / cm 2 ] ずなる。匏 1-2-6-5 より、スパッタリングず
の競合によっお決たる怜出䞋限 Ns0 が、
Ysp Y
10 −3 ⋅ 1.3 × 10 4
= 1 × 1014 [atoms / cm 2 ] 匏 2-3-2-1
σℊ
0.73 × 10 − 24 ⋅ 1.737 × 10 −3
ずなり、Si(100)面の単原子局の面積密床 6.8 × 1014 [atoms / cm 2 ] の玄 15ずなる。
N s0 =
=
このずき酞玠原子が散逞しおしたうプロヌブ照射量 Q の䞊限は、
匏 1-2-6-4
より 1 × 1017 [cm −2 ] であり、ドヌズ量換算では
8 × 1014
≈ 130[ µC ] ずなる。これは
6.2 × 1012
5[nA]のビヌム電流で、7 時間匷の枬定ずなる。぀たり、 1× 1014 [atoms / cm 2 ] の酞
玠が Si 基板衚面に存圚した堎合、5[nA]のビヌム電流で、7 時間匷の枬定をする
ず、酞玠に由来する埌方散乱収量が 100 カりント埗られ、枬定埌に酞玠は散逞
しおしたうずいうこずになる。
図 2-3-2-1
3042keV のプロヌ
ブを甚いお枬定し
た SiO2(101nm)/Si
詊料の衚面酞玠
からの埌方散乱に
盞圓するスペクト
ル郚分。
次に、゚ネルギヌ范正の際に栞共鳎条件で枬定した SiO2 詊料のスペクトルに
基づいた実蚌枬定粟床および感床に぀いお考える。
3032keV 付近の゚ネルギヌの䟡プロヌブむオン 5ÎŒC を甚いお、入射角 5 床、
散乱角 170 床、出射角 5 床で埌方散乱粒子を怜出するこずを考える。この枬定
条件では、酞玠共鳎信号ず䞋地の Si からの埌方散乱粒子ずが重なる。
図 2-3-2-1
しかし Si 基板の玠性はよくわかっおいるので、䞋地の Si 基板からの収量は、チ
ャンネルあたり 150 カりント±12 カりント、酞玠共鳎ピヌクの信号は 537 チャ
第 2 ç«  栞共鳎反応を利甚した酞玠の高感床分析系の構築
81
ンネルにおいお 696 カりント±26 カりントず分離できる。したがっお共鳎ピヌ
ク高さから酞玠量を決定した堎合の統蚈誀差はこの堎合、
26
≈ 0.037
696
匏 2-3-2-2
すなわち±4%皋床になる。立䜓角、照射゚ネルギヌ、照射量等の誀差はこれら
より䞀桁小さいオヌダヌであるからこれが最終的な枬定粟床ず考えおよい。
感床に぀いお考えるために、仮想的に衚面の SiO2 の膜厚を薄くしおいくこず
を考える。酞玠からの埌方散乱粒子のカりント数が、基板シリコンのカりント
数の揺らぎず同皋床になる量がこの堎合の怜出䞋限を䞎える。スペクトルに察
する Si 基板の寄䞎は 150 カりント±12 カりント(図 2-3-2-1)である。したがっお、
酞玠に由来する 1 チャンネル蟺りのカりントが Si 基板のカりントの RMS 誀差
ず同皋床の 12 カりント、あるいは、RMS 誀差の 3 倍いわゆる 3σずなる 36
カりントになるこずが酞玠の分離怜出䞋限ずいえる。
MCA1 チャンネルに盞圓する SiO2 局の厚さは衚面近䌌を甚いお蚈算するず
4.520nm 匏 2-3-1-1である。4.520[nm]の SiO2 局に由来する埌方散乱粒子カり
ントは、1 䟡の He むオン 5µC のドヌズ量に察しお 786 カりントず芋積もられる。
これは次のように蚈算される。
詊料衚面酞玠からの 1ch あたりのカりント数の期埅倀は、怜出系の゚ネルギ
ヌ 分 解 胜 の 制 限 を 無 芖 し 、 Rutherford 散 ä¹± 断 面 積  匏 1-2-2-1 
σ R (E 0 ,170 deg ) = 0.03220 [b/sr] を甚いるず、
H 0 (O ) = σ R ⋅ ℩ ⋅ Q ⋅ Nτ 0
= 0.03220 × 10 − 24 ⋅ 1.737 × 10 −3 ⋅ 3.141 × 1013 ⋅ 4.41 × 10 22 ⋅ 4.520 × 10 −7 匏 2-3-2-2
= 35.02[counts / ch]
である。ここで酞玠原子栞の密床ずしお、
N(O) =
2
× 6.62 × 10 22 = 4.41 × 10 22 [atoms/cm 3 ] を甚いた。次に、共鳎栞反応による
3
散乱断面積を甚いお、詊料衚面酞玠からの 1ch あたりのカりント数を芋積もる
が、共鳎散乱断面積の゚ネルギヌ䟝存性
dσ
は倧きいから、
dE
σ R (E 0 ,170 deg ) = 0.03220 [b/sr] を単玔に共鳎埮分散乱断面積のピヌク倀
σ * (E 0 ,170 deg ) = 0.73 [b/sr]図 2-1-1で眮き換えるず誀差が倧きくなりうるので、
衚面の厚さ τ 0 の SiO2 局における埮分散乱断面積の平均を考える必芁がある。厚
第 2 ç«  栞共鳎反応を利甚した酞玠の高感床分析系の構築
82
さ τ 0 の SiO2 局透過埌のプロヌブむオンの゚ネルギヌEbefore (匏 2-2-3-(b)-1)は、衚
面近䌌を甚いお、
Ebefore ≡ E 0 −
τ0
4.520
S In = 3032[keV ] −
× 203.4 × 10 −3 [keV ]
cos(α )
0.9962
= (3032 − 0.9229)[keV ]
ずなる。゚ネルギヌ枛少分が、MCA1ch の幅 W=1.785 のおよそ半分ずなっおい
るのは、脱出経路に沿った゚ネルギヌ枛少は関䞎しないからである。
Leavitt の倀[5]によれば、σ * (3032keV ) = 0.731[b/sr] 、σ * (3031keV ) = 0.715 [b/sr] で
あるから、SiO2 局の最衚面の 4.520[nm]にわたる平均倀 σ * = 0.723[b / sr ] である。
埓っお、3032keV のプロヌブむオンビヌムを照射した堎合の最衚面酞玠に由来す
る埌方散乱粒子収量は、
H 0 (O ) =
*
=
σ*
⋅ ℩ ⋅ Q ⋅ Nτ 0
σR
0.723
× 35.02 = 786[counts / ch]
0.0322
ずなる。
さお、この 786 カりントは、怜出系の分解胜の制限を無芖しお埗られた倀で
ある。実際には怜出系の分解胜が 12[keV](FWHM) (図 2-3-1-1)なので、12keV の
正芏分垃のコンボリュヌションによっお、前埌の MCA チャンネルに分散しお怜
出され、䞭心の 1ch で怜出されるのは 14%の 110 カりントになる。(図 2-3-2-2
図 2-3-2-2
MCA1ch 幅に盞圓する
SiO2(4.5nm)䞭の酞玠
に由来する収量の蚈
算倀。786 カりントが
正芏分垃のコンボリ
ュヌションによっお
ピヌク倀 110 カりント
の寄䞎ずなる。
基板 Si の揺らぎの RMS 倀が 12[counts/ch]なので、その 3 倍のピヌク高さを䞎
第 2 ç«  栞共鳎反応を利甚した酞玠の高感床分析系の構築
83
えるのは、SiO2 局で 1.5[nm]ずなり、これが怜出䞋限の䞀぀ずなる。

第章のたずめ
本章では、栞共鳎反応 16O(α,α)16O を甚いた酞玠の高感床怜出系の構築に぀い
お述べられた。MCA の 1 チャンネル幅が 1.785keV の枬定系を甚いお、Rutherford
散乱に比べお玄 20 倍の酞玠感床の遞択的増匷が実蚌された。Si 基板信号ずの分
離条件によっお決たる酞玠怜出感床は Si 䞊に圢成された SiO2 膜厚で 1.5nm であ
り、衚面近傍での深さ分解胜は 30nm、枬定粟床は 4%である。
・ 栞共鳎反応散乱断面積ずしお 3032keV に共鳎ピヌクを持぀ Leavitt らの倀
が採甚された。
・ 衚面に厚さ 101nm の SiO2 局を持぀ Si 詊料を甚いお照射゚ネルギヌの范正
が行われた。2-2-1 節皮々の元玠を含む詊料を枬定するこずによっお、
MCA チャンネル゚ネルギヌ倉換匏(2-2-2 節)および怜出噚立䜓角が決定
2-2-3-(c)節された。
・ 衚面に厚さ 101nm の SiO2 局を持぀ Si 詊料を甚いお枬定が行われ、衚面近
傍における酞玠に察する深さ分解胜が 30[nm]であるず決定された2-3-1
節。
・ 3032keV 付近の゚ネルギヌの䟡プロヌブむオン 5ÎŒC を甚いお、入射角 5
床、散乱角 170 床、出射角 5 床で埌方散乱粒子を怜出する堎合、101nm の
厚さをも぀ SiO2 膜䞭の深さ 5-31nm18nm を䞭心ずする前埌 13nm にわた
る領域䞭の酞玠量の枬定誀差は 4%であるず求められた。
・ スパッタリングによる散逞ずの競合で決たる衚面酞玠感床は、
1× 1014 [atoms / cm 2 ] ず芋積もられた。たた Si 基板に由来する信号ずの分離
によっお決たる感床は SiO2 局の厚さ換算で 1.5[nm]ず芋積もられた。
84
第 2 ç«  栞共鳎反応を利甚した酞玠の高感床分析系の構築
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第 2 ç«  栞共鳎反応を利甚した酞玠の高感床分析系の構築
85
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86
第3章
匟性反跳散乱分析法による氎玠分垃分析系の構築
第3章
第章
匟性反跳散乱分析法による氎玠分垃分析系の構築
87
匟性反跳散乱分析法による氎玠分垃分析系の構築
本章では、匟性反跳散乱分析法による氎玠分垃分析系の構築に぀いお述べる。
固䜓衚面近傍の氎玠の深さ分垃を高粟床に枬定するこずは、半導䜓衚面のダ
ングリングボンドの制埡や氎玠吞蔵合金の改良など幅広い応甚分野をも぀基瀎
技術である。䜎速むオンで詊料をスパッタリングする次むオン質量分析法
SIMSに比べお、詊料党䜓の構造を壊さずに枬定する高゚ネルギヌむオンプ
ロヌブを甚いた匟性反跳散乱分析法は、固䜓衚面近傍の氎玠の深さ分垃をより
高粟床に枬定するこずができる方法であるずいわれ研究が続けられおいる[1]。
ヘリりムむオンをプロヌブずしお甚いた堎合、プロヌブむオンは質量の軜い
氎玠原子栞ずの衝突によっお埌方散乱を起こさない。したがっお氎玠分析のた
めにはプロヌブビヌムを詊料衚面法線に察しお倧きい角床で入射し、跳ね飛ば
された反跳氎玠自身を怜出[2][3]するこずになる。この堎合に問題ずなるのは氎
玠信号をマスクするように高゚ネルギヌ偎に倧量に散乱されおくるプロヌブむ
オンず目的の氎玠ずを分離しお怜出するこずである。本研究では被枬定詊料か
らの氎玠ず前方散乱プロヌブずを分離するために金属箔に察する透過性の違い
が利甚される。

匟性反跳氎玠怜出法の原理
第 1 章で、高速むオンプロヌブの匟性散乱を甚いた組成分析に重芁な抂念を説
明した。他の元玠ず同様、4He むオンプロヌブを甚いお固䜓薄膜詊料に含たれる
氎玠原子栞プロトンを怜出するこずが出来る。プロヌブむオンより重い原
子栞怜出ずの最倧の違いは、氎玠原子栞がプロヌブより軜いために氎玠原子栞
によっお散乱されたプロヌブが埌方に跳ね返っおこないずいう点である。埓っ
お 4He むオンプロヌブの照射によっお氎玠を怜出するためには、埌方散乱プロ
ヌブを怜出する代わりに、プロヌブむオンによっお詊料から叩き出された氎玠
原子栞自身を怜出するこずが考えられる[2][3]。本研究では図 3-1-1 のような反
射型配眮で氎玠を怜出するこずを詊みる。この際、問題ずなるのは詊料を構成
する氎玠以倖の元玠によっお前方散乱される高゚ネルギヌプロヌブむオンであ
る。前方散乱であるために、前方散乱粒子の゚ネルギヌは倧きく匏 1-1-2-15、
88
第3章
匟性反跳散乱分析法による氎玠分垃分析系の構築
散乱断面積は倧きい匏 1-2-2-1、図 1-2-2こずが予想される。これを遮断する
ために Al 箔に察する透過性の違いを利甚するこずを考える図 3-1-2。
図 3-1-1 反跳氎玠怜出の抂念図
図 3-1-2 金属箔を甚いた前方散乱プロヌブの分離
第3章
匟性反跳散乱分析法による氎玠分垃分析系の構築

氎玠反跳過皋ず反跳゚ネルギヌ分配係数 K ファクタ
89
゚ネルギヌず運動量ずの保存から導かれおいる散乱゚ネルギヌ分配係数 K は
氎玠に察しおも倧きな違いはなく、匏 1-1-2-16 に導いたずおりである。いた゚
ネルギヌ E0 のヘリりムむオンが、詊料衚面近傍の氎玠によっお匟性的に散乱さ
れた埌の゚ネルギヌを E1 ずするずき、 E0 ず E1 ずの比が K ファクタであった。
E1
匏 1-1-1-1再掲
E0
氎玠に察する 4He の散乱゚ネルギヌ分配係数K ファクタを図 3-2-1 に瀺す。
K≡
図 3-2-1 氎玠に察する He の K ファクタ
同じ散乱角Ξに察しお 2 皮類の K の倀があるのは衝突係数の異なる二぀の堎
合を衚しおいる。たずえば、散乱角Ξが 0°ã®å Žåˆã¯ã€è¡çªä¿‚数が小さく、正面
衝突しお氎玠に最倧の゚ネルギヌを移譲する堎合このずき反跳角も 0°ïŒ‰ãšã€
衝突係数が倧きく、偎面衝突このずき反跳角は 90°ïŒ‰ã—お氎玠原子栞をかす
めるようにしお盎進する堎合ずがある。たた氎玠は軜いためにヘリりムむオン
90
第3章
匟性反跳散乱分析法による氎玠分垃分析系の構築
プロヌブの進路を倧きく曲げるこずが出来ない。このずきの散乱角の最倧倀Ξc
1
 1.008 
は、Ξ c ≡ arcsin  で䞎えられ匏 1-1-2-16、arcsin
 = 14.58[deg .] である。
 4.003 
β 
ヘリりムむオンプロヌブによっお反跳された氎玠の゚ネルギヌを E 2 ずするず、
゚ネルギヌの保存から、E1 + E 2 = E 0 なので、E 2 = E 0 − E1 = (1 − K ) E 0 が成り立぀。
ここで、「反跳゚ネルギヌ分配係数」 K を、
K ≡ 1− K
匏 3-2-1
を定矩するず、 E 2 = K E 0 ず衚せる。
氎玠怜出においお興味があるのはヘリりムの前方散乱角Ξず K の関係よりも、
K ず反跳角φずの関係である。K ファクタを導いたのず同様の議論によっお、
反跳角φず K ずの関係は、
K=
4β cos 2 φ
(1 + β )2
匏 3-2-2
ず䞎えられる。ヘリりムむオンプロヌブに察する K の倀を図に瀺す。
図 3-2-2 氎玠(p)、重氎玠(d)、䞉重氎玠(t)およびヘリりム(α)に察する
K ファクタず反跳角φ
第3章
匟性反跳散乱分析法による氎玠分垃分析系の構築

散乱断面積の Rutherford の倀からのずれ
91
氎玠原子栞の Rutherford 埮分散乱断面積に぀いおも匏 1-2-2-1 の導出ず物理的
背景は党く同じである。ただし、泚意すべき点は、散乱角Ξではなく反跳角φ
に関する埮分反跳断面積に曞き盎す必芁があるずいう点ず、氎玠ずその同䜍䜓
に察しおは 1-2-3 節で芋たような栞力効果が顕著であり、プロヌブである He ã‚€
オンの゚ネルギヌが 1MeV を超える領域では実際の埮分散乱断面積は Rutherford
の倀からずれる[1,4-9]ずいう点である。
匏 1-2-2-1ず同等な反跳角φに぀いお
の埮分散乱断面積の匏は、CGS 静電単䜍系で、
σR
(Z Z e (1 + β ))
=
2
2
1
2
匏 3-3-1
4 E 2 cos 3 φ
ず衚される。ここで e 2 = 1.4398 × 10 −13 [ MeV cm] を甚いるず蚈算に䟿利である。
䞀方、およそ He むオンプロヌブの゚ネルギヌがMeV 以䞊の領域においお
は、栞力効果によっお埮分散乱断面積は Rutherford の倀から倖れる[1,4-9]。本研
究では、He むオンプロヌブに察する氎玠の散乱断面積の実隓匏ずしお、Tirira
達の提唱[1]しおいるものを採甚する。それは、
 dσ H ( E He , φ ) 
−1
−2
 = A1 E He + A2 + A3 E He
log e 
+ A4 E He

℩
d


匏 3-3-2
で衚わされ、それぞれの反跳角φに察する係数 A1A4 は衚 3-3-1 のように䞎え
られる。
è¡š 3-3-1 氎玠埮分反跳断面積の実隓匏の係数[1]
φ (deg)
A1
A2
A3
A4
0
0.7651
1.7201
5.6116
-1.7011
5
0.7581
1.7321
5.6302
-1.7148
10
0.7366
1.7716
5.6797
-1.7527
15
0.6994
1.8492
5.7417
-1.8049
20
0.6449
1.9807
5.7890
-1.8568
25
0.5732
2.1840
5.7880
-1.8906
30
0.4779
2.4758
5.7117
-1.8897
35
0.3651
2.8682
5.5349
-1.8408
40
0.2349
3.3687
5.2445
-1.7350
92
第3章
匟性反跳散乱分析法による氎玠分垃分析系の構築
図 3-3-1 に反跳角 10,20,30 床の堎合に぀いお、 Tirira 達による実隓匏 [1] を
Rutherford の倀ずずもに瀺す。
図 3-3-1 氎玠の埮分反跳断面積の実隓匏ず、Rutherford の倀

氎玠に察する阻止胜
第 2 章では、詊料を透過する際のプロヌブむオンの゚ネルギヌ枛衰は He に察
する電子阻止断面積ず栞阻止断面積を ZBL85 匏などによっお蚈算し、既知の詊
料密床から実際の透過距離に関する量である阻止胜を求めた。氎玠に察する阻
止断面積に぀いおは、電子阻止断面積は He の堎合ず同様 ZBL85 匏1-3-3 節、
ただし、氎玠ずヘリりムずでは係数は異なるを甚い、10keV 以䞊の゚ネルギ
に察しおは栞阻止断面積は電子阻止断面積の 0.1%-1%以䞋ず小さいので無芖す
る。

氎玠に察する MCA チャンネル゚ネルギヌ范正
物質䞭で阻止胜が異なるために、固䜓怜出噚の応答もヘリりムず氎玠ずでは
異なる。したがっお、氎玠に察しおは、2-2-2 節で求めた倀ずは別に MCA チャ
第3章
匟性反跳散乱分析法による氎玠分垃分析系の構築
93
ンネル゚ネルギヌの倉換匏を決める必芁がある。2-2-2 節でヘリりムむオンに
぀いお行った詊料の埌方散乱枬定ず同様の枬定を氎玠むオンをプロヌブずしお
行い、信号の立ち䞊がり䜍眮のチャンネルず埌方散乱゚ネルギヌKE0 ずの関係を
求めるこずによっお范正する。
図 3-5-1
図 3-5-1 氎玠に察する MCA チャンネル゚ネルギヌ倉換係数
その結果(2.002 ± 0.004)MeV の氎玠むオンプロヌブを甚い、埌方散乱角 150 床
の䜍眮に蚭眮された氎玠怜出甚怜出噚に぀いお、MCA チャンネルず゚ネルギヌ
94
第3章
匟性反跳散乱分析法による氎玠分垃分析系の構築
ずの関係が、
E ( H )[keV ] = (3.878 ± 0.001) × Ch100 + (173.5 ± 0.58)
匏 3-5-1
E ( H )[keV ] = (1.816 ± 0.001) × Ch 200 + (108.4 ± 1.0 )
匏 3-5-2
ず求められた。

Al 箔による前方散乱プロヌブず反跳氎玠ずの分離
本研究では、前方散乱プロヌブず反跳氎玠ずを分離するために Al 箔を利甚す
るこずを詊みる。阻止断面積から密床 2.702 [g/cm3] = 6.031x1022 [atoms/cm3]の Al
䞭の透過距離が 5µm、10µm、および 15µm になる゚ネルギヌを求めるず衚 3-6-1
のようになる。同じ厚さの Al 膜に察しお、He の透過閟倀゚ネルギヌは H の玄 4
倍必芁である。
è¡š 3-6-1
Al 箔に察する氎玠ずヘリりムずの透過閟倀゚ネルギヌ蚈算倀
5µm
10µm
15µm
He の透過閟倀゚ネルギヌ
1575keV
2850keV
3880keV
H の透過閟倀゚ネルギヌ
470keV
780keV
1030keV
è¡š 3-6-1 からわかるように、5µm、10µm、15µm の Al 箔を利甚する堎合には
それぞれ 1.5MeV、2.8MeV、3.8MeV 以䞋のプロヌブむオン゚ネルギヌで枬定を
行えば前方散乱プロヌブを阻止するこずができるず期埅される。本研究でぱ
ネルギヌストラグリングの圱響を小さくするために 5µm の Al 箔を甚い、1.5MeV
のプロヌブむオン゚ネルギヌで氎玠を怜出するこずを詊みる。図 3-6-1 に 1.5MeV
付近で入射゚ネルギヌを倉化させ、前方散乱プロヌブむオンず反跳氎玠ずが
5mm 厚の Al 箔で分離可胜であるこずを確かめるための実隓結果を瀺す。
図 3-6-1 のスペクトルは、゚ネルギヌの異なる 4He+プロヌブむオンを入射角
80 床で氎玠を含んだ有機高分子詊料(Kapton200H)に 2[µC]照射照射スポット短
埄 0.7mmし、反跳角 30 床の䜍眮に怜出噚を蚭眮するこずによっお枬定された。
角床范正は詊料台に蚭眮した鏡にレヌザ光を照射するこずによっお行われた。
照射に䌎う詊料倉圢などの圱響を避けるため厚さ 50[µm]のカプトン膜が詊料ず
しお甚いられた。カプトン膜は東レデュポン瀟より入手した。詊料に぀いお
は、枬定に圓たっお掗浄等の凊理は特に行わず、10-5[Pa]皋床に保たれた真空槜
第3章
匟性反跳散乱分析法による氎玠分垃分析系の構築
95
に 20 時間眮いた埌枬定が行われた。Al 箔は冷間圧延によっお補造された埌アニ
ヌル凊理されたものを賌入しお(æ ª)ニラコ、怜出噚ず詊料ずの間に蚭眮した。
販売者による公称厚は 5Ό±1.25Όである。枬定はスペクトル枬定甚増幅噚
の利埗の粗レンゞ 200節参照で行われたが、図では MCA の 10 チャ
ンネル分が 1 チャンネルにたずめお衚瀺されおいる。すなわち゚ネルギヌ幅は
10 倍の 18.16[keV/ch]になるように粗芖化されおいる。
図 3-6-1 5µm 厚のアルミ箔による He ず H ずの分離
プロヌブむオンの゚ネルギヌを 1309[keV]、1507[keV]、1704[keV]、2475[keV]
ず増加させおいくず、1704[keV]で詊料䞭の酞玠原子栞などによっお 30 床の䜍眮
に前方散乱された He プロヌブが Al 箔を透過しお䜎゚ネルギヌ偎に怜出されは
じめるのが芋られ、2475[keV]においおは、氎玠の信号は前方散乱プロヌブの信
号に芆い隠されおしたう。
入射角 80 床、反跳角 30 床の条件における氎玠信号の立ち䞊がり゚ネルギヌ
から Al 箔の平均厚さが 4.4[µm] (密床 2.702[g/cm3]換算)ず決定され、氎玠信号の
立ち䞊がりの傟きから E0=1.507[keV]に察する゚ネルギヌ分解胜は詊料衚面で
84[keV](FWHM)ず決定される。
衚 3-6-2ここで Al 箔に察する厚さの芋積もり
が゚ネルギヌによっお少しず぀系統的に異なっおいる理由は、MCA チャンネル
96
第3章
匟性反跳散乱分析法による氎玠分垃分析系の構築
゚ネルギヌ倉換匏ず阻止胜蚈算匏の系統誀差を反映したもので Al 箔に察しお
3-4%の膜厚芋積もり誀差ずなっおいる。たた 2-2-3 節で論じたものず同様の蚈算
を行うず、氎玠信号の高さからみかけの怜出噚立䜓角が 2.55[msr]ず求められる。
è¡š 3-6-2 図 3-6-1 に瀺したデヌタから蚈算される Al 箔の膜厚(4.43[µm])ず
衚面゚ネルギヌ分解胜
K (30deg)=0.48202;E[keV]=18.16*Ch+108.4;出射角広がり 1.9 床(RMS)
1枬定倀
E0[keV]
1309[keV]
1507[keV]
1704[keV]
2 ( K ず(1)ずの積)
3枬定倀
K E 0 [keV]
631.0
726.4
821.4
氎玠信号
゚ッゞ[ch]
11.32
±0.06
18.42
±0.08
25.60
±0.10
氎玠信号
゚ッゞ[keV]
314.0
±1
317.0
±1
442.9
±1.5
283.5
±1.5
573.3
±1.8
248.1
±1.8
4.49
4.47
4.29
92
91
87
0.77
0.80
0.84
71
73
73
4.9
±0.2
4.6
±0.2
4.4
±0.3
89
±4
84
±4
80
±5
38
36
34
37
35
32
スペクトルを数倀埮分しお正
芏分垃圓おはめにより決定
4枬定倀から匏 3-5-2 で蚈
算
5((2)ず(4)ずの差)
Al 箔䞭の゚ネル
ギヌ枛衰[keV]
6 ((2)(5)および ZBL85 など
から蚈算)
Al 箔の膜厚[µm]
平均倀 4.43[µm]
7((6)ず匏 1-3-5-1 から蚈算)
Al 箔䞭の Bohr
ストラグリング
(RMS)2[keV2]
Al に察する
Chu 補正係数
8図 1-3-5 のデヌタの 3 次スプ
ラむン補間
9(7 ず 8 ずの積)
Chu-Bohr
ストラグリング
10枬定倀
(RMS)2[keV2]
氎玠信号
立ち䞊がり幅
FWHM[ch]
11枬定倀 10 から匏 3-5-2
で蚈算
氎玠信号
立ち䞊がり幅
1211 を倉換
氎玠信号
立ち䞊がり幅
FWHM[keV]
RMS[keV]
13 ビヌム広がり 1[keV](RMS);
怜
出
噚
分
解
胜
12[keV](FWHM)=5.1[keV](RMS)
ずしお算出
その他の誀差
䞻に幟䜕孊誀差
ず Al 厚の䞍均䞀誀
差ずの和
RMS[keV]
第3章
97
匟性反跳散乱分析法による氎玠分垃分析系の構築
衚面での゚ネルギヌ分解胜 84[keV](FWHM)E0=1507[keV]の堎合は埌方散
乱法の堎合の分解胜13[keV](FWHM)皋床に比べお数倍以䞊粗い。この理由
は、
(1) 反跳氎玠が Al 箔を透過する際の電子゚ネルギヌ損倱ストラグリング
(2) Al 箔の厚さの䞍均䞀
(3) 入射角が倧きいこずによる照射スポットの拡倧による角床誀差の増倧
の぀による。詊料衚面に察する総合゚ネルギヌ分解胜の RMS 倀をΩTotal、ビヌ
ム゚ネルギヌの揺らぎをΩBeam、怜出噚゚ネルギヌ分解胜の RMS 倀をΩDetector、
Al 箔䞭の゚ネルギヌストラグリングをΩFoilStraggling、Al 箔厚さの䞍均䞀による゚
ネルギヌ広がりをΩFoilThickness、ビヌム照射スポットサむズず怜出噚の倧きさに起
因する幟䜕孊的な゚ネルギヌ広がりをΩGeometry ず曞き、独立な確率倉数の揺らぎ
の加法性が成り立぀ずするず、その他の芁玠、たずえば詊料原子栞の熱運動に
よるドップラヌ効果は 10eV のオヌダヌであるから無芖できるので、
(℩ Total )2 =
(℩ Beam )2 + (℩ Detector )2 + (℩ FoilStraggling )2 + (℩ FoilThickness )2 + (℩ Geometry )2
匏 3-6-1
ず曞ける。E0=1507[keV]の堎合、ΩTotal=36[keV]であったから、ΩBeam=1[keV]、
ΩDetector=5.1[keV], ΩFoilStraggling= 73 [keV]を代入するず、
((℩
FoilThickness
)2 + (℩ Geometry )2 ) = (36)2 −  (1)2 + (5.1)2 + (

)
2
73  = 35 2 [keV 2 ]

ずなり、゚ネルギヌ分解胜に察しおアルミの膜厚䞍均䞀性ず幟䜕孊誀差の寄䞎
が倧きいずいうこずが予想できる。
氎玠枬定の深さ分解胜は、2-3-1 節の議論に沿っお蚈算すればよい。ただし、
K の代わりに K 、阻止胜の平均倀 SIn はプロヌブむオンであるヘリりムに察しお
評䟡し、SOut は反跳粒子である氎玠に぀いお評䟡しなければならない。MCA1ch
に盞圓する Kapton 詊料の厚さ τ 0 を蚈算しおおこう。
匏 2-2-3-(b)-6より、τ 0 は、
τ0 =
W
 K ⋅ S In (He ) S Out (H ) 


 cos(α ) + cos(β ) 


=
18.16 × 10 3
= 23.44[nm]
 0.4820 ⋅ 236.2 40.70 
+


0.1736
0.3420 

匏 3-6-2
ず求められる。ここで入射角αは 80 床、出射角βは 70 床である。阻止胜の評
98
第3章
匟性反跳散乱分析法による氎玠分垃分析系の構築
䟡を詊料衚面の倀で行い衚面近䌌、SIn=S(He,E0), SOut=S(H, K E0)ずし、密床
N(C22H10N2O5)=1.42[g/cm3]=8.72x1022[atoms/cm3]の Kapton 局の阻止胜を、Bragg
則  1-3-2 節  を 利 甹 し お S(He,E0)=236.2[eV/nm]  E0=1507keV 、
S(H, K E0)=40.70[eV/nm]ずした。゚ネルギヌ分解胜 84[keV](FWHM)はチャンネル
幅でいうず、4.6[ch]、RMS 倀である 36[keV]はチャンネル幅でいうず 2.0[ch]であ
る。したがっお、衚面における深さ分解胜 ∆t は、
∆t = 4.6 × Ï„ 0 = 110[nm]
匏 3-6-3
ずなる。図 3-6-2 に Kapton 詊料の衚面から 110[nm]の郚分に由来する氎玠の寄䞎
ず、110[nm]-220[nm]の郚分に由来する氎玠の寄䞎の蚈算倀を瀺す。
図 3-6-2 Kapton 詊料の 0-110[nm]および、110-220[nm]の郚分からの氎玠
寄䞎蚈算倀ず実隓スペクトル。E0=1507[keV]、入射角 80 床、反跳角
30 床

幟䜕孊的゚ネルギヌ広がりの抂算
幟䜕孊的゚ネルギヌ広がりの芋積もりの匏が Szilágyi ら[10]によっお䞎えられお
いる。出射角βの統蚈的な分散 (∆β ) は、次の匏で芋積もられる。
2
(∆β )
2
2
 g w   g d cos β 

=  d  +  b
 Lout   Lout cos α 
2
匏 3-7-1
第3章
99
匟性反跳散乱分析法による氎玠分垃分析系の構築
ここで、gd およが gb は怜出噚の圢状および入射ビヌムの圢状によっお決たる幟
䜕孊因子であり、ビヌム匷床が䞀様分垃する円柱状ビヌムに぀いおは、gd = gb
=0.59 ずなる。Lout は詊料ず怜出噚ずの距離、w は怜出噚の有効開口埄、および d
は照射スポットの倧きさ垂盎入射でのスポット埄短軞埄であり、それぞ
れ Lout =158[mm]、w=9[mm]、d=0.7[mm]である。これらの倀を代入するず、
(∆β )
 0.59 × 9   0.59 × 0.7 cos(70 deg ) 
 = 0.0012
=
 + 
 158   158 cos(80 deg ) 
2
2
2
ずなり、 ∆β =
0.0012 × 180
π
= 1.9[deg] ず芋積もられる。図 3-7-1 にΔβの入射角
αおよび反跳角φ䟝存性を瀺す。入射角が倧きくなるず照射スポットサむズは
倧きくなる図 3-8-1 参照が、出射角βが倧きいず怜出噚からみた照射スポッ
トサむズは倧きくならない。入射角が 80 床以䞋では怜出噚の立䜓角で決たる 1.9
床付近の倀でありほずんど倉化しない。即ち幟䜕孊的゚ネルギヌ広がりを小さ
くするには怜出噚の立䜓角を制限するこずが効果的であるずいえる。
図 3-7-1 入射角α、反跳角φに察する出射角の統蚈的広がりΔβ
本研究で甚いた枬定系では、反跳角φずα、βずの間に、
φ[deg] = 180[deg] − (α + β )
の関係があるから、βが±Î”βの分垃を持぀こずによっお、反跳角φの RMS 揺
100
第3章
匟性反跳散乱分析法による氎玠分垃分析系の構築
らぎも±Î”βになる。コリメヌタ埄 0.5[mm]、照射スポット埄 0.7[mm]、および、
コ リ メ ヌ タ  è©Š 料 台 距 離 300[mm] か ら 、 ビ ヌ ム 発 散 角 は 、
 0.35 − 0.25 
arctan
 ≀ 0.02[deg .] ず芋積もられるが、βの広がりに比べお小さいか
300


ら無芖しおよい。
ある皋床の倧きさを持぀怜出噚は反跳角にある皋床の広がりを蚱容する。こ
のビヌム角床の広がりは K を通じで゚ネルギヌの広がりずなる。
K (30) = 0.4820  K (28.1) = 0.5001  K (31.9) = 0.4632 であるから、 E0=1.507[keV]
のプロヌブむオンビヌムに察しお、詊料衚面からの反跳氎玠の゚ネルギヌは、
(726.4±28)[keV]皋床の広がりを持っおいる。角床広がりは小さいので、アルミ
箔を透過する際に倱う゚ネルギヌに角床の差がないものず近䌌するず、怜出さ
れる粒子の゚ネルギヌの RMS 揺らぎに 28[keV]の寄䞎ずしお珟れるず考えられ
る。
前節で「その他」の誀差を 35[keV]RMSずしたので、箔の膜厚䞍均䞀性に
よる揺らぎの寄䞎は 21[keV](RMS)ず蚈算される。442.9[keV]の氎玠に察する Al
箔の阻止胜は 72[keV/µm]ず蚈算されるので、厚さ換算するず 290[nm]ずいうこず
になる。すなわち、むオンビヌム照射・透過実隓によっお芋積もられるアルミ
箔の厚さの䞍均䞀性は±0.3[µm]ずなる。

怜出噚の立䜓角
氎玠怜出に甚いられた怜出噚の芋かけの開口埄は 10[mm]、詊料台䞭心ず怜出
噚間の距離は 158[mm]であるから、幟䜕孊的な立䜓角の倀は、3.2[msr]である衚
2-2-3-1。埓っお十分小さな照射スポットを芋蟌む怜出噚の実際の立䜓角はこの
倀の 80%皋床実埄に察する有効埄の比率の通垞の倀 90%の乗の 2.6[msr]
皋床であるず思われ、実際に節では 2.55[msr]が埗られおいる。ずころが、
反射型配眮の氎玠怜出では、詊料法線ず入射ビヌムのなす入射角が倧きく、照
射スポットの圢状は空間的に倧きく広がった楕円図 3-8-1ずなるために枬定
条件によっお芋かけの立䜓角が倉化する。たた詊料台ゎニオメヌタの回転䞭心
ず、怜出噚の回転䞭心が䞀臎しおいない堎合には、怜出噚の回転によっお怜出
面が照射スポット䞭心に正察しないために怜出噚の立䜓角が倉化する。本研究
では暙準詊料に぀いお氎玠枬定を行い、入射角、反跳角の組に察しお芋かけの
第3章
101
匟性反跳散乱分析法による氎玠分垃分析系の構築
立䜓角Ω*を定めお䜿甚する。
図 3-8-1
照射スポット圢状の
入射角䟝存性。
図では 0.5[mm]埄実際
には 0.7[mm]なので泚意
が必芁であるの照射ス
ポットに぀いお圢状の倉
化ず 1 䟡むオン 1[µC]圓た
りの照射フルヌ゚ンスの
倉化ずを瀺した。
図 3-8-2 氎玠スペクトルの入射角䟝存性
102
第3章
匟性反跳散乱分析法による氎玠分垃分析系の構築
図 3-8-2 に氎玠スペクトルの入射角䟝存性を瀺す。スペクトルは、図 3-6-1 ず
同じ Kapton 詊料に察しお、怜出噚を反跳角φ30 床の䜍眮に固定し、詊料法線
ず入射ビヌムのなす入射角αを 65 床から 85 床の範囲で倉化させお埗られたも
のである。照射むオンは 4He+であり、照射量は 2[µC]であった。照射スポットの
圢状は短軞 0.7mm、長軞
0.7
mm の楕円であり、照射フルヌ゚ンスは入射角
cos(α )
によっお異なる。瞊軞はチャンネル圓たりの収量を
γ
cos(α )
で芏栌化した氎玠収
量である。暪軞は図 3-6-1 ず同様であり、MCA チャンネルに぀いおは 10 チャン
ネル分をたずめお粗芖化しおある。
ここで立䜓角補正係数γは、氎玠の積分カりントがα80 床の堎合を基準ず
しお同䞀になるように実隓的に決めた係数である。αが 65 床の堎合にはγ0
であり氎玠が怜出されないので図 3-8-2 には衚瀺されおいない。この理由は、α
が 65 床のずき、出射角β180-(30+65)=85 床であっお 90 床に近いために怜出噚
が詊料台の支持機構の陰に隠れおしたうからである。入射角 70 床の堎合も同様
である。぀たり、本研究で甚いた枬定系特有の事情で、90 − β [deg] ≥ 15 でないず
立䜓角の制限を受ける。衚 3-8-1 に反跳角 30 床の堎合の立䜓角補正係数γず芋
かけの立䜓角Ω*の入射角䟝存性をたずめた。
è¡š 3-8-1 反跳角 30 床の堎合の立䜓角補正係数γず芋かけ
の立䜓角Ω*の入射角䟝存性
入射角
出射角
∆β
[床]
[床]
[床]
65
85
70
γ
Ω*[msr]
1.9
0
0
80
1.9
0.564
1.44
75
75
1.9
1.13
2.88
80
70
1.9
1.00
2.55
85
65
2.1
0.652
1.66
第3章
匟性反跳散乱分析法による氎玠分垃分析系の構築
103
図 3-8-3 に入射角 80 床の堎合の反跳角䟝存性を瀺す。実隓条件は、図 3-8-2
ず同様であり、入射角を 80 床に固定しお、反跳角φを倉化させたものである。
φを 20 床から 45 床たで 5 床間隔で増加させおいくず、 K ファクタの倉化ずず
もに、氎玠信号の立ち䞊がり䜍眮が䜎゚ネルギヌ偎にシフトしおいくのが芋ら
れ、φ=45°ã§ã¯å€§éƒšåˆ†ã®æ°ŽçŽ ãŒ Al 箔を透過できない。たた、φの増加ずずも
に反跳断面積の倉化により、スペクトル高さ、すなわち氎玠に察する感床が増
加しおいくのが芋られる。φ20°ãšÏ†=30°ã§ã¯ãƒãƒ£ãƒ³ãƒãƒ«åœ“たりの氎玠収量
が 2 倍以䞊異なる。1.5MeV のプロヌブむオンに察しお、埮分反跳断面積はそれ
ほど倧きく違わないから、φ=20°ã§ã¯ç«‹äœ“角が小さくなっおいる。その理由は、
入射角 80 床、反跳角 20 床のずき出射角βは 80 床であり、詊料平面ずの間が 10
床しかない。そのために、詊料台支持機構の陰になり立䜓角が制限されおいる
からである。このずき、Ω1.4[msr]であり、立䜓角が制限される結果、匏 3-7-1
における w が小さくなるために衚面の分解胜も 84[keV から 71[keV]ずよくなっ
おいる。
図 3-8-3 入射角 80 床の堎合の反跳角φ2045 床䟝存性
104
第3章
è¡š 3-8-2
匟性反跳散乱分析法による氎玠分垃分析系の構築
反跳角φを倉化させた堎合の立䜓角補正係数γ
ず芋かけの立䜓角Ω*
φ
入射角
[床]
出射角
[床]
[床]
80
80
80
γ
Ω*[msr]
ΔEFWHM
20
0.56
1.44
71
75
25
1.0
2.55
84
80
70
30
1.0
2.55
84
80
65
35
1.13
2.88
84
80
60
40
1.29
3.3
100
[keV]
反跳角 40 床ではΩが 3.3[msr]ず幟䜕孊的な立䜓角よりも倧きくなり、分解胜
が 100keV 皋床に悪化しおいる。これは反跳角を倧きくしおいったこずにより、
怜出噚から芋た照射スポットサむズが広がり、Δβが倧きくなる(図 3-7-1)こず
の効果図 3-8-4であるず解釈できる。
図 3-8-4
照射スポットサむズ増加によ
る芋かけの立䜓角 Ω * の増加 ず 分解胜の
悪化

第章のたずめ
本章では 4He むオンプロヌブによる匟性反跳散乱を利甚した氎玠枬定系が構
築された。被枬定詊料からの氎玠ず前方散乱プロヌブずを分離するために金属
箔に察する透過性の違いが利甚された。分離膜の膜厚やプロヌブ照射条件の怜
第3章
匟性反跳散乱分析法による氎玠分垃分析系の構築
105
蚎が行われ、氎玠プロヌブ埌方散乱法によっお、怜出噚の゚ネルギヌ応答を范
正し、文献による非ラザフォヌド反跳断面積の補正匏を利甚しお定量的な反跳
氎玠蚈枬系を構築し、氎玠の深さ分垃を定量するこずに成功した。
E0=1507[keV]の 4He+プロヌブ、盎埄 0.5[mm]のコリメヌタ詊料䞊で 0.7[mm]
の照射スポット短埄を甚いお入射角 80 床で Kapton 詊料に照射し、反跳氎玠
を反跳角 30 床の䜍眮に眮かれた 2.55[msr]の怜出噚で怜出した堎合、本研究で構
築した枬定系の実蚌衚面゚ネルギヌ分解胜は 84[keV](FWHM)3-6 節であり、
深さ分解胜は Kapton 換算で 110[nm]匏 3-6-3である。1 䟡むオンの照射ドヌ
ズ量 2[µC](入射角 30 床、照射スポット短埄 0.7mm、長埄 4mm)で、MCA の゚ネ
ルギヌ幅が 18.16[keV]のずき、Kapton 詊料から 1ch あたり 2500 カりント皋床の
氎玠収量があり(図 3-8-3)、統蚈的揺らぎの倧きさで枬定粟床を評䟡するず MCA
チャンネル圓たりに盞圓する。110[nm]にわたる領域からの積分カりント
は 10000 カりントを超え、統蚈的揺らぎの倧きさは 1%未満ずなる。分解胜を制
限する芁玠のうち倧きなものは、Al 箔における゚ネルギヌストラグリング衚
3-6-2ず怜出噚立䜓角で決たる幟䜕孊的゚ネルギヌ広がり3-7 節である。怜
出噚立䜓角を制限するこずによっお枬定感床を犠牲にしお分解胜を改善するこ
ずができる。
第 3 章の参考文献
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determination in solids” , Plenum Press, New York, (1986).
[2] J. L'Ecuyer, C. Brassard, C. Cardinal, J. Chabbal, L. Deschênes, J. P. Labrie ,B. Terreault, J. G.
Martel, and R. St.-Jacques, “An accurate and sensitive method for the determination of the depth
distribution of light elements in heavy materials”, J. Appl. Phys. Vol. 47, pp 381-382(1976).
[3] B. L. Doyle and P. S. Peercy, “Technique for profiling 1H with 2.5-MeV Van de Graaff
accelerators”, Appl. Phys. Lett. Vol. 34, pp. 811-813(1979).
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recoil using 1 to 2.5 MeV 4He ions, and for the 12C(d,p)13C and 16O(d,p1)17O nuclear reactions”,
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theory”, Nucl. Instr. and Meth. B, Vol. 174 , pp. 33-40(2001).
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106
第3章
匟性反跳散乱分析法による氎玠分垃分析系の構築
ions”, Nucl. Instr. and Meth. B, Vol. 155, pp. 229-237(1999).
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2.5–4.5 MeV and recoil angles from 30° to 60°â€, Nucl. Instr. and Meth. B, Vol. 174, pp. 25-32(2001).
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calculations in IBA methods”, Nucl. Instr. and Meth. B,Vol. 100, pp. 103-121(1995).
第郚 本研究で構築された分析系の
材料科孊ぞの応甚
108
第 4 ç«  酞化物匷誘電䜓䞭の酞玠および氎玠分析ぞの応甚
第 4 ç«  酞化物匷誘電䜓䞭の酞玠および氎玠分析ぞの応甚
第章
109
酞化物匷誘電䜓䞭の酞玠および氎玠分析ぞの応甚
本研究で構築された酞玠および氎玠分析システムの応甚ずしお、酞化物匷誘
電䜓材料䞭の酞玠および氎玠定量を詊みる。酞化物セラミクス結晶材料には高
枩超䌝導膜をはじめ、ピ゚ゟアクチュ゚ヌタなど幅広い応甚補品や関連分野を
も぀材料が倚数存圚し、ある材料に぀いお補法や評䟡法にブレヌクスルヌが起
こるず、幅広い分野にその圱響が波及する[1]。その䞭でもチタン酞ゞルコン酞
鉛 (PZT: Lead Zirconate Titanate) や タ ン タ ル 酾 ス ト ロ ン チ ã‚Š ム ビ ス マ ス
(SBT:Strontium Bismuth Tantalate)は近幎䞍揮発性蚘憶デバむス甚材料ずしお特に
泚目を集めおいる[2-4]。これら酞化物倚結晶膜の匷誘電䜓ずしおの性質は、結
晶栌子䞭のむオンの空間的な倉䜍によっお生じる電気双極子モヌメントの集団
である分極ドメむンの振る舞いに基づく。埓っお、匷誘電䜓ずしおの特性は結
晶䞭のむオンの倉䜍に圱響を䞎える栌子欠陥や栌子歪、サむト眮換、分極ドメ
むン壁の移動などによっお圱響を受けるから、望たしい性質の薄膜を埗るため
に、酞玠量の欠損や、氎玠による酞化物の還元、䞍玔物量などに぀いおの情報
が有甚である。
本研究で構築された分析系の応甚察象ずしお酞化物匷誘電䜓材料が遞ばれた
理由は、
・
非導電材料であり、電荷蓄積の圱響を受けにくいずいう分析法の特性が
掻かせるこず
・
匷誘電特性が酞玠欠損に敏感であるこず
・
氎玠還元問題があるこず
・
特性に䞍玔物同䜍䜓眮換効果があるこず
であるが、そのほかに、
・
䞍揮発性匷誘電䜓メモリの高性胜化に察する瀟䌚的な芁請
ずいう理由もある。本章では、高速、䜎消費電力である匷誘電䜓䞍揮発性メモ
リの特性ず応甚に぀いお抂芳した埌、本研究の䞻題である匷誘電䜓䞭の酞玠お
よび氎玠定量に぀いお述べられる。
第 4 ç«  酞化物匷誘電䜓䞭の酞玠および氎玠分析ぞの応甚
110

匷誘電䜓䞍揮発性メモリ
酞化物匷誘電䜓材料の応甚に぀いお、特に瀟䌚的圱響が倧きく、近幎泚目さ
れる分野の䞀぀が匷誘電䜓䞍揮発性メモリである。本節では、本章の䞻題であ
る材料分析に぀いお論じる前に、匷誘電䜓䞍揮発性メモリデバむスずその応甚
に぀いお抂芳しおおきたい。
4-1-1 匷誘電䜓䞍揮発性メモリの特城
‐高速、頑健、䜎消費電力、長寿呜な固䜓䞍揮発メモリデバむス
近 幎 実 甹 化 さ れ ぀ ぀ あ る 匷 誘 電 䜓 䞍 揮 発 性 メ モ リ (FeRAM: Ferroelectric
Random Access Memory)ずは、結晶䞭のむオンの倉䜍による電気双極子モヌメン
トの倉化実際には分極ドメむンの誘電分極を情報蚘録に利甚しようずする
ものである。メモリセルの構成方匏ずしおは、匷誘電䜓でキャパシタを構成し、
その反転電流の違いによっお読み出しを行う反転電流怜出方匏、匷誘電䜓材料
でゲヌト電極を構成するトランゞスタ方匏などがある。デバむスの構造や回路
構成の詳现に぀いおは文献[2-4]に譲る。匷誘電䜓を利甚した䞍揮発性メモリデ
バむスには次のような぀の特城がある。
最初の特城ずしおは、匷磁性および反匷磁性を応甚した珟圚の磁気ディスク
ず異なり、匷誘電䜓を応甚したメモリデバむスでは、アレむ状に䞊べたメモリ
芁玠を電気的に結線するこずにより任意の単䞀メモリ芁玠を指定しお曞き蟌み
および読み出しを行うこずが可胜であるこずが挙げられる。この特城のために、
磁気ヘッドや光孊系、たた媒䜓そのものを機械的に動かす必芁がなくなり、高
速で機械的振動に匷いデバむスが実珟できる。
番目の特城ずしお、匷磁性䜓デバむスが䞍揮発性の蚘憶デバむスであるの
ず同様、倚数の単䜍結晶栌子の集合䜓で構成される十分倧きな匷誘電䜓分極ド
メむンの分極方向は通垞䜿甚枩床で自然に反転するこずがなく、蚘憶保持に電
力を消費するこずがないこずが挙げられる。埓っお、DRAM(Dynamic RAM)や
SRAM(Static RAM)のような揮発性半導䜓メモリに比べお省電力である。たた珟
圚商業生産されおいる匷誘電䜓メモリセルにおいお分極反転に必芁な電圧は
1.1V-5V 皋床であり、フロヌティングゲヌトを甚いる EEPROM 等に比べお䜎電
第 4 ç«  酞化物匷誘電䜓䞭の酞玠および氎玠分析ぞの応甚
111
圧動䜜が可胜である。それに加えお EEPROM より高速に曞き蟌みが出来るこず
から䜎消費電力でもある。高速か぀省電力なメモリ玠子は情報凊理システムの
可搬性を高め、新たな応甚分野を開くものである。
぀めの特城ずしお、フロヌティングゲヌトにトンネル効果によっお電子を
泚入する EEPROM、Flash メモリず比范した堎合、曞き換え可胜回数が倧幅に増
加しおいるこずが挙げられる。
䞀方、FeRAM にはその長所ずずもに、次のような短所がある。
第の短所は、配線によっおメモリセルに察しお高速ランダムアクセスが可
胜になる反面、耇雑な倚局配線圢成工皋は、磁気ディスクに比べお蚘憶容量あ
たりの補造コストを䞊昇させるずいう点である。
第の短所は、Pb、Bi などの重金属や、Pt などの高䟡な貎金属が甚いられる
点である。Pb には䞭枢神経毒性があり、欧州では芏制が進んでいる。
珟圚のず
ころ、欧州 WEEE/RoHS 芏制[5,6]では電子セラミクス材料甚鉛は芏制察象倖であ
る。たた、Bi は無鉛ハンダの成分ずしお䜿われおいお圓面倧きな芏制の動きは
ないが、重金属芏制は今埌各囜で匷たるものず思われる。30-50 幎皋床の䞭長
期的な芖野からは資源埋蔵量の問題もある。
このように、いささか高䟡ではあるものの、高速、頑健、䜎電圧動䜜、䜎消
費電力、長寿呜ずいう優れた特城を持぀匷誘電䜓メモリを実珟するための実隓
的探玢は 1950 幎代半ばに始たったが、なかなか実甚的な性胜をも぀ようなデバ
むスを実珟するこずができなかった。その䞻な理由ずしおは、薄膜䜜成・評䟡
技術が発達する以前は分極反転に必芁な電界匷床を埗るために高い動䜜電圧を
必芁ずしたこずや、
「分極疲劎」問題、即ち、分極反転を繰り返しおいくず誘電
分極量が小さくなっおいくずいう問題、および「干枉問題」、すなわちあるメモ
リセルの分極を反転しようずするず近隣のメモリセルも反転しおしたうずいう
回路構成䞊の問題を克服できなかったこずが原因である。1980 幎代に入るず、
チタン酞ゞルコン酞鉛(PZT) 系材料を甚いた匷誘電䜓メモリの研究開発が進む
が、その瀟䌚的背景には機械的振動や電磁パルスおよび攟射線に匷い高性胜蚘
憶玠子に察する米囜の軍事的芁求があったずいわれおいる。1984 幎には米囜コ
ロラド州に RAMTRON 瀟が蚭立され、1993 幎にはチタン酞ゞルコン酞鉛(PZT)
系材料を応甚した 4 キロビットメモリデバむスの商業的な生産を始めおいる。
112
第 4 ç«  酞化物匷誘電䜓䞭の酞玠および氎玠分析ぞの応甚
たた 1992 幎には米囜 Symetrix 瀟の C.A.P. Araujo らずオリンパス光孊の䞉原らに
よる共同研究の成果ずしお分極疲劎特性にすぐれたタンタル酞ストロンチりム
ビスマス系SBT材料が発衚[7]され、FeRAM に応甚した堎合の曞き換え耐性
の向䞊が可胜になったこずから、匷誘電䜓メモリぞの関心が䞀局集たるこずに
なった。その埌集積床向䞊や商業生産ぞ向けたプロセス改善努力が続けられた
結果、珟圚すでにフラッシュメモリや EEPROM に比べお䜎電圧駆動昇圧回路
なしで 1.1Vが可胜で、高速100nsec 以䞋の曞き蟌み時間
、長寿呜1012 回
以䞊の反転ずいう優れた特性を持぀メモリデバむスに぀いおの発衚が半導䜓
補造各瀟より出されるようになっおきた。
このように、䞍揮発性磁気抵抗メモリMRAM: Magnetoresistive Random Access
Memory、カルコゲン化合物の加熱盞倉化に䌎う電気抵抗の倉化を利甚する
OUM メモリ(OUM: Ovonics Unified Memory)ず共に、次䞖代の䞍揮発性メモリデ
バむスずしお期埅されおいる[8]FeRAM は、䞀足早く実甚化段階を迎え぀぀ある。
è¡š 4-1-1-1 に珟圚商業生産されおいる各皮メモリデバむスの特性比范を瀺す。
FeRAM の応甚が広がるための鍵は、補造コストの䜎枛、特性を掻かした応甚補品
やサヌビスの開発、高密床化、および補造・廃棄の際の環境に察する圱響の䜎枛
であるず思われる。
第 4 ç«  酞化物匷誘電䜓䞭の酞玠および氎玠分析ぞの応甚
113
è¡š 4-1-1-1 珟圚商業生産されおいる各皮メモリの特性比范
文献[9]を基に構成
FeRAM
EEPROM
Flash
Memory
EPROM
MASK
ROM
DRAM
SRAM
䞍揮発
䞍揮発
䞍揮発
䞍揮発
䞍揮発
揮発
揮発
デヌタ保持期間
10 幎
10 幎
10 幎
10 幎
無限倧

1 幎 (電
池保持)
セル構成
2T/2C
1T/1C
2T
1T
1T
1T
1T/1C
6T,
4T2R
読み出し時間
30-180ns
200ns
120ns
150ns
120ns
50-70ns
曞き蟌み電圧
1.1V-5V
14V
9-20V
12V
䞍芁
3.3V
3.3V
重ね曞き
消去ある
いは曞き
蟌み

重ね曞き
重ね曞き
30-180ns
10ms
(バむト
単䜍)
0.5ms
(バむト単
䜍)

50-70ns
7085ns
必芁 (玫倖線
消去 泚 3)

䞍芁
䞍芁
デヌタ保持
曞き換
デヌタ え方法
の曞き
曞き換
換え
えサむ
クル
デヌタの
消去動䜜
䞍芁
曞き蟌みず
玫倖線消去 泚
消去の組み 3
曞き蟌み
合わせ
1-1000s
(セクタ
単䜍) 泚 2
必芁 (バ 必芁 (セク
むト消去)
タ消去)
7085ns
泚4
PZT1081012
泚1
105
105
100

無限倧
無限倧
䞍芁
䞍芁
䞍芁
䞍芁
䞍芁
必芁
必芁
1-20µA
1-20µA
1-5µA
100µA
30µA
500-1000µA
1-7µA
読出動䜜時電流
(最倧)
15-30mA
5-50mA
12-50mA
40mA
40mA
25-80mA
10-40mA
曞蟌動䜜時電流
(最倧)
5-30mA
8-50mA
35-50mA
40mA

25-80mA
10-40mA
曞き換え回数
SBT1012
泚1
デヌタ保持電流
埅機時電流
2T/2C
1T/1C
1T
2T
6T
4T2R
2 トランゞスタ/2 キャパシタ
1 トランゞスタ/1 キャパシタ
1 トランゞスタ
2 トランゞスタ
6 トランゞスタ
4 トランゞスタ2 負荷玠子
泚 1FeRAM-曞き換え回数 読み出しの堎合は、砎壊読み出しになるため、読み出しず再曞き蟌みの合蚈
回数。
泚 2Flash Memory-曞き換えサむクル チップ内郚でのプリプログラミング時間を陀く。
泚 3EPROM-玫倖線消去 2537Åの玫倖線、照射量1015Ws/cm2、1520 分
泚 4SRAM 読み出し時間 バッテリバックアップタむプ
第 4 ç«  酞化物匷誘電䜓䞭の酞玠および氎玠分析ぞの応甚
114
4-1-2 匷誘電䜓䞍揮発性メモリの高性胜化がもたらす瀟䌚的圱響
情報凊理システム単䜍ずしおの可搬性の向䞊ずナビキタスコンピュヌティング瀟䌚の実珟
匷誘電䜓メモリデバむスは、
「状態の倉曎が高速で、デヌタ保持に電力を必芁
ずしない電気的な状態蚘録・スむッチング玠子」ず捉えるこずができる。その
䞻な甚途を分類するず衚 4-1-2-1 のようになる。
4-1-2-1 FeRAM の応甚分野のおおたかな分類
è¡š
分類
1
汎甚䞍揮発性メモリ
2
EEPROM/SRAM/NOR-Flash
代替
接觊型 IC カヌド、車茉甚機噚
FPGA、
組み蟌み機噚の蚭定・デヌタ保持甚ラッチ回路たたは
メモリ
3
倖郚蚘憶媒䜓
デゞタル写真、音楜デヌタ蚘録甚媒䜓
4
小電力移動䜓通信
機噚甚メモリ
非接觊型 IC カヌド、
物流管理甚 RF-ID タグ、
PDA、携垯電話、ゲヌム機など
EEPROM や電池バックアップの SRAM のうち速床を芁求しないものに぀いお
は FeRAM で眮き換えるず、回路の高速化、䜎消費電力化が出来お電池が䞍芁に
なるなどの利点があるのでこの分野での FeRAM の利甚は進んでいくず考えら
れる。
倖郚蚘憶媒䜓ずしおは、FeRAM は高速で曞き換え耐性に優れるずいう利点は
あるが、NAND 型 FLASH メモリに比べお容量密床が䜎いので特に高速を芁求す
る甚途があれば適材適所で眮き換わっお行くず思われる。
匷誘電䜓䞍揮発性メモリを「汎甚䞍揮発性メモリ」ずしお情報凊理システム
構築に甚いた堎合の利点ずしお次のようなものがあげられる。
(a) 蚈算機システムに搭茉した堎合、磁気ディスクから䞻蚘憶にプログラムを
ロヌドする時間、及び電源断に先立っお揮発性メモリ䞊での挔算結果を磁
気ディスクに曞き出すための時間が短瞮され、快適に䜿甚できるようにな
る。
第 4 ç«  酞化物匷誘電䜓䞭の酞玠および氎玠分析ぞの応甚
115
(b) 電源䟛絊事故などによる貎重なデヌタの玛倱やシステム䞍安定が枛る。
(c) 磁気ディスク装眮で行われおいるように蚘憶媒䜓を高速回転させる必芁
がないので機械的な衝撃に匷い。
(d) 䜎消費電力であるから、電池駆動の堎合に、電池による駆動時間を䌞ばす
こずができる。たたは、より容量の少ない小型軜量の電池が䜿甚できる。
電池駆動でない堎合には電源が小型化でき、電源システムからの発熱を抑
えられる。
(e) 磁気ディスクの䜎速さを補うためのキャッシュメモリのような付垯回路
や䞊列ディスク制埡゜フトりェアが䞍芁になる。たたシステムの発熱量が
枛少するこずで冷华ファンなどを簡玠化するこずができ、さらに省電力コ
ンパクト化、静音化が可胜になる。冷华のための特別な配慮を必芁ずしな
い堎合、自由なレむアりトで高密床な実装が行えるようになる。
このように、高速・頑健・䜎電圧駆動・䜎消費電力ずいう優れた特性を持
぀䞍揮発性メモリの採甚によっお、入出力速床などのシステム性胜が改善さ
れるだけでなく、振動の激しい環境などこれたで電子情報凊理技術が利甚で
きなかったような過酷な環境における情報凊理システムの利甚が可胜になる
ずいう利点がある。
このような優れた特性にも関わらず、匷誘電䜓䞍揮発メモリが䞭芏暡倧
芏暡蚈算機システムにおいお短期間に磁気ディスクに取っお代わるずいうこ
ずは考えにくい。それは経枈䞊の理由による。すなわち、実甚化段階を迎え
お間もない匷誘電䜓䞍揮発性メモリは、珟行の蚈算機システムの䞍揮発性蚘
憶ずしお䞻流である磁気ディスクに比べるず蚘憶容量あたりの初期導入費甚
が桁違いに高䟡なためである。
珟圚の倧容量磁気ディスクの容量あたりの初
期導入費甚は固䜓メモリである DRAM の 1/100 から 1/1000 皋床であり、すで
に玙やマむクロフィルムよりも安䟡[11]になっおいる。もちろん、FeRAM 汎
甚メモリの初期導入費甚は、応甚分野の広がりず垂堎の拡倧、技術の成熟、
囜際的な競争および量産効果によっお埐々に䞋がっおいくに違いないが、
DRAM ず競争できるようにはただただ時間がかかるように思われる。ずいう
のも補造各瀟は DRAM における厳しい囜際的な䟡栌競争を経隓しおいるので、
汎甚䞍揮発メモリ生産ラむンに倧芏暡な投資を行い、競争的に最先端技術の
補品を垂堎に投入しおいくずいう戊略をずるこずが考えにくいからである。
第 4 ç«  酞化物匷誘電䜓䞭の酞玠および氎玠分析ぞの応甚
116
技術や知的財産暩の芳点から先行しおいる補造䌚瀟は、単機胜の汎甚メモ
リよりも、プロセッサや暗号化ブロック、無線通信回路を含んだ高機胜なロ
ゞック混茉システム LSI あるいは SiP(system in a package)モゞュヌルを補造し
お IC カヌド応甚補品のような高付加䟡倀補品・サヌビスの分野における垂堎
芇暩の獲埗に泚力するほうが経枈掻動䞊の利点が倧きいず考えられる。
以䞊のように、経枈的理由のためにギガ‐テラバむト皋床の倧容量甚途で
は DRAM や磁気ディスクの利甚が続くず掚枬されるが、高速小型小電力小容
量甚途、すなわち衚 4-1-2-1 の番目に挙げた「小電力移動䜓通信機噚甚メモ
リ」では、匷誘電䜓䞍揮発性メモリの特長が発揮できるので泚目される。以
䞋節を改めお匷誘電䜓䞍揮発性メモリの有力な応甚分野である RF-ID(Radio
Frequency Identification無線電波識別)タグず非接觊型 IC カヌドに぀いおごく
簡単に芋おおく。
4-1-3 匷誘電䜓䞍揮発性メモリの応甚分野の䟋RF-ID タグ
ごく近い将来の匷誘電䜓䞍揮発性メモリの応甚分野ずしお非垞に有望芖され
おいるのものの䞀぀にRF-ID(Radio Frequency Identification無線電波識別)タグず
呌ばれる非接觊ICカヌドたたはチップ応甚分野がある[2-4]。
RF-ID タグはコむルたたは平板状のアンテナを持ち倖郚ず無線で情報や゚ネ
ルギヌをやり取りする薄型カヌド状あるいはチップ状の情報凊理・蚘録デバむ
スであり、管理察象の物品あるいは生物ず共に移動し、察象の識別や移動の履
歎の管理を容易にする装眮である。圢状や甚途によっお非接觊 IC カヌド、RF-ID
タグず呌び名は倉わるが、ハヌドりェア的には同様のものである。クレゞット
カヌド様圢状のものでは、プロセッサを搭茉しおいるか吊かずいう基準による
分類でスマヌトカヌドず呌ばれるこずもある。RF-ID システムは第 2 次倧戊䞭に
開発された敵味方識別システムにその起源を持぀が、䜎駆動電圧、䜎消費電力
で高速な匷誘電䜓䞍揮発性メモリ技術や IPv6 に代衚されるような倧芏暡むンタ
ヌネット通信技術の成熟など呚蟺技術の発展に䌎っお近幎泚目を集めおいる。
いく぀かのものは商業補品ずしおすでに垂堎に出おおり、䜿甚電波の呚波数
や電力などに応じお、密着読み曞き型ISO/IEC 10536-n(JIS X 6321-n)、 近接
読み曞き型ISO/IEC 14443-n(JIS X 6322-n)、および近傍型ISO/IEC 15693JIS
X 6323-n等の電気的な囜際・囜内暙準芏栌も定たっおきおいる。高速で䜎消
第 4 ç«  酞化物匷誘電䜓䞭の酞玠および氎玠分析ぞの応甚
117
費電力な匷誘電䜓メモリを採甚するず、内蔵電池や倖郚端子から電源䟛絊をす
る代わりに電波を利甚しお電源䟛絊が行えるようになり、高速な曞き蟌み時間
の分だけデヌタの受け枡しに芁する時間が短瞮でき、通信により倚くの電力を
割くこずが出来るために無線通信距離が䌞ばせるずいう利点を持぀。たた、
RF-ID タグに容量の倧きい䞍揮発性 RAM が搭茉されおいるこずによっお、デヌ
タを参照するためにデヌタベヌス管理サヌバず通信する必芁がないずいう分散
管理性を持぀ようになる。
RF-ID タグの䞻な甚途には身分蚌明曞や電子鍵、亀通定期刞等各皮チケット、
荷札などがある。クレゞットカヌドや、印鑑に倉わる認蚌方法ずしおの応甚で
はセキュリティの理由から接觊読み曞き方匏の方が良いのではないかず思われ
る。バヌコヌドを利甚した管理システムずの倧きな違いは、
電波を利甚するので読み曞きの際に読み曞き装眮を密着させなくお良
い。
動的に情報の曞き換えや远加が出来る。
電子的に情報を保護する仕組みによっお停造や改竄が困難になる。
ずいう点が挙げられる。
RF-ID タグを利甚するずどのような䟿利があるのかずいうこずを身近な䟋を
通しお考える為に、実際的でないかもしれないが家庭における「物流拠点」ず
しお冷蔵庫、クロヌれット、曞棚等を考える。食品や衣類、本を管理するため
に RF-ID タグが利甚できる堎合、次のような利点がある。食品トレむや保存容
噚に貌付された RF-ID タグず冷蔵庫ずが互いに通信を行うこずによっお賞味期
限、産地、生産者、栄逊玠、食品添加物、䟡栌などの情報を冷蔵庫を開けずに
䞀芧するこずができるようになるので「賌入埌に忘れおいお食べずに廃棄しお
したった」ずいうようなこずを枛らすこずに圹立぀。たた調理メニュヌデヌタ
ベヌスず連携するこずによっお「今晩のおかずにカレヌはいかが」ず冷蔵庫
から提案を受けるようなこずも可胜になる。流通の各段階できめ现かな管理が
できるようになり、特別な栜培方法や飌料による高玚食材はそれを蚌明しやす
くなり高玚食材の垂堎も広がるであろう1。たた衣類のラベルに RF-ID タグが぀
1
食材の堎合には食材そのものにタグを貌付しにくいずか流通圢態ず最終消費圢態が異なる
等の理由で実際には実斜が困難、あるいは経枈的に匕き合わないこずもあるず思われる。
118
第 4 ç«  酞化物匷誘電䜓䞭の酞玠および氎玠分析ぞの応甚
いおいたら、掗濯機がそれを読み取るこずによっお掗濯の際に掗浄剀の皮類や
掗浄方法を自動的に遞ぶこずが可胜になり、
「掗濯したら瞮んでしたった」ずい
うようなこずが枛るであろうし、本に RF-ID タグが぀いおいたら、曞棚やコン
テナず本ずが通信するこずによっお目的の本を短時間で確実に探すこずができ
るであろう。
物品の管理以倖に人間の移動の管理にも有効である。たずえば、電車やバス
の定期刞に甚いるず定期刞をケヌスから出さずに自動改札機にかざすだけでよ
いので改札の混雑が緩和できるし、シヌトに読み取り機があれば怜札䜜業が容
易になる。「この列車には遊園地最寄駅で降りるお客様が 300 名乗車しおおり、
到着予定時刻にはにわか雚があるかもしれないので売店に傘を 60 本出すず共に
タクシヌ乗り堎の埅機車䞡を 30 台確保しおおこう」ずいうような動的な管理も
容易になる。たた、別の䟋ずしお倧芏暡な䌚合や名刺亀換䌚のような堎所で名
札や名刺に RF-ID タグが぀いおいたら同じ関心を持぀芋知らぬ人同士の亀流の
促進が期埅されるし、
「えヌず、このにこやかに挚拶をくれる人はどなただった
かな」ずいうようなこずも解消されるかもしれない。名刺から PDA(Personal
Digital Assistance)や携垯電話に盎接電子メヌルアドレスや電話番号を入力する
こずができるので、埌で䜏所録に転蚘する手間も省くこずが出来る。
抂念的には RF-ID タグはプロセッサ、メモリ、セキュリティ回路、無線 I/O
を持぀超小型蚈算機システムである。近幎 RF-ID タグが泚目されおいる理由ず
しお、物品管理に芁する費甚や人員、時間が削枛できるずか、クレゞットカヌ
ドの䞍正利甚被害が防止できるずいうような実甚的な目的以倖に、次の぀の
芳点から興味が持たれおいるように思われる。
その第は、無線通信による「むンタヌネット」網に埓来の意味での蚈算機
以倖の PDA、携垯電話、その他あらゆる物品や人間を参加させ、蚈算機内にそ
の盞互関係を蚘述するモデルを構築する瀟䌚的な実隓が始たったずいうむンタ
ヌネット技術応甚発展可胜性ずいう芳点からの興味であり、第番目は、脳型
ずでもいえばよいだろうか、非力な無数の蚈算機からなる集団を甚いお高い蚈
算機胜をも぀超分散システムを実珟するためのシステムアヌキテクチャ、プロ
グラミング方匏やデヌタ蚘述方匏の可胜性を远求する動機が増えたずいう点で
ある。
「ナビキタス遍圚的コンピュヌティングubiquitous computing[10]瀟
ここで冷蔵庫を挙げおいるのはあくたで説明の容易さのためである。
第 4 ç«  酞化物匷誘電䜓䞭の酞玠および氎玠分析ぞの応甚
119
䌚の到来」ずいう蚀葉が頻繁に匕甚・拡倧解釈されるこずはこれらのこずを象
城しおいる。
「ナビキタスコンピュヌティング」ずいう抂念登堎の背景には、倧
型蚈算機による集䞭管理から、
「マむクロコンピュヌタの発明」ずいう技術的革
新を経お、ワヌクステヌションや PC のネットワヌクを基盀ずしお、可塑性に富
み、党䜓ずしお高性胜で堅牢な情報凊理環境を䜎コストで実珟しおきたずいう
モデル経隓がある。高機胜 RF-ID タグに搭茉されおいるような「䜎消費電力の
高速メモリを搭茉したシステム LSI」の発明ずいう技術的革新は、「有線ネット
ワヌク接続された小型蚈算機による分散型情報凊理システム」ずいう自埋分散
型システム構築パラダむムの具珟化をさらに進めお、
「無線接続された無数の超
小型蚈算機にからなる環境」を実珟する前提の䞀぀ず期埅されおいる。ずはい
え、情報利甚環境が実質的に新時代を迎えるためには、高速䞍揮発性メモリ技
術は前提の䞀぀に過ぎず、䜎消費電力を実珟するプロセッサのアヌキテクチャ、
枩床差や茻射など䜎密床゚ネルギヌ源利甚技術、信頌性の高いオペレヌティン
グシステム、セキュリティ、信頌性の怜蚌、など倚数の芁玠技術における改善
の積み重ねが必芁であるず思われる。
新しい技術が瀟䌚で実際に応甚されるずき、ほずんどの堎合功眪䞡面をもっ
おいる。䟋えば、叀くは自動車の発明によっおそれたで䞍可胜だった長距離の
移動が可胜になった反面、倧道芞や物売りのような道路䜿甚の倚様性が倱われ、
亀通事故や倧気汚染の原因ずなったこずや、近幎の䟋では、携垯電話に電子メ
ヌル機胜が搭茉されおコミュニケヌションが䟿利になった反面、迷惑なダむレ
クトメヌルに悩たされるようになったずいうようなこずが挙げられる。RF-ID タ
グのような革新的な情報凊理技術が切り開く新しい未来にも、䞍䟿の解消、生
産性の向䞊や資源の有効利甚ずいったような人間生掻の向䞊以倖に、プラむバ
シヌの䟵害や新たな犯眪手段ずしお利甚される可胜性があるなどやはり功眪䞡
面があるように思われる。
RF-ID タグによる倧芏暡物流システムに぀いおは次のようなこずが心配され
おいる。䟋えば極端な䟋であるが、停造を防止する目的で高額玙幣に RF-ID タ
グを埋め蟌んだ堎合、満員電車の“ハむテク”スリにずっおも䟿利になるのではな
いかずか、あるいは、排出されたゎミの䞭の RF-ID タグは資源の分別凊理など
に有効である反面、様々な個人情報が知らない間に瞬時に収集されるのではな
いかずいうようなこずが心配されおいる。たた、開かれた環境で倧芏暡システ
120
第 4 ç«  酞化物匷誘電䜓䞭の酞玠および氎玠分析ぞの応甚
ムを構築する堎合、効率化の远求によっお冗長性が切り詰められる分、システ
ムが脆匱になるこずも懞念される。たずえば、RF-ID タグの利甚によっお高床物
流自動化が実珟した瀟䌚においおは、電磁パルス爆匟テロなどの攻撃に察しお
より脆匱になるかもしれない。したがっお開かれた環境で RF-ID タグたたはそ
れに類䌌の流通改善を行うには、そのような犯眪やプラむバシヌ䟵害を防ぎ、
倧芏暡システムの故障察策を備えた安党な圢で䟿利さを享受するための倫理的
な合意、法埋的な枠組みず運甚および基瀎技術の開発が求められおいる。
以䞊のような RF-ID タグを利甚した物流システムの朜圚的な欠点に察し
お、利点は明らかである。RF-ID タグを物流管理に応甚するず、いわゆるサプラ
むチェヌンの各原料䟛絊、補造加工、流通段階や、消費段階、および廃棄、リ
サむクル段階を通じお生産、物流効率を改善し、゚ネルギヌや資源、時間の利
甚を効率化する効果が期埅できる。消費者にずっおも玠性のよくわかった補品
が迅速安䟡に䟛絊されるずいう利益がある。その反面、消費者にはサプラむチ
ェヌンにおける圹割分担たずえば賌入情報の提䟛に参加するかどうかの決
定に䞻䜓性を発揮する䜙地、぀たり RF-ID タグを蚱容するか吊かの遞択暩がほ
ずんど䞎えられないこずによる抵抗感ず䌚員カヌド等のデヌタベヌスずの連携
など情報利甚の高床化によるプラむバシヌ䟵害の懞念ずがある。消費段階にお
けるこのような問題を「公正」な圢で解決し、プラむバシヌ保護を法埋䞊のみ
ならず技術的に保障する䟋えば結果が目芖できるような䌑眠・砎壊機胜や時
刻を通信時に取埗しお有効期限切れの情報は消去されるような機胜を付加する
等こずが RF-ID タグを利甚した流通改善の課題のひず぀であるように思われ
る。
RF-ID タグの利甚には、技術䞊の問題以倖に䞊述のような運甚䞊の問題や、
RF-ID タグ自䜓の回収再利甚の問題もあるので、消費者向け補品に含たれない圢
で物流パレットやコンテナぞの利甚が進んでいくであろう。そのほか、補造、
販売、流通履歎を厳密に管理するメリットが倧きく、RF-ID タグの費甚を無芖で
きるような性質の物品管理や、公共的な性栌を持぀ものに぀いおは応甚がしや
すいず思われる。それらは䟋えば、図曞通の蔵曞管理、矎術品や文化財デヌ
タ保持期間内の短期間、家畜およびペットの管理・防疫、垌少動怍物の管理、
毒劇物、医療甚麻薬、茞液ボトル、血液補剀、栞燃料、兵噚の流通管理やアク
ティベヌションシステム、産業廃棄物管理、茞出入課皎手続き、パスポヌト、
第 4 ç«  酞化物匷誘電䜓䞭の酞玠および氎玠分析ぞの応甚
121
すでにナンバヌプレヌト等で管理されおいる自動車の管理やリサむクルのよう
な分野である。
本節では、以䞊の様に、高速、䜎消費電力、頑健な䞍揮発性ランダムアクセ
スメモリを搭茉した小型 LSI システムが、無線通信技術や暗号化技術などず䞀
䜓ずなっお、物流効率の改善のみならず、瀟䌚における物ず人間ずの関係を倉
化させおしたい埗るほどの革新性を備えおいるずいうこずを抂芳した。
4-1-4 匷誘電䜓メモリ補膜プロセスの課題
前節たでに芋たように、高速省電力メモリずしおの匷誘電䜓メモリは、蚘憶
メディア単䜓ずしおよりも高速無線通信技術や情報凊理技術ず協働するずきに
倧きな力を発揮する。぀たり蚘憶デバむスずしおだけでなく小型蚈算機システ
ムずしお構成できれば応甚や垂堎が広がる。小型蚈算機システムを構築する際、
䞀぀䞀぀は小さくおも、芁玠の数が同じであれば、組み立おおよび芁玠間の配
線工皋数は同じであるから、超小型蚈算機システムを構築するこずを考える際
には、「システム LSI」ずしお同䞀の半導䜓チップの䞊に情報凊理ブロックや通
信制埡ブロックなどず混茉されおいるか、少なくずも同䞀のパッケヌゞに収玍
されおいるこずが䜿甚䞊の䟿利がよい。防犯䞊の理由からも同䞀パッケヌゞ
チップ内実装が望たしい。たずえば、せっかく倖郚ずのデヌタ入出力に暗号化
が斜されおいおも、暗号化されおいない通信が行われるシステムバスぞの倖郚
からのアクセスが容易であれば安党でないからである。同䞀の半導䜓チップ䞊
に情報凊理ブロックず䞍揮発性メモリブロックずを混茉するためには埓来の
CMOS プロセスに匷誘電䜓膜堆積プロセスを加える必芁がある。このためには
次のような課題を解決する必芁がある[3]。
䜎枩䜜成プロセスの開発
氎玠による匷誘電䜓膜の還元問題
最初に挙げた䜎枩䜜成プロセスの開発ずは次のような問題である。PZT や SBT
は結晶材料であり、通垞行われる結晶化焌成枩床は 800 床以䞊である。
CMOS トランゞスタ圢成工皋の埌にこのような高枩焌成を行うず埮现なアル
ミ配線が損傷しおしたう等の問題がある。この問題に察する解決ずしお、レヌ
122
第 4 ç«  酞化物匷誘電䜓䞭の酞玠および氎玠分析ぞの応甚
ザヌアブレヌション法による膜堆積や、ランプ照射加熱を䜿った高速熱アニヌ
ル法(RTA:Rapid Thermal Annealing)など非平衡加熱方法が探玢されおいる。物理
的な加熱方法の研究に加えお材料の化孊觊媒効果などの改良によっお䜎枩圢成
を実珟する方法も研究されおいる。しかし非平衡成長によっお、匷誘電䜓 SBT
結晶栌子には栌子欠陥が導入され、Bi や O が欠損しお理想的な匷誘電特性が埗
られないずいう問題がある。原子番号の倧きいビスマスはむオンビヌム分析で
は敏感に定量できる元玠の代衚であり、2 章で構築した酞玠分析法ず䜵せお堆積
膜の評䟡にむオンビヌム分析法が応甚できるず考えられる。
2 番目に挙げた氎玠による還元問題ずは぀ぎのような問題である。アモルファ
ス材料ず異なり、結晶材料である匷誘電䜓セラミクス材料の堆積に圓たっお、
䞋地電極にはヘテロ゚ピタキシャル成長の基板ずしおの圹割が求められる。こ
のような理由で、PZT や SBT のような匷誘電䜓膜の䞋地電極材料ずしお通垞 Pt
電極が甚いられおいる。ずころが電極䞊に酞化物匷誘電䜓膜を補䜜するず、氎
玠を含んだフォヌミングガスアニヌルプロセス2ゲヌト酞化膜ず䞋地シリコン
ずの間のダングリングボンドを氎玠終端するために 350℃近傍で行うアニヌル
などによっお酞化物匷誘電䜓材料が還元されおしたい、リヌク電流特性や、匷
誘電的性胜が著しく劣化する問題である。この劣化は氎玠によっお酞化物材料
が還元され分解されるからであるず考えられおいる。350℃のような䜎枩で還元
が起こる理由ずしお、電極ずしお䜿甚されたプラチナ電極が觊媒ずしお働いお、
氎玠がむオン化され、酞化物匷誘電䜓材料の還元が起こるのではないかず蚀わ
れおいる[12-14]。このような氎玠による還元機構を解明し、プロセスを改善す
るためには膜䞭の還元性氎玠や氎玠ず拮抗的な圹割をも぀酞玠の挙動を把握す
るこずが必芁になる。このような芋地から PZT で SIMS をおこなった結果[14]
が報告されおおり、むオンビヌム分析が有甚であるず考えられる。
次節以䞋、本研究で構築された酞玠および氎玠定量システムを、匷誘電䜓䞭
の酞玠や氎玠、およびビスマスなどの分垃情報を埗るために応甚した結果が述
べられる。
2
還元が起こりそうな凊理には他に次のような CVD 凊理や゚ッチング凊理がある。
・匷誘電䜓キャパシタ局を包み蟌むバリア局および局間絶瞁膜の CVD 堆積過皋
・匷誘電䜓キャパシタの䞊郚䞋郚電極それぞれず、FET の゜ヌスドレむンそれぞれに金属
配線局から結線するためのコンタクトホヌルの゚ッチング工皋
・金属配線の絶瞁膜を堆積する工皋
・最終のパッシベヌション局の堆積ず゚ッチング工皋
第 4 ç«  酞化物匷誘電䜓䞭の酞玠および氎玠分析ぞの応甚

123
むオンビヌム分析を応甚した匷誘電䜓膜の組成分析ず評䟡
4-2-1 匷誘電䜓メモリ補膜プロセスにおける課題解決のための
むオンビヌムを分析技法の応甚
本節以䞋、章で構築した酞玠分析法および章で構築した氎玠分析法に埓
来の RBS 法を加えおむオンビヌムを甚いた匷誘電䜓膜の組成分析に応甚する詊
み に ぀ い お è¿° べ る 。 本 研 究 で は 有 機 金 属 分 解 法  MOD: Metal-Organic
Decompositionず有機金属気盞成長法MOCVD:Metal-Organic Chemical Vapor
Deposition を 甹 い Pt 電 極 侊 に タ ン タ ル 酾 ス ト ロ ン チ ã‚Š ム ビ ス マ ス (SBT:
Strontium Bismuth Tantalate)系薄膜を䜜成した。それらの詊料に぀いお、電子顕埮
鏡(SEM: Scanning Electron Microscopy)による芳察や X 線回折(XRD: X-Ray
Diffractometry)ず共に、酞玠欠損や氎玠分垃デヌタを埗るこずを目的ずしおむオ
ンビヌム分析による薄膜評䟡を行った。その結果埗られた酞玠欠損や氎玠含量
などの知芋を蚘述する。
4-2-2 有機金属分解MOD法を甚いた SBT 詊料の堆積
本研究の䞻題であるむオンビヌム分析法を匷誘電䜓膜詊料に適甚するにあた
っお、補法による組成の違い、特に氎玠量の違いを明らかにするために皮類
の SBT 系詊料が甚意された。䞀皮類は Pt/SiO2/Si 䞋地基板䞊に有機金属分解
MOD法 によっお堆積された SBT 系詊料であり、もう䞀皮類は、Pt/Ti/SiO2/Si
基板䞊に有機金属気盞成長法MOCVD 法によっお堆積された SBT 系詊料で
ある。MOD 詊料はコロラド倧孊の蚭備を甚いお補䜜したが、MOCVD 詊料はコ
ロラド倧孊の Araujo 教授より埡提䟛いただいたものである。MOCVD 詊料の補
膜プロセスの詳现は明らかでない。
MOD 法は芪油性の炭化氎玠鎖で金属むオンを取り囲んだ金属カルボキシレ
ヌト(図 4-2-2-1)や金属アルコキシドをトル゚ンや、キシレン等の有機溶媒䞭に溶
解、分散させた液䜓原料を基板に塗垃し、熱分解によっお有機成分を離脱させ
るこずによっお目暙ずする材料を埗る方法である。ゟルヌゲル法ずの違いは、
ゟルゲル法では金属アルコキシドは氎ず反応しお加氎分解、瞮合反応によっ
第 4 ç«  酞化物匷誘電䜓䞭の酞玠および氎玠分析ぞの応甚
124
おゲル状の高分子ネットワヌクを圢成するが、MOD 法では溶媒䞭に原料が溶解
した安定な溶液のたたであるずいう点である。いずれにせよ、液䜓原料をスピ
ン塗垃するか、あるいは霧状にしお基板に付着させる(LSMCD: Liquid Source
Misted Chemical Deposition 法)かによっお有機金属原料を目的堎所に䟛絊し、加
熱分解、結晶化によっお目的の膜を埗る方法である。
図 4-2-2-1
ビスマスカル
ボキシレヌト錯䜓である
2-゚チルヘキサン酞ビス
マス C24H45BiO6 の構造
金属むオンが炭化氎玠鎖を
持぀カルボン酞むオンで取り
囲たれおおり、キシレンやト
ル゚ンに溶解する。
高密床メモリデバむス䜜成のための方法ずいう芳点から、MOD 法は
・ 高真空・倧型装眮を必芁ずしない
・ 調補枈コヌト剀が安定的に長期保存できる
・ 倧面積膜を比范的䜎コストで堆積できる
ずいう利点がある反面、
・ 有機成分の脱離に䌎う䜓積収瞮があり倚孔質な膜になりやすい
・ 溶液の衚面匵力や濡れ性の制埡のための確実な方法論がなく気盞成長に比
べお段差被芆性が確保できない
・ 膜䞭の有機物由来の残留炭玠分のためにリヌク電流に぀いおの性胜が悪い
・ ヘテロ゚ピタキシャル成長を利甚した結晶方䜍の制埡性が劣る
ずいう欠点が埐々に明らかになっおきた。メモリデバむスを䜎電圧で駆動する
ためには緻密で均䞀な薄膜を堆積する必芁があり、たたメモリセルの芋かけの
面積を小さくするため平面キャパシタを立䜓構造にするアプロヌチを採甚すれ
ば段差被芆性に優れた堆積法を採甚しなければならない。したがっお、珟行の
第 4 ç«  酞化物匷誘電䜓䞭の酞玠および氎玠分析ぞの応甚
125
DRAM に比肩できるような倧容量高密床䞍揮発性メモリの倧量生産のためには
気盞成長法である MOCVD 法による生産システムの開発が䞍可欠だず考えられ
おいる。匷誘電䜓関連の孊䌚等ではワコム電創や、米 Applied Materials、Primaxx、
独 Aixtron などによっお MOCVD による酞化物匷誘電䜓薄膜堆積システムの商業
化に぀いおの発衚が行われおいる。
むオンビヌム分析のための SBT 膜詊料の有機金属分解MOD法による補膜
は次のように行われた。 [15,16]
p-型 (100) Si り゚ハを熱酞化凊理するこずによっお SiO2 局が圢成された。酞
化膜圢成は䞻に Pt 電極ず Si ずの間のシリサむド圢成を抑止する目的である。そ
の埌、盎流スパッタ法によっお玄 200 nm のプラチナ電極局を圢成した。スピン
コヌト工皋盎前に真空䞭で 180 床 30 分の脱氎ベヌキングを行った。スピンコヌ
ト甚の前駆䜓溶液は調補枈前駆䜓材料 (Y-1、高玔床化孊補) を甚い、宀枩で n酢酞ブチルで垌釈するこずによっお 0.12 mol/l になるように粘床調敎された。
調補枈前駆䜓材料の䞻成分は金属カルボキシレヌトであり、2-゚チルヘキサン
酞ビスマスBi[C4H9CH(C2H5)COO]3 CAS#: 67874-71-9, 図 4-2-2-1、2-゚チルヘ
キサン酞ストロンチりムSr[C4H9CH(C2H5)COO]2 CAS#: 2457-02-5, 2-゚チルヘ
キサン酞タンタルを Sr:Bi:Ta=1:2.2:2 の組成比になるようにキシレン溶液ずしお
調補[17]したものである。原料溶液付属の ICP(inductively coupled plasma emission)
分析結果によれば、前駆䜓溶液には埮量金属䞍玔物ずしお Ba (2 ppm), Ca (0.9
ppm), Na (0.3 ppm), Zn (0.3 ppm)が含たれおいるが Al, Fe, K, Mg は怜出されおい
ない。
図 4-2-2-2 に補膜手順の抂略を瀺す。前駆䜓溶液は脱氎ベヌク埌の Pt/SiO2/Si
基板䞊にスピン塗垃法によっお 2 回に分けお塗垃された。スピンコヌト甚の溶
液を 1500 rpm 、30 秒で塗垃し、倧気䞭でホットプレヌトを甚い 160°C で分間
也燥した埌、260°C で分間仮焌きした。その埌酞玠雰囲気で、RTARapid Thernal
Annealing法による結晶化アニヌルが行われた。RTA の昇枩プログラムは、文
献[16]に蚘述されおいるのず同様である。スピン塗垃から RTA たでの手続きを 2
回繰り返した埌、匷誘電䜓膜圢成の最埌の工皋ずしお、酞玠雰囲気においお
800°C で 60 分のアニヌルを行った。その埌、膜の䞊郚にプラチナ電極を圢成し
おキャパシタを圢成ずしたものず、䞊郚電極なしの詊料ずに分けた。䞊郚プラ
チナ電極を付ける詊料は、アルゎンガスを甚いた DC スパッタ法による Pt 膜の
堆積に匕き続いおフォトリ゜グラフィヌによっお様々な面積の䞊郚電極を圢成
126
第 4 ç«  酞化物匷誘電䜓䞭の酞玠および氎玠分析ぞの応甚
した埌、酞玠雰囲気䞭 800°C で 30 分間の回埩アニヌルを行った。以䞊のような
過皋によっお堆積された膜は分析たで宀枩倧気䞭で保管された。
図 4-2-2-2
MOD 補膜手順
補 膜 は 文 献 [16] の
蚘述に沿っお行わ
れた。
4-2-3 むオンビヌム分析の匷誘電䜓膜ぞの応甚
本節では、高゚ネルギヌむオンプロヌブの匟性散乱を利甚した、酞化物匷誘
電䜓膜の酞玠、氎玠をはじめずした組成分析の詊みに぀いお述べる。氎玠分析
には章で述べた匟性反跳散乱分析法ERDが甚いられ、その他の重金属の
分析にはラザフォヌド埌方散乱法RBS[6]第章が甚いられる。たた、
酞玠分析においおは、第章で述べた栞共鳎散乱法NRAを利甚した感床増
匷が詊みられる。
むオンビヌムを甚いた組成分析に先立っお、゚リプ゜メヌタによる膜厚枬定、
および、Cu-Kα線を甚いた線回折(XRD:X-Ray Diffractometry)による結晶性の調
査、原子間力顕埮鏡AFM:Atomic Force Microscopyおよび走査型電子顕埮鏡
SEM:Scannning Electron Microscopyによる衚面モルフォロゞの芳察、分極ヒ
ステリシス特性の枬定が行われた。
RBS, ERD,および NRA むオンビヌム枬定系の䞻芁郚を図 4-2-3-1 に瀺す。むオ
ンビヌム照射枬定は以䞋のように行われた。
第 4 ç«  酞化物匷誘電䜓䞭の酞玠および氎玠分析ぞの応甚
127
図 4-2-3-1 4He+むオンビヌ
ムをプロヌブずした組成分
析システムの䞻芁郚
15 mm × 15 mm の SBT è©Šæ–™(b)が䞊郚電極のない MOD 詊料ず MOCVD 詊料か
ら切り出され、真空槜内のゎニオメヌタ詊料台に取り付けられた。枬定を通じ
お、真空槜はタヌボ分子ポンプず回転ポンプによる恒垞的な排気が行われ、真
空槜内の圧力は 1×10-4 [Pa] より良い真空に保たれた。照射むオンずしお
1MeV-3.4MeV の゚ネルギヌをも぀ 4He+ むオンビヌムが甚いられた。照射むオ
ンはタンデム加速噚によっお加速され、コリメヌタ(a)を甚いお平行化された。
照射ビヌムの゚ネルギヌ分垃は RMS 倀が 1keV 皋床の幅の狭いガりス分垃であ
る。円圢コリメヌタの詊料偎の開口埄は 0.5mm であった。詊料法線にそっお入
射した堎合の照射スポット埄は 0.5mm より広がっおおり、同様の条件で枬定さ
れた有機膜詊料䞊の照射痕から 0.7mm ず芋積もられた。したがっお ERD 法によ
る氎玠枬定においお詊料法線ず入射ビヌムのなす入射角が 80°ã®æ™‚、詊料䞊の照
射スポットの圢状は、0.7 mm × 4 mm の倧きさの现長い楕円ずなる。このずき、
プロヌブむオン 1mC のドヌズ量は 2.8×1014 probes/cm2 に盞圓する。照射䞭プロ
ヌブビヌム電流は 2.5 nA を䞭心に 1 nA から 3 nA の間を䞊䞋した。RBS 法に
よっお埌方散乱プロヌブを怜出するためのシリコン半導䜓怜出噚SSD: Solid
Semiconductor Detector) が 169°ã®äœçœ®ã«èš­çœ®ã•ã‚Œã€ERD 法によっお氎玠を怜出
するための SSD(d)が 20° の䜍眮に蚭眮された。氎玠甚の怜出噚(d)ず詊料(b)ずの
間には前方散乱プロヌブを遞択的に吞収するためのアルミ箔(e) が眮かれおい
る。2.232 MeV のプロヌブむオンにたいしお 9.3 mm (5.6×1019 cm-2)厚の圧延アル
第 4 ç«  酞化物匷誘電䜓䞭の酞玠および氎玠分析ぞの応甚
128
ミ箔が甚いられた。枬定で埗られた RBS/ERD スペクトルは RUMP [19] および
SRIM [20]を甚いお組成プロファむルに倉換された。氎玠の 2.232MeV
4
He+ ã‚€
オンに察する反跳断面積はラザフォヌドの倀よりも倧きくなるが、この効果を
正しく取り入れるために Tirira et al. [21]による補正が甚いられた。3.032 MeV 近
傍における酞玠共鳎の散乱断面積は Leavitt et al. [22]による倀を䜿甚した。
4-2-4 MOD 法で堆積されたタンタル酞ストロンチりムビスマス(SBT)系薄膜の
分析評䟡結果
(a) 結晶構造ず X 線回折パタヌン
è¡š 4-2-4-1 䜎枩補膜で報告されおいる SBT 関連盞
結晶構造
結晶盞
ビスマス局状
ペロブスカむト
蛍石型
tetragonal
a=5.5224,b=5.5241
c=25.0264
fcc
a=5.37-5.446
備考
MO2(M=Sr,Bi,Ta)
a=5.4
蛍石型 II
ビスマス欠損
パむロクロア
栌子定数
cubic
a=10.51
æ­ª SBT
orthorhombic
a=5.361,c=26.83
c=5a,a 軞配向
偏析盞
cubic
a=5.54
d-Bi2O3
fcc
a=5.39
蛍石型構造
゚ピタキシャル
酞化物
図 4-2-4-1 に MOD 法および MOCVD 法で補膜された SBT 系膜の X 線回折パ
タヌンを瀺す。MOD 法によっお堆積された膜の XRD パタヌン図 4-2-4-1 䞋
は倚結晶匷誘電䜓ビスマス局状ペロブスカむトに特城的なパタヌンを瀺す。䞀
方、MOCVD 法で䜜成された膜の回折パタヌン図 4-2-4-1 䞊はいく぀かのが
やけたピヌクをもち、通垞のq-2q枬定では結晶孊的指数を正しく決めるこずが
難しい [23]. 䜎枩堆積された SBT 膜には衚 4-2-4-1 に瀺すような結晶盞が報告さ
れおいる。MOCVD 詊料に察する回折パタヌンで 29° 付近に珟れる匷いピヌク
はフルオラむト(111) [24] か、あるいはビスマス欠損をも぀パむロクロア (222)
[25], もしくは匷誘電䜓ビスマス局状ペロブスカむト[26] (008) (115)ずいうよう
な耇数の可胜性が考えられる。33°ä»˜è¿‘で Si (400) に重なる匱いピヌクはフルオ
ラむト(200)によるものかもしれない。
第 4 ç«  酞化物匷誘電䜓䞭の酞玠および氎玠分析ぞの応甚
129
図 4-2-4-1 MOD 法および MOCVD 法で補䜜された SBT 系膜の X 線回折パ
タヌン
図 4-2-4-2 MOD 法で堆積された SBT 膜の誘電分極ヒステリシス曲線
130
第 4 ç«  酞化物匷誘電䜓䞭の酞玠および氎玠分析ぞの応甚
(b) 誘電分極履歎曲線
図 4-2-4-2 に MOD 法で䜜成した詊料の分極ヒステリシス曲線を瀺す。分極特
性曲線の枬定は、コロラド倧孊の蚭備で行われた。盎埄 100Ό面積 7850 mm2
の円圢䞊郚電極によっお Pt/SBT/Pt/SiO2/Si の構造を持぀キャパシタを構成し、
Sawyer-Tower 回路を利甚した枬定システムRadiant Technologies RT-66Aを甚
い、10kHz の䞉角波を印加するこずによっお分極ヒステリシス曲線を枬定した。
䞉角波の振幅は、3V-10V たで 1V 刻みで倉化させた。図 4-2-4-2 䞭には 8 本の閉
ルヌプが瀺されおいる。SBT 局の膜厚が 190nm であるから、1V の電䜍差は
53kV/cm に盞圓する。印加電圧が 4V のずきに曲線はほが飜和し、印加電圧が
5V のヒステリシス曲線から残留分極 2Prヒステリシス曲線が瞊軞を切る幅を
正負䞡偎で蚈ったものは 19.1mC/cm2, 抗電界 2Ec はヒステリシス曲線が暪軞
を切る幅を正負䞡偎で蚈ったものは 103kV/cm ず求められた。
(c) 衚面圢態芳察
電界攟射型走査電子顕埮鏡(FESEM:Field Emission-SEM)による MOD 詊料の衚
面像を図 4-2-4-3 に、MOCVD 詊料の衚面像を図 4-2-4-4 に瀺す。X 線回折パタ
ヌンで芋られたように、MOD 法で堆積された膜は結晶ファセットを持぀倚結晶
ビスマス局状ペロブスカむトの特城が珟れおおり、兞型的なグレむンサむズは
100 nm ず芋積もられる。空隙の倚い構造は、焌成に䌎う有機成分の脱離による
䜓積枛少の効果ず考えられる。
図 4-2-4-5 は収束むオンビヌム装眮によっお撮圱された MOD 詊料の断面であ
る。断面研磚に甚いられた Ga 収束むオンビヌムによっお衚面はかなりダメヌゞ
を受けおいるが、MOD 詊料の SBT 局の膜厚ぱリプ゜メトリヌによる膜厚枬定
結果 190 nm ず矛盟しない結果が埗られた。図 4-2-4-5 においお、䞋地の Pt 電極
局ず SiO2 局の厚さはそれぞれ 190 nm および 530 nm ず芋積もられる。
図 4-2-4-4 は MOCVD で䜜成された SBT 系詊料の FESEM 芳察像である。密に
詰たったファセットのない数十 nm 皋床の長さの枝を持぀珊瑚状凝集䜓からな
り、MOD で䜜成された詊料に比べお衚面はフラットである。゚リプ゜メトリヌ
によっお最衚面の SBT 局の厚さは 120 nm ず芋積もられた。
第 4 ç«  酞化物匷誘電䜓䞭の酞玠および氎玠分析ぞの応甚
図 4-2-4-3 MOD 法で堆積された SBT 膜の FESEM 芳察像
図 4-2-4-4 MOCVD 法で堆積された SBT 膜の FESEM 芳察像
倍率が 4-2-4-3 ず異なるこずに泚意
131
第 4 ç«  酞化物匷誘電䜓䞭の酞玠および氎玠分析ぞの応甚
132
図 4-2-4-5 MOD 法で堆積
された SBT 膜の Ga 収束む
オンビヌムによる゚ッチン
グ断面芳察像
(d) 高速むオンビヌム散乱による MOD 膜の組成分析
図 4-2-4-6 に MOD 法で堆積された SBT 膜に察するラザフォヌド埌方散乱スペ
クトルを瀺す。プロヌブビヌムの゚ネルギヌおよびむオン皮は 3.045 MeV の
4
He+ であり、照射ビヌムフラックスは 4.0×1012 cm–2 s–1 、照射フルヌ゚ンス
1.6×1016 cm–2、散乱角 169°ã§æž¬å®šã•ã‚ŒãŸã€‚実枬デヌタを点で、モデルに基づく蚈
算倀を倪い実線で瀺す。ビスマス、タンタル、ストロンチりムのそれぞれの寄
䞎は濃淡によっお瀺されおいる。
モデル蚈算によっお、スペクトルは非垞によく説明するこずができ、特に、
ビスマスタンタル比はスペクトルの゚ッゞから粟床よく決定するこずが出来
る。図䞭 A ず衚瀺された点線で囲たれた郚分ではモデルず実枬倀が食い違っお
おり、実枬倀のほうが倧きい。これは次のような぀の可胜性が考えられる。
すなわち、
 Bi が䞋郚 Pt 界面で過剰になっおいる
 膜の厚さが䞍均䞀なために芋かけ䞊 Bi の寄䞎分が䜎゚ネルギヌ偎に
尟を匕いおいる。
 Pt 電極局ず SBT 局の盞互拡散が起こっおいるために生じた浅い Pt に
よる寄䞎
が考えられる。モデルに盞互拡散を考慮するこずを詊みたずころ、A 郚の食い
違いは、SBT-Pt 間の界面拡散、たたは SBT 局の厚さの䞍均䞀で説明するには倧
第 4 ç«  酞化物匷誘電䜓䞭の酞玠および氎玠分析ぞの応甚
133
きいず考えられ、RBS スペクトルからは、界面に過剰ビスマスが単䜓あるいは
酞化物などの圢で析出しおいるず解釈するのがもっずもらしいように思われる。
図 4-2-4-6 MOD 法で堆積された SBT 膜のラザフォヌド埌方散乱スペクト
ル
埌述するようにスペクトルの゚ッゞの高さから求められるビスマスタンタ
ル比はほが 1 である。原料溶液で化孊量論組成から 10過剰にしたビスマスが
加熱によっお揮発Bi は昇華性を持぀しお基板䞊から倱われるこずのほかに、
図 4-2-4-6 䞭で A ずしお瀺した郚分の原因ずしお Pt 界面付近に偏析しおいるの
ではないかず考えおいる。
モデル蚈算から芋積もられるそれぞれの寄䞎を Bi, Ta, Sr 各々の絶察量に換算
するず Bi:15.96≀0.059 ×1016cm–2, Ta:15.64≀0.067 ×1016cm–2, および Sr:7.765≀0.090
×1016cm–2 ず決定するこずができる。これには図 4-2-4-6 äž­ A で瀺された前述の
Bi 過剰分ず解釈される食い違いは考慮されおいない。図 4-2-4-6 には䜎゚ネルギ
ヌ偎の軜元玠の寄䞎が衚瀺されおいないが、図 4-2-4-7 に瀺された共鳎スペクト
ルなどから同様にしお、詊料衚面近傍の酞玠量は 64.70≀0.570 ×1016 cm–2 ず芋積
134
第 4 ç«  酞化物匷誘電䜓䞭の酞玠および氎玠分析ぞの応甚
もるこずができる。゚リプ゜メトリヌや FIB 断面像から埗られる平均膜厚は
190nm であるので、これら元玠の絶察量を甚いるず、MOD 法によっお堆積され
た膜の密床はおよそ 7 g/cm3 ず芋積もられる。SBT の単結晶の密床を、栌子定数
から芋積もるず 8.8g/cm3 であるので、20%皋床の差異がある。この内蚳は、ボむ
ド、結晶粒界、点欠陥および有機原料由来の炭化氎玠ず考えられる。
膜䞭炭玠
は氎玠プロヌブ RBS 枬定および 4.3MeV 近傍の 12C(α,α)12C 枬定によっお存圚が
確認された。䞀方、䞊郚電極を぀けた詊料の誘電分極ヒステリシス特性図
4-2-4(b)によれば残留分極Pr の倀ずしお 19.1[mC/cm2]ずいう SBT 詊料ずしお
は暙準的な倀が埗られおいるこずから、密床が䜎いのは内郚に空隙が倚いずい
うよりはむしろ膜厚の䞍均䞀であるように思われる。
むオンビヌム分析で埗られた、詊料衚面のストロンチりム,ビスマス,タンタル,
お よ び 酾 玠 原 子 の 絶 察 量 を Sr=1.00 ず し た 比 で あ ら わ す ず 、 Sr1.00
Bi2.06≀0.03Ta2.02≀0.03O8.33≀0.17 ずなり、MOD コヌト溶液で過剰に配合されおいたビス
マスが枛少しおいる。枛少したビスマスは焌成プロセス䞭に昇華しお基板䞊か
ら倱われたか、あるいは、RBS スペクトルから瀺唆されるようにプラチナ界面
付近に偏析、拡散しおいるず考えられる。たた、化孊量論組成 Sr1Bi2Ta2O9 に比
べお、酞玠が 7少ないこずがわかる。この酞玠欠損がすなわち匷誘電結晶盞の
酞玠空孔ずすぐさた結論するこずはできない。その理由は、プロヌブむオンビ
ヌムの照射スポット埄1mm であるので、照射範囲には 200nm × 200nm の結晶
が 1000 䞇個以䞊含たれるこずになる。枬定結果はこれらの平均であり、アモル
ファス局や粒界偏析の圱響を含んでいるこずに泚意しなければならない。MOD
詊料の XRD パタヌンからは、蛍石構造(fluorite)盞やパむロクロア盞、および析
出 Bi およびd-Bi2O3 盞の存圚に぀いおは積極的に支持されおいない。
(e) 16O(α,α)16O 栞共鳎散乱を利甚した MOD-SBT 膜の酞玠量の分析
図 4-2-4-7 にプロヌブむオンの入射゚ネルギヌを増加させおいったずきの酞玠
共鳎ピヌクの倉化を瀺す。16O(a,a)16O 共鳎ピヌクは本実隓系では 3035keV 付近
で起こる章が、入射゚ネルギヌを 3035keV より高くしおいくず、詊料衚
面を通過する際に゚ネルギヌが倱われるため、詊料の内郚で共鳎が起こる。
3070keV から 25keV ず぀ 3245keV たで増加させおいくず、SBT 局の浅い䜍眮
(E0=3070keV)、SBT 局の深い䜍眮(E0=3095keV),SBT-Pt 界面近傍E0=3120keV、
第 4 ç«  酞化物匷誘電䜓䞭の酞玠および氎玠分析ぞの応甚
135
図 4-2-4-7 入射゚ネルギヌを増加させおいったずきの酞玠共鳎スペクトル
Pt 電極䞭E0=3145keV䞋地 SiO2 å±€(E0=3245keV)においお共鳎が起こる。
E0=3070keV ず E0=3095keV の共鳎ピヌクを比べるず、高さが倉わっおいるのは
酞玠量が異なるためではなく深い䜍眮での埌方散乱ビヌムが詊料衚面から脱出
しおくるたでの間に、SBT 膜によっお散乱を受けるために゚ネルギヌ分垃が広
がっおしたう゚ネルギヌストラグリングのためである。したがっお、SBT 膜䞭
でビスマス局状ペロブスカむト盞の化孊量論組成に比べお酞玠量が少ないがそ
れは膜の浅い䜍眮ず深い䜍眮ずで䞀様な欠損である。たた図 4-2-4-6 の A 郚に
おける SBT-Pt 界面における収量の増倧はビスマスの偏析によるこずが瀺唆され
おいるが、SBT-Pt 界面においお酞玠量の増倧は確認できなかった。぀たり、図
4-2-4(e) の A 郚が溶液組成比で過剰であったビスマスの偏析によるものであれ
ば、酞化ビスマス Bi2O3 ずしおではなく、むしろ Bi ずしお存圚しおいるずいえ
る。ずころが、XRD スペクトルには Bi に盞圓するピヌクが確認されおいない。
136
第 4 ç«  酞化物匷誘電䜓䞭の酞玠および氎玠分析ぞの応甚
以䞊のこずから、SBT 膜から Pt 界面に存圚が瀺唆されるビスマスは、酞化物で
はなく、単䜓結晶でもなく、プラチナに固溶する圢で存圚しおいるのではない
かず思われる。
図 4-2-4-8 MOD および MOCVD で補膜された各詊料䞭の氎玠の深さ分垃
(f) 匟性反跳散乱を利甚した MOD 詊料および MOCVD 詊料の氎玠量の分析
図 4-2-4-8 に MOD および MOCVD で補膜された各詊料に぀いお埗られた匟性
反跳氎玠スペクトルを瀺す。枬定は 2.232 MeV の 4He+ むオンを甚い、ビヌムフ
ラックス 7.0×1011 cm–2 s–1、照射フルヌ゚ンス 1.4×1015 cm–2 で行われた。反跳氎
玠は入射ビヌムの進行方向に察しお 20 床の䜍眮に眮かれた固䜓怜出噚で怜出さ
れた。前方散乱プロヌブを止めるために、9.3 mm の Al 箔が甚いられた。
MOD 詊料ず MOCVD 詊料に぀いお衚面近傍(0-30nm)における氎玠量を比范す
るずそれぞれ 17×1015 cm–2 および 2×1015 cm–2 であり、MOD 詊料䞭氎玠量は
MOCVD 詊料の 8.5 倍であった。これは衚面の平坊さ、぀たり詊料衚面積の違
い図 4-2-4-3 および図 4-2-4-4 を参照を反映しおいるず解釈できる。補法や
保管の履歎の違いに関わらず、SBT 局䞭ではどちらもおよそ 1 at.%であり違いは
第 4 ç«  酞化物匷誘電䜓䞭の酞玠および氎玠分析ぞの応甚
137
なかった。䞋地 Pt 電極䞭に 4-5 at%の氎玠が含たれおいるこずは興味深い。

第章のたずめず今埌の研究課題
本章では、䞍揮発性メモリ材料ずしお泚目されおいるビスマス局状ペロブス
カむト倚結晶膜を有機金属分解法で補膜し、キャパシタを構成しお匷誘電䜓ず
しおの特性を確かめるずずもに、むオンビヌムによる酞玠、氎玠量の分析をは
じめずする様々な分析を行った。比范参照のために MOCVD 法で補膜された膜
を入手し、同様の分析を行った。その結果、次のような結果を埗た。
Cu-Ka線を甚いた X 線回折に぀いお
・ MOD 法で補膜された詊料は、ビスマス局状ペロブスカむト構造が確認され
た。
・ ビスマス結晶およびd-Bi2O3 局、蛍石盞の存圚に関しおは積極的に支持されな
い。
・ MOCVD 詊料の XRD パタヌンにはがやけたピヌクがいく぀か芋られたが、
これは匷誘電性ペロブスカむト型構造に由来するものではなく、垞誘電盞で
ある蛍石型盞あるいはパむロクロア盞ではないかず思われる。
匷誘電特性に぀いお
・ MOD 法で補膜された詊料は、残留分極 2Pr=19.1[mC/cm2]、抗電界 2Ec=103
[kV/cm]を瀺した。
衚面モルフォロゞに぀いお
・ MOD 法で堆積された膜には結晶ファセットを持぀倚結晶ビスマス局状ペロ
ブスカむトの特城が珟れおおり、兞型的なグレむンサむズは 100 nm ず芋積
もられた。たた、空隙の倚い、即ち衚面積の倧きい衚面圢態をしおいた。
・ MOCVD 詊料は、密に詰たったファセットのない数十 nm 皋床の枝を持぀サ
ンゎ状凝集䜓からなり、MOD 法で䜜成された詊料に比べお平坊な衚面が芳
第 4 ç«  酞化物匷誘電䜓䞭の酞玠および氎玠分析ぞの応甚
138
察された。
むオンビヌムを甚いた組成分析結果に぀いお
・ 膜衚面からおよそ 100nm たでの領域ではスペクトルの゚ッゞの高さから求
められるビスマスタンタル比はほがであった。これは原料溶液組成ず異
なっおいた。
・ モデル蚈算スペクトルを実枬倀にフィッティングするこずによっお、Bi, Ta,
Sr, O 各々の絶察量が Bi:(15.96≀0.059 )×1016cm–2、Ta:(15.64≀0.067) ×1016cm–2、
および Sr:(7.765≀0.090) ×1016cm–2、O: (64.70≀0.570 )×1016 cm–2 ず決定された。
・ SBT-Pt 界面領域ではスペクトルに単玔なモデル蚈算で説明しきれない収量
の増加が芋られた。この収量の増加はその゚ネルギヌ䜍眮からビスマスかあ
るいはプラチナによるものであるず掚枬され、ビスマスが䞋郚 Pt 界面近傍で
過剰になっおいるこずが瀺唆された。
・ 栞共鳎散乱を甚いた感床増倧法によっお SBT 膜の衚面偎(およそ 0-100nm)ず
䞋郚電極偎(およそ 100-200nm)の酞玠量が決められた。衚面偎における酞玠
量は(64.70≀0.570 )×1016 cm–2 であった。SBT 膜の電極偎の酞玠の共鳎高さは
衚面より䞋がるが、これはプロヌブが深い䜍眮から散乱されるこずによっお
生じる゚ネルギヌストラグリングであり、衚面偎ず電極偎でこの詊料の酞玠
量に統蚈的な揺らぎ以䞊の差は芋られなかった。
・ SBT-Pt 界面領域で酞玠量の増加は確認できなかった。このこずは Pt 界面付
近に存圚が瀺唆される Bi は酞化物ずしお存圚しおいるのではないずいうこ
ずを意味する。たた䞋郚 Pt 電極内郚では酞玠は怜出されなかった。
・ MOD および MOCVD で補膜された各詊料䞭の氎玠の深さ分垃が枬定された。
衚面近傍(0-30nm)における氎玠量を比范するずそれぞれ 17×1015 cm–2 および
2×1015 cm–2 であり、MOD 詊料は MOCVD 詊料の 8.5 倍の衚面氎玠を含んで
いた。これは衚面の平坊さ、぀たり詊料衚面積の違い図 4-2-4-3 および図
4-2-4-4 を参照を反映しおいるず解釈できる。
・ SBT 局䞭にはおよそ 1 at.%の氎玠が含たれ補法や保管履歎の違いに基づく倉
化は認められなかった。
・ 䞋地 Pt 電極䞭に 4-5 at%の氎玠が怜出された。
第 4 ç«  酞化物匷誘電䜓䞭の酞玠および氎玠分析ぞの応甚
139
以䞊のように本章で述べたむオンビヌム分析の匷誘電䜓詊料分析ぞの応甚で
は、有機金属分解法によっお匷誘電䜓膜詊料が䜜成され、照射ビヌム埄がグレ
むンサむズより倧きいために粒界偏析に぀いおの情報が埗られないずいう制限
はあるものの、本研究で構築された埓来法より高感床な酞玠の定量システムず
氎玠枬定システムを甚いお、酞玠量および氎玠量を初めずする各元玠比率が枬
定され、補膜プロセスの改善に぀ながるような有益な情報が埗られるずいうこ
ずが瀺された。
本章で述べた研究の発展方向は倚岐にわたる。すぐにでもはじめられるこず
は栞共鳎を利甚した炭玠枬定である。これは酞玠枬定手法の延長線䞊にある。
定性的な結果しか埗られおいないため、実隓結果ずしお本文䞭で詳现に蚘述さ
れおいないが、有機原料を出発ずする MOD 膜䞭の炭玠枬定が詊みられ、
MOD-SBT 膜䞭で共鳎炭玠ピヌクが確認されおいる。MOD 法における膜䞭炭玠
はキャパシタの挏れ電流特性の悪化を招くずされ、匷誘電䜓メモリプロセスの
改善においおも関心がもたれおいる話題である。
材料科孊ずその応甚に぀いおは蚀うたでもない。SBT や関連材料のメモリデ
バむス以倖の応甚に぀いおも圧電玠子や光倉調玠子など幅広い応甚が考えられ
る。PZT や SBT などのペロブスカむト類酞化物匷誘電䜓の MOD 補膜法の開発
には 1980 幎代埌半におけるビスマス系高枩超䌝導䜓 Bi2Sr2CaCu2O8+d 等の高枩
超䌝導セラミクスにおける研究開発の知識ず経隓ずが生かされおいるず思われ
るが、逆に、SBT の補膜方法で䜕らかのブレヌクスルヌが起きるず、それは高
枩超䌝導膜の補膜に応甚できる可胜性がある。超 LSI 補造プロセスに䜿甚する
には制埡性に劣るため甚いられないが、簡䟿安䟡な MOD 法やゟルゲル法その
ものの研究も興味深い。補膜された MOD 詊料は空隙の倚い構造であるが、これ
は有機成分が脱離する際の䜓積枛少ず、膜䞭に均䞀に生じた結晶栞が同じよう
に呚囲から金属成分を取り蟌んで成長しおいく成長様匏のためず思われる。融
液からの結晶成長では結晶栞の遞択成長による結晶性の制埡が可胜である。た
ずえば倧きい結晶粒を䜜るためには栞生成の初期においお Gibbs-Thomson 効果
を利甚し、臚界栞より小さな栞を溶かしながら昇枩、冷华を繰り返すこずで、
結晶栞を遞択成長させるこずができる。逆に結晶栞を導入するこずで埮結晶を
倚数生成するこずもできる。固盞成長である MOD 法、あるいはゟルヌゲル法の
第 4 ç«  酞化物匷誘電䜓䞭の酞玠および氎玠分析ぞの応甚
140
プロセスにおける結晶栞導入や栞の遞択成長、結晶化アニヌル時の膜の枩床募
配、RTA プロセスのプログラム、基板ず前駆䜓液ずの間の濡れ性制埡、前駆䜓
溶液のコロむド化孊ずいったようなテヌマはそれ自身広い応甚を持぀興味深い
テヌマである。
むオンビヌムず物質ずの盞互䜜甚ずいう話題に限っおいえば、RTA プロセス
の代わりに、むオンビヌムによる局所加熱によっお前駆䜓膜䞭に結晶栞を導入
しお結晶成長を制埡できるかどうかずいうこずに興味がある。むオンビヌムに
よる局所加熱では、透過力の高い高゚ネルギヌむオンの飛跡に沿っお垂盎深く
局所加熱を行うこずが出来る。この特性は玫倖線や電子線などずは異なる高゚
ネルギヌむオン固有の性質である。むオンビヌムの詊料法線に察する入射角を
制埡するこずによっお前駆䜓膜䞭のむオンの飛跡の䞋地に察する角床を倉化さ
せたり、照射密床を倉化させるなどによっお、配向や結晶粒が制埡できないだ
ろうかずいうこずを匕き続き考えおみたい。
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142
第5章
ポリむミド暹脂の照射損傷機構研究ぞの応甚
第 5 ç«  ポリむミド暹脂の照射損傷機構研究ぞの応甚
第章
143
非導電性高分子材料であるポリむミド暹脂の
照射損傷機構研究ぞの応甚
本研究で構築された氎玠定量システムでは、氎玠定量ず RBS による重元玠定
量ずを同時に行うこずができる。これを利甚するずプロヌブむオン照射による
詊料衚面近傍の動的な組成倉化の枬定が可胜ずなる。本研究では氎玠分析技術
の盎接的な応甚ずしお、高゚ネルギヌむオンビヌム照射に䌎う局所加熱を利甚
した高分子材料の分解に぀いお基本的なデヌタを埗るこずを目的に、MeV 領域
の高゚ネルギヌ軜むオン照射に察しおポリむミド暹脂の組成がどのように倉化
するかを調べた。本章ではこの応甚研究で埗られた知芋を蚘述する。

高゚ネルギヌむオンず高分子材料ずの盞互䜜甚
攟射線照射にずもなう高分子材料の光孊的、機械的、電気的性質の倉化は、
宇宙空間や原子炉呚蟺など攟射線に晒される過酷な環境で甚いられる材料を開
発するために研究されおきた。䞀方、民生甚機噚に甚いられる材料のむオンビ
ヌム分析においおも、゚ンゞニアリングプラスチックず呌ばれるような高機胜
高分子材料の応甚の広がりに埓っお有機高分子局を持぀ような詊料の分析を求
められるこずが増加しおきおいる。
金属や半導䜓詊料に察しおはしばしば非砎壊分析に分類されるむオンビヌム
分析であるが、高分子詊料に関しおはこれは圓おはたらない。その理由は、高
分子材料が高゚ネルギヌむオンの照射をきっかけずしお非可逆的な化孊倉化を
起こしおしたうためである。これは玙に火を぀けたずき燃焌反応が独りでに進
行しおいくのず䌌おいる。むオン照射はむオンの飛跡に沿った局所短時間加熱
であるず捉える事もできる。
䞍玔物金属むオンなどの同定を目的ずしお、高分子材料であるポリ゚チレン、
PET (polyethylene terephtalate)暹脂、ポリむミド暹脂などのむオンビヌム分析を行
うず、着色、収瞮、脆化ずいった倖芋䞊の明癜な倉化が芳察される。分析スペ
クトルの芳点からは、照射量の増加に䌎っお単䜍照射量あたりの氎玠収量が枛
少しおいくこずがしばしば芳察される。
MeV 領域のプロヌブむオン照射によっお生じる高分子材料のこれらの倉化は、
第5章
144
ポリむミド暹脂の照射損傷機構研究ぞの応甚
高分子鎖の切断、隣接高分子間の架橋、分解ずガス攟出ずいう芳点から理解さ
れるようになっおきた衚 5-1-1
。[1-5]
è¡š 5-1-1 有機高分子詊料ぞの高゚ネルギヌむオン照射による圱響
高分子材料に匕き起こされる倉化
着色
収瞮
脆化
電気䌝導性の倉化
芪氎性の倉化
高分子材料に匕き起こされる倉化の内容
高分子鎖の切断
隣接分子間の架橋
分解ず分解ガス攟出
高゚ネルギヌむオンず被照射材料ずの間の゚ネルギヌの盎接的な受け枡しの
経路には皮類ある衚 5-1-2。
è¡š 5-1-2 高゚ネルギヌむオンから詊料ぞの゚ネルギヌ移譲機構
電子励起
化孊結合の開裂
ラゞカル連鎖反応
原子栞叩き出し
化孊結合の開裂
衝突カスケヌド
ラゞカル連鎖反応
第のものはプロヌブむオンが詊料䞭の電子を励起する機構でプロヌブむオ
ンの゚ネルギヌが高いおよそ 100keV を目安にしお衚面近傍の領域で支配的
な機構である。電子が励起されるこずによっお、化孊結合が壊れ、反応性に富
むラゞカルが生成されるこずがある。生成されたラゞカルは連鎖的な化孊反応
を起こし、材料の巚芖的な性質の倉化を匕き起こす。
第の゚ネルギヌ受け枡し機構は詊料構成原子栞プロヌブむオン間の匟性
衝突であり、プロヌブむオンの゚ネルギヌが 100keV より䜎い、䞀般に詊料の深
い䜍眮で支配的な機構である。 プロヌブむオンずのクヌロン反発力によっお最
初の䜍眮から叩き出された原子栞はさらに近蟺の原子栞を叩き出すこずによっ
第 5 ç«  ポリむミド暹脂の照射損傷機構研究ぞの応甚
145
お、
「衝突カスケヌド」ず呌ばれる䞀連の叩き出しの連鎖を匕き起こしおダメヌ
ゞ領域を圢成し、材料の性質に倧きな圱響を䞎えるこずになる。高分子からの
原子栞叩き出しによっおもちろん化孊結合は壊れるず考えられるから、衝突カ
スケヌドずは別に、化孊ラゞカル連鎖反応が起こる可胜性もある。
第の機構、すなわち電子励起によっおラゞカル連鎖反応を匕き起こすこず
はむオン照射だけでなく UV 光や電子ビヌム照射でも起こりうるず考えられる
が、栞の連鎖的な叩き出しはむオンビヌム照射に特有の機構であるず考えられ
る。
MeV 領域の高゚ネルギヌむオンをポリ゚チレンやポリむミドのような有機高
分子詊料の衚面に垂盎に照射するず、詊料衚面付近の浅い領域では、入射むオ
ンは詊料構成高分子䞭の電子に゚ネルギヌを䞎えおその結合を切る。その結果、
䞍察電子を持぀反応性に富むラゞカルが生成され、このラゞカルが近隣の分子
ず反応を起こすこずによっお架橋反応や䞻鎖の切断のような珟象が連鎖的に生
じ、分解生成物が生成される[1]。入射むオンの゚ネルギヌが化孊結合の゚ネル
ギヌに比べお非垞に高いので、高分子材料䞭の結合の切断はランダムに起こる
ように思われるが、切断埌の修埩のされやすさに差があるために芳枬される結
合の切れやすさには遞択性があるこずが知られおいる。䞀次むオン照射埌の䞀
連の化孊反応は入射むオンの飛跡に沿った狭い領域で起こり、いわゆるむオン
トラックが圢成される。反応性に富むラゞカルを含むむオントラックは照射埌
空気䞭の酞玠などず反応しおさらに「熟成された(matured)」むオントラックぞ
ず倉化しおいく[2]。たた、反応性に富む氎玠ラゞカルのようなものは、近隣か
ら氎玠原子を匕き抜いお氎玠分子 H2 を圢成するほかに、連鎖反応の過皋で生じ
る䞍察電子を持぀炭玠や窒玠ずも結合しおその䜍眮に固定されるであろう。ガ
ラス転移点以䞋の詊料䞭では詊料䞭の分子の運動が制限されおいるため入射む
オンによっお生成されたラゞカルの寿呜は枩床にもよるが䞀般に長く、詊料䞭
に䜕週間も未反応のたたトラップされおいるこずが知られおいる。このような
ラゞカルは可芖光を吞収するために過枡的な色倉化の原因の䞀぀ず考えられお
いる。実際にカプトンにMeV のヘリりムむオンを照射するず照射痕が黒耐色
に着色するが、詊料を垞枩倧気䞭で保存した堎合、この着色は時間の倉化ず共
に薄くなるこずが芳察される。
UV 光や X 線の照射ず異なり、むオン照射では栞反跳による原子栞の叩き出し
が起こるこずが特城的である。電子励起では切れた結合が修埩されるこずがあ
第5章
146
ポリむミド暹脂の照射損傷機構研究ぞの応甚
るが、栞反跳の堎合、切れた結合を修埩しようずしおも盞手がいなくなっおし
たうのであるから電子励起によるラゞカル反応の進行ずはたた別の架橋・分解
反応が起こりうる。
このように、高分子材料ず高゚ネルギヌむオンずの盞互䜜甚の抂念に぀いお
は確立されお来たのであるが、特定の高分子材料がさたざたな゚ネルギヌのさ
たざたなむオン照射によっおどのように倉化するかずいうこずに぀いおはただ
わからないこずが倚く、個別に研究をする必芁がある。本章では耐熱耐攟射線
ポリむミド暹脂ずしお知られるカプトンH 型の MeV 領域のプロヌブむオン
照射による倉化に぀いお蚘述する。

PMDA-ODA ポリむミドカプトンH 型暹脂の
むオンビヌム応答に関しおこれたでに報告されおいる知芋
ポリむミド暹脂は耐溶剀、耐熱、絶瞁、䜎誘電率材料ずしおベヌキングの必
芁な真空槜内郚品、人工衛星の衚面保護フィルム等に幅広く甚いられおいる。
特に電子工業甚途ずしおは、その耐熱性、絶瞁性ず誘電率の䜎さを掻かしお
フレキシブル基板、LSI のパッケヌゞ、液晶ディスプレむの液晶配向膜等に䜿わ
れおいる。
O
O
N
N
O
O
O
n
図 5-2-1 C22H10N2O5 で衚されるカプトン H 型の単䜍構造
カプトン (H 型、東レデュポン)[6]はそのなかでも最もよく䜿われおいるも
のの䞀぀である。図 5-2-1 に C22H10N2O5 で衚されるカプトン H 型の単䜍構造を
瀺す。カプトン H 型はピロメリット酞二無氎物ず 4,4'-ゞアミノゞフェニル゚ヌ
テルずが重合したものであり、これらモノマヌの慣甚名の頭文字をずっお
PMDA(Pyromellitic Dianhydride)-ODA4,4'-Oxydianilineポリむミドず呌ばれる。
カプトン暹脂のむオンビヌム照射の効果に関する研究がこれたでにいく぀か
第 5 ç«  ポリむミド暹脂の照射損傷機構研究ぞの応甚
147
報告されおいる。それらは䞻に着色機構、分解機構、衚面硬化応甚およびむオ
ントラック゚ッチングに着目したものである。
70 MeV 炭玠むオンの照射報告を陀いたほずんどの実隓は、100keV200keV
の重むオンを甚いた報告である。これらの実隓では電子励起の効果ず栞の叩き
出しの効果ずが詊料衚面近傍で同皋床の匷さになっおいる。
Fink ら[13]はむオンビヌム照射埌の光孊吞収を調べ、高分子材料の光孊応答の
倉化にはむオンビヌム照射特有の栞反跳による原子倉䜍が重芁な圹割を果たし
おいるのではないかず提案した。Davenas ら[2]は 150 keV の N+むオンを照射し、
光孊吞収の倉化を調べ、カプトン膜が着色する䞻芁な原因は電子励起によっお
匕き起こされる化孊倉化によるものであるず Fink 達ず逆の結果を提出した。高
分子の光孊応答の倉化に぀いおは珟圚のずころ決定的な答えは出おおらず、浅
い領域に圢成されるむオントラックの物理、化孊、電気的性質ず深い領域に生
成されるダメヌゞ領域の性質の䞡方、および、䞡者の間で起こる茞送珟象に぀
いおの立䜓的な研究の進展が望たれる。分解産物に぀いおは Hnatowicz 達[3]は
カプトン膜に 200keV の Ar+ むオンを照射し、衚面近傍における酞玠ず氎玠の枛
少が電子による゚ネルギヌ損倱に比䟋しおいるず報告しおいる。たた Lewis ず
Lee[5]はカプトン膜に 200keV の Si むオンを照射し、照射䞭に攟出されるガスの
質量分析を行い、分解産物ずしお攟出される気䜓状物質の䞻成分は CO、H2、お
よび CO2 であるず報告しおいる。これはカプトンを閉鎖真空䞭においお 540 床
で 2 時間蒞し焌きpyrolysisにしたずきの結果[7]ず䌌通っおいる。化孊反応機
構に぀いおは明らかでないが、窒玠原子は分子量の倧きなフラグメント䞭のア
ミノ基、フタルむミド基などずしお残り[5][7]、窒玠分子、アンモニアやシアン
化氎玠など䜎分子量の気䜓ずしお攟出されにくい傟向があるずいわれおいる。
Virk らはむオン照射による電子励起の効果を際立たせるため、70MeV ず非垞に
高い゚ネルギヌ領域で
12
C+5 むオンをカプトン自立膜75ÎŒmに透過的に照射
し、玫倖可芖領域の光孊吞収の枬定を詊みおいる。
本研究では、これら䞭゚ネルギヌ重むオンでの結果ず高゚ネルギヌ重むオン
照射の結果を螏たえお、高゚ネルギヌ軜むオンの照射に䌎うカプトン暹脂の動
的な組成倉化に぀いおの知芋を埗るこずを目的に 1MeV-3.4MeV の゚ネルギヌを
持぀ヘリりムむオンを甚いた実隓が行われた。この゚ネルギヌ垯では照射むオ
ンず詊料䞭の電子ずの盞互䜜甚が詊料衚面近傍で支配的ずなる。第章で構築
第5章
148
ポリむミド暹脂の照射損傷機構研究ぞの応甚
した氎玠枬定システムを同時 RBS 配眮で甚い、プロヌブむオン自身による照射
損傷を調べるこずによっお、むオン照射による動的な組成倉化を盎接知るこず
ができるずいう利点がある。

栞叩き出しず衝突カスケヌド過皋による損傷の芋積もり
高分子詊料に高゚ネルギヌむオンを照射した堎合の、぀の゚ネルギヌ移譲
機構のうち、原子栞の盎接叩き出しずそれに䌎っお起こる衝突カスケヌド過皋
に぀いおは半導䜓材料ぞのむオンむンプランテヌション解析のために開発され
た蚈算プログラムを応甚しおおおたかな芋積もりを出すこずができる。本節で
は SRIM-2003叀いプログラムは TRIM ず呌ばれおいたを甚いた栞反跳ダメ
ヌゞの芋積もりに぀いお述べる。
カプトン-H 型暹脂は C22H10N2O5 で衚される単䜍構造を持぀ポリむミド暹脂
である。 その密床の公称倀は 1.42 g/cm3 (8.73×1022 atoms/cm3) [6] であり、1.5
MeV He+ むオンの投圱飛皋は およそ 6.1 mm ず芋積もられる。カプトン詊料に
He+むオンを照射した堎合に、原子栞の盎接叩き出し ずそれに䌎っお匕き起こ
される衝突カスケヌド過皋によっお動かされる原子栞数の SRIM モンテカルロ
シミュレヌションによる芋積もりを図 5-3-1 に瀺す。
蚈算パラメヌタは、詊料法線に察する入射角 85°ã€ 1.5 MeV He+ むオン照射、
照射むオン数 10000 個である。図䞭点線で瀺されおいるのはプロヌブむオンの
静止深さであり、570nm 近傍にピヌクをも぀分垃ずなっおいる。分垃は入射偎
に長いテヌルを持぀非察称な分垃であるので平均倀はピヌク倀よりも浅いずこ
ろになる。カプトン単䜍構造䞭に打ち蟌たれるプロヌブ数のピヌク倀はおよそ
0.025 個であり、カプトンの単䜍構造 40 単䜍あたり 1 個である。詊料の受ける
ダメヌゞに぀いおは、カプトン単䜍構造を構成する 39 個の原子のうち、衝突カ
スケヌドによっお叩き出される原子栞の数は 480nm においおおよそ 3 個である。
実際には栞反跳過皋で分子䞭の原子が匟き飛ばされるずき、化孊反応によるダ
メヌゞが加わるず考えられるので 200nm から 800nm 皋床にわたる深さではカプ
トン骚栌が受けるダメヌゞはさらに倧きくなるず掚枬される。䞀方、むオンビ
ヌム分析で反跳氎玠が怜出できる衚面から 150nm たでの領域における原子倉䜍
密床は 1 個未満であり、衚面に近づくほど枛少するこずがわかる。埌にみるよ
うに氎玠枛少量の深さ分垃の振る舞いはこれずは異なっおいるので、衚面近傍
第 5 ç«  ポリむミド暹脂の照射損傷機構研究ぞの応甚
149
におけるカプトンの損傷には電子励起機構が倧きくかかわっおいるように思わ
れる。
図 5-3-1 栞叩き出しによる平均原子倉䜍密床の芋積もり
蚈算には SRIM-2003 [7]コヌドが甚いられた。蚈算条件は詊料法線に察する入射角
85°ã€ 1.5 MeV He+ むオン、入射むオン数 10000 個である。図の暪軞は衚面からの深さ、
瞊軞は巊偎がカプトン単䜍構造あたりの原子倉䜍数であり、右偎はカプトン単䜍構造
あたりのプロヌブ導入数である。

1.5MeV He+むオンプロヌブ照射実隓
本節ではカプトン詊料に高゚ネルギヌ軜むオンを照射し、衚面近傍の組成倉
化を動的に枬定する実隓ずその結果に぀いお述べる。むオン照射によっお詊料
内郚に生成された気䜓状の分解産物が詊料衚面から攟出されるのに䌎う詊料衚
面近傍領域の組成倉化を動的に枬定するこずが目的である。これたでに報告さ
れおいる研究では、詊料に倉化を匕き起こすための照射むオンず、匕き起こさ
れた倉化を枬定するためのプロヌブむオンずに別々のむオン皮や゚ネルギヌが
甚いられおいたが、本研究ではプロヌブむオンそのものによる損傷の動的な倉
化を RBS/ERD 同時分析によっお枬定する。この方法の利点は、詊料の動的な倉
化をより正確に枬定するこずができるずいうこずであり、短所は、反射型配眮
150
第5章
ポリむミド暹脂の照射損傷機構研究ぞの応甚
で氎玠を取るために入射角などの条件が限られるこずやプロヌブが打ち蟌たれ
る深さ近傍で起こる深い䜍眮での栞反跳ダメヌゞに぀いおの情報を埗るために
はこれたでず同様別のむオン照射を必芁ずする点である。
50Ό厚のカプトン膜カプトン 200Hは東レデュポン瀟から入手した。
入手した詊料をおよそ 1cm × 4cm のリボン状にカットし、枬定甚の詊料ずした。
枬定たで詊料は宀枩で玙補の封筒䞭に保管されおいた。枬定に圓たっお特別な
掗浄やアニヌルなどの前凊理は行わず、そのたた詊料ずしお甚いられた。詊料
はアルミ補の詊料台に電子顕埮鏡芳察甚の導電性テヌプを甚いお固定された。
プロヌブむオン照射䞭の炭玠、酞玠、窒玠、および氎玠量の倉化を枬定する
ために、ラザフォヌド埌方散乱法(RBS)ず氎玠スペクトルを埗るための匟性反跳
散乱法ERDずが組み合わせお甚いられた。枬定系の䞻芁郚を図 5-4-1(a)およ
び 5-4-1(b)に瀺す。
照射カプトン詊料(b) は真空槜内に蚭眮された詊料台ゎニオメヌタ䞊に配眮さ
れた。真空槜はタヌボ分子ポンプず回転ポンプによった恒垞的な排気が行われ、
枬定を通じお真空槜内の圧力は 1×10-4 [Pa] より良い真空に保たれおいた。
1MeV-3.4MeV の゚ネルギヌをも぀ 4He+ むオンビヌムが詊料に照射された。プ
ロヌブビヌムはタンデム加速噚によっお加速され、コリメヌタを甚いお平行化
された。照射ビヌムの゚ネルギヌ分垃は RMS 倀が 1keV 皋床の幅の狭いガりス
分垃である。円圢コリメヌタの詊料偎の開口埄は 0.5mm であった。詊料法線に
そっお入射した堎合の照射スポット埄は 0.5mm より広がっおおり、0.7mm ず芋
積もられた。詊料法線に察する入射角が 85 床のずき、詊料衚面で照射スポット
は 0.7 mm × 8 mm の楕円になる。したがっお、4He+ のドヌズ量 1mC は 1.4×1014
cm-2 に盞圓する。プロヌブビヌム電流は 2.5nA 皋床であった。したがっお
1.522MeV のプロヌブむオンによっお衚面照射スポットを通じお詊料に泚入され
る゚ネルギヌは 0.1W/cm2 未満ずなる。RBS 法によっお埌方散乱プロヌブを怜出
するためのシリコン衚面障壁怜出噚SSBD: Si surface barrier detector) が 169°ã®
䜍眮に眮かれおおり、ERD 法によっお氎玠を怜出するための SSBD(d)が 15° の
䜍眮に蚭眮されおいる。氎玠甚の怜出噚(d)ず詊料(b)ずの間には前方散乱プロヌ
ブを遞択的に吞収するためのアルミ箔(e) が眮かれおいる。1.522 MeV のプロヌ
ブむオンにたいしお 5.0 mm (3.0×1019 cm-2)厚の圧延アルミ箔が甚いられた。
第 5 ç«  ポリむミド暹脂の照射損傷機構研究ぞの応甚
図 5-4-1(a)
151
むオンビヌム照射実隓系の䞻芁郚
図 5-4-1(b)
むオンビヌム照射実隓系の䞻芁郚写真
䞭倮耐色のリボンがカプトン詊料。プロヌブビヌムは巊偎から入射する。前方散乱
プロヌブ吞収箔は氎玠甚怜出噚の盎前に配眮されおいる。
次電子サプレッサ電極をはずしお撮圱
152
第5章
ポリむミド暹脂の照射損傷機構研究ぞの応甚
枬定で埗られた RBS/ERD スペクトルは RUMP [9] および SRIM [10]を甚いお組
成プロファむルに倉換された。氎玠の 1.5MeV
4
He+ むオンに察する反跳断面
積はラザフォヌドの倀よりも倧きくなるが、この効果を正しく取り入れるため
に Tirira et al. [9]による補正が甚いられた。
RBS/ERD 同時枬定によっお埗られた RBS スペクトルず ERD スペクトルの䟋
を図 5-4-2 および図 5-4-3 に瀺す。図 5-4-2 は 1.5 MeV 4He+ むオンを入射角 85
床、照射フルヌ゚ンス 1.4×1014 cm-2 でカプトン H 型詊料に照射し、散乱角 169
床に眮かれた怜出噚で埌方散乱粒子を怜出するこずによっお埗られたスペクト
ルである。カプトンの公称組成 C22H10N2O5 に少量の䞍玔物フッ玠、リン、カ
ルシりム、鉄を添加するこずでスペクトルをよく説明するこずができる。䞍
玔物の信号が䜎゚ネルギヌ偎たで䌞びおいるこずから、これは衚面コンタミネ
ヌションずいうよりは膜䞭に均䞀に分垃しおいるものず解釈できる。深い䜍眮
の酞玠信号を窒玠や炭玠ず分離するこずができないために、この同時 ERD/RBS
枬定条件では酞玠の枬定可胜深さは玄 30nm 皋床たでずなる。
図 5-4-3 に図 5-4-2 ず同時に枬定された氎玠スペクトルを瀺す。入射むオン皮
や゚ネルギヌは図 5-4-2 の堎合ず同じであり、反跳角 15 床の䜍眮におかれた怜
出噚で 5mm のアルミ吞収箔を甚いお埗られたものである。図瀺された 2 ぀の氎
玠スペクトルは、照射フルヌ゚ンスは等しく 0.14×1015 cm-2 であるが、环積照射
量が異なっおいる。䞀方は未照射の詊料に察しおプロヌブむオンを 0.14×1015
cm-2 照射するこずによっお埗られた氎玠スペクトル䜎照射量スペクトルずよ
ぶこずにする。であり、もう䞀方は、2.66×1015 cm-2 照射した埌、さらに続けお
同じ照射スポットにおいお 0.14×1015 cm-2 照射した堎合に埗られた氎玠スペクト
ル高照射量スペクトルず呌ぶこずにするである。高照射量スペクトルの堎
合には詊料衚面から 30-150nm の領域においお氎玠がほが䞀様に䜎照射量スペク
トルの倀の半分に枛少しおいるこずがわかる。衚面に最も近い領域(0-30nm)では
初期倀の 70%を超える氎玠枛少が芋られた。なお、スペクトルの 300keV 以䞋の
領域で収量が増倧するのは、Al 箔で吞収しきれなかった前方散乱プロヌブが重
畳しおいるためである。高照射量のスペクトルにおいお前方散乱プロヌブの寄
䞎も枛少するのは、衚面酞玠の枛少の反映であるず掚枬される。
第 5 ç«  ポリむミド暹脂の照射損傷機構研究ぞの応甚
153
図 5-4-2 最䜎照射量における RBS スペクトル
1.5 MeV 4He+ むオンを入射角 85 床でカプトン H 型詊料に照射した堎合の埌方散乱スペク
トルを照射フルヌ゚ンス 1.4×1014 cm-2 の堎合に぀いお瀺す。カプトンの公称組成に少量の無機
䞍玔物を添加するこずでスペクトルをよく説明するこずができる
図 5-4-3
ERD 法による氎玠スペクトルのプロヌブむオン照射量に䌎う倉化
図瀺された 2 ぀の氎玠スペクトルは、照射フルヌ゚ンスは等しく 0.14×1015 cm-2 であるが、环積照射量が異
なっおいる。䞀方は未照射の詊料に察しおプロヌブむオンを 0.14×1015 cm-2 照射するこずによっお埗られたス
ペクトル䜎照射量スペクトルであり、もう䞀方は、同じ照射スポットにおいお 2.66×1015 cm-2 照射した埌、
さらに続けお 0.14×1015 cm-2 照射した堎合に埗られたスペクトル高照射量スペクトルである。30-150nm の
領域においお氎玠がほが䞀様に初期倀の半分に枛少しおいるこずがわかる。
第5章
154

ポリむミド暹脂の照射損傷機構研究ぞの応甚
プロヌブむオン照射に䌎っお生じるポリむミド詊料衚面近傍からの酞
玠および氎玠の枛少
図 5-5-1 にカプトン詊料䞭の氎玠の深さ分垃のプロヌブむオン照射量に䌎う
倉化を瀺す。1.5 MeV He+ むオンをプロヌブずしお 1.4×1014 cm-2 から 2.8×1015
cm-2 たで 1.4×1014 cm-2 ステップで照射フルヌ゚ンスを倉化させた。氎玠量は衚面
からの深さ 0-30nm,30-60nm,60-90nm,90-120nm,120-150nm の区間の平均倀ずしお
匟性反跳散乱スペクトルから蚈算された。ここで氎玠量を枬定された衚面から
150nm たでの領域では、栞の叩き出しではなく電子励起による゚ネルギヌ移譲
機構が支配的である。氎玠量は炭玠量に察する比ずしお衚されおおり、最䜎照
射フルヌ゚ンスである 1.4×1014 cm-2 の堎合の初期比を C:H=10/22=0.45 ず仮定し
た。照射量の増加ず共に、詊料䞭の氎玠量は単調に枛少しおいき、1.8×1015 cm-2
になるず枛少が止たり、芋かけの氎玠量は䞀定倀になる。2.8×1015 cm-2 の照射フ
ルヌ゚ンスに察しお、30-150nm の領域においお氎玠がほが䞀様に初期倀の半分
に枛少しおいるこずがわかる。衚面に最も近い領域(0-30nm)では非垞に倧きな
氎玠枛少が芋られる。衚面で倧きな氎玠枛少が芳察された理由ずしお次の 2 çš®
類が考えられる。第の仮説は、氎玠を含んだ衚面コンタミネヌション局の圱
響で、衚面に吞着氎や䜎分子量の炭化氎玠など氎玠を含んだ化合物があり、初
期量を実際より少なく芋積もっおいるために盞察的に氎玠量が倚く枛少したよ
うに芋えるずいうものであり、第の仮説は、照射䞭むオントラックに沿っお
より深い䜍眮から高真空である衚面に向かっお氎玠の定垞的な拡散流があっお、
衚面が拡散氎玠の吞い蟌み口になっおいるからずいうものである。埌述するよ
うに、衚面酞玠量も高照射量偎で䞀旊枛少した埌にわずかの増加が芋られるこ
ずから、より深い䜍眮で生成された移動床の高い分子が衚面ぞむかっお拡散す
るずいう描像はもっずもらしいず思われるけれども、これに぀いお確定的な説
明をするにはさらに研究が必芁である。このように衚面から深い䜍眮たでほが
䞀様で倧きな氎玠枛少ずいう結果は 100keV 前埌の䞭゚ネルギヌ重むオン照射に
よっお埗られおいる結果ず類䌌しおいる[2,3,5]
第 5 ç«  ポリむミド暹脂の照射損傷機構研究ぞの応甚
155
図 5-5-1 カプトン詊料䞭の氎玠の深さ分垃のプロヌブむオン照射量に䌎う倉化
図 5-5-2 に、プロヌブむオン照射に䌎っお生じるカプトン H 型詊料衚面近傍領域
(0-30nm)䞭の酞玠量の倉化を同じ深さ領域の氎玠量の倉化ず重ねお瀺す。デヌタ
は図 5-5-1 に衚瀺した氎玠分垃倉化枬定ず同時に埌方散乱法で枬定されたもので
あり、埓っお照射条件は同じである。すなわち 1.5 MeV He+ むオンをプロヌブ
ずしお 1.4×1014 cm-2 から 2.8×1015 cm-2 たで 1.4×1014 cm-2 ステップで照射フルヌ゚
ンスを倉化させお埗られたデヌタである。酞玠量は氎玠量ず同様に炭玠量に察
する比ずしお衚されおおり、最䜎照射フルヌ゚ンスである 1.4×1014 cm-2 の堎合の
初期比を O:C=5/22=0.23 ずしお RBS スペクトルはよく説明できる図 5-4-2
。
衚面近傍の酞玠量は氎玠量ず同様に照射量 1.8×1015 cm-2 たでは盎線的に枛少し、
その埌枛少が鈍り、わずかに増加するもののほが定垞的な振る舞いを瀺す。こ
の衚面近傍領域(0-30nm)においお酞玠比は初期倀に比べお 26枛少する。
この実隓で芳察された酞玠量の枛少は、䞭゚ネルギヌの重むオン照射による
結果[3, 5]ず比べるず小さい。酞玠量の枛少は独立な怜出噚で枬定した氎玠量の
第5章
156
ポリむミド暹脂の照射損傷機構研究ぞの応甚
枛少ず匷い盞関が芋られる。これは真の盞関で、炭玠量の倉化を介した芋かけ
の盞関ではない。単䜍照射フルヌ゚ンスあたりの酞玠枛少ず氎玠枛少の比は氎
玠枛少:酞玠枛少14:3 ず蚈算できる。 高照射フルヌ゚ンス領域においお䞀旊
枛少した酞玠量がわずかながら回埩するこずから、酞玠を含んだ移動床の倧き
い分子やむオンが詊料の深い䜍眮から拡散によっお移動しおくるのではないか
ず思われる。
図 5-5-2 カプトン詊料衚面近傍領域(0-30nm)䞭の酞玠量のプロヌブむオン
照射量に䌎う倉化
図 5-5-1 に衚瀺した氎玠デヌタず同時に埌方散乱法で枬定されたものである。同じ深さ
領域の氎玠量の倉化も同時に瀺す。
第 5 ç«  ポリむミド暹脂の照射損傷機構研究ぞの応甚

157
高゚ネルギヌむオンプロヌブ照射による X 線回折パタヌンの倉化
ポリむミド暹脂詊料に察しおは無機倚結晶詊料で頻繁に行われる広角 X 線回
折枬定はあたり行われない。その理由の䞀぀は、アモルファス成分の寄䞎によ
る背景信号アモルファスハロヌや半結晶的な秩序構造によっお生じるそれ
ほど先鋭でないピヌクからなるスペクトルの意味を定量的に解釈するのが容易
ではないからであるず思われる。しかし Virk[4]は、ポリむミドに 70MeV の炭玠
むオンを照射し、X 線回折パタヌンを枬定しおパタヌンの倉化を論じおいる。
本節では Virk にならい、高゚ネルギヌむオンプロヌブ照射量の倉化をパラメヌ
タずしお X 線回折パタヌンの倉化を論じおみたい。
図 5-6-1 に 1.5 MeV 4He+ 照射によるカプトン H 型詊料の X 線回折パタヌン
の倉化を瀺す。照射面積を確保するために円圢コリメヌタの詊料偎を開攟しお
詊料に照射した。入射角は詊料法線に平行の垂盎入射で、スポット埄は 8mm で
ある。RBS/ERD 実隓ず入射角が違う理由は、入射角を倧きくするずビヌム照射
面積が倧きくなり(8 mm×90 mm の楕円)、ビヌムが詊料台の倧きさに収たらない
ために、照射量が正しく定量できなくなっおしたうからである。図䞭それぞれ
(A)未照射, (B) 2×1014 cm-2, (C) 5×1014 cm-2, および(D) 1×1015 cm-2 の照射フルヌ
゚ンスに察応しおいる。
X 線回折パタヌンには 14° (d=6.3 Å), 22° (d=4.1 Å) および 26° (d=3.4 Å)の䜍眮
にピヌクが芋られカプトン詊料には埮芖的な長距離秩序構造があるこずが解る。
これら぀のピヌクを耇合ピヌクではなく単䞀のピヌクず仮定し、アモルファ
スハロヌ成分を匕いた残りのピヌクに぀いおガりス関数で最小乗フィットを
行い、ピヌク䜍眮ず FWHM 幅ずを決定した。
このピヌクに぀いお Virk によっお報告されおいるのず同様に、
「平均埮結晶サ
むズ」 L を蚈算するず衚 5-6-1 のようになる。
L の倀は未照射詊料の 26°è¿‘傍のピヌクに぀いおは 41.9 Å, (B)51.0 Å, (C)45.8
Å (D)49.8 Šず求められた。この倀は 70 MeV 炭玠むオン照射に関しお枬定され
た結果 [4]ずほが同様の結果が埗られた。
X 線回折スペクトルは 2 ぀の郚分の寄䞎からなる。
(I)アモルファス成分による幅広いバックグラりンド
(II)結晶性秩序をも぀成分によるピヌク
158
第5章
ポリむミド暹脂の照射損傷機構研究ぞの応甚
むオンビヌム照射に䌎っお秩序化ず無秩序化の盞反する過皋が同時に起こり
うる。電子励起による隣接分子鎖間の架橋は秩序化過皋であり、衝突カスケヌ
ドによるダメヌゞ領域の圢成は無秩序化過皋である。単玔な考えでは、架橋反
応は、電子励起による゚ネルギヌの授受が䞻圹ずなる 200nm より浅い詊料衚面
近傍を䞭心に起こり、分解反応は栞反跳に䌎う゚ネルギヌ授受が䞻圹ずなる
200nm-800nm の領域を䞭心に起こるのではないかず思われる。電子励起による
化孊結合の切断をきっかけずしお起こるラゞカル連鎖反応によっおも分解は起
こりうるので、このような描像は単玔すぎるだろう。図 5-6-1 においお、A、B、
C の順に照射フルヌ゚ンスを増やしおいくず、バックグラりンド信号アモルフ
ァスハロヌの匷床枛少が芳察される。アモルファス成分の寄䞎によるバック
グラりンド信号匷床の枛少は、架橋反応が進行しおいるのであるず解釈するこ
ずができる。C から D ぞ照射フルヌ゚ンスを増やすず、今床はバックグラりン
ド信号の信号匷床が増加する。これはラゞカル連鎖反応による分解や、衝突カ
スケヌドによるダメヌゞ領域の圢成による無秩序化過皋が進行したからである
ず解釈するこずができる。70MeV 炭玠むオン照射実隓では電子励起が䞻芁な゚
ネルギヌ移譲機構であるが、本研究においおも同様に、200nm たでの衚面近傍
領域で䞻芁な゚ネルギヌ移譲機構は電子励起である。埓っお照射むオンのみか
けの゚ネルギヌず質量ずの倧きな違いにも関らず同様の結果が埗られたのであ
るず考えられる。
第 5 ç«  ポリむミド暹脂の照射損傷機構研究ぞの応甚
図 5-6-1
1.5 MeV 4He+むオン照射によるカプトン H 型詊料の X 線
回折パタヌンの倉化
(A) 未照射, (B) 2×1014 cm-2, (C) 5×1014 cm-2, および(D) 1×1015 cm-2
入射角は詊料法線に平行の垂盎入射である。
è¡š 5-6-1 圢匏的に求められた埮結晶サむズ L の倉化
2Ξ
[deg]
Width b
[rad]
Crystallite
Size L [Å]
A:
Pristine
13.81
21.43
25.79
0.03521
0.03761
0.03778
44.1
41.7
41.9
B:
2×1014
[cm-2]
13.68
21.26
25.45
0.03379
0.03933
0.03101
46.0
39.9
51.0
C:
5×1014
[cm-2]
13.59
21.18
25.47
0.03435
0.03548
0.03455
45.2
44.2
45.8
D:
1×1015
[cm-2]
14.18
21.70
25.81
0.03878
0.03726
0.03178
40.1
42.1
49.8
159
第5章
160

ポリむミド暹脂の照射損傷機構研究ぞの応甚
むオンプロヌブ照射に䌎う着色および衚面圢態の倉化
高゚ネルギヌむオンの照射によっおカプトンは暗耐色から黒色に着色する
図 5-7-1。この着色は走査型電子顕埮鏡芳察に䌎っお必然的に起こる 10keV
皋床の電子ビヌム照射では確認されおいない。珟圚のずころ電子ビヌム照射に
぀いおは照射面積や照射量を制埡した研究は行っおいないので、着色が起こる
か吊かを含めお未解明である。䞀方むオンビヌム照射に䌎うカプトンの着色の
原因に぀いおは 5-2 節で玹介したように諞説あるがただ完党に解明されおいな
い。本研究においお、1.5 MeV 4He+むオンをカプトン H 型詊料に照射したずき、
4×1012 cm-2 のような䜎い照射フルヌ゚ンスにおいおも着色するこずが芖認され
おいる。䜎照射量の堎合の着色は宀枩倧気䞭で週間皋床経過した埌には薄く
なっおいるこずが芳察された。着色が薄くなる可胜性の぀ずしおは、むオン
照射によっお生じた、可芖域に光孊吞収を持぀ラゞカルが倧気䞭で安定化した
ずいうこずが考えられる。
図 5-7-1 高゚ネルギヌ 4He+むオン照射によるカプトン詊料の着色
现かい線状の傷はアルミ補詊料台の傷が透けお芋えおいるものである。図䞭「85-15
3uC@2nA」などず蚘されおいるのは「入射角 85 床、反跳角 15 床、ドヌズ量 3mC ビヌ
ム電流 2nA での照射」ずいう意味である。右䞋のスポット以倖は 1.522MeV の 4He+むオ
ンの照射。右䞋のものは 3.086MeV ビヌムの照射である。
第 5 ç«  ポリむミド暹脂の照射損傷機構研究ぞの応甚
図 5-7-2 照射郚分の SEM 像
1.5 MeV 4He+むオンビヌムを入射角 85 床、照射フルヌ゚ンス 2.8×1015 cm-2 で
照射した埌衚面コヌト凊理なしでそのたた芳察した。次電子像䞊では
照射郚分ず未照射郚分が分離しお芋えるが、これは未照射郚分がより電荷蓄
積チャヌゞアップの圱響を受けるためである。䞡者は反射電子像䞋
ではほずんど区別が぀かない。
161
162
第5章
ポリむミド暹脂の照射損傷機構研究ぞの応甚
図 5-7-3 ビヌム照射領域に金属針で䜜った凹み郚分の SEM 像
高゚ネルギヌむオンビヌム照射による衚面圢態の倉化を芳察するために走査
型電子顕埮鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)が甚いられた。むオンビヌムの
照射フルヌ゚ンスが 4×1012 cm-2 から 3×1015 cm-2 の範囲で、詊料の収瞮によるず
思われる照射スポット瞁に沿ったわずかな段差以倖には孔や隆起などの特城的
な構造は芳察されなかった図 5-7-2。球晶のような組織も芳察されたが同定は
されおいない。カプトンは非導電性暹脂であり、むオンビヌム照射前の詊料は
いわゆるチャヌゞアップの圱響を匷く受ける。䞀方、むオンビヌム照射埌のカ
プトン詊料衚面はチャヌゞアップの圱響を受けず、衚面コヌティングや䜎真空
条件による電荷䞭和などの察応なしで衚面が芳察できる。図 5-7-3 にビヌム照射
領域に金属針で䜜った凹み郚分の写真を瀺す。衚面領域に硬くお脆い局が圢成
されおいお、内郚領域ずの境界郚分からはがれやすくなっおいるように芋える。
衚面が硬化する理由ずしお高分子鎖の間に架橋が圢成されるこずが考えられる。
第 5 ç«  ポリむミド暹脂の照射損傷機構研究ぞの応甚

163
章のたずめず今埌の研究課題
本章では、3 章で構築された氎玠分析システムの応甚ずしお、プロヌブむオン
照射によっお起こる非導電性高分子詊料ポリむミド暹脂カプトンの衚面
近傍の組成倉化の動的枬定を行った結果に぀いお述べた。
1.5MeV 4He+むオンビヌムを 0.1W/cm2 未満の゚ネルギヌ茞送密床でカプトン
詊料に照射した。照射フルヌ゚ンスを 1.4×1014 cm-2 から 2.8×1015 cm-2 たで
1.4×1014 cm-2 ステップで倉化させお、衚面からの深さ 0-150nm における氎玠量の
倉化ず 0-30nm における酞玠量の倉化ずを ERD/RBS 同時蚈枬法によっお枬定し
たずころ、次のような結果を埗た。
RBS スペクトルに぀いお
・ 最䜎照射量の詊料の RBS スペクトルはカプトンの公称組成に少量の無機
䞍玔物リン、カルシりム等を添加したものでよく説明できた。
衚面近傍の氎玠量に぀いお
・ 30-150nm たでの領域で深さ方向にわたっおほが䞀様に初期倀比で 50%の
枛少が芋られた。
・ 0-30nm たでの領域では初期倀比で 70以䞊の倧きな枛少が芋られた。
・ 氎玠枛少の振る舞いは䞭゚ネルギヌ重むオン照射の結果ず䌌通っおいた。
衚面近傍の酞玠量に぀いお
・ 0-30nm の領域で照射フルヌ゚ンスず共に酞玠量が枛少した。
・ 照射フルヌ゚ンス 1.8×1015 cm-2 たでは盎線的に枛少し、その埌枛少が鈍り、
初期倀から 26%枛少した埌ほが定垞的な倀を瀺した。
・ 酞玠量の枛少は文献で報告されおいる䞭゚ネルギヌ重むオン照射の堎合
よりも少なかった。
・ 照射フルヌ゚ンス 2.0×1015 cm-2 以䞊の領域で䞀旊枛少した酞玠量がわずか
に回埩するこずが芳察された。このこずは芳枬された酞玠量が詊料衚面か
ら真空䞭ぞの流出ず詊料内郚における拡散ずの動的な釣り合いを衚しお
いるこずを瀺唆する。
第5章
164
ポリむミド暹脂の照射損傷機構研究ぞの応甚
酞玠量ず氎玠量の倉化の盞関に぀いお
・ 深さ 0-30nm における酞玠量の枛少ず氎玠量ずの枛少には匷い盞関があり、
䞡者は互いに正比䟋しおいた。
・ 単䜍フルヌ゚ンスあたりの枛少比は氎玠枛少:酞玠枛少14:3 であった。
衚面近傍の窒玠量に぀いお
・ 0-30nm の領域における窒玠枛少は RBS 法で怜知できなかった。
X 線回折デヌタに぀いお
・ ピヌク匷床の倉化は架橋による秩序化を、バックグラりンド匷床の倉化は
分解による無秩序化を衚しおいるず解釈できる。カプトン詊料にはいく぀
かのピヌクが芳察され、照射フルヌ゚ンスを倉化させるず、ピヌク匷床ず
バックグラりンド匷床が倉化した。この倉化は文献で報告されおいる
70MeV の炭玠むオン照射の結果ず類䌌しおいた。
電子顕埮鏡芳察ずその他の結果に぀いお
・ 照射埌の詊料衚面に぀けた金属針による傷を芳察した結果、衚面に硬くお
脆い局が圢成されおいるこずが瀺唆された。
・ むオン照射埌に詊料衚面は電荷蓄積の圱響をうけなくなった。これは電気
䌝導性の倉化を瀺しおいる。
・ 4×1012 cm-2 の䜎い照射フルヌ゚ンスにおいおも着色が芋られた、この着色
は倧気䞭に 1 週間皋床攟眮しおおくず薄くなった。
RBS スペクトルが公称組成でよく説明できるので、氎玠や酞玠の倧幅な枛少
の起源、特に深い䜍眮における氎玠量の 50%もの枛少が照射前のカプトンに含
たれおいる氎等の倖来の含氎玠分子や、残留しおいるモノマヌ溶媒ゞ゚チル
アセトアミドであるずは考えにくい。組成分析が行われた衚面近傍においお、
プロヌブむオンず詊料ずの゚ネルギヌの授受は電子励起が支配的節
なので、詊料からの氎玠ず酞玠の枛少には電子励起をきっかけずしお起こるカ
プトン骚栌の化孊分解反応の圹割が倧きいずいえる。衚面で氎玠の枛少が著し
いこずや、高照射フルヌ゚ンス領域でいったん枛少した酞玠量がわずかに増加
するこずなどを考えるず、芳察された氎玠、酞玠量の倉化の背景には詊料深郚
で生成された含氎玠、含酞玠分子、むオンの拡散による茞送珟象を䜵せお考慮
する必芁があるように思われる。XRD の結果を定量的に正しく理解するために
はさらに研究が必芁であるが、照射によっお鋭くなるピヌクがあるこず、およ
第 5 ç«  ポリむミド暹脂の照射損傷機構研究ぞの応甚
165
びアモルファスハロヌ成分の倉化は、架橋による秩序化ず分解による無秩序化
が同時に進行しおいるこずを瀺唆しおいる。電子顕埮鏡芳察でも衚面に架橋硬
化局が圢成されおいるらしいこずが芳察された。䜎い照射フルヌ゚ンスによる
着色が倧気䞭で攟眮した埌薄くなるこずから、倧気䞭におけるラゞカルの安定
化、぀たり電子励起起源の着色が瀺唆される。
以䞊のように、本研究では高゚ネルギヌ軜むオンビヌム照射に䌎っお起こる
ポリむミド膜衚面近傍領域における脱氎炭化の進行過皋に぀いお重芁な知芋が
埗られた。
本研究に匕き続いお解明が委ねられおいる問題に次のようなものがある。
・ 深い䜍眮における栞反跳ダメヌゞ局の構造
・ 詊料䞭の分解産物の拡散珟象の詳现な解明
・ むオントラックの物理、化孊的構造の解明
たず、本研究では氎玠分析システムの応甚ずしお、詊料衚面近傍に぀いお酞
玠や氎玠の組成倉化が調べられたが、より深い䜍眮に生じおいるはずの、栞反
跳によるダメヌゞ局における組成や構造の倉化に぀いおは未解明のたた残され
おいる。この問題を解明するには、本研究で行われたむオン照射実隓ず同様の
枬定の埌、匕き続き垂盎入射で高゚ネルギヌRBS を行うこずによっお重芁な情
報が埗られるのではないかず思われる。照射埌の詊料をスラむスしお断面を芳
察するこずも有効に違いない。別の問題ずしお、詊料䞭の含氎玠、含酞玠分子、
むオンの拡散がどのようになっおいるのかずいうこずがある。本研究の結果、
ビヌム照射による組成倉化には、分解産物の詊料䞭における拡散が重芁である
こずが瀺唆された。拡散過皋のパラメヌタの䞀぀は枩床なので、詊料枩床やビ
ヌム電流による゚ネルギヌ泚入密床の倉化によっお、氎玠や酞玠の組成分垃の
時間発展が倉化するこずが期埅される。分解産物の生成ず拡散による茞送モデ
ルを構築しお組成倉化を定量的に説明するずいうテヌマも残されおいる。その
ほか、高分子膜の衚面に぀いおはその芪氎性、疎氎性が問題になるが、液滎接
觊角の枬定などにより疎氎性の倉化を調べるこずも面癜い。SEM 芳察によっお
瀺されたような照射領域の電気䌝導性の倉化も興味深いが、むオン照射埌の衚
面は䞍安定なラゞカルやむオントラックからなる次元構造であるから異方性
やむオン照射埌の保存雰囲気の倉化に䟝存する耇雑な問題ではないかず思われ
166
第5章
ポリむミド暹脂の照射損傷機構研究ぞの応甚
る。様々な高床な枬定手段が䜿甚可胜であればそれに応じた様々なテヌマも提
起される。たずえば、照射領域の走査プロヌブ顕埮像がどのようになるかの情
報が埗られれば、むオントラックの構造に぀いおの理解が進むであろう。
むオン照射埌に電子励起が匕き金ずなっお進行する倉化は化孊的過皋であり、
今回の実隓ではほずんど情報が埗られおいない。なぜ窒玠が抜けにくいのかず
いうこずや、電子励起によるボンド切断に起因するラゞカル連鎖反応、および
切断された結合の修埩機構のような化孊的な問題解明のためには電子スピン共
鳎や赀倖吞収スペクトル分光、攟出ガスの質量スペクトル分析ずいうような手
法を䜵甚しお解明しおいく必芁があるず思われる。
有機高分子詊料ぞのむオンビヌム照射の工業的な甚途ずしおは衚面硬化凊理
ぞの応甚[5]のほかに、むオン照射が局所的な加熱であるずいうこずを利甚しお、
高アスペクト比の埮现構造を䜜成するこずなどが挙げられる。兞型的なものは
むオンが通過した飛跡むオントラックそのものの応甚である。むオントラ
ックの研究で実甚化されおいるものの䞀぀に CR-39 (PADC: poly-allyl diglycol
carbonate)暹脂の環境攟射線蚈枬ぞの応甚がある。これは宇宙線などによっおで
きたむオントラックを化孊゚ッチングし、その圢状や密床分垃から暹脂の受け
た攟射線の量を決定するものである。カプトンの堎合には耐熱耐溶剀暹脂であ
るこずを利甚しお、高性胜な濟過甚倚孔膜やナノワむダ補造の鋳型ずしおの応
甚が欧州やむスラ゚ル [14]においお詊みられおいる。この目的には材料䞭にで
きるだけたっすぐに现長い孔をあけるために高゚ネルギヌ重むオンが甚いられ
る。
ポリむミドを加熱炭化するこずによる高機胜炭玠材料の䜜成研究が行われお
いる[15]。むオン照射による局所短時間加熱ず分解産物の研究が進めば炭化の進
行機構解明ず炭玠材料の埮现構造制埡に圹立぀であろう。
第 5 ç«  ポリむミド暹脂の照射損傷機構研究ぞの応甚
167
第 5 章の参考文献
[1] A. Chapiro, Nucl. Instr. and Meth. B 32 (1988) 111.
[2] J. Davenas, G. Boiteux and M. Fallavier, Nucl. Instr. and Meth. B 39 (1989) 796.
[3] V. Hnatowicz, V.Peřina, V.Havránek, V. Voseček, J. Novotný, J. Vacík, V. Å vorčík, V.
Rybka, and A. Kluge, Nucl. Instr. and Meth. B 161-163 (2000) 1099.
[4] H. S. Virk, Nucl. Instr. and Meth. B 191 (2002) 739.
[5] M. B. Lewis and E. H. Lee, Nucl. Instr. and Meth. B 61 (1991) 457.
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H-38492-2; DuPont Company, High Performance Materials Division, Circleville, OH
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Dezfouly-Arjomandy, Nucl. Inst. Meth. B 44 (1990) 260.
[13] D. Fink, M. MüllerLewis, T. Chadderton, P. H. Cannington, R. G. Elliman and D. C.
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[15] H. Hatori, Y. Yamada and M. Shiraishi, "Preparation of Macroporous Carbon
Films from Polyimide by Phase Inversion Method" Carbon, Vol. 30 (1992), pp. 303-304.
168
第6章
本研究の発展ず課題
第6章
第章
本研究の発展ず課題
169
本研究の今埌の発展ず課題
本論文の最埌に、本論文に関連したいく぀かの研究の今埌の発展ず課題に぀
いお簡単に述べる。衚 6-1 に本研究に関連した話題ずそれに関する個々の研究テ
ヌマ、想定される応甚分野に぀いおの䞀芧を瀺す。氎玠、酞玠分析、、
および章、酞化物匷誘電䜓材料(章)、有機金属分解法(章)に぀いおは将
来の研究課題に぀いおはそれぞれの章末で述べたので本章では高゚ネルギヌむ
オン分析手法そのものに぀いおの課題に぀いお述べる。

高゚ネルギヌむオンプロヌブによる材料分析に぀いおの課題ず応甚
本研究の䞻題である高゚ネルギヌむオンプロヌブによる材料分析においおは、
いかに照射線量を少なくし、詊料ぞの䟵襲を少なくしながら、詊料から埗られ
る最倧の情報を匕き出すかずいうこずが改善の焊点である。非垞に狭い゚ネル
ギヌ分垃をも぀「単色」ビヌムず、
「単県」すなわち 1 個の半導䜓怜出噚を甚い
たラザフォヌド埌方散乱法においおは深い䜍眮にある重い元玠ず、浅い䜍眮に
ある軜い元玠ずが同じ゚ネルギヌの信号ずしお衚われ、䞀回の枬定では、元玠
の深さ分垃の連続性のような仮定をおかなければ区別できない。このあいたい
さを回避し、衚面粗さや界面拡散などに関する詳现な情報を正確に埗るために
は異なる角床に蚭眮された 2 個以䞊の怜出噚によるステレオ枬定たたはトモグ
ラフィヌを行う必芁がある。
珟状においおこれを実行するこずは実隓技術䞊の芳点、あるいはハヌドりェ
アのコスト、デヌタ取埗にかかる手間や費甚の芳点からはそれほど問題ではな
い。問題はデヌタ分析に芁する手間ず費甚である。珟状では同䞀詊料に察しお
枬定された耇数の゚ネルギヌや散乱角条件によるスペクトル矀を統䞀的に説明
するようなモデリング、非線圢曲線フィットによる最尀構造掚定は倚くの斜蚭
で自動化されおいない。そのため RBS/ERD スペクトル矀の取埗ずその正しい解
釈のためには蚓緎された人間によっお倧量の蚈算が行われるこずが必芁であり、
RBS 分析をさらに高䟡にしおいる。枬定条件の異なる耇数のスペクトルから詊
料構造を高速に決定する゜フトりェアの開発によっお、怜出噚を耇数甚い、小
170
第6章
本研究の発展ず課題
さい照射線量で粟密な構造掚定を行うこずが可胜になる。
広く䜿われおいる RBS スペクトル分析支揎゜フトりェアである RUMP[6]は
スペクトル分析専甚に䜿えるような蚈算機ずしお 8 ビットマむクロコンピュヌ
タあるいは初期の 16 ビットマむクロコンピュヌタが利甚できた時代に蚭蚈され
たものであり、したがっお倚重散乱の取り扱いやデヌタベヌスずの連携機胜の
ような蚈算速床や蚘憶容量の必芁な機胜が省かれおいる。自動化のために重芁
な機胜であるスクリプト機胜は MS-DOS バッチファむル圢匏ず RUMP マクロプ
ログラムを組み合わせるこずによっお可胜であるかもしれないがそれに぀いお
の情報はほずんどない。RUMP は珟圚でもオペレヌティングシステムの仕様倉
曎に察応するなど少しず぀バグフィクス等が M. Thompson によっお行われおい
るが、スペクトル分析で重芁なパラメヌタの䞀郚がバむナリコヌドで本䜓に埋
め蟌たれおいるなど、゜フトりェア䞊の蚭蚈が叀く、拡匵性に欠けるずいう欠
点を持っおいる。埓っお、珟圚のパヌ゜ナルコンピュヌタの高速倧容量のデヌ
タ凊理性胜を掻かした拡匵性の高い分析支揎パッケヌゞが求められおいる。
RBS 分析の支揎゜フトりェアの近代化が進みにくい理由は、専門家でなくお
はコヌドが曞けず、専門家が片手間にやるには重荷であり、研究ずしお行うに
は既知のアルゎリズムをコヌディングするだけでは孊術的な評䟡あるいは金銭
的報酬が埗られにくいために進んで携わる動機が匱いからであるように思われ
る。加速噚は高䟡であり医甚 CT 装眮ず違っお倧きな垂堎に倚数の補造䌚瀟の補
品が競合的に存圚するわけではないので加速噚補造・販売者による積極的な開
発も期埅できない。
そのような状況にも関わらずむオンビヌム分析゜フトりェア開発プロゞェク
トずしお珟圚進行しおいるものが 2 皮類知られおいる。䞀぀はむギリス Surrey
倧孊のグルヌプによる DataFurnace[1]であり、もう䞀぀は、ドむツの Max-Planck
プラズマ物理孊研究所の M. Mayer によっお開発が続けられおいる SIMNRA[2]
である。DataFurnace は倚数のスペクトルに察する最尀構造掚定のアルゎリズム
にシミュレヌテッドアニヌリング法を甚いようずいう詊みである。最適化問題
ずいう数孊的発想から出発しおいるため、むオンビヌム分析に実際に䜿うため
にはデヌタの扱いやむンタヌフェヌスに改善の䜙地があるように思われる1。し
かしハンガリヌの E. Szilágyi によっお開発された MDEPTH[3]のコヌドを倖郚コ
1
2003 幎珟圚、欧州のグルヌプは連携を深めおいるように芋え、互いにフォヌマットの互
換性を改善するなど゜フトりェアの改善が粟力的に続けられおいる。
第6章
本研究の発展ず課題
171
マンドずしお䜿甚できるなど粟力的に改善がなされおいる゜フトりェアである。
SIMNRA は RUMP ず RUMP 以埌に発衚された蚈算アルゎリズムの改善を取り蟌
んで、栞共鳎散乱を系統的に扱うために開発されおいるものであり、RUMP か
らの移行のしやすさずいう点で普及しはじめおいるような印象がある。その䞀
方で゜フトりェアの欠陥怜蚌や開発の継続性ずいう点に問題を持っおいる。こ
れから゜フトりェアを開発する際の蚭蚈指針ずしおは
・
デヌタ衚瀺、ハンドリングのためのむンタヌフェヌスず䞭栞的な蚈算遂
行モゞュヌルずを分離する。デヌタの衚瀺や 2 次加工には様々な既存の
゜フトりェアを䜿えばよい。クロスプラットフォヌムの商甚デヌタ加工
゜フトりェアの拡匵ずしお実珟すればオペレヌティングシステムの違い
や内郚むンタヌフェヌスの倉曎にも察応しやすい。
・
蚈算゚ンゞンの仕様ずアルゎリズム、入出力デヌタの仕様を明確に蚘述
する
・
既存の゜フトりェア、特に SRIM[4]ず DataFurnace[1]ずの連携
・
数倀デヌタをハヌドコヌドしない。ASCII 圢匏で倖から倉曎できるように
する
のように、オヌプン゜ヌスのモゞュヌルずしお開発すべきだず思われる。こ
のような蚭蚈によっお、あらゆる機胜をコヌド化する負担がなくなるし、開
発者が他の研究分野ぞ移るなどした堎合でも匕き続き゜フトりェアの修正や
開発を続けるこずができる。
第6章
172
本研究の発展ず課題
è¡š 6-1 本論文に関連したいく぀かの研究の今埌の課題ず発展
本研究関連テヌマ
発展的研究テヌマ
酞化物匷誘電䜓材料
基本的な物性研究
䞍揮発性メモリ匷誘電䜓ずしおの
特性改善
有機金属分解法
結晶配向、粒埄等の制埡 プロセ
スの䜎コスト化、結晶栞制埡、固
盞゚ピタキシャル成長
氎玠・酞玠分析
衚面構造の研究
高分子の局所加熱
高゚ネルギヌむオン
プロヌブ分析
マルチ怜出噚による䜎損傷高粟床
分析法
超䜎照射量むオンプロヌブ蚈枬
マむクロビヌム収束
詊料脱離分子の質量分析
真空、倧気 PIXE
2 次電子分光
枩床可倉詊料台開発
前方小角散乱の応甚開発
チャネリングの定量分析法の開発
孊術的背景
応甚分野
セラミクス材料研究
䞍揮発性メモリ
圧電駆動玠子
光倉調玠子
高分子・コロむド化
孊、結晶成長
近瞁材料膜の堆
積
酞化還元電子化孊
固䜓物理孊党般
氎玠吞蔵合金
金属構造材料
燃料電池
冷陰極炭玠材料
材料物性孊党般
局所加熱による
材料加工、倚孔膜
䜜成
PIXE による埮量
元玠分析、鉱物孊
むオンビヌムリ
゜グラフィ
むオンビヌムず物質
の盞互䜜甚
局所加熱・むオントラック゚ッチ
ング
システムの安定化、䜎コスト化
小型化、省力化、自動化
分析時間の短瞮・高粟床化
゜フトりェア開発
范正法の確立
スペクトル分析
マルチ怜出噚からの倚スペクトル
最尀フィットアルゎリズムを利甚
した短時間自動分析
デヌタベヌスの構築・連携
誀差や粟床の保障
統蚈孊・情報理論
材料分析
第6章
本研究の発展ず課題
173
第章の参考文献
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App. Phys. Lett., Vol. 71, p. 291(1997)
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Pergamon Press, New York, 1985.
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[6]L.R. Doolittle,
“A Semiautomatic Algorithm for Rutherford Backscattering Analysis”,
Nucl. Instrum. and Methods B15 (1986), 227.
謝蟞
謝蟞
謝蟞
本論文に関する研究の遂行にあたり埡指導を頂きたした 綿森 道倫 助教授
に感謝を申し䞊げたす。本論文を䞊梓するにあたり特別に埡指導頂きたした
起業家コヌスの加玍
谷脇
剛倪 教授、および物質・環境システム工孊教宀の
雅文 教授 に感謝を申し䞊げたす。
研究党般にわたっおご指導頂きたした電子・光システム工孊教宀の
神戞
宏 電子・光システム工孊教宀長、原
河接
哲 教授、成沢
忠 教授、矢野
八田
章光 教授、橘
昌良 助教授、野䞭
高村
犎二 客員助教授、歊田
倮 教授、河東田
政顯 教授、朚村
高知工科倧孊連携研究センタヌ長 平朚
正廣 教授、
匘二 助教授、山本
光由 教育講垫、西田
隆 教授、
真行 講垫、
謙 助手、ならびに
昭倫 教授に感謝を申し䞊げたす。
たた、フロンティア工孊教宀の畠䞭 兌叞 教授、山本 哲也 教授、知胜機械
システム工孊教宀の癟田 䜐倚生 講垫、共通教育教宀の David Greene 教授,
Lawrence Hunter 教授、明神 千代 助教授、関口 晃叞 助教授 に感謝を申し䞊
げたす。
本研究の䞀郚はコロラド倧孊の C.A.P. Araujo 教授、高知工科倧孊起業家コヌ
ス 加玍
剛倪 教授、牧田 寛 助手ずの共同研究であり、詊料䜜成や、枬定装
眮の手配、米囜における孊䌚発衚や䌚議出垭などをはじめ、さたざたな䟿宜を
図っお頂いたこずに特に感謝したす。加玍教授の目暙達成に぀いおの姿勢や方
法論は研究の難しい偎面で挫折しないための支えずなったこずを改めお感謝し
たす。
線圢加速噚システムを䞭心ずした高床分析機噚の運甚、維持、管理に぀いお
成沢
å¿  教授をはじめ、成沢れミの根匕君、海堀君に特に感謝したす。超高真
空 STM 装眮に぀いお実隓技術を教えお䞋さった倧阪倧孊工孊郚の
尟浊 憲治郎 教授および研究宀の方々に埡瀌申し䞊げたす。特に、
久保 理 博士珟独立行政法人 物質・材料研究機構ナノマテリアル研究所、
本倚 信䞀 博士に感謝したす。次頁に続く
謝蟞
垞に瀺唆に富む議論をしお頂くず共に様々な郚品や材料調達に぀いお䟿宜を
はかっお頂きたした八田 章光 教授に改めお感謝したす。FE-SEM 芳察に぀いお
矜堎 真䞀氏に感謝したす。AFM 装眮やクリヌンルヌム䜿甚に぀いお特に䟿宜を
図っお頂いた神戞
宏 教授に改めお感謝したす。XRD 装眮の䜿甚をはじめずし
お実隓宀の利甚、維持管理に぀いお西田 謙 助手に感謝したす。倧孊生掻でお
䞖話になった原・矢野・橘れミおよび高村れミの皆様に感謝したす。
様々な事務手続きを行う䞊でお䞖話になった電子・光システム工孊科秘曞宀
の安岡 文子さん、䞭山 愛さん、高知工科倧孊図曞通の北村 倚暹子さんに特に
埡瀌申し䞊げたす。高知工科倧孊の TA/RA、倧孊院奚孊制床ず倧孊事務局なら
びに職員の皆様に感謝したす。
本論文をたずめるにあたっお倧孊内倖の様々な方々から埡指導、埡助蚀、装
眮・材料の融通などを受けるず共に、垞に励たしの蚀葉を頂きたしたこずを感
謝したす。たたすべおの方のお名前をあげお感謝を述べられないこずをお詫び
したす。
最埌に、綿森 道倫 助教授の寛倧さず忍耐あふれる埡指導に重ねお感謝申し
䞊げたす。
著者連絡先
金子
哲匥かねこ
お぀や
〒570-0015
倧阪府守口垂梶町 2 䞁目 8 番 5 号
E-mail:[email protected]