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JP 2006-340641 A 2006.12.21
(57)【要約】
【課題】醸造用麹の製造法において原料の盛込み水分が
通常よりも低水分でも旺盛に繁殖し、生育速度が早い麹
菌、及び該麹菌を用いる醸造用麹の製造方法を提供する
こと。
【解決手段】菌体又は分生子内のトレハロースの分解能
が欠損した麹菌、特に、中性トレハラーゼ遺伝子等のト
レハロースの分解に関与する遺伝子が破壊された麹菌、
該麹菌を植物由来あるいは動物由来のタンパク質原料に
接種、培養することを特徴とする醸造用麹の製造法。
【選択図】図2
(2)
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
菌体又は分生子内のトレハロースの分解能が欠損した麹菌。
【請求項2】
遺伝子操作により得られた、請求項1記載の麹菌。
【請求項3】
中性トレハラーゼ遺伝子が破壊された請求項1又は2記載の麹菌。
【請求項4】
請求項1∼3のいずれか一項に記載の麹菌を植物由来あるいは動物由来のタンパク質原料
に接種、培養することを特徴とする醸造用麹の製造法。
10
【請求項5】
請求項1∼3のいずれか一項に記載の麹菌の表現型を利用したスクリーニング方法。
【請求項6】
表現系が耐熱性である請求項5記載のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、醸造用麹の製造法において盛込み水分が低水分でも旺盛に繁殖し、生育速度
が速い麹菌及び該麹菌を用いる醸造用麹の製造法等に関する。
【背景技術】
20
【0002】
醤油、味噌、清酒、みりん等の醸造食品は大豆、麦、米などの穀類に麹菌を繁殖させて
麹を作り、この麹をそのままか、または蒸煮変性または加熱殺菌した穀類と併用して、水
、アルコール、食塩水などと共に仕込み、発酵熟成させて製造しているが、ここに用いる
麹は直接に醸造期間、品質及び収量などに大きな影響を与えるために、製麹操作は上記し
た醸造用原料に麹菌をできる限り純粋に培養すると共に、醸造上重要なプロテアーゼ、ア
ミラーゼなどの諸酵素を著量に分泌蓄積せしめることに最大の考慮が払われている。
【0003】
しかしながら、醸造食品業界においては、一般に製麹は開放下において行われており、
また蒸煮変性、加熱殺菌処理後の醸造用原料は、細菌が好んで繁殖しやすい状態にあるた
30
め、製麹中に有害細菌の混入を防止し、その増殖を抑制することは殆ど不可能である。
【0004】
従来、蒸煮変性、加熱殺菌処理後の醸造用原料の水分を低くすると、製麹中に有害細菌
の生育、増殖を抑制できることが知られ、検討されてきたが、水分を低くすると、製麹中
に麹菌の生育、増殖も抑制されるため、実施は困難とされ、今日に至っている。
【0005】
このようなことから、原料の盛込み水分が低水分でも旺盛に繁殖し、プロテアーゼ等の
酵素活性が損なわれず、生育速度が速い麹菌の出現が強く求められていた。
【0006】
しかしながら、生育速度が速い麹菌の育種は、紫外線照射等の人工変異処理による方法
40
が一般的であるが、紫外線照射等の変異処理による育種(すなわち変異株の分離)は極め
て偶然性が高く、スクリーニングに膨大な労力を要し、効率が極めて悪い欠点を有する。
また、たまたま目的とする生育速度が速い麹菌を育種しても、直ちに復帰突然変異を起こ
し、生育速度が著しく遅くなったりして、実用性に欠けるものであった。また、低水分の
盛 込 み 原 料 で も 旺 盛 に 生 育 、 増 殖 す る 麹 菌 の 育 種 法 は 特 開 2004− 290142( 特 許 文 献 1 ) と
特 開 2004− 290155( 特 許 文 献 2 ) が 知 ら れ て い る が 、 前 段 階 の 培 養 に グ ル コ ー ス や 食 塩 を
添 加 す る 必 要 が あ っ た 。 尚 、 特 開 平 10− 117771に は 中 性 ト レ ハ ラ ー ゼ 遺 伝 子 が 破 壊 さ れ た
、冷凍生地耐性1倍体酵母が記載されている。
【0007】
【 特 許 文 献 1 】 特 開 2004− 290142
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【 特 許 文 献 2 】 特 開 2004− 290155
【 特 許 文 献 3 】 特 開 平 10− 117771
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、醸造用麹の製造法において原料の盛込み水分が通常よりも低水分でも旺盛に
繁殖し、生育速度が早い麹菌、及び該麹菌を用いる醸造用麹の製造方法を提供することを
目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
10
本 発 明 者 等 は 、 上 記 課 題 に つ い て 鋭 意 検 討 を 重 ね た 結 果 、 ア ス ペ ル ギ ル ス ・ ソ ー ヤ ( As
pergillus sojae) に 代 表 さ れ る 麹 菌 を 低 水 分 環 境 で 生 育 さ せ た と き に 分 生 子 内 に 顕 著 に
トレハロースが増加することを知り、分生子内のトレハロースを分解することができない
変異株を取得し、低水分環境での生育を確認し、本発明を完成した。
【0010】
即ち、本発明は以下の各態様に係るものである。
1.菌体又は分生子内のトレハロースの分解能が欠損した麹菌。
2.遺伝子操作により得られた、上記1記載の麹菌。
3.中性トレハラーゼ遺伝子が破壊された上記1又は2記載の麹菌。
4.上記1∼3のいずれか一項に記載の麹菌を植物由来あるいは動物由来のタンパク質原
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料に接種、培養することを特徴とする醸造用麹の製造法。
5.上記1∼3のいずれか一項に記載の麹菌の表現型を利用したスクリーニング方法。
6.表現系が耐熱性である上記5記載のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の麹菌は水分量を制限した固体培地においても旺盛に生育し、各種酵素を分泌す
ることができるため、醸造等の産業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
30
本明細書において、「麹菌」とは、醤油、清酒、焼酎、みそ、みりん等の醸造において
麹の製造に使用されている、不完全菌亜門、不完全糸状菌網の一属であるカビ類を意味す
る。アスペリギルス・ソーエー(しょうゆ製造用)、アスペリギルス・オリゼ(清酒製造
用)、アスペリギルス・アワモリ(泡盛製造用)、及びアスペリギルス・シロウサミ(焼
酎製造用)等のアスペリギルス属に属する菌がその代表例である。
【0013】
本明細書において、「トレハロースの分解能が欠損した麹菌」とは、菌体又は分生子内
でトレハロースの分解・資化する機能又は能力が実質的に欠失又は損傷している麹菌をい
う。従って、このような麹菌は、麹菌のトレハロースの分解プロセスに関与する任意の過
程、例えば、このような過程に関与する任意の遺伝子の発現、転写、翻訳等を当業者に公
40
知の任意の遺伝子工学的方法を用いる遺伝子操作によって、調製することができる。
【0014】
即ち、麹菌の菌体もしくは分生子内のトレハロースの分解能を欠損させる手段としては
、例えば、中性トレハラーゼ遺伝子のトレハロースの分解に関与する遺伝子を遺伝子挿入
破 壊 や 遺 伝 子 置 換 破 壊 等 に よ っ て 破 壊 す る 方 法 、 RNAi等 の R N A サ イ レ ン シ ン グ 又 は ア ン
チセンスmRNAを利用して該遺伝子のmRNAを分解したりタンパク質への翻訳を阻害
する方法等を挙げることが出来る。これらの手段はいずれも、下記の実施例に示すように
、当該遺伝子又はそれらがコードするタンパク質の一部塩基配列又はアミノ酸配列情報に
基き、当業者に公知の遺伝子工学的方法を用いて容易に実施することができる。又、公知
の様々な突然変異誘発の手法により取得することも可能である。
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(4)
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【0015】
な お 、 本 発 明 に お け る 遺 伝 子 工 学 的 方 法 は 、 例 え ば 、 「 Molecular Cloning: A Laborat
ory Manual 2
n d
edition」 ( 1 9 8 9 ) 、 Cold Spring Harbor Laboratory Press, ISBN
0-8769-309-6、 「 Current Protocols in Molecular Biology」 ( 1 9 8 9 ) 、 John Wiely
&Sons, Inc. ISBN 0-471-50338-X等 の 記 載 に 準 じ て 実 施 可 能 で あ る 。
【0016】
例 え ば 、 上 記 遺 伝 子 は 、 ア ス ペ ル ギ ル ス ・ ソ ー ヤ 等 の 麹 菌 の 染 色 体 DNAの 天 然 型 遺 伝 子
をクローニングすることにより得られる。遺伝子のクローニング方法としては、例えば、
中 性 ト レ ハ ラ ー ゼ を 精 製 し て 部 分 ア ミ ノ 酸 配 列 を 決 定 し た 後 、 適 当 な プ ロ ー ブ DNAを 合 成
し 、 こ れ を 用 い て 麹 菌 の 染 色 体 DNAか ら ス ク リ ー ニ ン グ す る 方 法 が 挙 げ ら れ る 。 又 、 部 分
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ア ミ ノ 酸 配 列 に 基 づ き 適 当 な プ ラ イ マ ー DNAを 作 製 し て 、 5 ’ -R A C E 法 又 は 3 ’ -R A
CE法等の適当なポリメラーゼ連鎖反応(以下、PCR法と略称する。)により、該遺伝
子 の 断 片 を 含 む DNAを 増 幅 さ せ 、 こ れ ら を 連 結 さ せ て 全 長 の 遺 伝 子 を 含 む DNAを 得 る 方 法 も
挙げられる。
【0017】
よ り 詳 細 に は 、 天 然 型 中 性 ト レ ハ ラ ー ゼ ( treB) 遺 伝 子 は 、 以 下 の よ う に し て 取 得 で き
る 。 先 ず 、 ア ス ペ ル ギ ル ス ・ ソ ー ヤ ATCC42251 (Aspergillus sojae Sakaguchi et Yamada
)の 分 生 子 を マ ル チ ビ ー ズ シ ョ ッ カ ー で 破 砕 し 、 通 常 の 方 法 に よ り 染 色 体 DNAを 抽 出 す る 。
該 抽 出 操 作 に は 、 市 販 の DNA抽 出 キ ッ ト が 利 用 で き る 。
【0018】
20
ア ス ペ ル ギ ル ス オ リ ゼ ー の ゲ ノ ム デ ー タ ベ ー ス を 参 考 と し て PCRに 用 い る プ ラ イ マ ー を
合 成 す る 。 こ の プ ラ イ マ ー DNAと 上 記 の よ う に し て 得 ら れ た 染 色 体 DNAを 使 用 し 、 PCR反 応
に よ り 、 該 遺 伝 子 の 全 長 を 含 む DNAを 増 幅 す る 。 増 幅 さ れ た DNAは 、 通 常 の 方 法 に 準 じ て ク
ローニングできる。
【0019】
増 幅 さ れ た DNAを 適 当 な ベ ク タ ー に 挿 入 し て 組 み 換 え 体 DNAを 得 る 。 ク ロ ー ニ ン グ に は 、
TA Cloning Kit (Invitrogen社 )等 の 市 販 の キ ッ ト あ る い は 、 pUC119( 宝 酒 造 社 製 ) 、 pBR
322( 宝 酒 造 社 製 ) 、 pBluescript SK+( Stratagene社 製 ) 等 の 市 販 の プ ラ ス ミ ド ベ ク タ ー
DNA、 λ EMBL3( Stratagene社 製 ) 等 の 市 販 の バ ク テ リ オ フ ァ ー ジ ベ ク タ ー DNAが 使 用 で き
る。
30
【0020】
得 ら れ た 組 み 換 え 体 DNAを 用 い て 、 例 え ば 、 大 腸 菌 K-12、 好 ま し く は 大 腸 菌 JM109( 宝 酒
造 社 製 ) 、 XL-Blue( Stratagene社 製 ) 等 を 形 質 転 換 又 は 形 質 導 入 し て 、 夫 々 形 質 転 換 体
又 は 形 質 導 入 体 を 得 る 。 形 質 転 換 は 、 例 え ば 、 D.M.Morrisonの 方 法 ( Methods in Enzymol
ogy, 68, 326-331, 1979) に よ り 行 な う こ と が で き る 。 ま た 、 形 質 導 入 は 、 例 え ば 、 B.Ho
hnの 方 法 ( Methods in Enzymology, 68, 299-309, 1979) に よ り 行 な う こ と が で き る 。 宿
主細胞としては、大腸菌の他、他の細菌、酵母、糸状菌、放線菌等の微生物や動物細胞、
植物細胞等が利用できる。
【0021】
上 記 で 増 幅 さ れ た DNAの 全 塩 基 配 列 ( 配 列 番 号 7 参 照 ) は 、 例 え ば 、 Li-COR MODEL 4200
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Lシ ー ク エ ン サ ー ( ア ロ カ 社 よ り 購 入 ) 、 370DNAシ ー ク エ ン ス シ ス テ ム ( パ ー キ ン エ ル マ
ー 社 製 ) 、 CEQ2000XL DNAア ナ リ シ ス シ ス テ ム ( ベ ッ ク マ ン 社 製 ) を 用 い て 解 析 で き る 。
塩基配列を、アスペルギルスオリゼーのゲノムデータベースと比較することにより、天然
型中性トレハラーゼ遺伝子が取得できたか否かを確認することができる。
【実施例】
【0022】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
( 1 ) ア ス ペ ル ギ ル ス ( Aspergillus) 属 菌 に お け る 中 性 ト レ ハ ラ ー ゼ 相 同 遺 伝 子 の 検
索
アスペルギルス・ニデュランス由来の中性トレハラーゼのアミノ酸配列に相同性を持つ
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(5)
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タンパク質をコードする遺伝子を、アスペルギルス・オリゼーのゲノムデータベースから
検 索 し た と こ ろ 、 2 1 9 6 塩 基 か ら な る ゲ ノ ム ク ロ ー ン Con0885_h_160を 得 た 。 該 ク ロ ー
ン を 中 性 ト レ ハ ラ ー ゼ 遺 伝 子 の 断 片 で あ る と 推 定 し 、 該 遺 伝 子 の 染 色 体 DNAの ク ロ ー ニ ン
グを行った。
【0023】
ア ス ペ ル ギ ル ス ・ ソ ー ヤ ( Aspergillus sojae) か ら の 染 色 体 DNA抽 出
ア ス ペ ル ギ ル ス ・ ソ ー ヤ ATCC42251( Aspergillus sojae Sakaguchi et Yamada) の 分 生
子 を マ ル チ ビ ー ズ シ ョ ッ カ ー ( 安 井 器 械 社 製 ) を 用 い て 0.5mmの ガ ラ ス ビ ー ズ で 1 5 0 0 r
pm、 4 8 0 秒 間 破 砕 を 行 い 、 Wizard Genomic DNA Purification Kit( promega社 製 ) を 用
い て 染 色 体 DNAを 抽 出 し た 。 全 て の 操 作 は 添 付 の プ ロ ト コ ー ル に 従 っ た 。
10
【0024】
( 2 ) PCRに よ る 中 性 ト レ ハ ラ ー ゼ 染 色 体 D NAの 取 得
上 記 で 得 ら れ た 染 色 体 DNA約 20μ gを 鋳 型 に PCRに よ り 中 性 ト レ ハ ラ ー ゼ 遺 伝 子 の 取 得 を
行 っ た 。 PCRに 使 用 す る プ ラ イ マ ー と し て ゲ ノ ム ク ロ ー ン Con0885_h_160に 対 し て セ ン ス
、 ア ン チ セ ン ス の プ ラ イ マ ー 配 列 番 号 1 と 配 列 番 号 2 で 夫 々 表 さ れ る オ リ ゴ DNAを 合 成 し
た 。 PCRの 装 置 と し て GeneAmp5700 DNA detection system ( Perkin Elmer社 製 ) を 使 用 し
た 。 抽 出 し た 染 色 体 DNAを 鋳 型 に 用 い て PCR( 95℃ 30秒 、 56℃ 30秒 、 72℃ 2分 、 30サ イ ク ル
) を 行 っ た 結 果 、 約 2.5kbの DNA断 片 の 増 幅 を 確 認 し た 。
【0025】
増 幅 さ れ た DNA断 片 を 0.7%ア ガ ロ ー ス ゲ ル 中 で 分 離 し 、 QIAquick Gel Extraction Kit(
20
QIAGEN社 製 ) を 用 い て 抽 出 し た 。 操 作 は 添 付 の プ ロ ト コ ー ル に 従 っ た 。 抽 出 さ れ た DNA断
片 は 、 TOPO TA Cloning Kit( Invitrogen社 製 ) を 用 い て pCR TOPOベ ク タ ー に 組 み 込 ん だ
。 得 ら れ た 組 み 換 え 体 プ ラ ス ミ ド は 、 BigDye Terminator v3.1 Cycle sequencing Kit(
ア プ ラ イ ド バ イ オ シ ス テ ム ズ 社 製 ) を 用 い て シ ー ク エ ン ス 反 応 を 行 い 、 ABI DNAシ ー ク エ
ン サ ー PRISM 377( ア プ ラ イ ド バ イ オ シ ス テ ム ズ 社 製 ) で 塩 基 配 列 を 決 定 し た 。 シ ー ク エ
ンスには配列番号1、2、3、4、5、及び6のプライマーを用いた。その結果、配列番
号 7に 示 す 約 2.5kbの D N A 配 列 が 明 ら か と な り 、 ゲ ノ ム ク ロ ー ン Con0885_h_160は そ の 内
部に含まれることが明らかとなった。
【0026】
(3)中性トレハラーゼ遺伝子破壊株の作製
30
中 性 ト レ ハ ラ ー ゼ 遺 伝 子 破 壊 は Takahashi等 の 方 法 ( Mol Gen Genomics(2004) 272: 344
-352) と 畑 本 等 の 方 法 ( 特 開 2001− 46053) に 従 っ て 行 っ た 。
【0027】
遺伝子破壊ベクターを作成するにあたり、麹菌遺伝子破壊カセットベクターを構築した
。 特 開 2001− 46053記 載 の プ ラ ス ミ ド pMWPX-2の PstI-SphIサ イ ト に 配 列 番 号 8 と 9 の 合 成 D
NAを ア ニ ー リ ン グ さ せ た 断 片 を 挿 入 し た 。 こ の 挿 入 断 片 に は 制 限 酵 素 PacI、 Sse8387I、 Fs
eI、 NotIの 認 識 配 列 が 含 ま れ て い る 。 こ の FseIと Sse8387Iサ イ ト に pyrG遺 伝 子 を 連 結 し た
。 連 結 し た pyrG遺 伝 子 は 配 列 番 号 1 0 と 1 1 の PCRプ ラ イ マ ー で 増 幅 し 、 TA-ク ロ ー ニ ン グ
後 、 FseIと Sse8387Iで 処 理 し た 。 得 ら れ た プ ラ ス ミ ド を 麹 菌 遺 伝 子 破 壊 カ セ ッ ト ベ ク タ ー
として用いた。
40
【0028】
treB遺 伝 子 の 5 ’ − 領 域 と 3 ’ − 領 域 を 増 幅 す る た め に 配 列 番 号 1 と 3 、 2 と 4 の 組 み
合 わ せ で ア ス ペ ル ギ ル ス ・ ソ ー ヤ の 染 色 体 DNAを 鋳 型 に PCRプ ラ イ マ ー を 用 い て PCR( 9 5
℃30秒、56℃30秒、72℃1分、30サイクル)を行った。増幅した1157塩基
と 1 1 9 9 塩 基 の 断 片 を TOPO-TA cloning Kitに よ り ク ロ ー ニ ン グ を し 、 そ れ ぞ れ の ク ロ
ー ン を PCRプ ラ イ マ ー 内 に 付 加 し た 制 限 酵 素 認 識 部 位 を 切 断 す る 酵 素 NotI、 FseI、 Sse8387
I、 PacIを 用 い て そ れ ぞ れ 切 り 出 し 、 麹 菌 遺 伝 子 破 壊 カ セ ッ ト ベ ク タ ー に 連 結 し た 。
【0029】
麹 菌 遺 伝 子 破 壊 カ セ ッ ト ベ ク タ ー を 鋳 型 に pUC19に 含 ま れ る M-13 forwardと M-13 revers
eの プ ラ イ マ ー で 増 幅 し た 断 片 を ア ス ペ ル ギ ル ス ・ ソ ー ヤ ATCC42251 pyrG− 株 へ 導 入 し た
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(6)
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。 遺 伝 子 破 壊 の 確 認 は サ ザ ン ブ ロ ッ ト 法 と PCRに よ り 行 い 、 中 性 ト レ ハ ラ ー ゼ 遺 伝 子 破 壊
株 treBΔ が 得 ら れ た 。
【0030】
(4) 中性トレハラーゼ遺伝子破壊株のトレハロース分解能測定
9
中 性 ト レ ハ ラ ー ゼ 遺 伝 子 破 壊 株 の 胞 子 を 1 × 1 0 個 /mlに な る よ う ポ リ ペ プ ト ン ・ デ キ
ス ト リ ン 培 地 ( 2 % デ キ ス ト リ ン 、 1 % ポ リ ペ プ ト ン 、 0 . 5 % KH2 PO4 、 0 . 1 % NaNO3
、 0 . 0 5 % MgSO4 ・ 7 H2 O、 0 . 1 % カ ザ ミ ノ 酸 ) に 懸 濁 し 、 3 0 ℃ で 培 養 し た 。 培 養 開
始 か ら 3 時 間 ま で 3 0 分 毎 に 1 mlを サ ン プ リ ン グ し 、 ト レ ハ ロ ー ス 量 測 定 サ ン プ ル の 調 製
を 行 っ た 。 サ ン プ リ ン グ し た 液 を 遠 心 分 離 に よ り 、 集 菌 し 、 1 mlの 冷 Tween-SDS溶 液 に 懸
濁 し 、 菌 体 の 洗 浄 を 行 い 、 こ れ を 3回 繰 り 返 し た 。 洗 浄 後 の 沈 殿 を 1 mlの 滅 菌 水 に 懸 濁 し
10
、 沸 騰 浴 水 中 に 2 0 分 間 置 き 、 酵 素 の 失 活 を 行 っ た 後 、 氷 冷 し た 。 こ の サ ン プ ル を Ultraf
ree-MC( ミ リ ポ ア 社 製 ) で ろ 過 し 、 液 体 ク ロ マ ト グ ラ フ ィ ー で の 測 定 に 用 い た 。 液 体 ク ロ
マ ト グ ラ フ ィ ー は 以 下 の 条 件 で 使 用 し た 。 カ ラ ム : amide-80( 4 . 6 × 2 5 0 mm、 東 ソ ー
社 製 ) 、 カ ラ ム 温 度 : 3 5 ℃ 、 溶 離 液 : acetonitrile:water = 6 5 : 3 5 、 流 速 : 1 ml/
min、 検 出 : RI。 測 定 結 果 を 図 1 に 示 す 。 親 株 の SJが 培 養 の 時 間 経 過 と 共 に ト レ ハ ロ ー ス
量 が 減 少 し て い る の に 対 し て 、 中 性 ト レ ハ ラ ー ゼ 遺 伝 子 破 壊 株 treBΔ は ト レ ハ ロ ー ス 量 が
変わらず、分解されていないことが確認できた。
【0031】
(5)中性トレハラーゼ遺伝子破壊株の固体培養
得 ら れ た 中 性 ト レ ハ ラ ー ゼ 遺 伝 子 破 壊 株 の 分 生 子 を 麦 芽 エ キ ス 寒 天 平 板 培 地 ( 2 %麦 芽
20
エキス、0.1%バクトペプトン、2%グルコース、2%寒天)上で30℃、7日間培養
し 、 分 生 子 を 得 た 。 分 生 子 は 3 0 m l の Tween溶 液 に 懸 濁 し 、 セ ル ス ト レ イ ナ ー ( BDフ ァ
ルコン社製)に通し、菌糸を除いた。通過液中の分生子を遠心分離で集め、1×10
8
個
/m l に な る よ う 滅 菌 水 で 希 釈 し 、 分 生 子 懸 濁 液 を 得 た 。
【0032】
オートクレーブ滅菌後、水分含量を測定した小麦フスマ(精選ふすま、日清製粉社製)
2.5gを乾熱滅菌した150ml容三角フラスコに秤量し、綿栓をした。ここへ100
μ lの 分 生 子 懸 濁 液 植 菌 後 に 水 分 含 量 が 5 0 % 、 3 5 % に な る よ う 滅 菌 水 を 加 え た 。 こ の
フ ス マ 培 地 に 1 0 0 μ lの 分 生 子 懸 濁 液 を 接 種 し 、 3 0 ℃ 、 6 4 時 間 培 養 し た 。
【0033】
30
こうして得られたフスマ麹の麹菌体量とプロテアーゼ活性、ロイシンアミノペプチダー
ゼ ( LAP) 活 性 を 測 定 し 、 麹 菌 の 生 育 を 調 べ た 。
【0034】
(6) 麹菌体量と酵素活性の測定
麹菌体量の測定は麹菌量測定キット(キッコーマン社製)を用いた。すなわち、培養し
た フ ス マ 麹 の 麹 菌 を 溶 菌 さ せ た 後 、 遊 離 し た N− ア セ チ ル グ ル コ サ ミ ン を 定 量 し た 。 キ ッ
トの取扱説明書に従い、まず、培養した麹をガラスシャーレにあけ、100℃の乾熱器で
1 時 間 乾 燥 さ せ た 。 乾 燥 し た 麹 を 卓 上 粉 砕 機 ( 柴 田 科 学 機 械 工 業 SCM-40A) で 粉 砕 し た 後
、0.25gをキット別売りのろ過器に量り取り、レジン水で洗浄した。キムタオル上で
余分な水を切った後、小試験管に移した、これにキットの溶菌緩衝液0.5mlと溶菌酵
40
素液2.0mlを加え、37℃で4時間溶菌反応を行った。ブランク試験では溶菌酵素液
の代わりに溶菌緩衝液を用いた。反応後、遠心分離により沈殿と上清に分け、上清を溶菌
緩 衝 液 で 5 倍 希 釈 し た 。 こ れ に 1 . 0 mlの 定 量 用 酵 素 液 と 2 . 0 mlの 定 量 用 発 色 液 を 加 え
、 3 7 ℃ で 2 5 分 間 加 温 し た 後 、 5 1 5 nmの 吸 光 度 を 測 定 す る こ と に よ り N-ア セ チ ル グ ル
コサミンの量を求めた。
【0035】
プロテアーゼ活性の測定はしょうゆ試験法(財団法人日本醤油研究所編)に従って行っ
た 。 す な わ ち 培 養 し た フ ス マ 麹 に 5 0 m l の レ ジ ン 水 を 注 ぎ 、 よ く 混 和 し た 後 No.2の ろ 紙
(アドバンテック社製)を用いてろ過を行い、フスマ麹抽出液を得た。小試験管中で10
00μlミルクカゼイン(メルク社製)と900μlレジン水、100μlフスマ麹抽出
50
(7)
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液を入れ、緩やかに混和し、30℃で20分間反応させた。4mlの5%トリクロロ酢酸
を加えて反応を止め、さらに30℃で30分間静置した。ブランク試験には反応前にトリ
ク ロ ロ 酢 酸 を 加 え た も の を 用 い た 。 反 応 液 を No.5 Cの ろ 紙 で ろ 過 し 、 透 過 液 1 m l を 5 m
lの0.4M 炭酸ナトリウムと1mlのフェノール試薬と混和し、30℃で30分間発色
反 応 を 行 っ た 後 、 6 6 0 nmの 吸 光 度 を 測 定 し た 。 1 分 間 に チ ロ シ ン 1 μ g に 相 当 す る 非 タ
ンパク性物質を遊離させる酵素量を1ユニットとして、フスマ麹1g当たりのプロテアー
ゼ活性を求めた。
【0036】
LAP活 性 は 次 の よ う に 測 定 し た 。 9 0 0 μ lの 1 0 0 mMリ ン 酸 ナ ト リ ウ ム バ ッ フ ァ ー ( pH
7 . 0 ) と 5 0 μ lの フ ス マ 抽 出 液 を マ イ ク ロ チ ュ ー ブ 内 で 混 合 し 、 5 0 μ lの 1 0 mM Le
10
ucine-p-nitroanilideを 加 え 、 3 7 ℃ で 反 応 さ せ た 。 3 0 分 後 、 5 0 0 μ lの 反 応 液 を 1
. 5 mlの 0 . 1 規 定 塩 酸 の 入 っ た チ ュ ー ブ へ 移 し 、 反 応 を 止 め た 後 、 4 0 0 nmの 吸 光 度 を
測 定 し た 。 ブ ラ ン ク 試 験 に は サ ン プ ル の 代 わ り に 水 を 用 い て 測 定 し た 。 1 分 間 に 1 μ mol
の p-nitoroanilineを 生 成 す る 酵 素 量 を 1 ユ ニ ッ ト と し て 、 フ ス マ 麹 1 g 当 た り の LAP活 性
を求めた。
【0037】
酵素活性の測定結果を表1及び図2に示す。本発明の麹菌は水分含量を制限した35%
水 分 含 量 フ ス マ 培 地 に お い て 、 コ ン ト ロ ー ル と な る 親 株 と 比 較 し て プ ロ テ ア ー ゼ 活 性 と LA
P活 性 が 1 5 % 以 上 、 麹 菌 体 量 が 約 3 % 増 加 し て い た 。
【0038】
20
【表1】
30
【0039】
(7)中性トレハラーゼ遺伝子破壊株の表現型確認
中性トレハラーゼ欠損株を遺伝子組み換えの手法ではなく、突然変異誘発の手法により
取得する可能性を検討した。即ち、中性トレハラーゼ遺伝子破壊株の表現型の一つとして
菌 の 耐 熱 性 を 調 べ た 。 親 株 SJと 中 性 ト レ ハ ラ ー ゼ 遺 伝 子 破 壊 株 treBΔ の 分 生 子 を 5 mlポ リ
ペプトン・デキストリン培地に1×10
8
個 /mlに な る よ う 植 菌 し 、 3 0 ℃ で 培 養 を 行 っ
た。培養開始から3時間後、50℃のインキュベーターへ移し、30分毎に2時間まで1
0 0 μ lず つ サ ン プ リ ン グ し 、 希 釈 を 行 い 、 麦 芽 エ キ ス 寒 天 培 地 に 塗 布 し 、 3 0 ℃ で 培 養
を行った。生育してきたコロニーを数え、50℃未処理の菌数を100%として生存率を
40
求めた。図3に示すように、50℃、30分の処理で、SJは10%以下の生存率であっ
た の に 対 し て 、 treBΔ で は 7 0 % 程 が 生 存 し て い た 。 従 っ て 、 ト レ ハ ロ ー ス を 蓄 積 す る 株
は耐熱性が上昇しており、この性質を利用して、本発明の生地菌であるトレハロース蓄積
株をスクリーニングすることが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の麹菌を用いることによって、醤油、味噌、清酒、みりんなどの醸造食品製造に
おいて、原料の盛り込み水分が通常よりも低水分でも生育速度が速く、旺盛に繁殖し、プ
ロ テ ア ー ゼ お よ び LAPな ど の 諸 酵 素 力 価 が 高 く 、 雑 菌 の 増 殖 が 少 な く 、 高 品 質 の 麹 を 製 造
することができる。
50
(8)
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【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の中性トレハラーゼ遺伝子破壊株と親株の発芽時におけるトレハロース含
量の比較を示すグラフである。
【図2】本発明の中性トレハラーゼ遺伝子破壊株と親株の酵素活性と菌体量の比較を示す
グラフである。
【図3】本発明の中性トレハラーゼ遺伝子破壊株と親株の胞子を50℃にさらしたときの
生存率の比較を示すグラフである。
【図1】
【図2】
(9)
【図3】
【配列表】
2006340641000001.app
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(10)
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(72)発明者 海附 玄龍
千葉県野田市野田399番地 財団法人 野田産業科学研究所内
(72)発明者 畑本 修
千葉県野田市野田399番地 財団法人 野田産業科学研究所内
Fターム(参考) 4B024 AA05 BA11 CA02 DA11 GA11 HA12 HA20
4B063 QA17 QA20 QQ07 QQ35 QQ44 QR32 QR55 QS34 QX01
4B065 AA60X AA60Y AB01 AC02 AC20 BA01 BA16 BB19 BB23 BB26
CA42